第七十話 足りないところは補い合えば良いのです。
翌朝、手伝いを申し出てくれたハンスやナバル達も加えて現場に到着した。
彼等は昨日付けで父様のところを退職扱いになっているのでマルビスに声を掛けられて、すぐに冒険者ギルドで登録手続きを済ませて来てくれたそうだ。パーティ登録は最大十人までということらしいので私達のパーティには入れられなかったようで、とりあえず八人でその場で組み、ニ組協力しての依頼受諾扱いにしたそうだ。
ここで土と風属性持ちの彼等の応援は非常にありがたい。
今回は私はあまり魔力を下手に消費するわけにはいかないのだ。
この中で聖属性を持っているのは私だけ。
魔素を祓ったり、武器に聖属性を付与するのは私の役目だ。
準備期間は実質半日しかなかったからたいしたことは出来なかったけれど充分だ。
もし作戦が上手く機能しなかったら今日は相手の戦力を削るだけに止めて穴は塞ぎ、明日以降に持ち越し。改めて策を練る。イシュカによるとリッチの使役していると思われるアンデッドやスケルトンは人間や獣の死体や遺骸、骨がそこになければ今ある戦力以上は増えないそうだ。洞窟から出てこられて素材を集められ無い限りは戦力強化はないし、何かを守っているとなれば尚更穴から出てくる確率は低い。戦力を少しづつ削っていけばリッチを守護する戦力も低下する。
出来れば今日中に片付けておきたいけれど絶対ではない。
犠牲はゼロが基本だ。
幸いガイも捕まえられたし、協力もしてくれる。
テスラとキールも戦闘は無理でも裏方くらいは出来ると手伝ってくれている。
用意したのは大量の光を通さない厚手の布地とロープ、大きめの鏡、怪我治療のためのポーション、異常ステータス解除のための薬品その他多数と昨日の内に作って瓶詰めにして用意した大量の聖水だ。
私と同じく水と聖属性持ちのサキアス叔父さんも昨日は聖水作りを手伝ってくれた。
聖水の作り方は二種類ある。
一つ目は湧き出る泉の綺麗な水を神殿に祀り、神官が毎日祈りを捧げることで出来るもの。
二つ目は水、聖の両属性持ちが水魔法を使って空気中から集めた純度の高い水に聖属性の魔力を加えて馴染ませることによって作成する魔力的な意味での聖水。但し他人の魔力で集めた水を使用すると反発が起きるためこの二つを揃い持っている者にしか作れない。ただでさえ少ない聖属性持ちで、しかも水属性まで同時に合わせ持つとなるとその数は更に激減する。
およそ八割の聖属性持ちが各地の神殿、王都の近衛や魔獣討伐部隊、もしくはそれらの部隊の出兵や遠征などに帯同する聖騎士団に所属しているがこの中でも一割いるかいないからしい。
そう考えるとウチの屋敷に私を含めて二人いるというのはある意味スゴイ。
サキアス叔父さんの場合は扱いづらくて避けられた結果と言えなくもないが。
水というのは腐るし、炭酸のように魔力は抜けるもの。
保存専用の魔法陣が施されたものでも使用期限がある。
今回私達が用意したのは後者だ。
ウチみたいな地方領主の土地の神殿にいるのは位の高い僧侶では無い。
神殿の聖水は貴重だ。
寝て起きるまでに回復が見込めるのは私の場合、三分の一。
マルビスに保存容器を用意してもらい、朝までに全快が見込める量ギリギリまで生産して瓶詰めする。サキアス叔父さんは今朝も寝て回復した分の魔力を使って、自分は留守番で非戦闘員だがこれくらいは手伝えると倒れるギリギリまで協力してくれた。
父様と約束した二ヶ月の期限もすぐそこだ。約束を守って大人しくしていてくれたことだし、研究所も完成しているので引っ越しが済んでニ、三日して落ち着いたら少し早いけど呼んであげよう。父様の胃に穴が空いても困るし。
「みんな、準備を始めて」
まずは土属性持ちのみんなに洞窟の入口にあたると思われる部分から人が三並んで通れるほどの間を開けて両サイドに均一に壁を作ってもらう。勿論、この後に戦闘になった場合を考慮して持っている魔力を半分くらいは残した状態で真っ直ぐである必要はないが出来るだけ長く、頑丈に、イシュカが剣を振るうことの出来る高さで。それが完成したところで通路の天井をマルビスに用意してもらった陽の光を通さない布で土壁で作った通路の天井を塞ぐ。布の端には風で捲れ上がらないように間隔を空けて石を重しに巻きつけたロープを括りつけてある。
これで簡易トンネルの完成だ。
こうして出来上がったトンネルの入口からイシュカとガイと一緒に洞窟の入口までゆっくりと歩き、そこが陽の光を遮断して真っ暗であることを確認すると再びトンネルの出口へと戻る。
「問題はありませんでしたか?」
外に出るとマルビス達が迎えてくれる。
「うん、大丈夫。しっかり光を遮ってくれてる。流石マルビス、注文通り。他の準備は整ってる?」
「バッチリです」
いつものスーツスタイルの服からラフなものに着替えて胸当てを付け、背中に弓を背負い立つマルビスは凛々しく見えた。鍛えたと言うだけあってなかなか様になっている。
「じゃあ早速開始しようか。みんな、風上の定位置について。ロイ、予定通り百数えたらここの入り口をしっかり塞いでくれる? そしたら作戦開始するから」
「了解っ」
不安顔のロイ一人を残して全員がそれぞれの持ち場に向かい、散って行く。
「本当に貴方も行かれるのですか? イシュカとガイに任せておけば・・・」
「それはダメ。洞窟の中には瘴気と魔素が充満しているんだよ。私が行かなきゃイシュカやガイが中で倒れたら誰が助けるの?」
この中で一番の責任者で、一番危険な役目、だが一番の適任者である私が行かないという選択肢はない。三人の中で生存確率が高いのは聖属性持ちで魔素にある程度の耐性を持つ私だ。
「大丈夫、万全を期すために私がついて行くんだから。それよりも成功の鍵は私達が出てきた後の指示にかかってる。状況を見てどの手段を使うかは任せるから頼んだよ、ロイ。心配しなくても逃げ道はちゃんと用意してあるんだから。失敗はあり得ても死傷者出すつもりなんかない」
それは私を含めてだ。
全員で生還するのが絶対条件。
生き残ればやり直しは何度でも出来る、それが私の信条だ。
「私を信じて待ってて? 必ずロイのところに戻る」
「承知致しました。ではここで貴方の御武運を祈りつつお待ちしております」
心配なのは相変わらずのようだが私はそれを敢えて気付かぬフリして背を向けた。
「じゃあ行こうか、イシュカ、ガイ」
私は二人を連れて簡易トンネルの暗がりの中をゆっくりと進む。
ロイの姿が見えなくなったところで私は両隣にいる二人に小さな声で言った。
「一番危険なとこ、付き合わせて悪いね」
「いえ、光栄です。それに私は少しも心配しておりませんよ。貴方は私にどんなに無様でも生き残れと言った。その貴方が下手を打つわけないでしょう?」
「まあそういうこった。んじゃまあ、成功率上げるために天井に隠蔽でも掛けながら進むか」
確かに私達の上は日光を遮るために結構厚めとはいえ布製の屋根であることは間違いない。
幻惑魔法を掛けておくに越したことはないが。
「ガイ、魔力は?」
「充分。この程度の長さなら魔力消費量もしれてる。全体の五分の一も使わねえよ。御主人様は極力魔力温存で頼むぜ? いざという時にはハルト様頼みなんだからよ」
「わかってる。私の魔力が五分の一を切った時点で撤退する」
背後から僅かに差し込む光でかろうじて見えているトンネル内。
ガイの魔術をかけるスピードに合わせながらゆっくりと進む。
「本当に大丈夫なんですか? 貴方はこういうのは苦手なのでは?」
心配そうなイシュカの声に過去の失態を思い出す。
そういえばへネイギス邸に続く抜け道までの道の不気味さに慄いてイシュカにしがみついていたんだっけ。あれはなんともカッコ悪い醜態を晒してしまったわけなのだが。
「ああ、それは大丈夫。私は見知らぬところで何が出てくるかわからない不気味さがダメなのであって、昨日一度来ているところで、しかも今日は何が出てくるかもわかっている上に今は真っ昼間。心配ないよ」
得意ではないけれど問題ない。怖がっている場合でもないし。
私達は洞窟の入口に続くと思われる崖の近くまでくると立ち止まり、準備を始める。
まずは最終防衛ライン確保のためにイシュカにやや後ろで小さな結界を張ってもらう。
最悪の場合はすぐに天井を剣で切り裂いて上部に突破口を開いてもらうためだ。
私はガイの横で範囲指定の魔素祓いの中級聖魔法の発動準備を整えて待つと微かに漏れていた光が消え、辺りが暗闇に閉ざされた。
「ロイが入口を塞いだようですね」
イシュカが後ろを振り返って確認する。
「では始めるとするか」
そう言うとガイが洞窟へと続く土壁を崩すための呪文を唱えながら歩いて行き、手に持っていた聖水の蓋を開け、頭から全身に振りかける。するとうっすらとガイの全身が聖属性の光を帯び、うっすらと淡く光った。
これでほんの二、三分とはいえ魔素の侵食は抑えられる。
ガイがその岩肌に手をつき、次の瞬間、ドゴっという大きな音がトンネルの中に響いた。ガラガラと崩れ落ちる岩の塊から後ろに飛び退くガイに洞窟の中から閉じ込められていた魔素が大量に溢れ出した。
そしてガイが私の位置まで下がったと同時に私はすぐに待機していた範囲指定の魔素祓い術を解放する。そうすると私達の周りから一瞬魔素が消え、すぐに私達二人のもとに駆けつけて来たイシュカが三人の周りを囲む結界を張り直す。
「大丈夫っ、ガイッ」
「ああ、平気だ。少し瘴気を吸い込んだだけだ。問題ない」
駆け寄る私にガイは激しく咳き込みながら答えた。
続けて浄化魔法をかけようとした私を止めてガイが立ち上がる。
「大丈夫だ。聖水を少し飲んでおいたしな。あれがなかったらヤバかったかもしれんが。
それよりも構えろ。くるぞ」
崩れた壁の向こうにぽっかりと開いた穴。
大量に溢れ出した魔素と瘴気がトンネルの中に充満する。
洞窟の中から無数の紅い目がこちらを見ていた。
怖い。
そして、グロい。気味が悪い。
スケルトンって言うぐらいなんだから当然骨格標本みたいなのが歩いているわけで。
アンデッドと言われているのから当然腐乱死体みたいなのが這っているのだ。
あんなに大量の魔物と戦ったことはない。
大丈夫、落ち着け、出来る。
私なら出来る。
別に戦う必要はないのだから。
それに私は一人じゃない。両隣には頼もしい仲間がいる。
私はイシュカの張った結界の上から更に私達をギリギリ覆うことの出来る三枚の結界を張って持ってきた二千クラスの魔石で保持をして、その上からガイが隠蔽の魔術をかける。
私達の役目は洞窟の中からなるべくたくさんの魔物を誘き出すこと。
誘い出すためにイシュカが小さく光魔法で明かりを灯し、私達の存在を見せつけ、ガイと二人、ヤツらを怯えさせない程度の殺気と威嚇を放つ。それに呼応するように魔物がこちらに向かって剣を構え、歩き出した。
慌ててるな、大丈夫。
私の結界はそんなに簡単に破れない。
ランスが思い切り二十回剣を叩き降ろしてもびくともしなかった。
ロイも言っていた。魔力量の多い私の結界を破るのは容易ではないと。
充分引きつけ、多くの魔物を引きずり出しつつ出口に向かう、それだけだ。
結界は破られてもまた張り直せばいいだけだ問題ない。
開けられた穴からゾロゾロと隊列を組んで出てくるスケルトンやアンデッド系の魔物達が押し寄せてくるのを待ち、ヤツらがイシュカの張った結界を壊すために攻撃を仕掛けて来たところでゆっくりと後ろに後退し始める。焦っちゃいけない、少しでも多く引きずり出すためにはなるべくゆっくり、向こうが数の優位で押し返してくるぐらいのスピードを保ちつつトンネルの出口に向かう。
スケルトンやアンデッド系魔物のメイン属性は闇、後は土、風、水属性を補助的に持つものが殆ど。
苦手とするのは聖、光、火の順番。
死者は夜や暗闇に蠢くものと相場は決まっている。
浄化を嫌い、陽の光を浴びることを嫌い、自分達を燃やし、火葬する火を嫌う。
ゆっくり、ゆっくり、多くの魔物達を洞窟から引きずり出しながら洞窟の出口に向かう。
叩きつけられる錆びた剣や槍、アンデッド化した魔獣の爪などでまずはイシュカの結界が破られる。そして次に私の張った結界に無数の攻撃が加えられ始める。
焦るな、大丈夫二枚破られた時点でまた追加していけばいいだけだ。
少しづつ後退し始める私達を追い込むために更に追手となる魔物達が出てくるけれど、やはりリッチは何かを守っているのか洞窟の中から出てくる気配はない。だが押し込んでいるのにも関わらずダメージを与えられない私達に向かって更に洞窟から魔物達が押し寄せてくる。
結界が一枚破られる。
「ハルト様、ガイッ、もうすぐ出口ですっ」
イシュカの声に私は次の準備、再度範囲指定の魔素祓いの呪文を小さな声で唱え始める。
「今ですっ」
イシュカの声と同時に私は結界を解き、魔素祓いの呪文を放つとイシュカとガイによってロイの作った土壁が崩され、イシュカが私を抱え、開いた出口から飛び出した。
次の瞬間、ロイの合図によって簡易洞窟の天井を覆っていた布は離れて待機していたナバル達に勢いよくロープを引っ張られ剥がされ、上から眩しいばかりの陽の光が通路にギッシリと詰まった魔物達の上に降り注ぎ、そこから溢れ出した魔素を四散させるために風属性持ちの者達が一斉に天井を失った簡易トンネルの上部に向けて放たれる。
この辺りにはリッチの放った瘴気から逃げ出して生き物はほとんどいない。
魔物、魔獣化する動物はいないだろう。
通路に詰まっていた魔物達は頭上から降り注ぐ眩しい太陽の光に断末魔を上げながら焼かれ。
そして、灰になった。
「いよっしゃあっ」
周囲から歓喜の声が上がった。
「まだだよっ、すぐに土壁崩して。弓隊構えてっ」
浮かれるみんなを制してすぐに次の指示を出すと即座にトンネルを作るために築かれて土の壁が崩され、マルビスを含めた弓の得意な者達がトンネルに向け、矢尻を聖水に浸した矢をつがえる。矢の通り道が出来たのを確認するとまだ洞窟の入口付近でまごついている魔物に向かって追い打ちをかける。
「放ってっ」
次々に放たれる矢に撃ち抜かれ、倒れていく。
「続けて鏡で洞窟内を光で照らしてっ」
光に弱いと言うのなら、それは魔法の光である必要はない。
天高く昇った太陽の光を複数の鏡の反射を使い、更に奥までとどかせる。
それらを魔物達の悲鳴が聞こえなくなるまで続けた。
洞窟の中から感じていた無数の魔物の気配が減って、断末魔は止まった。
再びみんなの歓声が上がったが今度は止めなかった。
洞窟内から溢れて出て来ていた魔素の流出も殆どなくなったところでイシュカに光魔法を使い、内部を照らしてもらう。方向的にはほぼ真っ直ぐな穴が暫く続いているようだ。
中から感じる不気味な気配はかなり減ったもののゼロではない。
「確認する。イシュカ、ガイ、ついて来てくれる?」
洞窟内から溢れて出て来ていた魔素の流出も殆どなくなった。
安全とは言い難いが結界を張りながら進めば多分そんなに危険はないだろう。
尋ねた私の両横に二人が並ぶ。
「当然っ」
「勿論私もお供します」
大勢で向かっても洞窟内の広さがどれくらいあるのかわからない。
あれだけの数の魔物が這い出て来たからには内部はそれなりの広さがあるのだろうけど。
「みんなは回収できる素材があれば回収して片付け始めてて。周囲の警戒は怠らずにね。中の様子次第で手に負えないようなら穴を塞いで今日は一旦退却する。戦力は大分削げたと思うし、戦果としては充分。マルビス、聖水はどのくらい余ってる?」
魔物にはかなり有効性が高いのも確認できたし、短時間とはいえ魔素の遮断にも役に立った。
「結構ありますよ。全部で百本近く用意しましたからね。まだ半分ほど残ってます。お持ちになりますか?」
「そうする。不測の事態に備えて何本かは残して行くけど、有効期限あるしね。鏡だけ積まずに残して置いてくれる? もしまだ相当数中にいるようなら、可能なら通り道と壁を凍らせながら出てくるから。氷に反射させればもう少し奥まで光も届くでしょ」
天井に穴を開けることも考えたが夜中にそこから這い出してこられても厄介だ。
確認して魔物を一掃した後なら次の魔物を生み出さないためにも効果的だろうけど。
冒険者がリッチを見たって言うぐらいだから洞窟もそんなに深くはないはず。
だが、それにしては随分大量に押し寄せて来たように思わなくもない。
万が一、ニ刻ほどしても戻らない場合は早急に団長とダルメシアに報告をしてもらうようにと念を押しておく。イシュカとガイがついていて戻れないような事態には多分ならないとは思うけど絶対ではない。最悪結界に籠っていれば最悪事態は免れるだろうからくれぐれも焦って洞窟内に突入しないようにしてもらわなければ。
一応反撃を警戒して穴の真っ正面には立たないように注意しながら歩いていると私の疑問にイシュカが答えてくれた。
「アンデッドはともかく、大半がスケルトンでしたので、積み上げられていたのでは?」
積み上げる?
「所詮骨ですからね、バラして積み上げておくんです。稼働する時は各パーツが引き合いますので問題ありませんし。以前、そういう現場に遭遇したことがあります。堆く積み上げてられた骨があったのですが動く気配がなかったので通り過ぎようとしたところ、前方からリッチが現れて前後を挟まれ、逃げ道を塞がれたことがありました」
なるほど。人体の六十パーセントは水分だというし、そこから更に肉や内臓が腐り落ちてしまえば嵩もないということか。
「リッチさえ倒してしまえば操られているスケルトンはその動きを止めます。ただ年数が積み重なるとそれだけリッチの抱える兵力も多くなる場合が多いです。戦力は大分削いだはずですがあの数を従えていたとなるとそれなりに強力な個体である可能性も高いのでお気をつけください」
つまりここが踏ん張りどころと言うことか。
統率者のリッチさえ倒してしまえばその他の有象無象は動きを止める可能性が高い。
無理して戦うつもりはないが、向こうの保有していた戦力を大量に削いでしまった以上敵認識されているのは間違いない。すんなり見逃してくれる可能性も低い。
「二人共武器を貸して。念のため聖属性付与しておくから」
洞窟脇の崖まで到着すると突入の準備を始める。
私は二人から差し出された武器と自分の腰に差していた二組の双剣にも念のため魔法をかける。備えあれば憂いなし、万全の準備を整えておくに越したことはない。
「万が一戦闘になった場合は私が前衛、ガイが援護、ハルト様には魔法での後方支援をお願いしても宜しいですか?」
「いいよ」
無難なところだ。
状況を見つつ打てる手や対策があれば考えるけど、私の剣の腕はまだ三流。
すばしっこさには自信があるからスケルトンくらいなら倒せそうだけど。
聖属性の魔法は他の属性より魔力消費も大きい。後方支援が妥当だろう。でも、
「イシュカ、変わったよね」
ふふふっと私は笑ってイシュカを見た。
「ちょっと前なら私に絶対前に出るなって言ってたよね。嬉しいよ。それだけ私を信頼してくれてるってことでしょ? ガイはそういうとこ、全く遠慮なかったけど」
「俺と対等に渡り合える主に遠慮してどうする?」
そういう意味か。まあガイらしいといえばらしいが。
「俺達はご主人様の足りないところを補うために雇われた。ってことは俺に足りないところはご主人様やイシュカが持ってるってことだろ? 協力できればよりデカい相手も倒せるってことだ。楽しいぜ、俺は。今まで手も足も出なくて諦めていたような相手が目の前に倒れていくのを見るのは」
ガイに言われて気がついた。
そうか、その通りだ。
私はガイの言う通り、自分の足りないところを助けてもらうためにみんなを探した。
それは裏を返せばイシュカやガイが持っていないものを私が持っていると言うことに他ならない。
「全く、ガイの言う通りだ」
私はこんな状況でありながら、どうにも楽しくなって笑った。