第三十五話 これは命令ではなくお願いです。
ある程度の広さがあって、人目につかない場所となるとかなり場所も絞られる。
時間も宵の口、王都の検問所の外に出るのもスタンピードが完全沈静化していない今は避けたいところ。
私としても隠しておきたいこともあるし、王都内の空き地もマズイ。
そして二択で上がってきたのは騎士団の野外訓練場と冒険者ギルド内の試験場。
どちらが良いかと迷った挙げ句、ロイの強い勧めで街外れにある冒険者の試験会場を借りる事にした。
野外訓練場では柵がない上に万が一騎士団員に見られるとマズイからだ。
冒険者ギルドの屋外試験会場は一定階級、早い話が義務の発生するB級以上になると空いている時間限定で有料で借りることが可能だ。何故かと言えば冒険者には喧嘩上等の荒くれ者が相当数いるからだ。
所謂、『俺の方が強い、イヤ俺だ』というアレだ。
勿論そういった喧嘩は日常茶飯事だが一定以上の戦闘能力を持つ上級者になると当然怪我なども冗談では済まない場合もある。強力な魔法を街中で使われればその損害も、巻き込まれる人間もタダでは済まないので貴重な上級者に死なれては困るし、余計な被害を出されても困るのでギルドが苦肉の策で設定した、『B級以上のギルド外での同国所属冒険者同士の私闘、及び決闘を禁ずる』という上級者の遵守事項の一つだ。同国と設定されているのは国同士の戦争が起こった場合には傭兵として駆り出されることもあるからだそうだ。
ガイに確認すると一応は身分証代わりと気が向いた時や面白そうな依頼を見つけた時に受けられる様に義務の発生しないC級で登録しているらしい。となると決闘ではないが遵守事項にも一応引っかかってくるわけだ。この時間までギルドが空いているか確認すると王都では需要があるので日付けが変わる少し前くらいまで開業しているし、スタンピードで確保された魔獣の解体作業に追われているためここ数日間は開きっぱなし、解体出来る人員が交代で詰めているそうだ。そんなに大変ならいっそ燃やしてしまえと言うにはイビルス半島特有の珍しい獲物も多く、結果、対処できる内は燃やさない方向で各領地から応援を呼び寄せ、作業する事を決定したということだ。お疲れ様である。
ならばとりあえずは問題ない。
私達は父様に事情を話し、御者と馬車を借りて冒険者ギルドまで送ってもらい、一刻後、同じ場所まで迎えにきてもらうことにした。
始めは父様もついてくるといっていたが父兄付きは勘弁してくれとガイが言ったからだ。以前、ロイが止めるのも聞かずにダルメシアを私にけしかけた父様なら別に問題はないだろうけど父親の前で息子に殴りかかるのは確かにやりにくいに違いない。
街外れの冒険者ギルドに到着すると、私達五人は受付で試験会場借用の申請をした。
受付嬢に持っているド派手なギルドカードを見せると驚いて慌ててギルド長を呼びに奥に走って行く。
噂に聞いていたグラスフィート家の三男坊、史上最年少S級冒険者の御登場はここでも物見高い野次馬の注目の的。夕刻過ぎで職員以外ほとんどいなかったのが救いであるがいつものことだ、驚きはしない。
とはいえ、イシュカ達は目を見開いていたけど。
冒険者ギルドは国の運営とは基本的に切り離されているから情報交換もあまりされていないので本人達が自分で言いふらさない限りイシュカ達が知らないのも無理はない。戦闘力の高い貴重な戦力はどこでも確保しておきたい、他領であるなら尚更だ。
やってきたギルド長はダルメシアとまた違うタイプの人だった。
スーツの似合う壮年のお洒落な紳士だ。一見穏やかそうに見えるが眼光の鋭さは明らかに一般人のそれとは違う。そうでなくては腕に覚えのある冒険者を束ねられないのだろう。
「ようこそおいでくださいました、お会いできて光栄です。ハルスウェルト様」
優雅にお辞儀する姿は貴族さながらだ。王都には住んでいる貴族の数も多いので接する機会も多いのかもしれない。諍いや揉め事は少ないに越した事はないので処世術なのだろう。
私は会釈すると要件を切り出した。
「こんな時間にすみません。
ちょっと事情がありまして試験会場をお借りしたくて参りました」
「構いませんよ。お噂はかねがね。ダルメシアからもいろいろと話は聞いています。面白い御方だと。あの偏屈な男が気にいるとは珍しいですからね。是非お会いしてみたかったのですよ。会場の方は今用意させています。よろしければ私も見学させていただきたいのですが」
私の腕を疑っていると言うわけでもなさそうだから単なる興味もあるのだろう。
実際、私は見た目通り喧嘩も腕っぷしも決して強くはないし、得意と言えなくもないのは小細工と魔法の扱いだけ。
「ガイが良ければ私は構いませんが」
「構わねえよ。どちらにしろ立会人は必要不可欠だ。ギルドなら個人の戦闘力に対してもある程度の秘密は守られる。ハルト贔屓の奴より安心だしな」
そう言ってイシュカ達にガイが視線を流した。
それもそうか。公平な立場で見てくれないと膝を着いた、着かないで揉めるのも困る。
私達はゾロゾロとギルド長の案内に従って奥の部屋まで進む。
途中、こうなった経緯と戦闘における勝利条件について話しながら歩いているとイシュカ達が外に続く扉の前でギルド長に止められる。
「すみませんが同席できるのは各一人までになります。
戦闘中に乱入されても困りますので」
それは好都合、っていうか助かった。
出来ればまだ騎士団には知られたくないし、イシュカ達にバレると筒抜けになりそうだったから。
一緒に行動していればいずれわかることだとしても陛下やバリウス団長の耳に入れるのはできる限り遅くしたい。謁見ではこちらの思っていた通りに進んだように見えていいように踊らされた感もあるし。
「じゃあロイで。イシュカ達はここで待ってて」
「ですが・・・」
「大丈夫、ガイも私も殺し合いするつもりはないんだから」
揉めている私達をおいてサッサと外に出て私が来るのを待っているガイ。
この手の人って合図前に仕掛けてきそうだよね。念のためシールド張って見えないように細工しておこう。大丈夫だとは思うけどロイを巻き込まないように正面のスペースが空いてから一歩外に踏み出し、ギルド長が扉を閉め、鍵をかけた直後、五本のナイフが足元目掛けて飛んできた。用意していた結界に弾かれ地面に落ちる。膝をついた方が負けなら先に機動力を奪っておこうというところか。確かに戦闘に対する考え方がロイの言っていたように確かに私に似ているかも。とはいえ、
「予想していたけど思っていたより早く仕掛けてきたね」
よかった、警戒しておいて。
危うく一発KO食うとこだった。このタイプの定番だよね。
前髪をかきあげる仕草がなんとも男らしい艶っぽさがある。
ロイの色気は上品だけど、ガイのそれはどこか婀娜っぽくて男臭い。
私の言葉にニヤッと笑った顔は明らかに面白がっているとわかる。
楽しそうでなによりだ。
「準備万端、壁張った上でそれを隠蔽してたヤツに言われたくねぇな」
「戦闘は用意ドンで始まるものばかりじゃないもの。
油断している方が悪い、でしょ?」
魔獣相手の多い冒険者や犯罪者を捉える衛兵、騎士達なら常識だ。
危ないと解っててなんの用意もせず、のこのこ出て行く方が悪い。
武術大会や騎士同士の手合わせではないのだから。
ぽりぽりと眉間の辺りを掻きながらガイが応える。
「まあその通りなんだが、そのセリフは俺が言うはずだったんだが」
「悪いね、見せ場を奪っちゃって」
「いや、そう来なくっちゃ面白くねえ。
思っていた通り、タダのイイ子チャンじゃなくて安心したぜ?」
私はゆっくり両手を頭の後ろで組んでのんびりと会話をしているように見せかけながらこっそりと反撃の準備を進める。魔法は想像力が大事だが狙って落とすにはどうしても予備動作が出てしまう。
ガイの気を会話で逸らしながら結界のシールドを洋服の下に隠し、首にかけている団長に貰った魔石の首飾りで保持する。強化はかけられてもさすがに二つの魔法の同時発動はまだできないからだ。ガイには私が結界の維持に魔法を使っているように見えるはずだ。魔石の大きさはさほど大きくない。込められた魔力が持続するのは約八分の一刻程度。
「ガイの得物はナイフとその短剣?」
「ああ。重くて長い剣は動くのに邪魔だ。ハルトは使わないのか?」
身軽さが最大の武器であるらしいガイに似合いの武器だ。
「私の剣術の腕前は三流以下もいいとこだからね。下手なもの振り回すより両手が空いている方がいい」
「得意は魔術戦闘って事か」
「まあね。ガイこそ油断しすぎじゃない?」
私は集中力を切らさないように気をつけながら頭の後ろに回していた手をゆっくりと手には何も持っていないことを見せつけるように前に持ってくると拳を握り、一気にそれを振り下ろす。ガイの頭上に用意されていた大量の水はそれと同時に一気に彼へと滝のように流れ落ちる。
水も滴るイイ男の一丁出来上がりだ。
「目、覚めた? 今のでお酒も抜けたかな?」
張り付いた前髪を煩そうに無造作にかきあげる仕草から色香が滲み出ている。
「ああ、抜けたな。無詠唱魔法の遣い手か。会うのは初めてだ」
ガイは呪文を唱え、風魔法を使って身体にまとわりつく水滴を振り払うと楽しくてたまらないといった表情で笑った。
なるほど、やはりガイは私と根本的なところが似ている。
普通であることより変わっていることを好む好奇心旺盛なタイプ。面白くて強い奴がいいと言っていたという言葉に偽りはなさそうだ。
と、なればだ。私は彼の興味を惹けるはず。私はニッコリと笑った。
「それは光栄だね。私はずっとコレだから珍しいと最近まで知らなかったけど」
奇襲というものはバレてしまっては効果が薄い。強力な魔法も準備段階で呪文を唱えていればどんな攻撃が来るのか相手に教えているようなものだ。逃げられたり対策されてしまうよりは相手の意表を突くためにも無詠唱というのは使い勝手がいい。初級魔法は準備待機時間も消費魔力も少ないので特にだ。
「ホント、末恐ろしいガキだな」
口こそ悪いけどこれは多分彼なりの評価と取るべきだろう。
「ありがとう。褒め言葉だよね、それ」
「まあな。こりゃあ俺も本気出さねえとヤバいな」
「そうしてくれると助かるよ。後でアレは本気じゃなかったって言われても困るもの」
「言わねえよ。それは負け犬の遠吠え、油断したヤツが悪い。
俺はそんなみっともない真似しねえよ」
それはなかなか潔いことで。
私がその言葉に対応すべく身体強化を二重にかけると耳に小さく呟く呪文が聞こえた。
隠遁の術、要するに一種の幻惑魔術で気配を消すことで視認しにくくするための闇属性の中級魔法だ。
「じゃあ私も遠慮なく」
気配が薄くなったガイに対して同じく気配を消しても向こうのほうが経験値が圧倒的に上、更に足音もほとんどしないガイでは私に勝ち目はない。だが、ならば位置が確認しやすいようにするだけだ。私はとりあえず自分を中心に半径十メートルの範囲に雨を降らせ、地面にぬかるみを作る。ガイは視認しにくいだけで宙に浮いている訳ではない。こうしておけば地面を踏めば足跡が出来るし乾いていればほとんどしない足音も水が跳ね音が出る。増した聴覚機能ならその音も拾いやすい。逃げるガイ目掛けて私は次々に水鉄砲よろしく勢いよく水弾を飛ばしまくり、ついでにその放った水で地面は更に広範囲にぬかるみ、ガイの足音を響かせる。
これにはたまらないとガイは無駄な魔力食いの隠形の術を解いた。
次々と飛んでくる水飛沫をガイが必死で避ける。イシュカが躱すのが上手いと評価していただけある。ならばと更に風魔法で強化をかけ、飛んでくる水の勢いが増すと流石に逃げ脚自慢のガイもたまらないと悲鳴を上げる。
「ちったあ遠慮しやがれっ」
「降参する? それならそれで私は構わないよ」
動き回るガイに対して開始位置よりほとんど動いていない私にガイが一旦距離を取り、悔しそうに睨んでいる。この隙に私はもう一度殆ど空になった魔石に魔力を補充する。
「冗談じゃねえっての、イイとこなしで終われるかっ、俺にもメンツってモンがあんだよ」
「そんなもの犬のメシにもならないんじゃないの?」
「うるせえっ」
まあそんなに簡単に諦められても困る。
戦闘の場に於いて諦めは即座に死に直結する。
足掻いてもらわなきゃ困る。
風魔法で速力を強化してガイの速度が更に上がり、私の攻撃が当たりにくいように緩急をつけ、左右に避けながら突っ込んでくる。この辺も予測はついている。多分、私の攻撃の隙間か魔力切れを狙っているのだろう。呟いている呪文は風、突風がくる。多分これに私が対応した瞬間を狙って飛び込んでくるつもりだ。私はあえてその誘いに乗って襲いかかってきた風に対して同じく風の魔法で受け流し、勢いに負け、よろめいたフリをしつつ地面に手をつき、更にカモフラージュのための風魔法の呪文を口にする。
予想通りガイが真っ直ぐに突っ込んでくる。
甘いよ、ガイ。
私はガイの間合いを確認しつつ、タイミングを見計らい手前二メートルの範囲に入ったと同時にガイの足元の地面を大きく深く掘り下げ、更にそこに水魔法を落とし、ジャンプするための足場を奪った。
ただ落とすだけではガイの脚力と身体能力で飛び出してこられてしまうけど身体を浮かせて足をつけなくしてしまえばその力は半減以下だ。ガイはおそらく風魔法で逃げると読んでいたに違いない。
穴ぐらの中に悔しそうなガイの声が響く。
「闇と水、風に土までっていったいいくつ属性持ってんだよ、お前」
「いくつだと思う?」
手の内は全て晒さないのが基本だ。ガイの前で使ったのは風と闇、それに水だ。私の持っている属性までは正確な情報は伝わっていなかったに違いない。一人の人間が持つ属性は通常二つか三つ。五つ持つ叔父さんが相当珍しいという話なので私はかなり特殊なはず。
「風魔法の呪文唱えながら土魔法を使うのは詐欺だろ?」
「私が魔法使うのに詠唱要らないって知ってて騙されるガイが悪いと思うんだけど。ガイって捻くれている様で意外と行動素直だね。もっと私のやる事に疑った方がいいと思うよ?」
そう言って私はガイに参ったと言わせるために最後の追い込みをかける。
シールドで穴の蓋を塞ぎ、保持した上でゆっくりと水の染み込んだ土に魔力を使い、冷気を流し込む。
パキパキと小さな音を立てて次第に近づいてくる氷の壁と空気の冷たさにとうとうガイが悲鳴を上げる。
「もういい、わかった、わかったよ。参った、参りました。
俺の負けでいいから出してくれ」
ヤケクソ気味のガイの声が耳に届く。
「了解」
私はシールドを解き、再び地面に手をつくと空けた穴の側面に少しずつ階段の様に土を迫り上げる。
それをガイが階段を登ってくるのを待ち、降参とばかりに手を上げるのを見てギルド長が戸口に向かって歩き出したのを慌ててとめる。
「ちょっと待って下さい、ガイに話があるのでイシュカ達を入れるのはもう少し後で」
まだ一刻経っていないので怪しまれることはないだろう。
ギルド長が火魔法の呪文を唱え、私が水浸しにした地面を一瞬で乾燥させるとロイと二人、私達の近くまで歩み寄ってくる。ロイは戦闘中も私の勝利を確信していたのか慌てる様子は一切なかった。
地面の上に大の字になっているガイの横に私はしゃがみ込んで尋ねる。
「ガイ、どうかな? 私のとこで働いてくれる気になった?」
寝っ転がったまま私をガイが見上げる。
「なんだ? まだ俺に拒否権あんのか?」
「私は命令じゃなくてお願いしてるの。当たり前でしょ?
やる気のない人はいらないもの」
強引に縛りつけるのは簡単だけど、それはその人の意志ではない。
自分から決めてもらわないと仕事に対する興味も熱も違ってくると思うのだ。嫌々やっていることは長続きはしないものだ。私はガイに選んでもらいたいのだ。
ジッと真っ直ぐ見つめてくるガイの瞳を真正面から受け止め、視線を逸らさず見つめ返す。すると暫しの間を開けてガイの表情がふっと和らぎ、彼が体を勢いよく起こした。
「行くよ。アンタの、ハルト様の側は面白そうだしな」
へえ、こんな柔らかい表情もするのか。
そう思って思わず見惚れたものの、先程までついてなかったはずの言葉に気がついた。
今、『ハルト様』って言ったよね、ガイ。
「敬称ってのは尊敬する人間に対して自ら進んでつけるものであるべき、なんだろ? 俺だって自分の認めた相手にくらい敬称はつけるさ、敬語は無理でもな」
そう言って私に向かってガイは手を差し出した。
「よろしくね。歓迎するよ、ガイ」
その手を握り返し、私は微笑んだ。
これでまた一人、仲間が増えた。雇用条件についてはロイやマルビスに確認するとして必要な人員が少しずつ増え始める。後は警護と警備人員の増強と商業部門の強化。マルビスが何人説得できるかによっても違ってくる。建設等や商品の生産については今のところ外注がメインだけど設備管理の人間も必要になってくるし。
ガイの活動拠点をどうするかは後で考えるにしてもとりあえず一度はウチの領地に来てもらうべきか。
子爵家五男って聞いたけどご家族に連絡した方がいいのかな?
そのへんもホテルに帰ったら確認しておこう。
ガイは私の手を握ったまま立ち上がるとしゃがみ込んでいた私を引っ張り上げ、感心した様に尋ねてきた。
「しかし、よくもまああれだけ俺の先手が取れたな」
それは難しいことでもなんでもない。その理由の一つはロイの一言だ。
私は隣にいるロイに視線をチラリと向け、問いに答えた。
「ああ、それはロイがガイは私と似たタイプじゃないかって言ってたから自分ならこうするだろうなって思ってやったらガイが面白いくらい引っかかってくれただけ。逆に突進してこられたら危なかったかも」
あのスピードで力押しされたらさすがにかわしきれなかったと付け加えるとガイが複雑そうに顔を顰めた。
「で、早速お願いなんだけど私が持ってる属性と詠唱に関してはみんなに内緒にしてくれる?」
落ち込んでいるとこ申し訳ないけどまずは肝心な口止めをしておかなければ。
「アイツら、知らないのか?」
ガイが戸口の方に視線を向ける。
「まあね。イシュカ達の前で闘ったことないし。騒がれたくないから極力隠しておこうとは思ってる。今のところ知っているのはここにいる人以外でニ人だけ、一緒にいる時間長いし察しがいいからマルビス辺りにはバレているかもだけど。すみませんがギルド長もお願いします」
「ダルメシアは知っているのですか?」
「知ってますよ。私はまだ暫くの間、自由の身でいたいので極力隠す方向で協力してもらってます。御国同士の争いや因縁には巻き込まれたくないですし、権力争いにも貴族としての地位にも興味はありません。
私は私の仲間達と楽しく過ごせるならそれでいい。
自分の領地を気に入っているんで離れたくないんです。本来なるつもりのなかったS級冒険者の登録を受け入れたのも彼の勧めです。そうすれば国家権力でもそう簡単に動かせなくなるからって」
土地へのしがらみを増やす事で断るための口実を増やす。
ギルド長は納得したのか頷いて応えた。
「承知しました。私共としましても優秀な冒険者は国に渡したくはありませんからね」
「ありがとうございます」
これでもう一人、共犯者が増えた。
心強い味方は何人でも欲しい。
利害関係の一致は最大の武器だ。
私はギルド長に向かって頭を下げた。