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泡沫の憶で語る  作者: 鯨岡 朔
日も月も明けない
8/20


 クマリさんが出て行った後、私達も温泉から上がる。火照った身体に冷えた風が気持ち良かった。

 点々と置かれた灯篭の形をした灯りが道標になって、出てきた大浴場までの道をぼんやりと照らしている。光が届かない場所は暗闇が濃く、物の輪郭が溶け出してしまっている。

 そう、気が付いたら日が落ちて夜だった。

なんてベタな言い回しだろうが、そうとしか言えなかった。辺りがすっかり夜になっていたことに。この時私は気付いたのだった。来たのが夕方だったから日が落ちるのも早いのは当たり前と言われたらそうなのだが。

 桃さんは硬くなった表情を崩さないまま歩いている。私は内湯に繋がる扉を開けた。程よい温度の湯気に出迎えられて少しだけホッとする。

 ふと思ったのだが、これは男性が女湯に入る事も可能ではないだろうか。今更ながら混浴で出会ったのが、クマリさんで良かったのかもしれない。考えが読めない部分はあっても危害を加えようとする感じはなかった。これは下手したら犯罪になるのではないか。宿泊客の良心に任せているとしたら不用心としか言いようがない。


「昔ながらの温泉宿だからかな」


 ポツリと口から漏れた言葉に、桃さんは耳聡く反応した。


「此処には独自のルールがあるから」


 ルール。そう言われた脱衣所で見た注意書きのプレートを思い出す。よく覚えていないが、変わったものがあった気がする。

 思い出すと記憶を手繰り寄せるが、途中で糸が切れるように集中力が途切れてしまう。


「ルールを破ったら……」

「罰を受けるんだと思います」

「罰?」


 穏やかではない単語に背筋が寒くなる。嫌な予感がした。でも何に対して、その予感を覚えているのかすら分からなかった。


「なんだか冷えちゃったから中に入って温まり直しましょう」


 そう言いながら大浴場に繋がる扉を開けたのだった。



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