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第六十四話 少しばかりやり過ぎましたでしょうかね?


 まだ陽も高いうちから酒などと、この際細かいことは置いておく。


 かなり作業は前倒しで進んでいるということだし半日くらいの休みはどうということはないだろう。職人達が自分達の寝ぐらからマイカップと皿を持ち出してくるのを待ち、各自に三本づつの大串が配り終えられ、完成したスープとカット野菜は全て御自由に状態で大工職人と子供達の境目に設置する。

 私達と従業員達は最初その境目付近のスープの鍋からほど近い湖寄りの位置に陣取って後ろに馬車からエールを一樽運んできておいた。まだ時間もそんなに経っていないし、荒っぽい職人の中にいきなり放り込むのは流石にどうかと思ったからだ。護衛や運搬してきてくれた人達、独身寮の最上階で休んでいた騎士団の方々にも平民と一緒で問題ない方限定で参加頂いたので総勢五百名近い人員になった。


 適当に腹ごしらえが終わったところで職人達の方はマルビス、テスラ、ゲイル達にお願いして様子を見てもらい、子供達はあたりの柔らかいロイとイシュカ、同年代のキールが様子を見ていてくれている。ガイは湖畔で一応私の護衛名目の昼寝だ。私はコンロでタレを塗りながら肉と野菜を焼いている。特に帽子を深く被ってイシュカ達と紛れ込んだ市場で見つけたトウモロコシには狂喜して思わず帽子が外れそうになってしまった。醤油を塗って焼いたトウモロコシは私の大好物の一つ、珍しいのか売っていた屋台は一つだけだったけど思わず全部で百本、買い占めてきてしまった。皮を剥いて積み上げておいたのにもかかわらず、肉に比べて不人気だった野菜達の中でもそれはあまり見慣れないらしいことも手伝って殆ど捌けないままだったので私はそのまま木箱に入れてそれを自分のところに持ってきた。

 みんなの興味がないなら持って帰って乾燥させて、ポップコーンにするのもいい。

 ハケでコンロに並べたトウモロコシにタレを塗りながら焼いていると何とも言えない醤油の焼けた香ばしい匂いが漂ってくる。うっすらと焦げ目がつき、パチンっと皮が爆ぜる音がそろそろ食べ頃だと教えてくれる。

 私はそれを持ちやすい茎の方を向けて興味津々で見ていたフィアに渡す。

「はい、どうぞ。焼けたよ、美味しいから食べてみて?」

 しげしげと見ているものの口をつけないのは食べ方がわからないせいだろうか?

 私は香ばしい匂いを漂わせているそれの両端を持って思い切り齧り付く。

 うん、やっぱりトウモロコシは醤油焼きが最高!

 芯を残してあっという間にペロリと平らげた私を見てフィアがおそるおそる齧り付く。

「本当だ、凄く美味しい」

 お腹が空いていたのかガツガツと食べ出した様子を見て安心する。

 先程肉と野菜が交互に刺された串を食べていたところを見ていたが、やはりフィアは野菜はあまり好きではないようだ。歓迎のディナーで出されればマナーとして平らげはしても、こうしてフランクに出されると避けている。特に栄養価の高いと言われる緑黄色系の野菜、一般的に子供が嫌う人参、ピーマン、トマト、法蓮草等だ。わかりやすいといえばわかりやすいのだが。

「なあ、俺にも食わせてくれよ」

 寝っ転がっていたはずのガイが匂いを嗅ぎつけてやって来た。

「さっき野菜はいらないって言ってなかった?」

「明日のアレはナシでいいから食わせてくれ」

 好物の甘味を犠牲にしても食べてみたいわけか。

 この醤油の焼けた匂いがたまらないよね。うん、気持ちはわかるよ。

「それじゃあ、ハイ、どうぞ召し上がれ」

 トングで挟んで一本そのまま差し出すとガイがそのまま齧り付き、一瞬、目を見開くと物凄い勢いで食べ始める。味の感想は聞くまでもない、食べる姿が全てを物語っている。熟れたトウモロコシは甘味に負けないくらい甘い。ガイが気にいるのも無理はない。

 ついでに後ろで生唾飲み込んでこちらをみている連隊長の前にもそれを差し出した。

「よろしければいかがですか? 前にも言ったはずですよ、望みは素直に口に出した方が良いと」

「ああ、すまない。そうだったな。頂こう」

 多分王子、フィアの護衛についているという状況もあって警戒モード発令中というところか。 

「そちらのハッツェ殿もよろしければどうぞ。そんなに心配しなくても私の作る料理に毒味の必要はありません。私は権力というものには全く魅力を感じませんので。すぐに私の言うことを信じられないのも無理はありませんが」

「いや、その点に関してならば疑ってなどいない。すまないな、つい職業病みたいなものでな」

 警官が挙動不審な人間に対して疑うのが仕事、みたいなものか。

「貴方が権力に興味がないのは傍目にも明らかだ。陛下にもっと上の爵位を賜る機会もあった、王女殿下の婚約者の地位を手に入れ、次期国王の座を狙うことも出来た。だが貴方はその全てを断り、いかにも面倒だという態度であったからな」

 その通りだ。最高権力者の座など面倒以外のなにがあるというのだ。

 私に何億という人の命の責任など背負えるわけなどないだろう。

「私は理不尽に上から押さえつけられることが嫌いなだけです。ですから私は大事な者を下賤と罵り、蔑み、見下すような方に王位に就いてもらうわけには参りませんので、そのための協力は惜しみませんよ」

 だからこそフィアに手を貸そうと決めた。第二王子があのまま変わることなく王位に就いてしまったらこの国がどうなるかなんて想像に難くない。

 私はフィアに向き直った。

「ただ、覚えておいて頂きたいのはフィアがあのような方になった時はお覚悟を。私は大事な者を守るためならば手段は選びませんので」

 私の言葉にフィアが唇を引き結び、拳を握りしめる。

「肝に銘じておきます。いえ」

 一度言葉を切り、そして私の目を真っ直ぐに見返す。

「むしろあの様な醜態を晒すような愚かな王になった時は是非貴方に私の首を取りに来て頂きたい」

 強い意志の宿る瞳。

 その覚悟があるのなら、

「ならば私は貴方の味方です。御安心を」

 そう言って私はにっこりと笑った。


 しかしながらこのトマトスープも味噌汁も、見慣れないせいかお姉様方の作ったものに対して減りがかなり悪い。なかなか上手くできたと思うのだが従業員達以外に捌けていない。食べてもらえば美味しいとわかるはずなのだが口にしてもらわねば始まらない。人には好みというものもあるし仕方がない。

 私は鍋からそれを掬い、盛り付けると王子に向かって差し出した。

 たっぷりの野菜を微塵切りにして煮込んだ特別製、目に見える僅かばかりに浮かんだベーコンに誤魔化されて口にしてもらえればいいのだがどうだろう? 野菜嫌いの子供でもトマトはダメだがトマトケチャップは平気ということが多いし、とりあえずものは試しということで。

「よろしければ、こちらもどうぞ。私のお手製です、見慣れないせいもあるのか子供達にも職人達にも避けられていましてね。そちらの二人もいかがですか?」

 尋ねると連隊長がまずは手を伸ばし、口にする。

「美味い。やはり貴方の料理は最高だな」

「そう言って頂けると嬉しいですね」

 連隊長の言葉にフィアとハッツェも受け取ってくれた。すぐに口をつけたハッツェに対してフィアは少し躊躇っているようだ。それは毒が仕込まれているのを用心しているのではなく、自分の苦手な野菜が入っていることへの警戒しているのだろう。

 それは正解だよ、フィア。

 人参、キャベツ、玉ねぎ、ナスにキノコ類、そしてたっぷりのトマトの微塵切り。

 それらは長時間煮込まれて殆ど形は残っていない。

 私はそれを見て見ぬふりで子供達の方角に目を向けるとキールが手を振りながらこちらに近づいてくる。

「ハルト様、みんながハルト様とお話ししてみたいって」

「わかった、今行く」

 こちらにちらちらと向けられる視線は好奇と期待、好意と、そして疑心と不安。

 まずは疑心と不安を和らげるのが私にできることか。

 私は弱火でかけたままの鍋の底が焦げつかないようにかき混ぜると縁にオタマを引っ掛ける。

 漂う匂いにキールが鍋を覗き込む。

「これ、ハルト様が作ったのですよね?」

「そうだよ。どうも不人気のようでね。食べてくれるのは私の従業員だけなんだよ」

「勿体ない、凄く美味しいのに。これっておかわり自由ですよね」

 キールが鍋を覗き込む。私は少しだけ笑った。わかりやすい行動だ。

「好きなだけどうぞ」

 私がかけたオタマをもう一度手に取り、手を差し出すと空いた皿がそこに載せられる。

「じゃあ山盛り一杯で。俺、これ、すごく好きなんです」

 皿いっぱいに盛り付けるとキールと一緒に子供達のところに向かおうとすると目の端にふと気になる光景が止まった。職人と子供に分けられているエリアの境目付近で何か言い争いをしているようだ。そちらに視線を向けていると職人の二人のうち一人が子供を突き飛ばし、一人には振り払われ転んだ。

 職人の手にあるのは配分された肉串だ。

「キール、ちょっと待ってて」

 私の視線に気がついたのかキールが動きを止める。

 足元に縋り付く子供に向かって男の拳が振り上げられ、子供が怯えたように身を竦める。

 私はすぐさま加速してそこに駆けつけ、その場にしゃがみ込んだ子供を背後に庇い、その振り下ろされた拳を受け止めた。


「貴男達はいったい何をなさっているんですかね?」

 怒気を孕んだ私の声に慌てて手を引き抜き、後ろに一本足を引く。

 一応この場においての最高責任者の登場に男は焦ったようだ。

 いきなり走り出したというのにしっかり後ろにガイがついて来ているのは流石だがすぐには手を出さず、少し離れた、すぐに割り込める場所から成り行きを見守っている。

 確かこの男は朝、私のエールという言葉に一際はしゃいでいたのを見ている。

「このガキが俺様の邪魔しやがったんでちょっとばかり躾てやろうかと思っただけで」

「この子達がいったい貴男に何をしようと?」

 躾ねえ。いったいどんなご大層な躾なのかは状況を見れば聞くまでもないが。

「コイツらがまだ分け前の肉を食ってなかったんで、俺達が代わりに食ってやろうって話をしただけで、そんなたいしたことでは・・・」

「この子が貴男達にそれを差し出したと、そういうのですか?」

「ああ、まあ、そ、そんなとこだ」

 どもっている時点でアウト。それが嘘であることは明白だ。

 周囲の子供達の怯えようを見てもよくわかる。

「そんなこと、言ってないよっ」

「僕達は最後に食べようと取って置いただけで」

 私の背後に隠れて、とはいえ私より年上らしい二人の子供の方が若干背が高いので隠れるには些か小さい背中だろうがそんなことは関係ない。多少締まらない光景ではあるが私は自分より遥かに大きな相手を下から睨み上げる。

「この子達は、こう言っていますが?」

「ガキにこんな肉は贅沢なんだよっ」

 はい、ほぼ自白に近い言い訳頂きました。この二人の男の排除は決定だ。

「貴男にも分けられたはずですよね? 食べ足りないというなら野菜も、スープも、まだ少しばかりの肉もそこに残っているはずですが?」

 職人の殆どは食事よりエールに夢中だったのでランスが狩って来た猪の肉はまだ残っている。とはいえ、串に刺したのは市場で仕入れた牛、豚、鶏などで若干人気は落ちるけど。私の言葉に舌打ちするということはそれも知っていての行動と見て間違いない。つまり、

「子供の食料を巻き上げようとして、反抗されて、突き飛ばし、それを取り上げて拳を振り上げた。と、こういうことでよろしいですか?」

 私の問いに無言だということはほぼそれに間違いない。

 つまり私の忠告は破られたということだ。ならばやるべきことは一つ。

「マルビスッ、テスラッ、ゲイル達も職人達のエールの樽を回収してっ」

 騒がしかった会場に響き渡るような大声を張り上げる。

 私達の諍いに気づいていなかったの視線も一気に集まり、会場全員の注目を浴びる。

 私の号令に事態を察したみんなが一斉に会場にあった樽を回収に走る。

 子供達のところにいたロイとイシュカの二人は急いで私の元にやって来た。

「おっ、おいっ、そりゃあねえって」

 次々に片付けれていくエールに男二人は慌てふためいた。

 何を今更驚くことがある?

 むしろ気の毒なのは巻き添えを喰った他の職人達だろう?

「私は言ったはずですよ。子供達に手を上げたら連帯責任でエールは没収だと。カッコよくて優しい、頼りがいのある素敵なお兄さんでお願いしますと。ウチの事業を将来担うことになるかもしれない大切な子達だからと」

 グッと息を詰まらせる二人に私は毅然と言い放つ。

「私が大切にするのは私のために力を貸し、尽くしてくれる者だけです。

 私を甘くみましたか? 残念でしたね。子供を舐めてかかると痛い目を見ますよ? 私は貴男程度の三下に怯むほど弱くありません」

 少しの恐怖も感じない。

 確かに身長も横幅も倍近い。だが団長や連隊長、イシュカやガイのようなオーラがまるでない。力は大工という職業上、多少なりとも強いかもしれないが迫力がまるで感じられない。

「少しくらい魔法が使えるからっていい気になりやがって貴族のボンボンが」

「貴方達程度、魔法を使うまでもありません」

 このところ夕方の涼しい時間帯にはイシュカとガイに剣術と体術をみっちり仕込まれている。

 双剣を使った剣術の腕はまだまだだが、もともと逃げ足とすばしっこさには自信があったのでガイに相手の力を利用して投げ飛ばす方法も教えてもらった。スピードでは自信があるので簡単には捕まるつもりもない。

「イシュカ、ガイ、手を出さないでよ」

「ですがっ」

 私の制止にイシュカは慌てて割って入ろうとしたが、それをガイに止められる。

「大丈夫だって、あの程度のヤツらに負けやしねえよ。俺のご主人様は、な。まあ安心して見てろよ、俺ら以外の実戦を試すのには丁度いいだろ。多少相手にするには物足りないだろうがな」

 つまりガイは私の勝利を確信しているということだ。

 ならば尚更怯む理由はない。

 子供達に私から離れるように言うと不安そうに見守っているお姉様方にお願いしますと伝えて微笑み、彼らの前に一歩、歩み出る。

「そういうわけですのでどうぞ掛かってきて下さい。大見栄切った以上護衛に頼るなどと、そんな無様でカッコ悪い真似は死んでも私は致しませんよ。嘘ではないと証明してみせましょう。安心して下さい、無礼打ちなんて致しませんから。貴男達には私のようなこんな歳の子供に素手の喧嘩で負けたのだと恥を晒してもらわねばなりませんので」

 相手を怒らせて冷静さを奪うのは定番だ。

 頭に血が上れば上るほど感情に任せた大振りが多くなる。ましてやアルコールが入っていれば余計に冷静さは失われる。真っ赤になって怒り、一人が私に大きく振りかぶり殴りかかってくる。そしてもう一人は私の背後に回り込むが全て動きは見えている以上甘いとしか言いようがない。私みたいな背の低いスピード重視型にそれは悪手、キャーッと言う悲鳴が子供達の方向から聞こえ、職人達からはどよめきが上がる。普通に考えれば二人の大人に子供が敵うはずもないし、当然といえば当然の反応ではあるのだが。

 私はそれを突っ立ったままで迎え、タイミングを測る。

 これだけの身長差があれば狙いは自然と顔に絞られる。前から殴り掛かる男の拳をヒョイヒョイと上半身を動かすだけで避けながら、後ろの男が背後から私の胴を捕まえにくる瞬間を狙い、思いっきりその場にしゃがみ込む。するといきなり屈んだ私の顔面を狙っていた拳は見事に後ろの男にヒット、見事に吹き飛んで、私に避けられ体勢を崩した男の懐に飛び込み、足払いをかけて地面に倒し、更に膝を付いた男のそれを薙ぎ払う。

 倒れ伏した二人の男に興味はないとばかりに背を向けると私が足払いをして倒した男が立ち上がり、ナイフを抜いて突っ込んでくる。

 全くもって芸がない。

 少しは捻りを効かせてくれなければ実戦練習にもならないではないか。

 私はその刃先を横に体をずらして避けると切り掛かってきたその腕を捕らえ投げ飛ばす。

「負け犬の定番などお見通しですよ」

 私は仰向けに倒れたその男の手首を思い切り踏みつけると持っていたナイフを取り上げてその男の顔の真横の地面に突き刺した。男がひっと小さく悲鳴を上げる。

 少しの間を空けて、周囲から盛大な歓声と口笛が聞こえてきた。

 最高潮の盛り上がりだ。

 

 さて、どうしたものか。

 このまま放っておくのは絶対却下。

 逆恨みして問題起こしそうだし、こういう輩はまた同じことを繰り返す。

 となれば、ウチの領地から追い出して入って来れないようにするのがいいだろう。

 私の勝利を確信していたのか呑気にトマトスープを飲んでいるキールにスケッチ道具一式を持ってきてもらう。

「キール、コイツらの似顔絵描いてくれる? いつもの簡素なヤツじゃなくて見たそのまんまのヤツ」

 倒れた二人をイシュカとガイに縛り上げてもらい、その前にキールがしゃがみ込んで描いてもらっている間に不届者二人の荷物を取ってきてもらう。


「マルビス、ゲイル、ダナン、コイツらの出身と給料払いはどうなってるかな?」

 まずは確認だ。私の問いにダナンが答える。

「コイツらはローレルズ領から来て丁度一週間になりますが給料は日払いになっています」

「今日の分は?」

 謂れのない言い掛かりをつけられないためにも働いた給料分の支払いは済ませておく必要があるだろう。それも個室ではなく公衆面前、みんなが見ている前ならば後から嘘の噂も流せまい。

「まだです」

「そう、じゃあマルビス、コイツらに今日の日給と旅費を払って追い返してくれる? これだけ証人がいれば下手な嘘も広められないでしょう。日雇いなら違約金はいらないよね?」

「はい、必要ありません」

 それならばこちらの痛手は少なくて済みそうだ。

 彼らにはこの場の雰囲気をぶち壊した全ての責任をしっかり背負ってもらわねば。

 キールが描いた二人の特徴をよく捉えた人相書きを受け取ると彼らにそれを見せつけながら付け加える。

「それからこの似顔絵まわして、懸賞金かけた上で冒険者ギルドに出して置いて。グラスフィート領で見掛けたら私の元に連れて来てくれって。そうだな、金貨十枚でもかければ冒険者達も顔を覚えてくれるかな?」

 破格の値段をつければ目を皿のようにして覚えてくれることだろう。

 二人は私の言葉にギョッとする。

「充分過ぎるかと」

 マルビスがニッコリ笑って答えてくれた。

 まあそうだろうね。金貨十枚となればB級クラスでも上位の依頼。

 手荒い冒険者に追い回されて捕まれば、私のところに来るまでには擦り傷程度で済むとは思えない。

 竦み上がる二人に私は不敵に笑って見せる。

「私は正義の味方を気取るつもりはこれっぽっちもありませんが力や数にモノを言わせて弱い者イジメをする輩が大嫌いなんですよ」

 特に私の大切な仲間に手をかける相手に容赦などしない。

 まして負けを認めて引き下がるならまだしも背中を向けた途端切り掛かってくるような卑怯者にかける情けはない。震える彼らに更に追い討ちをかけるために言い放つ。

「命が惜しければ二度とこの領地に立ち寄らないことですよ。負け犬の行く末などに興味はありませんが、私に敵わないからといって私の大事な者達に手を出そうとするなら次こそ覚悟しておいて下さい。

 私を怒らせた輩がどんな末路を辿ったのか、一度調べてみるといいですよ。王都、特に貴族の間では相当に有名な話らしいですからね。どうやら彼らの間では私は魔王にも等しいようですが、そうなると貴男達はその魔王を怒らせた、ということになりますね。知らなかったというなら、御愁傷様といったところですか」

 二人の顔色は最早青を通り越して真っ白だ。


「さようなら、二度とお会いしないことを祈ってますよ。貴男達のためにね。

 イシュカ、逃げ出さない様にキッチリ縛って置いてくれる? まあ逃げ出したとしても問題ありませんがね。即時冒険者ギルドに捜索依頼を出すだけですから。ウチの領地は隠れるのには向きませんよ。田舎ですので噂もすぐに広まりますから。お生憎様、貴方は喧嘩を売る相手を間違えたのですよ」


 そう告げて後ろを向くとガイが如何にも可笑しくて堪らないと言ったように笑い転げていた。

 しまった。

 やり過ぎてしまっただろうか?

 まあいいか。

 魔王は魔王らしくふんぞり返っているとしよう。



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