第八十四話 類は友を呼びました?
フィアが軽く右手を振って準備開始の合図をすると一斉にウチの騎士団員達が動き出す。
天井の明かり取りの窓は屋根で待機していたウチの警備達に暗幕で塞がれ、ランプに光が灯される。
ホールの出入り口はただ一つを除き、全て頑丈に封鎖。観客席にいる貴族達の護衛はフィアのデイラックを除く監査局の警護が担当、所謂適材適所というヤツだ。
私は王都の貴族のお歴々に反感を持たれているし、ウチの警備には平民も多い。揉め事を避けるためということもあるけれど、要人警護は彼等の方が向いているからとこの配置になったわけだが。
ライオネル達が慌ただしく動き、ガイとケイを唯一残した出入口前に残し、おおよその準備が整うとマイエンツ達の後方に二列に整列、それを確認したところでイシュカは一旦私から離れ、階段の途中に三段階に結界を張った。
そうしてガイとケイがその扉をゆっくりと開く。
「昨日、其方が動揺して起こした行動で、私が落ちた先にいた者達だ」
開いた扉から姿を現したのは腐肉を纏わせたアンデッド達。
会場からドヨメキが上がり、その声に結界をドンドンと叩き始めた。
何故こんなところに彼等がいるのかといえば、昨日の夜の内に彼等を誘導、ランス達が閉じ込めておいたのだ。
このホールから地下に続く通路には窓がない。そこで彼等を十数体ずつに分けて隔離し、途中の部屋や結界で仕切っている。こうすれば一気に押し寄せるのも防げるというわけだ。
この光景に青褪めたのは勿論フロアにいるマイエンツ達だ。
「ゲストって・・・冗談はお止め下さいっ、殿下っ」
「あれはアンデッドではありませんかっ」
「あんなものに罪を問うとはどういうことですかっ」
剣術は貴族の嗜み程度、魔獣魔物退治の現場などに出たことなどない方々はガタガタと震え出す。
呆れてものも言えないとはまさにこのことだ。
貴方がたは昨日までろくに武器を持たない戦士を魔獣と戦わせ、罪のない奴隷を殺害させ、高みの見物を決め込んで、彼等が助けを乞い、逃げ惑う様を滑稽だと嘲笑って見物していたのでしょう?
立場が逆になったらソレですか?
思い切り軽蔑の眼差しで見下ろしているとフィアがニヤリと笑い、頷いた。
「ああ、そうだな。マイエンツ、気が動転して間違えたとはいえ貴様はアレらが何体もいた穴に私を落としてくれたのは昨日のことだ、よもや忘れたとは言うまい?」
それは最高の嫌味だ。
否定できないその言葉にマイエンツは必死に言い募る。
「私はあそこがそんな場所になっているとは知らなかったんですっ」
そんなハズないでしょう?
百歩譲って自分達がそこに落とした人間がアンデッド化していたことは知らなかったとして、人を丸呑みできるほどの大きさこそなかったけど、そこに毒蛇を放っていれば死体、もしくは人骨の山があったことくらいは承知していますよね?
貴方達がゴミと見下して捨てた方々が天に召させれれば、そのまま霧のように消えてなくなるとでも? そんなハズないことくらい年端もいかぬ子供だって知っていますよ。地面であれば年月を経て微生物が分解してくれることもあるかもしれませんがそれでも骨は残るし長い年月がかかる。しかも貴方は土属性持ちの者達に穴を掘って逃走されるのを防ぐため、しっかり石畳を敷いていましたよね?
蛇は呑み込んだ獲物の骨まで消化しますけど、呑み込める大きさに限界がある。風船が空気を入れ過ぎれば破裂するのと一緒、いくら皮が伸びたって人間を呑み込めるほどとなれば相当な巨体。そんなものがあそこに居ればとっくに穴から這い出てきていただろう。
不幸中の幸いは魔素付きになったとはいえそこまで肥大化していなかったことだ。イシュカ達の見解ではおそらく入り込んだネズミを食べていたか、何かそれなりの餌を与えられていたのだろうということだったけど、もっと年月を経ていれば五年ほど前に遭遇した大蛇の魔物クラスになる可能性はゼロではないと言っていた。
貴方達のしていたことはひとつ間違えれば領土どころか国を揺るがす大惨事になっていたことですよ?
それが知らなかったの一言で済まされるわけがないでしょう?
フィアはこれ見よ返しに大きな溜め息を吐いて宣う。
「そうか。ならば仕方がない」
あれっ? いいの?
そう不思議に思った瞬間、目付きを剣呑なものに変え、眉を吊り上げた。
「・・・とでも、言うと思ったか? 馬鹿者」
デスヨネ?
でもその言い方と間の取り方、なかなかのドSっぷりですよね?
ホッと安心させて息を吐かせたところで陥す。
やはりフィアは私の上を行くドSに間違いないだろう。
よく通る威厳に満ちた声、これぞ王を継ぐ者に相応しい風格。
やはり私とは天と地の差、所詮私は小者なのですよ。
うんうん、私の親友はやっぱり凄いのだ。
私がそう思って表情はキリリ(?)と保ったまま、心の中で頷く。
冷徹非情にも思える声が朗々と響く。
「知らなければ全て赦されると思っているならば随分とオメデタイ頭をしていることだな、マイエンツ」
うん、私もそう思う。
ゴメンで済めば警察は、じゃなかった、衛兵も近衛もいらないんですよ?
そんな考え方をしているということは頭の中は満開のお花畑ということでしょうかね? 世の中そんなにイージーモードに出来ていれば誰も苦労なんかしないんです。
マイエンツ達はすっかり顔面蒼白、血の気が引いている。
「自分の屋敷に奴隷がたくさん居ても知らない?
自領の民が貧困に喘いでいても現場を見てないから知らない?
経営する闘技場に多数のアンデッドが徘徊する地下があっても見たことがないから知らない?
随分と手前勝手で都合の良い言い訳だな?」
ええ、ええ、私も同意です。
身分が高ければなんでも赦されると思うのは間違いだ。
人の上に立つということは多大な権力を代償に重い責任を負うということです。甘い汁だけ吸えると思うのは勘違いもいいところ。そんなことが罷り通れば世の中は混乱、平和も秩序もない殺伐とした戦乱の世の中の幕開けです。
なんでも話し合いで解決できるなんて、そんなこと平和ボケしたことは微塵も考えていませんけどね。それでも通さなければならない道理というものがあるんです。いつか自分のしたことは違う形で自分に跳ね返ってくるものです。
他人を尊重しないということは、自分も尊重されないということ。
権力、暴力で従えたところで心までは支配出来ない。
支えてほしい、力になってほしいと願うなら、自分も与えなければ得られない。見返りも無しに他人に尽くせる人間は少ない。見知らぬ誰かに優しくされたなら、その優しさを他の誰かに返す。自分がされて嬉しかったから逆の立場に立たされた時にはその手を差し伸べる。そうして人の善意というものは広がっていくんです。
貴方のように自分以外を使い捨てる道具か部品くらいにしか考えていない人は本当の窮地に立たされた時、助けてもらえなくなるものだ。上から目線でそれを当然としていれば、助けたところで利用されて使い潰される。そう思えば自分を窮地に追い込む存在にわざわざ手を伸ばそうとはしない。それで見捨てられ、見殺しにされたとしてもそれは因果応報。自分のしたことが自分の身に返ってきただけなのですよ。
だからこそこの状況は誰のせいでもない。
貴方自身が招いた結果なのですよ?
理解していないでしょうけどね。
「殿下、私はそんなつもりでは・・・」
ゴニョゴニョと言い訳を言い募ろうとするマイエンツ達にフィアの怒号が飛ぶ。
「巫山戯るのも大概にせよっ!
小事を知らぬはわからぬでもない。人の目だ、行き届かぬこともあろう。
だが自分の目の届く範囲で、その足下で、自分が知っていなければならない大事を知らぬは知ろうとしなかったは貴様らの怠慢、領地経営者の責任だ。
それが真実とするならば危機管理もなっておらぬ杜撰な経営体制、領主失格だ。領地経営が出来ぬ無能であるならさっさとその座に相応しき者に譲るか、陛下に申告して代わりの者を選出して貰えば良かろう。
貴様に罪が無いなどとは言わせぬぞっ」
最後の一喝に会場内はシンッとなる。
ハイ、これまたごもっともな御意見です。
全部知っていなければダメだというならば自領の領地経営と采配をマルビスとシュゼットに丸投げしている私も同罪でしょうが、私は彼等のしてくれる報告にちゃんと耳を傾けているし、忠告、苦言もありがたく頂戴している。意見を述べてくれるのもとても助かることだと思って対応していますよ。
そして信頼して任せた以上、起こった問題を彼等のせいにはしませんよ?
それはお願いした私の取るべき責任だ。
自分に出来ないから頼んでいるのだ、当然だろう?
力を貸してくれる人に感謝の心を忘れたらそれで終わり。
それは経営者ではなく独裁者だ。
私はそんなものに、貴方のようになるつもりはない。
高慢な独裁者にはそれ相応の対応を。
これで最後までその態度を貫けるのであれば、それはそれで尊敬出来ますよ?
歴史を変える、時代を作る人々は時に傲慢だ。
それ故、成せることもある。
世の中は綺麗なものだけで出来ているとは限らない。
何百、何千、何万と積み上げられた屍の上に立って天下統一をしようとした人物は歴史上でもそれなりの数が存在してました。それを偉業だと称える人もいるでしょう。
でもその陰で犠牲となった人も大勢いる。
平和な世なら人を殺せば殺人罪。
戦時下であれば敵兵を大量に殺せば自国の英雄。
立ち向かわねば大事な人が、国が犠牲になる。
だから拳を振り上げて人は戦う。
それが理想の前にある現実というものだ。
それでもそれを貫けるというのなら貴方もまた時代を変えたかもしれない人間の一人なのでしょうけれど、生憎貴方達にそんな理想があるとは思えない。フィアの一喝にたじろいでいる時点で無理ですよね。貴方達に屍の山を築いて尚のこと、歴史に名を残すような偉人の風格は感じません。
私は冷めた目で目の前の動向を見守る。
「貴様らはもとが人間であるアンデッドやリッチの特性は知っているか?」
静まり返る空気の中、ゆっくりとフィアがマイエンツ達に尋ねた。
そう、元が人であるアンデッドやゴースト、リッチなどの魔物には共通する一つの特性がある。
「以前、ハルスウェルト達が約六百体あまりのアンデッドやスケルトン、リッチを退治した現場を遠くから見学したことがあってね。その時一緒にいた私の叔父上、アイゼンハウント団長に聞いた話を思い出したのだよ」
そういえばそんなこともありましたね。
あの時はミゲルも手のつけられない馬鹿王子で、あの頃はまさかそのミゲルがウチの商会の戦力として、その一角を担うようになるとは考えてもいなかった。
思えばミゲルが変わり始めたのはあれがキッカケだった。
「彼等はな。自分が死んだ時の未練や恨みを忘れないそうなのだよ。
何十年、何百年と経てば記憶は曖昧にボヤけ、漠然としたものに変わっていくことも多いそうだが、その禍根が強ければ強いほど長い間、その肉体に、骨の髄まで刻み込まれ、自分をそのような状態に追い込んだ者を覚えていて子々孫々にまで襲いかかるそうだ。他者にまで襲いかかるのは目的を達成する邪魔をされたくないから、もしくは死者にこういう言葉が相応しいかどうかはわからんが、目的を遂げるために生き残ろうとするからだ、怨念が宿った魂が彼等を動かしているのだろうと叔父上が言っていたよ」
そんなふうにアンデッド達の特性をフィアが語るのには当然理由がある。
少しだけ間を空けて、フィアがマイエンツに問う。
「ここの闘技場が建設されたのは確か十年ほど前、だったな。
つまり彼等には殺された時の記憶が残っている可能性が高い。
これが何を意味するか判るか?」
マイエンツ達がゆっくりとその意味と自分達の置かれた状況を理解し逃れようと暴れ出す。
だがフィアの言葉は止まらない。
「私に上がってきた報告によると、お前達は多数の不法奴隷を所持し、彼等が動けなくなるとありもしない罪状を被せてその処刑を見世物とし、その売上を被害者への補償金として計上、自分の懐に入れ、ここの闘技場で稼いでいたと聞いている。
となれば奴隷として使い潰され、最期は犯してもいない罪状を背負わされ、彼等は無惨に殺された、ということだ」
全く、ある意味怖いもの知らずというべきか。
自分の悪行を取り繕い、対面を整えることにばかりかまけて、こんなことを繰り返し、貴方の臣下は貴方に忠告してくれなかったのでしょうかね?
おそらく聞き耳を持っていなかったか、貴方が怖くて進言できなかったか。
だとするならこれまた貴方の自業自得、仕方ありませんよね?
「昨晩のうちにアンデッドとなった彼等はアレキサンドリア騎士団の彼等の力を借り、ここのコロッセオの地下室に移動願っている。
安心して良い。貴様が飼っていた魔物化した蛇は既に彼等が討伐済み、残っているのは人型のアンデッドのみ。私は私を含めた四人で総勢二百十五体のアンデッドの群れと魔物化した蛇が五十七匹の巣窟に貴様に落とされた。
蛇は既にいないのだ。私達と比べれば随分とマシであろう?」
フィアがそのセリフに似つかわしくなくにっこりと微笑う。
要約するに『私はお前にされたことをやり返すだけだ。レベルは落としてやっているのだから感謝しろ』と、こういうことかな?
まあ私が提案したものであることだし、その意見には概ね賛成だ。
こういうヤツらは話しただけでは理解しない。
同じ目に遭わされて漸く理解するか、しないか。
理解すればまだ救いはあるけれど。
無理でしょうね、多分。
フィアは更に言葉を続ける。
「だが生憎、彼等が貴様らのうちの誰の犠牲にされたのかは判断がつかなくてね。そこでこういうことを思いついたのだよ。
ならば彼等に問うてみれば良かろうと」
そう、厄介なのはそこなのだ。
これがマイエンツ一人の所業ならヤツ一人に全部の責任背負わせて裁けばいい。
だがヤツに唆されたとはいえ結託して悪事をしていたから面倒なのだ。総括責任者として成敗して他は無罪放免、もしくはそれなりの罰でっていうのも腹立たしいわけで、一緒になって罪を犯したなら相応の刑罰は受けるべきだ。
そこでこういう手段を思いついたわけなのだが。
逃げられない状況に追い込まれ、命が危険に晒されれば恐怖で自白するのではないだろうかと。
実際どの程度アンデッド達が彼等に恨みを持っているかは不明だけれど、こういうのは多少のハッタリも必要なのだ。不確定な要素が不安を呼ぶ。恨みを持っていればその当事者がそこにいれば突進することもある。コレに間違いはないけれど、絶対とは限らない。だからこそ本来ならば身分からいけばフィアに一番近い位置にくるはずの、一番の黒幕であるマイエンツを中央に配置したのだ。
一応そのあたりもしっかり考えているのだよ。
「勿論既に自我を失くしている者もいるかもしれぬ。そこで貴様らのもとに行く手前には魔獣魔物討伐に長けたアレキサンドリア騎士団の騎士四人を両側に配置してある。貴様ら恨みがないというのであればアンデッド達は彼等に向かっていくだろう。
だが、彼等を通り越し、真っ直ぐに貴様らに向かっている行くというのであればそれは貴様らに恨みを持って死んで逝ったということで相違なかろう?」
そのフィアの言葉にウチのメンツから四人、グイラ達がマイエンツ達の前方に駆け足で前に出て、フィアに一礼、扉とマイエンツ達の真ん中あたりの位置でその両側に立つ。即ち、不確定な魔物の獲物はお前達よりも前の位置に置いて対策しておいてやるよと言いたいわけなのだ。
当然これにマイエンツ達は焦って抗議する。
「私は侯爵ですっ、身分の低い奴隷如きに怨まれる筋合いはありませんっ」
だがそれもフィアの怒号に一喝される。
「笑止千万。寝言を申すでないっ!
貴様の理屈からすると王族である私は貴様を奴隷の如くコキ使い、あらぬ罪を着せ、罪人として裁いても赦される。ならばこの所業も私の当然の権利。そういうことであろう?」
ええ、マイエンツの理屈ではそういうことだと私も思います。
シルベスタに於いて侯爵の位は一番上ではない。
王族の血統を継ぐミゲルのような存在の公爵、更にその上にフィアのような王位継承権を有する王族、彼等の頂点に立つのがシルベスタ国王陛下その人だ。
他にも位が下であったとしても宰相、国を動かす各大臣、近衛連隊長、魔獣討伐部隊団長達は王族に次ぐ権力者。侯爵はその下なんです。一番偉いわけではありません。要するに比較的上の方に位置しているのが侯爵ということだ。そんなこと、私が説明するまでもなく貴方達なら当然御存知のハズですよね?
ただ横暴に振る舞えば臣下の心からの忠誠は得られない。
だから他人の意見に耳を傾け、重用するんです。
功績に相応しい身分や褒章、地位や権力を与えて。
貴方はそういうことをしていたんでしょうか?
調査報告を聞く限り、とてもそうは思えませんが。
利害関係だけで成り立っている関係は、それが崩れれば脆いものだ。
ヒイイッと悲鳴を上げてマイエンツ達はガタガタと椅子を揺らす。
「焦るな。何せ二百十五体のゲストだ。早々に死なれては何人が誰の犠牲になったのか判らない。それでは正確な罰則金も課すことが出来ぬ。
そこで貴様らにも護衛を付けてやる」
涙目になっていた彼等の目がホッとしたのか一瞬緩んだ。
フィアのその言葉にライオネルやランス、シーファ、ガジェット、ベリル、ウチの精鋭陣が前に歩み出てフィアに一礼すると各々マイエンツ達の傍に並ぶ。
「魔獣討伐に於いては我が王国の魔獣討伐部隊、緑の騎士団と並ぶ実力者達が揃うアレキサンドリア騎士団所属の精鋭達だ」
そうですよ?
私のとっておきです。その腕に間違いはありません。
自分達の護衛の身分と立場を聞いて彼等はギクリと身体を強張らせる。
「そういえば先程、貴様らは、彼等の主人であるハルスウェルトに対して何か申していたな?」
如何にもわざとらしい言い方でフィアは今思い出したような言葉を紡ぐ。
言っていましたね、確かに。
実に腹立たしい文言を。
でもフィア。明らかに狙ってるよね、それ。
それはホッと息を吐いたマイエンツ達を不安に陥れる。
「口は災いの元と言うぞ?
彼等も人で感情というものがある。尊敬する主人に罪を被せ、逃れようとした者をどこまで必死に守るのかは保証しかねるな。まあ護衛というものは必ずしも完全に相手を無傷で守り抜けるとは限らぬ。
相手が強かったり、複数であったりすればな。
忠義を誓うハルスウェルトに対してであれば必死に護るであろうが、自分の主を陥れようとした者を真剣に守ろうとするかは・・・疑問だな?」
フィアの言葉にマイエンツ達はライオネル達にそろりと視線をむけた。
が、当然、優しく対応されるはずもなく睨み下される。
だがここで文句を言えば警護の手を抜かれるかもしれないと考えないわけもなく、マイエンツ達は縮こまる。
「最後まで彼等に無事に護って貰えると良いな。
彼等は私の部下ではない。故にお願いはしたが命令はしていない。
可能な限り、最悪でも命が残っていれば良いとね。
死なれては罰則金の取り立てが出来ないのでそれだけは避けてくれと頼んだ。多少彼等に噛みつかれようが、引っ掻かれて怪我をしようが、手脚の一本や二本をもがれて欠けようが構わぬから、とね。
後で回復魔法を掛けてもらえるよう私が直々にハルスウェルトに頼んでやろう。
まあいくらハルスウェルトでも失くなった手脚は生やせぬであろうが命があるだけマシであろう?」
ハイ、生やすのは流石に無理です。
無事原型が残っていればくっつけるくらいはできるかもしれないけど、動くようになるのは難しいでしょうね。
しかしフィアの煽りはそれで止まらない。
更にマイエンツ達を震え上がらせていく。
「ああ、貴様らは先程ハルスウェルトに喧嘩を売っていたのであったな?
敵対者の貴様らがちゃんと治してもらえるかどうかもわからんか。
まあ良い。多少傷が傷んでも神殿に遣いをやって神官達を呼び寄せ、法外な御布施を支払い、治療して貰えば良い。生憎馬車はここにいた奴隷達の搬送に使用しているのですぐに行けるかどうかは定かではないか。
生きていれば多少痛みにのたうちまわるくらい大したこともあるまい。
彼等と違って、それでも貴様らは命があるのだからな。
ハルスウェルト、此奴らが怪我を負ったら全て治せとは言わぬ。傷口を塞ぐくらいは引き受けてくれるかい?」
ここでまた私に振るんですか?
まあいいけど。
「それくらいでしたら。ここで死なれては寝覚も悪いですし、構いませんよ」
私は頷いてそれに了承する。
「だ、そうだ。良かったな? これで貴様らの命は保証されたぞ?
ということで、問題と心配は片付いた。
いっぺんに招き入れては混乱するだろう。
まずは数人ずつ、早速彼等に御入場願おうか」
そう言ってフィアは扉前のガイとケイに合図を送ると、アンデッド達の行く手を阻んでいた結界が解除される。
この二人は気配を消すことに関しては天才的、スッと扉の影に隠れるとアンデッド達はガイとケイを無視して真っ直ぐに歩き始める。
途中にいるギイスやレイブン達を通り越し、マイエンツ達に向かって。
「殿下っ、お戯はお止めくださいっ」
騒げば逆効果っていうのをわかっていないのだろう。
その叫び声が尚更アンデッド達を呼び寄せると。
助けを求めて懇願するマイエンツ達にフィアは冷静に言い放つ。
「おかしなことを言う。身に覚えは無いと、貴様らは先程申したではないか。
それが真実であるなら彼等は貴様に向かうことはない。
安心してドンと構えていれば良い」
それが一番安全なのだと教えられているなどと恐怖で混乱しているマイエンツ達は気付かない。
「先程の陳情、覆したくなった者がいたなら申し出よ。
正直に言えば私がハルスウェルトに頼み、護衛を増やしてやろう。但し、彼等が守るのは貴様らが申し出た数の客人からのみだ。
だが貴様らの言葉に嘘が無いのであればなんの心配も要らぬであろう?
良かったな、罪に手を染めてなどいなくて。
無事襲われずに済むぞ?」
・・・・・。
これは煽りすぎなのでは?
要するに賠償する人数を申告すれば守るということだ。
嘘を吐けばそれ以上の客人からは守らないと。
少なく言えば怪我を負うリスク、正直に告げればそれに応じた罰則金。
その選択を示したわけだ。
これが奴隷契約書が既に届けられているのにも関わらず告げなかった理由か。
そうは思えど止めようとは思わない私も、
やはりフィアと同じドSで間違いなさそうだ。




