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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星カティアスの誕生
16/21

第15話 「スタンピードの経験④―テトグラン領:鎮圧と原因の解明―」

 テトグラン領に押し寄せる中型~大型の魔物たちを鎮圧する為、急ぎテトグランの町に向かったぼくたちだけど、途中で、このスタンピードの原因が、魔素を大量に含んだ雪解け水を飲んだ事による急性魔素中毒である事が分かったから、ぼくは王国騎士団所属の三人の斥候と本隊とは別に、その原因となった水溜まりを探しに行ったんだ。

 本隊の方は、真っすぐテトグランの町に向かったんだけど、本当に間一髪だったらしい。大量の魔物が防壁直前まで押し寄せていて、テトグラン領の騎士団と冒険者たちが、必死に町への流入を抑えていた所だったんだって。

 ぼくたちが水溜まりを綺麗にして、テトグランの町に着いた時は、もう鎮圧直前だったよ。

 初めての実戦だったけど、とてもいい経験になった。熟練者ベテランの話は、教科書では学べない事だらけで、とても勉強になったよ。

 スタンピードの原因が、多くの魔物が共有する水飲み場に雪解けと共に溜まった古い魔素である可能性が高い事から、ルウィージェスと王国騎士団所属の斥候三名が、原因となった水飲み場を探しに行き、それ以外は、スタンピードの本体が迫っているテトグランの町に急行する事にした。


 テトグランの町に近付くほど、多くの遺体が視界に入る。魔物の死骸も多いが、そこにある遺体のほぼ全てがかなりの損傷を受けていた。

 遺体の中には、明らかに村人と思われる者も多く含まれており、死亡した騎士の多くが、村人の護衛をしていたと思われた。

 弔いたいが、今はテトグラン領の防衛を優先しなければならない。皆、胸の中で祈りを捧げ、歩みを続けた。


 少し高い丘から来たようだ。眼下に丘から続く林が見える。その先に草原が広がり、その奥にテトグラン領の防壁が見える。まだ町中への侵入は防いでいるようだが、魔物の集団との戦闘は、かなり防壁の近くで行われている。

 

 クラウス、エルンスト、アダルベルトとカリンの四人は状況を確認し、速やかに組分けを行った。

 カリンの一団には膂力系(りょりょくけい)騎士と支援系魔術師を多めに配置した。

 今回、宮廷魔術師団団長のエルンストは、(ラン)の唄が皆に届くよう、数人の騎士と共にほぼ中央にいる為、魔術師たちは、アダルベルトとクラウスの下に入る。エルンストは属性が均等になるよう、アダルベルトとクラウスの一団に魔術師たちを振り分けた。


 カリンの一団が中央突破し、左右からクラウス一団とアダルベルト一団が挟むようにし、魔物が広がらないようにする。

 静かに移動し、テトグランの門まで一直線で行ける距離まで来た。そして、カリン一団の突入を合図に、後ろから魔物たちの鎮圧を開始した。


 (ラン)は、加護を与えたエルンストとその部下、宮廷魔術師団の団員にしか結界を張らない。

 カリンは、宮廷魔術師団の団員以外の騎士と魔術師たちに結界を張りながら、得意の長剣で突き進んでいく。

 カリンの一団は、より強く大きな魔物を集中的に倒していく。この大群の中で、大きな魔物はやはり熊種(ベアー)と大型猫種(キャット)だ。鹿種(ディアー)も少し見られたが、それほど多くは見られない。

 数として一番多いのは狼種(ウォルフ)だが、ここにきて、王城で報告はあったが、一切見かけなかったスノウ・フォックスとスノウ・ウォルフの姿が多く確認できた。スノウ・フォックスとスノウ・ウォルフは雪深い場所に()む魔物で脚力(きゃくりょく)が発達しており、足が非常に速い。あっという間に町の方まで降りてきてしまったようだ。


 エルンストの左肩に止まって、宮廷魔術師団の魔術師たちに結界を張りながら皆をスキル【応援歌】で鼓舞(こぶ)する(ラン)は絶好調だ。『おらおら』節炸裂で応援している。ルウィージェスがこの場にいて聞いていたら、脱力感に襲われただろう。

 何故か藍は騎士団員には手厳しい。魔術をあまり使わないで戦うからかもしれない。今も、『そこー、ぶっとばせ!』と発破(はっぱ)をかけている。

 何を言っているのか分からないエルンストは、一生懸命に唄う藍の姿に感動し、王都に戻ったら、果物をたくさん送ろうと考えていた。


 初めて(ラン)のスキル【応援歌】を体験するクラウスと王国騎士団団員、そして先発組の宮廷魔術師団の魔術師たちは、その効果の凄さに感動していた。騎士たちは剣の一振りの威力の強化度に驚き、先発組の魔術師たちは攻撃魔法の威力の増強度に驚いていた。

 

 突如(とつじょ)、魔物の大群の後ろから現れた援軍にテトグラン領の騎士と魔術師、そして冒険者ギルドから派遣された冒険者たちは一瞬驚き、そして歓喜(かんき)した。


 既に合流を果たしていたヘセン州領からの援軍騎士たちは、テトグラン領に来た時には、その殆どが負傷し、その数も大きく減らしていた。また、テトグラン領に属する多くの小さな町や村に派遣されていた騎士や衛兵も住民の避難を手伝ってくれたが、広範囲に点在した魔物の集団に襲撃され、大きな被害を出していた。

 しかも、城壁から見えるところにまで魔物の大群が押し寄せて来た為、騎士団と冒険者ギルドの冒険者たちは合同で対応していたが、集団を構成している魔物の種類が、いわゆる中~上位種の魔物と呼ばれるものばかりで、上級冒険者以外は戦力にならなかった。


 そこに現れたのが、二種類の鎧を身にした騎士団と魔術師団だ。


 カリンの一団は、テトグラン領の門と城壁を守る騎士らが唖然(あぜん)としている間に熊種(ベアー)を倒していき、中央突破した。完全に二つに分かれた大群は、野生の感でより弱い方に狙いを定め、真っすぐテトグランの門と城壁の方に向かっていく。しかし、中央突破したカリンの一団はすぐさま反転し、今度は門と城壁を守るように立ちはだかり、どんどん魔物を倒していく。

 前と左右に強い者たちが立ちふさがり、魔物たちは右往左往し始めた。前進する速度は極端に落ち、より強い魔物が自分の行く先を立ちふさぐ魔物を攻撃するようになった。

 それを見た(ラン)はさらに高い声でスキル【応援歌】を発動させた。藍の唄声を聞いたテトグランの町を守っていたの騎士、魔術師と冒険者たちは突如、自分の中に力が沸き起こる感覚を覚え、一瞬戸惑うが、「これなら行ける!」と感じ、前線に出てきて戦い始めた。彼らは、魔物同士で戦い傷ついた魔物たちを確実に倒していった。


 別行動をしていたルウィージェスたちがテトグランの城壁が見えるところまで来た時には、残っている魔物の数も僅かになっており、カリンたちの元にたどり着くまでに遭遇した魔物だけを倒せばよい状態にまでになっていた。


 一緒に行動した斥候たちには、各団長にルウィージェスの戻りを連絡するようにお願いし、ルウィージェスは残り少なくなった魔物たちを【土魔法:飛礫(つぶて)】で倒しながら、真っすぐカリンの元に向かった。


 城壁の上から見ていた騎士たちは、避けることを一切せず、真っすぐに進んでくる一人の子どもの姿に驚いていた。しかも、その子どもが通ると魔物たちが勝手にバタバタと倒れていくのだ。

 【土魔法:飛礫(つぶて)】で飛ばす小石は直径2センチもない。少し離れた城壁の上からは飛びまくる小石を目視することが出来ず、勝手にバタバタと倒れるように見えていた。


 「カリン、お疲れ様~」

ルウィージェスが走りながらカリンを呼んだ。

「ルウィージェス様!」

カリンは一旦手を止め、ルウィージェスの方向に歩き出した。

 ルウィージェスはカリンに抱き着き、「原因は解決したよ」と伝えた。


 二人が話している間にも魔物たちは襲いかかるが、全てルウィージェスの【飛礫(つぶて)】で倒されていった。


 そして、全ての魔物が倒され、完全鎮圧が宣言された。


 王国騎士団団長クラウス・フォン・シューバート子爵により完全鎮圧宣言がなされた後、騎士と魔術師たちと、テトグランの冒険者たちで魔物の片づけを開始した。


 クラウス、エルンスト、アダルベルト、ルウィージェスとカリンは、ザイラント州領テトグラン領の領主邸に案内された。

 テトグラン領領主マーティン・フォン・ガイガー・テトグラン子爵は、全員に対し深く礼をした。

 王国騎士団長のクラウスより、ルウィージェスはリリーエムラ公爵の実弟で、カリンは専属護衛騎士と紹介された。


 テトグラン領領主ガイガー子爵によると、州領主カール・フォン・ハイデッガー伯爵はスタンピード発生後、すぐさまこのテトグラン領に向かったのだが、魔物の大群に(はば)まれ、途中で引き返してしまったとの事だった。

 また、通常のスタンピードとは異なり、今回は広範囲に渡る複数の個所で魔物の大群が同時多発的に目撃された。それにより、騎士の派遣をしていなかった距離が離れた複数の小さな村々に騎士団を派遣する必要があり、テトグラン以外の、衛兵を組織している町へも応援を依頼し、近隣の村人の護衛を頼んだのだが、まともにテトグラン領までたどり着けたのは、ほんの(わず)かだった。途中で見かけた多くの遺体は、やはり、避難途中の村人と村人を護衛していた騎士や衛兵たちのものだった。

 近隣の州領からも応援を出してくれたようだが、州領主同様に、ここまでたどり着く事が出来ず、唯一たどり着いたヘセン州領の騎士たちも、多くが命を落とし、多くが既に負傷した状態だったという。


 「つまり、ここまで無事にたどり着いたのは、我々だけだった、という事か。」

クラウスは驚きながらも、自分たちも危なかった事を思い出していた。

「一番遠いリリーエムラ公爵家の騎士団・魔術師団の方々が、ここまでたどり着いた事に本当に、本当に驚いております。」

テトグラン領領主ガイガー子爵はルウィージェスとアダルベルトを見ながら言った。


 詳しくルウィージェスたちの事を話すことはできない為、エルンストが、ルウィージェスとカリンの二人の魔術の威力は、宮廷魔術師団が教えを()うほどである、と説明した。

 領主ガイガーは、王国最強の魔術師として名高い宮廷魔術師団の団長がそう説明したルウィージェスが、成人にもはるかに遠い、本当に子どもであるにも関わらず、今回のスタンピード鎮圧に参加している事に納得した。


 クラウス、エルンストとアダルベルトは、ここにたどり着くまでに遭遇した魔物たちについて話し、ここに来る途中でルウィージェスが、スタンピード発生の元凶として、多くの集まる水飲み場の水に原因がある可能性に気付いた事を話した。

 そして、ここにくる前に二手に分かれ、ルウィージェスがその水飲み場を確認しに行った事を話した。

ただし、古い魔素溜まりについては触れなかった。また、「魔素」という単語も、一般には馴染みがない為、全て「魔力」と説明した。


 「ルウィージェス様が行ってみたところ、異常な魔力量を含んだ水飲み場を確認しました。一緒に確認しに行った私の部下によると、普段から多くの動物や魔物が利用している様子が見て取れたにも関わらず、小動物一匹すら、水飲み場の近くにいなかったそうです。小鳥の(さえず)りさえも消えていたそうです。」

クラウスは続けた。

「今回のスタンピードの原因を、魔力過多中毒と考えると、色々と納得がいくわけです。」


 クラウスとアダルベルトは、それぞれが経験した、今までのスタンピード大きく異なる点を挙げた。

「なるほど。」

領主ガイガー子爵は、大きく頷きながら言った。

「確かに、今回のスタンピードでは、広範囲に渡る複数個所で魔物の大群が目撃されました。その為に、我々は兵力を集中させることが出来ませんでした。しかも、今説明を受けて気付いたのですが、州領主がこちらに向かってくる方向と、ヘセン州領からこちらに向かってくる方向とは、全く異なっていました。それにも関わらず、双方で大きな魔物の大群に遭遇しました。」

「よって我々は、今回のスタンピードは、魔力過多中毒を起こした複数の魔物によって連鎖的に引き起こされたものだと考えています。そして、ザイラント州領側により多くの魔物が流れた理由として、反対側に複数の熊種(ベアー)の営巣地があったこと。実際我々はテトグランの町に一番近い森にマウンテン・ネイルベアの営巣地及び縄張りを確認しました。それが一番大きかったと考えています。」

クラウスは、ルウィージェス、エルンスト、アダルベルトを見ながら、領主ガイガーに答えた。


 「ルウィージェス様、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

ガイガーが、少し躊躇しながらルウィージェスに声を掛けた。

「はい。なんでしょう?」

「今回のスタンピードの元凶として水飲み場に思い至ったのは何故でしょうか?」

 ルウィージェスは少し考えてから答えた。

「今回、王国騎士団団長も宮廷魔術師団団長も、アダルベルト騎士団長も、全員揃って、何かがおかしい、と言っていました。皆、経験豊かな熟練者です。だから、本来の魔物ならどう行動するか、を考えました。そこで気付いたのが、今回遭遇した魔物の種類の異常さです。本来、弱い魔物ほどパニックに陥りやすい為、簡単に、かつ、連鎖的に異常行動を起こします。しかし、今回遭遇した魔物の中に、弱い魔物と言われる種類を全く見ませんでした。」

 ルウィージェスは一旦言葉を切り、領主ガイガーを見た。ガイガーはじっとルウィージェスの言葉に耳を傾けていた。

「ここにたどり着くまでに一番多く見かけたのが、狼種(ウォルフ)熊種(ベアー)、大型猫種(キャット)でした。これらに共通するのが、魔法は使わないが、比較的高い魔力を保持し身体機能強化に使っている、という事です。そして、これらの魔物には、比較的奥深い山間部に多く()むという共通点もあります。なので、彼らの縄張りには必ず重複する部分がある。その重複する部分で一番可能性が高いのが、水飲み場です。」

 領主ガイガーは驚きに目を大きく見開いた。

「でも、確証を得るだけの根拠はありませんでした。しかし、クラウス団長たちが、魔物出現地域を確認している時、水飲み場が多く発生する山の麓を中心に、扇形に魔物の出現区域があるのを見て、確信しました。それに、魔素…いえ、魔力過多による中毒が原因と仮定すれば、今回下位の魔物や普通の動物たちが一切現れなかった事も説明がつきます。下位の魔力を持たない魔物たちや普通の動物は、魔力を多く含む水を飲むことができません。だから、上位の魔物のように、魔力中毒を起こせないんです。」

 ルウィージェスはガイガー領主を見た。

 領主ガイガーはあまりの驚きに言葉を失っていた。


 言葉を発することが出来ないガイガーにクラウスは言った。

「先ほどお話しした通り、ここに来る前に、ルウィージェス様には部下数人と共に森の奥に行っていただき、魔力を異常に含む水飲み場を探してもらいました。そこで、ルウィージェス様が水飲み場の水及び周辺環境を正常化しました。その後、小鳥が戻ってきて、普通に水を飲む姿を部下も確認したとの報告を受けています。ですので、魔力過多中毒によるスタンピードが、また近日中に起こることはないだろうと考えています。」


 ガイガーは乾いた喉を潤すためか、カップに残っていた紅茶を飲み干した。

「ルウィージェス様の洞察力には感服いたしました。しかし、一つ疑問があるのですが、」

「はい。」

「今回、その水飲み場に異常な程の魔力が溜まってしまった理由にお心当たりはあるのでしょうか?」

「ガイガー領主、この冬のテトグランの積雪量もしくは降雨量、例年よりも多くありませんでしたか?」

 ルウィージェスからの意外な質問に、ガイガーは不意を突かれる感じになった。

「え、ええ、確かに、今年は珍しく雨よりも雪が多く、積雪により雪かきをする回数が多かったです。」

「雪に多くの魔力が閉じ込められたんだと思います。例えば熊種(ベアー)のように、魔力を多く持つ魔物の死骸に雪が積もれば、雪に魔力が溜まりますから。今年は例年になく雪が多く積もりました。その為に、普段より多くの魔物が雪に閉じ込められてしまったのではないか、と思っています。それが、雪解けと共に魔力が流れ出し、山の麓の水飲み場に多く流れ込んでしまったんだと思います。直接、原因となったと思われる大きな水飲み場に行って確認してきましたが、あの水飲み場には、山からの雪解け水の流れが複数ありました。一方で、その出口を認めませんでした。地下水となって流れていくタイプの水溜まりなんだと思います。また、あの水飲み場以外の複数の水飲み場で同様の事が起こったと考えています。だから、これだけ広範囲に渡る魔物たちが影響を受けたのでしょう。」


 「それでは、」

ガイガーは、喉を鳴らした。

「このテトグラン領では、過去の何度か、これほど大規模なスタンピードは記録にございませんが、もう少し規模の小さい魔物の氾濫を経験しています。もしかしたら、過去の氾濫の原因も、今回と同じ魔力過多中毒だった可能性も考えらえる、という事でしょうか。」

「もし、魔物の氾濫が起こる前に雪の多い冬を迎えていれば、その可能性は十分考えられるのではないでしょうか。熊種(ベアー)の営巣地の場所と縄張りも、こちら側に魔物を寄せる理由だったと思われますし。」

 ガイガーは下を向き、考え込んだ。

「もし、その水飲み場に、人工的にでも出口を作れば、また雪が多く降っても、魔力過多中毒を起こすような異常な魔力が水に溜まるのを防げる、…のでしょうか?」

「水飲み場から水が必要以上に流れ出さないように気を付けて出口を作れば、あるいは。」

 ガイガーは完全に考え込んでしまった。


 防壁に向かって歩いていると、防壁の向こうから複数の煙が見えた。倒した魔物を焼いているようだ。

 ルウィージェスとカリンは、リリーエムラ公爵家の騎士団一行を見つけ、駆け寄った。

「みんな、お疲れ様~。」

 ルウィージェスはアイテムボックスから水樽と大量のコップを取り出し、皆に振舞った。大量の魔物を焼く煙で、多くの騎士と魔術師たちが喉に違和感を覚えていたようだ。


 アダルベルト騎士団長の話では、リリーエムラ公爵家騎士団はもうしばらくこの町に残り、山に残る騎士や衛兵・村人たちの弔いや、破壊された村々の再建などを手伝うとの事だった。

 ルウィージェスは学校を休んで参加している為、皆にカリンと共に転移で先に帰る旨を伝えた。


 クラウスとエルンストにもその旨を伝えると、リリーエムラ公爵家の者と、使徒の国王以外に転移魔法を使える人はいない為、途中まで馬車で帰るフリをした方が良いとの助言を受け、急遽(きゅうきょ)テトグランで馬車を購入し、国王へ今回の結果の報告も兼ね、リリーエムラ公爵家が特殊な能力を持つ一族である事を知っている王国騎士団団員、宮廷魔術師団団員を一名ずつ選び、リリーエムラ公爵家騎士団からも一名が同行し、先に戻る事となった。

 (ラン)のスキル【応援歌】は、事後処理を行う騎士と魔術師たちの役に立つので、エルンストが責任を持って藍を預かることになった。藍もエルンストが一緒だからか、それを承諾した。


 「姉さま、ただいま戻りました~。」

なんだかんだ二週間弱もかかっていた。


 溜まった学校の課題も片付き、ようやく落ち着きを取り戻したこの日、王城から連絡が入った。どうやら、一緒に一足先に戻った三人が王都に到着したようだ。

 「この度、ルウィージェス様とカリン様には多大なるご助力を賜ったと、先に戻ってきた三人から聞きました。本当にありがとうございました。」

 国王と宰相の二人は頭を深く下げ、ルウィージェスとカリンに礼を言った。


 通された部屋には既に三人がおり、ルウィージェスとカリンが部屋に入ると、三人は立ち上がり、礼をした。

 ルウィージェスはガイガー子爵に説明した事を再度国王たちに話した。

「この冬の、あの積雪の多さが、ここまでの被害を引き起こす原因となるとは。」

国王と宰相は、リントヴルムの問題の時に、ルウィージェスが言った、今となっては予言となった発言を思い出していた。


 「王国騎士団が王都を出て、一番初めに遭遇したのはグリーン・ウォルフの大群だったのですが、今、改めて思い返してみれば、興奮した魔物というよりかは、異常に魔力で脚力を高めた大群だったと思います。グリーン・ウォルフはフォレスト・ウォルフと比べ、比較的なだらかな草原に棲むため、脚力は明らかにフォレスト・ウォルフより劣っています。しかし、あの時の大群から受けた脚力による衝撃は、明らかにフォレスト・ウォルフ並みの強さでした。当時は、スタンピード鎮圧に向かっており、興奮している魔物に遭遇することが前提にあった為、特に不思議には思いませんでしたが。」

 「我々、宮廷魔術師団はまだ王都からほど近い所でリリーエムラ公爵家と合流したのですが、エルンスト団長とアダルベル団長のお二人も、かなり初期から、魔物の出現パターンに強い違和感を抱いておりました。」

 なるほど、と頷きながら、国王と宰相はルウィージェスとカリンを含む五人に色々と質問し、二人とも細かくメモを取っていた。


 「確かにこう詳しく聞くと、今までのスタンピードとは、魔物の出現パターンが大きく異なりますな。」

宰相のオルトールドは、自身が取った記録を読み返しながら言った。

「ルウィージェス様が気付いた、魔素過多中毒によるもの、という視点から見ると、今までとの相違点の理由に納得がいく。」

国王も頷きながら言った。


 「そうなると、今後も、ここまでの大規模なスタンピードは稀としても、小規模の氾濫は、積雪量次第では、何度も起こりうるわけですな。」と宰相。

「うん。ガイガー子爵から聞いた話しだと、テトグラン領では過去にも複数回、小規模氾濫を経験しているらしいから、今後も起こりうると思う。でも、あそこに関していえば、今回、かなり大量の魔力が雪に閉じ込められたっぽいから、起こるとしても、10年とか、そういう単位での猶予はあると思う。」

 一旦言葉を切ったルウィージェスだったが、

「あ、あと、積雪だけでなく、記録的な大雨も注意が必要かもね。」

思い出したように付け足した。


 「これは各州領領主に連絡し、時間をかけてでも、今回の水飲み場に類似した水溜まり場を確認し、その存在を把握しておいた方が宜しいですな。対策が取れるようであれば、打っておいても損はないでしょう。」

国王は宰相の言葉に同意し、準備を進めるよう命じた。


 その後、王国騎士団、宮廷魔術師団とリリーエムラ公爵家の騎士団一行が王都に戻ってきた。

 長い間藍と一緒にいたエルンストは、(ラン)がいない左肩をさみしく感じていた。


 それから数日後、エルンストがリリーエムラ公爵家を訪ねてきた。その手には藍へのフルーツセットがあった。

第15話でようやく、4話に渡ったスタンピードですが、完全鎮圧完了です。今回の一番の立役者は、『魔道神鳥』ランに、なるのかな?藍は、神鳥なので、自分が加護を与えたエルンスト魔術師団団長とその部下だけが保護対象と考えているので、騎士たちの結界はルウィージェスとカリンがしていました。そう考えると、カリンが一番の立役者になるのか?


スタンピード偏、まだルウィージェスのアイテムボックスに保管してある食材(肉)と素材があるので、まだ、後片付け偏が残っています。


次の第16話は、「スタンピードの経験⑤―素材の値段―」です。お楽しみに♪

第一章第16話は、11月07日(金)20:00公開です.


また、お会いできるのを楽しみにしております。


つき 千颯ちはや 拝

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