第14話 「スタンピードの経験③―王国騎士団との合流―」
無事に王国騎士団と合流できて、安心した。
宮廷魔術師団のエルンスト団長から聞いた話では、(多分神族のぼくとカリンによって古い魔素が吹き飛んでしまったから)作成過程で(多分魔力配分を誤り)問題が起こった為に作り直したマジックポーションを運ぶ為、攻撃系の魔術師が、マジックポーション運びの方に、少し偏っていたらしいからね。
補助・支持魔法を得意とする魔術師は本隊の方に割り振ったらしいけれど、それでも、遠距離攻撃の人数が少ないと、騎士たちの体力を大きく削るからね。
エルンスト団長も気が気ではなかったようだ。ぼくもその話を聞いた時、原因に心当たりがあっただけに、気が気ではなかったよ。
無事に合流できて安心した所為か、もうお風呂に入りたくて。【生活魔法:清潔】で誤魔化すだけの日々が、もう我慢できなくなって、作っちゃった。露天風呂。お風呂の湯を追加する魔石、清潔に保つ魔石、温度を保つ魔石など、沢山付けたよ。好評だったよ、特に女性騎士と魔術師たちに。沢山感謝されちゃった。やっぱり、お風呂、大切だよね。
二度目の鎮圧も負傷者無で完了させた翌朝、リリーエムラ家の騎士団と宮廷魔術師団が先ず行った作業は、恒例となりつつある、『電撃付き結界』に阻まれ感電死した魔物たちを結界内に引き入れ、食用魔物は保管、非食用魔物で素材になる物は素材にし、同じくルウィージェスのアイテムボックスに保管し、食用にも素材にもならない魔物を穴に埋める作業だった。魔物の血の処理は、これからの事を考え、ルウィージェスが魔術で片づけた。
この日、一行が更に森の奥に進んでいくと、斥候より、先に多数の遺体があるとの報告があった。
アダルベルト、カリンと数人の騎士たちでその様子を確認することにした。
そこには多くの魔物の死骸と、食い散らかされた遺体が散乱していた。
騎士の鎧に刻まれた紋章より、現在地のザイラント州領の東隣にあるヘセン州領の騎士団の者たちと思われた。
魔物の死骸の多くが深い傷を負い、かなりの激戦が繰り広げられたことが推察され、多くが熊種と確認できた。しかもその殆どが、体躯と爪を異常に発達させた、非常に凶暴なマウンテン・ネイルベアだった。
「よりによって、マウンテン・ネイルベアの大群と遭遇してしまったのか。」
アダルベルトは顔をしかめながら呟いた。
「小隊一団分はありそうですね。」
一緒に確認しにきた騎士は、辺りを見渡し言った。
「マウンテン・ネイルベアと遭遇する事なんてまずないからな。作戦を立てる余裕があっても、そもそも我々には対マウンテン・ネイルベアの経験値が圧倒的に少ない。作戦通りには行かなかったことは容易に想像できる。」
カリンも、その壮絶な現場に言葉が出なかった。
アダルベルトが後ろに続く部下に伝えた。
「弔いの意味もあるが、この惨状を未成年のルウィージェス様に見せたくない。」
複数のマウンテン・ネイルベアからの血臭が強い為、放置しておけば狼種などの下位の魔物は近付いて来ないだろうと思われた。
「誰か、もう少し呼んできてくれ。亡くなった騎士たちを弔い、魔物たちを埋めよう。血は狼種たちの忌避になるから、そのままでいい。」
残すところ僅かとなった時、斥候から、この先2キロ程に、熊種を多く含む魔物の集団を認める事、そして、王国騎士団と思われる一団が対峙している旨の連絡が入った。
「連戦になるが、幸い我々には負傷者がいない。昨夜もルウィージェス様の結界内で十分に休憩を取る事が出来た。」
アダルベルトは皆を見ながら言った。
「この先で、王国騎士団らしき一団を斥候が確認した。我々はちょうど、魔物集団の後ろから攻めるようになる。王国騎士団の負担を減らす為、これから我々も移動し、現場を確認し次第、作戦を立て、戦いに加わる。」
「魔術師団も、十分に魔力は回復していると思う。今回も熊種が多いとの報告から、補助系魔術師の働きがカギとなる。マジックポーションは潤沢にある。絶対に無理せず、こまめに魔力補給を行うように。」
エルンストも、魔術師団を鼓舞した。
周りを警戒しながら移動していくと、木という木に、大きな爪で引っかいた跡を多くみられるようになった。どうやら、マウンテン・ネイルベアはここを棲み処としていたようだ。
糞も大量にあり、左右及び後方からの下位の魔物による襲撃は心配しなくて済みそうだ。
しばらく進むと人の声が聞こえてきた。どうやら、王国騎士団が対峙している場所に到着したようだ。
アダルベルト、エルンスト、カリンと数人の騎士が先に行き、状況を確認する。
「大分、苦戦していますな。」
「魔術師たちがかなり疲弊しているのが、ここからでも分かりますね。」
眉間にしわを寄せて話すのは、アダルベルトとエルンスト。
「熊種が6割と言ったところでしょうか。」
カリンも、眼下に見える戦場から目を離さない。
「後ろ、ここから見えるは、熊種6割、大型猫種3割、その他1割と言ったところだ。」
と少しだけ大きめな声を出し、後ろに続く部下へ状況を伝えた。
「大型猫種が多いのは厄介ですね。熊種で膂力系の騎士が取られるのに、力とスピードを併せ持つ大型猫種も、となると、補助系魔術師も大きく分けなければならない。」
エルンストが腕を組みながら、部下の配置を考える。
「ルウィージェス様の殲滅力を考えると、個人で動かれた方が楽かもしれないな。」
「同感ですね。」
エルンストも、アダルベルトの意見に同意した。
先日と同じように、熊種をカリンと膂力系の騎士と支援系魔術師の一団が担当し、アダルベルトとエルンストが残りをまとめ、ルウィージェスは単独行動とした。藍はエルンストの左肩で皆を鼓舞する。
最初に飛び込んだのはルウィージェス。広範囲に魔物の数を減らして、魔物の意識を後ろに逸らせ、王国騎士団と魔術師に余裕を与える。使う魔術は、いつもの初級魔法【土魔法:飛礫】だ。今回は後ろからの攻撃の為、延髄を狙って放った。もちろん倒した魔物はアイテムボックスに回収する。
突然、多くの魔物が後ろに意識を逸らした為、王国騎士団の騎士と魔術師たちは一瞬驚いたが、騎士と魔術師の一団の姿を山側に認め、味方の到着を確信した。
指揮を執っていた王国騎士団団長クラウス・フォン・シューバート子爵は、魔物たちの意識が後ろに移ったのを見逃さず、負傷した騎士と魔力切れを起こしかけている魔術師たちに下がるよう命令を出し、自身は下がる騎士と魔術師を守るように前に出て、魔物の追跡を許さなかった。
ルウィージェスの殲滅力は凄まじく、みるみる魔物が減っていく。
カリン率いる一団も、カリンの結界に守られながらマウンテン・ネイルベアを一気に倒していく。
藍のスキル【応援歌】でステータスが全面的に上昇した騎士たちと魔術師たちも、藍とルウィージェスの結界に守られながら、どんどん進み、あっという間に十数匹の熊種を残すのみとなった。
疲弊していた王国騎士団団員と宮廷魔術師団団員は、クラウスの命令にてすべて下がり、後ろからの援軍の猛攻を半ば呆然と見つめていた。
アダルベルトとエルンストはクラウスと合流した。
「リリーエムラ公爵家の騎士団と宮廷魔術師団だったか!助かった。」
クラウスはそう言うと、安心したのか、座り込んでしまった。ギリギリだったようだ。
そこにルウィージェスも合流した。
「ルウィージェス様!」
クラウスは驚き立ち上がろうとしたが、よろけてしまった。
「大丈夫、そのまま座っていて。」
ルウィージェスはクラウスに【回復魔法:ヒール】と【回復魔法:リフレッシュ】をかけた。
「ルウィージェス様、すまない。ありがとうございます。」
クラウスは全身から傷と疲れが消え、体力が回復したのを自覚した。だが、直ぐには立ち上がることはできなかった。
そこに、熊種をすべて片づけたカリン一団も戻ってきた。
「カリン、お疲れ様。皆も、ゆっくりしてね。」
ルウィージェスが一団を労った。
ルウィージェスは『電撃付き結界魔石』を張り安全を確保し、そして、宮廷魔術師団と王都騎士団の面々は互いに再開を喜び合った。
その後、無傷な者、主にリリーエムラ公爵家の騎士団と後発組の宮廷魔術師団で、回復魔法が使えない魔術師たちは、殲滅した魔物たちを片付ける班、設営の準備をする班と、食事の用意をする班に分かれた。
負傷した王国騎士団の騎士たちと、先発組の宮廷魔術師団の魔術師たちは、エルンストの指示により中等度から重症者と軽症者に分かれ、中等度から重症者はルウィージェスの【回復魔法:エリアハイヒール】で治癒を促し、【回復魔法:リフレッシュ】で体力の補給を行い、軽症者は宮廷魔術師団の後発組で回復魔法が使える者による治療を受けた。
とはいえ、精神的な疲労は回復魔法では癒せない為、治療を受けた多くの騎士と魔術師たちはそのまま休む事にした。
王国騎士団団長クラウス・フォン・シューバート子爵、宮廷魔術師団団長エルンスト・フォン・フォーゲル伯爵とリリーエムラ家の州領騎士団団長アダルベルト・フォン・ケーニッヒ騎士爵は、情報交換をしていた。
やはり途中で見かけた遺体はヘセン州領の者たちで、クラウスが率いる騎士団がこの地に到着した時には、既に、あの状態だったと言う。
幸い王国騎士団の中に死亡者はいないが、重症者を多数出してしまったという。
ここに到着するまで、主に狼種の集団ではあったが、それ以外に、本来の棲息地から外れた場所で、多様な熊種にも遭遇し、予想を遥かに上回る連戦に次ぐ連戦で、王国騎士団が持参したポーションもマジックポーションも、残り僅かな状態となっていたところに、今回の魔物の集団と鉢合わせてしまったという。
ポーションの数も、戦える騎士の数も、本当にギリギリの所だったとの説明だった。
それを聞いたアダルベルトとエルンストは、申し訳なく感じてしまった。
エルンストは、マジックポーションの準備に時間がかかり、遅れて王都を出発したが、途中でリリーエム公爵家の一団と合流することが出来たことを話した。
エルンストは、リリーエムラ公爵家の一団と合流できなかったら、自分たちがここまでたどり着けたかわからなかった、と言い、アダルベルトも、ルウィージェスとカリンが参加しなかったら、かなりきつかった筈だと説明した。
クラウスは、アダルベルトとエルンストからルウィージェスとカリンの実力を聞き、驚きに言葉を失った。
「そんなに強いのか、お二人は。」
「ランも、本当に凄かった。」
エルンストが藍の活躍ぶりを話した。
「それでは、ここに来るまでに複数回戦ってきたが、負傷者皆無で、マジックポーションの消費も殆どなく来たと?」
「魔術師団も全員、ルウィージェス様とランの結界魔法で守られながら戦ったから、直接攻撃を受けても受傷することも慌てることもなく、冷静に攻撃魔法を放つことが出来た。」
クラウスは驚きのあまり、口をパクパクさせるが言葉にならなかった。
食事の準備が出来たとの連絡が入り、一旦話を止めた。
クラウスを始めとする騎士団にとっては、久し振りの温かい食事と、緊張から解放された時間だった。
食事中も断続的に魔物が襲ってきたが、いつもの通り、その全てが結界に阻まれ、結界の雷魔法で感電死する。食料になる魔物のみ結界内に引き込み確保した。素材は、王国騎士団で確保したい分だけ解体し、ルウィージェスのアイテムボックスに保管した。
王国騎士団の面々は、初めの頃は魔物の姿をみる度に緊張し武器を取り、リリーエムラ公爵家・宮廷魔術師団の面々が全く気にせず食事を続けている様子に驚いていたが、そのうち慣れてきたのか、「あ、まただ」と言いながら食事を続けるようになった。
その夜、ずっとお風呂を我慢し、【生活魔法:清潔】で誤魔化していたルウィージェスだったが、とうとう我慢できなくなり、土魔法、水魔法、火魔法で露天風呂を作り、【回復魔法:ヒール】を湯に溶かし、クラウス、エルンスト、アダルベルトの四人でゆっくりと全身を癒した。藍も、羽を広げ、湯にプカプカ浮きながら、楽しんでいた。
その後、お風呂は他の面々に解放され、皆も久しぶりの湯を楽しんだ。
もちろん、カリンと他の女性騎士、魔術師たちの為に別に露天風呂を作り、中級魔法【混合魔法:ベール結界】で完全に外からの視界と中からの音漏れを遮断し、女性たちも安全にお風呂を楽しんだ。
久し振りにゆっくりと【ヒール】を溶かした湯船に浸かり、心身ともにすっきりさせたルウィージェスは、改編魔法の練習で仲良くなった若い女性宮廷魔術師団の一人から湯上り用のハーブティーを受け取り、一緒に歓談していた。
しばらくすると、カリンと他の女性魔術師団員と女性騎士らもすっきりした顔でお風呂から出てきた為、今まで話していた面々は交代で風呂に入りに行った。
カリンたちもお風呂に入れたことで気分転換になったと言い、皆でハーブティーを楽しんだ。
ルウィージェスたちが湯上りハーブティーを楽しんでいた時、各団の責任者である王国騎士団団長クラウス・フォン・シューバート子爵、宮廷魔術師団団長エルンスト・フォン・フォーゲル伯爵とリリーエムラ公爵家の州領騎士団団長アダルベルト・フォン・ケーニッヒ騎士爵の三人はこれまでに遭遇した魔物の情報交換を行っていた。
「先ほどクラウス団長も言われていましたが、我々が来る途中でも、本来の棲息地から外れた、多くの熊種が含まれていましたし、直前の森の中では、マウンテン・ネイルベアの営巣地と思われる場所がありました。この辺りをマウンテン・ネイルベアが縄張りとしていたと考えれば、多くの魔物がザイラント州側に移動したのも納得がいきますね。」
テーブルの上に広げた地図に、自分たちが辿った道を指で示しながら、エルンストが言った。
「本来ならもう少し奥まで行かないと遭遇しない複数の熊種に、進行初期から遭遇したのも、負傷者が増えた一因であることは間違いない。」
クラウスも頷いた。
「本来、このような開けた山の麓でこれだけ多種に渡る熊種に遭遇する事は、まずあり得ない。これも、リントヴルム暴走の影響なのか。それとも、」
アダルベルトは歯切れの悪い言い方をした。
「山を下りた熊種が多いのはリントヴルムの影響だと思われるが、ただ、正直言って、今回のスタンピードには奇妙な点が多すぎるような気がしてならない。」
クラウスの言葉に、エルンストとアダルベルトも頷いた。
しかし、現時点では情報が足りないとの事で、早々に切り上げることにした。
クラウスが、「本当に大丈夫なのか?」と心配していたが、アダルベルトとエルンストだけでなく、エルンスト達後発組の護衛として共に行動していた騎士団の部下からも説得を受け、この夜も見張りなしで全員が就寝に付き、朝、すっきりとした気分で目を覚ました。
そして、完全に恒例行事となった結界の外の魔物たちを片付けた。
この日の作戦会議は、王国騎士団の斥候とリリーエムラ家の斥候が合同で広範囲に渡って調べた情報を元に行う事にした。
合同斥候の調査の結果、ザイラント州領の山間にある複数の村が壊滅状態である事、村からは既に避難した後だったのか、襲撃を受けた村々に人の気配は感じなかった事、複数の個所で魔物と戦ったような跡を認めた事、弔ったような跡も複数あることから、かなりの被害を受けている可能性が高い事、そして、物凄い大群がザイラント州領にある比較的大きな街テトグラン領のかなり近い所まで近付いている事が報告された。
斥候の話を聞きながら地図を見ていたルウィージェスが、ある事に気づいた。
「クラウス団長、今、魔物の大群はこっちに向かっていて、」とテトグランを指さした。
「で、ぼくたちはこっちから来て、こっち側から来た魔物たちと遭遇した。」
ルウィージェスは自分たちが辿った道を指さした。
「そして、王国騎士団はこっち側から向かってくる魔物の集団に出会った。」
そう言いながら、今度は王国騎士団が辿った道を指さした。
「こう見ると、三角形というか、扇形になっているよね?」
クラウス、エルンスト、アダルベルトの三人は、ルウィージェスが示した扇形の中心点に目を止めた。
「今回のスタンピードって、このあたりから始まったんじゃないかな?」
ルウィージェスが指さしたのは、ちょうど山の麓に当たる場所で、今回の進行では、山の麓で道が悪い為に迂回した場所だった。
「ここって、この高い山から雪解け水が流れ込む場所だよね?」
クラウスとエルンストは、リントヴルムの件を思い出していた。
「それでは、ここに強い魔物がいて、リントヴルムの時のように、多くの魔物が逃げてきた結果の可能性があると?」
クラウスが聞いた。
「ううん、今回は違うと思う。そんなに強い魔物の気配はないし。どちらかというと、ここを飲み水の場としている多くの魔物が、雪解けと共に濃度が高くなった古い魔素を大量に摂取したことによって大暴れしたって感じなんじゃないかな?魔素中毒みたいな感じ?」
思わぬ原因の可能性に三人は言葉を失った。
少し経ち、落ち着きを取り戻したエルンストが、思い出したように言った。
「あ~、でも確かに、そう考えると、魔物たちが扇形に広がって移動したのも納得がいきますね。スタンピードでここまで広範囲に魔物が現れるというのも、今まで聞いた事ありませんでしたし。」
アダルベルトも今までの経過を思い出しながら言った。
「確かに、私も王国騎士団と合流を果たす前に、これほどまで多くの魔物と遭遇するとは考えていなかった。スタンピード中、進む方向から外れる一群は常にある程度はいるが、ここまでバラバラに遭遇するのは、予想外だった。」
アダルベルトの言葉に、エルンストも頷いた。
「今までのスタンピードは、その原因は強い魔物同士の縄張り争いが多く、興奮した仲間たちによって追い出された下位の魔物たちが逃げることで起こるのが通例だったが、今回の理由だと、バラバラの時期にバラバラの群が暴れ出し、どちらかというと連鎖的に起こった、という感じだったのかもしれないな。あ~、だからここまで見事にバラバラに魔物に遭遇したというわけか。」
クラウスは、度重なる魔物の襲撃であまり深く考える暇がなかったが、昨夜の会議でも話した通り、どこか違和感を覚えていた。違和感の原因が魔物たちの行動バターンだった、という訳だ。
「テトグラン組と原因となった水場を探す組の二組に分かれよう。ルウィージェス様は水場を探す組で決定だが、」
クラウスはエルンストとアダルベルトを見た。
お互いの戦力の特徴を考えながら混合団を結成した。
ルウィージェスには斥候が3人付き、カリンはテトグラン組に入った。ルウィージェスだけで殲滅力は十分だからだ。
今回も、藍はエルンストの左肩の上から皆を鼓舞する。ただし、加護を与えたお気に入りのエルンストとその部下にしか、その手を差し伸べない。気まぐれで騎士にも結界をかけてくれるかもしれないが、それは期待できない。
ルウィージェスは別行動なので、カリンが騎士団に結界神術をかける。
藍のスキル【応援歌】は藍の唄が聞こえないと効果を得られない為、エルンストは、魔術師としては滅多にしない前衛に立つことにした。エルンストの攻撃力も騎士団のそれと引けを取らないが、念のため、数人の騎士をエルンストに付ける事にした。
ルウィージェスは斥候の案内で森の中を進んだ。獣道すらもない場所だ。しかし、ルウィージェスは中級魔法【風魔法:浮遊移動】を使って、地上1メートルほどの所を移動しており、特に問題になることはなかった。
単発的に魔物が襲ってきたがルウィージェスは初期魔法【石魔法:飛礫】ですべて対処する。
より魔物が多く棲む森の奥に向かっているにも関わらず、単発的にしか魔物と遭遇しない。この辺りからスタンピードが発生したとみて間違いないだろう。残っている魔物が少な過ぎる。
時々、ルウィージェスは魔素の気配を読みながら斥候に方向を伝え、多くの魔物が水場となりそうな場所を探した。
1時間程探しただろうか。強い魔素溜まりを感じ取り、斥候に方向を伝えた。
斥候の一人が大きな水場を発見した。その方向に向かうと、更に強い魔素溜まりを感じた。
「うん、ここだね。ここに大量に魔素が溜まっているけど、古い魔素が圧倒的に多い。」
ルウィージェスは水が流れてくる方向を見た。この場所から先は急激に険しくなっており、複数の水の流れが確認できる。
「ここからちょっと先は渓谷だね。渓谷に棲む大型猫種が現れたのも納得だ。」
おそらくここの水飲み場は、この付近では最大のものなのだろう。水場の周りはかなりしっかりと踏み固められ、しかも、踏み固められた面積も結構なものだ。
しかし、今、この水飲み場に魔物・動物の姿が一切ない。鳥の囀りさえ聞こえない。
普通の動物はまずこの水を飲むことができない。小さく弱い魔物も飲めないだろう。
だから、今回のスタンピードでは、狼種以下の弱い魔物の姿を一切見なかったのだ。
ルウィージェスの説明を聞いた斥候たちは、その異常さに気付いていなかったようだ。
「そういえば、今回のスタンピードでは、一匹もゴブリンやオークとか猪と言った、馴染みのある魔物を見ていませんね。」
ルウィージェスは【神術:魔素消去】を無詠唱で発動し、水場の中に溜まった魔素をすべて消した。そして、多くの水の流れが合流する場所に、水場に流れてくる古い魔素を減らす為、複数の『魔石』と説明した『聖石』を設置した。その後、【水魔法:清浄】を発動させ、新しい純粋な魔素を少しだけ水に混ぜた。ついでに、水場の周り一体に【風魔法:清浄】を唱え、古い魔素を吹き飛ばし、無詠唱で【神術:魔素消去】で吹き飛ばした古い魔素を消し、新しい魔素に置き換えた。
「よし、こんな感じでいいかな。」
ルウィージェスがそう言い帰ろうとした時、一羽の鳥が飛んできた。
魔道生物の鳥、魔鳥のオオジュリンだ。普通のオオジュリンは茶色と黒と白の三色でスズメのような鳥だが、魔鳥オオジュリンは緑一色だ。メジロによく似ている。
魔鳥オオジュリンはルウィージェスの近くの枝に止まった。
「もうこの水、君にも飲める筈だよ。」
そうルウィージェスが言うと魔鳥オオジュリンは水辺に来て、ツンと水を嘴でつつき、まるで味見するかのような仕草を見せた。
しばらく、嘴をパクパクさせ、頭を左右に振りながら味を確かめると、安全だと確信したようだ。今度は本格的に飲み始めた。
「うん、これでもう大丈夫だね。皆の所に行こうか。」
ルウィージェスたちは、テトグランに向かって移動を始めた。斥候の案内で最短距離を進むこと出来た。
第14話で、無事に王国騎士団と合流しました。スタンピード発生の原因も分かり、発生源を綺麗にしたので、後は、街に攻め入ろうとしている魔物たちの殲滅を残すのみです。
スタンピード戦、残すところ僅かとなりました。
次の第15話は、「スタンピードの経験④―テトグラン領:鎮圧と原因の解明―」です。お楽しみに♪
第一章第15話は、10月31日(金)20:00公開です.
また、お会いできるのを楽しみにしております。
月つき 千颯ちはや 拝




