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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星カティアスの誕生
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第6話 「惑星エムラへの旅立ち」

とうとう惑星エムラに降臨することになりました! すごく、本当にドキドキしている。

惑星エムラの特徴は動物と魔道生物の種類が豊富なんだって。姉さまが言ってた。なんでも、冒険者という職業の人たちが多い方が物流が豊かになるから、街が発展しやすいんだって。その代わりに、ちょっと治安の問題が起こりやすいらしいけど、そこは衛兵の数を増やすことで対応しているんだって。

冒険者という職業は、最低年齢は決まっているけれど、出生などに関係なく就くことが出来る職業だから、より多くの人たちが職業に就くことが出来るようになる、すなわち、無職による治安の悪化を減らすことが出来る、という事らしい。

その甲斐あって、非常に物が豊富な国が多くなったそうだ。そりゃ、問題も多々あるらしいけど。

怪我とかで冒険者家業が出来なくなった人たちへのサポートも充実させるようにかんばっているらしい。


姉さまに、一番大変なことは何?と聞いたら、地上の維持には神託が非常に大切だから、神託を受ける人たちの選定が一番大変なんだって。


でもその前に、連絡ゲートのシステムがものすごく立派で驚いた!

カードをかざすだけで、ドアの向こうが変わるの!

どういう術式が組まれているんだろう?

 惑星エムラへの留学に向けての準備が本格的に始まった。

 習得スキル系のステータスは、素質→資質→習熟(しゅうじゅく)熟達(じゅくたつ)へ、その成長に合わせて昇格していく。


 武系7柱による訓練の成果は、まず、ルウィージェスのスキルに「武術の素質」が付き、その後、「武術の資質」へ進化した。身長のせいか、長剣術・短剣術、弓術と比較すると、馬術、槍術の成長は少し遅く、長剣術・短剣術、弓術は「素質」から「資質」へ短期間で成長したが、馬術、槍術はまだ「素質」のままだ。

 とはいえ、1年未満の修練で「素質」が付くのはそう簡単ではなく、さらにもう一段階上の「資質」にまで昇格するには、かなり努力しないと(かな)わない。

 どんどん技術を吸収・習得し成長するルウィージェスに7柱は喜び、時間が過ぎてしまう事も多々あったが、ルウィージェスも、自分の動きがどんどん良くなり、師匠たちの技についていけるようになるため、楽しく夢中になった。やはり、自分の成長を感じることは楽しい。武神7柱による訓練は大変だが、本当に楽しく、充実した時間だった。

 専属メイドのカリンもルウィージェスと共に惑星へ降り立つため、護身及び警護目的に、同じく7柱から訓練を受けることとなった。本人の努力もあり、「武術の素質」があっという間に「武術の資質」まで進化し、弓術、馬術、槍術に「資質」が付き、その後、長剣・短剣に至っては「習熟(しゅうじゅく)」にまでになった。同時に「武術の習熟」を取得した。

 学生の時に剣術を学んではいたが、カリンは強い神術が使えたため、専門科では神術を先行していた。そのため、ここまで本格的に剣術を学ぶのは初めてだった。


「カリンは、武神に昇格できるかもしれんな。」

ある日、長剣・短剣神の男神ベスが言った。

「うむ、確かに。技術の伸び方のバランスが非常に良い。」

盾・弓神の男神ウルも、カリンの訓練する姿を見ながら(うなず)いた。

 今、カリンは武芸の神の女神スカアハ相手に模擬戦(もぎせん)中だ。

「ルウィージェス様の卒業も、もう間近だ。ルウィージェス様はまだまだ幼体だから、接近戦よりかは、後方支援術の習得に重点を置く事にしよう。カリンはもう、接近戦の充実と仕上げに入った方が良いだろうな。惑星に降り立つまで残り(わず)かだ。」

「同感だ。残りの時間は技術だけでなく、戦術全般の知恵を(さず)けた方が良いだろう。」

武神の男神ヴァハグンの言葉に、長剣・短剣神ウルも頷く。


 ルウィージェスたちが惑星に降り立った後も、訓練のためなら下級神7柱も降臨できるが、実践には一切参加できない。カリンは、世界創造神の許可によりルウィージェスと行動を共にするが、惑星の生命体殺生(せっしょう)目的に神術を使うことはできない。

 その為、7柱はカリンに技術だけでなく戦術の知識も伝授(でんじゅ)したいと考えていた。

 惑星での実践では、カリンが軍師として采配(さいはい)する必要がある。

 最終的な決定権はルウィージェスにあるが、様々な経験値の違いから、ルウィージェスに適切な意見・提案するのはカリンの役目となる。

 武神ヴァハグンは軍術の権能。短期間でカリンに知識を叩き込む。

 腕の見せ所である。


 「準備は出来ていますか?」

惑星エムラの創造神、姉のエムラカディアが聞いた。

 今日は、ルウィージェスとカリンが惑星エムラに降り立つ日だ。

 ルウィージェスは無事に基礎科を卒業し、専門科へ進学。専門科での予定表を提出し、学校から留学許可証と履修記録カードがようやく発行された。

 リビングには2兄3姉も全員揃っている。

 ルウィージェスもカリンも、荷物はすべてアイテムボックスに入れてあるため、世界創造神から発行された惑星エムラへの降臨許可証と、ルウィージェスは留学許可証を手にしているのみだ。

 降臨許可証とルウィージェスの留学許可証は、神界・天界双方の共通の連絡ゲートで必要になる。地球で言うところの空港の出入国管理局に相当する。


 神族とは言え、自由勝手に惑星へ降り立つことはできない。

 神族の場合、例え下級神であっても、惑星の生命体への影響力は大きく、その神族の属性によっては、たまたま出くわした生命体の性質を変えてしまう恐れものだ。その為、相応の理由がない限り、惑星への立ち入りを厳しく管理している。

 また、ルウィージェスのような幼体が天界・神界を出ること自体、本来はあり得ない為、ルウィージェスは世界創造神からの降臨許可証の他に、留学許可証の提出も不可欠なのだ。


 エムラカディアが転移ゲートを開いた。ゲートの向こうには連絡ゲートが見える。

「それでは、父上、母上、兄さま方、姉さま方、行ってきます。」

ルウィージェスはそう挨拶し、父と母に長めのハグをし、2兄と2番目と3番目の姉にもハグをした。カリンは全員に深々と頭を下げた。

「絶対に無理、無茶はしないようにね。」と母ミナーヴァ。

「エムラカディア、カリン、ルウィージェスを頼む。」

父ラティファルスはルウィージェスの頭をなでながら、保護者二人に言った。

「は!」

 カリンは右足を引き、右手を胸に添え、軽く会釈する。地球のボウ・アンド・スクレープに近いが、左手は横方向へ差し出さず、真っすぐ体に沿わせておく。男女問わず、武系においてはこれが、神界の正式なお辞儀だ。


 連絡ゲートに行き、エムラカティアが門番に挨拶をした。エムラカティアは惑星創造神として、このゲートを頻繁(ひんぱん)に行き来しているため、門番とも顔見知りだった。

 「惑星エムラ創造神様、世界創造神様から連絡を受けております。」

門番がそう言うと近くにいた人に声をかけ、三人を奥へと案内した。

 銀行の窓口の様な受付が5つあり、それなりの行列が出来ていたが、門番はその横を通り、複数あるドアのある部屋を一つ開け、三人を中へ通した。

 「どうぞお掛け下さい。」

ルウィージェスを真ん中に三人は勧められたソファーへ座った。

 入ってきたドアとは異なる、部屋の奥にあるドアが開き、一人の男性が入ってきて、反対側のソファーの前に立ち挨拶をした。

「私は、この連絡ゲートの管理者のフレデリックと申します。世界創造神様より、本日、ルウィージェス様が惑星エムラへ留学に行かれると連絡を頂いております。」

そうフレデリックは挨拶すると、ルウィージェスとカリンに、降臨許可証と留学許可証の提出を求め、二人に説明を始めた。


 「ルウィージェス様もカリン殿も、惑星エムラと連絡ゲートの行き来に関しては無制限となります。期限はルウィージェス様の留学終了まで。ところで、ルウィージェス様は、お一人で連絡ゲートを出入りする予定はございますか?」

「とは?」と聞いたのはエムラカティア。

「はい、惑星エムラ創造神様。(わたくし)といたしましても、職員に対し、ルウィージェス様がお一人で通る事もあると周知・教育しておく所存ですが、ここにはご尊顔を拝見する機会のない者も多く、許可証を確認する前に、ルウィージェス様に対し無礼を働いてしまう危険がございます。その為、もしお一人で通る予定がございましたら、何か、許可証を拝見する前にルウィージェス様と判断できるような物などを決めておいて頂けましたら、と愚考(ぐこう)いたしました。」

「ふむ、」とエムラカティア。


 フレデリックの懸念はもっともである。

 フレデリックは、管理者である時点で下級神。しかし、他の役職のない従業員は、ほぼ従属神。天界に住む従属神は、カリンのように特別な許可がない限りは神界には入れない為、神界に住む神々の顔を知る機会はない。

 また、このゲートの管理者に任命されたということは、フレデリックは神気の識別能力を有している。

 どんなに神術で姿かたちを変えようと、神気だけは変えることができない。地球でいうところの指紋や耳紋のようなものだ。

 間違いなく、ルウィージェスの神気が世界創造神のものと同じであること、そして、ルウィージェスが普通の上級神ではなく、その存在には世界創造神が深く関わっていることに気付いている。

 自分がフレデリックの立場なら、同じように部下の不手際を未然に防ぎたいと思うだろう。

 エムラカディアは理解を示した。


 この連絡ゲートは下界へ繋がる唯一の入り口。不法に下界に降りようとする不届きもの者も多い。見かけが幼く見える者も多い。そもそも従属神を含む神族には年齢はあってないようなもの。見かけだけでは年齢の判断はできないため、「幼体に見える」=ルウィージェスの可能性、とするわけにはいかない。


 「ルウィージェス、上級神専用のマントは持ってきているかい?」

「はい、あります。」

そう言いながら、アイテムボックスから基礎科卒業祝いとして世界創造神から拝領したマントを取り出した。

 総ミスリル織のアクアグリーンとシルバーホワイトのリバーシブル。首元の留め具には上級神のみに許されているカサブランカが掘られている。カサブランカはアズライトの深く鮮やかな青色で縁取られている。

「そ、それは…、」

フレデリックは息を飲んだ。

「世界創造神から賜った上級神専用のマントだ。これは、錬金術神と蜘蛛の女神アトラクとの共同研究中の生地で織られていて、まだ一般には出回っていない。ルウィージェスはまだ幼体で、体力も我々成体とは全く異なるため、軽さと防御に特化した特製品だ。」

そうエムラカディアは説明すると、ルウィージェスに着用するように言った。

 シルバーホワイトの方を上にしてマントを羽織った。とても軽く風になびくが、大きく広がることなく、激しい動きをしても、その動きを妨げない加工がされているようだ。

「見てのとおり、この生地は普通の絹とも見た目が全く異なる。」

エムラカディアはフレデリックにマントの端を近づけた。

「私が触れてもよろしいのですか?」

フレデリックが恐る恐る聞く。

「大丈夫ですよ。」とルウィージェス。

 フレデリックは緊張しながらマントの生地を軽くつまんだ。

「しっかりした素材なのに、なんとも柔らかい!それに、本当に軽いです。」

「この生地は開発中だから、まだ世界創造神とほんの一部の神族しか持っていない。見た目も他の生地とは全く異なるし、留め具のこの花は上級神しか身に着けることが出来ない。これなら、貴殿も部下に説明しやすいし、最低限、この色のマントとこの留め具にさえ気付くことが出来れば、大きな事故は避けられるだろう。」

 フレデリックが、遠慮がちに二人に聞いた。

「ここに副管理者のブルグリンデを呼んでもよろしいでしょうか。彼女にも実際にルウィージェス様のマントと留め具を覚えて欲しいと思いまして。」

「もちろんです。」

エムラカディアもルウィージェスも反対する理由はない。


 数分後、フレデリックの後ろから似たような制服を着た女性が入ってきた。

「惑星エムラ創造神様、ルウィージェス様、初めてお目にかかります。連絡ゲート副管理者のブルグリンデと申します。」

 フレデリックから簡単な経緯の説明を受けたブルグリンデにルウィージェスは言った。

「実際に触ってみて。」

「ありがとうございます。失礼いたします。」

 部屋に入ってきた時のブルグリンデは下を向いており、ものすごく緊張した様子だった。しかし、フレデリックから説明を受け、改めてルウィージェスのマントを見た時、慌てて手を口元にあて、声を出すのを堪えていた。

 ブルグリンデにも、その生地が特別なものと一目でわかったようだ。

 ルウィージェスが持ち上げたマントの端を恐る恐る触った。

 その瞬間、ブルグリンデが息を飲んだ。

「す、すごい、柔らかい。それに、なんて軽い!それなのに、すごくしっかりとしています。しっかりとした布なのに滑らかで柔らかい。」

ブルグリンデは我を忘れ、マントの素材に見入っていた。

 フレデリックが声をかけ、ブルグリンデは我に返った。

「し、失礼いたしました!」

「別に大丈夫なのに。」

ルウィージェスは思わず噴き出した。


 ルウィージェスはフレデリックとブルグリンデに留め具を外して見せた。

「これがぼくの紋章です。この花は上級神用ですが、この色はぼくの色です。ぼくの基本色は、ぼくの髪の毛と同じく青系と緑系です。」

 青紫系のアリスブルーにところどころ軽い緑系のアクアマリンのメッシュの入った髪を引っ張りながら説明した。

 「この留め具は分かりやすい目印になりますね。」

ブルグリンデは初めて見る上級神用の紋章に魅入られていた。

 下級神にはその地位を示す紋章はない。下級神は特定の能力の管理者であるため、その属性を表す模様が紋章になっている。

 因みに、フレデリックとブルグリンデは連絡ゲートの管理者であるため、紋章である大きな門が描かれたバッジをつけている。

 

 今後、ルウィージェスがこの連絡ゲートを通る時は、シルバーホワイトの方を上にしてマントを羽織り、必ず上級神の紋章の入った留め具を装着することを確認しあった。

 そして、部屋を出てさらに奥へと進んだ。

 目の前には複数のドアと、その先には終わりの見えない雲海が広がっていた。

 各ドアの前にはタッチパネルのようなものが設置してある。

 フレデリックとブルグリンデの二人に、空いているドアへ案内された。

 「ここに降臨許可証を当ててください。許可されている惑星の連絡ゲートに繋がります。」

 フレデリックの説明に従い、ルウィージェスとカリンは降臨許可証をかざした。ピーと音がなった。

「はい、確認が取れました。」

 続いてエムラカディアも許可証をかざした。

「この惑星の創造神の姉さまも必ずするんだ。」

「そうよ、私も必ず惑星エムラの連絡ゲートを通るのよ。惑星の創造神といえ、例外はないよ。」

 エムラカディアがドアを開いた。

第6話は、ルウィージェスたちが降臨するために通る連絡ゲートという、地球でいうと、空港の出入国管理局に相当する場所での話です。

ここは、異なる世界に行くときには必ず通るところなので、今後もしょっちゅう出てきます。フレデリックとブルグリンデもちょこちょこ出てくる予定なので、覚えておいてくれると嬉しいです。


漸くここまで来ました。

カティアス誕生偏①~⑥までが、天界・神界の紹介編で、⑦話から、本格的にこの物語が動き出します。


次の第7話は、とうとう惑星エムラに降臨します。しばらくルウィージェスが過ごすことになる街です。

水が豊富な街の予定です。お楽しみに♪


現在は、夏休みイベント中。9月いっぱいまで毎週金曜日に配信いたします。

第一章第7話は、9月5日(金)20:00公開予定です。

夏休み期間中の配信予定日

09月05日第07話 「惑星エムラへ降臨」

09月12日第08話 「王都フルトエア―教会偏①―」

09月19日第09話 「王都フルトエア―教会偏②―」

09月26日第10話 「王都フルトエア―恋愛神偏―」

10月03日第11話 「不穏な足音」


また来週、お会いできるのを楽しみにしております。


(つき 千颯ちはや 拝

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