第5話 「魔法の練習のための準備」
立派な魔導王になるための修行に行く準備が本格的に始まることになりました。
新惑星カティアスに構築する魔素循環システムのための草案が世界創造神に認められたので、エムラカディア姉さまが創造神を務める惑星エムラに留学することになったし。
その為の準備として、武神たちから保身から攻撃に使える武術を学ぶ事になったし。
結構わくわくしています。
まさか、この年齢で降臨することになるとは。神生、何が起こるかわからないものだね~。
世界創造神は、ルウィージェスからの説明に納得し、その案を承諾した。
その後、ラティファルスとミナーヴァに視線を戻し、こう切り出した。
「どうだろう、ルウィージェスが16歳になったら、ソフィアテリビスかエムラカティアの惑星で魔法の練習をさせるというのは? 学校の授業も15歳で基礎科はほぼ終わって、16歳からは専門性の高い授業が主になる事だしな。」
いくら魔導王とはいえ、いきなり特殊な役割を持たせた大型魔道生物を創造することはできない。
まずは実際に魔素の豊富な環境で魔法の練習を始め、小さな魔道生物の創造の練習をしてはどうか、というわけだ。
神族学校には、天界にある学校と神界にある学校の2種類があり、下級神以上の神族は神界にある神族学校に通う。ルウィージェスの専属メイドのカリンは従属神のため、天界にある学校を卒業している。
神界の学校は基礎科5年、専門科前期10年、専門科後期20年の35年間システムで、天界の学校は基礎科5年、専門科が10年のみだ。
神族は、それぞれの成長に大きく幅があるため入学時期はバラバラで、基本的に文字の読み書きができるようになり、それなりの時間座って授業が受けられる状態にまで成長したら入学することになっている。
ルウィージェスは10歳で学園に入学したので、15歳まで座学で基礎科を学ぶ。
ルウィージェスは上級神で、惑星創造神ではないが、生命の創造が主な役割となる。しかも、魔素がある場所が活動の場となるため、専門科からは、既存の魔素のある惑星での学びが必要になる。
神族は魔力を持たないので、当然ながら神界学校のカリキュラムに魔法の時間はない。
よって、一人前の魔導王になるためには、魔法を使う世界で、その世界の魔法の基礎を学ぶ事が不可欠なのだ。
つまりルウィージェスの専門科前期は、実際に惑星に降りて学校に通い、その惑星の魔法の基礎を学び、その惑星における専門性を高める事が主体となるわけだ。
「え?ぼく、また学校に通うわけ?」
すっかり傍観者となっていたルウィージェスは、話が思わぬ方向に流れ始めたことにうろたえる。
「自然に頭の中に魔法の使い方が浮かぶ訳ではないからの。」
慌てるルウィージェスに苦笑しながら世界創造神は答えた。
「まぁ、そなたは属性が魔導王だから、一般の学生よりかは魔法の覚えも良いだろうし、習得も早いだろうから、10年間びっしり学校に通う必要はないとは思うがね。でも、大型の魔道生物の創造だけでもかなり高度な技術が必要なうえに、今回は、その大型魔道生物に特殊な技能を付与しなければならないから、習得までには、それなりの時間がかかると思った方が良いだろう。」
世界創造神は、あからさまにむくれるルウィージェスに優しく言葉を続けた。
「そなたの兄の惑星にも姉の惑星にも、冒険者という職業の者たちがおってな。彼らは、人々の生活を脅かす魔道生物退治などをしながら日々の糧を得て、文字通り冒険をしながら様々な場所を行く者たちでな。当然、魔法の勉強はとても大切だが、だからと言って10年間勉強だけせよ、というわけではない。休みの日や連休の時には、冒険の旅に行っても良いのだよ。もちろん、護衛は付けるがな。」
ルウィージェスが強い興味を示した。
「色々な場所を巡って、新しく創造する惑星カティアスにどのような魔素循環システムを構築したらよいか見て回るのも、立派な専門科の課外授業となると思うが、どうじゃ?」
大人しく話を聞いていたルウィージェスだったが、ここで一つ疑問が生じた。
「惑星創造をすぐに始めるわけではないのですか?」
「おお、そういえばルウィージェスにはまだ説明していなかったな。」
そもそも惑星の創造を始めてもすぐに新しい惑星ができるわけではない、ということ。
惑星の粗方の形が出来たら、ミナーヴァの兄の時空創造神のクロティノスによって時間を凝縮し進めて、惑星を形成する。その後、天地神ユビリスによって天地が固定され、生命の種が蒔かれると同時に雷神ジュターテスによって大気が安定し、生命の種から生命が誕生する。
その後、時空創造神のクロティノスもしくは、クロティノス代理を務める権限を持つ時間と空間の神ミナーヴァが惑星の時を進めて生命の進化を促す。
この時点になって初めて惑星に降臨できるようになる。
この間、惑星自体の時は億単位の時間が流れることになるが、天界・神界の時間ではほんの数年に相当する時間でしかないという。
「新しい惑星の準備が整うまでの間に大型の魔道生物の創造を安定して行えるようにしておくのが理想なのだが、どうじゃ?」
「ぼく、行きます!」
即答だった。冒険という言葉にルウィージェスの心がときめいた。
専門科が始まると同時に姉エムラカディアが創造神を務める惑星エムラに留学することが決まった。
「父上、母上、ルウィージェスにある程度、武術を学ばせておいた方が良いのではないでしょうか?冒険者の中には、自身の力に酔った荒くれものも少なからずおります。神族は成長が遅いため、16歳になっても、惑星エムラでは人族の8歳から10歳程度にしか見えません。」
エムラカディアが言った。
「その通りじゃ。安心せい、ちゃんと準備しておる。」
そう世界創造神は頷くと右手で軽くこぶしを握り、顔の位置まで上げ、ゆっくりと開いた。すると、明るいのに不思議と眩しくない球体が現れ、ゆっくりと鳥の形に変わり、神界の伝達鳥カードリーと変わった。世界創造神がカードリーに何か呟くと、また明るい球体へと変わり、ふっと消えた。
数秒後、先ほどと同じ明るいのに眩しく感じない光が7つ現れ、ゆっくりと人型をなした。
そこには、5柱の男神と2柱の女神が立っていた。7柱にルウィージェスを紹介し、簡単に経緯を説明した。
「ルウィージェス、紹介しよう。」
世界創造神は下級神の7柱をルウィージェスに紹介した。
「武神ヴァハグン、馬術神スヴェントヴィト、剣神ベス、槍神ララン、盾と弓神ウル、狩猟神アナトと武芸神スカアハだ。武芸神スカアハは闇夜での武術の神でもある。」
「ぼくはルウィージェス。よろしくお願いいたします。」
軽く会釈したルウィージェスに下級神たちは驚き、慌てて片膝をつき敬意を表した。
幼いとはいえ、まさか上級神が下級神に頭を下げて挨拶してくるとは思わなかったのだ。
「以前説明した通り、今後、ルウィージェスは惑星エムラで魔導王としての修行をする事になるため、そなたたちに、魔獣や盗賊などたちから身を守る術を指導してやって欲しい。本人は冒険者として様々なところにも行ってみたいようだから、上級冒険者として活動できるようになると良いかな?」
最後はルウィージェスに確認するような感じだった。
「はい、ぼくは魔導王・妖精王・精霊王として様々な魔道生命を創造する役割を担っているので、惑星エムラでは、様々なところに行って、実際に惑星エムラの魔道生物の生態系を見てみたいと思っています。実際に魔道生物と戦ったりして、その強さとか、魔道生物同士の連携や敵対関係などの習性とかも確認したいと思っています。なので、ある程度強い魔道生物の調査ができるまでにはなりたいと思っています。」
武芸の女神スカアハが、遠慮がちに聞いてきた。
「発言をお許し頂きたいのですが、」
「勿論じゃ。」
「世界創造神様、ありがとうございます。ルウィージェス様はとても若くお見受けするのですが、もう、修行を始められるのですか?」
「ぼくは今、15歳です。学校基礎科の最終学年です。」
「え?幼体?」
ルウィージェスの年齢に7柱が一様に驚く。
「これにはちょっと事情があってな。」
世界創造神は既存の惑星で起こっている魔素滞留問題と、新しく創造する惑星カティアスでの実験について説明した。
「そういうわけで、ルウィージェスが成人するまで待てない、というのが本音でな。とはいえ、幼体が保持できる力は、我々成体とは比べ物にならない程少ない。だから、魔素循環システムの構築にはそれなりの時間がかかる事が見込まれる。つまり、それだけ長い間、惑星に留まる必要があるという事。だから、予めできる準備はしておきたい。」
その準備の一つが、自分の身を守る術を持つ。すなわち、剣術や弓術などの武術を一通り身につけさせておきたい。
また、許可がない限り下級神が直接地上の生命体と行動を共にすることは神の規律に触れるため、実際にルウィージェスで魔素循環システムの構築を始める時までに、それぞれの下級神が加護を与える人選を行い、ルウィージェスの周りに準備しておくこと。
そして、カティアテルビスが選んだ人族の使徒と下級神が加護を与えた人族が、ルウィージェスが惑星に降り立った後に出会えるように準備しておくこと、などが必要事項として共有が図られた。
「皆様は今後、ぼくの師となります。なので、ルウィージェスと呼んでください。よろしくお願いいたします。」
ルウィージェスは下級神7柱の目を真っすぐ見て言ったが、下級神たちは困惑し、世界創造神を見た。
「それは大切なことだね。師として、ルウィージェスに接してやってくれ。」
「はっ!」
下級神たちはそう返事をし、ルウィージェスを見た。
「ルウィージェス様、いや、ルウィージェス、年齢的にまだ体が出来上がっていないので、体力作りから始めますが、いや、始めるが、安全な範囲内で厳しくいきますぞ!」
代表して武神の男神ヴァハグンは格好良く決めようとしたのだが、幼体とはいえ相手は上級神。急には対弟子言葉遣いに変更は出来ず、思わず武神ヴァハグン自身、失笑しそうになるのを堪えながら挨拶した。
ルウィージェスは気にしていないようで
「はい!よろしくお願いします!」と元気よく返答し、軽い会釈をした。
授業がある平日は1柱の下級神が1時間だけ受け持ち、休日は2もしくは3柱が順番に受け持つこととなった。
まだ15歳のルウィージェスは、まず基礎体力をつけることが可及的に必要だったため、平日の1時間は主に基礎運動と各武術の基礎を学ぶ形となった。
馬術の神、男神スヴェントヴィトの授業のため、新しく馬を飼う事になったのだが、ルウィージェスとしてはちょっと残念な事に仔馬から始める事になった。それでも、馬術の時間が一番好きな時間だった。
想像以上に弓術・狩猟術は腕の力が必要だったことにルウィージェスは驚き、夜、懸垂の自己練習をこっそり追加した。
第5話は、惑星創造の過程について触れました。この物語では、生命の種というものが存在し、どの種を蒔くかによって、その惑星に住まう生物が決定する、という事にしています。
ぶっちゃけて言えば、新しい生命の名前とかを考えるのがめんどくさくなったという事と、そこまで私の想像力は豊かではないので、いちいち考えていると中々物語が先に進めない、という切実な理由が根底にございます。
もちろん、たまには惑星オリジナルな生命体も考えたいとは思っていますが、そこは、努力します、ということで。
次の第6話は、ルウィージェスたちが降臨するために通る連絡ゲートという、地球でいうと、イミグレーション(入国管理)に相当する場所での話です。今後、ここが舞台となる場面もあるので、ちょっと詳細に書く予定になっています。
夏休み期間ですし、ストックも溜まったので、9月いっぱいまでは毎週更新する事にしました。
第一章第6話は、8月22日(金)20:00公開予定です。
また、お会いできるのを楽しみにしております。
月つき 千颯ちはや 拝




