第22話 「宮廷魔術師団団長の奮闘③―回復魔石②―」
『回復魔石』の効果を実際に試してみる為、皆で薬師ギルドに行って来たよ。
Aランク冒険者の人たちが、魔素過多中毒によって膂力を異常に付けたフォレスト・ウォルフの一群を少人数で、しかも、襲われている村人たちを庇いながら応戦する羽目になってしまい、その結果、メンバーの一人が右肩から先を失って、右足も深い傷を負ってたんだ。そこで、一番重症だった人に『回復魔石』を試してみる事にしたんだけど、見本で作った『回復魔石』とはいえ、ぼくが作った魔石だかね。その効果は神の保証付きだよ♪
なんだけど、効果があり過ぎても扱いに困るんだね。下界って、なんか、色々大変だよね。
『回復魔石』の効果を確認する為、冒険者ギルド統括レナーテの案内で薬師ギルドに移動し、レナーテが薬師ギルドの受付で話を付けると薬師ギルドの副代表が対応し、治療を受けている冒険者の病室へ案内した。
「デルフ、痛みの方はどうですか?」
デルフと呼ばれた冒険者はAランクらしく、見事な体躯の持ち主だった。しかし、右肩から先を失っていた。また、右足も激しく受傷したようで、包帯が巻かれていない箇所から見える足の色は変色している。壊疽が始まっているようだ。その割に臭いが少ないのは、消臭効果のある薬草を使っている為と思われた。
「ギルマス。情けねえ姿、見せちまって。」
デルフは力なく答えた。
レナーテはデルフにエルンストを紹介し、ここに来た目的を説明した。
「マジすか?あ、いえ、本当に、腕が治る可能性があると?」
エルンストは、公爵の弟であり伯爵位を持つルウィージェスをデルフに近付けないようにしていた。負傷していようといまいと、デルフの攻撃がルウィージェスとカリンに届くとは思っていないが、貴族当主が襲われるという事件を未然に防ぎたいと考えていた。
エルンストも伯爵当主だが、王国直属の職業軍人という立場は、強力な抑制力になる。
それはレナーテも同様だった。レナーテはルウィージェスが妖精王である事も知っており、尚更である。
挨拶する為、視線の高さを合わせていたエルンストはいったん立ち上がり、後ろに控えていたルウィージェスにこっそりと聞いた。
「スタンピードの時の説明では、魔石を握りしめて魔力を込めれば発動する、という事でしたが、最低限、どのくらいの魔力を込めれば、あの状態を回復できますか?」
「あれはぼくが作った魔石だから、改編後の初級魔法【火球】程度で十分だよ。」
「ありがとうございます。」
エルンストは院長ヘルガに、『回復魔石』の作動方法と必要魔力量を伝えた。
「こんにちは、私は創造神教会の医療院院長のヘルガ・フォン・フォーゲルと申します。これから、治療方法を説明いたします。」
デルフは頷いた。
立ち会う薬師ギルド副代表も固唾を飲んで見守っている。
「これは『回復魔石』と呼ばれる、治療用の魔石です。左手は動かせますか?」
デルフは左手をグーパーしてみせた。
「それでは、これを軽く握って下さい。」
デルフは言われた通り、『回復魔石』を左手でそっと握った。
「デルフ、初級魔法で使えるものはありますか?」
「得意ではありませんが、手の汚れを落とす程度の【水球】1個くらいなら出せます。」
「それでは、【水球】を発動させる時と同じくらいの魔力を左手に込めてください。」
デルフは目をつぶり、【水球】を発動させる時の魔力を左手に集中された。
その瞬間、デルフの体を回復魔法発動時と同じ光が包み、そして受傷した場所に多くの光が集まった。そして、失った右肩と壊疽が始まっていた右足に更に光が集まり、一瞬眩い光に包まれた。
そして、皆が目を見張った。
デルフも自分の右手が再生されているのを目にしていたが、現実味がなく、動かせずにいた。
デルフは左手に握っていた魔石を置くと、恐る恐る再生した右腕を触った。
上腕、肘と触っていく。手首、そして、自分の右手を触った。しっかりとした感覚がある。
そして、ゆっくりと動かしてみる。
全く問題なく動く。
「お、…お…俺の腕が、」
ベッドサイドに立つ皆に見せるように右手を挙げた。
「俺の腕が、戻った!動く!動くぞ!!!!」
デルフの目からは大粒の涙がこぼれる。
「ハ、ハハハハハハハハハ、腕だ!腕だ!」
泣き笑いしながら、何度も何度も右腕を振り、左手で右手の感触を確かめ、そして、また右腕を振った。
「おおお―――っ!」
様子を見守っていた者たちからも大きな歓声が起こる。
デルフは、右足からも痛みが消えていることに気付き、かけていた布団をよけた。
土気色になり壊疽が始まっていた右足は、腫れもすっかり消え、巻いていた包帯が緩く解け、小さな傷一つ残らず消えていた。
「足も、足も、」
デルフはベッドから立ち上がりその場で足踏みをした。全く痛みもなく、足を動かせた。
ベッドのそばを歩いてみた。全く違和感なく歩けた。
飛び跳ねてみた。痛みはない。
「おおーーーーーーっ!」
デルフはベッド脇に立つ皆の方を向いた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
深く何度も何度も頭を下げた。
「それじゃ、残りの仲間の所にも行く?」
ルウィージェスがエルンストに聞いた。
「すみません、他にもまだ治療中のメンバーがいると聞いているのですが、その方々の部屋にも案内して頂けますか?」
エルンストは薬師ギルド副代表に聞いた。
薬師ギルド副代表の案内で他の部屋に移動した。その際、デルフも一緒に付いてきた。
まず先にデルフが部屋に入った。
「デルフ…」
部屋に入ってきたデルフの姿を見て、部屋にいたメンバーの四人は悲しげに声をかけた。
デルフは、右腕を失い治療院に運ばれて以来、その悲しみの深さに部屋に閉じこもり、他のメンバーと会うことすら辛すぎて出来ずにいた。
そしてメンバーも、その心境が痛すぎるくらい分かっていた。
デルフは黙って右腕を前に突き出し、手の平をメンバーの方へ向けた。
メンバーは、「あれ?」と思いながら、デルフの左手を見た。
左手はあった。
「ん?…デルフ、お前、右手…?」
両足を包帯でぐるぐる巻きにされている男が言った。
「あー、右手だ。俺の右手だ。」
「「「「え?…え?」」」」
誰もが、状況が呑み込めずにいた。
「俺の右手、治った!足もこの通り、完璧に治った!」
その言葉につられ、全員がデルフの足を見る。
「「「「え?…え~」」」」
――――何?何?なんで右手があるの?!
――――右手が生えてきた!?んな馬鹿な?!
――――何がどうなっている?
――――意味が分かんね!意味が分かんね!!
足を負傷したものはベッドの上から、足が動く者はデルフの近くに寄ってきて、右手を触る。
総括ギルドマスターのレナーテが手をパンパンと叩き、皆を鎮めた。
「落ち着いて。」
「ギルマス、」
先ほどの両足包帯ぐるぐる巻きが言った。
「ギルマス、すまん、意味が分からな過ぎて、…意味が分からん。」
「説明するわ。まずは、こちらの方々を紹介します。」
宮廷魔術師団団長、創造神教会の医療院院長、リリーエムラ公爵の実弟で伯爵当主と専属護衛という錚々たる面々に皆が驚く。
代表してエルンストが説明した。
「リリーエムラ公爵のご令弟で、伯爵当主のルウィージェス様が、この『回復魔石』の作り方を宮廷魔術師団に伝授して下さった。ただ、宮廷魔術師団は攻撃型魔法を得意とする者が多い為、ヒーラーを多く抱える医療院に作成の協力を依頼する事にしたのだが、それにあたり、この『回復魔石』の効果を実際に見ていただくことになった。そこで、レナーテ総括に被験者を依頼したところ、皆を紹介してくれた。」
「冒険者ギルドとしてもAランク冒険者グループは貴重だからね。君たちを選ばせてもらったよ。」
「それから、」
エルンストが続けた。
「君たちが遭遇したフォレスト・ウォルフは、フォレスト・ウォルフらしからぬ膂力をつけていた、とギルド総括から聞いたが。」
デルフは薬師ギルド副代表が用意してくれた椅子に座り、その時の様子を語った。
その後、まだ完治していないメンバーの傷口をエルンスト、院長ヘルガと総括レナーテが確認した。
「確かに、受けた傷全てが深いな。」とエルンスト。
レナーテは、彼らがその時に使った武器を確認した。
「フォレスト・ウォルフを大量に相手すれば、それなりに武器は傷を受けるが、」
そう言いながら、長剣に、爪によって刃がかけたような刃こぼれを見つけた。
「この刃こぼれは、やはりフォレスト・ウォルフに?」
持ち主は両足包帯ぐるぐる巻きの男だった。
「あぁ。それはフォレスト・ウォルフの爪による攻撃を受けた時にできたものだ。爪の一撃で刃が爪の分だけ削られた。」
「あのフォレスト・ウォルフの脚力は異常に発達していて、跳躍の距離も勢いも、今までみたフォレスト・ウォルフとは比較にならなかった。」
デルフが言った。
「これは、宮廷魔術師団エルンスト団長から聞いた話しなのだが、」
そう言って、レナーテはギルドの自室で聞いた話を皆に伝えた。
レナーテは、「魔素」という単語は冒険者には浸透していない為、「魔力」に置き換えて説明した。
「魔力過多中毒…。」
デルフが呟いた。
「我々がザイラント州領テトグランで遭遇したスタンピードの魔物たちも、君たちが遭遇したフォレスト・ウォルフと同様に、異様な膂力をつけており、ザイラント州領テトグラン周辺から応援に駆け付けた騎士団が軒並み多大な被害を受けた。」
そして、国王たちとの会議の結果、魔力過多中毒による連鎖的に引き起こされたスタンピードであったと結論付けられた旨をエルンストは説明した。
「もう雪解けも終わり、これ以上雪解け水の溜まり場が増えることはないだろうが、今後、大雨や、この冬のように例年にない積雪が観測された時は、その可能性も視野に入れる必要がある。」
「ギルドの方でもこの件を通達し、今後の対応をまとめます。デルフたちには、上級冒険者向けの説明会開催時には、体験談として話してもらう事もあるかもしれない。その時はぜひ協力を頼む。」
「あぁ、勿論だ。」
その後、全員に『回復魔石』を使い、皆、完全完治で退院して行った。
総括レナーテは、『回復魔石』については他言無用であると念を押し、メンバーも快諾した。
ルウィージェスたちは、立ち会った薬師ギルド副代表の案内で会議室へ向かった。
会議室に集まった面々、特にルウィージェスの魔法を間近で見たことのない院長ヘルガ、ギルド総括レナーテと立ち会った薬師ギルド副代表、名をファルコと言った、は興奮しながら、先ほど見た『回復魔石』の効果をお互い話していた。
「あの魔石が1回使い切りでないのに驚きました。」
院長ヘルガは興奮気味に言った。
「あの魔石は見本用として作ったので、デルフ並みの治療だったら15回程度で魔力切れになると思います。スタンピードの時に作った魔石は、」
ルウィージェスはエルンストを見て言った。
「その場で、四肢欠損に対して使う想定で、50回は余裕で繰り返し使えますよ。」
「50回…ですか…。」
エルンストは、改めて『回復魔石』を保管している壺の大きさを思い出していた。
――――国宝以上級が…。保管場所、要再検討…だな。
少し遠い目をしながら思った。
「それに、魔力補充しながら使えば、もう少し長くは使えると思います。だけど、魔石はあくまでも消耗品だから、半永久的に使えるわけではないよ。いつかは寿命が来て、崩れる。魔力補充力が低下してきたら寿命だと思ってくれればいいかな。」
ルウィージェスは薬師見習いが入れてくれた紅茶を飲みながら言った。
院長ヘルガがエルンストに聞いた。
「今回はルウィージェス様の魔石を使い、その効果を確認いたしましたが、宮廷魔術師団の方々が作った魔石の効果はどの程度なのでしょか?」
「まだ使ったことはないのですが、ルウィージェス様の鑑定では、ルウィージェス様が言う【ヒール】に相当する、との事でしたので、我々が使う【ハイヒール】から【エクストラヒール】に相当すると思われます。」
その話を聞いた薬師ギルド副代表ファルコが聞いた。
「そのルウィージェス様が言う効果とは、どういう意味なのでしょうか?」
その質問に対しては、エルンストが答えた。ただし、ルウィージェスが【パーフェクトヒール】と【エリクシア】が使えることは伏せた。
「それでは、ルウィージェス様が使う【ヒール】は、複数個所の骨折も一瞬で治してしまうと…?【ハイヒール】でゲルド級の体の欠損部位が復活すると…?」
エルンストとルウィージェは頷いた。
「何ですか?!その滅茶苦茶な効果は!?」
ルウィージェスは苦笑いした。
その様子を見ていた総括レナーテが言った。
「ご存じの通りエルフ族は長寿種なので、様々な話を伝え聞いております。その中には、リリーエムラ公爵家の話もありまして、リリーエムラ公爵家は創造神様よりこの惑星を守る使命を受けた一族、と聞いております。昔からリリーエムラ公爵家の方が不思議な力で様々な問題を解決してきた、とも聞いております。ルウィージェス様の魔術のお力が並外れて強いのも、その創造神様からの使命の一つとして現れているものではございませんか?」
ルウィージェスはその言葉に頷き、念話で『ありがとう』と伝えた。
「伝説ではなかったのですか?」
ルウィージェスはニコと笑い、薬師ギルド副代表ファルコの言葉に頷いた。
「事実だったのか。ルウィージェス様、大変失礼いたしました。」
「大丈夫だよ。」
「ルウィージェス様の、魔石は消耗品でいつかは崩れる、との話より、我々宮廷魔術師団でも『回復魔石』の作り方を教えていただき、作成を始めたのですが、ご存じの通り、宮廷魔術師団は攻撃魔法を得意とする者の方が多いため、多くのヒーラーを抱える医療院に相談したわけです。」
「エルンスト団長、ここに来られた経緯は理解いたしました。しかし、この『回復魔石』はどのようにして運用されるおつもりなのでしょうか?」
薬師ギルド副代表ファルコが聞いた。
「主に災害時を想定しています。災害時には一度に多くの負傷者が短時間に集中します。災害時ですから、当然ながら、訓練した者以外は派遣できません。よって、今までは、多くの重症者を失い、また、同時に多くの回復魔法を使う魔術師も魔力の使い過ぎや、魔術使用による体力低下のために二次災害時に避難できずに、失ってきました。ですので、現在はルウィージェス様が作って下さった『回復魔石』が大量にございますが、宮廷魔術師団としては魔石の寿命を考え、定期的に『回復魔石』を作って補充していきたいと考えています。」
一旦言葉を切り、院長ヘルガ、レナーテ総括、薬師ギルド副代表ファルコを見て言った。
「もちろん、皆さま方にも、必要時にはお貸しします。しかし、ご覧の通り、ルウィージェス様が作った『回復魔石』の効果は、そう簡単には使用できるものではありません。」
「あの存在が知られたら大変だ。」
薬師ギルド副代表ファルコが言った。
「そうです。ですが、我々が作った『回復魔石』でも、ルウィージェス様の鑑定によると、ルウィージェス様の【ヒール】相当の効果がある、との事でした。つまり、我々の【ハイヒール】『骨折を治癒する』、【エクストラヒール】『複数の骨折を治す』に抑えられます。魔石を使う事でヒーラーの魔力温存になりますから、より多くの負傷者の手当てが可能になります。」
「なるほど。」
ファルコは頷いた。
「医療院でも、【エクストラヒール】の使い手は勿論の事、【ハイヒール】の使い手も、所属する人数はそう多くなく貴重です。彼らの魔力を温存できるのは朗報です。」
「そこで、改めてお願いです。『回復魔石』作成のため、医療院と薬師ギルドの方からも、回復魔法が使える者を派遣して頂けませんでしょうか。」
医療院院長ヘルガと薬師ギルド副代表ファルコは、回復魔術者派遣を承諾した。
宮廷魔術師団の経験より、『回復魔石』を作るには魔力量と魔力制御力が一定以上ないと出来ない。そこで、宮廷魔術師団の訓練所で魔力制御の訓練を受けた上で魔石が作れた者が、仕事とのバランスを見ながら、魔石作成の訓練を受けることとなった。
そのうえで、医療院と薬師ギルドでの保管個数を決めることとなった。
また、作成した『回復魔石』の質はルウィージェスにしか鑑定できないため、それはルウィージェスが勉強とのバランスを見ながら行う事となったが、魔道具を急いで作成する旨をエルンストにこっそり伝えた。
そして、薬師ギルド副代表ファルコと医療院院長ヘルガがもっとも危惧した、貴族による特権乱用については、ルウィージェスの案、姉のリリーエムラ公爵と国を魔石の最終管理責任者とすることで解決した。交渉はルウィージェスが直接行った。交渉と言っても、「お願い」で終わったが。
エルンストは、冒険ギルド統括レナーテに、今回の件とは別件で相談したいことがあるとし、1週間後に再度会う約束を取り付けた。
また、この後に予定をしていた医療院院長ヘルガとその息子フロレンツとの待ち合わせを少しずらしてもらった。
宮廷魔術師団の棟に戻ったエルンストは訓練所に顔を出した後、一旦自分の執務室で軽食を取り、その足で王国騎士団団長の執務室を訪れた。騎士団秘書アルウィンより、訓練所にいるとの事だったので、そのまま向かった。
王国騎士団長クラウス・フォン・シューバート子爵は、ちょうど馬術訓練の様子を見ている所だった。
「おー、エルンスト殿じゃないか。珍しいな、貴殿がこっちの訓練場までくるなんて。」
戦場ではお互いを団長と呼ぶが、今は堅苦しいのは抜きだ。
「クラウス殿、ルウィージェス様の『回復魔石』についてなのだが、」
「それならこっちだ。」
隣に立つ副団長フィンに2、3指示し、『回復魔石』の保管場所へと移動した。
「ほら、ちゃんとこうやって保管しているぞ。」
クラウスは自慢げにエルンストに見せた。
「クラウス殿、あの時ルウィージェス様は、この『回復魔石』は【ハイヒール】同等の効果がある、と言われただろう?」
「おー、覚えているぞ。」
「あのな、」
エルンストは、ここに来る前の出来事を話した。
話を聞いたクラウスは、しばらく言葉を失った。
「それでは、」
クラウスは壺の中からルウィージェスが作り配った『回復魔石』を1つ取り出した。
「ルウィージェス様は、これには【ハイヒール】同等の効果があると言ったが、」
「実際には、我々が使う【パーフェクトヒール】と同等の効果がある。実際に、右肩から先を失った冒険者の右腕が一瞬にして再生した。」
クラウスは無言で魔石を見た。
クラウスには何か思い当たる節があるらしく、「一緒に来てくれ」と言って訓練所に戻り、一人の騎士を探した。
「パルオ!」
パルオと呼ばれた若い騎士が駆け付けた。エルンストの姿を認めたパルオは一礼した。
「今更なんだが、スタンピードの時、宮廷魔術師団とリリーエムラ公爵騎士団と合流した時なのだが、確か、右だったか左だったか、の手首が皮一つで繋がった状態の負傷を負っていたよな?」
「団長、本当に今更ですね。」
と笑いながら左手のグローブを外した。
「はい、ちょうどここ、左手首を魔物に嚙みつかれてしまい、完全に骨までやられ、辛うじて手の平側の皮がつながった状態でした。あの時は、もう左手は諦めるしかないと腹をくくりました。」
と言いながら見せた左手首には傷跡一つない。
「ですが、ルウィージェス様が回復魔法を唱えた瞬間、左手首が元通りになりまして。皆でこの人数に【エリアエクストラヒール】をかけられるなんてすごいな、と話していました。」
「そうか。訓練中呼び出してすまなかった。ありがとう。」
パルオは二人に礼をし、訓練に戻っていった。
「で、あの時、ルウィージェス様が唱えた回復魔法は、何だったのだ?」
「私の目の前でルウィージェス様は、【エリアハイヒール】を唱えていたな。」
二人は、これ以上は騎士団員に聞かれるのはまずいと考え、先ほどの『回復魔石』が保管している部屋に戻ってきた。
「今、色々と思い返せば…。そうだよな、ルウィージェス様の魔法の威力、半端なかったよな…。」
「あぁ。王国騎士団と合流する前日なのだが、実はルウィージェス様、初級魔法の【石魔法:飛礫】で、ユランを撃ち落とした。」
「は?ユランってあの、ワイバーンの亜種のか?」
「あぁ。たまたまこちらに向かっているのを見つけたから、ついでに【飛礫】で撃ち落としておいた、と言っていたよ。」
「ついで…。」
「あぁ、ついでに、だ。肉がうまいから、と。味は、絶品だった。」
もうクラウスからは乾いた笑いしか出てこなかった。
「それで、まだ報告があるのだが。」
「まだあるのか?!」
クラウスは素で聞き返してしまったが、エルンストは全く気にせず流した。
「その魔石な、使い捨てではなく、魔力補充が出来るそうだ。」
「そうだったのか?」
「しかも、四肢欠損した状態をその場で治すという前提で、50回以上は使えるそうだ。」
「は?」
「50回以上使え、魔力補充をすれば、それ以上使えるそうだ。」
クラウスは腰を抜かし、地面に座り込んでしまった。
エルンストは視線の高さを合わせるため、同じく地面に座り込んだ。
「四肢欠損をその場で治せば、50回は使える、と?」
「そう説明受けた。」
クラウスはもう一度魔石を見た。
「それって、もう、国宝以上、じゃね?」
「確実に国宝以上だな。」
エルンストは、『回復魔石』を保管している壺を見ながら言った。
「魔術師団もそうだが、保管場所、再検討する必要がある。」
クラウスも壺を見た。
「そうだな。」
そう言うと、クラウスは地面に大の字になって寝転がってしまった。
「神様、すげーーーーーーーー」
それは、エルンストの心境も代弁する言葉だった。
第20話から始まった、スタンピード時にルウィージェスが作った「『回復魔石』と『結界魔石』を、魔術師団として作れないか、試してみよう」偏も、今回が最後…ですが、エルンスト団長は宮廷魔術師団の団長としての立場として、同時に、フォーゲル伯爵家当主(本家当主)の立場として、色々と思うところがあるようで…。
それは、第23話の閑話を挟んで、第24話と第25話で。
第22話は久し振りにA4 10枚以内、文字数としては8000文字超です。いつも、このくらいの長さに収めたいのですが、気分が乗ると、ついつい…ね。
次の第23話は、「閑話④:シューバート侯爵家の長兄・末弟とユランの肉」です。
エルンストが目立っているので、シューバート兄弟にも出演頂くことにしました。
第一章第23話は、12月26日(金)20:00公開です.
また、お会いできるのを楽しみにしております。
月 千颯 拝




