異世界へ1
熱を出した時に見る夢は、共通してこういったものだろう。
大きな熱い何かに締め付けられる夢。
頭の後ろから、圧迫されるような、自分の体が不条理にも似た、訳の分からない何かに包まれる夢。
そして、頭が大きくなるような、そんな不思議な感覚、目が覚めると、視界の全てが膨張していて、焦点が合っていない自分の存在する世界でなく、全く別の世界の住人になったような。
熱い湯の中に、お風呂のそれではなくましてや、サウナのそれでなく、茹でられたら、きっとこんな感じなんだろうな、と、寝返りを打つと、氷枕、、冷却材が頭の下に枕の代わりに敷いていると、水分を吸った、濡れたタオルが、水が打ち合う音によく似た、水のこすれ合う音。
水分を含みすぎて、ほとんど、濡れタオル状態となった、タオル同士が、こすれ合う、水際で、水が跳ねる音が耳元で、ずっと聞こえていて、その音が、夢現のあいだを行ったり来たりしている。
音が 遠く、また、近くに聞こえ、寝汗で、体中が、溶けたように、布団もまた、水分で、心なしか重く、湿気を含み布団に覆いかぶさられている感覚が、余計に体を重くさせている。
悪寒と体の熱さが交互に襲ってきて、その戦いの最中、冷たい手が、そっと、自分の周りを。
汗を拭い去ってくれた。
汗で、 重たくなった、着ているもの、布団のシーツを、手際よく変えてくれた。
その間、自分の体は、いいように転がされ、気が付けば、新しい下着や、布団シーツに包まれまれていた。
その時の視界に映っていたのは。優しい手の甲、顎から首筋、そして、胸元、かた、肩越しから背中の。
そして、首筋からうなじにかけ、目をつぶり、そして目を開けたごと、静止画のようにその記憶の片隅に織り込まれている。
そして、それは母の香りと共に記憶の澱のようにずっと奥底に存在している。
この子だけなの。
この子だけと、なんて言わないで下さい。
月の砕けた少ない力場でやっと引き当てたのです。
ではみんなで、面倒見ましょう、家族として。
頭のうえでそんな会話の断片を聞きながら、再び眠りについた。
明け方。薄目を開けると、窓の傍に彼女はいた、少し、空気を入れ替えるね、と、窓を開けた途端。
風がカーテンをなびかせ、同時に彼女の髪も同時になびかせた。
それとなく見ていると、随分良くなったみたいね、と近寄って来て、彼女自身の額を私の額にあて、うん大丈夫。と言って、離れた時にまたあの、香りが鼻をくすぐった。
薄目を悪ながら、そのまま、記憶の映像が、そこで、途切れ、また、眠りについた。
何の音だろうか、音と言うよりも感覚だったと思う、目が覚め。
辺りを見回すと、見覚えが、あるが、具体的に思い出すことのない。
また、まどろみの中に自分をゆだねた。
朝、いつも通り、目が覚めた。
いや、いつも通りではない、熱にうなされ、うなされながら、考えてみれば、俺は、一人暮らしのはずだし、家族とは、随分前に死に別れたはず。
しかし、ついさっきまで見たもの、感じたものは何だったんだ。
そもそも母が、無くなって、何年も経っている、今更母のゆめを見るのは、多分自分自身が親孝行の一つもしていなかったせいだろう。
唯一、そのことが気にかかってしょうがなかった。
これも夢なのか。
キッチンに行くと母が、いつも通り朝の支度をしていた、食器を棚から出す食器同士が当たる音が、キッチンに、響き俺がテーブルに着くと朝の挨拶をしながら目の前に朝食を置き、今日の調子はどう、昨日遅くなかった、とか特に気にもしなかったら生返事で返すような返すことが出来るようなそんな他愛のない、何気ないやりとりが、朝の明かりが、俺達を包む、母の笑顔と朝の光が同義語のように感じた。
そんな朝。
が。
夢は途切れ、熱でうなされて、見ていた夢の余韻を振り払った。
玄関のドアを叩く者があった、今時インターホンや、防犯用のカメラ付きのインターホンがある、のにだ。
外の様子を見てみる。
その間も絶え間なくドアを叩く音は続いている、カメラのモニターには何も映っていない。いや、モニターに外の景色が映っていないと言った方が正確だ、見た事の無い景色が静止画で、映っていた、廊下と向かいの部屋のドアや壁が映っているはずが、そうではなく。
青々とした、広い草原がひろがっていた。
目を通していただき、誠にありがとうございます。




