第19話 白玉楼と西行妖
「…き……下さい。響介さん」
誰かに体を揺すられ、起きた。
「………ん? 妖夢……もう夕方か?」
「はい。もうすぐ日が落ちます」
「紫は?」
「そろそろ来られると思いますよ」
「そっか……なら行かないと…………なぁっ!?」
俺はゆっくりと立ち上がろうとしたが、立てなかった。
そして態勢を崩して、寝転がり悶絶する。
「どうしました?」
「っ〜〜!! っ〜〜!!」
俺は妖夢の問いに答えられず、必死に足を指差した。
「……足? もしかして痺れました?」
「っ〜〜!!」
俺は首を縦に振った。
本当に足が酷い程に痺れているのだ。
動かすだけで声に出来ない感覚を俺を襲ってくる。
(やっぱり胡座で寝るんじゃなかった………)
妖夢が苦笑いしている時、俺は心の中で後悔した。
ちなみに、この後5分間ずっと悶絶していたのは余談だ。
「ふぅ………やっと治った」
俺は足が治ったので廊下を歩いている。
俺を起こしに来た妖夢は家事をしに行った。
「それにしても紫……遅いな。もう夜になるのに……」
そんな事を呟きながら歩いていると前から幽々子がやってきた。
「あら、起きたのね」
「あぁ、ついさっきな」
「足が痺れて動けなかったって妖夢から聞いてイタズラするつもりだったのに……」
「……イタズラ、好きなんだな………」
俺は少し呆れながらそう言った。
「ふふふ。冗談よ」
「まぁイタズラされても多分気にしないけどな」
「あら、そうなの? なら今度、イタズラしちゃおうかしら?」
「不機嫌じゃない時に頼む。不機嫌だったら吹き飛ばしかねないからな」
「わかったわ…………それと紫? 見てるんでしょ?」
幽々子がそう言うと後ろから紫の声がした。
「ばれてたのね」
「そりゃあ見えてたもの」
「紫、水姫は?」
「わかってるわよ」
紫はそう言って空間の裂け目を開いた。
そうすると水姫が出てきた。
「ただいま戻りました。主」
「おう。待ってたよ」
「この子が水姫? 中々美人ね〜」
「お褒めにあずかり光栄でございましちゃいます」
やっぱりなんか落ち着くな、この水姫の喋り方。
「ま、今日一日よろしくお願い致しちゃいます」
「よろしくね〜」
「それじゃ私は帰るわ」
「あぁ、じゃあな」
「今日一日ありがとうございましちゃいました」
「またね、紫」
「じゃあね〜」
紫は空間の裂け目へと消えていった。
「それじゃ居間に行くとしようか」
「とりあえず主。ここに泊まる事になった理由を私に教えやがり下さい」
「あぁ、そうだな。とりあえず幽々子は先に向かっててくれ」
「わかったわ〜」
幽々子は居間に向かった。
「さてと説明するとしよう。………ここの従者を助けて、お礼がしたいと言われたが俺は受け取る気がなくて戦う事になった」
「ふむ……で負けたと」
「負けたというか棄権だな。疲れてたから仕方がなかった」
「なるほど……理解しました。簡単にまとめると"泊まる事=お礼"なんでやがるんですな」
「そういう事だ」
理解してくれたようだ。
やっぱり優秀なんだろうな、水姫は。
「今日はゆっくりして疲れをとるとしよう」
「かしこまっちゃいました。主」
俺と水姫は居間に向かった。
居間に着くと妖夢と幽々子がいた。
まだ夕飯では無いようだ。
「悪いな。待たせたみたいで」
「大丈夫よ〜」
「あ、貴方が水姫さんですね。ようこそ、白玉楼へ。私はここの従者をしております魂魄妖夢です」
「私は水姫です。以後よろしく頼み申しちゃいます」
「で、これからどうする? 夕飯じゃないみたいだが」
「これからお風呂です。順番はどうしようか迷ってるのですが………」
「一番風呂は遠慮するよ。こっちは泊まってる側だし」
「私も同意見でございますですたい」
水姫も同意見のようだ。
一番風呂は幽々子ぐらいだろうな。
白玉楼の主だし。
「そういえば妖夢。ここの風呂はどのくらいの広さなんだ?」
「そうですね………浴槽は2人がゆったり出来るぐらいですね」
「なら最大3人か」
「ねぇ、響介。水姫ちゃんとお風呂に入ってみたいんだけど……いいかしら?」
「初めて会ったにしてはいきなり過ぎないか?」
「いいじゃない。親睦を深めるって事で」
「……俺は別に構わんが、水姫はどうだ?」
「入っても良いです。色々と聞いてみたい事もあるので」
「お、成長した………なら俺は最後に入るか」
「わかったわ〜。それじゃ妖夢、水姫ちゃん、行きましょ〜」
「かしこまりました」
「了解でありんす」
幽々子は妖夢と水姫を引き連れて風呂場に向かった。
「…………………よし、行ったな」
俺は水姫達が行ったのを確認して動き始めた。
とりあえず居間を抜け出し、庭に出る。
そして枯れた木の目の前に立つ。
「………この木、何か力を持ってるな……」
「よく気がついたわね。流石は響介と言ったところかしら」
後ろにはいつの間にか紫がいた。
「……紫。帰ったんじゃないのか?」
「少し用事をね。で、この木が気になるの?」
「あぁ……この木には力がある。膨大な力が……」
「その木は"西行妖"と言って、永遠に咲く事が無い桜の木なのよ」
「妖………って事は妖怪なのか?」
「そう。人間の精気を大量に吸った為、妖怪になったの」
「……ちなみに封印が施されてるみたいだけど?」
「西行妖の下には"富士見の娘の亡骸"があって、それを要とした封印が施されているわ」
「…………俺にそこまで話して良いのか?」
「貴方なら問題無いでしょう。悪用とかしないだろうからね」
「……………」
俺は黙り込んだ。
いや、迷っていた。
あれからわかった事とか色々と言うべきなのかを……。
だが、その迷いはすぐに消えた。
「紫。一つ良いか?」
「何かしら?」
「今日の昼前、俺の記憶の大半が戻った」
「それは本当?」
「あぁ。……そこで人を捜してもらいたい」
「どんな人?」
「夢に干渉する力を持つ者だ。俺の知り合いで、山に居るはずだ」
「わかったわ。捜してみるわね」
「頼む」
俺はそう言って木から離れて、居間に向かった。
だが、その途中で紫に引き止められた。
「ねぇ、響介」
「なんだ?」
「貴方………幻想郷に来てから本気の力を隠してない?」
「…………その根拠は?」
「昨日まで貴方の戦ってるところを見てたのだけど………全く疲れてないし、殺気とかそういう感情を感じなかったもの」
「確かに本気は出してない。いや、出せてない………本気を出せるのは満月の夜だからな」
「満月の夜? ……何故?」
紫がそう聞いてきたから、俺はすぐに答えた。
「赤眼解放・神化・リミッター解除…………この3つを同時に行うと本来の姿になって本気を出せるようになるんだ」
「あら? 今の姿は仮の姿なの?」
「本来の姿は俺と"夢に干渉出来る者"しか知らない。水姫でさえも知らない姿なんだよ」
「別に言っても問題無いと思うのだけど………」
「いずれ時が来たら話すさ。そう遠くない機会にな………………じゃあな」
「えぇ、おやすみなさい」
紫は空間の裂け目に消えていき、俺は居間に戻った。