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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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第八十三話 それは貴方が蒔いた種なのです。


 翌日、イシュカに起こされて目が覚めると早速朝食を腹に押し詰めて、早朝再びコロッセオに出発した。

 私の提案した仕掛けは見事にイシュカ監修のもと、形を変えて観覧席も設置した上でのものに変貌を遂げていた。


「如何ですか?」

 イシュカに問われてその仕掛けをぐるりと見渡す。

 私が心配していた問題点もしっかり改善、改良されている。むしろ最初の私の最初の提案より上手くできてるんじゃないだろうか。

「いいんじゃない? 私が考えていたのよりずっといいよ。これ考えたのイシュカ?」

 私の問いに小さく微笑ってイシュカが答える。

「違います。ランスとシーファです。あの二人が中心となって考えました」

 上がった二人の名前に私は思わず目を見開く。

 それは意外な、違う、私がずっと聞きたかった名前。

 ずっと待っていた名前だ。

「凄いね。私の最初のアイディアからすごいアレンジだ」

「あの二人は人一倍努力していましたから」

 付き合いの長さではなく、必ず私の側に実力で仕えられるようになってみせると宣言されたのは四年くらい前だっただろうか?

 ランスは一番危険なルストウェル支部の騎士団に志願し、支部長として率いて、シーファは休日であっても時間があれば何度もイシュカの講習に出席し、覚えが悪いと馬鹿にされても必死にその知識を身につけようと頑張っていた。

 昨日も私達の後を追って飛び込もうとした人達を止めてくれて、救出に尽力してくれた。

 父様が一番最初に私の護衛としてつけてくれた二人。

 いつも私を信じて危険な場所にも迷わず飛び込んで来てくれた。

 だから私も二人を信じて待とうと思ったんだ。

 絶対実力で私の側まで来てくれるって。


「一応フィアが来たら最終確認してもらおう」


 こうして舞台は整った。

 後は役者(マイエンツ)観客(きぞく)を待つだけだ。



 フィアのOKももらった。

 見物客の貴族の入場も済んだ。

 そうして迎えた断罪の時。

 太陽が上空輝くこの時間帯で舞台に選ばれたのは前日私達が突入してきた貴族用の観覧席へと続く階段前のエントランスホール。

 天井にある大きな明かり取りの窓が天井に一つあるだけ。おそらく建物の構造上の理由と危機管理対策のためだろう。野次馬根性丸出しの貴族の方々はホール階段上に臨時で設けた観覧席へと御招待だ。

 そのホールには首謀者であるマイエンツを中心に置き、他四人を感覚を空けて椅子に座らせて縛り付け、その姿が一番よく見える特等席にはフィアが座り、その左右にはその警護を任されたレインと私が、私の後ろにはイシュカ、レインの後ろにはコルトバルとデイラックが立っている。


 なんか私、ものすごく目立ってないか?

 

 極力目立ちたくない。

 目立ちたくないのにこの場所はフィアが隣にいることもあって殊更に目立つ。

 ・・・それも今更か。

 文句を言うほどでもない。

 どこにいても目立つ運命にあるらしいのが私だ。どうせ奥に引っ込んでいたところでマイエンツ達が追い詰められ、恐れ慄く状況になれば私のせいにして喚き立てるに決まっている。そうなればどう足掻いても私に注目が集まるのは不可避だ。

 まあ最初に提案したのは私だし、その通りではあるのだけれど。


「さて、これから其方らに問うのは其方らの罪についてなのだが、まずは聞こう。昨日私が尋ねたことに対しての答えは訂正する気はないか?」

 舞台が整ったところでフィアが階段下のマイエンツ達に問い掛ける。

 するとマイエンツ達は眉を吊り上げてこちら側を見上げた。

「私は真実を述べただけで御座います。王太子殿下に嘘を吐いた記憶はありませぬ。なのにこの罪人の如き扱い、納得出来ません」

 いやいやいや、嘘吐きまくりでしょうが。

 昨日貴方は奴隷を所有して何が悪い的なこと、言っていませんでした?

 しっかり間違いなく不法奴隷大量所持の罪人ですよね?

 よくもまあいけしゃあしゃあと。

 空いた口が塞がらないとはまさにこのことですよ。

 確かに大勢の観客の方々の前で『私は罪を犯しました』などと言えない気持ちもわからないでもないですよ? 

 理解したくも真似したくもありませんけどね。

 威張り散らし、権力振り回し、随分と好き放題やっていたようですし。

 押さえつけて上から目線で命令という名の脅しを掛けていたこともあったでしょうから、こんな現場に引き摺り出されること自体、考えたこともなかったでしょうね? 本来なら部下の責任を取るべき立場にありながら、自分の名声、権力、出世欲のために身分をカサにきて、押し付け、陥れ、貴方はふんぞり返っていたんですから。

 今更『全て自分がやりました、すみません』とは言えませんよね?

 でも残念、証拠は既に押さえてあるんです。

 もう言い逃れは出来ません。

 ここに座す五人の方々の屋敷で回収した奴隷契約書は今朝にはフィアの元に届いているはずなのだけれど、聞いていないのだろうか?

 どうやって管理していたのかわからないけれど契約書と保護した奴隷の数が合わないとも聞いている。管理が杜撰でまだ亡くなった人の分まで残っているのかも、他にも隠れてどこかで働かせているのかもわからない。

 人を道具扱いするというなら自分の道具は大事に扱いなさいよっ!

 人はそもそも道具でも部品でもないですけどね?

 罪状は山のようにあるようですし、国外追放で済むとは思えない。賠償請求と罰金で相当額の支払額が課されるでしょうから財産が残るかも怪しいですよね?

 私の知ったことではありませんケド。


 罪人は罪人らしく罰を受けて落ちぶれればいい。

 情けをかけるつもりは毛頭ありません。

 それは反省し、己の所業を悔いて償う覚悟がある人にこそ与えられるべきもの。嘘を重ね、幾度も罪を犯し、弱者を踏みつけておいて尚、己を正当化して果たすべき責任を他者に押し付け、悔い改める様子は微塵も無い。

 そんな貴方が『情け』を受ける理由、ありませんよね?

 全ては因果応報です。

 私は完全無視の素知らぬ顔でフィアの隣に立っている。

 

「レッドベルグ伯。其方らも己の意見を意見を覆す気はないか?」

 マイエンツ言い草に呆れつつ、フィアは他四人にも意見を問う。

「身に覚えないことをどうして認めねばならないのでしょうか」

「私もこのような扱い、不当であると申し上げたく存じます」

 こちらもこちらであくまでもシラを切るつもりか。

 一晩閉じ込められていた間に何か企んでいたかもしれませんが無駄ですよ?

 私欲に塗れて浅はかな企みをしたところで、そんなものに騙されるほど私の親友(フィア)は愚かではありません。

 案の定侮蔑のこもった目で彼等を見下ろし、明らかに静かな怒りに燃えている。

「其方らは己の罪を全て認めるつもりはないと。こういうことで良いか?」

 最終告知を告げるが如く確認したフィアにマイエンツ達は大袈裟な調子で宣う。

「認めるも何も。私は咎めを受けるようなことをした覚えは一切御座いませんよ、殿下。国を憂い、国の発展ために今まで尽くし、寄与してきた私をよもや断罪しようなどとは申しませんよね?」

 ・・・・・。

 国のために憂い、尽くした?

 貴方のどのあたりの行動を持って、どう解釈すればそのような言葉が出てくるのでしょうか?

 それは暗に『私がいなくなっては困るでしょう?』的な意味なのか?

 大会社の社長がいきなり『今日で会社は倒産です』みたいなことを言えば社員達は即生活に困るでしょうけど、貴方はむしろ国に巣食っていた病原菌、癌細胞みたいなものでしょう? どこにも困る要素、ありませんよね? 

 その自信は何処からきているのでしょうか?

 ちょっと聞いてみたい気がしないでもないですけど。

 御生憎様。貴方の代わりは既に陛下達が選出済み、支障はありません。この際悪性の病巣は一気に摘出、そのための一斉検挙です。

 知らないというのは幸せなことですね。

 貴方の命運は既に尽きているんです。

 それを言い渡すのは私の役目ではないので黙っていますけど。


「その隣にいるアレキサンドリア侯爵に殿下は騙されているのですよっ、私は裁かれなければいけないような所業をした覚えは一切御座いませんっ」

 なるほど。あくまでも私のせいにしたいわけね。

 昨日私がそんなことは出来ない理由はフィアの口から聞いているはずですが?

 見たところせいぜい三十代半ばから四十前半の御年齢だと推察していましたが、既にその病巣は脳にまで及び、頭はボケていらっしゃると? 

 それはまたお気の毒なことで。

 おそらく陛下の密偵云々という話はトップシークレット、こんな沢山の見物客の前ではバラさないだろうという判断のもとにほざいているのでしょうけどね。

 それは所詮負け犬の遠吠えというものです。

 そんなマイエンツの芝居がかったような大袈裟な言い草に観客の貴族達は騒めき、ウチの面々は殺気立つ。

 フィアは椅子に座ったまま脚を組み替え、ニヤリと嘲笑う。

「そうか。其方の言い分はよくわかった」

 あからさまにホッとした表情。

 自分の読みは外れていなかったとでも思って安心しているんでしょうかね?

 階段下からはフィアの表情がよく見えていないのかな。それとも下方から見上げると違った表情にでも見えるんでしょうかね? 

 明らかに人の悪そうな、意地の悪い企み顔をしてるんだけど。

「お判り頂けましたか?」

 フィアの言葉を確認するように尋ね返す。

「ああ。其方の言い分は、な。

 だがその言葉、後悔せぬといいのだがな」

 デスヨネ?

 何も知らされていないというのは気の毒なことだ。

「それはどういう意味ですか? 殿下」

 不安を感じたマイエンツがフィアに尋ねてきた。

「其方の話は理解したが、それを信じられるかどうかは別の話だ、ということだ。

 昨日から聞いている其方達の言い分は、自分達に都合の良い、証拠もない、辻褄の合わぬ根拠なきものばかりだ」

 フィアの仰る通り。

 私も勿論信用していませんが。

「そんなことはありませぬっ、私はっ」

「其方の主張には『きっとそうに違いない』とか、『そうに決まっています』とか、『記憶にありません』などという言葉尻に付く。曖昧に言葉を濁すような言い方だ。それが意見であるならば納得もできよう。だが其方は責任を問われた時、その所在を問われた時などに特にその言葉を多用する。

 それはつまり後で私が『そう言っていたではないか』と問い詰めた際に言い逃れ出来るように断言を避け、責任を逃れるためにそういう言葉を使っているようにしか思えない」

 更に言い訳を重ねようとしたマイエンツの否定を遮ってフィアがそう言った。

「それは言い掛かりですっ」

「言い掛かり? 私にはとてもそうは思えぬが?

 しかも私をあのような場所に落としておきながらその口から出たのは言い訳にもならぬような言い草ばかり。自分は悪くない、気が動転して手が滑っただけ、そんなつもりはなかった、だ。

 『すみません』、『申し訳ありません』などという謝罪の言葉ひとつも私は聞いた覚えがないのだが?」

 そりゃあまた最低なことで。

 悪いことをしたり、人に迷惑かけたならまずは謝るのが人としての常識ではないかと思うのですけど。

 そんな最低限のこともしていないと?

 命の危機にもなるようなことをしておいて下げる頭もないとは。貴方の頭はどこまで高く、図々しいのでしょうか?

 図太い図太いと言われている私も遠く及ばぬ所業でしょう。

 ああそうでした、すみません、忘れてました。

 貴方がたは人ではなく人非人でしたね。

 フィアは苦笑して続ける。

「自分は嵌められたに違いない、ハルスウェルトが自分を陥れるために奴隷を潜り込ませ、自分を犯罪者に仕立て上げようとしたに決まっています、だったか?」

 言ってましたね、そういえば、そんなこと。

 フィアはゆっくり私を振り返る。

「ハルスウェルト、君はこの者、マイエンツ侯爵を陥れたいと思うかい?」

 えっと、ここで私の御指名ですか?

 また面倒そうなことを。

 まあいいや。

 この際多少なりとも反論させて頂きましょう。

 

「そうですね。まああらぬ濡れ衣を被せられそうになった最近のこと限定でしたら、そこそこには」

 私は隠すことなく本心をそう告げる。

 散々私に罪を押し付けようとしたことですし、怨みが無いなどとは口が裂けても言えません。

 それこそ嘘臭い台詞でしょう?

「ですが彼等と私の商売は似て非なるものですから私の邪魔をしないのであれば特に敵対する必要はありませんでしたね。私は基本的には平和主義ですから」

「嘘を吐くなっ」

 そんな私の言葉にマイエンツがつっこみを入れた。

 失礼ですね。

 私は当然反論する。

「嘘じゃありませんよ?

 目の前を羽虫が飛んでいようが、負け犬がキャンキャンと吠えていようが、多少煩いなあとは思っても気にしなければいい話で、危険が及ばないのなら騒ぐほどのことではありませんから」

 したり顔でそう付け加えるとフィアが再度マイエンツに問う。

「と、いうことらしいぞ?」

「貴様っ、私を羽虫や犬畜生と一緒だというつもりかっ」

 一緒になんてしていません。

 だってそれでは羽虫と犬に失礼です。

 私はそれ以下だと言っているのですが、

「それは貴方は私に喧嘩を売ったという認識でよろしいですか?」

 私がそう尋ねるとマイエンツはぐぬぬぬぬっと私を睨み上げる。

 特にそれを怖いとは微塵も思わないけれど。

「ならば是非高値で買い叩かせて頂きますよ? 

 私は生憎喧嘩を売られて黙って殴られたままいるような可愛い性格をしておりませんので。貴方のような自分に都合の良い想像ではなく、根拠と証拠を山ほど揃えてお持ち致しましょう。私は敵対者に言い逃れをさせる余地を残すほど優しくは御座いませんのでよろしくお願い致します」

 そう宣う私にマイエンツがガナリ立てる。

「貴様は私を馬鹿にしているのかっ」

「ええ。そうですよ?

 充分過ぎるほどの富と名声を持ちながら、それを失うような犯罪というリスクを犯してまで更なる贅沢を望み破滅する。これが馬鹿の所業でなくてなんだというのです? ある意味尊敬しますけどね。私はそんなリスクを背負う覚悟のない小心者ですから真っ当な道を知恵を絞って、仲間の力を借りて進むだけです」

 そう告げた私にフィアがツッコミを入れる。

「君が小心者? なんの冗談だい?」

 冗談ではないですよ?

 小心者であるからこそ油断など決してしないのです。

 私はそれには答えなかった。

 するとフィアは苦笑して告げる。

「だがまあそうだな。将来何事もなければ為政者になる立場の私としてはどちらかの言い分に肩入れして贔屓するわけにはいかない」

 ええ、勿論それで構いませんとも。


「そこで今日は特別ゲストを招き、其方の罪、彼等に問うてみようと思っている」


 あ〜あ、ついに最終通告下っちゃいましたよ?

 素直に罪を認めて謝罪しておけば良かったのに。 

 知〜らないっと。

 これは私のせいではないですよ?


 全ては自分の蒔いた種をしっかり刈り取らない、

 貴方がたが悪いのですから。



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