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第四十五話 いよいよ出陣、でも締まらなくてスミマセン。


 イシュカとガイの二人が揃って出掛けるとものの数分もしないうちにまずはガイが帰ってきた。


 捕えた密偵はイシュカが近くの詰所に届けてとりあえず牢屋にブチ込み、後で引き取りに来るまで預かって貰うことにしたらしく、先に出陣の準備をしておいてくれとのことらしいので私達は早速取り掛かった。

 とはいえ、準備するものはたいしてない。

 みんなは一応いつもの剣も腰に下げて行くが通路が狭いので今日買った短剣も持って行くようで、ロイとマルビスも念のため短剣は持って行くことにしたらしい。ロイはもともと剣よりも後方支援の魔術系が得意らしいしマルビスは背中に弓を背負っていた。

 私は今日買ったばかりの二本の剣を腰に差し、昼に充填しておいた魔石を袋に入れて腰からぶら下げておいた。後は毒消しやポーションなどもシーファが多めに買って来てくれてあったのでそれも各自に配り、残りはロイとマルビスが手分けして持つことになった。全ての荷物を用意した頃にイシュカが帰ってきたのでそのまま馬小屋に向かい、出発した。


 今回私が乗ったのはイシュカの前、ガイの先導で目的地までは特に問題なく到着した。

 しかし閉鎖された鉱山というのはなかなかに不気味だ。入り口には何本もの鎖が張られ、『危険、侵入禁止』の看板が掲げられている。以前は採掘した鉱石などを運ぶために使われていた道もすっかり荒れ果てている。わざわざこんなところまで好き好んで入って来る輩はいないだろう。

 一応街道から外れてこちらに侵入する前にガイが先行して見張り等がいないか確認してくれたので問題はないのだが、これは前世でいうところのホラー映画の出だしに雰囲気が近い。そういったものがあまり得意でなかった私は情け無いことに少々ビクついてしまい、突然の野鳥の羽ばたく音に驚いて、つい降ろしてくれたイシュカの腰に横から抱きついてしまった。

「どうかしましたか?」

 いきなり抱きつかれて不審に思ったのかイシュカが腰を少しだけ屈めて覗き込んできた。  

「ちょっと、こういう雰囲気慣れてなくて、ビックリしちゃって」

 暗い部屋や夜道、森の中などは別に気にならない。

 ただ、こう、なんというか、何かが出てきそうな雰囲気というか、慣れてしまえばどうということもないのだけれど見知らぬ土地の見知らぬ場所、使われていない坑道、初めて来たということもある。多分、昼間に一度見ていれば多分大丈夫だったのだろうけど。

 ガサガサと何かが動く音や響く得体の知れないものにハッキリ言えばビビってしまったのだ。幽霊の正体見たり枯れ尾花という諺も前世であったが正体さえわかってしまえば大丈夫なのだが薄気味悪いものは薄気味悪い。

「ひょっとして幽霊とかダメなタイプか?」

「苦手なだけだよっ、ダメじゃないっ」

 ガイの揶揄うような声に思わず大声を出してしまった。

 しまった、これでは駄目だと白状しているようなものだ。

 案の定、ガイは目を丸くした後ケラケラと笑い始めた。

 私が拳を握りしめて俯いているとガイの頭の上にイシュカの拳骨が落ちた。

「少し安心しました。貴方にも苦手なものがあったんですね。

 身近に感じられて嬉しいですよ」

 慰めてくれているのだろうけど気分は複雑だ。

 どう考えてもこれはカッコ悪すぎだろう。

 そりゃあ多少の欠点は御愛嬌だろうが穴だらけの私には己のポンコツさ加減が浮き彫りにされているように思えてならない。上手くやろうとして下手を打ち、目立たぬようにと思って行動したはずが今や時の人。自分の負けず嫌いな性格と好奇心の赴くままに行動した結果とはいえ過大評価は日毎に増している。

 私は私の出来ることしかやっていないつもりなのだが人生とはままならない。

 涙目になっている私を心配してイシュカが声をかけてくれる。

「抱えて行きましょうか?」

「大丈夫、そこまでじゃないから。暗いとこは大丈夫なんだけどこの雰囲気が」

 仮に幽霊が出たとしても私は聖属性持ち、浄化できるのだから怖がる必要はないのだ。

 落ち着こうと深呼吸した瞬間、背後の茂みがガサリと揺れてビクリと後ろを振り返るとそこにガイがいた。

「悪趣味だよっ、ガイッ」

 思わず側にいたイシュカに再び抱きついてしまった。

 悪ノリというより、この間の勝負で私にやり込められた仕返しかもしれない。

 実に楽しげな様子のガイを睨みつけていると脇に手を差し入れられてイシュカにヒョイと抱え上げられた。

「抜け道に入ったら降ろします。ロイやマルビスだけではなく、私にも甘えて下さい」

 イシュカの右腕に座らされ優しく微笑まれ、私は真っ赤になった。

 引いていた馬の手綱はシーファに預けられ、両腕でしっかり抱え込まれている。

「でも私、重いでしょ?」

「全然。私は騎士ですよ。貴方程度の軽さで根を上げるほどヤワな鍛え方はしておりません。一日中でも平気です」

 ガッシリとした肩幅と胸板、一見細身に見えるがしっかりと筋肉がついている。

 言葉通り私の体重などものともしていないのだろう。

 しかしながらお姫様抱っこも照れ臭いがこの抱え上げられ方は顔の距離が近すぎる。ほぼ真横だ。以前も随分ハンサムだと思ったがアップにも充分耐え得る端正な顔立ちにこのシチュエーションは心臓に悪すぎる。

「ありがとう、イシュカ」

 既に怖いという思いは遥か彼方だ。ドキドキが止まらない。

 身体を離すと抱え難いということはよく知っているので寄せているものの、実に照れ臭い。

 この世界の男の人はパーソナルスペースが狭すぎではなかろうか? 

 私の身体が子供であるという理由も勿論あるだろうが、私の周りにいる男の人達はやたらと私を抱えたがるような気がする。最近イケメン抱っこの大安売り状態である。誕生日前までは魔力の使い過ぎで倒れた時くらいしか殆どなかった筈なのに。

 やはり子犬か子猫あたりの感覚なのだろうか。気分は複雑だ。


「それでガイ、抜け道はどこに?」

「コッチだ、合図の係のヤツも既にスタンバイ済みだ。そろそろ時間になるぞ」

 イシュカに尋ねられてガイが顎をしゃくり、方向を示す。

 そちらを見れば確かに鉱山と王都の外周の塀の境目辺りに人影が見つけられた。

 ガイは近くの木の枝に馬を繋ぐとそのまま茂みをかき分け入っていく。

 どうやら抜け道の入り口はその辺りにあるようだ。

「もう大丈夫、降ろして。ありがとう、イシュカ」

 いつまでもビビっているわけにもいかないし、坑道への入り口から少し離れたこともあって大分落ち着いた。

 馬の見張り番に誰が残るか話しているが私としてはここも決して安全ではないし、万が一のための戦力と逃走手段として馬は確保しておきたい。みんなに抜け道の入口を中心に半径十メートルほどの範囲に馬を集めて貰った。

「何をやっているんですか?」

 ゴソゴソと持ってきた荷物の中から持ってきた魔石を取り出した。ワイバーンの魔石と大きさはあまり変わらないので朝までならば余裕だろう。私は呪文を唱えて結界を立て続けに三枚張った。 

「一応背後から襲われたり出口を塞がれても困るから結界だけ張っておこうかなと思ってたから魔石を持って来たんだ。そしたら入って来れないし、破られたとしても衝撃で分かると思って。抜け道が繋がっているなら空気切れの心配もないでしょう? 複数張っておけば一枚破られてから駆け付けても充分間に合うんじゃないかと」

「そんなものまで用意していたのですか?」

感心したようなイシュカの声に私は頷く。

「用心し過ぎるに越したことはないよ。少数精鋭とはいえ何が起こるかわからないし」

 解除されても面倒なのでガイに魔石の上から念のため隠蔽の術をかけてもらう。


 スタンバイOKだ。後は合図を待つだけ。

 塀の上の人影がこちらとあちら側をキョロキョロ見下ろしながら確認している。

 どうやら向こうの準備も整ったようだ。大きく旗が振られる。

 茂みの奥にあった入り口は目立たない様にするためか簡素な鉄板の上に芝生の様なものをカモフラージュに貼り付けられたものだった。これでは確かにあると思って探さない限りは見つけられないだろう。

 ギギッと音を立てて蓋を開けると地下へと続く階段が現れる。

 ロイが小さく呪文を唱えて指先に小さな火を灯すとその明かりに照らされてハッキリとその姿が見えた。

 なるほど、これは確かに狭い。剣を振り回せば刺さりそうだ。

「んじゃ、行くぞ。先頭はイシュカで次が俺、真ん中がハルト様でその前後にロイとマルビス、団員は二、三に別れて俺の後ろとダグの前。最後尾はダグとシエンでいいか?」

「構いません」

 別に私が前でも構わないのだが護衛より前に出るわけも行かない。

 ガイの指示通りの順番で階段を降り始める。階段はそんなに深くない、多分一階分の高さくらいなのだろう。この中で一番背の高いイシュカだと頭スレスレに天井がある。ロイの灯した灯を頼りに暗くて狭い道を息を潜めて進んで行く。こちらが見つかるぶんにはそんなに問題ないし、気配に敏感なガイもいるし、先頭は戦闘に長けているイシュカ。不意打ちを食らうような人選ではない。

 ぞろぞろと一列に並んで歩いて行くがなかなか先が見えてこない。

「結構長いね、あとどれくらいあるの?」

「半分は過ぎたはずだ。団長達の突入も始まったみたいだな」

 私の問いかけにガイが応えて低い天井を見上げる。他所の土地に家を建てる時、土地を掘られて外部の者に見つけられるのを避けるために、この抜け道は通りの下に沿い、作られているらしい。ドタドタと重量感のある音が上から響いてくるのは緑の騎士団の突入の足音のようだ。どうやら表向きの押し入り条件を整えるのは成功したようだ。前方から轟音と何かが崩落する様な音、人の悲鳴が微かに聞こえてくる。ここまでそれが届くということはガイのいう通りヤツの屋敷の地下室に近づいて来ているのだろう。抜け道の天井も少しだけ余裕が出てきている。進むごとに悲鳴や号令がハッキリとしてきている。阿鼻叫喚のなかなか混乱状態ようなので団長は無事魔獣の飼われている場所まで辿りつけたに違いない。


「随分派手にやってるようだが俺達の仕事残ってるかね」

「ないならないで構いませんがてっきりヤツはこちらに逃げてくると思ったのですが。変ですね」

 ガイのニヤニヤ笑いにイシュカがため息を吐いて言った。

 確かにその通りだ。この抜け道も間に合わせで作られたかのような荒い作りになっている。歩く下側はしっかり踏み固めたように作られているし、上部は踏み抜かれないようにするためかそれなりにしっかりと作られている。けれど側面は随分と手抜きっぽい。ところどころ土が剥き出しだったり、木材で申し訳ない程度に補強されていたり。勿論崩れないようにするためか一定の間隔で柱みたいなのは建てられているけど、まるで手抜き工事かその途中みたいだ。慌てて作ったのか、見た目通り作りかけなのか。何回か近衛が調査に入っているというしガイの調査でも始めは情報が入っていなかったみたいだから新たに抜け道を用意していたのかもしれないけれど。

 私達の役割はこの抜け道からの逃走ルートの封鎖。

 ヤツが逃げて来ないならもう捕縛されたか、他に進路を取ったか、どこかの連れ込み部屋辺りに潜んでいるか。前方の明かりが僅かとはいえハッキリと見えてきたので万が一を考えて騎士団員二人に通路に残って警戒してもらうことにした。どこかに潜んでいてここから私達が出た途端に逃げ込まれても困るからだ。

 周囲に気を配りつつ出口に向かう。

 そこから出ると大勢の緑の騎士団団員達が忙しなく動き回っていた。団長は随分と多くの団員を引き連れてきたようだ。この地下二階部分の檻付近だけでも十人以上いるし、ブチ抜かれた地下一階部分、地上部分にも複数の団員の姿が見える。みんな捕えた貴族を連行していたり、牢屋から助け出した子供達を連れていたりと忙しそうだ。抜け道から出てきた私達に何人かが気づき、こちらに会釈してきたのでその内の一人を捕まえてへネイギスがどうなったか聞いてみると、どうやらまだ捕まったという情報はないようだ。連絡がまだ伝達されていないのか、それとも本当に捕まっていないのかわからないが行方がハッキリしていないのは事実のようだ。これだけの団員達がいて首謀者であるへネイギスが捕縛されたという情報が伝わっていないということはまだ捕えられていないとみるべきだろう。


 だがなんかおかしいような気がしてならない。

 私は実物に会ったことはないので断言できないが話を聞いた限り、相当欲深く、疑り深い人物に思えてならない。

 はたしてそんな人間がいくら現場に踏み込まれたからといって全てを放り出して逃げるだろうか。散々他人から金品を悪どい手を使って巻き上げて今の地位を築き上げ、贅沢三昧の暮らしをしていたのだ。着の身着のままで逃げ出してしまったらそんな生活もできなくなる。今まで欲望の赴くままに振る舞っていたような男がそんな暮らしに耐えられるだろうか? 

 人というのは贅沢に慣れても生活の質が下がることには対応しにくいものだ。

 どうにもスッキリしない。


「ねえ、強欲で用心深い男が自分が危ないからって即座に財産放り出して逃げるかな?」

 私は首を傾げて浮んだ自分の疑問に対してみんなに意見を聞いてみる。

「確かに。いくら自分の悪事がバレたからといって資金がなければ逃走先での生活もできませんしね」 

 ロイも私と同じ意見のようだ。そもそも平民を使い捨てて当然と思っているようなヤツだ。自分のしていることを悪事と認識しているかどうかも怪しい。

「ヤツの屋敷や別荘は以前調査が入っているんだよな? 

 その時に隠し財産や裏帳簿は見つからなかったのか?」 

「ええ、見つかればいくら子飼いが多いとはいえ多少の誤魔化しは出来ても全てを隠蔽するのには無理があります」

 ガイの質問にイシュカが答える。そうなってくると隠し場所というのは今まで見つかっていない場所だと考えるのが妥当。

「性格からすると簡単に他人を信用するようには思えないし、そういうヤツって自分の手元に財産置いておきたがるんじゃないかな」

「ということは今まで見つかっていなかった場所、つまりこの地下に隠し部屋があるかもしれないと?」

 マルビスは私の言いたいことがわかったようだ。

 この世界に銀行というものはない。手に入れた財産は全て自分で管理しておく必要があるのだ。

 だから貴族の御屋敷に隠し部屋の存在は防犯上不可欠だし、そうでないなら徹底して防犯管理の必要があるだろう。実際、父様の財産の隠し場所を私は知らないし、私の現在の隠し場所はベッドの裏側だ。下に置くと掃除する時に見つかってしまうので覗いただけではわからないように裏側に貼り付けるように吊るしてある。とは言っても冒険者ギルドで貰ったワイバーン討伐報酬の最初の一匹分だけなので後は倉庫で管理している素材を必要に応じてマルビスが処分、管理して運営資金を調達してくれているので現金はほとんどない。もっとも今回の報奨金の保管場所は領地に戻ってこれから考えなければならなくなるのだけれど。

 なんにせよ、これまでの悪事の事を考えれば相当な隠し財産があるはずなのだ。金額が大きければそれだけ場所も取るだろうし屋敷の中にそれを用意しようとするならそれなりの大きさが必要になる。調べて見つからないというのはありえなくもないが厳しいように思う。

 誰かが私達の到着を知らせてくれたのか団長がこちらに向かって駆け寄ってくるのがみえた。 


「団長、へネイギスは見つかりました?」

 まだ伝達が行き届いていないだけなら構わないが肝心の首謀者を取り逃しては話にならない。

 確認のために尋ねたのだが団長は難しい顔で首を横に振った。

「いや、まだだ。一旦この場にいた者は全て捕え、罪状は明らかにするつもりだ。屋敷は既に封鎖したし、近衛ももうじきやってくるだろう。捕えられていた子供達は牢から解放し、事情聴取が済み次第順次親もとに返すつもりだ。地下牢に吊るされた遺体、それに魔獣を飼っていた檻の中にも無数の人骨も転がっているし、もう言い逃れはできない。おそらく極刑は間違いない。

 財産没収の上、爵位剥奪、御家取り潰しは免れないだろうな」

「でもへネイギスは見つからない」

「ああ、そうだ。今回の宴に参加していた貴族達からも簡単に聴き取りをしたのだがつい先程までは一緒にいたはずだと」

 先程まではいたというのなら時間的にも遠くまで逃げる余裕はないはず。

 大勢の貴族が逃げ出す暇なく捕縛されたことからもこの奇襲は成功したとみるべきだ。

 団長が思っていた以上の人数を引き連れて来たことで現場の調査、回収作業も着々と進んでいるし、相当派手に暴れたのか広範囲に渡って地下室の天井は抜け落ち、夜空さえ綺麗に見えている。これでは隠れるところを探すのも難しいだろうが瓦礫の下ということもあり得るのでは? まあ私の知ったことではない。

 地下二階の牢屋に入れられていた子供達さえ無事ならどうでもいい。

 それでもへネイギスの影すら見えないのはどうにもおかしい気がする。

「他に抜け道がある可能性は?」

「今探させているが今のところ見つかっていない」

 尋ねた私の問いかけにすぐに答えが返ってくるということは団長もその可能性は考えたのだろう。もしかしてそれを探すためにこれだけ天井をぶち抜いたのか? 上がスッキリしてしまえば探しやすいのは間違いない。ところどころに上の庭に上がるための梯子がかけられている。見たところ広大な敷地の半分以上に規模は及んでいるようだ。なかなか大規模だ。よくもまあこれだけのものを作ったものだ。どうやって作ったか考えると恐ろしい気もする。そういう調査はお国に任せるとしてとりあえずの問題は見当たらないへネイギスの行方についてだ。

 私はぐるりと辺りを見回して考えてみる。

 抜け道もたくさん作りすぎると管理も難しい。財産の隠し場所も分けることによって万が一見つかった場合に残りを隠し通せるという利点もあるがその分手間もかかる。それにへネイギスはずっと王都にいるわけではなく時々王都から離れて自領に戻ることもある。私が高価なワイバーンの素材を管理するために魔石を使って結界を張るような手段はそもそも魔力量が多くなければ効果は薄い。ロイの張った結界をランスは剣を振り下ろして二十回ほどで割ってしまったわけだから側にいれば駆けつけられても離れてしまっては意味がない。

 大事なものがそこにありますよと知らせているようなものだ。

 となればそのような手段を使うのは考えにくい。

 だったら他に隠せるような、隠れるような場所はどこにある?

 地面に埋める? 

 いや、土を掘り返せば痕跡が残るし埋めているところを見られない保証はない。

 他所に隠す?

 それも誰にも見つからず一人でやるには限界があるし別荘にも調査は入ったと言っていた。

 それに強欲な男がそう簡単自分の手元から離すとは考えにくい。この場所は騎士団に見つかっていなかったのだ。いや、もしかしたらへネイギスと繋がっていた近衛の何人かは存在は知っていたかもしれないし、出入りもしていたかもしれないけれどこの地下はへネイギスの共犯者しか知らなかったわけだからそれをバラしたり、バレるような行動はしないはず。へネイギスが捕まれば自分も危ないのだから下手なことはしないだろう。

 ある意味ここはどこよりも安全なはずだ。

 そうなるとやはりへネイギスの隠し部屋と財産はこの地下のどこかにあるとみるべきだ。

 となれば、だ。もし私が隠すとすればどこだろう。

 いくら共犯とはいえ招待客の出入りするようなところは可能性としてないだろう。

 そうなってくると広間と連れ込み部屋がある一階部分は考えにくい。

 子供達が捕えられている牢屋付近も目撃されて誰かの耳にもしかしたら入るような危険性もある。

 いや、子供達が連れて来られるのは宴の前、普段はここはほぼ無人に近い。

 私は思考を巡らせてじっと考え込み、そして一つの仮説に辿り着いた。 

「ガイ、私達の通ってきた抜け道って最初の調査で見つからなかったよね。

 どうして?」

 私達が抜け道から出てきた時、すんなりとなんの障害もなくここに出て来れた。戸口らしい戸口もない状態。

 いくら地下の最奥にあるからと言って隠していないのは変だ。

 そして人一人通れるような穴が空いていて潜入などを得意としているガイ達が見落とすだろうか。

「そりゃ地下からの入口が見つからなかったからさ。普通いくら抜け道とはいえ穴だからな、扉かそれを隠すための絵画や美術品で隠されているが常識だ。だがそういうものが見つからなかった。

 最初、この出入口は塞がれていたんだ、壁でな」

 やっぱりそうか。

 ここは人があまりやって来ないから整備していなかったと言ってしまえばそれまでなのだが、ここ地下二階部分にはやけに土壁が目立つのだ。偶然なのか、意図的なのか、単なる手抜きか。疑い出せばキリがない。でもこの世界には魔法という便利なものが存在している。煉瓦や石垣、コンクリートでは変形させることはできない。だけど・・・

「ああ、なるほどな。言いたいことはわかった」

 ガイは私の考えを理解したらしい。

 やっぱりロイが言ったように私と考え方が似ているのかもしれない。


「団長、土の壁があるところを探して。煉瓦やコンクリートじゃ魔法は使えない、だけどもし隠し部屋があって、魔法を受け付ける土壌があればそこに隠れることも可能だ。この地下が解放されるのは宴の夜の前後だけ、隠し部屋の入口は万が一魔力が切れて崩れたとしても普段なら内側からガッチリ鍵がかけられて立ち入る事が出来ないのだからたいして問題はない」

 開けっぱなしか、それとも衝立みたいな戸口のようなものくらいは立ててあるかもしれない。

 抜け道の入口が土壁で隠されていたなら隠し部屋も土壁で隠されていたとしても不思議はない。

「へネイギスは土属性は持っていないはずだぞ」

「協力者がいるんでしょ。おそらく簡単に使い捨てできる誰かが。

 大勢の騎士に踏み込まれる中で足音を響かせて気配を悟らせるような逃げ方は悪手、日頃から鍛えている騎士達の追手からは逃れられない。隠れた部屋でじっと息を潜め、警備が手薄になったところで逃走する方が利口だ。そこに財産を隠していれば尚更それを持って逃亡し、資金があればほとぼりが冷めるまで潜伏することもできる」

 何をするにもお金は必要だし、逃亡生活するのなら尚更だ。

 追手がかかれば簡単に出歩くことも出来ない。

 こんな状態で誰かに匿ってもらおうとするならそれなりの見返りがなければ厳しいはずだ。

「よし、土属性を持っているヤツは土壁を見つけたら地下が崩れない範囲で壁を壊せ。隠れるにしてもそんなに厚くはないはずだ。ヤツが潜伏している可能性がある。協力者がいるかもしれないから壊す時は必ず複数で警戒しろ、いいなっ」

 団長の号令で団員が一斉に動き出す。

「私達も探そう。二手に別れよう、イシュカは土属性は?」

「持っていません。私は風、水、光です」

 そうなると私の知り得る中で土属性を持っているのはロイ、ガイ、ダグ、シエン、そして私だ。

 そういえば追加で来た五人の持っている属性を確認してなかった。

 まあ上っ面の土壁壊すだけならこれだけいれば十分だ。

「じゃあまずはイシュカ、ダグ、シーファ、ロイ、マルビス、私で一班、ガイが残りを引き連れて二班でいい? ランスは悪いけど抜け道の途中に残してきた二人に注意するように言ってきてもらってもいいかな? 危ないようなら一旦逃げてコッチに連絡を、無理しないようにって。結界張ってきたし、そう簡単に外へ出られないはずだから大丈夫だって。それで構わない?」

「いいぜ。んじゃ、俺達はこの辺り一帯を探してみる」

「私達は通ってきた抜け道の入口付近から奥に向かって順に探してみる。途中何箇所か土が剥き出しになっているところがあったから気になって」

「了解」

 可能性はある。まだ見つかっていない抜け道もあるかもしれないが、どちらにしても土壁は削ってみる必要がある。

 ダメでもともと、屋敷が封鎖されているなら上に逃げ場はないだろう。

 時間的に考えても突入された時に地下にいたというのなら屋敷に戻る余裕はないはずだし、庭には大勢の団員が走り回っている。わざわざ目撃されるような行動はとらないはず。

 私はイシュカ達と一緒に出てきた抜け道へと向かった。



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