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そなたに見せたい村がある

「行っちゃったわね……天使様」

 

「お礼、仕損ねたなぁ」


 エリィは、宿の窓際から遠くを見つめていた。

 朝靄が煙のように立ちこめ、彼方の山脈まで霞んでいる。

 

「……ギリュウさまもあんな顔するのね、はじめて見たわ」

 

「ああ……俺もだよ」

 

――『え、飛ぶ?歩くんじゃなくて?……おい何してる、ちょ待て!いやな予感がするッ!お、降ろせ!お前らも見てないで止め――――』

 

「元勇者でも、怖いもんは怖いんだな」


「……それは……うん。仕方ないわよ。私たちだって、そうだったし……」


 目にもとまらぬ速さで上空に吊るされる元勇者。

 その顔は青ざめており、必死に助けを求めていた。

 

 止める合間はなかった。

 いや、仮にあったとしても巻き込まれるのはゴメンだと、手を振り続けただろう。


――そう、あれは仕方がなかったのだ。


 二人は、そう思うことにした。


「そういえば、天使さまが飛んで行った方向、何があったっけ?」


「さぁ.........()()が眠る村に行くって言ってたけど……」


「?、そんな村、聞いたことないぞ」


「え?」


「え?」


 ……。


「「あ」」


 二人は、同時にある可能性に思い至った。


「ま、まぁ……あの天使さまなら大丈夫だろ」

 

「そ、そうよね。ギリュウさまもいるんだし、きっと……」


 エリィは、再び遠くの山脈をみた。

 朝靄はすでに晴れていた。


 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


 『はじまりの国』から山をいくつも越えた先にある村。

 その名も――『聖剣村』。

 その外れで、ギリュウはエルギアを凄まじい形相で睨みつけていた。

 

「お前、ヒト相手に呪文使うの禁止な」

 

「っなぜ!?」

 

「なぜじゃねぇんだよ!!自分が何やったか分かって言ってんのか!?見てみろこれ!」

 

 ギリュウは、半裸になった自身の姿を見せつける。

 対するエルギアは赤面し、目をそらしながらも反論した。

 

「わ、悪いとは思ってる!しかし、我は補助呪文をかけただけであってッ――」

 

「その補助呪文に問題があんだろうがッ、このポンコツっ!!」


「うぐッ」


 たたみかける怒号。

 エルギアはその勢いに気圧された。


「効力がありすぎるんだよ!バカみたいな速度で飛ぶし、衝撃波で装備が弾けたんだぞッ!?いや、それですむなら、まだいい!!回復呪文かけ続けなかったら、俺が()()()()するとこだったわ!!あのガキらがなんで無事だったのか、不思議でしかたねぇんだけど!?」


「ケガ人とただの娘だぞ。さすがに我だって加減はする。服にも結界かけたし」


「なぜ、その思いやりを俺に分けてくれなかった……」


「我が推しの勇者が、この程度で死ぬものか」


 エルギアはフフンッ、と自信ありげに答えた。


 「澄んだ目で言うなよ。なんなんだ、その絶対的な信頼は。かっこいいセリフも、ただの殺人予告にしか聞こえなかったわ。あと、シンプルに謝れ」


「……………………」


「…………な、なんだよ」


「……ぐすッ…………ごめんなさい」


……………ちゃんと謝るんだよなぁ。コイツ。魔王なのに。あぁクソ、泣き顔ちょっと可愛いな。もう許そうかな。


 エルギアの落ち込んでいる様子を見て、ギリュウはしんみりする。


「ま、まぁ、終わったことをとやかく言ってもな……とりあえず観光は一旦中止だ。荷物も飛んでなくなったし、まずは俺の装備と旅道具一式を揃えよう……な?」

 

 エルギアは、うつむいたままコクっと頷く。


……つっても、この格好で村の中を歩くのも……コイツ一人に任せるのも不安だし……。


 上半身は裸、下半身には腰布を巻いているだけ。

 その腰布も、今にも千切れそうなほどボロボロだ。

 ギリュウは通報されかねない未来を想像して頭を掻く。


「その…………見た目のことなら、気にせずともよいと思うぞ?」


「?、どういうことだ?」

 

 エルギアは、手招きをしながら村の中心部へと向かっていく。

 

「お、おいって……ほんとに大丈夫なのかよ」

 

 ギリュウは、文句を言いながらもエルギアの後を追っていった。


 ――――。


「これは……」


 ギリュウは思わず息を飲む。


「さぁ、さぁ!聖剣に挑まんとする命知らずはもういねぇか!挑戦料はたったの5000G!どうだ、そこのあんちゃん!やってみねぇか!」


 村の中央広場で、露店商の男が威勢よく声を張っていた。


 その周りには、大勢の人だかりができている。

 皆、剣や槍、杖など思い思いの武器を手に、目をぎらつかせていた。


――おぉぉぉぉお、おでっ!聖剣欲ぢいッ!

――聖剣はワシのものだ!誰にも渡さん!

――いいや、拙者が手に入れる。貴様らの出番などない!

――やれやれ、この私こそ、聖剣に選ばれし勇者だというのに。困ったものだ。


 我こそはッ!、と強者(つわもの)どもの雄叫びが至る所から聞こえる。

 広場を包む熱気は、まるで空間自体が歪んでいるのではと錯覚するほどだった。


「聖剣?なんなんだこの村は?」

 

 ギリュウは、エルギアに尋ねる。

 

「まぁ、知らぬのも無理はない。そなたが旅してきた土地からえらく離れたところにあるからな。それに、ここは……」


「……ここがなんだ?」


 エルギアは一呼吸おき、言葉を続ける。

 

「ここは、よその魔王が支配せんとする土地だ」

 

「………………」

 

…………え、それ、大丈夫なの?お前の立場的に。

 

 ギリュウの脳裏にその疑問が浮かんだが――色々と闇が深そうなのでしばらくは触れないでおこうと心に決めた。

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