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プロローグ

 行きましょう、そう言うと彼女は、スッと立ち上がり、肩に手紙の入ったカバンを背負い、片手には、鉈をむき身で持った。

 便りを持って、各家庭に届けることが、役目である。


 戦地から届く手紙には、各家庭、家族の絆が綴られている。



 愛する妻へ

 この手紙が届く頃は、僕はきっと激戦の■■・■『この表記は秘密保持のため削除』にいることだろう、もしかすると僕は■■『不適切表現のため削除』かもしれない、だが安心してほしい必ず勝って生きて戻ってくる、庭に咲いている木の花が三回咲く頃には必ず、それまで元気で待っててほしい、もし困ったことがあれば、僕の叔母さん、や祖母はよくしてく━━━━『以下文字制限のため削除』


 手紙の宛先の家近くに辿り着いた。

 玄関のドアをノックすると、すりガラスののむこうで、人が動くのが分かった、そして、影が近づきドアノブがゆっくり回り、そして、住人が顔を出した。

 訝し気に目を合わせたが、差し出した手紙を見ると、その表情は一変し、震えながら私の手から彼女の手に渡った。

 受取りのサインをもらうため、同じカバンから、受取帳を取りだし、ペンと一緒に差し出すと、彼女は床に這いつくばり、嗚咽を漏らしながら、床に頭を擦り付けるほどだった。

 彼女の住まいの奥は、彼女自身が視界から退いたため、嫌でも見えた、居間のテーブルや、暖炉は、額縁の中にあるようだった。

 生活感がひしひしと感じられ、その奥にはこの家族の所有物であろう庭、青々とした畑が遠くに見え、果樹だろう樹木が綺麗な花を咲かせていた。

 きっとこの家の人々が揃う時にはもっと綺麗な花が咲いていることだろう。

 そう思って彼女が落ち着くまで、待っていた。

 落ち着いた頃を見計らって、サインをもらった、その目は真っ赤に泣き腫らし、直視するのも憚れるくらいだった。

 その家から離れる間際、奥から子供が、出てきて、その彼女の傍らに寄り添うのが見えたところで、ドアが閉まった。


 次の住所を調べ歩き出した。



 愛しの君へ、

 あの時、もっと勇気を出して、言うべきだったと思う、学校を卒業する直前、この大災厄最終戦争アーマゲドンがはじまり、学校の総動員令が施行され、僕は■■■■『不適切表現の為削除』と思い、しかし志願することにした。君と所帯を持つ約束を交わした、あの夜の事は昨日の事のように思い出す、僕が戻るまで待ってていて欲しい。それだけが今の僕の唯一の希望だ ━━━━『以下文字制限の為削除』


 その家は、なかなか分かり辛く、町の近くで区画が整備されているはずだが、少し入り組んでいた。

 おかげで、村に着いてからかなりの時間を要した。家屋が複数固まっていたため、その塊毎尋ねる必要があった。

 三つ目の塊村を訪ねた時、その家に辿り着くことが出来た。

 出てきた、女性、いや、少女と言っていいくらいの年令と思われる家人が、玄関のドアをノックすると勢いよく、返事と共に出てきた。

 調理道具を持ったまま、である。奥からは、年齢が経っているであろう、女性の声で、誰が来たのか彼女に訪ねていた、奥に向かい少女は便りを届けに来た旨を短く伝え、僕の方に向き直った。

 手紙を受取り、暫くその手紙の表裏を交互に見返してそして、手に持っていた、調理器具を手元から滑り落ちるよう落とし、部屋の奥に走って消えていった。

 すると、消えていった部屋の奥から消えていった少女と、奥にいたであろう女性の声の、手紙の送り主の名であろう、その名を繰り返し繰り返し、呼んでいた。

 ここでも、少し落ち着くまで、待っていた。

 長い時間ではあるが、家族である時間はそれよりも長くそしてより深いものだ、暫く時を刻む掛け時計の秒針の音がその場を支配していた。

 その場を離れ、次の家へ出発する事が出来たのは、日が傾き砕かれた小さき月、大いなる月が顔を出した頃だった。


 愛する家族みんなへ

 坊やは、母上の言うことを聞いているだろうか、お嬢も母上の言いつけを守り、母上のような立派な女性になって下さい。坊やは、その家ではたった一人の男の子だ、家族を、女性を皆を守るのは坊やしかいない。父はもしかしたらそこに■■■■『不適切表現の為削除』

 かもしれない、だが、父はいつでも君たち家族の傍にいるから、安心してほしい。それに私━━━━『以下文字制限の為削除』


 立派な家屋と言うのが率直な感想だった、門構えと言い、玄関から見える庭とか、玄関入り口に、飾ってある品々がその家風を漂わせていた。

 玄関の上がりに、そこの家の御婦人だろう女性と、幼い少女そして、利発そうな、少年と呼ぶにはまだ幼く。

 幼児とまでは幼くない、そんな男の子が揃えて、手紙の配達を労う言葉を口上と共に堂々と発していた。

 届けたこちらも背筋が伸びるような凛とした対応に、少し戸惑ってしまった、その家族から、出征しているであろう、送り主の手紙を夫人に手渡し、受取帳にサインをもらうと、短い挨拶を交わしその家を後にした。


 空を見上げると、空一杯に大いなる月が小さき月の残骸をその身に巻きつけていた。


 残された者は、女、子供。


 ここは、海岸線の少し内陸側に入った、今は小高い丘の広い畑が青々と作物が実っている、実りの季節になり穂が黄金色になる頃。


 小さき月、大いなる月、それが重なり合いその力は大いなる力をもたらしていた。

 そう、いた。過去形である。


 この大戦で小さき月が砕け、この世界と大いなる月の輪となり。

 世界が終わりを告げ、ただ、静かにこの世界の幕をとじるため、粛々と日々を折り重ねていくしかなかった。

 だが絶望より、愛するものと、残された日々をかけがえのないものとするため、残った力を集めるため。

 残された人々はあることを希望とした。


 これは、そんなありふれた小さな小さな家族の物語。


 それは。



この物語にお付き合い下されば、幸甚に存じます。よろしくお願いいたします。

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