第39話 仇との出会い
「ん? 星か?」
襖の向こうから聞こえた声に対して問いてみた。
すると向こうから
「はい。そうです」
と返答が聞こえた。
「どうした? 何か用か?」
「お客様が来てるんです。響介さんを探しているようで」
「此処じゃなくて俺に? ………わかった。今行く」
俺は立ち上がり、外へ出た。
そして門まで進むと人影が見える。
ボロボロの服を着ていて見たことの無い少女だった。
「あの………貴方が風戸響介様……ですか?」
「そうだが、君は?」
俺が風戸響介だとわかると少女は頭を下げてこう言った。
「お願いです!! 私の………私の母を助けて下さい!!」
「どういう事だ?」
「母は重い病にかかっていて、竹林のお医者様に見てもらわないといけないんですが………お金が無くて護衛を雇えないんです」
「それで?」
「お願いです!! 母を!! 竹林のお医者さまのところへ連れていって下さい!!」
少女から必死な思いが伝わってくる。
「……わかった。少しだけ待ってくれるか?」
「……はい!! わかりました!! ありがとうございます!!」
俺が少女の頼みを受け入れると少女は深々と頭を下げた。
「水姫!! ウィル!! 少し来い!!」
「今、呼びやがりましたか? 主」
「なんでしょう? 響介様」
俺が呼ぶと二人ともすぐに来てくれた。
「これから病人を運ぶから、水姫は病人を運んで、容態を見てくれ」
「了解です。主」
「ウィルは水姫の後ろで護衛、俺は前で少女を担いで行く」
「わかりました」
「それぞれ支度をしてくれ」
「了解です」
「はい」
二人とも走って準備に取り掛かってくれる。
星はオロオロしていた。
どうやら俺への頼み事に慌てているのだろう。
「星」
「は、はいっ!!」
「聖に"慈善活動で少し出かける"と伝えてくれ」
「わ、わかりましたぁ!!」
星は全力ダッシュで寺の中に入っていった。
ドテン!!
「きゃっ!?」
そして中で転んだらしい。
水姫、ウィルともに揃ってきた。
「主、準備完了です」
「私も出来ましたわ」
「よし。まずは少女の家に向かい、母親を抱えて迷いの竹林へと飛ぶ」
「「わかりました」」
とりあえず俺は少女に優しい笑顔を向ける。
少女は俺を見ると深々と頭を下げた。
「じゃあ行こうか」
俺は少女を抱えて、人里へと飛んだ。
というわけで素早く人里へ行き、少女の母親を回収した。
「ここから迷いの竹林までは大体…………30分ぐらいか。水姫、容態は?」
「今は安定しちゃっています。余り身体に負担はかけられませんが」
「わかった。じゃあ行くぞ」
俺達は迷いの竹林に向かって急ぎ足で歩き出した。
すると夕方だからなのかわからないが、妖怪が数十体ほど向かってくる。
「悪いが、立ち去ってもらう!!」
星穿の神槍を出現させて軽く一降りした。
すると巨大な風が巻き起こって妖怪を全て吹き飛ばす。
「今の内に早く行くぞ」
「はい」
「そうですね」
そう言って、足を急がせる。
こうして行く道々に現れる妖怪達を退けていく内に、迷いの竹林の前に辿りついた。
しかし竹林の入口に一つの人影が見える。
その身体からは強大な力が放たれていた。
「……水姫、ウィル。少女と母親を連れて先に行け」
「何故ですか?」
「いいから早く!! …………あそこに立つ影は俺を見ている。どうやら俺が目当てらしい。だから早く!!」
「はぁ……もう少し簡単に説明出来ませんかね? 駄主」
「あ、待って下さいませ!!」
二人は少女と母親を抱えて、先へ行った。
人影はゆらりと近づき、言葉を発する。
「………見つけたぞ。風戸響介」
「お前、外界の人間だな?」
「そうだ。……しかも俺は貴様の父親を"殺した"男だ」
「なっ!?」
今、なんて言った?
俺の父親を殺した?
ズキィッ!!
「がぁっ!?」
いきなり強烈な頭痛が走り、記憶が戻ってきた。
そこに見えた言葉は"退魔陰陽連合軍"。
その言葉が見えた瞬間、底知れぬ怒りが沸き上がってくるのがわかった。
「おいお前!! 何故此処にいる!!」
「それは幻想郷を破壊するため………妖怪の類いを全て消し去るためさ」
「外の世界でやれよ!! ここは関係無いだろ!!」
「いや、妖怪は全て消し去る。どこであろうと必ずな」
男の発する言葉には強い力がこもっていた。
本気らしいな。
「幻想郷で一番に消えるのはお前だ。風戸響介」
「戦うってか………やってやるぜ!! "星穿の神槍"!!」
「消えろ!! 化け物!!」
男はいきなり巨大な剣を取り出し、斬り掛かってくる。
「『憑依装術・妖』!!」
俺はその攻撃を憑依装術で出現した6本の内、3本の爪剣で受け止めた。
そして残りの爪剣を振り、男に斬り掛かる。
「読めている」
「放て!! "衝撃波"!!」
男は後ろに飛びのいた。
俺も避けられるのは読めていたから、衝撃波を繰り出しておいた。
「甘いな」
だが、衝撃波は斬られて消滅する。
俺は動揺はしない。
今の男の行為も可能性の中に入っていた。
「『憑依装術・霊』!!」
憑依装術の種類を変えて、接近する。
盾を前に突き出し、後ろで剣を突きで構えている。
「刺され!! "ホーリーストライク"!!」
剣を突き出して男に鋭い光の剣を飛ばした。
この攻撃は多段式で、防いでもしばらくは攻撃が自動で続くようになっている。
男はそれを大剣で受け止めて動けない。
「『憑依装術・魔』!!」
また憑依装術を変え、攻め方を変えた。
「穿て!! "魔龍斬牙"!!」
今度は大地を穿ちながら進む巨大な衝撃波だ。
真っ正面が駄目なら下から行こうという作戦みたいなもの。
男は直撃したらしい。
土煙で見えてないから断定出来ないが。
「『憑依装術・神』!!」
ダメ押しかもしれないが、とりあえず追撃をするために憑依装術を変えた。
「焼き尽くせ!! "火炎天衝撃"!!」
今度は上から炎の一閃を落とす技だ。
そして憑依装術を解除して、身構える。
「解除…………はぁ……はぁ……」
男は俺の怒涛の連続攻撃を喰らった。
舞い上がった土煙が少しずつ晴れていく。
しかしあの男は倒れていなかった。
しかも無傷。
「フン……この程度か」
「なっ……効いていない!?」
「お前の動きは見えている。下から来ようと上から来ようとお前の攻撃は私に届かない」
その言葉に俺は圧倒的な力の差を感じた。
男が巨大に見える。
俺は後ずさり、距離を取って逃げる準備を始めた。
しかし、
「逃がさん」
ズバッ!!
「がぁっ!?」
太股に激痛が走って動けなくなってしまう。
「お前はここで死ぬんだ。逃がしはしない」
「うぅっ……」
俺はこの男に歯が立たなかった。
この男の前では無力……。
もう駄目なのか……。
そう思った直後、
『モウ……ダラシナイナァ……。スコシ、カラダヲカリルヨ?』
頭の中に声が響いた。
『シバラク、ヤスムトイイサ。ココハヒキウケタヨ』
そして意識が深い闇の中へ落ちていき、その途中で赤いオーラを纏った俺とすれ違った。