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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星カティアスの誕生
9/22

第8話 「王都フルトエア―教会偏・魔道神鳥の藍爆誕―」

やっと惑星エムラにやってきたぼくたちは、早速王都フルトエアを見学することにしたんだけど…。実際に王都内を見学したのは半日程度だったんだけど、本当にイベント盛り沢山な一日になったよ。

一番驚いたのは、惑星エムラに来た初日に新しい家族が増えたことかな。親が子の世話を託してどっか行っちゃったの。あれは、うん、驚いた。

色々と経験しながら楽しみたいと思っているよ。

 王都フルトエア見学に当たり、警護及び案内役としてエムラ公爵家、王都騎士団長のウィルヘルム、数名の騎士と、女性騎士リーが付き添いに名乗りを上げた。

 女性騎士リーは平民出身のため名字はない。女性としては背が高く、赤毛でちょっと癖のある髪を後ろできっちりと縛り、細身ながら訓練で鍛えた体が騎士団の制服をより格好良く見せている。年齢は20歳代前半といった感じだろうか。


 「創造神様より、衣料品店や小物用品店などを中心に回り、ルウィージェス様には、学校近辺のスウィーツ店を紹介するよう申し使っております。」

 ウィルヘルム騎士団長の前に二名の騎士が先行し、騎士団長ウィルヘルムはルウィージェスの横に付いた。

 「それから、」ウィルヘルムが続けた。

「外では創造神様を公爵閣下と呼んでおります。」

ウィルヘルムが小声で言った。

 「エムラカディア姉さまがこの惑星の創造神だって知っているのは、家の人たちだけなの?」

ルウィージェスもつられて小声でウィルヘルムに聞いた。

「いえ、リリーエムラ公爵家に仕えている者以外で、エムラカディア様が創造神と知っているのは、この国、テューゲンリン王国では国王と王族の一部と宰相、元老院(セナト)など、上層部の者たちに限られておりますが若干名(じゃっかんめい)おります。また、惑星と同じ『エムラ』を(かん)するのはリリーエムラ公爵家のみで、王侯貴族の間では『不可侵家(ふかしんけ)』と呼ばれております。」

「不可侵家?なにそれ?」

ルウィージェスがキョトンとした顔で聞いた。

「惑星と同じ『エムラ』の名を戴く(いただく)事が出来るという事は、創造神と何らかの関係があると思われており、公爵閣下の素性を知っている者以外の王侯貴族(おうこうきぞく)では、リリーエムラ家は創造神の血脈であり、創造神の子孫である、と考えられています。そこから『絶対に手を出してはいけない』とか『リリーエムラ公爵家に楯突くことは神の怒りに触れる行為』という意味を込めて『不可侵家』といつしか呼ばれるようになりました。」

「へぇ~。」

くすっとルウィージェスが微笑んだ。

「もともと神族は惑星の住民とは深く関わる事ができないから、そういう意味では、すごく助かっているよね、それ。」

「そうですね。」

カリンも苦笑しながら答えた。

「それでは、エムラカディア様のお名前も知られている、という事でしょうか?」

カリンが聞いた。

「いえ、創造神様のお名前自体は知られておりません。ただ、惑星の命名は創造神様が行っていると、我々は子どもの頃から聞かされ育ちます。絵本にもなっているので、創造神様が解放した情報なのでは、と考えております。」


 騎士団長ウィルヘルムの話を聞きながら歩いていると、惑星エムラに降臨した時の場所、衛兵詰め所に着いた。

 騎士団長ウィルヘルムが衛兵詰め所で用事を済ませている間に、改めて周りの景色を見たルウィージェスは、より木が密集して立ち並んでいる奥に、白い尖った屋根を見つけた。

 降臨した時は気付かなかったが、白い屋根の方から流れてくる風に微量だが神気が含まれていた。

 「カリン、これって、すごい微量だけど、神気だよね?」

カリンはルウィージェスに言われ、改めて気を張り巡らせると、本当に微量だが、確かに神気を感じた。

「これは、確かに神気ですね。」

 カリンの少し後ろにいた女性騎士リーが二人の会話に気付いた。

「あ、あの白い尖った屋根ですね?あれは、創造神様を(まつ)る教会です。」

ルウィージェスとカリンは驚き、リーを見た。

「教会?エムラカディア姉さまは宗教の象徴なの?」

「いえいえ、」

リーは両手を顔の前で左右に振り否定し、いったん言葉を切り、言葉を選びながら話し始めた。

「テューゲンリン王国では、国教(こっきょう)を定めておりません。個人が敬う対象を『神』として(あが)めることが宗教心という事になっています。例えば、農家の場合は、緑の精霊や水の精霊たちの助けが生活に直結するので、木の精霊ドリュアスと木の精ドライアド、森の精霊エント、水の精霊ウンディーネと水の精ルサールカ、空気の精霊エアリアルと空気の精アリエルや、土の精霊ノームと土の精ピグミーなどを(まつ)る教会を立て、感謝を伝える場としています。創造神様の場合は、そもそも創造神様がこの惑星を創って下さらなければ、我々は存在していないので、この惑星自体に感謝する場として、創造神様の神殿が立てられています。おそらく、どの国にも首都に創造神様の教会が立てられていると思います。」

「なるほど…。」

ルウィージェスは、3番目の姉のアフロディアを思い浮かべていた。

(うやま)う相手って、必ず生活に直結してないとダメなの?」

「いえ、そういうわけではありませんよ。女性の場合は出産という大きな役割があるので、生まれてくる生命を守って欲しいと願う場所、出産の神を祀る教会もございます。」

「恋愛神の教会ってある?」

「え~、勿論ございます。ただ、恋愛神に願う人たちの平均年齢は基本的に低く若いので、他の教会ほど立派な建物としては存在しておりません。王都では、雑貨店や小さな飲食店など、学生が多く集まる場所に店のオーナーの意向や協力などで小さな祭壇などを設置して、祈りの場としている所がほとんどです。規模は小さいですが、数として一番多いのは、恋愛神への祈りの場かもしれません。」

 ちょうどウィルヘルム騎士団長が衛兵詰め所から戻ってきた。リーから説明を受けたウィルヘルム騎士団長がルウィージェスたちに聞いた。

「もしご興味がおありでしたら、我々が(あが)める武神様の教会や創造神様の教会までご案内いたしますが、」

「武神の教会!興味あります。行ってみたいです。姉さまの教会も。あと、恋愛神の祈りの場もちょっと見てみたい。」

 ウィルヘルムはエムラカディアから聞いたルウィージェスの年齢を思い出していた。

「恋愛神様にご興味があるのですか?」

 ウィルヘルムはあくまでも、神族でも恋愛とかに興味持つのか、と思って聞いただけだったのだが、

「ぼくの3番目の姉が恋愛神だから、アフロディア姉さまが認める祈りの場に興味があって。」

 ウィルヘルムとリーは、無邪気なルウィージェスの言葉に固まってしまった。しかし、それに気づかないルウィージェスは続けた。

「アフロディア姉さまは恋愛神だけど、出産の神でもあるから、同じ場所でもいいのにね。あ、ジュノカディア姉さまも出産の神でもあるか。恋愛神はアフロディア姉さまだけだから、それで教会が別になっているのかな?」

 前後を警備している騎士たちも、ルウィージェスの話に思わず聞き耳を立てる。

 「ルウィージェス様には、公爵閣下以外にもご兄姉がいらっしゃったのですね。」

 ウィルヘルムとリーは、エムラカディアからも聞いた事のない話に、畏怖よりも興味の方が先に立った。

「ぼくは、兄二人と姉三人がいる6番目の末っ子なんだ。」

 ウィルヘルム、リーと他の騎士団員たちは、初めてルウィージェスを見た時、エムラカディアとは随分年が離れているな、と思ったが、間に四人もの兄弟がいると知り、驚きとともに、意外に感じた。

 「恋愛神様が出産の神様を兼任(けんにん)している事にも驚きましたが、他にも出産の神様がいるとは、初めて聞きました。」

「一番上のソフィアテリビス兄さまとエムラカディア姉さまは中級神だけど、創造神という大きな役割があるから他の神を兼任していなくてね。2番目と3番目の姉は創造神ではない中級神だから、複数の神を兼任しているの。出産とか治療とか、庇護(ひご)対象者が多い場合は、複数の中級神がすることで漏れを防いでいるんだってさ。」

 ウィルヘルムは自身が一番敬っている武神についてルウィージェスに聞いた。

「武神は下級神だから他は兼任していないよ。その代わり、一つの技術に特化しているでしょう?」

「それでは、」リーが聞いた。

「普段、我々は『武神』として崇めておりますが、技術別に祈りの場を設けた方がよろしいのでしょうか?」

「ん~、武神の場合、長剣だけ、短剣だけってまずないよね?争いごとになれば、盾だって使うだろうし、それこそ馬にだって乗るから馬術が不可欠だし。だから、現状通り『武神』というか『武系神』として祈りの場を設ければいいと思うよ。農業だって複数の精霊を『農業神』として祀っているでしょう?」

 それで、今まで神々からの怒り、受けたことないでしょう?とルウィージェスは笑いながら言った。

 「だいたい師匠たち、そういう細かいことを気にするようなタイプじゃないし。」

 ウィルヘルムは思わず立ち止まりルウィージェスに聞いた。

「武神様方を直接ご存じなのですか?師匠とは?」

「あ、エムラカディア姉さまは言っていなかったんだね。ぼくが降臨するに当たり、色々な場所に行って、様々な魔道生物を見る必要があるから、自分の身は自分で守れるように、直接武神7柱に稽古をつけてもらっていたんだ。武神ヴァハグン、武神・馬術神スヴェントヴィト、長剣・短剣神ベス、槍神ララン、盾の神・弓神ウル、狩猟の神・弓神アナト、武芸の神スカアハ。この7柱がぼくの師匠なの。」

 ウィルヘルム、リーと他の騎士団員たちは、普段自分たちが敬い祀っている神々の名に興奮し、少しその場が騒がしくなった。

 ウィルヘルム騎士団長に街の巡回(じゅんかい)の強化を依頼された衛兵たちも、騎士たちのざわめきに興味はあったが、中心にいる子どもの服装が非常に質の良い貴族の平服の為、リリーエムラ公爵の弟と分かる。近づくのは躊躇(ためら)われた。


 衛兵の一人がウィルヘルム騎士団長に近づき言葉を交わし、数名ずつ班に分け、街の中へ消えていった。

「それでは、初めに創造神様の教会に行きましょう。」

 ウィルヘルムの言葉に、ルウィージェスの周りに集まっていた騎士たちは元の位置に戻り、創造神の教会へと向かい移動を開始した。


 エムラカディアを祀る教会は、中央に大きな神殿があり、その左右に渡り廊下で繋がった建物が複数あった。中央神殿を前に見て左側の少し大きめな建物の入り口に「子どもたちの家」と書いてあった。孤児院も併設されているようだ。孤児院の前には小さな露店があり、孤児院で作っている物を販売していた。売り子として数人の子どもたちがおり、教会の帰りだろうか、数人が露店前で品物を見ていた。

 道路から教会への道筋の途中に大きな噴水が設置されており、その噴水から複数の水路が張り巡らされ、敷地内にある花壇や畑に繋がっている。


 ルウィージェスは噴水に集まる複数の鳥に気を取られていた為に気付くのが遅くなったが、一人の男性が中央神殿から出てきた。

 「ようこそお越しくださいました、ルウィージェス様、カリン様。私は創造神様の神殿で大司教を務めておりますギュンター・フォン・クラウゼンと申します。」

「ありがとう、ギュンター大司教。ルウィージェス・フォン・リリーエムラです。突然の訪問、申し訳なく。」

「とんでもございません。我々にとって、創造神様に縁のあるリリーエムラ公爵家の方にお越しいただくことは、大変名誉なことでございます。」

 その言葉で、教会の者はエムラカディアが創造神であることを知らないことを知った。

 「さ、どうぞお入りください。教皇と枢機卿(すうききょう)がお待ちです。」

 大司教の案内で神殿に入ろうとしたところ、噴水から一羽の鳥が飛んできて、ルウィージェスの頭の上に止まった。

 慌てた大司教が鳥を追い払おうとしたが、ルウィージェスがそれを止めた。

 ルウィージェスは頭に止まった鳥を指へ移動させ、目の前に持ってきた。

 鳥は逃げなかった。

 魔道生物の鳥、通称魔鳥であるのは分かったが、ルウィージェスが驚いたのは、その鳥が保有する魔力量だ。噴水に複数の魔鳥がいるが、この鳥ほどの魔力を保有している魔鳥はいない。

 長い尾が2つあり、尾の先がラケットのような形になっている青い鳥だった。じーっとルウィージェスを見つめていた。ルウィージェスも驚かさないよう、指を動かさないようにし、小さな声で話しかけた。

 「こんにちは。小鳥さん。ぼくはルウィージェス。」

 魔鳥は逃げもせず、何かを確認するように、じっとルウィージェスを見ていた。

「ぴゅーぴゅーぴゅー、ぴゅいーぴゅいー」

「あ、わかる?そうだよ。こんにちは~。」

ルウィージェスには鳥の言葉が分かったようだ。

「君は魔道生物だね。オナガラケットハチドリのメスかな?街中にも魔道生物が普通にいるんだね。」

 ルウィージェスの言葉に大司教が驚き、まじまじと小鳥を見た。

「魔道生物というのは、魔物とはまた異なる生物なのでしょうか?」

 ルウィージェスが苦笑しながら答えた。

「魔道生物という名称が、いつの間にか『魔物』と略させて呼ばれるようになっているだけですよ。」

「なんと!さすがリリーエムラ公爵家ですな。勉強になりました。」

「オナガラケットハチドリには、魔道生物と普通の鳥の二種類がいてね。魔道生物の方は青い単色で、普通の方は緑を基調にした二色、三色とよりカラフルなんですよ。」

「それは、初めて知りました!」

 リーも、まじまじと小鳥を見ながら言った。


 「ぴゅーぴゅーぴぴぴ」

 小鳥はルウィージェスの頭の上に移動し、もそもそと安定する場所を探すしぐさをすると、完全に座り込んでしまった。

「何してんの?」

ルウィージェスが聞くと、「ぴぃー(動かないで)」と鳴くと、体をぷるぷるとしだした。力んでいるようだ。

「ぴゅ~ぴぃ~(できた)」

 小鳥は立ち上がると足で何かを掴むと、ルウィージェスの前に来て「ぴゅ~(手を出して)」と鳴いた。ルウィージェスが手を出すと、その上に何かを置いた。

「ん?これ、卵?」

「ぴゅーぴゅい、ぴゅ、ぴゅーぴゅー(卵に力を送って)」

「力?こんな感じでいい?」

ルウィージェスは卵を包むように手を閉じ、神力を注いだ。そしてゆっくりと手を開くと、そこには、同じく尾の先がラケットの形をした2本の尾を持つ小さな青い鳥が卵から孵っていた。

「ぴ、ぴ、ぴ」

「うわ、ちっさい!」

「ぴゅーぴゅー、ぴゅいー(よろしく~)」

そう言うと、親鳥はどこかへ飛んで行った。

「え?ぼくが育てるの?」

思わぬ展開にルウィージェスも固まる。手のひらには小さな命。じーとルウィージェスを見つめている。

「君の親に君を託されたんだけど、うち、くる?」

「ぴぴ、ぴぴ」

ヒナは小さな羽根をパタパタさせ、ルウィージェスの手に顔をスリスリした。

「じゃ、名前、名前は…ランにしよう。」

(ラン)と命名されたヒナは、まだ飛べないのか、ぴょんぴょん跳ねながらルウィージェスの肩に移動し、自分の位置を確保した。


 ルウィージェスの横にいたウィルヘルムは少し下がり、小声でカリンに聞いた。

「カリン様、ルウィージェス様って上級神ですよね?」

「ええ、そうです。」

「上級神に卵を孵化させて子育てを依頼するって、すごいことですよね?」

「私も、どうしたら良いのか、正直、判断できずにいると言いますか。まぁ、最終的にはルウィージェス様が了承しているなら構わないのでしょうけど、正直、驚いています。」

「ですよね?すごい場面に出くわした、という事ですよね?」

「すごすぎる場面に出くわしたかと。」

「やはり、魔物はルウィージェス様に懐くんですね。」

リーも驚きを隠せずにいた。

「知能が高い魔物は、ルウィージェス様に従うと思います。ルウィージェス様は、魔道生命の創造神ですからね。」

 ルウィージェスの正体を知っている三人は苦笑するしかなかった。


 「ギュンター大司教、そういうわけで、ランが家族になったので、一緒にいいですか?」

一連の流れを見ていたギュンター大司教は、ルウィージェスの言葉に我に返った。

「あ、はい、勿論でございます。」

――――これが、不可侵家の力なのか…。

 ギュンター大司教は、魔物と普通に会話し接する姿を見て、そして、卵に送ったと思われる力から全く魔力を感じず、魔力以外の力を使うと思われるルウィージェスに、畏怖(いふ)の念を抱いた。


 まだルウィージェスはステータスを確認するという習慣がなかった為、全く(ラン)のステータスを確認せず、知らずに流してしまったが、魔道生物の卵を神力で孵したことによって、(ラン)の潜在能力はSランクをはるかに超えるレジェンド級にまでなり、扱う魔力は純粋な魔力になり、放つ魔術の威力も桁違いの威力になり、寿命も延び、属性は守護神の『魔道神鳥』になっていた。


 ギュンター大司教の案内で神殿の中へ入っていくと、多くの人たちが長椅子に腰掛けたり、輪になって話し合っていたりと、かなり自由にしていた。それでいて、非常に静かな空間だった。静かではあるが、(おごそ)かな雰囲気ではない。格式の高さを感じながらも温かみを感じる、居心地の良い雰囲気だった。

 奥には女性像があった。エムラカディアとは似ても似つかぬ別人だが、創造神が女神であることは知られているようだ。

 ギュンター大司教は女神像の前まで来ると一礼し、左側にある扉を開け、さらに奥へ案内した。


 ひと際豪華な扉の前まで来ると、衛兵が二人いた。

 一人の衛兵は扉の中へ入り、もう一人は衛兵がギュンター大司教に深くお辞儀をすると、ルウィージェスの方を向いた。しかし、頭は上げない。まるで顔を見たら失礼に当たると思っているような仕草だった。

 「リリーエムラ公爵のご令弟、ルウィージェス様とお連れの方々、ようこそお越しくださいました。どうぞ、教皇と枢機卿(すうききょう)がお待ちでございます。」


 部屋にはルウィージェスとカリン、騎士団長ウィルヘルムとリーが入り、他の騎士は扉の前で待機となった。(ラン)はルウィージェスの左肩の上に大人しくしている。

 部屋に入ると、男性が二人立っていた。

「リリーエムラ公爵ご令弟、ルウィージェス様、ようこそお越しくださいました。私は、テューゲンリン王国の創造神様教会の代表を務めております、教皇カスパル・フォン・ヴェーバーと申します。隣におりますのが、枢機卿の一人アデルバート・フォン・シュミットでございます。」

「枢機卿アデルバート・フォン・シュミットでございます。他4名の枢機卿がおりますが、他の教会に出向いております。恐縮ではございますが、私が枢機卿代表として挨拶申し上げます。」

 二人はルウィージェスに深々と頭を下げ挨拶をした。

 「ルウィージェス・フォン・リリーエムラです。突然の訪問にも関わらず、ありがとうございます。」

「とんでもございません。リリーエムラ公爵家の方の訪問は我々にとって誉れにございます。」

と言いながらも、二人の視線はルウィージェスの左肩に止まっている(ラン)をチラチラとみている。

「あ、この子はランと言います。先ほど、噴水のところで親鳥がぼくに卵を託してきまして。孵化させたら家族になりました。」

「え?」

思わぬ話に二人して驚いたが、ルウィージェスに気にしないでください、と言われた為、それ以上、(ラン)に関しては追及しなかった。


 教皇がルウィージェスの前に座り、ルウィージェス一人がソファーに座り、その後ろに、カリン、ウィルヘルム、リーの三人が立った。枢機卿は席を外した。

 教皇は教会の歴史から話し始めた。

 この教会は、テューゲンリン王国創立と同時に建てられ、王国の中では王城と並ぶ古い歴史がある事、神殿を前に左側に孤児院、右側に医療院があり、ヒールの使い手による治療はもちろん、薬草から創薬・ポーションの製作も行っているとの事。また、教会設立の時からある『聖石(ひじりせき)』と呼ばれる結晶石(けっしょうせき)を通る水には癒しの力があるため、「聖水」として使用している事。教会の裏の方には、孤児たちの学び舎と工場(こうば)が複数あり、そこは孤児たちの職業訓練も兼ねているとの事。孤児たちに教育を与え、手に職を付けさせ、成人となり孤児院を卒業後も路頭に迷わないようにしているとの事。そしてそれらにかかる費用は寄付金と支援金で賄われているとの事。教会の収入源は、教会への寄付金以外に、王国からの支援金もあるが、リリーエムラ公爵家からの支援が一番大きい事など、一通り教会についての説明がなされた。


 「工場(こうば)では装飾品(そうしょくひん)の製作も行われており、教会全体の収益としては寄付金を除けば一番大きく、また、ここで技術を磨いた子どもたち、高いデザイン力を持つ子たちが、より良い条件で就職が叶うなど、本当に助かっております。そして、その装飾品のための宝石を寄付してくださっているのが、公爵閣下でございます。」

教皇は静かに語った。

 

 ルウィージェスには、宝石の出所に心当たりがあった。というのも、ルウィージェスの父、ラティファルスの兄の系列に地下鉱物生成の権能を持つ神がおり、その神によって、神界の実家の敷地内の地下には様々な鉱脈が縦横無尽(じゅうおうむじん)に形成されているのだ。

 そして、ルウィージェスも地下鉱物の権限を持っており、幼少の頃には意味も分からず『きれいな石』を作って遊んでいた。

 ――――全然お金、かけてない…。

 エムラカディアのちゃっかりした一面を知ったルウィージェスは苦笑するしかなかった。

第8話は、惑星エムラに降臨した初日です。今回は、テューゲンリン王国における宗教観の回です。人の営みには宗教は不可欠ですからね。

今回突然親鳥に卵、孵化、子育てを依頼されたルウィージェスですが、まだ魔力回路を開封していなかった為、何も考えずに普通に神力で卵を孵化させてしまいました。その結果、とんでもない幼鳥が爆誕いたしました。らんと名付けられたこの小鳥は、今後、ずっとルウィージェスと一緒に過ごします。

ルウィージェスと共に成長していく藍もよろしくお願いいたしますね。


次の第9話は、王都フルトエア―恋愛神偏―です。お楽しみに♪


第一章第9話は、9月19日(金)20:00公開予定です。


また、お会いできるのを楽しみにしております。


月つき 千颯ちはや 拝

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