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泡沫の憶で語る  作者: 鯨岡 朔
日も月も明けない
9/20

夢から冷めていく



 びちょん、と遠くで水が滴る音が聞こえる。

 視界には暗闇が広がっていた。仄かに温かみのある暗闇は眠りにも似た心地よさがある。

 身じろぐと近くで水が跳ねる音がした。


「起きてください。風邪をひいてしまいますよ」


 か細いけれど優しい声がした。

 起きる。寝ていたんだ、私は。

 ゆっくりと目蓋を開ければ、見慣れないけれど安心する顔がそこにあった。


「あざ、みさ、……もも、さん?」

「そうですよ、桃ですよ」


 ニコッと笑いかける顔に安心して笑い返す。


「あれ、混浴から戻って、そのまま内湯にいたんじゃ」

「私達は内湯にずっといましたよ。身体洗い終わって、外は寒そうだからって内湯にずっと入っていました」

「いや、クマリさんとお話して……」


 怪訝そうな顔をする桃さんを前に段々と声が小さくなる。だんだんと夢か現実か自信がなくなってきた。もしかしたら夢かもしれない。混浴に堂々と入る私なんて想像できないし。お風呂で寝た上に夢を見て、寝惚けながらそれを話すなんて恥ずかしすぎる。


「混浴に行きたいんですか?」


 少し嫌そうな声でそう言う桃さんに対して、私はオーバーなくらい両手を振って否定した。


「あ、いや、そういうわけではないです」

「そうですか」


 桃さんは少し安堵したように表情を和らげる。

 私は露天風呂に繋がる場所を横目で見た。夢で見た光景と変わらず、曇りガラスに木の目張りがされているため外の様子は分からない。

 ふと頬が異様に冷たい気がした。温泉に入って、体はポカポカして温かいのに。

 指に触れても冷たい感じはしなかった。


 脳裏に過ったのは赤黒く、ウェーブがかった髪。ゆらゆらと揺れているその様は、水の中に溶けだした血液を思わせるのだった。




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