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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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第八十五話 さあ、お仕置きのお時間です。


 さてさてこれから阿鼻叫喚の悪徳領主お仕置き大作戦開幕ということで。

 眼下ではなかなかにスゴイ光景が広がっている。


「おいっ、お前っ、お前は私の警護ではないのかっ」

「早くコイツらを排除せよっ、早くっ、早く〜っ」

「臭いっ、気色悪いっ、早く退治せぬかっ」


 マイエンツ、レッドベルグ、ビエント、ギェキオル、レントバルの五人は恐怖に顔を引き攣らせ、必死に助けを求めている。ライオネル達は襲いかかるアンデッド達を切り捨てることなく戦闘力だけを少しずつ削いでいく。

 噛みつこうとしたならば歯を潰し、掴み掛かろうとするなら指を落とし、殴りかかろうとすれば腕を落とし、踏みつけようとしたならば足の甲を潰し。

 それでもアンデッド達の怨念は強いのか歯を潰されても脚の脛を喰み、指を落とされても腕に纏わりつき、腕を落とされても体当たりをかまし、足の甲を潰されても這いずってマイエンツ達の足元に躙り寄る。そんな客人達をあしらいながらランス、シーファ、ライオネルが答える。


「お前とは誰のことでしょうか? 

 ここには『お前』という名前の者はおりませんが?」

「私は貴方の部下ではありませんので命令には従えません。

 お望みでしたらどうぞハルト様にお願いして下さい」

「殿下から申し使っているのは命の保証のみ。

 その程度のかすり傷は怪我の内に入りませんよ」


 素気無く拒絶されマイエンツ達はガジェットとベリルに叫ぶ。

「貴様でも良いっ、早くこのアンデッド共を退治せよっ」

「褒美は望むままにくれてやるっ、早くせんかっ」

 それに憮然と二人は対応する。

「そのアンデッドが貴方に向かって来たのか判断致しかねます。故に切り捨てることはできません。どなたに何人落とされたか正確に把握したいとの王太子殿下の要望でしたから」

「それに嘘と強欲に塗れた方々の言葉をそのまま信じるほど私は単純では御座いません。払うと言っておいて金が惜しくなり殺害する。そんな未来が容易に想像できますから。なのでその申し出、丁重に御断りさせて頂きます」

 五人の罪人達にアンデッド達がワラワラと寄り集まって囲んでいる。

「私が襲われているのだぞっ」

「貴方は違法行為を行っていないということでしたから気のせいなのでは?」

 一際集っているマイエンツの横にいるライオネルがそう言い捨てる。

 五人とも相当怒っているようだ。

 まあそうだよね。

 これだけのことをして、証拠を突きつけられても言い逃れしようとして、しかも助けを求めるのにも上から目線で頭ごなし。

 それはおおよそ他人に頼む態度ではない。

 多少纏わりつかれて噛みつかれたところで死にはしない。

 まあ腐肉を纏わせ、死臭を漂わせてるアンデッドですから化膿して傷痕が残ったり、そこから蝿の卵が入ったり、蛆虫が湧いてきたり、何かの病原菌に感染したりはするかもしれないけれど。手当てをすれば別に死にはしないだろう。

 知らないけど。っていうかどうでもいい。

 どちらにしても牢獄にブチ込まれれば固いベッドで、不衛生な環境で沙汰を待つことになる。

 遅いか早いかの違いでしかないでしょ?

 温室育ちのヤワな貴方がたにそれが耐えられるかは疑問ですけど。


 観覧席の貴族達の反応も様々だ。

 嘲笑っていたり、震え上がっていたり、手摺りから身を乗り出してかぶりつきで見物していたり、漂ってきた腐敗臭に顔を顰めてハンカチで口許を押さえていたり、気分を悪くされている御婦人の方々もみえるようだ。

 フィアも彼等の反応を横目で観察している。

 中には明日は我が身的な意味で怯えている者もいるだろう。それを見極め、更なる他の違法者を燻り出すつもりもあるのかもしれない。あの陛下(おや)にしてこの子ありといったところか。本当に頼もしい限りで、こんな様子を見ているとシルベスタ王国の未来はきっと明るいだろうと思う。

 騒がしいエントランスフロアからマイエンツの私を呼ぶ声が聞こえた。


「ハルスウェルトッ、こんなことを考えたのは貴様だろうっ」

 顔を歪めて睨み殺さんばかりに殺気立っていますけど、アンデッド数体に纏わりつかれている様では迫力に欠け、なかなかに哀れを誘う。おそらく目の玉が飛び出るほどに高いであろう服も彼等(・・)の爛れた腐肉とその肉汁でべったりと汚れて、引きちぎられ、引き裂かれてボロボロだ。

 さぞかし臭いことだろうなあと考えつつも呑気に私は答える。

「よくお解りになりましたね」

「貴様以外こんなことを考える馬鹿が何処にいるっ、早く部下に命令して討伐せぬかっ」

 その『馬鹿』という言葉にピクリと反応したライオネルが護衛の手を抜いた瞬間、アンデッドがマイエンツの腕と脹脛に噛みつき、ヤツは悲鳴を上げた。

 あ〜あ、余計なひと言を言わなきゃいいのに。

 自分を守ってくれる人を怒らせるなんて。

 貴方がつくづく浅はかな人間なのだと露呈してますよ。

 天よりも高いそのプライドはいつまで保っていられるでしょうかね? 

 確かに私は頭が良いとは言えないでしょうけれど、馬鹿に馬鹿と言われて素直に手を差し伸べるほど私はお人好しではないのですよ。

 この状況は貴方の愚かな行いが招いた結果、諦めて下さい。

 それに、

「確かに提案したのは私ではあるのですが・・・」

「ハルスウェルトは流石にこれはやり過ぎではないかと渋い顔をしていたのだよ。

 それを採用したのは私だ、マイエンツ」

 どう答えるべきか迷っていた言葉の続きはフィアが引き継いだ。

 そう、提案したのは間違いなく私なんですけどね。

 決定を下したのはフィアなんです。

 その言葉に観覧席からドヨメキが起こる。

 フィアの椅子の肘掛けに凭れ掛かり、ゆったりと脚を組み替える仕草、ホント陛下そっくりですよ。

 流石は親子。 

「こうでもしないと貴様らは自らの罪を認めないだろう? 

 それにアンデッド達の特性も嘘ではない。これは貴様らが私腹を肥やすために犠牲になった民の数を正確に把握するため必要なこと。

 所詮貴様らは罪人。多少の怪我は許容範囲だ、問題はない」

 その言葉に泣き落としは効かないと悟ったらしく、五人の中の一人、まずは一番身分の低いレントバルが陥ちた。


「殿下っ、私は訂正致しますっ、訂正致しますのでどうか護衛の追加をっ」

 五人の中で一番の新入(・・)で、一番抱えている奴隷の数も少ない彼か。

 まあそうなるとは思っていましたよ。

 利害で成り立っている関係に義理人情、忠誠、気遣いは期待できない。

 バレているのだ。どうせ隠し通せやない。

 払える額の罰則金であるならば早々に認めた方が賢い選択だ。

「つまり貴様は奴隷の不法所持を認めるのだな?」

「はいっ、私は全部で三十六人の奴隷を国外と農夫達より買付けましたっ、あそこに落とした奴隷は内十三人ですっ」

 フィアの問いに速攻で返事が返ってきた。

「だそうだ。シーファ、悪いが守ってやってくれ」

「畏まりました」

 フィアの依頼を受けてシーファがレントバルの前に歩み出て、彼に纏わりついていた二体のアンデッドの首を即座に刎ねた。

 ホッと息を吐くレントバルを見て今度はギェギオルが白旗を上げた。

「殿下っ、私も認めますっ、どうか私にも護衛をっ」

「何人だ?」

 表情を一切変えずにフィアが尋ねる。

「四十五人、落としたのは内十九人ですっ」

「だ、そうだ、ランス。頼めるか?」

「お任せ下さいっ」

 返事と共にギェギオルに張り付いていたアンデッドを引き剥がし、ランスもそのアンデッドの首を一瞬で刎ね飛ばす。

 では正直に答えれば護衛を増やすという約束でしたから増援をお願いしましょう。別に低ランクのアンデッドの十体や二十体、ランスやシーファ達の敵でもないけれど。いつでも倒せるからこその手を抜いて適当に絡ませていただけ。

「ギイスはランスと一緒に、ダンはシーファのところへ」

「承知しました、ハルト様」

 ヤツらにはまだ奴隷の命が縛り付けられている。

 殺すわけにはいかないのだ。

 

「ふむっ、少し客人が減ったな。では追加で御招待して差し上げてくれ」

 フィアの言葉にマイエンツ達がヒッと短い悲鳴を上げる。

 そしてガイとケイが次の客人達を招き入れた。

 真っ直ぐに自分達に向かってくるアンデッド達に今度はビエントが陥落する。

「殿下っ、私にも護衛をっ、認めますっ、罰則金の支払いを致しますっ」

「貴様は何人だ?」

「二十二人、内落としたのは五人だけですっ」

 あれっ?

 その数はおかしくないか?

 おそらく本来の数より相当少なく申告している。そう思ったのは私だけではないようで、

「随分と少ないな。まあ良い。

 ガジェット、ではソイツは五名の客人からだけ守ってやってくれ」

 そうフィアが宣うとガジェットから質問が投げかけられる。

「殿下、既に四人の御客人の手脚を落としておりますが、どう致しますか?」

 成程、ビエントの脚にアンデッドが数体齧り付いているのはそういうことか。それを見たフィアが頷いて告げる。

「では後一人からだけ守ってやれば良い」

 ハイ、残念。

「ではまずはこの四体の首を落とします。そうすれば後一人で良いということですね?」

「ああ、そうだ。五人だけ、ということだからな」

 底の浅い悪知恵がフィアに見抜けぬはずもない。

 それに焦ったのはビエントだ。

「すみませんっ、嘘ですっ、偽りを申し上げましたっ、六十八人、落としたのは三十五人ですっ」

「だ、そうだ。すまないが後三十一人の客人から守ってやってくれ」

「承りました」

 これで合計六十七だ。

 三人が多少数を誤魔化してるか覚え違いしてるかしていたとして、まだ百五十前後残っているがまずはゲロッたビエントのところに応援を。

「ネフェル、ガジェットのところに行ってもらっても良いかな?」

「はいっ、ハルト様」

 駆け足でネフェルがガジェットのところに向かい、これで下っ端三人の両横に二人の護衛がそれぞれ付いたわけだが。

 ウゴウゴと脚を切り取られても、腕を捥がれてもマイエンツとレッドベルグの下に向かう様を見ていると、やはり怨念や執念といったものは間違いなく存在しているんだろうなと思う。

 二人の下に集まってくるアンデッド達の数が多く、罪を認めた三人と距離を取らせるために場所を離しても、ランス達のいる場所の方が人が多いというのに次から次へと招いた客人(・・)達は真っ直ぐにマイエンツ達のいる場所に向かうのだ。

 人数が増えすぎて不殺で護るのに厳しくなってきた時点で残ったウチの騎士達を投入するが、アンデッド達の退治はしないまま、二人の罪人は周囲を囲まれ、埋もれている。


「なかなかなか頑張るではないか、マイエンツ、レッドベルグ」

 フィアが感心したような、呆れたような声で宣う。

 二人の服は既にボロ切れだ。ところどころ肌が露出し、ミミズ腫れが出来ているものの、悲鳴を上げつつ顔を背けて二人は必死に耐えている。

 まあわからなくはない。

 認めればこの地獄の責苦は終わるのだが、代わりに自分の貴族としての優雅な暮らしも瓦解、終了だ。意地でも認めたくないのだろうけれど。

 冷めた声で更にフィアが言い放つ。 

「まあそれくらいでなくてはな。

 折角見物客を入れたのに見世物が早々に終わってしまっては観客達も興醒めだろう。せいぜい無様で滑稽な姿を晒して泣き喚いてくれ」

 そう言って貴族の観覧席の方に目を向ける。

 フィアの視線の先にある貴族達の見下すような、嘲笑うような、憐れむような視線を見つけてマイエンツとレッドベルグは目を見開いて硬直した。


「貴様らが手を掛けた多くの者達の生命は貴様の玩具などではない。

 まして貴様らの懐を潤すための道具ではない、心があるのだと心に刻め。

 民無き国は国家にあらず。

 そこに暮らす民がいてこそ国が成り立つのだ。

 権力と金で全てが買えると思うなよ?

 陛下も、そして私もそこまで甘くはない」


 そんなフィアの言葉がマイエンツ達の耳に届いていたかは解らない。

 だがその顔からは全ての感情が抜け落ちていた。

 フィアは真っ直ぐに彼等を見下ろし、語りかける。

 

「我が父上、陛下に宰相やアインツ、叔父上がいるように、私にもこうして手を貸してくれる者達がいる。

 いつまでも隠し通せると思わぬことだ」

 

 そう言ってフィアは周りにいる私達とそのフロアにいる監査局の仲間、ライオネル達アレキサンドリア騎士団のみんなに視線を流した。


 マイエンツとレッドベルグは動かない。

 頭が理解を拒否していても、

 心は悟ってしまったのだろう。 

 もう二度と自分が貴族達(かれら)の前で傲慢に振る舞うことは出来ない。

 意地を張ったところで意味はない。


 守るべき誇り(プライド)は既に粉々に、

 跡形もなく、

 砕け散ってしまっているのだと。

 


 ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。


 この話で丁度合計四百話となりました。

 掲載させて頂き始めて二年半となりました。

 ここまで挫けず書き続けられてきたのも、読んで下さる皆様あってのことだと感謝しています。

 読んで下さる方がいる限り、最後の結末まで書き続けていこうと思っていますので応援して頂けると幸いです。


 ブックマーク、評価、いいね、ご感想などもありがとうございます。

 様々な御意見を頂き、参考にさせて頂いてます。

 誤字報告もとても助かっています。

 

 これからもよろしくお願いいたします。

 

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