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第四十二話 レイオット領の朝市満喫しました。


 みんな街歩き用の私服に着替えて総勢十三人という大所帯でレイオットの街に繰り出した。

 勿論テネシス亭に寄ることも忘れなかった。

 疑われないように人数が多いからと理由をつけて外で彼を待ち、手渡した。

 マルビスを見つけたジャイルは懐かしそうに挨拶を交わすと新しい主人を見つけ、働くことになったと報告する。

 その主人が子供の私であることに少々驚いたようだったが自分のことのように喜んでくれていた。

 グラスフィート領に立ち寄った時は是非一緒に飲もうと約束していたようだ。


 ジャイルと別れて朝市に向かうとそこも王都に近いだけあってなかなかの賑わいをみせている。お値段的にも王都よりはやや良心的なようだ。

 並んでいる品は王都のが特級品だとすればここのは高級品クラス。

 安い二等品も扱っているがウチの領地よりは若干お高め、つまりは運搬料が加算されているということだろう。屋台の串焼きの値段も王都にとウチの間くらい。炭焼きの美味しそうな匂いに釣られてつい買い食いしてしまった。一人二本で合計二十六本、店主が必死に焼いている間にもそこかしこからいい匂いが漂ってくる。

 広場に置かれた丸テーブルを二つ占領して座り、焼き立てパンに具沢山スープ、野菜のソテーにトロトロになるまで煮込まれた豚肉のスライス。食べ切れるのか心配になったがみんなぺろりと平らげてくれた。商品毎に通りは分けられているのか食料品が並ぶ一本目の道を抜けると生活雑貨や衣料品などが並ぶ通りに出る。比較的低価格帯が多く、新品もあれば中古もある。前世でいうところのフリーマーケットが近い。並んでいる商品に値札はついているものの定価で買う客は少なく、値段交渉が当たり前のようで値切り方もそれぞれだ。やはりシンプルなデザインが圧倒的に多い。少し洒落ていると値段は倍以上に跳ね上がる。特に心そそられるような物はなかったが三本目の通りに入ると鉱山があるというこの領地に相応しく、片側には剣や鎧などの武器が、反対側には細工もののアクセサリーとかが並んでいる。値段は様々だが店舗に並んでいるようなものよりは安いみたいだ。それでも他の二つの通りに比べると値段も高いし、必要性も少ないので人通りも少ない。

「市場って言っても色々あるんだね」

「ここは店をまだ持てない駆け出しの職人達などが資金調達やパトロン探しのために開いていることも多いですからね。見る目さえ持っていれば時々掘り出し物を見つけることもできますよ」

 未来の名匠の作品を安価で手に入れることもできるかもしれないっていうことか。

 王都でキールを見つけた通りみたいなヤツの職人版に近いらしい。

 それは面白い。

「マルビスから見てどうなの? 私にはそういうのわからないし。

 好みか好みじゃないかくらいしか判断出来ないよ」

「それが一番だと思いますよ。

 どんなに高価でも気に入らなければ身につけようとは思わないでしょう?」

 それは言えてる。結局好みでなければ高いものであっても身につけないし、持ち歩くのは使い勝手が良かったり、洋服に合うとか、デザインがお気に入りだったりと値段以外の要素が大きい。

「美術品ならともかく武器などは私よりも騎士団の方達の見る目の方が確かだと思います。装飾品と実用品は違いますからね」

 それはそうかもしれない。護衛のみんなの目の輝きが違う。

 やっぱり好きなんだねえ、こういうの。

 十人も護衛はいらないから交代で見てきていいよと告げると顔を見合わせて話し合い、三交代制にしたようだ。六人が自分の興味の惹かれたものにまっしぐらに向かって行った。

 男は幾つになっても男の子ってことだ。見ていて微笑ましい。

 そういえばガイはどこに行ったんだろう。

 この通りに来た途端にふらっといなくなったけど。

 もともとの気配が薄いのか、それとも気配を消す癖がついているのかわからないがガイは気をつけていないと見失いそうになることがある。

 辺りを見回すと歩いてきた通りの入口付近の露店の前に座り込んでいるガイの姿を見つけた。並んでいるナイフの一本一本を手に取り、真剣な顔で物色している。そのガイの後ろまでくるとしゃがみ込んでいるガイの後ろから彼の手もとを覗き込んだ。

「ガイ、気に入ったのがあったの?」

 視線だけ私の方に向けて器用に手に持った短剣を手の上でガイは回した。

「まあな。コイツなんだけど飾りっ気はないが妙に手に馴染む。軽いわりには切れ味も良さそうだ」

 何度も握り具合を確認しながら一番しっくりくるのを選んでいるようだ。

 私の横にいたイシュカもガイの様子を見て興味を持ったのか並んでいるうちの一本を手に取り、右手、左手と持ち替えながら確認していた。

「本当ですね。使いやすそうだ」

 鈍い輝きを放ちながらもその刃には日本刀のような刃紋が浮かんでいる。他の店と同じようにしっかり形は西洋の剣の形をしているのだが他の剣にはあまり見られなかった。並んでいるのは殆どが短剣だ。刃も薄めなので長いと余計に折れやすいのかもしれない。確か、西洋の剣と日本刀って鍛え方が少し違うっていうのを聞いた覚えがある。切れ味はいいけど折れやすいと。

 西洋の剣は主に叩き切る、日本刀は断ち切るだっけ? 

 うろ覚えなので自信はないのだけれど私も興味が出てきた。

 ガイの横に座り込むと並べられた剣を一通り見回す。

 やっぱり他の店とは少し違ってみえる。

 するっと通り過ぎただけなのによくガイは見つけたものだ。

「店主、試し切りはしても良いのか?」

 ゴソゴソと後ろから林檎が一つ、店主が取り出してガイの方に放り投げると彼は手に持っていた短剣を器用に取り回し、空中で林檎を綺麗に四つに切って落ちてきた林檎をもう片方の手で受け止め、口の中に放り込む。

 林檎を咀嚼しながらガイは短剣をジッと見つめる。

「切れ味も悪くねえな。こっちのヤツなんかハルト様にも使いやすいんじゃないか? 普通の剣じゃまだ振り回されるだろ」

 ガイはすっかり気にいった様子で短剣の握りを何度も確認しながら、並べられた剣の中から短剣というには長い、剣として扱うにはやや短すぎる細身の剣を手に取り、その柄を差し出した。私はそれを手に取り軽く振ってみる。

「ホントだ、持ちやすいし軽いね」

 ガイの言う通り、私にはイシュカ達が持っている剣を振るうには強化魔法をかけないとかなりキツイ。筋肉はそれなりについてはいてもこの体ではまだ剣の重さに逆らいきれない。私が剣を戦闘に於いてあまり使用しないのはそういう理由もある。だけどこれは細い上に短めとあって私でも充分振り回せるものだった。しかも折れやすい薄刃の短所を補うためなのか日本刀のように片刃で峰側が厚めに作られている。これなら相手に合わせて峰打ちもできるし魔獣相手なら刃で切り裂くことも出来る。

「気に入ったんですか?」

「うん、すごく持ちやすいよ、これ。いつも父様との打ち合いとかで長い剣持つと動きにくくて。これなら片手でも持てるし」

 そういうと店主がもう一本の剣を私に向かって差し出した。両手に持って軽く振るうと不思議と片手にだけ持っていた時より扱いやすい。

 バランスがとりやすいのだ。

 私は思わず持っていた剣をまじまじと眺めてしまった。

「これ、双剣なんだ。へえ、いいね。カッコイイ」

 すっかり魅せられて私が感嘆の溜め息を漏らすとマルビスが店主に向かって尋ねる。

「店主、これはいくらですか?」

「小僧の持っているやつか。二本で金貨十枚だ。そっちの兄さん達が持ってるやつはだいたい金貨三枚から四枚ってとこだな」

 兄さん達? 言われて横、後ろを見ればワラワラといつの間にか全員が勢揃いして各々短剣を手に取っていた。

 散っていたはずなのにいつの間に。

「全部でいくらになります?」

 そういえば今夜の使う得物も探そうとしていたんだっけ。ちょうどいいといえばちょうどいいのだが。

「金貨四十七枚だ」

「高いです。もっと安くなりませんか?」

 それって高いのか安いのか、キョロキョロと見渡せば値段的には中間くらい、どうやら妥当ともいえなくない値段のようだ。

「金貨四十枚。これが限界だ」

「これだけの量を買うんですよ。もう少し下げてください」

 マルビスが必死に値段の交渉をしている。無愛想な店主はむすっとした顔で首を横に振る。

「限界だと言っただろう。無理だ」

「では金貨四十ニ枚でそこの短剣もう二本つけて下さい」

 あと二本って、ついでに自分とロイの分もってことか?

 別に構わないのだけれどさすが商人、値切り方が上手い。

「四十五枚だ」

「四十四枚」

 店主とマルビスが睨み合う。

「・・・まあいいだろう。金貨四十四枚。これ以上は駄目だ」

 溜め息と共に店主が仕方ないっといった風情で了承する。

 マルビスは気が変わらないうちにとばかりに懐から財布を取り出してさっさと支払いを済ませる。

「ではこれで。確認して下さい」

 店主は数をしっかり確認すると並べて置いた商品の半分近くが一気に売れてしまったので早々に店仕舞いを決めたのか片付け始めている。その横でマルビスが店主と工房の名前や住所を聞いていた。使い勝手次第ではまた彼からの購入や定期的な仕入れも視野に入れているのだろう。武器の目利きに優れている騎士達がこぞって興味津々となれば露天商とはいえそれなりの価値を見出してもおかしくない。無愛想なのは職人気質というものか、別の理由なのかわからないが商売下手なのは間違いなさそうだ。年頃としては三十少し前といったところか。

 後ろでは思いがけず手に入れられた武器に私の護衛達が大はしゃぎだ。

「いいんですか、ハルト様。俺達まで買ってもらっちゃって」

「記念だよ、記念。みんなでお揃いってのもいいよね。

 私、自分の剣って初めて。ちょっと嬉しいかも」

 買った剣を鞘に納め、早速腰に刺してみる。

 結局私もはしゃいでいるのだからみんなと同じだ。

「かっこいいですよ。似合ってます」

 ロイはマルビスから渡された短剣を受け取りながらくるりとその場で回ってみせた私を誉めてくれる。柄の装飾に一切の装飾も無くシンプルな造りはどの剣も全部同じ、軽量化のためか、店主のこだわりだろうか。本当にみんなお揃いだ。 

「他にも見たいものはありますか?」

 ロイに聞かれて改めて通りを見渡して見る。剣は手に入れたし、私のサイズの防具になると特注になるので露店に並ぶことはまず無い。

 そうなると武具とか置いてある側でなく、残るは宝飾品の関係になるわけだけれど。

「装飾品は落としそうで怖いかな。店舗よりは安いと言ってもそれなりにするし」

 動き回ることの多い私ではアクセサリー類は身に着けるのは少し躊躇う代物だ。

「こちらのブローチなんてハルト様の瞳の色に良く似ていますよ。いかがですか?」

 そう言ってマルビスが指さしているのは少し大きめの石が嵌め込まれた台座付きのものだ。

 装飾もそれなりに凝っていてお洒落といえばお洒落なのだが。

「こういうのはロイやマルビスの方が似合うと思うよ。欲しいなら買ってあげようか?」

 値札を見れば金貨二十枚。安くはないが手が出せないほどでもない。日頃苦労かけている御礼だと思えばむしろ安いくらいだ。

 もらった褒賞もマルビスやロイ達なくしてあり得なかったわけだし。

 そう思って軽い気持ちで言ったのだがマルビスの動きが止まり、ほんのりと頬を赤く染めた。

「意味わかって言ってます?」

「なんかあるの?」

 なんとなく、なんとなくだけどまたやらかしてしまったような感じがする。

「自分の瞳の色を相手に贈るというのは貴方は私の特別な相手ですって意味になるんです」

 ・・・やっぱりか。

 ありがちといえばありがちな設定だ。ロイやマルビスが私にとって特別であることは間違いないけど、マルビスが言っている意味がどういうことなのかわからないほどの唐変木ではない。黙り込む私に察しのいいマルビスがその理由が理解できないはずもなく。

「やっぱり知らなかったんですね。でもいいかもしれませんね。私が貴方のものであると思われるのは悪くありません。いっそいくつか買っておいて貴方の側近全てにつけさせるのも面白いかもしれませんね。ちょっと探してみましょうか、とりあえず十個くらい」

 理解した上でのこの展開はなんだろう。

「本気?」

「勿論。だってわかりやすいじゃないですか。これから人が増えていけば覚えきれない人も出てくるでしょう。ですがエメラルドを身につけていれば傍目にも明らかに側近である印になりますからね。目印ですから高価である必要もありませんし」

「マルビスやロイに安物は似合わないよ」

 二人とも私と違って高級品でもさらりと着こなしそうだし。

「そんなもの気にしませんよ。貴方から頂けるというのがいいんです。

 渡す相手の選別は貴方にお任せしますから」

 これは買う気満々だな、止めたところで調子良く丸め込まれそうだ。

 そして自分が貰える前提なのだろうけど。

「・・・好きにしたらいいよ。でも予算はそんなに割けないよ」

「大丈夫ですよ。宝石といってもエメラルドは他のものと比べると安い方ですからね。市で売られているものなら尚更です。ああ、そうだ。新たにキールを雇ったのですから石だけ買ってデザインさせて見るのもいいですね。

 値切ってみせますよ。予算は金貨五十枚くらいで構いませんか?」

 マルビスがいそいそと露店を物色し始める。

 確かに露店で売っているものは加工されたものだけじゃなく形を整えられただけの物や原石なんかも売られている。

 この調子で散財しても大丈夫なんだろうか。持ってきたのは金貨五百三十二枚、残りは父様の馬車だ。不測の事態に備えて万が一の場合には冒険者を雇おうと思っていたということもあるけど買い食いはしれているとしても剣と宝石も入れれば金貨百枚近い。短剣はどちらにしろ今夜の夜襲でも使えるものだからいいんだけど。

 そう言えばマルビス、全部使い切っても自分がその分稼いでみせると豪語していたな。

 まあいいか、それでマルビスの気合いが入るならそれもありだ。

 褒賞金はマルビスの言ってたように本来なら入ってくるはずのなかったお金、父様も言ってたように持っている者がお金を使わなければ経済も回らない。みんながいてくれたからこそこうしていられるのだから助けてもらった分、還元しても構わない。それに今日の最後には大仕事も待っているし、いくらなんでも全部使い切ることはないだろう。これならついてきている密偵にも買い物を楽しんで休暇を満喫しているようにしか見えないだろうし。護衛のみんなは私の方に気を配りつつも剣や防具などに夢中で見入ってるし、ガイも投擲用のナイフを物色している。ロイは私の側に控えつつもマルビスの見ている石に興味津々だ。

 私はどちらの方に興味があるかといえば一応もと女なので宝飾品の方だけど、私は宝石よりも細工物が好きだ。ギラギラ光る金よりも銀の鈍い煌めきの方が好みなのだがゴテゴテしたものより透かし彫りみたいな繊細な作りに興味があるが、綺麗だとは思いつつも食指は動かない。他に何か面白い物は無いかとキョロキョロしていると露店の一角に見覚えのある石が並べられているのを見つけた。

 魔石だ。

 だが魔石特有のオーロラみたいな輝きはなく、ガラスみたいにみえる。つまり内包する魔力が使われていて空の状態なのだろう。大きさは様々あるものの大きなものほど高いが一定以上の大きさになるとほとんど捨て値に近いものもある。

「何か気になるものでもありましたか?」

 私の視線が一点で止まっているのに気がついたロイが話しかけてきた。

「魔石って大きいものほど高値で売られるんじゃないの?」

 私が退治したワイバーンの魔石より大きいものなのにも関わらずこの値段はおかしいだろう。いくら空とはいえまだ補充すれば使えるはず。

「そうですね、普通はそうなのですがそれは魔力がある程度残っている状態ならば、です」

 魔力は休めば回復する。実際に私も何度か小さな空の魔石は補充して使っている。ロイの言葉に首を傾げると露店の店主が尋ねてきた。

「なんだ、坊主。知らねえのか?」

「だって使えないわけではないんでしょう?」

 私の問いに店主が微妙な顔をする。

「魔石ってのは大きさによって魔力の保有、保管出来る量が違うのは知っているよな?」

「うん、私も時々補充するから知ってる」

「なんだ、家の手伝いをしているのか。偉いぞ。

 坊主の家にある魔石の大きさはどれくらいだ?」

 頭をぐしゃぐしゃと撫でられ、尋ねられる。

「色々あるよ。でも一番多いのはこれくらいかな。私がよく使うのはこの大きさだけど」

 最初に私が指さしたのは直径五センチほどのもの。

 ランプなどの魔道具によく使われている大きさだ。

 でも最近補充してたのはもっぱらワイバーンの魔石、直径にして二十センチくらいのものだ。

「結構でけえな。なんだ、いいとこの坊ちゃんか? 

 だったら気をつけな、魔石ってのは一度スッカラカンになると魔力を取り込もうとして猛烈な勢いで吸い込むんだ。そして一度は満タンにしなけりゃ流れ込んだ魔力は拡散してしまう。デカいヤツほど勢いは強くて素手で触ると手を離す間もなく一気に体内魔力を満タンまで持っていかれる。そうなると良くて昏倒、運が悪けりゃ死ぬ場合もある。だから空の魔石は使い勝手のいい、一番多いって坊主が言ったこのクラスが庶民には一番の売れ筋なんだ。うっかり空になっても生活に支障が出るほどは吸われないからな。大きくなるほど貴重なのは間違いないが持っていかれる魔力量もハンパない」

 つまりそれだけ危険ということか?

「坊主がよく使うというこの大きさになると騎士様でもヤバイ。空にしない様に気をつけな。魔力二千以下の奴にはオススメできねえサイズだ。この一番デカいコイツになると魔力四千の奴でも厳しい。この国で魔力量トップを誇る第一近衛大隊長様でも触るのは命懸けだ。

 そうなってくるとコイツを扱えるヤツがいるかどうかも怪しい。

 使えるヤツがいなけりゃいくら貴重でも売れねえってわけだ。需要がなければ当然安くなる。空の状態じゃなきゃこの百倍以上の値段はするかもな」

「触るのも命懸けって置いといて危なくないの?」

「だから扱えるヤツでないと反応しない様に大きな魔石は通常、魔獣や魔物から採取された時点で魔法がかけられる。うっかり空にしてしまったり使い切ってしまった場合危険だからな。そして空になった魔石は布に包まれ、こうして箱に入れられるってわけだ。物珍しがって買って行く客も稀にいるんだ。要するに置物みたいなもんだ」

 理解した。

 使える人間が少ないから魔石の役目を果たせず価格が暴落するわけだ。

 確かに団長でも四千超えないとなればこの国でも空のこの魔石を満たせる人間を探すのは難しい。しかもそのクラスの魔力量を持っていれば間違いなく国の中枢に食い込んでいる可能性が高いから万が一の事態になっても困るというわけだ。確かにそれでは需要もないだろう。いくら高価で貴重とはいえどんなに気をつけていても緊急事態や不測の事態が起きれば空にしてしまうこともあるだろう。とりわけ大きな三つの魔石も箱がかなり年季が入っている

「じゃあこれ三つ頂戴」

 つまり魔力量が四千を越えていて、国の中枢に入り込んでいなければ魔石を満たせる可能性があるというわけだ。

「話、聞いてなかったのか?」

「聞いてたよ。扱えないと反応しないんでしょ。

 だったら持っていても大丈夫なんだよね」

 私の魔力量は四千八百。反応すればボロ儲け。

 今は無理でもこれからもし増えれば扱える可能性もあるってことだ。

「面白いじゃない。だって私がいつか扱えるようになったら百倍以上の価値になるってことでしょ。夢があると思わない?」

 ついてる値札は金貨五枚。

 だけど魔力を満たせるなら金貨五百枚以上に化ける可能性もあるんだから。

 そう答えると店主は一瞬目を見開いて驚いたが、次の瞬間、大口開けて笑い出した。

「でけえ夢だな。まあ男はそれくらいでなきゃいけねえよな。

 ヨシ、三つ買ってってくれるならまけてやろう。一つ金貨五枚のところを三つで十枚にしてやる。せいぜい気張れや、坊主」

「ありがとう、おじさん」

 私はお礼を言って金貨十枚を払うとロイがそれを受け取ってくれた。

 面白いものを見つけた。他にもあったら金貨五枚以下なら買い占めてしまおう。一つでも反応すれば十分にもとは取れる。

 私は結局全部で十四個の大きな空の魔石を買い占めた。合計金貨四十九枚のお買い上げだ。気分は宝くじを買った時のものに近い。

 今夜使えそうな魔力量二千クラスの大きさの魔石も一つ手に入れた。使える人間がいそうなこれは魔力が空でもさすがにちょっとお高めの金貨五十一枚。今から補充しておけば夜までには魔力もかなり回復するだろうし問題ない。しかし、魔力が充填されたものと空のものはここまで値段が違うのか。使用年数とかも耐久年数とかの関係も勿論あるんだろうけど。

 大きな魔石はさすがに夜襲をかける今夜に試すわけにはいかないが領地に帰ってからの楽しみだ。

 呆れ顔のロイを尻目に私は上機嫌で市場を後にしたのだった。



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