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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星エムラ
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第20話 「宮廷魔術師団団長の奮闘①―『聖石』装飾品の威力―」

 ぼくが『錬金の加護』を与えたマリーに、宮廷魔術師団として依頼していた『聖石』装飾品が届いたから、どの程度の変化がみられるか、ポーション作成で試したらしいのだけど、どうやらエルンスト団長、『聖石』装飾品を装着してポーション作成しちゃって、とんでもない代物を作ってしまったらしい。

 エルンスト団長の魔力制御力は、ただでさえ半端ないのに、『聖石』に魔力を通したら、そりゃ~凄いポーション、出来ちゃうでしょう。

 ランはぼくの神力を持った神鳥だからね。その加護を受けたエルンスト団長の魔力は、ただでさえ純化して神力に近い状態になっているのに、更に『聖石』を通したら、ぼくと同じくらいの純度の魔力になるからね。ぼくは神族で魔導王だからね。それと同等に近い性格を持つ魔力、だからね。

危なっかしいなぁ~、もう。

 復興作業は未だ多く残っているものの、スタンピードの事後処理もかなり落ち着いてきた。宮廷魔術師団内でも日常を取り戻し、日々の業務とルウィージェスによる魔力の可視化訓練にと、忙しく過ごしていた。


 マリーに作成依頼を出していた『聖石(ひじりせき)』を使った装飾品も届き、魔術師団団長エルンストが強く望んでいた、スタンピード時にルウィージェスが作った『回復魔石』と『結界魔石』の作成を試みることになった。


 普段、ポーション作成や魔法陣作成を行っている非戦闘職団員、正式名称「宮廷魔術師団錬金部門」には、ポーション作成班と魔法陣作成班が存在しているが、今回新しく魔石作成班が結成された。

 エルンストはマリーに、ポーション作成班の分は髪留めを、魔法陣作成班と魔石作成班の分は腕輪(ブレスレット)として『聖石』装飾品を依頼した。

 『聖石』の装飾品を使用する際は、魔力を通して使った方が、魔力が純化され効果が高くなるとの説明を受けてはいるが、ポーション作成班は男女共に、髪からゴミが落ちてこないように、多くがカチューシャもしくはヘアバンドで髪と止めて行っている。ポーション作成時に腕輪(ブレスレット)は不向きだ。

 一言で髪をとめる、と言っても、髪の長さや髪質、毛量によって、とめ方はそれぞれだ。その為、一番種類が多くなったが、勿論、他の班の者が使用する事も可能だ。


 『回復魔石』の作成には、当然ながら回復魔法が使える者が従事する事になるのだが、回復魔法が使える者は、基本的に戦闘職団員だ。その為、魔石作成班だけは戦闘職団員が兼務する事になる。しかも、回復魔法は非攻撃魔法の光属性。攻撃魔法の属性を持たない回復魔法持ちは、基本的に治療師、もしくは薬師へと進む者が多い。そして最大の問題として、そもそも回復魔法が使える魔術師は、攻撃魔法が使える魔術師と比較すると、圧倒的に、その人数が少ない。医療院と薬師ギルドへの協力依頼は避けられない。

 医療院の現院長は、フォーゲル家の傍系の者が務めている。ある程度の協力は得られるだろう。問題は薬師ギルドだ。現在、薬師ギルドにはフォーゲル家の者は一人もいない。話の持って行き方次第となる。


 『聖石』装飾品が届いた翌日、エルンストは宮廷魔術師団の棟、研究棟に出向き、各班の班長を呼び出した。

 ポーション作成班の班長ビアンカ・フォン・シュルツ、魔法陣作成班の班長アントン・フォン・デーリング、そして、新しく立ち上げた魔石作成班の班長にはミラ・フォン・ハルトマンが任命された。


 エルンストは各班長の前に、届いたばかりの『聖石』装飾品を出した。但し、それが『聖石』で作られているとは教える事は出来ない。そこで、『錬金の加護』を持つ作家(デザイナー)に依頼した、と伝える事にした。

「これは、その『錬金の加護』を受けた作家(デザイナー)に依頼して作って貰った装飾品なのだが、貴殿らも知っての通り、加護を頂くと、頂いた者が持つ能力が飛躍的に向上する。」

 エルンストが、『魔道神鳥』(ラン)から『魔道神鳥のお気に入り』という加護を貰っている事は周知の事であり、元々強い魔術師ではあったが、藍から加護を受けて以降、その魔力が更に増強された事は、戦闘職・非戦闘職の団員全員が知っている。

 「『錬金の加護』を受けた作家(デザイナー)の作品には、魔力経路を活性化する働きがあり、実際、妻と息子、娘の分も作って貰ってみたのだが、旧初級魔法ですら安定し、大きさも変わった。また、これは妻と娘に試してもらったのだが、一度も使った事のない魔法の魔法陣を介した発動も、発動までの時間が縮まり、魔力消費量も大幅に減らすことが出来た。」

 三名の班長たちは団長の話に強い興味を示し、装飾品に頭を近づけ、見ている。

 「特に訓練を受けていない妻たちですら、あれ程の変化が出たから、訓練を受けた貴殿らがこれを使ったら、どのくらいの変化が出るのか、ちょっと試してみたいと思っている。協力して貰いたい。」

 勿論、彼らに(ノー)と答える理由はない。


 先ずは、ポーション作成から試してみる事にした。ポーションは、戦闘時には不可欠な物であるが、底に劣化防止の魔法陣が入れてある専用の瓶に入れて保管する必要があり、持参できる数に限界がある。その為、魔術師団員は戦闘職、非戦闘職に関係なく、全員が回復用(ヒール)ポーションと魔力回復用(マジック)ポーション、どちらも、材料さえあれば作れるよう訓練を受けているし、戦闘職であっても、腕が落ちないよう、年に数回ポーション作成を行う事が義務付けられている。


 初めは、装飾品なしで作ってみた。次に、装飾品を身に付けて試してみる。ビアンカとミラはいつも使っているシュシュに『聖石』ヘアピンを、アントンは前髪をバサッと上げてシンプルに『聖石』が2つだけ付いたカチューシャで髪を止めて回復用(ヒール)ポーションと魔力回復用(マジック)ポーションを作った。

 三人の中で、一番魔力保持量が多いのがアントンだ。そして、一番変化を感じたのも彼だった。

 「団長、この装飾品の効果は凄いです!消費魔力量、どちらのポーションも通常の半分にまで減りました!」

「ほぉ、それは凄いな。疲労感はどうだ?」

「全く。自分は、魔力回復用(マジック)ポーションを作る時の方が魔力量の消費が多く、何とも言えない疲労感に襲われるのですが、それが、全くありません。」

「そこまで変わったか。ビアンカとミラはどうだ?」

「私も、魔量消費量はアントンの様に、半分とまではいきませんでしたが、通常よりもはるかに消費量が減っています。ただ、自分としては、消費魔力量よりも、魔力調節への影響が顕著(けんちょ)だったように感じました。いつもよりも、魔力の微調整が簡単に行えたように感じました。」

 そう言いながらビアンカが作った回復用(ヒール)ポーションと魔力回復用(マジック)ポーションが入った瓶をエルンストに見せた。

 エルンストは、ビアンカが作ったポーションの色が、普段と違う事に気付いた。

「ビアンカ、ちょっと、ポーションを見せて貰えるかい?」

ビアンカから瓶を受け取ったエルンストは、瓶を目の位置に合わせた。

「…これ、上級ポーション…?」

「「「え?」」」

 今回用意した材料は、あくまでも初級用のポーションで使う物だけだ。

 エルンストは、作業テーブルの上に残っている材料を改めて見た。やはり、初級用の材料だけだ。

「なぁ、ラン、これ、初級ポーションか?」

 エルンストは、アントンが作ったポーションを手に取り、比較してみる。

『こっち側の(やつ)の方が、効果が高いよ。』

藍は念話で伝えてきた。

「やはり、そうだよな。」

藍はビアンカが作ったポーションの方が、効果が高いと言っている。

 エルンストは、ポーション作成班班長であるビアンカに、「ポーション鑑定板」を管理室から持ってくるよう伝えた。「ポーション鑑定板」は非常に高価な物の為、普段は鍵付きの管理室に保管されており、その鍵は、団長、副団長以外には、班長のみが保管している。


 「ポーション鑑定板」は、専用のビーカーに入ったポーションを板に描かれている魔法陣の上に置くと、等級と効果を表示するところに(バー)が伸びてきて、(バー)の長さで初級・中級・上級・特級を判定し、効果を低・中・高・特の4段階で表示する。

 エルンストは、先にアントンが作った回復用(ヒール)ポーションをビーカーに移し替え魔法陣の上に置き、魔力を流した。

 すると、等級を表す(バー)は「初級」を示したが、効果の判定は「上級」の上限まで(バー)が伸びた。続けて、ビアンカが作った回復用(ヒール)ポーションを測定器にかけた。今度は、等級を表す(バー)は「中級」を示したが、効果の判定は「上級」まで(バー)が伸びた。


 エルンストは腕を組み、しばしこの結果の意味を考える。

 通常、等級が「初級」なら、効果は「低級」までにしかならない。効果が「上級」なら、通常なら等級も「上級」になる筈だ。

 「…これは…、まさかの結果が出たな。」

 「…試しに、団長も作ってみてはどうでしょうか?」

アントンが苦笑しながら言った。

「やって、みるか…。」

 エルンストも、回復用ポーションと魔力回復用ポーションを、三人と同じ初級用の材料で、前髪を後ろに流し、普通のカチューシャ使用時と、『聖石』付カチューシャを装着した時と、各2種類を作成した。


 エルンストの魔力の影響を考え、「ポーション鑑定板」の起動は、アントンが『聖石』装飾品を外して行う事にした。

 「先ずは、『加護』装飾品なしで作った回復用ポーションから。」

アントンはエルンストが作った『聖石』装飾品なしで作った回復用ポーションを専用のビーカーに移し替えた。

「いきます。」

 アントンが魔力を流し、「ポーション鑑定板」を起動させた。

 すると、帯はどんどん伸びていき、等級「上級」上限、効果「上級」上限で止まった。

「「「「‥‥」」」」

 微妙な空気が流れた。

 「と、…」

アントンの声が裏返った。

「んんん、とりあえず、続けてみましょう。次は、『加護』装飾品ありで作った回復用ポーションをいきます。」

 アントンが、ビーカーに移し替えた『加護』装飾品ありで作った回復用ポーションを魔法陣の上に置いて、魔力を流した。すると、等級、効果ともに、「特級」を通り越し、計測値上限まで帯が伸びてしまった。

 エルンストはしゃがみ込み、膝に顔を付け、両手で頭を抱えた。

「どえらい物を作ってしまった………。」

 急にしゃがみ込んだエルンストを心配した藍が「ぴぴぴ」と声をかけた。

 「魔力があり過ぎるのも、色々と大変だな。」

アントンたちの声が聞こえる。

 現在、特級を含めて、そのレベルのポーションは、伝説として記述が残されているのみで、その存在は確認されていない。その最大の理由は、特級を作れるだけの魔力を豊富に含む材料も、その素材を錬金できるだけの魔力を持つ者もいない為だ。

 作れる者がいても、国で情報を遮断し、情報と作者を国家の財産として厳重に隠匿するだろう。小国の場合は、戦争を吹っ掛けられる事を警戒し、作れる者を消すという判断を下す事もあり得る。


 「はぁ、」

大きな溜息をつくと、エルンストは立ち上がった。

「宰相閣下を呼んできます。ちょっと、このままで待っていてください。」


 エルンストは、アイテムボックスの中からルウィージェスの『ゲート魔石』を取り出し、王城の門前に【ゲート】を開き、急遽(きゅうきょ)、宰相オルトールドへの面会を申請した。

 20分程待たされたが、すぐにオルトールドの執務室へ案内された。


 「おー、エルンスト。どうした?」

 エルンストは、案内してくれたメイドがドアを閉めたのを確認すると、オルトールドの前まで来た。

「宰相殿、初めに謝っておきます。すみません。」

「…は?」

 普段から取り乱すことがないエルンストの、その姿を見て、オルトールドは一抹の不安を覚えた。

「…とりあえず、説明、してくれ。」

 エルンストは経緯を説明した。

 「すると、なにか?奇跡の子が作った『聖石』の装飾品を付けて初級用の材料でポーションを作ったら、等級も効果も『特級』になった、…という事か?」

「はい。」

「………」


 エルンストは、今でこそ『魔道神鳥』(ラン)から加護を受け、魔法全般が派手になり目立っているが、加護を受ける前から、歴代最強の魔術師と言われており、回復魔法に関しては、伝説と言われている帝級魔法「パーフェクトヒール」が使える唯一の魔術師だ。これに関しては、国王と宰相以外には、王国騎士団団長のクラウスにのみに知らされている、王国内特級機密情報の一つだ。

 それだけの魔術師の上に、更に神鳥から加護を受けているのだ。初級用材料で等級も効果も上級ポーションが出来たと言われても、「ありうる」と納得できるのだが、流石に、初級用の材料で等級・効果共に「特級」は、ありえない。

 しかし、よくよく思い返せば、ルウィージェスも、エルンストが『聖石』を使うと、生活魔法ですら強力になり過ぎて、逆に生活が不便になるから、と言って、末弟のクラウスに『聖石』アベンチュリンを渡した時も、普通のラピスラズリを渡している。


 「とりあえず、俺も確認しに行こう。『特級』ポーションの作成は、現状『夢物語』。作れることが分かったら、他の国が黙っていない。お前が危ない。」

 エルンストは、再度『ゲート魔石』で宮廷魔術師団錬金部門棟に【ゲート】を開き、急ぎ部屋に戻った。


 戻って来た団長の後ろに、宰相オルトールドの姿を認めた三人は、慌てて騎士の礼を取った。

「いや、構わない。それよりも、」

 エルンストは、『聖石』装飾品をつけた状態で作成した回復用(ヒール)ポーションと魔力回復用(マジック)ポーションを、ミラの魔力で起動させた「ポーション鑑定板」で鑑定し、結果を見せた。


アントンの結果: 等級:初級  効果:上級

ビアンカの結果: 等級:中級  効果:上級

ミラの結果:   等級:上級  効果:上級

 そして、エルンストの物は、

『聖石』装飾品なし:等級:上級上限  効果:上級上限

『聖石』装飾品あり:等級:特級突破  効果:特級突破

となった。


 この結果には、流石のオルトールドも言葉に詰まる。

 「アントンとミラは、魔力量が多いが、魔力制御力としては、ビアンカとミラが勝る。そう考えると、等級に関しては、魔力制御力が反映されていると考えられるが、効果が全て上級になったのは、魔力の純化によるもの、と考えられるかと。」

エルンストは、「魔力の純化」というところだけ小声でオルトールドに説明した。

「なるほどな。確かに、中級と上級ポーションに使う材料は、魔力をより多く含む材料を増やしているだけだ。エルンスト団長の推察は、理にかなっている。」

 オルトールドは、ビアンカが作った回復用ポーションと、エルンストが装飾品を付けて作った回復用ポーションを見比べる。

「明らかに、色が違う。これは、誤魔化しが効かないな。さて、どうするか…。」


 アントンが、小声でエルンストに質問して来た。

「団長、『特級』ポーションの効果とは、具体的には、どのくらいなのでしょうか?」

「それに関しては、『特級』ポーションの存在自体が伝説と言われているから、あくまでも記録として残っている範囲として、になるが、フォーゲル家の先祖にアデルという者がいて、その者が残した記述によれば、瀕死の状態だった者ですら、数日で完全回復する、らしい。記述から、どうもアデルは『特級』ポーションを作れたと思われる節があり、『もう、半ば諦めていたが、まさか本当に数日で、ここまで回復するとは思わなかった』と書かれた一文がある。だが、『特級』ポーションの作成方法は、どこにも残っていなくてね。」

 エルンストの横にいるオルトールドにも、この話は聞こえたようだ。

「今回の結果から、『特級』ポーションの作成方法の記録が残っていないのは、材料の問題ではなく、魔力制御力によるものだから、なのかもしれないな。実際にエルンスト団長は、そなたらと同じ材料を使って、『特級』以上のポーションを作ってしまったし。」

 オルトールドが、エルンストに聞いた。

「もし、『加護』装飾品を付けずに、このポーション作った時以上の魔力と魔力制御で作ったら、『特級』ポーション、作れると思うか?」

オルトールドの問いに、エルンストは少し考える。

「…理屈的には、作れる筈です。ちょっと、試してみます。お時間はありますか?」

「『特級』ポーションの方が、優先順位が高い。」

 エルンストは、思わず小さく噴出した。

「承知しました。」


 同じ材料で、しかし、少し多めの魔力と、上級ポーションを作る時並みの魔力制御で、回復用ポーションと魔力回復用ポーションを作り、今回も、前回と同じ条件にする為、ミラの魔法で「ポーション鑑定板」を起動させた。

 すると、どちらのポーションも、等級・効果共に『特級』になった。


 「これで、アデル伯爵が作成方法を残さなかった理由が明らかになったな。」

 今まで、黙って様子を見ていたビアンカが、エルンストとオルトールドを見ながら聞いた。

「団長のご先祖様、アデル伯爵は、団長並みに凄い魔術師だったのですか?」

 この質問に対しては、現フォーゲル伯爵家の当主であるエルンストが答えた。

「現在、我々が使っている魔法理論は、アデルが構築したものでね。教科書で学ぶ魔法陣の多くはアデルが作った、もしくは、アデルが編集・改編した物なのだよ。我々魔術師団が保管し管理している『魔法辞典』もアデルがまとめた物で、『魔法辞典』として製本したのは、アデルの後任として魔術師団長になった、アデルの息子だよ。」

これには三人は驚嘆し、小さく声を上げた。

「アデル伯爵が魔術師団団長だった時代の騎士団団長はうちの先祖だったのだが、その者が残した記述によれば、アデル伯爵は、建国時の魔術師、魔導士と書かれている時もあるが、その再来とも言われる程の魔術師だったらしい。建国時の魔術師は、創造神様の命を受けていた、という記述も残っているから、もしかしたら、創造神様の加護か何かを受けていたのかもしれないな。」

 教科書にも載っていない王国の歴史に、三人は深く感銘を受けていた。特に、世界的にもその価値が認められている、宮廷魔術師団の宝『魔法辞典』が、フォーゲル家の者による物と知り、衝撃を受けていた。

 とはいえ、アントンは、一つ納得できない事があった。

「団長、なぜそれ程までのアデル伯爵の業績が、教科書に、特に魔法の歴史の教科書のどこにも、記載されていないのでしょうか?」

「アデルの遺言でね。『魔法の発展に貢献するのは、フォーゲル家の義務』と、アデルが残した家訓にも書いてある。義務だから記録として残す必要はない、という考えだったようだよ。」

「はぁ…。」

 アントンは男爵家の次男だ。男爵家というのは、その土台はとても脆く、不安定だ。常に当主に任命された者には、業績を残す事が課せられ、如何に業績を残すか、それに縛られている。目立ってなんぼ、という感覚すらある。

 自分が育ってきた環境とは全く異なる遺言に、「そういう世界もあるのか」と、アントンは感動すら覚えた。


 「しかし、問題は『特級』の本当の効果だな。効果次第では、エルンスト団長に複数作って貰ってルウィージェス様の保管庫で、他国に知られないように保管しておきたい代物なのだが。」

 その時、(ラン)が念話でエルンストに伝えてきた。

『ルーウィに聞く?』

「相談に乗って頂くのが一番でしょうね。」

 突然、脈絡のない言葉を発したエルンストに、オルトールドが驚く。

「あ、すみません。ランがルウィージェス様に聞くか、と聞いていたので。」

「あぁ、念話か。そうだな、ルウィージェス様に、聞くしかないだろうな。」

 オルトールドの言葉を聞いた藍は、エルンストの肩から飛び立ち、窓を(くちばし)(つつ)き、窓を開けるよう伝えた。

 オルトールドが窓を開けると、猛スピードで飛んでいった。


 2分程経った頃、エルンストの近くに【ゲート】が開き、藍が飛び出してきて、ルウィージェスが顔を出した。

「ルウィージェス様、授業は終わったのですか?」

オルトールドは、【ゲート】の近くにあった椅子を移動させた。

「うん、結構前にね。同じクラスの女子たちに、魔法を教えて欲しいと言われて、教えていたところ。ランを口実に逃げてきた。」

 えへ、と言いながらルウィージェスは言ったが、エルンストも、授業が終わるとしょっちゅう女生徒たちに捕まっていたから、その鬱陶(うっとう)しさはよく分かる。

「数回ならいいですけれど、しょっちゅうだと、流石に逃げたくなりますよね。分かります。」

「うん、流石に毎日だと、聞く前に練習してってちょっと言いたくなる。」

「え、毎日ですか?…それは、…お疲れ様です。」

「毎日は、流石に、ないな。」

 オルトールドも、クラウスから魔力制御の重要性を聞いてから、日々、エルンストから聞いた練習法を実践しているが、一朝一夕(いっちょういっせき)で身に付くものではない。明らかに、練習が目的ではない。


 「それで、ランから『特級の効果が知りたい』と聞いてはいるんだけど、何のこと?」

 エルンストが今までの経過を説明し、オルトールドが『特級』となったポーションの効果次第では、取り扱いが変わると説明した。


 ルウィージェスはエルンストから、『聖石』なしで作ったポーションと『聖石』ありで作ったポーションを受け取った。

「あら~。本当に、普段見るポーションとは、効果が全く違うね。」

 全てのポーションを確認し、ルウィージェスはテーブルの上に並べ、説明を始めた。


アントン:

回復用ポーション

 効果の範囲:狭範囲(きょうはんい)外傷のみ

 効果:完全に傷を(いや)

 使用方法と時間:内服、外用、即時

魔力回復用ポーション

 効果の範囲:魔力の補充

 効果:魔力30程度

 使用方法と時間:内服、外用、即時


ビアンカ:

回復用ポーション

 効果の範囲:広範囲(こうはんい)外傷のみ

 効果:完全に傷を癒す

 使用方法と時間:内服、外用、即時

魔力回復用ポーション

 効果の範囲:魔力の補充

 効果:魔力60程度

 使用方法と時間:内服、外用、即時


ミラ:

回復用ポーション

 効果の範囲:広範囲外傷及び骨折

 効果:完全に傷を癒し骨折を治す

 使用方法と時間:内服、外用、即時

魔力回復用ポーション

 効果の範囲:魔力の補充

 効果:魔力120程度

 使用方法と時間:内服、外用、即時


そして、エルンストのポーション

☆『聖石』装飾品なし

 回復用ポーション

  効果の範囲:広範囲外傷、複数骨折、複雑骨折、感染症

  効果:完全に傷を癒し骨折直し、感染症を抑え治す

  使用方法と時間:内服、外用、即時

 魔力回復用ポーション

  効果の範囲:魔力の完全補充

  使用方法と時間:内服、外用、即時


☆『聖石』装飾品使用時

 回復用ポーション

  効果の範囲:広範囲外傷、複数骨折、複雑骨折、感染症、四肢の欠損

  効果:完全に傷を癒し骨折直し、感染症を抑え治し、四肢の欠損を治す

  使用方法と時間:内服、外用、即時

 魔力回復用ポーション

  効果の範囲:魔力の完全補充、体力の補充

  効果:キュアポーション同等

  使用方法と時間:内服、外用、即時


 「こんな感じだね。」

ルウィージェスは簡単に言うが、結果に、全員絶句。


 「ん…、授業で学んだポーションの効果で言うと、アントン班長のが中級相当で、ビアンカ班長のは上級相当になるね。そうなると、ミラ班長のは、特級相当?授業では特級ポーションの話はなかったら、ちょっとわからない。」

 エルンストとオルトールドは、ルウィージェスの説明を聞きながら書き取った記録を見て固まっていたが、深呼吸をして、なんとか頭に酸素を送り、理解しようと努力する。


 「アントンの回復用ポーションは、効果の範囲が狭域外傷だから等級が初級で、即時に完全に傷を癒すから、効果が上級というわけか。」

「ふむ、そう理解すると分かりやすいな。ビアンカの効果の範囲が広範囲外傷。これは、確かに中級ポーションだが、即時に完治だから、効果は上級、と。」

 エルンストの理解方法は、オルトールドにも分かりやすかった。

「ミラのは、効果範囲が骨折まで入る、と。骨折まで即時に完全に治せるポーションは、今まで確認されていない。これは新しく等級『超級』を作って指定にしよう。」

オルトールドの頭も、ようやくショックから抜け出し、本領発揮し始めた。

「…で、」

オルトールドは、自分が記録したメモを見る。

「エルンスト団長のは、…これはもう、『特級』と『伝説級』にするしかないだろう。」


 王国内で、複数の骨折を一度に治せる「エクストラヒール」が使える者は、エルンスト以外では、宮廷魔術師団団員に3名と王都の医療院本院所属のヒーラー4名のみだ。ルウィージェスの説明によると、エルンストが作った回復用ポーションは、それ以上の効果を持つ、という事だ。

 

 「だいたい、魔力回復用ポーションで、効果がキュアポーション同等って、なんだ?」

オルトールドは、思わずエルンストを半目で見る。なぜこうなる?と言いたげだ。オルトールドの視線に気付いたエルンストは、さっと目を逸らす。こっちは、知りません、と言いたげだ。


 「アントン班長の場合は、多い魔力で、どちらかというと力任せの魔力制御だから、もう少し微調整が出来るようになったら、この魔力量なら、あっという間に効果の範囲も効果も、ミラ班長並みになるよ。」

「力任せ、ですか?」

アントンは、自分が多い魔力で強引に魔力を制御している自覚はなかった。

「うん。ちょっと手、貸して。」

ルウィージェスは、アントンの両手を取った。

「これから、ちょっと魔力を動かすよ。しっかりと立っててね。」

「はい!」

直接ルウィージェスから魔力制御の指導を受けられる事に、アントンの心が弾む。アントンも、ルウィージェスが神族で魔導王である事を知っている。

「魔力を動かすというのは、こんな感じで、今、ちょっとぽかぽかしているのが、魔力経路ね。」

アントンは、体中にぽかぽかした感じが巡るのを感じた。

「それで、微調整する時は、こうやって、」

ルウィージェスの指先から何かが流れてくるのを感じると同時に、主に関節部分の所に、魔力の渦みたいなものがいくつも出来るのを感じ始めた。そして、その渦から少しずつ魔力が流れていくのを感じる。

「この、ちょろちょろと流れる感じが、魔力の微調整ね。この流れる量を変える事が出来るようになると、魔力の切れが良くなるの。」

 その説明を聞いていたビアンカがルウィージェスに質問した。

「もしかして、その魔力の切れというのは、ポーション作成時の、最後の仕上げの時の、魔力で封じる力、という事でしょうか?」

 ルウィージェスはポーションを作ったことがない。思わずエルンストを見た。

「ポーションを作成する時、完成間際に、瞬間的に多めの魔力を込める工程があるのです。その時の込める魔力の量と込める時間が、最終的なポーションの質に影響するのですよ。良質のポーションを作る(きも)、ですね。瞬間的により多くの魔力を、瞬時に込めて封じる。例えば、10の魔力を0.1秒で込めて封じるのと、10の魔力を0.5秒で込めて封じるのでは、ポーションの質が、上質と普通に分かれる程の、大切な工程なのです。」

「へぇ~。」

エルンストの説明は、ポーション作成をしたことのないルウィージェスにも分かりやすかった。

「そういう事なら、答えは(イエス)。」

 ビアンカにそう答えると、アントンに向かって言った。

「ちょっと、【火球】出して、出しながら微調整してみて。」

「分かりました。」

 アントンは作業テーブルから少し離れ、改編【火球】を出した。

 魔力量が多いだけあって、球は大きく、勢いもある。

 アントンは目を閉じ、先ほど感じた感覚を思い出す。すると、【火球】の威力はそのままに、球の大きさだけが小さく変化した。

「おぉー、」

自分の【火球】にアントンが驚く。その時、アントンは勢いが変わっていない事に気付いた。

「ルウィージェス様、今、魔力の流れの太さを細くしたわけですが、大きさが変化するのは分かりますが、何故、【火球】の威力は変化しないのでしょうか?」

「魔力量が多い人は、どうしてもその量に頼って、大量に魔力を消費する事で大きな魔法を出そうとするんだけど、魔法ってね、本当は、魔力量ではなくてね、魔力の流れの勢いなんだよ。その証拠に、そのまま、魔力の流れをゆっくりとさせてみて。」

アントンは、魔力の流れを緩やかになるよう想像(イメージ)する。すると、大きさは変わらないのに、【火球】の勢いが弱くなった。

 これには、エルンスト以外の者たちから驚きの声が漏れる。

「あ、やっぱり、エルンスト団長は気付いていたんだね。」

「はい、そうですね。幼少の頃、魔力制御の練習をしている時に気付きました。」

 その答えにオルトールドが驚き、エルンストを見た。

「そんな幼い頃に気付いたのか?」

「はい。父に教えたら驚いていたので、逆に驚いたのですが、結局、専門科でも学ばなかったので、知る人ぞ知る情報なのだと思います。」

「…お前…、」

オルトールドは、右手で頭をガシガシとした。

「神鳥様から加護を頂くだけあるわな。しかし、なるほどな。魔力の流れの勢いか。だから、クラウスは無詠唱が出来るようになったわけか。」

「うん、そう。魔力回路を活性化させる訓練をしたからね。」

「それでは、」

ミラが恐る恐る声を掛けた。ルウィージェスは、ミラに話を続けるよう促した。

「もし、私がもっと魔力回路を活性化させる訓練をしたら、更に上質なポーションが作れるようになる、という事でしょうか?」

「ポーションだけでなく、魔力で魔法陣を描くあれも、もっと簡単に出来るようになるし、回復魔法の切れも良くなるから、治癒力が上がって、治癒にかかる時間も短くなって、結果的に、魔力使用量の低減につながるよ。」

「それでは、」

ミラが続けた。

「団長の治療時間が極端に短いのも、その魔力の流れそのものを調節しているから、ですか?」

「はい。少量の魔力でも、魔力の流れを早くすれば、治癒力が上がります。…今までは、大勢に教える(すべ)がありませんでしたが、今は、この装飾品がありますからね。訓練の内容(メニュー)に追加しますか?」

「「「是非、お願いします!」」」

「騎士団の方にも、方法を教えてやってくれ。」

「承知しました。装飾品、もう少し追加注文を出します。後で申請書をお持ちします。」

「分かった。」


 「そうだ。アントン班長、もう一回ポーション作ってみる?今度は、最後の行程の封じ込めで、魔力の流れの速度を微調整して。」

 アントンは、期待に満ちた顔でエルンストを見た。

「私も、魔力速度の微調整で、どのくらい変わるか興味があります。」

 エルンストは、足りない材料をポーション作成班の部屋から追加で持ってくるよう、ビアンカに指示した。

 アントンは、前回と同じ材料で、今まで初級ポーションを作る時の魔力量を意識して、再度、回復用ポーションと魔力回復用ポーションを作った。

結果は、

回復用ポーション

 効果の範囲:広範囲外傷及び複数骨折

 効果:完全に傷を癒し複数骨折を治す

 使用方法と時間:内服、外用、即時

魔力回復用ポーション

 効果の範囲:魔力の完全補充

 使用方法と時間:内服、外用、即時

 

  「「「「……」」」」

作成したアントン本人も、余りの効果の高さに唖然(あぜん)とする。

 「おー、これって『超級』になる?」

「先ほどのミラのポーションよりも、効果が高いですからね。『超級』以上ではないでしょうか?」

「…いや、『超級』の上限、にしよう。四肢の欠損と感染症への効果はないからな。」

 オルトールドは、右手で頭を押さえながら言った。

 ――――国宝の定義が崩れそうだ…。いや、もう崩れているか。

「陛下に、どう伝えるかな…。」

 オルトールドの独り言(つぶやき)が聞こえたルウィージェスだが、何故どう伝えるかで悩んでいるのか理解できず、首を傾げた。

 エルンストは、オルトールドにちょっとだけ同情した。


 当初は、ポーション作成だけでなく、魔法陣作成も試そうと思っていたが、ポーション作成の効果だけで、『聖石』装飾品の威力が分かったので、とりあえず、実験はここまでにする事にした。


 オルトールドは、中級ポーション、効果の範囲は狭域外傷のみで効果は瞬時に完全に傷を癒す、と上級ポーション、効果の範囲は広範囲外傷のみで効果は瞬時に完全に傷を癒す、を安定して作れるようになるようにと、エルンストに伝えた。

 また、国として、『超級』と『特級』及び『伝説級』を数本ずつ、有事の際に備える事とした。これは、他の団員には伝えないよう、その存在を悟られないようにするよう、宰相としてオルトールドは班長たちに命令した。

 

 ルウィージェスは、「ポーション鑑定板」が等級と効果を上・中・下でしか表示しない事を知り、効果の内容を表示する魔道具を作ろう、心に決めた。


 もう少ししたら、惑星カティアスの準備が整う。それまでに、魔法関係はエルンストに、魔法付与の剣術はクラウスに、伝えられるだけ伝えたい、その準備を、もう開始する時がきている。

 魔道具なら、作り方さえ残せば、ルウィージェスが惑星カティアスに行った後も、何とかなる筈。

 惑星カティアスに行く時間が迫ってきている。

 第20話~第22話までは、スタンピード時にルウィージェスが作った「『回復魔石』と『結界魔石』を、魔術師団として作れないか、試してみよう」編です。


 実際に魔石を作る前に、『錬金の加護』をルウィージェスから受けたマリーに、『聖石』装飾品を作って貰ったので、それを使って、訓練を受けた団員はどの程度の影響を受けるか、ポーション作成を通じて見てみよう、としたのですが、想像を遥か斜めを行く結果に、エルンストも、どう判断したらよいのか、悩みます。

 そこで、安定した魔力制御力を持つエルンストも、団員に言われて、ポーション作成をしてみる事にしたのですが、『聖石』装飾品を装着して作ったポーションが、とんでもない代物になってしまいました。

 自分の権限を完全に逸脱した結果に、宰相オルトールドに相談する事にしたエルンストですが、相談をされたオルトールドも、ぶっ飛んだ代物に、頭を悩ませます。

 王国としては、持っていたい代物です。しかし、他国にその存在が知られたら、下手したら命を狙われてしまうかもしれない程の物。

 即刻、国王に知らせなければならないレベルの案件、勃発です。


オルトールド:エルンスト、お前、ちょっとは手加減しろ。

エルンスト:今回の件は、素直に謝ります。『聖石』の威力を完全に見誤りました。すみません。


 第20話は、時系列を整頓し直し、情報を追加したら、思いのほか長くなったので、2回分に分けました。えぇ、今回は時間的余裕があったので、番号も変更しましたし。

 第20話は1万2千文字ちょっと超え。閑話よりかはマシな文字数になりました。


次の第21話は、「宮廷魔術師団団長の奮闘②―回復魔石①」です。お楽しみに♪

第一章第21話は、12月12日(金)20:00公開です.


また、お会いできるのを楽しみにしております。


つき 千颯ちはや 拝

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