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第三十六話 大事なトコでの出し渋りはいけません。


 屋外試験場の出入り口の扉が開くとイシュカ達が雪崩れ込んできた。

 そう、言葉通りにまさしく。


 勝敗の行方と護衛対象である私の安全が気になって仕方なかったらしい三人はドアにへばりつく様にもたれかかり、扉が開けられた事で支えをなくして折り重なるようにして倒れ込んだ。

 一番前にいたらしいイシュカは一番下、ダグとシエンを背中に乗せている。

 大分心配をかけていたようだ。

 まあ普通に考えたら子供が大人に勝てるわけないもんね。

 私は下敷きになったイシュカの側にしゃがみ込んで言った。

「ガイ、一緒に仕事してくれるって」

 その言葉にホッとしてした後、自分達の格好を思い出したのかイシュカは上に乗った二人を身体を起こしながら振り落とした。

 おおっ、凄い背筋。流石騎士団副団長。上にいた二人が後方に転げ落ちた。

 膝をついたまま私の身体に傷がないことを確認する。

「勝敗は? どうなったのですか?」

 聞かれて少し考える。

 ここで私が勝ったというのは簡単だし、ガイもそれを認めるだろう。

 でもわざわざガイのメンツを潰す必要はないし、イシュカが自分と同じくらいと称するくらいだから勝ったと伝えれば私がそれだけの戦闘力があると思われてしまう。今回は勝てたけど手の内はある程度知られているのでおそらく次は勝てないと踏んでいる。ここは隠しておく方が無難だろう。

 私は様にならないであろうウィンクをすると悪戯っぽく答えた。

「内緒。私はガイが仲間になってくれるならどっちでもいいもの」

 ねっ? と、ガイに向かって微笑むと彼は驚いたように瞳を見開き、口もとだけで笑った。

 私が答えないのでイシュカの視線が今度はガイに向かう。

「さあな、主人として認めた以上俺から言うわけにはいかないからな」

 肩を竦めて明言を避けたガイにイシュカが詰め寄る。

「負けたな?」

「ハルト様の側は面白そうだと思っただけだ。強要はされてねえよ」

 嘘はついていない。勝敗の行方こそ言葉にしていないが強要されていないという言葉に確信を持てなくなったようだ。勝者の権利を行使していないということは私が負けたとも取れなくもない。上手い誤魔化し方だ。

 するとガイはしゃがみ込んでいた私の頭をクシャッと撫でた後、脇に手を差し込みそのまま私を担ぎ上げたかと思うと私を自分の腕に座らせて抱え込んだ。いきなりの行動に私が目を白黒させていると間近にあるガイの瞳と目が合って私は真っ赤になって俯いてしまった。

 多分薄暗がりでバレてはいないと思うけど近くで見たガイの顔は思っていたよりもずっと彫りが深くて端正で、なんというか、カッコよかったのだ。男らしい野生味溢れた男らしい顔。好みとは違うがイイ男に見惚れて何が悪い。小さい子供の様に胸に抱き抱えられ(実際小さい子供なのだが)、ポンポンとあやすように背中を叩かれる。

 私を安心させるような仕草に胸がギュッと掴まれたような気がした。

 耳もとで微かに笑ったガイの声が聞こえた。

「・・・だが、なんとなく、お前らが惚れ込む理由が解ったってコトだ」

 一見ストレートに思われる言葉の裏に何かあるような気がしたのは一瞬、私を抱きしめる腕に力がこもったせいだ。

 ガイと私は似ている、その意味を思わず考えてしまった。

 でもすぐに私はその思考を放棄する。

 仮に同じような思いや願いを抱えていると仮定して、それを詮索されるのを望むだろうかと思ったからだ。

 切り替えの早さは私の長所(だと思っているが)、私は努めて明るく振舞った。

「明日の予定がないのならホテル戻って飲み直す? まだお酒あるよ?」

 こういう時は話題を変えるのが一番。

「いいねえ。ツマミはまだ残ってたか? 動いたら腹が減った」

 それは私もだ。ガイほど動いていないけど魔力を使うと結構お腹がすく。どういう原理かわからないけど同じく体の中にあるものだから減った分は補給しようとしているのかもしれない。

 大量に作ったはずのツマミ達は腹ペコ食べ盛りの男子達の胃袋に吸い込まれていたはず。

 残っていた記憶がない。

「どうだろう? みんな結構な勢いで平らげていたよね」

「美味かったからな。気が向いたらまた作ってくれよ」

 気が向いたらでいいんだ。料理は嫌いではないのでそれなら別に構わないけど。

「いいよ、ちゃんと仕事してくれたらね。働かざる者食うべからず、だよ」

「美味いメシは人を繋ぎ止める手段でもあるんだぜ。

 理解してやっているのかいないのか、わからないところがまたクセモノだな」

 言っている言葉の意味はわからなくもないが。

「奥さんの料理が上手だと旦那が必ず帰ってくるってアレ?」

 でも前世では共働きが当たり前、ファストフードにスーパーの御惣菜、コンビニ弁当、レトルト食品、食堂やレストラン、お洒落なカフェにビストロ、美味しいもので溢れていたし、家庭で料理を作るのは女性の仕事という認識も古く、廃れつつあった。

「なんだ、知ってんのか」

「一応。でも私には関係ないでしょ? 結婚できる年にはまだ遠いし、色気のない子供だもん。男の私はお嫁さん貰う確率が高いような気もするんだけど」

 男同士で結婚している人もいるのは知っているけど少数派。

 ここ二週間弱お邪魔していた騎士団に多いという話も聞いていたし、確かにいたけど大概見目麗しい者同士が多くて目の保養はさせてもらった。でも今現在それなりの美少年ではあっても彼らの醸し出していたような色気が私に望めるとは到底思えない。

「ハルト様は可愛い女の子が好きなのか?」

 ガイに聞かれて考える。兄様達とも以前話していたけどあまり実感はない。

「どうだろ? 嫌いではないけど苦手、かな? 

 世界が自分中心で回っているような言い方するような子は好きじゃないし、我儘言われるのも辟易する。女の子ってみんなあんななのかな? 私は最近まで屋敷からあんまり出たことなかったからよくわかってないだけかもしれないけど凄く疲れるよ。私は男でも、女でも側にいたい、帰りたいと思える場所になってくれる人の方がいい。そんな人がいたら独り占めしたくて夢中になるかも」

 誕生日パーティで見た自分は可愛い、選ばれて当然みたいな顔でこちらから声をかけるのを待っていた令嬢達を見ても心は一切動かなかった。その後も何か言いたげに父親の影に隠れている子を見ても声をかける気にならなかった。それを気づかないフリして立ち去れば射殺さんばかりの迫力で睨みつけてくる。いくら可愛くても御機嫌取りしてまで話したいとは思わない。姉様が他でどういう態度を取っているかまではわからないし、知らないけど少なくとも私の前でそんなそぶりを見せた事はないからみんながみんな、あんなふうだとは思っていないけど。

 好きな子の我儘なら聞くのもやぶさかではないが好きになってもいない子の我儘をきいてまで女の子にモテたいとも思えない。

「へえ、男でもいいならこの中からお相手が出てくる可能性もあるわけだ」

「私が結婚出来る年まで九年もあるんだよ? 

 私は二番目は嫌だし、みんな結婚してそうな気がするんだけど」

 どう考えても無理だよね。最近の私の周りは外見や中身、もしくはその両方がいい人が多いからとても売れ残っててくれるとは思えない。イイ男は倍率も高いに決まっている。

「結婚してなかったら?」

 それはないと思うんだけど、でも、もし、ロイやマルビス、イシュカ達がその時まで独身でいたなら私はどうするだろう。振り向かせられるほどの魅力がその時、私が持っているとも思えないけど。

「相手が私で嫌じゃなかったら立候補するかも? 

 でもみんなモテそうだし、私みたいなお子様より大人で魅力的な女の人とか沢山いるよ? 勝てない勝負はしない主義だし」

 人間諦めが肝心だ。外見は確かに子供なのだけど中身がオバさんの私は我儘言って困らせるほど子供にもなれないし、望まれていないものを欲しがっても虚しいだけだ。

 自分が欲しいと思う相手には、相手にも欲しいと思ってもらいたい。

 どこかにいると信じたい。私だけを思って大切にしてくれる人。

 そしたら全力で守ってみせるのに。そのためにつけた力だ。


「なるほどな、よくわかったよ」

 なんだかよくわからないけどガイは納得したらしい。目を伏せて微笑んで私を下ろそうとしたが反射的に手を伸ばしたらしいイシュカが引っ込めようとしたのを見て、そのままホレッとばかりに彼の前に差し出された。

 私は子犬か子猫扱いかな?

 嬉々として手を伸ばしてきたイシュカの腕に収まることになる。

 子供とはいえもう六歳、そこそこ重いと思うのに私のまわりの男の人達はこう軽々と私を抱き上げるのか。

 やっぱり日頃から鍛えているせいかな? 

 この世界は魔獣の脅威と隣り合わせだ。騎士や兵士でなくても大抵の男の人は最低限の身を守る術を持っている事が多い。護身術であったり、財力であったり、方法は様々だけど。イシュカにはこの間、馬上のバリウス団長に渡すために抱き上げられたけど、あれはどちらかといえば荷物を引き渡すに近いものだったしここまでガッチリ抱っこされるのは距離も近いし非常に照れる。そんなに嬉しそうにされると『歩けるんですけど』という一言も言いづらい。イケメンのお姫様抱っこ、女性達の憧れだとは思うのだけど小動物のように扱われたいわけではないし気分は複雑だ。

 嫌なわけではないので大人しくしてはいるけれど落ち着かない。

 赤くなっているであろう顔を隠すために身を寄せれば広い胸に抱き寄せられる。


「なあ、この調子でタラシ込み続けられたら恐ろしい事態になりそうな気もするんだが」

 イシュカの背後でボソボソと話すガイの声が聞こえた。

「既に手遅れですよ、被害者は日増しに増えていますから」

「それはアンタも含めて、か?」

「他人事ではないでしょう、貴男も」

 いったい何の話をしているのか、ロイとかわしている会話は全て聞き取れないけど恐ろしいとか、手遅れとか、被害者とかあんまり穏やかな話ではなさそうで気になった。

「なんの話?」

 ひょこっとイシュカの肩の上から顔を出し、二人の様子を伺い見る。

 ガイは私の視線に気づいて肩を竦めて答えた。

「魅力的な主人を持つ従者の苦労は計り知れないってことだ」

 どういう意味か真意までは測りかねるけど言っている意味はわからなくもない。

「よくわからないけど大変そうだね? でもそんな魅力的な人の下でなら私も働いてみたいかな。毎日仕事をするのも楽しそうだし、褒めて欲しくて頑張っちゃうかも」

 魅力的な人はそれだけ人を惹きつけるし、惹き寄せられる人間が多ければ揉め事も多そうだ。

 すると私の言葉にガイが爆笑する。

「確かにな、言い得て妙な気がしないでもないが」

 ならば何故笑う?

 ガイの感覚がよくわからない。似ていると思ったのは気のせいだろうか?



 ホテルに戻る途中で屋台を見つけ、酒のツマミを調達しながら帰るとさすがに夜もだいぶ更けていた。

 部屋には上機嫌のマルビスとランス達が戻っていて、彼等のために取り分けておいた夜食を食べている最中で、ガイを紹介すると顔見知りだったため丁度いいとばかりに親交を深めるために飲み会が始まった。

 私は空いていた腹を満たしながらマルビスの報告を聞く。

 以前マルビスの職場で働いていた使用人は全部で二十五人。

 この内、職を失った時点で王都にいたのは二十一人。

 流石に全員は回りきれないと思ったマルビスはまず使用人筆頭だった人の元に行き、彼がまだ新しい職に就いてないことを確認するとこちらの事情と大量の人員募集をしている旨を伝え、私の許可を取っていることと私の商業登録一覧表の一部を提示して新しい事業と新商品を売り出すために力を貸して欲しいと頼んだのだという。

 すると是非一緒に仕事をしたいと協力を申し出てくれたので彼と二人で相談して分担して仲間を集め、そこで一気に事情と説明をしようという話になったということだ。集まる場所を確保するために大きな個室がある食事処を用意してやって来た者に食事をして待っていてもらうことにした。それぞれ十人ずつ手分けしてまわり、その先でまた手分けして呼びかけるを繰り返し、全ての人のところに連絡して集まったのがニ刻ほど前。田舎に帰って家業を継いだ人もいたため集まったのは十八人、彼らの前で自分の仕えている主人の名前を告げ、詳しい話はまだできないが新事業の立ち上げを手伝って欲しいとお願いしたのだという。

 即決したのはこのうち十一人、七人は家族と相談してから返事をするとのことで明日の夜、もう一度同じ場所に集まる事になった。

「ありがとうございます、ハルト様。いまだ職のあてもなく日雇いなどをしている者がほとんどでした。みんな感謝しています」

 こちらとしても人員確保は目下最大の悩み所だったからありがたい。

「それは良かった。

 明日の夜だね。その時は私も顔を出すようにするよ。一応責任者だしね」

「良いのですか?」

「雇い主の顔がわかった方が安心する人もいるでしょう? そのくらいお安いご用だよ。一応、名前と家族構成、住所がわかっているようなら教えておいてね。寮の建設の相談もあるから父様にも報告しておきたいし」

 そう言って受け取った一覧を目にしながらマルビスに彼らがどんな人なのか教えてもらう。

 余程嬉しかったのか饒舌になったマルビスはたくさん話をしてくれた。

 彼らの性格や仕事ぶり、それを私は頷いて聞いていた。



 夜半過ぎになるとアルコールも入ってみんな疲れていたのかまるで酔わないガイと普段からあまりお酒を飲まないロイ、年齢的に禁酒の私以外は酔い潰れていた。

 勿論、防犯設備がしっかりしているホテル内と言うのもあるのだろうけど。

 私はマルビスにもらった一覧を手に立ち上がると寝室から筆記用具を持ち出し、ロイとガイを連れてホテルの自分の部屋の応接室から廊下に出る。

「ねえ、ガイ。早速だけど仕事、お願いしてもいいかな?」

 貸し切りにされている最上階の廊下を歩きながらガイに話しかける。

「このメンバーの調査か?」

 頷いて貸し切り状態の最上階の廊下を歩く。

「これ、書き写したいから場所を変える」

 父様に渡さなければならないし、私も控えがほしい。

 この人数を全てすぐには覚えられないし、これからのメインメンバーになる可能性があるなら把握しておく必要もある。得意分野によって割り振る仕事も変わってくるからだ。人材というのは使い方さえ間違えなければ大切な財産だ。一気に人が集まれば揉め事も起こるし、反発や派閥もできるだろう。

 一応この階の四部屋全ての使用は許されている。使われていない一部屋には現在私が買い込んだ荷物が詰め込まれているのでとりあえずそこに移動する。扉を閉めて灯りをつけると椅子に座ってロイと手分けをしてそれを写し始める。田舎に帰ったという三人を調べるのはウチで働く事が決まった後でも構わない。

「マルビスのもと仲間を疑いたくないけど念のため、ね。悪い人ばかりじゃないし、本人が望んでいなくてもそうせざるを得ない状況だってある。脅されていたり、生活苦であったり事情は色々あるだろうし」

「いや、アンタが言い出さないなら俺から進言するつもりだった。

 人間って奴は変わるモンだからな」

 ガイの言葉に私は頷く。

 平常時には冷静に判断できるものも追い詰められればできなくなる。

 人情や感情だけで腹は膨れないからだ。

「取り越し苦労ならそれで構わないんだけど」 

「いや、安心したぜ。甘いだけのヤツじゃって改めて確認できたしな」

「マルビスには余計なこと言わなくていいから」

 考え過ぎであったならわざわざ知らせる必要もない。

 誰だって仲間は疑いたくないものだ。

「わかってるって。身内には目も曇りがちになるモンだからな。

 揉めるなら証拠を揃えてからだ。

 で、いろいろマルビスのヤツに聞いてたみたいだが怪しいヤツはいたのか?」

 それには首を横に振った。マルビスの話だけでは判断できかねる。彼らに苦労をかけているという後ろめたさもあるだろうし、そんなに悪い事は言わないはずだ。

「表面上は特にいなかったよ。そう簡単に尻尾を掴まれるような事は余程の馬鹿でない限りはしないでしょ。人数も多いからね、こっちも早く動かないと対処が間に合わなくなる場合もある。性格や家族構成、日頃の生活状況や態度、勤続年数によって忠義心も変わる。

 そこから判断して絞り込むと特に注意すべき人間はこの七人だと思う」

 ゲイル、ミルバ、ヘイギル、ゴーシェ、グイド、ベイク、カヤックの文字に丸をつける。

「何故そう思う?」

「ヘイギルとベイクにはまだ幼い子供がいるし、ミルバには病弱の妻がいる、生活苦や家族を人質に取られる場合も考えられる。グイドは洒落者で一緒に仕事をしていた頃、給料日の大半を洋服の購入などに当てていた。カヤックは仕事がないはずなのに体型が明らかに変わったと認識できるほど太っている事から考えて他に収入源があるとみるべきだし、ゴーシェは女好きで以前娼館の女性に入れ上げていたらしいからね」

「そうなるとこのレイジュとダイナーの二人も注意すべきでは?」

 ロイが家族構成からみてその二人の名前をあげる。可能性はなくもない。だけど、

「その二人には家族もいるけどレイジュの子供は既に仕事に就いていて、すぐに生活に困る様子ではないようだし、ダイナーは勤続年数が浅すぎる。そこそこに腕も立つようだから冒険者として登録すればその稼ぎも得られるし、次点ではあり得ると思うけど切羽詰まる状況に追い込まれているほどすぐに困るとは思えない」

 突然に襲った雇い主の不幸。

 マルビス達に同情すれども彼が両親の遺した財産で一年分の給与を補償して回っていたことを考慮に入れると恨みは抱きにくい。

 もう半年後、金が底をつけば事情も変わってくるだろうけど。

「使用人筆頭のゲイルは何故だ?」

「この中で一番利用価値と信用度が高く、重要案件に関わっている可能性が高いからだよ」

 一番この心配が杞憂であって欲しい相手。

「私が相手を陥れようとして買収できるのなら一番初めに目をつけるのが彼だ。

 マルビスが最も信頼する相手を手駒に加えられたらその分状況も把握しやすくなるからね。できれば信じたいんだけど、これが杞憂であると安心するためにも調べるなら徹底すべきだと思う」

 マルビスは信じていても彼の周囲まで無条件に信じるわけにはいかない。

 懐に入れようとするなら尚更だ。

「怖いねえ、最高だよ。

 俺の目に狂いはなかったってコトだ。一応は全員調べるんだよな?」

「繋がっているのは一人と限らないし、敵も複数いないと決まったわけじゃない」

 目立ち過ぎてしまった今であれば特にだ。

「急ぐなら他にも人を雇っていいのか?」

「いいよ。臨時? 正式? 正式ならすぐには無理だよ」

「臨時だ。それなりにその手の知り合いはいるからな。

 金を出せば動いてくれるだろうよ」

 金で利用出来るものなら利用すべきだ。臨時ならば特に問題はない。

「動かせるのは何人?」

「捕まるかどうかわからねえからハッキリとはしないが使えそうなのは六人だ」

 意外に多い。助かるけど。

「全員の調査が終わらなかったとしても一度は明日の会合までには戻ってきて」

 夜も遅い、相手が動くとすれば朝一か情報を集めるために明日の会合に出席した後だろう。

「任せておけって、速攻で調べてやるよ」

 私達が書き写した一覧を握り締めるとそのまま出て行こうとしたので引き留める。

「ロイ、用意してくれる?」

 お願いするとすぐにロイは部屋を出て、小さな布袋を手に戻ってくる。

 私はその中身を確認してからガイに向かってそれを投げ渡す。

「軍資金だよ。特急ならその分お金もかかるでしょ。持って行きなよ」

 その音にガイは中身がなんであるかを察したらしい。

 彼に渡したのは金貨五十枚、それなりの大金だ。

「気前がいいコトで」

「大事なところで出し渋るつもりはないよ。

 そのかわり仕事はしっかりしてもらうし、手抜きは許さないよ」

「了解」

 ガイはそれを自分の懐に入れると扉に手をかける。

「んじゃまあ出かけてくるとしますか」

 相変わらず足音も立てず、ガイは部屋を出て行った。

 後は何事もなく無事に調査結果が出るのを待つだけだ。

 明日はいよいよ王都観光も最終日。

 行きたいところはまだ残っているので朝市で屋台を回りながら市場調査も兼ねて朝食を取った後、平民向けの雑貨屋や衣料品店を周りながら流行などを観察しながら昼過ぎまで出かけてガイの報告を待つとしよう。昨日お土産のつもりで買ったお酒も空けてしまったので買い直さなければいけない。

 ロイと二人、自分の部屋に戻ってその日は眠った。




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