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籠の中の令嬢が出ていったので探していたら、奴隷として壊れていた

作者: パミーン

深層の令嬢のお話を書いてみたかったので書いてみました。


設定はざるです。ご容赦ください。

「私は籠の中の鳥と一緒。早く私を外に連れ出してくれないかしら?」


 そう言って僕から離れていった君。あれからどうしているだろうか?自由に羽ばたいて出て行った気分はどうだい?


 なんてことを思い、虚無感を感じながら君がいない時間を過ごしていた。それがこんな形で再会することになるなんてね。


 だからあんな奴のことを信用しちゃいけないよって何度も忠告したのに……。本当に君は愚かだよ。


「お客さん、どうだいこの奴隷?元々は良い所のお嬢さんだったそうでね。色んな貴族の手に渡っていったんだけどどうにも使えない奴だったみたいで。こっちも貰い手がないから処分してしまおうって思ってるんだけど、お客さんが買うって言うなら安くしておくぜ」


 ちょうどこのプラキルという街に着き、宿を探している時に通りがかった奴隷商の店の前で見つけてしまった。僕の前から姿を消した君——フィレジアお嬢様を。あの時とは違うが虚ろな目をしているところは変わっていない。


「ちなみにもうこいつは誰が誰だか認識できないくらいに薬漬けにされて頭はイッちまってる。それと元々病気持ちで体が弱いのもあって性処理にも使えない。せいぜいストレスの捌け口としてサンドバックくらいにはなるんじゃないかと思うんだけど、どうよ?」


 もはや手の施しようがないということか。であるなら見なかったことにして僕の心の中に永久に留めておこうか。


「ああ、そういえばこいつたまに『ウィズ、ごめんなさい』って誰かに謝ってるんだけど、それも何か気持ち悪いんだよな」


「それは本当か!?」


 思わず奴隷商の肩を掴む。それならまだ望みがあるかもしれない。


「ああ、うわ言のように何回も謝る時もあるから何かトラウマみたいなもんがあるのかもな」


「よし、この奴隷買わせてもらおう。いくらだ?」


「おお、買ってくれるとは思わなかったぜ。貰い手もないような奴だからな。銀貨2枚でいいよ」


 通常なら奴隷は最低でも金貨5枚。貴族からしたら端金だけど、僕らのような一般庶民からしたら2カ月分くらいの給料に相当する。それが銀貨2枚——昼飯代くらいの価値だなんて……。


「ほら、今日からお前のご主人になるお方だ。さっさと出てこい!」


 奴隷商に銀貨2枚を渡し、檻の中から覚束ない足取りでフラフラと出てくるフィレジアお嬢様を受け止め、横抱きにして急いで宿へと走り抜ける。それにしても物凄い臭いだ。そしてあまりにも軽い。碌な食事も与えてもらえなかったのだろう。


「すまない、今夜2名泊めてもらえるか?1名はこの通り奴隷なんだけど」


「いらっしゃい。うちは奴隷がいても大丈夫な宿だから安心しな。それにしてもえらい衰弱しているじゃないか、その奴隷さん。ほら、部屋の鍵だ。2階の突き当りの部屋だ。早く介抱してやんな」


「恩に着る」


 部屋に入り、まずは床に座らせる。とりあえずどこまで状態が酷くなってるか確かめる必要がある。


「フィレジアお嬢様、お久しぶりです。覚えていますか?あなたの友人(・・)のウィズですよ」


「ウィズ?……ウィズ!ごめんなさい!ウィズ!ごめんなさい!」


 焦点の合っていない目でただ涙を流しながら謝るフィレジアお嬢様。どうやら僕のことは認識できていないけど、ウィズという言葉には反応したようだ。


「フィレジアお嬢様、シャワーは一人で浴びれますか?」


「ウィズ、ごめんなさい。ウィズ……、ごめ……なさ……」


 だめだ、言葉が通じない。あの奴隷商の言うように頭がやられている。そしてやはり体が弱いのも治っていない。気絶してしまった。


「すみませんお嬢様。裸を見ることになりますがお許しください」


 シャワーで体を洗うため服を脱がすと体中には切り傷や痣が沢山。病弱ではあったけど、まだあの時はそれなりに肉付きもあってスタイルも良かった。それが目も当てられないような酷い有様。


 くそっ!あの行商人め!どうにかして見つけ出して罰を与えてやりたい!


 いかん、そんなことよりもまずは体を綺麗にしないと。それと服だ。あんな襤褸切れを着させるわけにはいかない。とりあえず僕の上着を着せておこう。


 お嬢様を抱きかかえ、シャワーで汚れを落としていく。艶のあった綺麗な黒髪も見る影もなくボサボサで長さも均一でない。落ち着いたら髪のケアもしてあげよう。


 ようやく一通り綺麗になった体をベッドに寝かせ、僕の上着をかけ、布団をかける。さあ、すぐに服、それと食料など必要なものを買って来よう。


 僕は一目散に部屋を出てお嬢様に必要なものを揃えながら在りし日のことを思い出していた。





 フィレジア・ヘザー。伯爵位を持つ貴族、ヘザー家の長女であり、隣国の第三王子と婚約が生まれる前から決まっていた令嬢だった。


 ただ彼女には問題があった。生まれた頃から病弱で外へ出て遊ぶことさえできなかった。そこで治療にあたっていたのが僕の父親である薬師のアルフレッド。父は話し相手になってあげてほしいということで治療の一環で連れてこられたのがお嬢様と同い年の僕、ウィズ。


 最初はよそよそしい感じのお嬢様だったけど、徐々に体が元気になりながら僕との仲も良くなっていった。そしてお嬢様に気に入られ、治療の一環としてだけでなく、彼女の友人としてよく家に招かれるようになった。


 基本的には身の回りの世話や話し相手になることぐらいしかすることはなかったけど、お嬢様的には僕がいるだけで心が安心できると言ってもらえるくらいの存在にはなれた。


 そんなお嬢様は体が良くなっていっても外に出してもらえなかった。だから早く病気を完治させて、外の世界を見たいと言っていた。


 そうして13歳を迎えたころ、僕はお嬢様に告白された。


「私はあなたを愛している」


 と。隣国の第三王子と婚約が決まっている身でありながら僕に恋をしたお嬢様。外の世界も知らない、そして好きでもない相手と政略結婚することになっているお嬢様。そんな可哀想なお嬢様に対して約束をしてしまったんだ。


「いつか病気が完治したら、外の世界に連れ出して誰にも邪魔されないところで一緒に生きよう」


 という約束を。それから僕は人前ではお嬢様と呼びながらも二人きりの時にはフィレジアと呼ぶようになり、禁断の愛を育むことになった。それと同時に僕も父と同じように薬師の道を歩むことを決意し、彼女の体を健康な体にすることを目標に勉学に励むことにした。


 そんな人知れず愛を育み合っていた僕らの間に亀裂が入るできごとが起こった。それは少しでも外の世界に触れてもらおうというフィレジアの父の好意で行商人を連れてきたことが始まりだった。


 行商人は世にも珍しい商品や都で流行っているお菓子や本などを見せては彼女に外の世界への興味を引きつけていった。当然外の世界を知らないフィレジアにとっては刺激となるものばかり。


「お願いウィズ。私を外の世界へ連れて行って」


「だめだよフィレジア。君の気持ちはよく分かるけど、まだ体は十分に良くなっていない。無理をしたら余計に外の世界へ行く時間が延びてしまうよ」


 彼女からすればもう十分に外に出てもおかしくないと思うくらいには動くことはできる。でもそれはこの部屋の中だから大丈夫なだけでまだまだ外へ出られるまでの体力はついていなかった。


 徐々に外の世界への憧れが強くなっていくフィレジア。それを止める僕。恋人である関係が徐々に悪化していくのを感じていた。そして外に出られない彼女の目はどんどんと虚ろになっていった。


 僕がどれだけ励ましても、愛を囁いても聞く耳を持たなくなっていった。募る想いは外に出たい。ただそれだけ。彼女の心が僕から離れていくのを強く感じた。


「私は籠の中の鳥と一緒。早く私を外に連れ出してくれないかしら?」


 ある時彼女はそう言った。この言葉が最後に聞いた言葉だった。それから僕は彼女の家に招かれることはなくなった。何度も手紙を送ったけど、多分読まれてもいなかっただろう。


 彼女の家に招かれなくなってからひと月が経った頃、ある知らせが僕の耳に入った。


「フィレジア・ヘザーが行商人と一緒に屋敷を出て行った」


 と。この時、僕と彼女の間にあった愛が壊れたことを悟った。僕との愛なんてフィレジアの部屋の中という狭い世界の中で起きた小さいこと。外の世界に出れば自ずと消滅していたんだろう。それでも僕にとってフィレジアの存在は大きかった。


 フィレジアが出て行ったことはヘザー家で大問題となった。特にフィレジアの父は大激怒。結果として彼女は勘当され、隣国の第三王子との婚約も解消となった。フィレジアの存在はヘザー家にとってはなかったこととされた。





 僕はフィレジアへの未練を断ち切ることができず、彼女を探す旅に出た。その旅の結末がこれだ。彼女はもう壊れている。元の状態に戻ることもできないかもしれない。それでも「ウィズ、ごめんなさい」という言葉にわずかな希望を抱いている。


 どれだけやれるか分からない。僕は旅をしながら薬師の腕を磨いてきた。その薬師の腕を君のために注ぎ込もうと思う。


 部屋に戻ると君はまだ眠っていた。さて、これからどうしようか。ゆっくりと静養できる場所を確保した方がいいな。いつぞやに寄った海の見える丘の村はどうだろうか。あそこは優しい人が多かったし、自然も豊かだ。よし、そうしよう。君も気に入ってくれたらいいんだけどね。


 次の日から早速治療をしながら移動を開始した。あの村までは馬車でひと月はかかる。移動だけでも体に負担はかかるけど、今はどうか我慢してほしい。彼女にはこの景色がどう映っているのだろうか。目には光が宿っていないけど、これが君が行きたかった外の世界だよ。


 こうして僕と彼女の旅が始まった。まずは意識を失ったような状態から回復することに専念した。薬物を中和する薬を調合し、彼女に飲ませる。効果は徐々に出てくるからすぐには良くならない。本当に根気が必要だ。諦めたら終わり。僕が諦めない限り治療は続ける。


 ひと月かけて村に到着した。さっそく家を借りて治療院を開いた。そこで収入を得て生活基盤を整える。得た利益は全部彼女に注ぎ込むつもりだ。まだ彼女の目は死んだ魚のように生気がなかった。


 さらにひと月が経った。彼女の目が僕を見つめるようになった。目を合わせても反応はないけど、焦点が合うようになったことは進歩があったと思いたい。


 3ヵ月が経ったころには相変わらず反応はないけど自分で動くことができるようになった。あとは意識が戻ってくれるのを待つばかりだ。





 こうして村での治療が始まって1年が過ぎ、この日の仕事が終わり、夕食を作り始めた時だった。


「ねえウィズ。あなたはどうして私にここまでしてくれるの?」


「え?」


 後ろからフィレジアの声がしたので振り返ると立ち上がった姿でこちらを見ている彼女がいた。


「あなたのおかげでもうとっくに私の意識は戻っているの。こうやって立ち上がることもできるし歩くこともできる」


「びっくりしたよ!回復したんだったら、どうして教えてくれなかったんだい?」


「私は外の世界を見たいがためにあなたの愛を蔑ろにした。そして裏切った。そんな私が回復したらあなたは私を見放してしまうんじゃないかと思ってしまった。そう思い始めたらあなたに話しかけるタイミングを失ってしまって……。どこまでも愚かな女よね。本当に自分のことしか考えていない。ごめんなさい」


「いや、謝ることはないよ。こうやって君と話すことができてとても嬉しいよ」


「私には分からない。あなたを裏切った私にどうしてここまでしてくれるのかが」


「簡単なことさ。僕はまだ君のことを愛しているからだよ。そして君に本当の外の世界を見せたいからさ」


「そんな……。私があなたの心をずっと縛っていたということなのね……。まるで屋敷にいた時の私のよう……」


「確かにそういう風に捉えることもできるよね。じゃあ僕は君と同じで外の世界を見れていないってことなのかな?どう思う?」


「あなたは私よりも外の世界を見ていたし、知っていた。それは間違いはないわ」


「つまり、君の思考自体が自分を縛っているんだよ。外とか内とか関係ないんだよ。ただ君の体が弱くて外に出られなかっただけ。それを君は自由ではないとすり替えてしまった。実際そうだろ?外に出て君は自由だったかい?」


「いえ……、思い出したくもないほどに酷い目に遭ったわ……。私にあったのは奴隷という身分だけだった……」


「そうだよね。それと、もしあのままあの屋敷にいたら君は隣国の第三王子と結婚していた。それも自由があるとは言えないよね?だからそういう意味では君は一生自由に生きることができなかったんだよ」


 はっとした顔をする君。ようやく気づいたんだね。そう、僕は君を自由にするために戦っていたんだよ。君に「愛している」と言われた時から。


「意識も戻って体を動かすことができるようになった。そしてやっと君を本当の意味で自由にしてあげることができた」


「そうだったのね……。あなたはあの時の約束を守るために……」


『いつか病気が完治したら、外の世界に連れ出して誰にも邪魔されないところで一緒に生きよう』


 そうだよ、この約束を守るために君を探し続けた。治療し続けた。


「じゃあ、もっと早くあなたに話しかければよかった。私は今自由になれたのね?」


「ああ、やっとね。おめでとう。さあどうする?一緒に生きるという縛りが入ることになるけど。君が決めていいよ。君はもう自由なんだから」


「そんなの……決まってるじゃない!もう迷わないんだから!……ありがとう」


 さあ、これからゆっくりと外の世界を見て回ろう。君と一緒に。

お読みいただきありがとうございました。

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