第12話 「スタンピードの経験①―予兆―」
地上に降りてから、一つ大きな楽しみが出来ました。それは、その日の天気を予想する、です。朝は晴れていたのに夕方になったら雨が降ってくることもあって、本当に面白い。神界には天候なんてないからね。
それに、色々な模様の傘もあって。ぼく、長いの3本と折り畳みを2本持っている。姉さまが「そんなに持っていてどうするの?」って呆れていたけど。ランが家族になった後、鳥模様の傘、買っちゃった。ランも気に入っているよ。
姉さまの懸念が、とうとう顕在化してしまいました。いつかは起こるだろうと思ってはいたけれど。
先に、魔法陣の不具合に気付いて良かった。正直、あの規模のスタンピードなら、ぼく一人で片付けられる。けれど、本来神族は、地上の人々と深く付き合ってはいけないという規則がある。
ぼくの役割が、古い魔素問題の解決だから、例外的に人々の中に入って生活しているけれど、それでも、基本的に地上の問題は地上の生命体が解決しなければならない。ぼくはあくまでも補助に徹しないといけない。
だから今回の問題も、半分は地上の人たちで解決しないと、過干渉になってしまう。
どこまで関与するか、ホント、悩ましい。
王国騎士団の訓練場で、初級魔法の魔法陣に不具合がある事を説明をしたルウィージェスたちは、今度は、改編魔法陣そのものの説明をする為、宮廷魔術師団団長エルンストの案内で、宮廷魔術師団の棟へ移動した。
魔術師団の訓練場に行く前に、団長・副団長の執務室がある部屋に向かった。
エルンストがドアをノックし開けると、そこには、40歳代の女性がドアの前に立っていた。団長のエルンストとも、一般の魔術師団団員とも、少し異なる制服を着ていた。
「初めてお会いいたします。魔導王ルウィージェス様、従属神・護衛カリン様。」
ルウィージェスとカリンだけでなく、エルンストも驚き女性を見た。
「私は、ケーニッヒ伯爵家長女、ザビーネ・フォン・ケーニッヒと申します。今は、アインホルン伯爵家に嫁いでおります。以後、よろしくお願いいたします。」
ザビーネは片膝をつき騎士の挨拶をした。
「ん?ケーニッヒ伯爵家?あれ?」
「はい、リリーエムラ公爵家王都の屋敷にて王都騎士団団長を務めておりますウィルヘルムは、私の末弟でございます。」
「え~、ウィルヘルム騎士団長のお姉さま?」
「はい。」
ザビーネは笑顔で答えた。
「なるほど。だからルウィージェス様とカリン様が神族であると知っていたのだな。」
「はい。この間弟に会う機会があり、その時にルウィージェス様とカリン様がご降臨なされた旨を聞きました。」
エルンストは先ほどの話の概略をザビーネの説明し、ルウィージェスから魔法陣の描き方を学ぶ事になった旨を伝えた。
「私も訓練場で拝見し、試してみようと思いましたが、全く再現できませんでした。」
「あれは、魔力を可視化しているらしい。」
「魔力の可視化?!光魔法ではなかったですか!」
「あぁ、違ったそうだ。あの方法を習得できたら、魔法陣のレベルが段違いになる。」
「そうですね。団員に発破をかけましょう。」
部屋を出ると、ザビーネが先に訓練場に向かった。
ルウィージェスたちが訓練場に着くと、出勤していた団員全員が既に整列して待機していた。
エルンストは団員を前に言った。
「先ほど、皆が訓練場で経験し、今も練習していたかと思うが、魔法陣によって全く魔力消費量も威力も異なることが分かった。よって、今後は、我々宮廷魔術師団が一丸となって、魔法陣の見直し及び研究を初級魔法レベルから行う事になった。しかし、従来の方法では魔法陣の改編は難しい。そこで、訓練場で披露された光で魔法陣を描く手法を、ルウィージェス様からご教授頂くことになった。」
エルンストは一旦言葉を切り、団員を見た。
「この中の何人かが、ルウィージェス様が魔法陣を描くのを見て、自身でもできるかどうか試したと思う。因みに、何人くらいいるかな?」
エルンストの言葉に、10名程度が手を挙げた。
エルンストが一人の男性団員に声をかけた。
「どうだった?」
声をかけられた団員は、失敗に終わった光魔法を出し再現しながら言った。
「この通り光は出せるのですが、ルウィージェス様のように線にして自由自在に描くどころか、光をずっと出し続けることが出来ませんでした。」
「他に、お前はどうだ?」
もう一人、挙手した男性団員に聞いた。
「私も同じく、全く再現することが出来ませんでした。」
エルンストが苦笑いしながら言った。
「あれな、ルウィージェス様に聞いたところ、光魔法ではなく、なんと、魔力の可視化だったそうだ。」
エルンストの言葉に一気に騒めく。
――――そんな事が出来るのか?
――――魔力の可視化って、意味が分からん!
エルンストとザビーネは団員の反応に苦笑する。
「ルウィージェス様、我々にとって魔力の可視化というのは、これほどに衝撃的な事なのですよ。」
ザビーネが団員の心を代弁するかのようにルウィージェスに言った。
「すごく意外でした。」
ルウィージェスは団員の反応を、驚きとともに見ていた。
エルンストは団員に落ち着くよう言った。静かになった所で話を続けた。
「ルウィージェス様は現在テューゲンリン王国王立アカデミーの初等部に在籍中の為、冬休みに入った後に、我々に魔術の可視化方法を伝授して下さる事になった。ルウィージェス様が我々のための費やせる時間には限りがある。できる限り参加して欲しい。」
「は!」
団員全員が敬礼した。
冬休みに入り、ルウィージェスはほぼ毎日、宮廷魔術師団の訓練場で魔力の可視化の方法を教えた。魔力の可視化は、魔力の発動ではなく、単純に魔力の見える化なのだが、発動しかしてこなかった団員にとって、その感覚を掴むのが非常に難しかった。
また、魔力の可視化に成功しても、可視化を維持しながら魔法陣を描くというのは、複数の思考を同時に行っており、まず、可視化させた魔力の線を動かす事で冬休みが終わってしまった。
そこで宮廷魔術師団団長エルンストはテューゲンリン王国王立アカデミーに行き、高等部のプログラムの課外学習に宮廷魔術師団への魔術指導を追加するよう交渉し、ルウィージェスは、授業プログラムの一環として宮廷魔術師団団員への指導を引き続き行う事となった。
ルウィージェスは、宮廷魔術師団だけでなく、リリーエムラ公爵家の州領・領主騎士団と王都騎士団の魔術師団にも同じく改編した魔法陣の発動指導を行っていた。
テューゲンリン王国の北側に位置し、王国内最大の面積を占めるリリーエムラ公爵家が治めるハインライテル州領は、北・東・西側に大きな森を有し、強い魔物が多く住むことで有名で、同時に、王国内有数のダンジョンを複数抱える、冒険者の州領としても有名だ。また、州領都自体が湯量に恵まれた温泉街で、その他にも温泉街として発展した町が複数あり、巨大な観光地という一面も併せ持つ。それ故に、治安維持のためにも騎士団のレベルアップが必須だった。
粉雪だった雪がボタン雪へと変わり、確実に春に向かっていたある日、テューゲンリン王国、王都フルトエアからみて南西部に位置する、ザイラント州領の山間部にある複数の村が、狼系の魔物の大群に襲われた、もしくは、村の近くで大群を見かけたという報告が、ザイラント州領・州領主からもたらされた。
王国騎士団の偵察隊が早速ザイラント州領に派遣され、魔物出現の規模を調査した結果、本来ならもっと山間に住む大型の魔物の姿も多く確認された。
ただ、この冬は例年になく降雪量が多かった為、単に食料を求めて山を下って来ているだけとの判断が難しいところだった。
「山間部はまだ雪が深く、奥地までは確認できていませんが、かなりの数の大型種が確認されました。これだけ大型種が山から下りて来れば、下位の魔物たちが村近くまで降りて来ても不思議ではないので、何かの徴候か、と言うと、現時点では、そこまでの確証は得られておりません。」
王国騎士団長クラウス・フォン・シューバート子爵が国王に報告した。
会議室には、国王、宰相を始め、王国騎士団団長、宮廷魔術師団団長、ザイラント州領・州領主及びザイラント州領の近隣の州領主たち、そして冒険者ギルドと商業ギルドの王都総括ギルド長たちが会議に参加していた。ルウィージェスはエムラカディアの代理として会議に参加している。
リリーエムラ公爵家の者がこのような会議に参加するのは初めてだった為、ルウィージェスを初めてみる州領主たちや冒険者ギルド王都総括ギルド長は、緊張しながらも興味を持っていた。しかし、リリーエムラ公爵家は『不可侵家』であり、また、ルウィージェスからは一種独特な雰囲気を感じていた為、何度も視線を送ることは躊躇われた。
ルウィージェスは、自分の外見年齢を自覚しており、何かあったら面倒くさいな、と思った為、微量な神気を州領主の貴族たちと総括ギルド長たちの方に放出していた。彼らが感じた独特な雰囲気というのは、微量な神気だった。
「ハイデッガー・ザイラント伯爵、かなりの種類の大型魔物が確認されたとの事だが、例年と、具体的にどのくらいの違いを感じている?」
国王がザイラント州領・州領主カール・フォン・ハイデッガー・ザイラント伯爵に聞いた。
「はい、過去にも積雪の多い年には、それなりに大型魔物の目撃情報がもたらされております。しかし、熊種は魔物であっても冬眠する種類が多く、まだ積雪が多いこの時期に熊種がこれほど確認される事は非常に稀でございます。しかも、体躯と爪を異常に発達させたマウンテン・ネイルベアの、この未だ雪深い時期での目撃情報は過去に一度もございません。それが、既に複数確認されております。狼種も多種目撃されていますが、スノウ・ウォルフは奥深い山間に住む狼種の為、同じく、ザイラント州では初の目撃情報となります。」
冒険者ギルド王都総括ギルド長が発言した。
「冒険者たちによって狐種も数多く目撃されています。特に、足場の悪い雪道でもその俊敏性を失わないスノウ・フォックスによる襲撃案件が複数上がっており、冒険者たちの被害も甚大です。スノウ・フォックスも、通常は深い山間部に棲む魔物であり、冒険者たちが多く活動する範囲に出現するのは非常に稀です。」
商業ギルドの王都総括ギルド長も続いて発言した。
「例年ですと、雪山近くであれば、冬に魔物の襲撃にあう事は殆どありません。しかし今年は、雪山近くの、積雪の影響がない街道に、狼種と狐種、鹿種など、獰猛で足の速い魔物の出現件数が多く、複数の被害が報告されています。しかも、大小あれ、群れでの出現報告が多く、被害が多くなる一因になっております。」
「ふむ、」
国王アギディウス・ヴェルト・テューゲンリンは改めて報告書に目を落とした。
「これだけ重なれば、異常事態が起こっていると考える方が自然であろうな。」
「ええ、降雪量だけでここまで魔物の異常行動が重なるとは思えません。」
宰相オルトールド・フォン・シューバート侯爵も同意見だった。
国王アギディウスはルウィージェスを見た。
ルウィージェスはリリーエムラ公爵の弟と紹介してある為、国王が敬称を付けて呼ぶのは不自然だ。しかし、魔導王であり上級神と知っている国王と宰相はルウィージェスの呼び方を考えあぐねていた。
ルウィージェスは国王たちが困っていることに気付いた為、「ぼく?」と自分から声をかけた。
国王と宰相は首を縦に振った。ルウィージェスの正体を知らない者たちは、そのやり取りに何か不自然さを感じたが、あえて声にする者はいなかった。
やはり、『不可侵家』に対する畏怖の念が根強い。
「あの山の奥に大きな湖があるでしょう?あそこに棲む湖の主、リントヴルムがご機嫌斜めだから、周りの大型魔獣が大量に逃げ出したんだ。その結果、押し出されるように下に棲む魔物たちがどんどん下に移動したというわけ。リントヴルムは湖のシーサーペントみたいなものだから、その凶暴さは想像できるんじゃないかな?」
ルウィージェスの言葉に皆、言葉を失った。
一番初めに立ち直ったのは、数多くの異常な魔物出現報告を経験している冒険者の王都総括ギルド長だった。
「失礼だが、何を根拠に?」
声音に意図的な卑しめを含み、非常に侮辱的な言い方だった。ルウィージェスの正体を知る者は一瞬息を飲み、大量の冷や汗をかき、肝を冷やした。
ルウィージェスはギルド長を見た。ちょっとだけ神力を強め、冷ややかな目でギルド長を射抜く。
ルウィージェスは、このギルド長の実力が非常に低い事に気付いていた。それが統括ギルド長の席に座っている不自然さから経緯が容易に推察でき、完全に見下ろしていた。神族のルウィージェスからすれば、ギルド長のような者は、完全に塵芥同然の存在だった。
ルウィージェスは大きくため息を吐いた。権力の亡者は相手にするだけ時間の無駄だが、今は人族として地上にいる為、対応する事にした。
「あんだけしょっちゅう大量の魔力を吐きまくって、魔力波動を放ちまくって、威嚇しまくっていたら、嫌でも気付きますよ。」
義務は果たしたと言わんばかりにルウィージェスは、他の面々の方を向いた。
神生の経験値がまだ少ないルウィージェスの心の単語帳には、『上辺だけの付き合い』とか『上辺を取り繕う』といった処世術用語は、まだ存在していなかった。
普段のおっとりした口調に戻し、話を続けた。
「近くの山に棲んでいたワイバーンも、姉さまの州領の裏にある山に、少し前に逃げて来ましたよ。今、多くの飛行性の魔物が裏の山に避難して来ているので、山全体に防御魔法を張って、彼らが暴れないようにしています。そして、彼らを大人しく抑えているのが、」
ルウィージェスは召喚魔法を唱えた。
「ラン、おいで。」
すると、二つの尾を持ち、非常に深い藍色となり、体長8センチ程までに成長した藍が現れた。
魔道神鳥となった藍は、レジェンド級の魔力を保持し強力な魔術を扱う鳥となっていた。
「ランは魔道神鳥だから、魔物たちは歯向かえません。」
他の者より強めの神力を浴びる冒険者ギルド総括は、訳の分からない威圧感に体は小刻みに震え、背中に冷や汗をかいていた。
他の面々は、ルウィージェスの言葉を理解するので精一杯だった。
「ルウィージェス様、」
宮廷魔術師団団長エルンスト・フォン・フォーゲル伯爵が聞いた。ルウィージェスの正体を知り、かつ、頻繁に会っているせいか、他の面々よりも立ち直りが早かった。
「そのリントヴルムという湖の主がご機嫌斜め、という事ですが、その理由は、この間説明されたことが原因ですか?」
「それもあるんだけど、今年、例年になく雪が多かったという話じゃない?雪に古い魔素が大量に吸着しちゃったんじゃないかな?春が近づくにつれ、進んだ雪解けと共に古い魔素が湖に溶けだして、苦しんだと思う。」
「解決方法はございますか?」
「姉さまに今日の報告を伝えて、ぼくがちょっと行ってくる。ここまで影響が出ているなら姉さまも許可してくれると思う。それに、姉さまなら場所知っているだろうから【転移】ですぐに行けるからね。ただね、」
ルウィージェスは国王、宰相、エルンストと騎士団長クラウスに向かって話を続けた。
「これから更に雪解けが進めば、強い魔物ほど影響を受け、不快感を覚えると思う。知能指数の高い魔獣はぼくが抑えられるけど、知能の低い魔物は本能のままに行動するから抑えられない。しかも、リントヴルムから逃げて、かなり山から下りてきた状態だから、どんな連鎖反応が起こるかわからない。」
商人ギルドの統括ギルド長がエルンストに聞いた。
「フォーゲル伯爵、この間説明とか、理由とか、ご説明いただけませんか?」
エルンストは国王と宰相を見た。
「その件に関しては、宰相オルトールドの方から説明しよう。」
国王はオルトールドを見ながら言った。
宰相オルトールド・フォン・シューバート侯爵は頷き、立ち上がった。参加者全員の顔を見ながら、この間エムラカディアから聞いたこと話し、過去に決めてあったリリーエムラ公爵家の説明をした。
「リリーエムラ公爵家は、この惑星の守護を任された創造神様縁の一族。伝説や噂と思っている者も多いが、これは事実。それ故に、特殊な力を受け継いでいると聞いている。また、その特殊な立場の為、人々と深く関与することを避けているとも聞いている。今回、ルウィージェス様が動くのは、リントヴルムの件は、我々では解決できない問題だからだ。」
商人ギルドの統括ギルド長が初めは宰相を見ながら、次にルウィージェスに聞いた。
「古い魔素の蓄積と魔素転換率の低下の問題は、リリーエムラ公爵家だから知る情報である事は理解いたしました。リントヴルムの件は、やはりルウィージェス様がリリーエムラ公爵家の者だから分かった、という理解で宜しいでしょうか?」
「ぼくの能力は魔道生物、魔物の正式名称ね、に関する事柄です。知能指数の高い魔道生物とならぼくは会話できます。リリーエムラ家の当主は、人々の中に深く関与することが禁じられています。それは、この惑星の生命を平等に見守るという義務があるからです。逆に言えば、惑星を守る義務がある為、今回のリントヴルムのように、神獣に進化する能力を持つ上位の魔獣に関する問題は、リリーエムラ家で解決する義務を負っているわけです。今回の問題で言えば、古い魔素によるリントヴルムの暴走なので、それを解決するのはぼくの役割となります。」
商人ギルドの統括ギルド長は深く礼をし、席に着いた。
リリーエムラ公爵家が古参三大貴族の一つであるのは当然知っていたが、創造神縁の一族という事だけでなく、特殊な能力すらも継いでいる、という事実に、商人ギルドの統括ギルド長は衝撃の大きさとあまりの驚きに、腰が抜けそうになっていた。
「リリーエムラ家当主は人々と深く交わるのを禁じられている、との話ですが、それではどうやって惑星を管理しているのでしょうか?」
州領当主の貴族の一人がルウィージェスに聞いた。
「この国の国王、アギディウス・ヴェルト・テューゲンリン陛下は創造神より加護を受け、使徒に任命されています。」
ルウィージェスは答えた。
既に知っている宰相、王国騎士団団長、宮廷魔術師団団長以外の者たちは一様に驚き、一斉に国王を見た。少し部屋がざわついた。
「だからリリーエムラ家はこの国にいます。」
宰相が皆を鎮め、国王が続けた。
「ルウィージェス様が言われた事は事実だ。」
国王はルウィージェスに聞いた。
「これを公開して宜しかったのですか?」
「今、ここにいる皆さんは、この国で管理する側の者たちです。知っておいた方が良いとぼくは判断しました。これで、ぼくがここに参加している理由も理解してもらえたでしょうしね。姉さま本人が会議という会議に一切参加せず、ぼくが姉さまの代理で参加する理由も、これで皆さんに理解してもらえたでしょう?ぼくも、今後いちいち説明を考える必要もなくなったから、万事解決だね。」
にっこりと笑って国王の質問に答えた。
冒険者ギルド総括は、そのステータスの低さからルウィージェスの神力に対し十分な抵抗力がなく、結局会議が終わるまで、訳の分からぬ威圧感と畏怖感からの緊張に耳鳴りが酷く、ルウィージェスの爆弾発言すらも聞こえていなかった。ルウィージェスも冒険者ギルド総括に聞かせるつもりもなかったので、彼に話が届かぬように薄い膜を張っていたが。
その後、会議が終わると同時に部屋を飛び出した彼は、ルウィージェスの神術消去を受けずに王都ギルド本部に戻ってしまった。彼にとっては強すぎる神力を長時間浴び続けた結果、畏怖感は恐怖感へと変化した。彼はそれに耐えきれず、その数日後に統括ギルド長を辞任した。
総括ギルド長辞任後、新しい冒険者ギルド総括ギルド長に就任したのは、長年王都ギルド本部で副ギルド長を務めたエルフの女性だった。
辞任した総括ギルド長は、その後、あらゆる恐怖感から一気に解放され、それを機にすべての出世欲を捨て、王都を去り、生家のある村に隠居した。
ルウィージェスがこの事を知り、神力消去し忘れたのを思い出したのは、だいぶ経ってからのことだった。
――――結果的には良い方向に転んだ。
ルウィージェスの中でこの件は終わった。
ザイラント州領の州領領主からスタンピードの徴候の知らせが王城に届いたのは、この会議から約1か月後、山の中腹まで雪解けが進んだ時だった。
ハインライテル州領の州領都ハウゼンにあるエムラカディアの領主邸の騎士団訓練場には、州領騎士団団員と王都騎士団団員が揃っていた。王都の騎士団団員はルウィージェスの【ゲート】で州領に来ている。
ルウィージェスによって【ゲート】は固定してあり、魔力登録された関係者は王都フルトエアにある屋敷と州王都ハウゼンにある屋敷の間を自由に行き来できるようになっている。魔力は指紋と同じく、誰一人として同じ魔力を持つ者がいない。
「ザイラント州領でスタンピードの徴候が確認されたと連絡が入った。これより、ザイラント州領に派遣する者と、ハインライテル州領と王都に残る者を決める。」
ハインライテル州領騎士団団長アダルベルト・フォン・ケーニッヒ騎士爵が言った。アダルベルトはケーニッヒ伯爵家の次男であり、王都騎士団団長ウィルヘルム・フォン・ケーニッヒ騎士爵の兄だ。
「派遣団団長は私とし、州領と王都を守る団の団長をウィルヘルム・フォン・ケーニッヒ王都騎士団長とする。」
アダルベルトの横に立っていたウィルヘルムは一歩前に出て、リリーエムラ公爵家騎士団団員に手を振り挨拶をした。
その様子を見ていたルウィージェスは、同じく隣にいたエムラカディアに聞いた。
「姉さま、ぼくもスタンピード鎮圧に参加したいです。」
エムラカディアは黙ってルウィージェスを見た。
「ぼくも、降臨する前に武神7柱から武術を学んだし。一度実践を経験してみたいです。」
エムラカディアは、少し考えてから言った。
「武神たちからはルウィージェスの実力を聞いています。私は構わないと思うのですが、」
エムラカディアはウィルヘルムを呼んだ。
「ルウィージェスが今回の鎮圧に参加し、実践経験を積みたいと言っているのだが、どうだろう?」
ウィルヘルムは以前、ルウィージェスから武神7柱から武術を学び、武神らを師匠と呼んでいる事は聞いていた為、エムラカディアが許可しているなら、特に断る理由はないと考え、兄アダルベルトに聞きに行った。
ルウィージェスは学校を休んで、護衛のカリンと共に鎮圧に参加する事になった。
第12話から、本格的に古い魔素問題による問題が起こり始めます。ここから怒涛の日々が始まります。ルウィージェスも、神族として過干渉にならないよう気を付けながら、降臨前の修行の成果を試します。
今後は、カリンと『魔道神鳥』藍の活躍も始まります。楽しみにしていてください。
次の第13話は、「スタンピードの経験②―宮廷魔術師団との合流―」です。お楽しみに♪
第一章第13話は、10月17日(金)20:00公開です.
また、お会いできるのを楽しみにしております。
月つき 千颯ちはや 拝




