そして希望
小さき姉と従妹が丘から降りてきた。
ゆっくり降りてきた。
小さき姉を見ながら思った。
そういえば、ぼくがこの世界に転移する直前、あの熱でうなされていた時に遠くで奏でているようなハープの音色と歌声が聞こえたのは先程の、小さい姉の歌声だ。
害獣全体がまるで時間操作された様に時間が止まった。
この歌声の力、小さき姉の力だと言う。
そばにいた従妹も、今思い返せば、薪を拾いに従妹があんな恐ろしい害獣が潜む森の中に、単身薪を拾いに行くなんて、あんな爆雷撃の力が無ければ害獣の餌食になるはずだ。
爆雷撃の力が従妹の力だと言う。
そんな力は生まれた時から、女子には何かしら備わっていて、私の母さんは時間操作の力、私は爆雷撃炎の力、あなたのお母様は・・・。
と、従妹が話を続けた。
あなたのお母様は、少しの力でも衝撃波が起こる位の力がある。
お家で、冗談のように臀部で、壁に穴をあけてしまう位。
少し思い出し笑いをしながら、従妹は話を続けた。
でも、その力は無限大で、その気になれば山の一つや二つは抉ってしまう。
つまずき程度で体全体が衝撃波が起こるほど突進力は、先程の害獣への肉弾攻撃で証明している。
そして伯母さん。
大きな姉様、伯母さんは、今見た通りあの陣風烈火如くの鉈使い。
その力は、視界にあるすべての敵を、その鉈の刃の元にただの肉塊にしてしまう。
その様に私たちには、それぞれの力を持っているの。
と従妹は説明してくれた。
母たちの攻撃で夥しい数の、屍を残し、害獣たちは怯んで、どうやら森の奥に引き上げたようだ。
辺りには害獣たちの気配は無くなった。
そういえばこの飛行船の事を、あの手紙の事もあるし、内部を皆に見てもらわなければ、と鎮座している、飛行船の内部に僕は誘った。
操縦席と、奥の格納庫を見て回っていた。
格納庫の中の手紙の山を前に、ハープを持った小さい姉は従妹と何か語り合っていた。
もしかすると、
もしかしたら、
あの子が成功したのだから、
やってみる価値はあるわ、
と語り合っていた。
横目にその会話を聞きながら、内部の手紙の事は任せて、僕は一旦表に出て、蒸気機関部分を点検しつつ、蒸気機械に使え、流用できるものは無いか、または、逆にこの蒸気機関を修理できるか見積もっていた。
この状態なら大丈夫、この飛行船も、小屋の蒸気運搬車も修理は可能だ。
その事を伝えに船内に戻ると母たち四人は、格納庫にあった手紙の山を前に話し合っていた。
この手紙を待っているところに届けましょう。
大きな姉伯母。
そうね、この手紙がもしかすると希望になるかも。
小さな姉伯母。
この飛行船で、届けて回れば間に合うかも。
従妹。
彼が、成功したのだから。
母。
そう格納庫の中の手紙の山の前で母たちは語っていた。
この手紙の待ち人のところに届け、私たちの様に転移反魂の術を執行して、この世界の滅びを少しでも遅らせる、もしかしたら回避できるかもしれない。
僕を見て言った。
あなたが転移反魂した日から、大いなる月の様子が変化し始めたの。
その証拠に私たちの力が戻りつつあったから。
あの害獣を一掃した力が。
大きな姉伯母は、その言葉を引き継ぎ。
想い人を蘇らせることは、崩壊した小さき月の力を補完していく事になる、そうすることで元の小さき月の力が戻り、大いなる月との均衡が保たれ、破滅を回避できるかもしれない。
従妹は。
確証は全くないけど、希望はある。
小さい姉伯母は。
今はその希望に賭けるしかない。
と続けて言った。
僕は、この手紙の束を、手紙の山を見て少し不安になった。
その不安そうな、様子を見てなのか母がいきなりギュッとハグしてきた。
あの熱を出した、この世界に転移してきた時以来の包み込まれた感覚だ。
大丈夫、あなたが全て私の息子で無い事は解っています。
頭の上で母は言った。
エッと、僕は母の胸の中で驚いた。
多分、あなたのほぼ全部は私の息子では無いのでしょう。
異世界から転生転移してきた方なのでしょう、とてもやさしい方なのですね。
事情も知らず私たちの力になっていただいているなんて、なんてお礼をすればいいのか分かりません。
ただ、こうやって私の胸で抱きしめてあげることでしか今は。
そう言って、その豊満な胸を押し付けてきた。
胸で段々息苦しくなってきたとき。
抱き潰すつもり。
そう言って大きな姉伯母は僕を母から引き離した。
ダメよあなたは、いくら他人の中身でも息子は息子なんですから。
小さき姉伯母は。
大切な男子、大事にしなきゃ、あなただけのものじゃない私たちの希望なんですからね。
さあ、この飛行船を修理して、早速出発しましょう。
従妹は僕の傍に来て。
手紙たちを、想い人の所に届けて、蘇らせるましょう。
人も、世界も。
と。
数日後、飛行船の修理を済まし、家畜などを解き放って、今まで暮らしていた村を後にすることにした。
今は、この世界を救うため村も捨てた。
でも、母たちの力があればどんな害獣が来ても大丈夫だ。
蒸気機関は順調に起動して、大空の航行は順調だ。
ただ、気になることがある。
僕の思い違いならいいのだが。
僕が全くの他人だと明るみにした途端、まあ、僕の気のせいだと思うのだが。
母や、伯母たち、従妹が何だかこう、親戚を見る目とは違うような。
ほとんど男がいないって言っていたけど。
男を見るような。
いやいや、まさかね。
そんな心配をよそに、飛行船は大空を駆けてゆく。
(続く)
拙作を、この様に読んでいただき、目を通していただき痛み入ります。




