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始まり
霧がかった山の中を彷徨う。辺り一面白い靄に覆われており、何処を進んでいるのか
知る術はない。
一歩、また一歩。足跡を増やしていく毎に心のざわつきも増えていく。崖の上に立っているような、生命を脅かす恐怖が襲ってくるからだ。
恐怖は血流に乗って、体の中を駆け巡った。指先一本動かすのすら躊躇われる。それでも足だけは動かし続けていた。
煙を吹くように立ち込めていく霧の中で、歩き続ける。土を踏む音、草を踏む音。柔らかな感触が足裏に跳ね返る度に、生きているのだと実感させられた。
白く濁った視界の中で不意に黒い影が現れる。
その影にもっと近づこうと足を前に出した。
次の瞬間、足に地面が当たる感触は帰って来なかった。奇妙な浮遊感に襲われる。宙に空振りした足はガクンと下に向かって沈んでいく。それにつられてバランスを崩した身体も大きく傾いた。
何かに掴もうと手を伸ばすが、空中を藻掻くばかりだ。
耐えがたい窒息感を抱えたまま暗闇の中に呑み込まれていく。
蔑みたくなる思考も、忘れたい記憶も、何もかもを沈めて。