第四十一話 狸と狐の化かし合い? 小細工と作戦変更。
私が次にロイに起こされたのは夜明け前、王都出発の一刻ほど前だった。
辺りはまだ薄暗く、身支度を整えて部屋を出るとそこにはイシュカ達を含め総勢十八人の騎士達が並んでいた。
「この度、護衛任務を拝命した私、ベリウス以下十五名であります」
決して狭い訳ではない最上階の廊下もガタイのいい騎士がズラリと並ぶと狭く感じる。
騎士団本部で暫く生活していたからだいぶ慣れたけどこの筋肉の圧迫感はやはり苦手だ。
しかしここはそれを出してはならないだろう。引きつりそうになる顔に笑顔を貼り付けて御礼を述べる。
「忙しい中、わざわざ私達のためにありがとうございます」
「いえ、ハルスウェルト様のお役に立てられるのであれば光栄であります」
「よろしくお願いしますね」
まずは定型通りの挨拶と出発前の確認だ。
「ロイ、マルビス達は帰って来た?」
「はい、ハルト様がお休みになられてすぐに。今出発の最終チェックをしております」
「頼んで置いた侯爵閣下への手紙は出来てる?」
尋ねるとロイが懐から少しだけそれを覗かせて答える。
「ここに。御友人のレイバステイン様のもとに明日の昼頃お伺いしたいとしたためておきましたがよろしかったでしょうか」
「ありがとう。今日はレイオット領の朝市見てみたいし、閣下から街の感想を聞かせてくれとも言われてるしね」
「レイオット領は鉱石の発掘も盛んですから宝飾品もハルト様の御眼鏡に適うものがあるかもしれませんよ」
「何が有名なの?」
宝石に興味はない。だが陛下からの報奨金での大きな買い物を考えるふうを装っておけば金貨を持ち歩く理由にもなるだろう。主に産出される鉱石も知っているがあえて知らないフリをして尋ねる。
「エメラルドです。ハルト様の瞳の様な深い色合いの物もございますから瞳の色に合わせたカフスなども御探しになられるのもよろしいかもしれませんね」
「記念に一つ買うのもいいかもしれないね」
「ええ、是非覗いてみましょう」
見ても買うつもりはないけど。
嫌いではないがあんな一粒で家が何軒も建ちそうなものをつけて歩ける人達を私は尊敬する。
貧乏性の私では到底真似できない。盗まれたり落としでもしたらどうするのだと気になって歩くのにも緊張しそうだ。だいたい私があんなものをつけて歩いたところで本物には見えないに違いない。猫に小判、豚に真珠というものだ。似合う人がつけてこそ価値があると思うのだ。
「出発の準備は終わってるんだったね?」
「後はハルトの部屋にある陛下からの賜り物だけです。積むのはハルト様の馬車でよろしいですか?」
「そうだね。レイオット領で買い物もあるし。良い物を見つけても先立つものがなければ買えないからね。騎士団のみなさんの朝食の準備は出来てる?」
大食漢揃いの騎士団員達に小さなざわめきが起こる。
モノで釣る訳ではないけど心象は良くしておくに越したことはない。
「食堂の方にお願いしております」
「そう。イシュカ達は申し訳ないけど食事前に私の馬車まで運んでくれる?」
「承知致しました」
部屋に積んである派手な箱は全部で五つ。イシュカとダグが二つ、シエンが一つ抱えるのを見届けて私は扉から一歩離れ、騎士団員の前に歩み出る。
「出発前ですのでささやかで申し訳ないのですが食事を用意しておりますのでご案内致します」
率いて階段を降りようとする前にイシュカに呼び止められた。
「ハルト様、その前にご確認を」
ロイがイシュカ達の持つ箱を少し開けて中を私に見せる。わざとらしくない程度に僅かに開けられた隙間から見えるのは金貨の煌めき。興味本位な視線が集まる。勿論これも演出なのだが。
「では私の馬車まで運び終えたらイシュカ達も見張りは父様達の護衛に任せて朝食を済ませてね」
「はい、ありがとうございます」
三人は返事をすると箱を持って階段を先に降りて行く。
それを見送り私は再び残り十五人の団員の前に立つ。
「では行きましょうか」
食堂で朝食というには豪華な食事を振る舞い、みんなの食事が済むと五台の馬車で検問所へと向かう。
騎士団総勢十八人プラス父様の護衛五人を引き連れ道行く様はなかなかに壮観だが夜明け前というのもあって見物人もいない。検問所も問題なく通過する。いつもより遠くからついて来ていた見張りもイシュカの見立て通りついてくる様子はない。私が間違いなく王都から出て行くのを確認してから姿を消した。
王都を出た後、私は窓を開けて新たに付いて来た五人と和やかに王都での観光の会話しながらレイオット領の街道を馬車で進むと朝日が昇り始める前に一度窓のカーテンを閉めると一緒に乗っていたロイとマルビスと一緒に座席下の衣装箱を取り出して金貨の下の石の袋を取り出して箱の中身を軽くして金貨はすぐに取り出せるように袋詰めしておく。マルビスは中身を見て少し驚いていたが直ぐに状況を察したのか手早く作業にかかる。なるべく身軽にしておくに越したことはない。足りないものは現地調達すれば良い。この馬車に乗っているものは中身は殆ど空かダミーの藁が詰めてあるものばかり。必要最小限の着替えだけだ。
「密偵は付いて来てる?」
窓越しにすぐ側にいたイシュカに外の様子を尋ねる。
「一人、先程から。どうやら街道で待機していた様ですね」
前を向いたまま視線だけをイシュカが右後方に流す。
「やっぱりそんなに甘くないか」
「まあ想定範囲内ですね。では予定通りこのままレイオット領の王室指定の宿に私達は向かいましょう」
そう言ってイシュカが先を走る四台の先頭まで馬を進め、父様にその連絡を伝えるために軽くドアを叩く。
私は小さく溜め息を吐く。想定範囲内とはいえ面倒なことには変わりない。
どうやら長い一日になりそうだ。
「密偵が付いて来ているのですか?」
一人だけ状況が飲み込み切れていないマルビスが眉を寄せて聞いてくる。
「事情は後から話すけど私達が王都のホテルにいる間も付いてた。父様には付いてないみたいだったから多分見張られているのは私の方。
狙われているとわかっていて大金持ち歩くほど馬鹿じゃないよ。直接狙ってくる可能性は低いけど念のため、ね。向こうには警戒されない様にこちらは気づいていないふうを装っているからマルビスもそのつもりで行動してね。
色々目立ってたから無理ないけど。私達の乗っている馬車はレイオット領のホテルで乗り捨てる。貸し馬車屋には手数料払って明日の昼過ぎに引き取りを頼んであるからそこから先の移動は馬にする」
「私がお側を離れている間に色々あったみたいですね」
「有名税みたいなものだよ。光が強くなれば足元の影はそれだけ濃くなる。ある程度は覚悟してたよ」
そう、覚悟はしていた。
貴族社会に身を置いている以上、陛下の覚えがめでたくなればなるほど妬みと僻みが多くなり、危険も多くなる。自分達は民をさっさと放り出し、義務を放棄して王都から逃げ出しておいて何を馬鹿なことをと思いはするが大きな組織というものはそういうものだ。
人間というものは時代や世界が変わっても基本的なところは変わらないということか。権力なんてものは私からすれば面倒なものでしかないが一度味わった蜜の味は手放せないのだろう。
「ただやられるのを待っているだけっていうのは性に合わないんで反撃の準備はしてる。マルビスにも手伝ってもらうから宜しくね」
そういう輩を相手にするにはアイツは敵に回さない方が身のためだと徹底的に叩いておいた方がいい。
前世のようにただの一般庶民なら事勿れ主義を貫くのも一つの手ではあるがここでは私は権力者側の人間、相手は庶民を食い物にする悪人で、しかも後ろにはこの国最高の権力者を今回は引き入れているのだから他の貴族を牽制するのにも良い機会だとここは割り切るべきだ。準備は万端、バレさえしなければ上手くいく筈、なのだが。
「貴方のお側はスリルに事欠きませんね。どこまでもお供いたしますよ」
本当は私と同じくバリバリの当事者であるのだがここで詳しい事情はまだ話せない。大丈夫だとは思うけど心配して飛び出されても困るので密偵を引き離すまではマルビスには内緒だ。ランスとシーファにはだいたいの事情はロイが説明してくれていて無理に付き合う必要はないと言ったが手伝ってくれるというのでありがたく協力してもらうことにした。
「まずは街中から父様達と別れて私達はこの間の宿まで移動するから。石はとりあえず馬車の中に置いてく。箱には取り出した金貨だけを入れて持ち込むから。石が無くなった分だけ軽くなるからバレない様に気をつけてね」
ロイ達はいざとなったら私が守るつもりでいるし、ランスとシーファにも危ないと思ったら迷わず逃げるように徹底してもらうつもりでいる。
「そろそろ馬車が二手に分かれます。
「手を出してくるとは考えにくいですが充分ご注意を」
コンコンと扉を叩く音と共にイシュカの声が聞こえた。
前を走る馬車が少しだけスピードを上げ、私達の馬車から離れる。
これで父様の方は余程のことがない限り安全だ。
私達はゆっくりと馬車の進路を街中へと変え、まだ静かな道を走って行った。
馬車を宿の前に停めるとホテルの支配人が慌ただしくやって来た。
王室から間違いなく予約の連絡は届いている様でイシュカが馬を降りてホテルの従業員達に預けると馬車の扉を開けてくれる。
その手を取って地面に降り立つと和かに笑顔を浮かべ挨拶を交わし、そのままホテルの中に入って行く。派手な金貨の入った箱はランスとシーファが二つずつ、マルビスが一つ持っている。ロイは私の執事の様に一歩後ろを静かについてくる。このホテルも王都ほどではないがある程度のセキュリティがされていて通された最上階にはそこを覗く事の出来る建物も侵入経路も遮断されている。
部屋の中に入るとイシュカは壁に体を寄せ、カーテンの影から窓の外を確認する。
「やはり付いて来ていますね。今右斜め前方の白い建物の横からこちらの様子を伺っています」
「一人だけで間違いない?
父様の方には付いてなかったんだよね」
「確認出来たのは一人だけです。ガイくらい気配を消すのが上手い奴がいれば別ですが、おそらくその心配はないでしょう。最近武勲名高いグラスフィート領の馬車、しかも騎士団十名の護衛、金貨も積まれていないと思われているでしょうからあちらを襲う旨味もありませんしね」
まあそうだろう。父様も一応褒美を賜っているけどもらったのは金貨ではなく一年の税金免除特約。
私が持っていると思われている金貨の方が襲う価値があるだろう。実際には殆どが父様の馬車に積まれているわけなのだが。
もっとも襲う理由が金貨とは限らないわけだけれども。
「それで五人は団長からどれくらいの説明は聞いてる?」
五人の中から一人、ホセが答える。
「おそらく殆ど聞いてないと言ってもいいと思います。私達はただ明日の朝まではハルト様の指示に従うようにと言われただけです。後は付いてくる奴に気付いたとしても手を出して来ない限りは放っておけと。陛下の許可も取ってある隠密作戦なのでと」
「丸投げですか、団長らしいといえばらしいですが」
イシュカが呆れたように溜め息を吐く。
多分いつものことなのだろう。偏見も入っているかもしれないが外観からして事細かに説明するタイプには見えない。
「まあいいよ。下手に齟齬が生じるよりこちらの仕事がやりやすいと思えば。メイン部隊は団長達な訳だし、やってもらうのはサポートだからね。
まずはあの密偵を巻いて拠点を王都寄りの街外れの宿に移す。ランスとシーファはここに残ってあの密偵が巻いた後に確認のため戻って来た時、暗くなるまで私達がここに滞在しているようにみせるための偽装工作をお願いしたい」
「その後は?」
「合流出来るようなら街外れの宿まで、無理なら待機、危ないと思ったら避難。一応このホテルの他の階に一部屋取っておくから隠れるか眠る時は念のためそっちで」
ここもセキュリティが他の宿屋に比べてしっかりしているとはいえ絶対とは言えないかもしれないし、騙されたと知ったとしても他の部屋を片っ端から覗いてまわることはしないだろう。
「五人の内二人は付いて来て。あんまり護衛が少ないのも怪しいから。残り三人は私達が出かけてアイツが動いたのを確認してから直ぐに街外れの宿に必要な物を移して待機。馬や鎧は目立つからね。私服は用意してある?」
「一応は。街中見物の護衛で泊まりになるかもしれないと聞いていましたので」
「すぐに巻くと怪しまれるから暫く張り付かせておいて一番人混みが多くなってきた辺りを狙うから。焦らなくても朝市が立つ今から出掛ければ三刻くらいは時間があるはず。二刻くらいならランス達も人手がいるなら手伝ってあげて。
街外れの宿まで時間はどのくらい?」
馬車の中ではわかり難かったけどそんなにかからなかったはず。レイオット領の街は王都寄りに街の中心がある。
「往復でも馬なら一刻チョットかと」
「もし密偵がいても慌てないこと。ランスとシーファがここにいるからそんなに怪しまれないと思う」
護衛を置いて行くとは普通考えないだろう。要は私がレイオット領にいると思わせられれば問題ないのだから。
「もし密偵がこの場所から動かなかった場合はどうしますか?」
「そしたらこのままこちらでの仕事を片付けて夜になったらここから王都に向かう。要はアイツに王都に向かったと連絡させなければいいわけだから時間までまだ動かないようならそのまま取っ捕まえてしまおう。取り逃したとしても夜は検問が厳しくなるならアイツも簡単には抜けられないだろうし」
「ならば今から捕まえてしまえば良いのでは?」
ホセが疑問に思ったのか尋ねてきたがそれには首を横に振った。
「もし、何かの連絡手段を持っているか、ある程度の時間になったら戻る手筈になっているとすれば連絡が途絶えることで警戒されるのはマズイ。段取りが全て無駄になってしまうからね」
「なかなか面倒ですね」
「用心深い相手にはこちらもそれなりに対応しないとね。仕方ないよ」
できれば今日の生贄が犠牲になる前に間に合うのが一番だけど申し訳ないがそこまで配慮して取り逃し、次の犠牲者を出すわけにもいかない。生憎私は正義の味方ではない、可哀想だとは思うが全てを救える訳ではない。
割り切りたくはないが割り切るしかない。
「すみません、少しよろしいでしょうか?」
コンコンコンと扉をノックする音がして声がかけられる。
「下にガイリュートという男が来ていまして、ハルスウェルト様に至急お会いしたいと。貴方様の部下だから問題ないと言っているのですが如何致しますか?」
このタイミングでガイの登場、何か不測の事態でも起きたのか。
そう言えば何か調べたいことがあるって言ってイシュカの前から消えたって言ってたっけ。
「ロイ、確認して迎えに行って」
一応人違いだと困るのでロイに迎えに行ってもらうと相変わらず上から下まで真っ黒の服装で足音も立てずに入ってくる。
「よう、御主人。約束通り美味い酒御馳走になりに来たぜ」
そんな約束もしてたっけね、忘れてたけど。
誤魔化すつもりはないのでかまわないのだけれども。
「ここに来たって事は何か新しい情報掴んで来たってことでしょう? まずは聞かせて。お酒なら約束通り、今から出かけるからそこで好きなの買ってあげる」
「相変わらず太っ腹だねえ、ま、そこが最高なんだけど」
機嫌が良さそうにヘラヘラと笑いながら先を続ける。
「新しい抜け道が確認出来た。そこで少し計画を変更したいと団長からの伝言だ。確認されていた抜け道は三つ、二つは手筈通り時間になったら塞ぐことになっている。そして新たに確認された抜け道が一つ、このレイオット領にある。そこで今夜の夜半前に王都で落ち合う予定を変更して突入の合図に合わせてこちらから侵入できるか確認してくれと」
確かにこちら側に抜け道があるのなら塞いでわざわざ検問所を通るよりそこから入った方が効率的だ。
時間ギリギリに移動すれば密偵を振り切る必要もないし、検問所で万が一待ち伏せされていたとしてもかち合わずに済めば連絡されることもない。こちらにイシュカがいるからこその作戦だろう。悪い手ではない。むしろついでに抜け道を塞げる訳だから無駄もない。
「つまり落ち合うのは奴の屋敷内ってこと?」
「案内は俺がする。必要なら援軍を追加するという事だがどうする?」
ということはガイも戦力に数えていいってことか。戦力としては悪くない。
「その抜け道は広いの?」
「いや、かなり狭いな。二人は並んで通れない」
「じゃあ応援はいらない。沢山いても通れないんじゃ意味ないし、こちらを手厚くし過ぎて疑われるのもマズイ。他には変更はない?」
沢山いたところで無駄に犠牲者を増やすだけだ。通路が狭いというのならいざとなったら正面に結界張って力押しという手もあるし。
「ああ、ハルト様達が無事グラスフィート領へ向かったと思っているようだぜ。色々小細工したようだがそれが効いたようだ。お貴族様達は我慢が利かないからな、宴はまだ再開しないのかと催促が随分と入っていたみたいだぞ」
確かに念入りにレイオット領観光を楽しむ予定を金貨まで見せつけてアピールしておいたけどアレを信じたってことか。
騙されているとは考えなかったのだろうか?
「馬鹿が多いことだね」
楽できてありがたいことだ。
「ああ、今日でアイツらの命運も終わるとは知らずにな。馬鹿で助かるな。まあ普通に考えて六歳のガキがそこまで考えて動いてるとは思わないだろうが甘いねえ。ウチの御主人様をナメてかかるからだ」
ケラケラとガイが笑う。
ウチの御主人ねえ。そう言えば騎士団でその言葉を連呼してたって言ってたっけ。間違いではないから好きにすればいいけど。
「で、どうするの? 団長までどうやって連絡つけるの?」
「近くに王都に戻る商人が泊まっているらしい。ソイツに手紙を預けろって。文面は適当で見られてもいいように援軍がいるならフルネーム、いらないならファーストネームで締めろってさ。ジャイルとかいう騎士団に補給物資を納めているヤツらしいんだけど今日納品予定なんだと」
上手く考えたものだ。騎士団に向かうのがわかっているなら確かに利用しない手はない。
「ジャイルならテネシス亭ですね、すぐそこですよ」
「知ってるの? マルビス」
「一応は。一年前にはそれなりの付き合いがありましたので。彼はそこの朝食に出るシチューに目がないんですよ」
所謂御贔屓ってやつか。そんなに美味しいなら機会があれば一度食べてみたいものだ。
「そのまま手紙で渡して大丈夫?」
「いや、コレに入れてイシュカから頼んでくれって。荷物の中に団長のが混じっていたのでついでに届けて欲しいって言えと」
ガイが持っていた小さめのリュックから隊服のズボンを一本引っ張り出してイシュカに向かって投げる。
確かにそれなら頼んでもあまり疑われないだろう。上着では明らかにサイズが違いそうだがズボンなら畳んでしまえば区別しにくい。
「あ、援軍断るって勝手に決めちゃって大丈夫だった?」
「構いませんよ。仰る通り狭い通路では大軍はかえって邪魔になります。しかし、そうなると武器が他に必要ですね。剣では不便そうです」
それもそうだ。イシュカの愛用の長剣では振り回せば狭い通路に突き刺さりそうだ。
「じゃあ探しに行こう。予定が変更になって時間にゆとりもできたし。ついでにガイのお酒もね」
「いいねえ、ついでに俺の得物も良いのがあったら買ってくれよ」
う〜ん、おねだりが増えてる。
まあいいか、ガイにはまだ何も買ってあげてないし、値段次第ではあるけれど。
「予算が足りるならね。じゃあ折角だからみんなで朝市に何か食べに行こう。疑われないためにも必要な物を準備しつつ、せいぜいレイオット領の観光を楽しもう。今計画話しても忘れちゃいそうだし。
夕方、出発前に全部話すよ」
「ではすぐに手紙を用意します」
イシュカが備え付けられている筆記用具に手を伸ばした。
サラサラと書いた文字はたった二言。『すみません、お返しします。イシュガルド』
それで問題ないけれどそっけないその手紙はロイの用意した布袋に団長のズボンと一緒に入れられた。