少女リリーは脱け出せない
「・・・きて。早く起きて。」
暗闇の中から突然少女の声が聞こえてくる。そこは深淵のように真っ暗で何も見えず、ただ鮮明に少女の声だけが聞こえる。
「ここは貴方の来るべき場所ではないわ。早くここを去りなさい。」
そんなことを言われても真っ暗なこの場所では移動することも難しい。ポケットを確認しても持ち物を一つも持っていなかった。
「ねえ、一体誰なの?そこに誰かいるなら返事をして。」
状況を掴めない私はとりあえず少女に声をかけてみた。しかしその後は何の返事も来ず、ただ真っ暗な闇があるだけだった。
「ここは一体どこなんだろう?何も思い出せない。」
何故ここにいるかも私が一体何者かも分からない。気付けば闇に覆われたこの空間に飛ばされていた。
怖い。もしかしたらこの真っ暗な空間から突然化け物が襲ってくるかもしれない。そんな感じの本を昔見たような気がしなくもない。
記憶が曖昧で何もかもがぼやけている。この状態でここを歩くのは危険だが、かと言ってずっとここにいた方が危険な気がした。それに少女は早くここを去れと言っていた。
とりあえず辺りを歩いてここから脱け出す方法を探すことにした。
光もなく音もない。その上、手が悴むほどの寒さでもしかしたら私は死んでしまったんじゃないかと思ってしまう。
「・・・っちよ。出口への道はこっちにあるわ。」
私が歩き出すと再び少女の声が聞こえる。何も分からない私は少女の声を頼りにするしかなかった。
「ねえ、あなたは何者なの?あなたもここに閉じ込められたの?」
相変わらず私が何か質問しても返事が返ってくる事はなかった。ただそれでも私は少女の声を頼りに出口を探し続けた。
よく見ると靴を履いていなくて寒さで足が限界だった。定かではないが私が着ている服もボロボロだった。
私があれからずっと歩いていると一つの黒い扉があった。真っ黒なせいでよく見えないが扉はちゃんと開くようだった。
「さあ、この扉に入ればこの空間から出られるわ。まあ、まだその後にたくさんの部屋があるのだけれど。」
「この扉を開けてもまだ何かあるの?私は元の世界に帰れるの?」
私には何一つ分かることがなかった。そもそも元の世界があるのかも分からない。
「そうね、この先は少し危険な道になるかもしれない。それでも全ての扉を開いた時、貴方は元の世界に戻れることを保証するわ。」
初めて少女は私の問いに答えてくれる。全ての扉を開いた時とかよくわかない事も言っていたが今は少女の言う通りにするしかなかった。
「私はそれでも進むよ。たとえこの先が危険な道だったとしても。」
「そう、なら貴方の全てを見せて頂戴。」
少女はそれ以上何か喋る事はなかった。そして私はまた完全にこの空間に一人になる。
もちろんまだ不安はあった。もしかしたら私は死んでしまうかもしれない。それでも私はこの空間から逃げ出したかった。それにこの扉の先に何があるのか私は気になって仕方がなかった。
ガチャッとドアノブを回して扉を開ける。その先は光に包まれて何も見えないが私は覚悟して扉のその先へと向かった。
「ようこそブラックルームへ。今から貴方の人生の全てを見せて貰うとするわ。」
「ほら、見てくれ。・・・の為に作った庭だ。とても綺麗だろう。」
「すごい。これを全部お父様が作ったの?」
「ああ、・・・なら絶対に喜んでくれると思ったよ。ほら、今度からは遊びたい時はここで遊びなさい。」
さっきから誰かの声が頭の中で鳴り響く。一体これは誰の会話なのだろうか?
「大変よ貴方、家の目の前に女の子が倒れていたの!」
「・・・だと。・・・なら早く・・・。」
少しずつ視界がぼやけて会話が聞こえなくなる。一体私はどこにいるのだろうか?この記憶は一体誰のものなのか。
「・・・きろ。早く起きろ!」
眠っていると再び誰かの声が聞こえる。またさっきの少女だろうか?私はまだぼんやりとしながらも何とか目を覚ます。ということはさっきのは夢なのだろうか?
「ん、ここはどこ?もしかして元の世界に戻ったの?」
私が目を覚ますとそこは大きな湖のある公園のような場所だった。花が咲き、鳥が囀り、水が揺らいでいてとてもきれいだった。
「やっと目が覚めたか。残念ながらここはまだお前が元々いた世界ではないぜ。」
「その声は何処から。一体誰が話してるの?」
確かに声は聞こえるが周りには誰一人としていなかった。何か幻術にでも掛かっているようだ。
「ここだよここ。この俺様が話しかけてやってんだ。」
私が辺りを見渡すとそこには一匹のリスがいた。リスなのに服を着て人の言葉を喋っている。
「すごい、リスが喋ってる。私の知ってるリスは喋らないのに。」
「いや、そこはもっと驚けよ!普通のリスは人の言葉なんて喋らねえからな。」
リスはそう口にするとヒョイッと軽い身のこなしで私の肩に飛び移った。
「よく分からないけどあなたは何者なの?そしてここは何処なの?」
「そうだな、せっかくだしこの俺様が今から色々と説明してやるよ。だがその前に自己紹介だ。俺様はオズ。愉快なリスだぜ。」
オズは元気よく答えるとそのまま私のポケットの中に入った。よく分からないが敵ではなさそうだった。
「よろしくね、オズ。だけど私は自分の名前が分からないの。」
結局あれから何も思い出すことが出来ない。今いるこの公園らしき場所も私の記憶にはなかった。
「それなんだがこの部屋に迷い込んだ人間はみんな記憶がないんだ。」
「みんな?私以外にもここに誰かいるの?」
私は辺りを見渡すがそこには人の気配なんてなかった。どこを見ても綺麗な湖が広がっているだけだ。
「いや、今ここにいるのはお前だけだぜ。ただ時々この箱にお前みたいな記憶のない人間が迷い込むんだよ。」
「私みたいな人がたくさんいるんだ。それじゃあ箱というのは?」
何もかもが分からない私はオズの話に興味深々だった。この世界についてもっと知りたかった。
「ここから先は色々と説明が面倒くさいんだよな。説明するよりも実際に見た方が早いだろう。」
オズはそう口にすると私のポケットから降りてどこかへ向かって行った。
「ほら、こっちこっち。早く俺様について来い。」
「ちょっと待って。すぐに行くから。」
オズはすごい速さで綺麗な公園を駆けていく。鳥の囀りや風のそよぎがとても心地よい。最初の真っ暗な空間とは大違いだ。
「おっと、ここにあったか。この扉が見えるか?」
「ん、この扉がどうしたの?」
オズを追いかけてきた場所には明らかに不自然な青色の扉があった。試しに扉を開けようとしたが鍵が掛かっているのかびくともしなかった。
「これは心の扉と言ってこの扉に入れば別の空間に行ける。要はこの扉を使えばお前は元の世界に戻れるってことだ。」
「私には元の世界が何かも分からない。記憶が全く無いの。」
今の私にはこの状況でどうしたらいいかなど分からなかった。
「その記憶もきっとこの箱を冒険してるうちに取り戻せるはずだ。だから一緒に扉を潜ろうぜ。」
オズはそう言って再び私の肩の上に乗った。今の何も分からない私にはオズに従うしかなかった。
「でもこの扉鍵が掛かってるよ?このままじゃ扉に入れない。」
「安心しろ。この空間のどこかにこの扉を開く為の鍵があるはずだ。最初はそれを探すんだ。」
オズに言われて扉をよく確認すると確かに小さな鍵穴があった。しかしこの広い公園から小さな鍵を探すのは骨が折れそうだ。
「よく分からないけど探してみる。それにしてもここは本当に綺麗だね。」
花や草も丁寧に管理されてまさに完璧な庭だった。
「ああ、よく出来た公園だ。相当腕のいい庭師が作ったんだろうな。特にあのマリーゴールドなんて長年の管理の賜物だろうな。」
「マリーゴールドって何?」
私は聞き覚えのない言葉に頭を傾げる。何だか頭がズキズキとする。
「マリーゴールドってのはあそこに咲いているオレンジの花だ。花言葉は勇者とかのポジティブな意味合いが多いな。」
オズの言う通りマリーゴールドは至る所に咲き乱れていて、見ているだけで何だか勇気をもらえる様な気がした。
「それにしてもオズは物知りなんだね。」
「ああ、俺様は天才だからな。それよりさっさとここら辺を探索して鍵を見つけようぜ?」
「分かった。とりあえず鍵を探してみるよ。」
私とオズは周りの花や木を一つ一つ観察しながら鍵を探した。
しかし一向に見つかる様子はなく時間がかかりそうな為、探しながらオズに色々と気になることを聞くことにした。
「そういえばオズはどうしてここにいるの?それにこの場所のこともなんだか詳しいし。」
「まあ、俺様はずっとここにいるからな。お前のようにここにくる人間を時々助けてやってんだ。」
「前にここに来た人はみんな元の場所に戻れたの?」
謎の扉や少女の声など不可解なことが多いが今の私に出来ることはなるべく多くの情報を集めることだった。前にここに来た人の話を聞けばもしかしたらここから出られるヒントになるかもしれない。
「そうだな、基本的にはこの箱は安全なんだが人によっては危険は部屋があるんだ。勿論死ぬ可能性もゼロではないぜ。」
脅すような口調でオズは言うがそれでも私にはよく分からなかった。
「おいおい、少しは驚けよ。お前は本当に感情が出ないなあ。」
「だって死ぬって言われてもよく分からない。今の私には分からないことしかない。」
扉を探してここを出たとしても今の私には何の意味もない。
「記憶を取り戻すにはここを出ないといけないぜ。とりあえず探索あるのみだ。」
「オズは鍵の場所を知らないの?この広さじゃ絶対に見つからないよ。」
既に限界だった私は一度地べたに座った。夢かと思うほどに一度にたくさんの情報が流れてきて頭はパンク寸前だ。
「俺様もそこまでは分からねえよ。ただ一つ方法はあるけどな。」
「何か方法があるの?」
「まあ見とけって。俺様の力を見せてやる。」
オズは突然口笛を鳴らすとその瞬間に青色の鳥が二匹ほどオズの元にやって来て止まった。もしかしたら動物同士呼び寄せることが出来るのかもしれない。
「お前らはここら辺で青色の鍵を見てないか?」
「ピィー。ピィピィ。」
「なるほどな。それはまいったな。」
オズと鳥は何か喋っているようだが私にはさっぱりだった。それにオズは何やら険しそうな顔をしていた。
「鳥はなんて言ってるの?」
「どうやら鍵はコイツらが巣に持って帰る途中で湖に落としたと言っている。」
「ピィピィ。ピィピー」
鳥は再び鳴くと自分の巣へと戻っていった。
「つまり湖に鍵があるんだね。それなら早く湖に行こうよ。」
「バカ言え、鍵は湖の中にあるんだぞ。それもこの広い湖の中にな!」
オズの言う通りここの湖全部を探すことなど不可能だった。さらに私は湖を泳げるか分からない。
「それでも一度湖に行くべきだよ。もしかしたら浅い湖かもしれないし。」
このまま何もしないよりは現地に言って調べるべきだ。
「まあ、お前の言う通りだな。そういうことなら早く行くぞ。言うのが遅くなったがこの空間は時間が経てば無くなってしまうからな。」
さらっと大事なことを言うオズに私は怒りたくなる。
とりあえず大きな公園を駆けてとても神秘的な湖へと辿り着いた。近場で見ると湖はより綺麗で鏡の様に透き通っていた。
「この湖に映っているのって私?」
私が湖を覗くとそこには小さな少女の姿があった。綺麗な黄色の髪にとても美しい青色の瞳が映る。
「ああ、そのちんちくりんな奴がお前だぜ。見たところ十ニ歳くらいだろうな。」
「リスは黙っててよ。それより本当にこの湖の中に鍵があるの?」
私の容姿をバカにするオズを睨みつつ私は湖の中を覗き込んだ。
「ああ、この湖の中にあるのは間違いねえ。とりあえず俺がまた魚を呼んで探させるから待ってくれ。っておい、話を聞けよ!」
「あっ、確かに光ってるところがあるかも。あそこなら泳いでいけるよ。」
私が湖を覗き込むと湖の真ん中あたりにキラキラと光るものがあった。この深さなら私でも泳いでいける。
私は湖の中に入り、鍵を取りに向かった。
「おい、大丈夫か?絶対に溺れるんじゃねえぞ?」
オズの忠告も無視して私は湖の真ん中に辿り着くと、そこにはキラキラと光る青色の鍵があった。この鍵を使えばここを出られることが出来る。それにしても湖は透き通っていてたくさんの魚が泳いでいた。
そして湖の奥にもうひとつ何か落ちているものを確認した。
それはボロボロになっているクマのぬいぐるみだった。どうして湖の中にクマのぬいぐるみがあるのだろうか?私は疑問に思いながらもクマのぬいぐるみに手を差し伸べた。すると触れると同時に頭の中に突然誰かの声が流れてくる。
「このクマさんはわたくしの宝物ですわ。お姉様の様に大事にします。」
「そっか、それならちゃんと可愛がってあげないとだね。」
「勿論ですわ。私はお姉さまを愛していますもの。」
あれ?視界がぼやける。これは一体誰の会話なのだろうか。私は一体どうなって。
「どうしたの・・・。そんなに涙を流して。」
「わたくしのクマさんが鳥に取られて。わたくしの大事なお姉さまが。」
「泣かないで・・・。私がすぐに取り戻してあげるから。」
気がつけば私の意識は完全にぼやけて真っ暗な闇に覆われるのだった。
パチパチと火の様な音がする。とても暖かくて何だか落ち着く。
「どう?とりあえず薬は与えたのだけれど、これで目を覚ますかしら?」
「お前がすぐに来てくれて助かったぜ。一時はどうなることかと思ったよ。」
「私もびっくりしたわ。このぬいぐるみがこの子にとっての大事なトリガーだったようね。」
うっ、頭が痛い。また再び誰かの声が聞こえるがここはどこだろうか?
視界が狭まって体全体が痛かった。そうだ。私は湖で溺れていたんだ。
「あら?そろそろ目を覚ましそうね。それじゃあ私はまた遠くで見てるからサポートはよろしくねオズ。」
この声は私に最初に話しかけてきた少女の声だ。私は体の痛みを我慢しながら何とか目を覚ました。
「えっと、ここは?もしかして私助かった?」
目を覚ますと私は公園の真ん中で眠っていた。私は確かに湖で溺れたはずだがどうなったのだろうか?
「おい、一時は本当にどうなるかと思ったぜ。お前ってば本当に後先考えないんだな。」
オズはそう言って私に説教をする。もしかしてオズが助けてくれたのだろうか?
「気づいたら体が動いていたの。それより私が拾った鍵は?」
「それならあそこに置いてあるぜ。それとお前が抱えていたクマのぬいぐるみもな。」
私は再びクマのぬいぐるみを抱っこしてみた。しかしさっきの様に意識は曖昧とせず可愛い顔のクマがそこにあるだけだった。
「そういえばさっき、少女の声がした気がするんだけどここに誰かいた?」
「い、いやお前の気のせいじゃないか?それより鍵を手に入れたんだ。早くここを出ようぜ。」
オズに何だか誤魔化された気がしたがとりあえず私は扉の方へと向かった。既に外は夕方になっていた。
「それにしても意外とすんなりいってよかったな。ってそのクマのぬいぐるみも持っていくのかよ?」
「うん、可愛いから。それに何だか今の私に必要な気がするの。」
このクマのぬいぐるみを初めて触った時に流れた映像がもし私の記憶だとすればこのクマのぬいぐるみはもしかしたら大事な物なのかもしれない。
それにしてもあの時流れた映像にいた少女は誰だろうか?
余計に分からないことが多くなった私はもはや一旦考えることをやめにした。深呼吸をしてこの綺麗な公園の空気を吸った。
「それにしてもこれから一緒に冒険するのにお前って呼ぶのも変だよな。名前とか思い出せねえのか?」
「まだ名前は分からない。だからオズが決めていいよ。」
少しだけ、本当に少しだけ記憶を思い出してきたがそれでも私自身のことは何も思い出せなかった。
「そうだな、マリーってのはどうだ?お前はマリーゴールドの様に勇敢だからな。」
オズは少し悩んだ後に元気よく口にした。マリーという名前は何だか懐かしい気もするがとても嬉しかった。
「マリーか。ふふ、いい名前だね。」
「気に入ってくれた様で何よりだ。それじゃあ鍵を使え。これで次の部屋に入れるぜ。」
扉に着いた私達は青色の鍵を扉に差した。すると扉がガチャっと開き、次の部屋に入れるようになった。
「準備はいいかマリー?この先はより危険になるかもだぜ。」
「大丈夫だよ。それじゃあ行くよオズ。」
私とオズは扉に入り、次の部屋へと向かう。一体この先に何が待っているというのか。私は楽しみで仕方がなかった。
「うわあ、こんなに広いなんてすごいわ。わたくしは今日からここに住んでいいですの?」
「ああ、今日からここは君の家だ。ほら、・・・も嬉しいだろう。」
「うん、よろしくね。私が色々と教えるから。困ったことがあれば私に聞いて。」
「はい。お姉様。これからよろしくですわ。」
私が部屋に入ると再び誰かの声が聞こえる。最初の扉に入った時も同じ様になったがこの現象は何なのだろうか?しかも最初の時よりもさらに鮮明に聞こえた。
とりあえず私は新しいこの空間の探索をすることにした。
「いや、でかすぎるだろ!なんだ、この豪邸。」
オズの叫んだ通りここはあり得ないほどに大きな豪邸だった。窓は全てステンドグラスで天井にはシャンデリアがあった。またこの大きな場所から鍵を探さないといけないと思うと骨が折れそうだ。
「それじゃあ、あの庭ももしかして所有地だということか?もしかしてマリーってものすごいお嬢様なのか?」
「よく分からないけどとりあえず先に進むよ。まずはさっきみたいに扉と鍵を見つけたいな。」
オズが一人でぶつぶつと何か言っているが私は無視して扉と鍵を探すとこから始めることにした。
「にしても屋敷って少し不気味だよな。もしかしたら何か出るかもな。」
「怖いこと言わないでよ。それにしてもここには誰かいるのかな?」
とりあえず私達は一階から探索しているがやはり人の気配は一切なかった。
「それはお前次第だな。ただこの感じだと今は誰もいなさそうだ。とりあえず一つ一つ部屋を確認するぞ。」
オズの言うこともよく分からないまま私は部屋に入るとベットやゴミ箱など隅々まで探した。
「ねえ、何で屋敷ってこんなに広いの?逆に住むのに不便だと思うんだけど。」
「さあな、俺はリスだから人のことなんざ詳しくねえが金があることを誰かに自慢したいんじゃねえか?人の承認欲求ってものは恐ろしいと聞くからな。」
私にもお金持ちの考えは分からないがおかげで探すのが一苦労だ。
「また湖の時みたいに動物に聞いたりとかできないの?私達だけじゃ骨が折れるよ。」
「あのなあ、肝心の動物がどこにも居ねえんだよ。丁寧に掃除されてるせいでネズミもいなさそうだしな。っておい、何か声が聞こえないか?」
私とオズは静かに耳を傾けた。さっきまでの静かな屋敷から一変して明らかにうるさい音が聞こえる。場所からしてかなり近くのようだ。
「おい、何があるか分からねえから気をつけろよ。ってだからどこに行くんだよ!」
「だって突然音が鳴るなんて何かあるに決まってる。こんなの行くしかない。」
「だから何でお前は後先を考えねえんだよ。どうなっても知らねえからな!」
オズの忠告も完全に無視して私は全速力で音の鳴った部屋に駆けつける。私が思いっきりドアを開けるとそこには複数の人間がいた。メイド服を着ているが顔が影の様なもので隠されていて不気味だった。
メイドは私達を見つけるとニヤけたような顔でこちらを見つめていた。
「あら、お帰りになったんですねお嬢様。それではお掃除の時間にしましょう。」
メイドは少しずつ私に近づいてくる。しかし明らかにメイドには敵意のようなものがあった。
私は本能で気づいたら走っていた。
「逃げろマリー!コイツらは危険だ。」
「分かってる。オズもちゃんと掴まっててね。」
「どこに逃げるんですか?逃しませんよ。」
私は階段を登り何とかメイドを撒こうとする。しかしメイドだけでなく執事まで現れ、敵の数はそれなりに多かった。
「ねえ、あの影は何者なの?どうして私を襲ってくるの?」
追い込まれた私はオズを問い詰める。色々と知ってそうなオズならこの状況も切り抜ける可能性があった。
「分かったよ。詳しい説明は後でするからとりあえず安全なところに行くぞ。まあ、そんな所があるか分からないが。」
「とりあえず大広間に出たいかも。狭い場所だと見つかったら危ないから。」
ずっと諦めずに私達を探すメイド達を撒くためにとりあえず石像の後ろに隠れた。あのメイド達は人の形をしているが本当に人間なのだろうか?明らかに動きや見た目が人ではないが。
「はあ、一旦助かったか?それにしてもあれがお前のトラウマか。」
「トラウマ?よく分からないけどあのメイド達を倒すことはできないの?」
「だから何でお前はそんなに抗戦的なんだよ。リスの俺様と子供のお前じゃ大人は倒せるわけねえだろ!」
見たところ敵は十人ほどおり、オズの言う通り私達では太刀打ちできる訳がなかった。
「でもだからと言ってずっとここに隠れてる訳にもいかないよ。それにここから逃げる先なんてないよ?」
どこに行っても敵がいるせいで逃げる場所などない。
「こうなったらとっておきを使うから待ってろ。」
「待って、クマのぬいぐるみがない。もしかしたらどこかで無くしたのかも。」
「そんなのどうでもいいだろ。今は表に出るのは危険だ。」
あのクマのぬいぐるみに初めて触れた時、何か懐かしい感じがした。何か思い出せない大事なことがある気がした。
気づけば私はクマのぬいぐるみを見つけるために再び屋敷内を走り出していた。
「見つけましたよ。今度は絶対に逃しません。」
「ってだから何やってんだよお前。自分から見つかってどうする?」
「いまはぬいぐるみの方が大事だから。とにかくさっき通った道をもう一度行くよ。」
私は大きな廊下を超えて私達が元々いた場所へ戻って来た。するとそこにはクマのぬいぐるみが落ちていた。私は急いでぬいぐるみを拾って再び逃げようとする。
「お嬢様今すぐ止まってください。」
「お嬢様ここは通させません。」
「くっ、何でこんなに数が。」
しかし大量の敵によってさっきの道は完全に閉ざされてしまった。このままではいよいよ捕まってしまう。
「こうなったら奥義を使ってやる。助けてくれ。」
「お二人方こっちですわ。早くこちらに来てください!」
オズが何かを呼ぼうとする手前、白髪の少女が私に手を振っていた。今までの人と違い顔に影はなく、話も通じるようだった。
「貴方は一体誰なの?どこに行けば。」
「とりあえずわたくしについて来てください。お手を繋ぎますので。」
少女はそう言って私を連れて個室へと入った。しかし逆にそれはでは逃げ場がなくなってしまう。既にメイドが三人ほどいて退路はなかった。
「ちょっと待って。ここに隠れても意味がないのでは?」
「わたくしの手をしっかり握っていてくださいませ。」
私がそう言おうとした時にロッカーが開き、私達はそのロッカーの中へと吸い込まれてしまった。
ロッカーを通じて私はよく分からない大きな部屋にたどり着いた。
「ようこそ。ここがわたくしの隠れ場でございますお姉様。」
謎の少女はスカートの裾を上げて大胆不敵に笑った。
「とりあえず二人とも席にお座りください。お茶の用意をして来ますので。」
少女はそう言うとお茶を用意しにどこかへと向かって行った。私とオズは訳が分からないままお互いに顔を合わせた。
「オズはあの子と知り合いなの?」
「いや、俺様はあんな子知らねえよ。というかお前のことお姉様って言ってたし何か関係があるんじゃねえか?」
そんなことを言われても本当に記憶がない。それにあんなに可愛い子は一度見たら忘れないと思う。謎の少女は白髪に赤い瞳ととても目立つ容姿をしていた。
「それにあの子は顔に影がなかったよ。どういうことか説明して?」
「分かってるよ。今から詳しく説明してやる。まずはこの箱についてだ。」
オズは確かに初めからこの世界のことを箱と呼んでいて私はずっと気になっていた。
「この箱に決められた形はなくてこの箱に入って来た人によって形が変わるんだ。」
「形が変わる?それじゃあ公園もこの屋敷も私の影響ってこと?」
「ああ、今のお前には記憶がないがおそらくはどちらもお前と深い関係がある場所だろうな。」
なるほど、少しこの世界のことがわかった気がする。つまり時々私の頭の中に流れて来た声も全て私の記憶ということだろうか。
「それじゃあ私の記憶がないのもこの箱の影響ってことなの?」
「ああ、この箱に入った時点で記憶がなくなる。しかし鍵を探してこの箱を出れば再び記憶は戻ってくるって訳だ。」
「それなら何で私はこの箱の中にいるの?この箱は何の為の場所なの?」
これだとまるでこの箱の意味がなかった。この箱は一体、何の為に作られたものなのだろうか?
「難しいな。これは呪いでありながら救いでもある。ただ俺様達からすれば呪いなんだがな。」
「どういうこと?もっと分かりやすく説明してよ。」
さっきからオズの言ってる意味が分からない。少なくとも私にはただ人を閉じ込めるだけの恐ろしい空間としか思えない。
「つまり愛ですわ。この箱というものは愛の力で成り立っているんですの。」
後ろから謎の少女が突然現れたかと思うと突然訳の分からないことを言い出す。
私は少女からお茶を受け取ったあと、少女に今の疑問を尋ねた。
「愛ってどういうこと?あなたもこの世界のことを知ってるの?」
「もちろんですわ。わたくしはお姉様のこともこの世界のこともたくさん知ってます。ああ、わたくしの大好きなお姉様と会えて幸せです。」
そう言って抱きつく少女に嫌気をさしながら深く考える。箱のことはある程度分かったとしてまだ残る疑問はこの少女のことだった。
「あなたは一体何者なの?どうして他の人と違って顔が真っ黒じゃないの?」
「それについては俺様が答えるぜ。この世界にはさっき言った通りお前の記憶が反映される。それは勿論、場所だけでなく人物もだ。ただし全ての人物が反映される訳ではなくお前の記憶に残る人だけが反映される。」
屋敷ということはおそらく私はお嬢様か何かだろう。だとすれば確かにメイドや執事が多いのも頷ける。しかし問題はそこではない。
「ただし記憶というのは嫌なものも残りますの。記憶に残る嫌な思い出は全て真っ黒に写ってしまうのですわ。」
「ああ、つまり逆にコイツはお前にとっての大事な人だった可能性が高い。」
「そうですの。わたくしとお姉様は絆で繋がった家族。いやもはや夫婦と言っても過言ではありませんわ。」
少女はキラキラとした目で私を見る。私とこの子が姉妹だとしたら途中の記憶で出てきた少女も全てこの子だということか。
「とりあえず貴方が敵じゃないことは分かった。私はマリー。これからよろしく。」
「・・・わたくしはアリスと言います。これからわたくしの手でお姉様を元の世界に戻したいと思います。」
アリスは少しの沈黙の後、優しく微笑んだ。
アリスは軽くお辞儀をするとそのまま私の手を握った。少し距離感が近くて怖いが悪い人ではなさそうだ。
「よし、仲間も増えたことだしそろそろ本格的に鍵を探さないとだな。アリスはずっとこの屋敷にいるんだろう?扉や鍵を見たことはないのか?」
「ああ、白色の扉なら地下室にありましたわ。鍵は一度も見たことがありませんが。」
アリスは部屋に飾ってある地図に指をさしながら答えた。そこにはこの屋敷の全体の図が載っていて至る所に赤いマークがされてあった。それにしても、ものすごく大きな屋敷だ。そしてその中でも特に深く厳重な場所が地下室だった。
「白の扉だと?明らかに早くないか。もしかしてマリーは。」
「一人でぼやいてどうしたの?白い扉が何かあるの?」
オズは何だか驚いたような表情で私を見つめる。まるでイレギュラーなことが起きてるようだった。
「白の扉を潜れば元の世界に戻れるんだがあまりにも早すぎる。人にはもっと思い出の場所があってかなり時間がかかるはずなんだが。」
「つまり私の記憶にはこの屋敷周りのことしかなかったってこと?」
「ああ、そんなことほとんどあり得ないんだがな。とりあえず扉の所に案内してくれないか?」
「ええ、もちろんですわ。わたくしに全てお任せください。」
とにかく次の扉さえ潜ればいいとなると思った以上に簡単な気がして来た。さらに扉まで既に見つかっているとなるとすぐだ。
「そうだ、このぬいぐるみを置いといてもいいかな?」
さっきから大事に抱えてたクマのぬいぐるみをアリスの部屋の台座に置いた。するとアリスが驚いたような表情で私を見つめていた。
「そのクマのぬいぐるみはわたくしのではありませんか!お姉様が見つけてくれたのですね!」
「それ、アリスのだったの?持ち主が見つかったようで良かったよ。」
アリスはクマのぬいぐるみ大切そうに抱いていた。それなら何故湖の中にあったのだろうか?
「それじゃあ、早速目的地に出発だ。」
「ええ、お姉様を守る為にわたくしも頑張りますわ。」
私達はとりあえず準備をして地下室へと向かうのだった。
「とは言ったもののまだここにはたくさんの影がいるのでは?」
私達は秘密の隠し部屋を出て地下室へと向かった。しかし外にはまだたくさんの影がいてまともに歩ける様子ではなかった。
「それに関してはわたくしにお任せを。なるべく人の通らないルートを知ってますので。」
「流石アリス。頼りになるよ。」
「もう、お姉様ってばそんなに褒められると照れてしまいますの。」
アリスについて行きながら私は地下室へと向かう。それにしてもアリスと私は姉妹というにはあまり似ていない。それにまだ分からないことも沢山ある。
「アリスはずっとこの空間に一人でいたってこと?」
「そうですわ。わたくしはずっとお姉様を待っていましたの。」
アリスはまだ小さいのにずっとこの屋敷に一人だというのか。それにまだこの屋敷には親の姿が見えていない。
「私ってどんな感じだったの?自分じゃ分からないから。」
アリスがここまで慕ってくれるほど昔の自分は優しかったのだろうか。さっきアリスの部屋を見た時何故か裁縫道具や掃除道具があった。お茶の淹れ方も上手だったしお嬢様にしては少し違和感がある。
「そうですね。お姉様は誰よりも優しくて誰よりも美しいんです。それはまるで花のように可憐で見ていてうっとりするんですの。昔から私が寂しい時は声をかけてくださってその度にわたくしにはお姉様しかいないと思い知らされました。そもそも私のような捨て子は本来居場所ないはずですのにお姉様は。」
「いや、説明が長えよ!もっと簡潔にまとめれねえのかよ。」
「そんな。お姉様を語るには後三時間は必要と言うのに。」
オズと私はアリスに呆れつつそのまま進むとすぐに地下室にたどり着いた。そこには確かに白色の扉があった。
「ここに扉がありますの。鍵がかかっていて開きはしませんが。」
私は試しに扉に触れて見るが特に何も起こることはなかった。それにしても屋敷の地下室だなんて何をするための場所なのだろうか。
「ほう、本当に白だな。となると後は鍵を探すだけだが。」
「この屋敷の中を探すのは骨が折れるよ。それに表に行けばまた影もいるんだし。」
「そうですね。お姉様とは一緒にいたいですが一度二手に別れましょうか。」
私はアリスの手に優しく触れて微笑んだ。記憶はないがアリスといると何だか暖かくてポカポカする。
アリスの手はお嬢様とは思えないほどゴツくて洋服も何度も裁縫で縫っている跡があった。
「アリス、手伝ってくれてありがとう。それじゃあ二手に別れようか。」
「ええ、何かあればわたくしを呼んでください。すぐに駆けつけますの。」
アリスはそう言った後、すぐに一人で鍵を探しに行った。私もアリスが向かった反対側から鍵を探すことにした。
「アリスは何だかお嬢様らしくないやつだったな。それにお前の大事な人も今のところアリスしか見てないがお前の屋敷はどうなってるんだよ。」
「私もこの屋敷は少しおかしいと思う。私は早く記憶を取り戻したい。ちゃんとした状態でアリスとお話しがしたい。」
もしかしたらアリスはずっと辛い思いをしてきたのかもしれない。アリスの地図に書いてあった大きな丸二つの意味もなんとなく分かっていた。
「記憶を取り戻すには鍵を探すことが一番だがさっきのクマのぬいぐるみのように思い出の品や場所なんかでも記憶は取り戻せるぜ。」
「そうだね。とりあえず気になるところがあるからそこから向かっていい?」
「ん?もしかして何か分かったのか?」
この箱の中で私は少し分かってきたことがある。おそらくこの調子で行けば鍵があるはずだ。
「うん。まず湖に鍵があったけどあれは偶然あそこに落ちた訳じゃなくて多分あそこが私にとって大事な場所だったんだとおもう。公園にあった扉だってそう。」
クマのぬいぐるみを触った時に溢れた記憶もきっと全部そこに関係がある。
「となれば思い出の場所を探せばいいってことか。でもその肝心の思い出の場所の記憶がないから分かんねえだろ。」
「いや、アリスの部屋の地図に二つの大きな丸があったの。そこの一つがこの扉がある場所だった。」
「おお!つまりもう一つの場所も二人の大事な思い出だとすればそこに鍵があるって訳だ。」
我ながら完璧な推理だと思う。もしかしたらそこに行けば私の記憶も取り戻せるかもしれない。
「だから早く屋上に行こう。そこに行けば全てがわかる気がする。」
「おう。あと少しだからって気を抜くんじゃねえよ。」
私とオズはすぐに屋上を目指した。相変わらずたくさんの影があるが隠れつつこっそりと階段を登っていく。
「そういえばずっと聞こうと思ってたんだけどオズは一体何者なの?私の記憶とは関係なさそうだし。」
オズはもちろん、この箱の中にはもう一人別の少女がいる気がする。最初に私に話しかけてきた少女の正体も早く知りたかった。
「ああ、それもまた後で詳しく説明してやるよ。だから今は目の前のことに集中しろ。」
「そうだね。それじゃあ進んでみるよ。」
あっという間に屋上に着き、私はとりあえず奥に進むことにした。しかしさっきからずっと胸騒ぎがして仕方がない。私は少し怖くもありつつ、屋上の真ん中に立ってみた。
「うっ、頭が。何だか気持ちが悪い。」
「おい、マリー。大丈夫か?」
屋上の景色を見た瞬間、今までとは比べ物にならないほどの景色が私の中に流れ込んでくる。
私は徐々に記憶が曖昧になっていった。
「アリス、この服はどうだ?とても可愛らしい服だろう。」
「ねえ、アリス。今日はアリスの大好きな苺ケーキがあるわよ。」
アリスは毎日のように溺愛してくる両親にずっとうんざりしていた。アリスは伯爵家に生まれた少女で両親に病的なまでに愛されていた。
服も食べ物も習い事も全てアリスではなく親の決めたこと通りにしないといけない。この屋敷の外にだって出たことはなくてずっと狭い景色だけを見せられ続けていた。
「アリスは本当に可愛いわ。将来は絶世の美少女になるわよ。」
「ああ、アリスなら何でも上手くいくさ。だからそれまでしっかりと習い事をするんだよ。」
「分かりました。」
昔のアリスは本当に口数が少なかった。両親の返事に適当な相槌を打つだけで自分の思ったことを口にすることなんてなかった。
部屋にもカメラがつけられており、プライベートはなく友達すら作るのを禁止されていた。
外に出る機会があるとすればパーティーくらいだが子供のアリスにとってそこは苦痛でしかなかった。小さな子供に媚びへつらう大人の姿はあまりにも惨めで滑稽だった。この先もずっと楽しことなど訪れることはないとアリスは絶望していた。
しかしそんなアリスにも転機が訪れた。
「ほら、見てくれ。アリスの為に作った庭だ。とてもきれいだろう?」
「すごい。これ全部お父様が作ったの?」
周りを間渡すとそこはとても大きな公園のような場所で花や草が綺麗でとても落ち着く場所だった。さらに鏡のように綺麗に透き通った湖があった。何よりアリスはオレンジ色のマリーゴールドに心を奪われた。何て綺麗に咲くのだろうか?
「ああ、アリスなら絶対に喜んでくれると思ったよ。ほら、今度から遊びたい時はここで遊びなさい。」
なるほどそういうことか。つまりこれはアリスを外に出られなくする為の罠でしかなかった。本当に窮屈でつまらない日々に嫌気が差していた。
「大変よ貴方。家の前に女の子が倒れていたの!」
「何だと!それなら早く助けに行くぞ。」
突然お母様が急いで走ってくるから何事かと思えば家の前に少女が倒れていると聞く。アリスは急いでその少女の元へと向かった。そしてこの少女との出会いがアリスを大きく変えるのだった。
「うん?ここは一体どこですの?」
「あら、やっと目を覚ましたのね。痛いところはない?」
アリスが倒れていた少女の看病をしているとすぐに起き上がってくる。最初は両親にお前が見る必要はないと止められたがアリスはこの少女のことが心配だった。今にも壊れそうなほどに弱々しい体で声も酷いほどにガサガサになっていた。
「貴方は誰ですの?わたくしはどうしてここに。」
「ここはロレーヌ伯爵邸で私の名前はアリス。これからよろしくね。」
アリスはボロボロになっている少女に優しく声をかける。最初こそ戸惑っていた少女もすぐに優しく笑ってくれる。
「よろしくお願いしますお姉様。」
少女はすぐにアリスのことをお姉様と呼ぶようになった。アリスも妹ができて心の底から嬉しかった。
さらに少女は最初こそボロボロだったがお風呂に入り服を整えて怪我が治るととても美しい姿だった。
それからの毎日はずっと少女と一緒に過ごした。食事も習い事も全部一緒でアリスにとっては間違いなく本物の姉妹だった。そしてアリスは初めて愛を知るのだった。
「そろそろ貴方の名前を決めないとね。そうだ、マリーなんて名前はどう?」
「マリーですか?素晴らしい名前です。さすがお姉様。」
アリスがそう名付けるとマリーはとてもはしゃいでおり、アリスまで嬉しくなった。
マリーと名付けた理由はマリーゴールドの花言葉が健康だからだ。マリーにはこれからもずっと健康でいて欲しい。ただその思いからマリーと名づけることにした。それにマリーはマリーゴールドのように凛と咲いて美しかった。
「アリス、マリー、ご飯の時間だぞ。そろそろ戻ってきなさい。」
「今すぐ向かいます。ほら、危ないので手を繋ぎますよ。」
「はい、お姉様。」
両親もマリーのことを本当の家族のように見てくれてこの瞬間がずっと続けばいいのにと思った。今まで辛いと思ったこともマリーがいてくれるおかげで頑張ることができる。
この時はずっと変わらない幸せな日々が続くと本気で信じ込んでいた。
「アリス、マリーご飯の時間よ。ゆっくり食べなさいね。」
「お母様、私とマリーでご飯が違うようですが一体どういうことです?」
あれから一年が経ち、アリスとマリーも成長した。マリーはあれからさらに可愛くなり、パーティーに参加した時もみんなの注目を引くようになった。アリスよりもマリーの方がこの家に相応しいんじゃないかとすら思うようになっていた。
しかし両親の対応は全くの真逆だった。明らかにマリーのご飯だけ他と比べて粗末でお召し物もアリスとマリーで明らかに質が違った。
「別にいいじゃない。アリスとマリーじゃ価値が全く違うのよ。マリーは捨て子なんだからこうやってここにいられるだけ感謝しなさい。」
「そうだぞ。この家の支えになるのはマリーではなくアリスなのだからな。少しの差くらい気にするな。」
平然と答える両親にアリスは苛立ちが隠せなかった。子供のことを価値でしか見ない親にひどく軽蔑した。
「ですがこんなのおかしいです。マリーだって私達の。」
「いいんですよお姉様。わたくしは既に沢山貰っていますので。」
アリスは今にも文句を吐きたかったが毎回こうやってマリーに止められていた。マリーは何とも思わないのだろうか?
マリーだって悔しいはずだ。それにマリーは誰よりも美しくて自慢の妹だというのに。
それからさらに二人の差は酷くなり、ついにはマリーと話すこともままならなくなってしまった。アリスはずっと両親に講義したが一切聞いてはくれなかった。それどころかこれ以上この話をするならマリーを養子に出すと言われてアリスはそれ以降何も言えなくなった。
「ねえ、やっぱり今の現状はおかしいわ。マリーだって苦しいでしょ?」
「いえ、苦しくなんてありませんわ。わたくしには中々会えないとしてもお姉様がいますから。」
両親に会うのを禁止にされたアリスは中々人の来ない地下室と屋上でこっそり会うようになっていた。見ないうちにどんどんマリーの肌はやつれていき、服装もボロボロだった。使用人達の噂話では掃除もやらされると聞く。
「それでも私が耐えられないの。貴方は私の唯一の宝物なんだから。」
「わたくしも同じ気持ちですよ。この気持ちがあればどんなに離れていても一緒ではありませんか。」
アリスはマリーの手を優しく握った。マリーの手はアリスとは違ってゴツゴツで悲しい気持ちになった。
「お願いですからわたくしと一緒いてください。それがわたくしの唯一のお願いですわ。」
「もちろんよ。貴方が辛い時は私が支えになるわ。だからどうかここから逃げようとしないで。」
「もう、お姉様ったら。泣いていたらせっかくのお顔が勿体無いですわ。」
アリスの涙をマリーは優しく拭き取って笑ってくれる。ああ、なんてマリーは優しいのだろうか。マリーがいる限りはアリスもまだ頑張ろうと思えた。
ただ絶望というものは思ったよりも近くにあるらしい。
「見てくださいお姉様。こうやって二人で外に出るのも珍しいですね。」
「ええ、やっと貴方と外に出れてよかったわ。この景色は一人で何度も見てきたけれどやっぱり二人で見ないと意味がないわ。」
あれからさらに二年が経ち、気がつけば既に十五歳になっていた。そろそろ家のことも考えないといけない時期でアリスも今まで以上に習い事で忙しかった。
マリーはというとあれからさらに痩せこけて今にも死んでしまうのかと思った。アリスがこっそりご飯を渡そうとしてもマリーに全て断られてしまう。
「わたくしとこれ以上関わったらお姉様の未来が危ないですわ。お姉様はいい人と結婚して幸せな家庭を気づいて欲しいですから。」
マリーはずっとそんなことを口にしていた。私がマリーの支えになると誓ったのに不甲斐ない自分に嫌気がする。
「今日だけはお姉様とずっと一緒にいれて幸せですわ。また明日になれば離れ離れになってしまいますから。」
今日は両親が仕事で一日おらず、使用人の目を盗んでずっと二人でいた。この温もりがずっと続いて欲しい。
「私も貴方といれて嬉しいの。でも本当はずっと一緒にいたい。」
今はずっとマリーのことしか考えていなかった。マリーをどうしたら幸せにできるかそのことだけを考えていた。
「そんな顔をしないでください。今日はその為にこれを持ってきたんです?」
「これはクマのぬいぐるみ?」
マリーはそう言ってクマのぬいぐるみを差し出した。確かこれはマリーがずっと大事にしていたクマのぬいぐるみだ。
「このクマのぬいぐるみをお姉様に差し上げます。これをわたくしだと思って愛してください。」
マリーの差し出すクマのぬいぐるみをアリスは受け取ることができなかった。このぬいぐるみを受け取ってしまうとマリーがどこかへ行ってしまいそうな気がした。
するとその瞬間鷲のような大きな鳥がクマのぬいぐるみを持って高く飛んでいった。
「ああ、わたくしのぬいぐるみが。」
アリスは急いで石を鷲に投げつける。石は鷲に直撃して体勢を崩してクマのぬいぐるみを離した。そして湖に落ちたクマのぬいぐるみを取る為にアリスは気にすることなく湖の中に飛び込んだ。
「お姉様!一体何をしているんですか?」
マリーの叫びも気にすることなくアリスは湖の中を泳いでクマのぬいぐるみを掴んだ。もう絶対に離さない。これはアリスにとって大切なものだ。
「お姉様!何でわたくしの為にそこまでするんですか?お姉様は幸せになれるのにどうして茨の道に行くのですか?」
「そんなの決まってるわ。私の幸せは常に貴方といることだからよ。」
「そんなのわたくしだって同じですよ。お姉様のバカ。」
アリスはずぶ濡れになりながらもマリーを抱きしめた。そしてその日はお互いに涙が枯れるまで泣いていた。
「マ、リー?どうして黙っているの?何で何も話さないの?」
アリスはマリーの部屋に入って無言で倒れているマリーに声をかける。しかしマリーは返事をする事はなくただ冷たくなっているだけだ。
「う、嘘よね?何かの冗談でしょ?いつもみたいに笑ってよ。」
私は何度もマリーに声を掛けた。しかし何度呼んでも結果は変わらなかった。
「オエッ。私のマリー。何で、何でなの?ずっと私と一緒にいると約束したじゃない!」
気持ちが悪い。頭がおかしくなる。何でこうなったのか?やり直したい。もう一度貴方と会いたい。確か私はそう神に誓った。その後の事は何も分からなかった。
そうだ、私は今までの全てを思い出した。
「・・・リー起きろ!大丈夫か、うなされてるぞ。」
目が覚めるとオズのうるさい声が耳に響く。完全に全てを思い出した私は気持ち悪くて仕方がなかった。
「違う。私の名前はマリーじゃない。私はアリスでアリスがマリーなの。」
「おい、どういう事だよ。お前は一体何を見たんだ?」
困惑してるオズを見つつ私は自分を恨んだ。何でこんな大事なことを今まで忘れていたのだろうか?
「そうですか。お姉様はついに記憶が戻ったのですね。私の大好きなアリスお姉様。」
私が泣いていると屋上にマリーがやって来る。私は急いでマリーの元に辿り着くと強く抱きしめた。
「ごめんマリー。今までこんな大事なこと忘れていて。マリーを一人にして。」
「もう、お姉様ってばすぐに泣かないでください。それと実はわたくしは嘘をついていたんです。本当は鍵もわたくしがずっと持っていたんですの。」
マリーはそう言って私のポケットに鍵を突っ込んだ。
「そんなのどうでもいい!私はここから出たくない。ずっとマリーと一緒にいたい。」
ここから出たくなんてない。出たところでマリーはもういない。マリーのいない生活など私にとっては地獄だ。
「そんなのダメですわ。お姉様は幸せにならないといけません。わたくしの分まで幸せになってください。」
「無理だよそんなこと。私にはマリーといることしか。」
私がそう口にしようとした時、誰かの足音がした。気分が唐突に気持ち悪くなる。
「ああ、アリスってばこんな所にいたのね。」
「探したぞ。早く私たちの所に帰ってこい。」
そこには顔が真っ黒なお父様とお母様がいた。何故ここが分かったのだろうか?
「ねえ、何か他の人よりも影が濃い気がするんだけど?」
「ああ、おそらくお前が最も触れたくない記憶なんだろうな。とりあえず逃げるぞ。」
「ええ、お姉様。こちらから逃げれます。」
私はマリーとオズと共に非常階段から逃走する。周りにはたくさんの影があり、このままでは私達が捕まってしまう。逃げながらもどうにかして私は策を考えていた。
「わたくしが足止めしますのでお姉様は逃げてください。」
「そんなのダメだよ。マリーも一緒に逃げないと。」
「わたくしはどちらにせよもう無理ですから。だからどうか。」
嫌だ。一度マリーを守ると約束したのに破ってしまった。もう二度とマリーを一人にはさせない。
「マリーは私が守るから。絶対にここはどかない。」
私はマリーを守るようにして両親の目の前に立った。
「アリスは私達のものだ。今すぐこちらに来い!」
ものすごい勢いで迫って来るお父様にに私は怯むことなく構えた。何があってもマリーには触れさせない。
「逃げろアリス!本当に殺されるぞ。」
「お姉様を傷つけないで!」
二人の叫びも届かずにお父様は私に迫って来る。しかし私はずっと身構えていたが特に何もされていなかった。
私が目を開くとそこには一人の少女が傘でお父様の攻撃を防いでいた。
「なんだ、お前は。私はアリスに用があるんだ!」
「嫌な記憶は時に消したくなるのも分かるわ。こういう風にね。」
少女がそう言って指を弾いた瞬間、お父様とお母様の体がドロドロと溶けていく。そして最後には何もなくなってしまった。一体この少女は何者なのだろうか?
「あら、危ない所だったわね。私がいなかったらどうするつもりだったのかしら?」
少女はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
「貴方は一体誰なの?」
正体の分からない少女に私は尋ねることしかできなかった。
「初めまして。私の名前はリリー。遠くからずっと貴方のことを見ていたわ。」
「おい、リリー。お前はいっつも来るのが遅えんだよ。ヒヤヒヤしたじゃねえか。」
リリーと呼ばれた少女は優しく私達を見つめていた。この声は間違いない。時々私に話しかけてきた少女だ。
「しょうがないじゃない。私があまり干渉するわけにはいかないんだから。それに今回はかなりのイレギュラーよ。」
「だとしてお前は人の記憶を見るのに夢中になりすぎるんだよ。俺様が呼んでも中々来ねえしな。」
リリーとオズが喧嘩してるのを横目で見ながら私はマリーを抱きしめた。
「マリーが無事で良かったよ。もしマリーに何かあったら私。」
「それはこっちのセリフですわ。お姉様が無事で安心しました。それじゃあ今度こそお別れの時間ですね。」
「そうね、私が扉の前まで送ってあげるわ。」
リリーがそう言って傘を振り下ろすと私達は一瞬にして地下室の扉の前までやって来た。
「それではわたくしが鍵を開けますわね。」
マリーが鍵を挿すと扉が開き、神々しい光を発していた。
「ねえ、本当に私は元の場所に帰らないといけないの?私はまだマリーと一緒にいたい。」
「ダメですわ。所詮ここはお姉様の記憶の中でしかありません。結局私も偽物なんです。」
「それでもだよ。もしマリーが偽物だとしてもいい。私にはマリーなしであの生活は耐えられないの。」
ただでさえ苦痛の続く日々。結局私のことも本当に愛してはくれない両親。私を愛してくれるのは後にも先にもマリーだけだった。
「今のお姉様ならきっと大丈夫ですわ。それよりも早くしないと扉が消えてしまいます。」
マリーのいう通り扉は少しずつ薄くなっていた。気がつけばそんなに時間が経っていたと言うのか。
「マリーも一緒に来ようよ。それは無理なの?」
「貴方は馬鹿なの?そんなことしたら大変なことになるじゃない。とりあえずここに残るのかそうでないのか決めなさい。」
リリーはそう言って傘を回して遊んでいた。人が真剣に考えている時に何をしているのだろうか?
一体どうすればいいのか。でも私はやっぱりマリーと一緒にいたい。そう思った時マリーが手の甲にキスをする。
「お姉様はわたくしが幸せだと嬉しいですか?」
「もちろんだよ。私はマリーの幸せなのが一番嬉しいから。」
一度はマリーを助けられなかった。でもここであればずっとマリーと一緒にいれる。マリーを幸せにできる。
「それならお姉様は今すぐここを出て行ってください。わたくしの幸せはお姉様がずっと笑って長生きすることなので。」
「でも、それだとマリーが。マリーを一人にしたくない。」
約束したんだ。もう二度と一人しないと。私だけが生きるなんてズルすぎる。
しかしマリーは私の顔を見てただ笑っていた。その笑っている顔がただ美しい。
「何を言っているのですか?お姉様が生きている限りわたくしもお姉様の心の中で共に生き続けますわ。わたくしこそ絶対にお姉様を一人にはさせません。」
ああ、私のマリーは何て強いのだろう。そうだ、私が間違っていた。最初から私は一人ではなかったんだ。
そう思うと私は涙が溢れてくる。悲しさと嬉しさの混じった涙だった。
「ごめんマリー。そう言うことなら私マリーの分まで生きるよ。それでマリーの分まで幸せになるから。だからずっと私を見て応援してくれる?」
「もちろんですよ。わたくしの命の恩人であり、わたくしの世界で一番大切なお姉様。」
私とマリーはそっとお互いの手のひらにキスを交わした。これからもお互いが幸せに生きていけるようにと。
「うう、いい話だぜ。俺様久しぶりに感動しちまった。」
「そうね。それとマリーゴールドには様々な花言葉あるのだけどその中に変わらぬ愛という花言葉があるわ。まさに今の貴方達にピッタリね。」
リリーはそう言って優しく不敵に笑っていた。
私はあと少しで消えそうな扉を開いた。
「それじゃあ、私は元の世界に戻るよ。二人共、私を助けてくれてありがとう。」
「礼には及ばないわ。これも全て貴方の頑張りよ。」
「ああ、だからお前ももっと気を強く持てよ。」
私はずっと支えてくれた二人に優しく微笑んだ。短い冒険だったが楽しかった。
「それとマリー、私と家族になってくれてありがとう。私のことを愛してくれてありがとう。」
ずっと自分のことも今の生活も嫌いだった。そこに一筋の光をもたらしてくれたのはマリーだった。
「わたくしこそお姉様と会えて幸せでした。ただの捨て子だったわたくしを家族と呼んでいただき感謝します。」
マリーは涙を流しながら綺麗なお辞儀をした。私もマリーに微笑んだ後、扉を潜った。
もう怖くない。きっと今の私ならなんでも成功する。
だって今の私には心の中にみんながいるのだから。
「ふふっ、それにしても今回も面白い記憶だったわね。やはり人の人生を見るのはやめられないわ。」
この空間はブラックルームといい突如現れた謎の現象だった。人の負の感情に反応してその人間を閉じ込めて、その人間の深層心理を映し出す。
それは本人にとっては救いかもしれないが言ってしまえば人攫いの類である怪異だ。だから誰かがこの現象を止める必要があった。
「それにしてもリリーは本当にすげえな。お前のその力は一体どこ由来なんだ?」
そう、本来は誰もブラックルームに干渉することはできない。ただし人の記憶に入ることのできる私だけはブラックルームにいても影響を受けることはない。
「さあ、これもまだ私が人間だった時のことが関係してるかもね。まあ、そんな昔のことはもう覚えてないのだけれど。」
つまり私のしていることはブラックルームに入り込んだ人間の救出。オズや私の魔法を使い、今回のように扉まで導いてあげることだった。
特にただ導くだけでなく、入った人のトラウマを取り除きつつブラックルームを出た後もしっかり生活できるようにしないといけない。
そしてもう一つの目的は私の記憶鑑賞だ。ブラックルームに入った人の今までの人生をこの目で遠くから見ている。人によって様々な人生を送っており、それをこの目で見るのが私の趣味だった。言わばものすごくリアリティーのある映画だ。
「今回も本当に面白かったわね。特に姉妹の絆は心にくるものがあったわね。」
「お前には姉妹とかいないのかよ?それに大事な友達とかよ?」
姉妹どころか親がいたかも分からない。なんと言っても私が人間だったのは百年以上前だ。つまりすでに百年以上はこのブラックルームで過ごしている。
「にしてもよく飽きねえよな。こんなのをずっと見ているだけなんて俺なら狂いそうだぜ。」
「いいのよ。私にはこれしかないんだから。」
趣味であれば何年だろうが飽きることなどない。それに人の人生は多種多様で毎度私を楽しませてくれる。
だから私はここにいるのをやめられない。
「ほら、こんなことを話していたらもう次の人が来たわ。さあ、貴方は私にどんな人生を見せてくれるのかしら?」
私は新しくこの空間に入って来た人に優しくそして不敵な笑みで語りかけた。
この先もブラックルームという恐怖が続き、この空間に人が入って来る限り少女リリーはこのブラックルームを抜け出せない。
ここまで呼んでいただきありがとうございました。




