第2話「魔道生物創造による新しい魔素循環システムの目的」
ぼくの魂は、世界創造神によって特別に創られたものだった。しかも地上に降りて直接関与できるように、あえて属性を『神』にしなかったらしい。神族である事には変わらないのに属性に『神』があるかないかで、神の規律に触れる・触れないの違いが出るらしい。言葉遊びみたいだ、と思ったけど、どうやら大きな理由があるらしい。今は誰も教えてくれないけれど。
今回世界創造神から言われたのが、古い魔素のリサイクルシステム構築のための、全く新しい能力を持つ魔道生物の創造!! なんか、すごい神様っぽい仕事だ。かなりわくわくしている。
ところで、物語では全く触れられていないけれど、ルウィージェスというぼくの名前は、世界創造神が付けた名前なんだそうだ。太陽系の世界創造神で、他の世界創造神たちからは「Genesis of Solar(太陽系の創始)」と呼ばれているそうだ。そして、ルイがつく名前には「名高き戦士」という意味があるらしい。つまり、Louis+Genesisで「溜まり続ける古い魔素と戦う戦士を生成する創始」とか「魔素濃縮化の阻止と改善のために新しい生命の生成し魔素と戦う創始」という意味でつけられた名前なんだそうだ。
…正直、あまり嬉しくなかった。あ、これは内緒ね!
世界創造神はルウィージェスに新しい惑星での役割についての説明を始めた。
ルウィージェスの父が創造したメテス銀河系には既に複数の惑星が存在し、その内の2つの惑星を、ルウィージェスの第一兄と第一姉が現在創造神として管理をしている。
すべての惑星は魔法が使える世界であり、魔素が魔力の源となっている。しかし、数千年単位で魔素の濃縮化が起こってしまい、その浄化に大変な神力を費やすという支障をきたしていた。
その問題解決の糸口として、世界創造神がその膨大で強大な神力を使って創り出した魂がルウィージェスの魂であること。その魂に与えた能力の一つが「魔道生物創造」であり、この能力を持つのはルウィージェスのみである。
世界創造神がルウィージェスに与えた仕事が、その「魔道生物創造」能による、魔素の循環強化のための、他の惑星にはない循環システムの構築だった。
「ただし、これだけは守ってもらい」と世界創造神。
強化魔素循環システム構築のため、中心となる大きな各大陸には必ず地上神として神獣1柱を置き、その神獣を大陸守護の古代神とする。大陸守護古代神は強大の魔力を操る能力を持ち、魔素の地脈(魔素が流れる道)に関与し管理を行う魔道生物とする。
また、各大陸守護古代神の他に、強い魔力や特殊な能力による魔術を展開する能力を持つ神獣を古代神とする。その神獣古代神には、大陸守護古代神4柱ほどではないにしろ、強く巨大な魔力を操る能力を持もたせるが、地脈への関与はさせない。
神獣古代神には、彼ら特有の能力として濃縮した魔素を魔力に変え使用する力を与え、彼らがその能力によって得た魔力を使用することで、魔素の新陳代謝を図るとする。
強い魔力親和性を持つ種族や、魔素を使う特殊技能を持つ種族などを神獣古代神の眷属とし、各種族間の調和を図る役割を担う事とする。
そして、魔素を生み出す魔道生物として妖精や精霊を創造する。妖精は目に見える存在とし、精霊は精霊との高い親和性をもつ者のみが見える存在とする。これは、乱獲を防止する目的でもある。
「実はな、」世界創造神は続けた。
「そなたらの長兄ソフィアテリビスが管理する惑星ソフィアと長姉エムラカディアが管理する惑星エムラにも予め、魔素を消費する者と魔素を生み出す者を揃えてはいたのだが、圧倒的に魔素の消費する者が多くなり過ぎたために魔素を生み出す生命体を急遽増やしてみたのだよ。しかし、それだけでは魔素の循環はうまく行えず、古い魔素の蓄積解消には至らなくてな。いろいろと、古い魔素の消費を高めてみたのだが、魔素の消費はすなわち魔力の行使であり、さらに古い魔素の蓄積にしかならない、という悪循環が起こってしまった。」
世界創造神は大きな溜息をついた。
「魔素を生み出す者を創造しても、ですか?」カティアテリビスが聞いた。
世界創造神は頷きながら答えた。
「新たに魔素を産生するだけでは、魔素が溜まる一方。だからの、」
世界創造神はルウィージェスを見た。
「ルウィージェスには、植物が二酸化炭素を取り込み酸素を産生するように、古く濃縮した魔素でもエネルギーとして吸収でき、新しく新鮮な魔素を産生できる魔道生物を新たに創造してほしい。これは動物でも植物でも良い。今まで存在しなかった能力を有する魔道生物の新たな創造は、魔力を持ちながら神族のみが使える『生命創造』能を持つそなたにしかできないことなのだよ。」
魔素をエネルギーとして使用できる既存の生命体では濃すぎる魔素を使用することが出来ず、その環境下ではエネルギー不足に陥り枯れてしまう。そのため、濃縮した魔素が溜まった場所では砂漠化が進んでしまう。砂漠化した環境下では魔素を留めておくことが出来ず、逆に魔素が薄い環境が出来てしまう。魔素が薄い場所には生命体は定着できず、環境を復活させることが出来ない。
現在そういう砂漠化した地域には、膨大な神力を使って水脈を通し、大地の奥まで乾燥が進まないようにしているが、魔素が薄い環境では精霊も住み続けることが出来ず、定期的に神力で水脈に関与している状態だ、と世界創造神は苦笑しながら説明した。
「本来は、惑星内ですべて完結できるようにしなければならない。神界からの直接的関与は最低限に抑えなければならない。」
世界創造神は大きく息を吐き、話を続けた。
「今回のような魔素の問題は、ある程度は予測出来ていた。文明の発展に伴う人口の増加と魔術の発展。これは予想以上に進み、それ自体は非常に喜ばしい事なのだ。しかし、魔法は便利過ぎた。魔法に依存しすぎた文明の発展は魔素の大量消費と、古い魔素の大量放出につながる。そして、古くなった魔素は、魔法を使うものにとっては魔力に変換しにくく、魔力効力も低下する。知能指数の低い魔道生物にとっては、魔素からの魔力転換効率の低下は一種の不快感となり、凶暴化へとつながる。実際、魔道生物の大規模氾濫もここ数百年間で目に見えて増えてきておる。」
世界創造神は、改めて二人を見た。
「これから創造する惑星カティアスでは、将来ほぼ確実に起こるこの問題解決のためのシステムを初めから構築しておいて、都度問題修正を行うことで、どの程度の効果が期待できるのか見てみたい。その結果によって、他の惑星へ応用したいと考えておる。」
自分がこの会合に呼ばれた理由と新惑星カティアスでの役割を理解したルウィージェスは、世界創造神から『生命の種一覧本』を受け取ると、創造する魔道生物について数日以内に考える旨を伝え、先に席を立った。世界創造神と新惑星の創造神カティアテリビスの二柱は、新惑星の創造についての詳細な打ち合わせを続けた。
館に戻ると、珍しく第三姉のアフロディアがリビングにいた。美と性の女神だけあって、体のシルエットがよくわかる官能的な服装をしている。ひと際目を引くのが、腰にゆったりとに巻き付けてある宝帯だ。しかし、残念ながらルウィージェスはそれを理解するには幼過ぎた。
「あら坊や。世界創造神との話は終わったの?」
「うん、終わった。新惑星カティアスに新しい魔道生物を創るように言われたから、これから、創造する神獣や魔獣を考えなきゃいけなくなった。」
メイドから冷たいフルーツジュースを受け取りながらアフロディアの向かいのソファに座った。
自覚していた以上に世界創造神との時間は緊張していたようだ。喉の渇きを急に覚え、一気に飲み干した。
「魔術は坊やにしか使えないからね。まだ15歳の幼体で未熟だから、取得するまでにはそれなりの時間がかかるでしょうから、最初は、試行錯誤しながら魔素の扱い方を覚え、魔術の開発をして、地道に魔道生物の創造をしていくしかないわね。」
なんか急に果てしない作業に思えてきた、とルウィージェスは空笑いで姉に答えた。
「世界創造神の話を聞いてて思ったんだけど、」
いったん言葉を切り、フルーツジュースのお代わりをメイドに頼んだ。
「兄さまも姉さまも『神』となっているでしょう?けど、ぼくの属性は『王』となっているじゃない?これって、『神』は基本的に下界に介入せず、何事にも関与しないけど、ぼくは実際に下界に降りて直接関与するから? あ、今回の魔素の管理には関与しているか。けど、基本的には見守るだけで直接下界に降りて関与することはないから『神』?」
「そ、正解。」
フフっとアフロディアは微笑んだ。残念ながらルウィージェスには普通に優しい姉の微笑みにか見えていない。
「下界への直接介入は、よほどのことがない限り禁忌となっているの。けれど、今回の魔素の濃縮化、分かりやすく言うと、古い魔素の停滞と蓄積の解決には、その場の環境に応じた特定の能力を持つ生物の新規創造が必要だから、どうしても下界での作業が必要でね。しかも、魔素を扱う生物の創造だから、魔力による創造が必要なのよ。だから、坊やの属性を『王』としたわけ。魔法神にしてしまうと、『神』の規律がどうしても引っかかってしまうからね。」
ふ~んと思いながら、ルウィージェスは一つの疑問にぶち当たった。
「今まで惑星の生物は何を基準にして誕生させてたの?」
アフロティアもメイドにワインのお代わりを頼んだ。今回選んだのは白ワインだ。
「世界創造神が定めた基本生命体以外の生命に関しては、惑星を創造するときに、創造神が作りたい世界観に合う『生命の種』を落とすのよ。人族の種、地上を駆け巡る魔獣の種、天空を舞う魔獣の種、動物の種、植物の種、人族に近い種族の種、あとは、その惑星の特徴に沿った生命の種をね。種を蒔いた後は時空神クロティノス、もしくは時間と空間の神である母上が惑星の時間を進めて進化を促してね。ある程度進化が進んで、文明が落ち着いたら、私たちの介入は終わり。後は、その惑星の生命たちが文明を発展させていくのを見守るだけ。ただし、惑星の生命体の能力を超える問題は創造神が解決するの。今回の魔素滞留による濃縮化は、惑星の生命体たちにはどうこうできる問題ではないから、創造神が動くってわけ。」
「それじゃ、姉さまたちの仕事って?」
「私たち創造神以外の神々の力はね、」
アフロディアはいったん言葉を切り、空を眺め、言葉を選びながら説明を始めた。
「私たちがその惑星を気にすると、具体的には覗いたりすると、私たちの神力が惑星の生物の『本能』や『能力』を刺激することになるの。そうすることで影響を与えているのよ。例えば、」
グラスをテーブルの上に置いてアフロディアは続けた。
「私の場合は、私が定期的に各惑星を覗くことによって男女の『生殖能力』を活性化させることが出来るの。それによって妊娠と出産する能力が活性化するわけ。」
アフロディアはいったん言葉を切った。アフロディアは性の女神でもあるので、当然ながら性欲の活性化もその範囲に入るのだが、そこの説明は止めておいた。
「へぇ~、それじゃ、姉さまが惑星覗きをサボったら、その惑星の出産率って下がっちゃうわけ?」
「そうよ、」そこは誤魔化さずに答えた。
「お~、姉さまに嫌われたらその惑星、滅んじゃうじゃん!!」
「長期に渡れば、そういう結果になり得るわね~。」
「こわ~」
ルウィージェスは大きく肩を震わせた。
「ま、本当にそんな事をしたら、世界創造神に怒られちゃうけどね。」
アフロディアは軽く肩を竦めながら言った。
「世界創造神の仕事には神々の仕事管理も入るのか。」
ルウィージェスの呟きをアフロディアは流した。
その時、アフロディアの元に、アフロディアの眷属で出産と産婦の保護を司る神のエレイテュアからのメッセージを持った光る鳥が現れた。神界ではカードリーと呼ばれており、急を要する時に使われている。
「もう、せっかく坊やと話していたのに」と文句を言いながらも、メッセージを確認すると立ち上がり、ルウィージェスにハグと額にキスをし、急いで部屋を出て行った。
まず、ルウィージェスは、世界創造神から渡された『生命の種一覧本』をアイテムボックスから取り出し開いた。
「たしかに、これは生命の一覧表だ」と呟きながら、1ページ、また1ページとめくっていった。
その本は『生命の種』として存在する生命の種族の名前がカテゴリーごとに分けられていた。
例えば、「魔素適応と魔力転換能が低い生命種」のところにはゴブリンや多種のウォルフ系など多くの獣族が含まれていた。獣系は一般的に魔法が苦手のようだ。
「魔素適応が高いが、魔力転換能が低い生命種」にはスライムが入っている。
「魔素適応も高く、魔力転換能も高い生命種」のところには、ドラゴンやグリフォンなどがある。
どうやら、魔素適応は生命力に直結し、魔力転換能の高い生命種は、強い魔術を駆使することができ攻撃力が高いという事のようだ。
また、魔素適応が高い生命種には進化する種が多い。スライムは、ベビースライムから複数回の進化を遂げることができ、最終進化形はエンペラースライムだ。エンペラースライムは「魔素適正も魔力転換能も非常に高い」と書いてある。
世界創造神の話を思い出しながら、神獣と魔獣、妖精と精霊を考え始めた。
大切なのは、各種族の役割とつながりだ。
そして、ルウィージェスはスライムなど魔素適応が高く、多段階で進化できる生命種に目を付けた。
「妖精族や精霊族とのつながりを強く持てる特殊個体を創ったら、おもしろいかも」
メイドから紙とペンを受け取ったルウィージェスは、魔素循環システムの素案を書き始めた。
今回は、ルウィージェスの役割の説明の回でした。
魔素の濃縮化の阻止と改善のために、新しい能力を持った神族としてその魂を宿したのがルウィージェス、そして与えられた役割の詳細を明らかにしました。
次回は、魔素リサイクルシステムの草案の中身の紹介となります。
2週間後、またお会いしましょう。楽しんでもらえたら幸いです。
月 千颯