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転機3

 森の近くの畑で起こったことを、二人の姉と、従妹に手短に伝えると。


留守にしていた時の事を、三人は僕たちにこう知らせてくれた。


 森の近くの畑で遭遇したことは、彼女達からも確認できたようで、僕たちが畑に出かけてから大きな地響きは、遠くここまで聞こえたという。


 しかも、この飛行船の様子は確認できたらしい。


 と、共に。


 夥しいほどの空飛ぶ者たちが森から飛び立ち。

 また、大量の地を這う害獣と思われるもの達が、森から這い出したり、飛び出してきたことが確認できたという。


 図らずも、森の奥に封印されていた害獣たちが、その飛行船の不時着の振動により、追い出されてきたのだろう。


 不時着した飛行船の近くには、使っていた運搬車や、道具が慌てて退避したため置きっぱなしになっている。


 母たちに心配かけたく無く、畑のその後の様子も確認し運搬車などを回収したかったので、あくる朝そっと気づかれないように、僕一人で現地に向け出発した。


 害獣が、森の奥から、這い出て来ているから危ない、と言っていたが、そんな危ない所であったら尚更、母たちと行く事は出来ないからだ。



 近寄って改めてみると、その飛行船は、かなり大きいものだった。


 そして、周りは異様に静かだった。


 森から飛び出して不時着した、その時の飛行船の鳴き声のような騒々しさが嘘のように、余計に、静かに感じていた。


 その巨体の周りを一周してみたところ、その物体から、這い出した足跡、形跡、またその類は確認できなかった。


 もし、何かが。


 何者かが乗っていたのなら、この飛行船から足跡が続いているはずだ。

 見る限り、この物には何も乗っていなかったのだろう。


 もっとも、未だに何者かがこの飛行船に乗船したままなら、話は別だが。


 外付けの動力の蒸気機関の釜の火は完全に落ちて、冷たくなっていることを確認しつつ、船内に入った。

 船内と言っても飛行船の巨大な楕円の下部の操縦席は想像より狭かった。


 操舵室と貨物室の二部屋ほどしかなく、何者かが潜むといったことは到底無理な代物だった。

 操舵室の操縦版、操縦桿、操舵などは、完全な状態で残っていた。

 一方、操縦席やテーブルは不時着の衝撃で、外れて壊れていた。


 貨物室を開けてみると、そこには、木の箱が壊れて中身が散乱していた。

 散乱していた物を一つ拾い上げてみた。


手紙であった。


 それは以前、母が天袋から取り出そうとした、手紙の様式だった。

 そのまま、それを手に持ち船外の明るい所で確認すると封はしていて、差出人、宛名がある。

 住所は、村、町、地区の大雑把な事しか書いていない。


 文字が読めるのは、この世界に来てから言語と同じく、この体の持ち主の記憶などが、継承されているからだろう。

 もう一度、船内に戻り、貨物室の中を確認した。

 改めて見ると、その手紙の多さに驚いた。

 貨物室のほとんどが、その箱で山の様に埋まっていたからだ。


 手紙をその山に戻し、取り敢えず外にある自分たちの運搬車や、道具の片付けと、それらの引き上げに取りかかった。


 運搬車の周りには、一旦放棄した、道具、食べ残した食料など荷物が散乱していた。

 

 ぴたりと近づくのを止めた。


 何故なら、近くで見ると明らかに、人ではない、動物の類ではない足跡が、その運搬車の荷物の周りを隙間なく埋め、そして残飯を漁った跡がはっきりとわかったからだ。


 同時に森の奥から、それとわかる視線が無数に、その足跡の主であろうそれが、五感の全てに危険を報せた。


 それらは突如、森から一斉に躍り出てきた。

それらは森で息を凝らして、待っていたのだ。

 まっすぐにそれらは、突進してきた。


 害獣。


 そう呼ばれている者たちだ、人でない、動物でもない、ましてや家畜のそれでもない、猛獣でもない、獣ならざる獣。


 咆哮しながら、森から湧き出てきた。


 死。


 そう直感した。


 刹那。


 ハープの音と、透き通り、それでいて、重厚な、聖なる歌声が響き渡った。


 歌声は天地に響き渡った。


 すると害獣たちはその動きを、一斉にそこに留め、時間がその物たちに進むのを拒否させたかのように、動かなくなった。


 同時に一陣の、爆炎が、爆雷撃が辺り一面、その害獣たちを薙ぎ払った。


 振り向くと、少し離れたところにハープを持った、小さい姉が。


 そしてその隣には、大きく手を広げた従妹が立っていて、今しがた爆雷撃と爆炎を放った後であろう。


 空間が灼熱で歪んでいた。


 燃え盛る爆炎の中、生き残った数匹が動きを再開し、自分に向かって突進してきた。


 あと数歩の間合いとなった時。


 一陣の風が、いや、何かの黒い物体が、近づいてきた害獣を突き潰した。


 害獣は、その物体の激突と衝撃波と轟音と共に肉片に変わった。


 突き潰した黒い物体。

それは息を切らし方で息をする、母だった。

 母は息を切らしながら、微笑み、黙って行ったらダメでしょ、と。

相変わらず、少女のような無邪気な表情で、間に合ってよかった、と。


 だが激突の衝撃、体当たりの肉弾攻撃の衝撃で着ていた物はズタズタになっていて、ほぼ全裸になってしまっていた。


 僕は慌てて、散乱していた、まだ無傷の荷物の中から、その裸体を隠すための布を探そうと、不用意に周りを警戒せずに動き出した。


 その時。


 まだ燃え盛る、爆炎の中から、生き残っていた害獣が、屍の中から躍り出てきた。


 あ。


 と声を出した瞬間、僕の襟首を掴み後ろに引き倒し、その害獣の首を一閃、叩き落とした。


 一瞬の出来事だった。

 首根っこを持って引き倒したのは、僕の傍に手に鉈を持った大きな姉だった。

 鉈には、その害獣の首を落とした時の体液が、したたり落ちていた。


 振り返り、油断しないでね、あなたは希望なのだから。

 と、探していた、母を包むための布を、僕に手渡しながら言った。


目を通していただき、誠にありがとうございます。

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