第25話 神化、憑依装術
あれからしばらく話を続けていた。
空を見ると結構暗くなっている。
「…………あぁもう日が暮れたのか」
「まだ話し足りないなぁ」
「で、響介はこれからどうするのかしら?」
「地上に戻るつもりだ。まだ俺達は幻想郷を巡ってる途中だからな」
「そうですね。名残惜しいですがここで打ち切るとしましょうか」
「まぁ次会う時は宴会でな」
「あ、宴会来るの?」
「もちろん」
「じゃあその時に戦って貰おうかね?」
「体力があったらな」
「それじゃあね」
「また来なさいね!!」
「また会う時を楽しみにしております」
「あぁ、またな」
「失礼しちゃいます」
萃香達と別れた俺達は天界から飛び降りて天界の下の空をゆっくり飛ぶ。
「さて、水姫。今日の寝床はどうする?」
「守矢神社で良いんじゃないですか?」
「わかった。じゃあ俺の手に捕まれ」
「かしこまっちゃいました」
ギュッ
水姫が両手で握ってきた。
何故、両手?
片手でも良いんじゃ……。
あ、初めてだからか。
「んじゃ、行くぞ〜。瞬間移動」
瞬間移動で守矢神社に向かって飛んだ。
「到着っと」
「本当に一瞬でございますですな」
「あれ? 響介さんと水姫さんじゃないですか。どうかされました?」
守矢神社に到着すると早苗が掃除道具の片付けをしていた。
「寝床が無いから泊めて貰おうっと思ってさ」
「あ、どうぞ。中にお入り下さい」
「わかった。お邪魔します」
「お邪魔いたしちゃいます」
俺と水姫は中に入った。
そして早苗についていく。
「それではここの部屋を使って下さい」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
案内された部屋は中々綺麗だった。
外の方の障子を開けた。
「今日も月が綺麗だな……」
「主。私は少しだけ席を外します」
「あぁ、わかった」
「では失礼」
水姫は歩いていった。
「…………はぁ」
俺は水姫が席を外した後、ため息をつく。
理由はただ時が経つのが遅いから。
「今日は半月………。あと4分の3か」
早く月が満ち、満月になって記憶を取り戻したい。
師匠の記憶を。
そして自分の正体を。
今すぐ色々思い出したいと思うが焦らないように気持ちを抑える。
「さてと………しばらくこの空気を楽しむとしよう」
風の音、葉と葉が擦れあう音、鳥の鳴き声…………色々な音が聞こえる。
それを縁側に座り、目を閉じて聞く。
「外の世界じゃ中々聞けないよな………俺はこんなに良い世界を一緒に滅ぼそうとしてたのか…………ん? 俺は一体何を?」
なんかまた無意識に言葉が出てきた。
世界を……滅ぼす?
俺にはそんな力があるのか?
「また謎が深まった………」
俺はそう呟き、目を開いて立ち上がる。
そして月を見てから部屋に戻って壁によっ掛かって座る。
欠伸をして目を擦る。
(眠い………)
俺の意識は徐々に朦朧としてくる。
「……まぁ、ご飯になれば水姫が起こしてくれるよな…………おやすみ……」
俺は眠りについた。
目を開くと俺は真っ白の世界にいた。
「また呼ばれたのか……」
「また呼び出してごめんね。許して。響介」
「師匠……今回は最初から居るんだな」
「何? 人がいつも遅刻してるみたいに言って……」
「気にしたら負けだ」
俺は適当に話を打ち切った。
「さて時間が無い。本題に入るとしよう」
「今回、俺達がお前を呼んだ理由だが」
「その事について銀狼と師匠から説明がありま〜す」
鳳凰、黒龍、天星がそう言った。
「お主の記憶を戻す事についてだが、期間を短くする事になった」
「色々と誤差が出てしまったからね」
「え? あと4分の3はあるのに?」
「あの〜色々とあってね。新月の日に戻そうと思うのよ」
「まぁ早い事には越した事ないし……構わないが……」
「それまで響介の課題は2つあるわ」
師匠は人差し指と中指を立てた。
「1.幻想郷をしっかりと回って友人を沢山作る事。2.新月までに神化と憑依装術を習得する事よ。わかった?」
「神化? 憑依装術?」
「神化は貴方の本来の姿に戻すまでに必要な技。憑依装術は貴方の力を色々とアシストする術式よ」
「わかった。でも情報が少ないんだが……」
「儂達が今からその部分についてだけの記憶を戻す」
「その情報を元に貴様の技を修得しろ」
「さすれば今まで以上の力を得る」
「それじゃ準備は良〜い?」
霊、妖、神、魔が俺を囲みそう言った。
「あぁ、始めてくれ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
みんな無言だ。
静かだ。
めちゃくちゃ静かだ。
だがその中で頭が少しずつ痛くなっていく。
「…………!! 今回の痛みは地味だな……」
以前は大激痛レベルの頭痛だった。
しかし今回はちょっとだけ痛む程度。
風邪引いた時と同じぐらいの頭痛。
多分、思い出す量に比例して痛みが変わるんだと思う。
……それにしても地味な痛さだ。
全く……いつまで続…………あれ?
収まった?
って事は…………。
「……終わった?」
「あぁ、終わったぞ」
「それじゃあ響介。水姫のところへ戻ってやりなさい」
「なんか母親みたいだな…………まぁ良いか。んじゃ、またな」
そう言った途端、目の前が真っ白になった。
「……ぬ………し………主〜。起きて下さ〜い」
水姫の声が小さく聞こえてきた。
俺は意識を夢から引きずり出して、起きる。
「……ん〜!! ……俺、寝てたみたいだな」
「はい、ぐっすり寝てやがりました」
「そうか。……さて飯まで少しだけ体を動かそうかな?」
「それでは私は早苗殿の料理の手伝いをして来ます」
「わかった。出来たら呼んでくれ」
「かしこまっちゃいました」
水姫はまた歩いていった。
「……森に行こう」
俺は守矢神社を出て、ちょっとした茂みの中に入っていく。
ガサガサガサ…………。
そして少し広い場所を見つけた。
「……ここで良いよな。"星穿の神槍"っと」
俺は槍を出現させ、構える。
「とりあえず憑依装術からやってみるか」
目を閉じて集中する。
そして頭の中で力を纏う感じを想像する。
「………………はぁっ。……駄目か」
しかし力を纏えなかった。
なんか体の周りで力がモヤモヤした後、散った感覚だ。
「とりあえず力を一つに絞ってやってみるか……………」
今回は霊力だけを纏う感じでイメージする。
体の中心から全体に広がっていく感じに力を操作する。
すると今度はさっきのモヤモヤが体にくっついて来た。
「…………くはっ!?」
しかしまた纏えなかった。
集中が途切れ、力が分散してしまった。
しかし徐々に修得してきた。
「あと少しだな………さてもう一回だけやろうかな?」
俺はもう一回やる為に構え直した。
しかしその前に、
「主〜。ご飯でございますよ〜」
水姫に呼ばれた。
「わかった、すぐに行く。………仕方ない。また明日、改めてやろう」
俺は槍を消して、守矢神社に向かった。