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世界はそれを黒歴史と呼ぶんだぜ


「レリック!私のことはいいから逃げて!相手は魔物よ!かてっこないわ!」

 

 少女の切迫した声が、青年の耳に突き刺さる。

 青年はその言葉に躊躇いを見せるものの、すぐに決意を固めた。

 

「ふざけるなッ!お前をおいていけるわけないだろッ!」


 『はじまりの国』を出て、すぐ近くの平原。

 青年は絶望的な状況の中で、それでもなお、希望を捨てず……魔物を相手に、大切な幼馴染を守ろうと立ち塞がる。

 そこにはプルプルと蠢く不定形の生命体――スライムがいた。

 

「ああ、そんな……お願いだから……あなたを失いたくない……」


 彼女の瞳には、深い絶望と、彼への切ない慕情が宿っていた。

 その呼びかけに、青年は振り向く。


「エリィ。ホントはオレ……お前のこと、ずっと前から……。いや……時間を稼ぐ……だから、はやくいけぇぇえええ!」


「……イヤ……いやよぉ!レリック!…………だめぇぇえええええ!!!」


 決死の覚悟で剣を構える青年、レリック。


 涙ながらに叫ぶ少女、エリィ。

 

 転移魔法ではるか上空から落下してくる魔王、エルギア。


「うおおおおおおおッ!待っていろ勇者ぁああああっ!!」


 ――。

 

 ――轟音。

 

 ――地を揺るがすほどの轟音。


 その場にいたスライムは霧散し、エリィを庇ったレリックは数十メートル先まで吹き飛んだ。

 

 それはまるで、隕石が落ちてきたような衝撃だったと後に語られており。


 そう遠くない未来、魔王の通り名に『スライムメテオ・オーバーキラー』という、まったく意味のわからない名が加わることになる。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


「ほんっと!ほんっとにすまんかった!なるべく人の少ない場所に落ちるように調整したはずなのだがッ!なにぶん、転移魔法使うの久々でッ!」

 

 土下座するエルギアに、レリックとエリィは慌てふためく。

 見るからに高貴そうな天使が、自分達のような平民に土下座している様子はあまりにもシュールすぎたのだ。


「そんなっ、どうかお顔を上げてください!」


「そうですよっ!あなたは俺たちの命の恩人なんですから!」


「しかし、我は……我は……」


「本当に大丈夫ですから!……ね、ね?レリック?」


「あ、ああ!もちろんだ!体だってこのとお――――ゲボァぁあッ!」


 レリックの血反吐が、エリィの顔面を汚す。

 エルギアの額からは、一筋の汗が流れた。


「いやぁああああああ!レリックの血がァァアア!」


「…………あわわわわ。我のせいで、死にかけとる」


「ハァ、ハア。どうやら、さっきの衝撃で……………いや、スライムの体当たりで骨を二、三本持っていかれたようだ……ゔッ」


「…………なぜそこまで頑なにッ!?どう見ても、スライムによるダメージじゃないだろ!!アイツの攻撃、くらってもせいぜい『1』ぞ!?」


「ああ、どうしましょうッ、このままじゃ、レリックが」


………く、一応、回復魔法は使えるが魔物以外にかけたことがない。同じ感覚でやって良いものか。人間の構造はいまいち分からんし、下手に内部を弄って、逆に悪化させたら元も子もない。


「うぐッ。ギ、ギリュウさんのところに……行こう。事情を説明すれば、きっと……なんとかしてくれるはずだ……」


「……()()()()?いま……()()()()といったか?」


 エルギアの顔つきが変わった。


……その名を、我は知っている。


「え、ええ。ご存知ありませんか?性格はアレですが……『はじまりの国』きっての回復魔法の使い手で、元勇――」


「ひとまず安全なところまで飛ぶぞ!道案内を頼む!」


「へ?」


 エリィの言葉を聞き終える前に、エルギアは二人を宙に浮かべた。


「え!?、え!?」

 

 『はじまりの国』の街並みが一望できる高度まで上昇していく、そして――。


「ようやく………ようやく会えるぞ!この我に愚行を働かした不届きものに!」


 風を切りながら、赤いワンピースを着た天使は嬉々として叫んだ。

 ほんの少し、勇者への怒りを抱きながらも、その瞳はどこか……懐かしさに満ちていた。


「「だれか!だれかァァアッ!」」


 後に、当事者たちは語る。

 

 ――ケガ人に対してこの処置はありえない。

 ――正直、生きた心地はしなかった。


 こうしてエルギアは知らないうちに、二人に多大なトラウマを植えつけ。

 

 『赤い悪魔』と、またしても不本意な通り名を得るのであった。

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