第六十話 やっぱり私は祟られてますか?
団長が王都に戻って五日後、男子寮が完成した。
全百十名が収容できる実に御立派なものだ。
完成当日くらいはお祝いがてら顔を出すべきかと思い、みんな一緒に完成した寮まで出向くと拍手喝采、大歓迎で迎えられた。一応夜に調査に出掛けている騎士団の方々が四階で休んでいるので声と音は控えめではあったけれど。
何故かと聞くとウチの待遇が他所に比べて段違いに良かったそうだ。
普通はこのように突発的に派遣されても寝具一式どころか充分な食事も用意されず、自分達で賄うのが常だそうだ。固くない寝床と毎日届けられる充分で新鮮な食材に涙を流して感謝され、マルビスに手配してもらっていたエールをニ十樽差し入れすると更に崇め奉られた。図に乗らせるのはいけないだろうが、少しの気遣いが人をやる気にさせ、仕事の質を上げると思うのだ。
マルビスに中を案内してもらうと一部屋あたりの大きさも前世でいうところの六畳間ほど。
戸口の上には私が頼んでいたように簡単に収納、設置出来るロフトのような物置が括り付けられているし、全室はまだ入っていないが折り畳みベッドも、部屋の隅には小さいながらもクローゼットが完備されている。
「私が今まで見た中でも独身寮としてはかなりいい設備ですよ」
マルビスの言葉に安心する。
住みやすい環境というものには人が居つくもの。
女性と家族のための寮も既に大枠は出来上がっているし、屋敷も基礎部分はほぼ出来上がっている。予定よりもこれは早く完成するのではないだろうか。サキアス叔父さんの研究室も、ウェルムの工房も既に出来上がっていて、今は釜の様子を見つつ、色々と試しているようだ。包丁が出来たら届けに来てくれるという。早速テスラは他とは違うという剣や刃物の製造工程に興味津々かぶりつきで見ていたので後で迎えにくると言い残し、周辺をぐるりと見て回る。
この森と湖一帯の土地は私が既に父様から買い上げた状態にしてある。
鉱石などの資源採掘もない、人の住みにくい山というものは安いものだ。
私が父様に払った金額は金貨一千二百枚。報奨金でこと足りた。
これも将来的に色々なところからチョッカイかけられたり割り込まれないための父様達の対策、湖周辺に僅かに住んでいた人達も補償金を払い、引越しをお願いしてある。幸いなことにこの辺りは貸していたものの名義は父様のままだったので大きな問題にもならず、土地の買い上げ、名義変更も無事終えることも出来た。
女子寮の敷地内の作業棟もほぼ完成、一階厨房部分にはそれぞれ二十台のコンロと二つの大きな釜が完備されている。まるでどこかの給食施設みたいだ。五日後開店予定の蒸しパンはここで作られて運び込まれる。店のオープンは昼から陽が沈むか商品売り切れまで。
そう言えば店の名前も商品に焼き付ける予定のロゴも見ていない。
マルビスがキールに頼んでデザインさせていたのは知っているけど内緒にされていたっけ。私を驚かせるつもりなのだろうとキールが言っていたので口を出さなかったものの一抹の不安がないでもない。マルビスが売り出す手腕や手際、そういうものは信頼している。気になるのは隠されている理由について。マルビスの性格からいえば『どうです? 素晴らしい出来だと思いませんか?』などと自慢してきそうなもの。
町には以前のような騒ぎになっても困るので護衛が揃うまではと出掛けるのを自重して店を見学に行くのも控えていたのだが。
「ねえ、マルビス。私、新しい店の名前もロゴも、まだ知らないんだけど」
そう尋ねると、スッと視線を逸らされる。
マルビスが私から視線を逸らすことは滅多にない。
「何か私に隠してるでしょう?」
「隠しているというか、その、色々と事情がありまして」
私がマルビスを問い詰めているとゲイルが設備の点検を終えて走り寄って来た。
「マルビス様、ハルト様に報告していないのですか?」
ゲイルはマルビスが私に隠していたことを知らなかったのか。
「ハルウェルト商店というのですよ。ロゴはこちらです」
そう言って差し出された紙に私の目は釘付けになった。
「マルビスッ」
殆ど私の名前と変わらない店の名前に、紙に書かれた数種類のロゴ。
それは前世でどこぞの菓子メーカーで見かけたようなキャラクターっぽく描かれた私の顔。
王都でキールに描かせた私の似顔絵を更にイラスト化したものだった。
「私が目立つの嫌いだって知ってるでしょうっ」
「だって今更じゃないですか。隠したところで貴方が町一番の有名人であることは間違いないんですから。可愛いでしょう? 店の看板も既に評判で小物などの商品を是非出して欲しいと要望や問い合わせがくるくらいなんですよ」
確かにロゴは可愛いけどっ!
「恥ずかしいじゃないっ、これじゃ外も歩けないよっ」
「貴方はどこへ出しても恥ずかしくないですから大丈夫です」
「どういう理屈だよ、お願いだから変えてよっ」
「もう無理です、看板も間に合いませんし、問い合わせが殺到しているって言ったじゃないですか」
私は真っ赤な顔でポカポカとマルビスの胸を叩いて抗議したが結局店名もロゴも変えられることはなかった。
この五日後、オープンした店の紙の手提げ袋は有料だというのに蒸しパンやフルーツサンドを買うお客様はもれなくお買い上げ、早々に数は足りなくなり、マルビスがすぐに大量発注をかけた。
商品の売れ行きも評判も良かったけれど町に溢れる自分のキャラクター風の似顔絵に気分はかなり複雑だった。
私がまた町に暫く寄りつこうとしなくなったのは言うまでもない。
居ついていた従業員達が独身寮に引っ越すとそんなに広くないはずの倉庫が随分と広く見えた。
一昨日オープンした店も評判は上々、今日も販売は昼からのはずなのに朝から大行列で生産を倍に増やしたらしい。一般的なパン屋に比べると高価とまではいかないもののお値段は二倍弱の蒸しパンとオヤツ感覚の彩りも鮮やかなフルーツサンドは更にお高めであるのにも関わらず、菓子には手が出せない庶民には目新しくもお得に感じる物だったようだ。開店して一刻ほどで売り切れてしまうので更に生産を増やそうとしたマルビスに私は待ったをかけておいた。いつまで続くかわからないブームで生産を増やし過ぎるより欲しいけど手に入らないという状況にして購買意欲を煽り、一カ月ほど様子を見た後、増やすべきだと進言した。
私はここ二週間くらいの間で天日干ししていた食材を切り刻みながらマルビスの報告を聞いていた。
「思った以上に売れてるね。ちょっとした贅沢品かと思ったんだけど」
「それは最近の貴方の活躍と雇用率の上昇によるものが大きいでしょうね」
はて? 私は何かやっただろうか?
行く先々で騒ぎを起こしていたような記憶はないでもないが。
これでも一応自覚はあるのだ。
「この小さな町にワイバーン十匹の素材の加工や流通という仕事、スタンピード時の使用資材の発注、新商品の開発による生産の発注、大規模工事による人材雇用の促進と農作物の売り上げ。それらによってこの地区はいまだかつてない好景気なのですよ。仕事が増えれば人も増える、人が増えれば需要も増える、需要が増えれば景気も良くなる。つまりここの領民達の生活水準が僅か半年も経たない間にかなり上がってきているんですよ。生活にゆとりが出れば少しくらい贅沢してみようと思うでしょう?」
ああそういうことか、納得だ。
もともとはリゾート施設を作ることでその経済効果というものを狙っていたのだが様々な厄介ごとでその効果が早まるとは皮肉としか言いようがない。
私自身も所謂にわか成金というやつで、結構散財というか、使っているはずなのに入ってくる金額の方が多い。足りなければ言ってくれと事ある毎に伝えているが充分に足りているので問題ないというし。この間ダルメシアに言われてすぐに残りのワイバーンの魔石は売り払ってしまったのだが、結局もともと税金対策で私のところに収益としてあげているのでそれも加わり、私のもとには結局まだ五千枚近い金貨がある。
その上これから二年に渡り、毎月金貨五百枚が王室から届けられる。大量消費するはずだった森の入口に建設途中の屋敷と二棟の寮も、当初の予定の規模を大きく上回っているというのに報奨として贈られたのでほぼタダに近い。
私の懐から出た金額は結局職人達の寝具などと差し入れだけ。
金貨ニ百枚にも満たない金額だ。
「マルビス、今日は随分ゆっくりしているけど大丈夫なの?」
「ええ、店も無事オープンしましたから少しだけゆとりもできました。今日は団長が戻ってくる日でしょう? 子供達の受け入れもありますし、ロイにお願いしていた帳簿にも目を通しておかないといけません。団長に渡した見積の返事次第では早急に手配も必要になるでしょうから」
そういえばそんなものもあったっけ。
あの大量注文を受けるとなると利益もすごいが相当大変だと思うけど。
マヨネーズは瓶の数も揃って来たので密かに今回オープンした店の隅で売り始めた。材料費の関係で若干お高めの設定価格のそれは売れ行きがあまりよろしくない。だが初日より二日目、二日目より三日目と、徐々に売り上げを伸ばしている。何に使うか知られていないだろうと商品棚の前に簡単な使い方やレシピを表示している。マヨネーズを使った思いつく限りの料理方法の全ては商業登録時に使用料の設定をゼロにしてある。他人の使用法登録を避けるための手段である。工夫するのはいいが利用されては困るからだ。マヨネーズの製造方法については当然伏せられている。
団長達の注文数を揃えるとなると即座に完売必死。材料調達もなかなか大変だ。
団に卸す物はともかくとして団長達が個人的に欲しいと言って来た分はおそらくお買い上げ確定だ。既にその分の材料は既に避けてあるし、その他の物も先を見越して既に増産体制に入っている。数の増減はあったとしてもそれなりの数は発注が入ってくると思われる。
リバーフォレストサラマンダーの御登場は厄介事を運んできたが上得意も呼び込んだというわけだ。捜索と調査は相変わらず続いているようだが、その成果はあまり芳しくないみたいだ。もし、オオサンショウウオと生態などが似ているとすればおそらく潜んでいる場所は岩影や川などに巣穴を掘っているのだろうが確証がない上に、何故そんなことを知っているという話になって私の中身が異世界人だとバレようものなら魔女裁判状態になるとも限らない。とりあえず出来ることは様子を見守って、相談を受ければそこに考えを誘導するくらいか。
「団長が連れてくる子供の数ってどのくらいか知ってる?」
「全員がくるとは限りませんが、おそらく五十は超えるかと。場合によって百近い可能性も」
結構いるなあ。
まあへネイギスが攫ってきた子供達が相当数いたみたいだし、数人程度では商売にもならなかっただろうからそれくらいは当たり前か。
「住むところは用意出来る?」
「女性寮の作業場二棟上にそれぞれ五十組づつ寝具は用意してあります。当面はそこで生活させ、寮が完成次第当面一部屋二人で移らせます。建築作業員の中から真面目で優秀な者を見極め、ゲイルにスカウトをかけさせていますので王室依頼の建築が終了次第、更に二棟の寮建築に着工、合わせて直轄の工房なども幾つか立ち上げ、生産拠点も順次建築予定です。スウェルト染めを任せられそうな若手の職人も数名見つけましたのでスカウトして確保しました。湖沿にこちらで確保していた建築作業員に作業場兼工房を作らせましたので一度御一緒して頂き手本を見せて頂きたいと思っているのですが宜しいでしょうか?」
相変わらず素早い、というか仕事が早い。
相当忙しいはずなのにこの手際と手回しの良さ、マルビスやキール達を見ていると私はつくづく凡人なのだと思い知らされる。
「いいよ、いつにする?」
「早ければ早いほど」
「なら明日か明後日だね、団長の到着時刻次第ってことか」
流石に到着して数日くらいはのんびりさせてあげたい。
「かなり早急に色々立ち上げているけど大丈夫?」
「問題ありません。あそこは建築場所の確保には困りませんからね。さすがに場所が点在していたら無理でしたが全て一ヶ所に集中させることができましたから管理しやすいので従業員で分担して受け持つことになります。
従業員、作業員の町への行き来には数本の乗り合い馬車を運行して対応しています」
まるで総合商社みたいだ。というよりそのものだ。
「テスラはどうしました?」
「外でロイに馬の乗り方教わってる。森の方に引っ越ししたらギルドも少し遠くなるからね。満員の乗合馬車には乗りたくないから乗馬を覚えておきたいんだって」
開発事業関係の書類全てを今テスラが作成、提出、管理しているわけだからウチの中でここから離れると一番仕事が面倒になるのはある意味テスラだろう。
「ガイは?」
「その辺の木の上で昼寝でもしてるんじゃない? よく落ちないなあって思うけど。ガイは夜に動くことが多いし、昨日も晩御飯の後に出掛けてたみたいだよ。やることはちゃんとしてくれているんだもの、問題ないよ。ご飯かオヤツの匂いがすれば降りてくるよ」
色々調べているみたいだけど各領地貴族の動向を主に探っているようだ。私をめぐる話題には事欠かないし、相当目立った自覚はあるので敵も沢山作っていることだろう。団長が関係貴族に脅しをかけてあるとはいえ間接的に関係している者の恨みを買っている可能性も否定出来ない。ただ今回の報奨の件で各領地に伝令として伝わっていることもあって表面上私に刃向かおうとする勢力は無さそうだが水面下では様々な思惑も絡み合っているようだ。
私としては向こうから仕掛けてこない限りは手を出すつもりはない。
「キールはすっかりビーズアクセサリー作りに熱中しているようですね」
「マルビスが頼んでおいたんでしょう? 幾つかのサンプルとその制作工程がわかるような見本を作って欲しいって。キールは夢中になると周りの音が聞こえなくなるからね。凄い集中力、静かすぎて時々いること忘れそうになるよ。
そういえばエメラルドのデザイン画が幾つか出来たみたいだからキリがついたら声かけてみたら? ロイの耳飾りとガイの腕輪、イシュカの首飾りとテスラの指輪のデザインは決まったみたいだよ。後はマルビスだけ。全部揃ったら加工業者に依頼するって言ってたでしょう? 結構シンプルだけど素敵なのが多いよ」
「それは楽しみですね」
そう言ってマルビスは座卓で作業をしているキールの前に座ると昨日までロイが難しい顔でやっていた書類のチェックを始めた。
今まで父様の秘書みたいなことをやっていて領地内の経営の管理も手伝っていたロイだけど商業経理とは違うようでそれなりに苦労していたようだ。テスラが計算を手伝ってくれるようになってから随分楽になったみたいだけど。大抵のことを器用にこなすロイも万能なわけではなく、やはり人には向き不向きというものがあると少しホッとしたものだ。多分前世でいうところのマルビスとテスラが理系向きでロイが文系向きといったところだろう。それでもそれなりにこなすのがロイの凄いところでもあるのだけれど。逆にマルビスやテスラは貴族の対応や御礼状みたいな文章を書くのはどちらかと言えば苦手みたいだし、適材適所ということだ。
私が薄く輪切りにして乾燥させた柑橘類の半分をそのまま瓶に保存して半分を皮ごと微塵切りにしていると窓の外でガサガサと木の葉が揺れる音がするとすぐ側で本を読んでいたイシュカがすぐさま反応し、剣に手を掛け警戒する。
次の瞬間、ひょっこり窓から顔を出したガイに緊張を解く。
「おい、お客サンが来たみたいだぜ」
ガイが親指を立てて門の方を指差す。
すると少し遠くの方から馬の嘶きが聞こえてきた。
「団長達かな?」
「多分違うな。だがなんか面倒そうな臭いがする。俺は引っ込んでるから急ぎの用があったら寮に呼びに来てくれ」
相変わらずガイは人の気配に敏感だ。
影に潜んでいたり、敵対関係の人間をよく『嫌な臭い』とガイは称するので『面倒そう』ということは多分上位貴族とみて間違いなさそうだ。正門の方向から門の開く音と馬の蹄の音が小さく聞こえる。向かっているのは玄関方向のようだ。確かに団長なら父様に挨拶だけしてすぐに勝手知ったるでこちらに向かってきそうなものだ。
「こっちに来ないね。用があるのは父様に、かな?」
暫く経っても来ないということは確かに団長ではなさそうだ。
「いえ、誰かこちらに向かって来るようですよ。呼び出しではないかと」
イシュカが腰に剣を差し直し、私の横に付いた。
「マルビス、ロイを呼んで。多分王都からならロイについて来てもらった方がいいと思うから」
書類に目を通していたマルビスがすぐに戸口に向かって駆け出した。
「御静養ですか?」
私がロイとイシュカを連れて父様の応接室に通されると予想通り王都からの使者がそこに待っていた。
どこかで見たことがあると思ったら登城した時、馬車の護衛で先頭の騎馬に乗っていた人だ。何故そんな人がウチにいるのかと思えば父様と私宛に依頼というか、お願いを持ってきたというのだ。
病弱だと聞いていた第一王子の静養の話があったのは団長達の話で知っていたし、その候補地に上がっているのも聞いていた。父様には打診も来ていたようでもしもの場合に備え、準備していたのは知っているので驚くほどでもなく、想定内の出来事と言ってもいい。もともと第一王子のためのリバーフォレストサラマンダー捜索隊なわけだし、ここにはそのための騎士も大勢来ているから都合も良いだろう。ただ、現在近衛騎士達は完成したばかりの独身寮生活、王子をお迎えできるような環境にないのでそちらから数名が選抜されてウチの屋敷つまりここに来ることになるそうだ。つまりこの屋敷が王子の滞在先となるわけで。だが王族を長期滞在させられるような客室となるとこの屋敷では限られているし、滞在予定人数を聞けば部屋数も足りない。
「随分と当初の予定から多くなっているようですが?」
団長から聞いていた予定人数は九人。
第一王子の他に身の回りの世話をする従者が二人と医者が一人、護衛が五人だったはず。それならばなんとか部屋数も用意出来ると引き受けていたはずだ。それは団長も知っていたはずで。ところがフタを開けてみればウチに滞在予定人数はほぼ倍近い十七人。
「それは申し訳ないとこちらも思っているので我々騎士団の者は寝床さえ用意して頂ければ一部屋二人でも三人でも構わない。許可さえ頂けるならハルスウェルト様が日中お見えになるという倉庫でも構わない」
どういうことだ?
倉庫の件は多分こちらに向かっている団長から聞いたのだろうけれど。
「それでは話と合わないと思うのですが?」
父様が苦虫を噛み潰したような顔で頭を抱えて肘をついている。
「足りないのは従者控え室のついた部屋だ」
「ウチには一応来客用にそういう部屋も一部屋ありましたよね? 王子が使われるのはそちらではないのですか?」
田舎貴族とはいえ侯爵領も辺境伯領も近い。そういった人達はだいたい町の宿屋に部屋を確保する事が多いけれど緊急の際には間に合わなかったり、足りない場合もあり得るので一応はウチにも一部屋だけとはいえ用意がある。
私が首を傾げると父様が大きなため息を吐いて応えた。
「こちらに向かっている王子は二人だ。お見えになる予定のなかった第二王子が一緒に来られているそうだ」
は?
なんで馬鹿王子がここで出てくる?
第二王子は病気でもなんでもないのでしょう?
ウチに滞在する意味がわからないんだけど。
困り果てている近衛騎士が申し訳なさそうに身体を小さく丸めていた。
やはり私はこの世界でも祟られているのではないだろうかと本気で考えた。




