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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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第八十話 上には上がいらっしゃいました。


 暗い穴グラから這い出て陽射しの眩しさに目を細める。

 そこにはガイやライオネル、みんなの顔と先に出ていたレインが揃っていた。

 心配そうに覗き込まれた瞬間、近付いた距離で嗅いだ鼻の曲がりそうな悪臭に『臭え』とガイは鼻を摘み、顔を顰めた。

 

 ・・・うん。

 確かに強烈に臭いだろうな、とは思う。

 全然構わないですけどね。

 無事再会のハグとか期待してたわけでもないですし?

 でも、そんなハッキリ言わなくても。


 次いで出て来たイシュカごと二度の洗浄魔法をかけたがの全ての悪臭は取れなかったようで微妙にガイには距離を取られた。

「まあいいや。私は既に臭いに麻痺しちゃってるし。後でお風呂入って落とすから声が届く距離なら離れててもいいから我慢して?

 で、マイエンツ達はどうなったの?」

 まず先にお仕事、お仕事。

 ウチの騎士団メンバーは揃っているけどフィア達の姿が見えない。

「ああ。それはとりあえずこっちがカタが付くまでは面倒だってんで、すぐそこの窓の無い部屋に見張り付きでブチ込んでおいた。王子はその確認に行ってる」

 成程。

 奴隷云々の前にフィアと私達をあそこに落とした時点で大罪人だもんね。

 それでも何かこじつけて見苦しい言い訳してるだろうけど。

「何十体どころか下手すりゃ百単位のアンデッドがいたんだって?」

 レインの張った結界の壁をドンドンと叩いてたアンデッドの向こうにも押しくらまんじゅう、ギュウギュウ詰めだったのは間違いない。

 聞かれて私はその光景を思い出しながらウンザリとした顔で答える。

「暗くて数はハッキリしないけど両手両足で数えきれないのは確かだね。そのまま浄化しても良かったんだけど、そしたら灰になって正確な数判らなくなっちゃうじゃない? 一緒にいた魔物化した蛇まで浄化は無理でしょ。だったらアレに払わせる賠償金の額をわざわざ減らしてやるのも癪だと思って」

 それじゃあそこに落とされた人達も浮かばれない。

 生き返らせてあげられない。無念も晴らしてあげられないけれど、せめてそのくらいはと思うのだ。

 オマケにそこに私達を御招待、御案内してくれたわけだし。

 悪党には悪党に相応しいお仕置きを。

 私の言い草にガイが転げ回りそうな勢いでギャハハと笑う。

「だからいつでも浄化は出来るんで魔素祓いにしたってえの?

 そりゃあ流石過ぎじゃねえ? やっぱ俺の御主人様は最高だろ」

 これは褒められているのか?

 いや、間違いなく違うだろう。明らかに面白がっている。

「で、当然吐かせるための何か愉快な手を思いついてるんだろ?」

 期待に満ち満ちたその目は下向きの三日月型。

 その顔、微妙に嫌だ。

 折角の男前が台無しだよ、ガイ。

「まあ一応、三つほど。並、上、特上とあるけどどれが良いと思う?」

 罰ゲーム程度の『並』はまだしも『上』はなかなかキツイお仕置き、『特上』に至ってはかなり悪趣味、我ながらヒトデナシの所業かもと思わないでもない。

 私はそれらを説明すると、そこにいたみんなは『上』あたりからニヤニヤ笑い出し、『特上』の方法を話すと吹き出し、爆笑し始めた。

 ここは笑うところ?

 そんなことはないと思うのだけれど。


「当然『特上』だろ。ロクデナシの下衆野郎に手加減の必要ないんじゃね?」

 ゲラゲラと腹を押さえ、笑い過ぎで腹が痛いとガイが言った。

 『特上』って、かなりエゲツないと思うんだけど。

「ハルト様に散々無礼を働いて陥れようとした輩です。

 私もそれが妥当だと思いますが?」

 ランスまでそんなことを言い出した。

 あそこにいたアンデッドの数は相当数。ガイ達の調査からすると全部が全部、マイエンツの奴隷ではないと思われるわけで。こんなことをするヤツらだ、仲間を裏切り、見捨てるなんてなんの躊躇いもなくやりそうだ。そうなれば全ての責任をマイエンツに押し付けられて他の四人に言い逃れされては根こそぎ捕縛も厳しくなる。

 だからこそこんな手段を思いついたわけだけど。

 悪ノリし始めたみんなを諫めるべきかと口を開いては見たのだけれど。

「一応フィアに相談した方が・・・」

「それじゃ面白くねえだろ。選択肢を示して『並』を選ばれたらスカッとしねえ」

「ですよね。悪党には悪党に相応しい制裁を」

「今後のためにも見せしめとしてしっかり懲らしめておく方が賢明です」

「下衆には下衆に相応しい扱いをするべきです」

 ガイがそう口笛を切るとイシュカとライオネルまでそれに同意し、私の制止を却下した。その意見には概ね賛成ではあるのだけれど、私としては『上』くらいでも結構キツイのではないかとと思うのだ。


「僕も賛成。だって絶対アイツら悪いことしたって思ってないよ」

「ですよね。アイツらはそれでも死なないんですから。アイツらに殺された人の味わった恐怖と痛みからすれば俺も『特上』でも生ぬるいくらいだと思います」

「そうされたとしてもアイツらは反省すらしないでしょう? これで悔い改めるようなヤツならそもそもこんな惨たらしいことはしませんよ。自分より下の身分の俺達にも感情があることすら考えようとしないでしょう。道具にそんなものあったところで気にとめる必要がないとでも言いそうですし、恐怖で俺等が助けを求めて泣いて震えていたところで嘲笑って観ているか、泣き喚けば煩いとでも吐き捨てそうですから」


 レインとシーファ、ベリルの言うことも確かに一理ある。

 罪悪感なんてものがあればこんな残酷なことはしない。自分以外を道具どころかゴミ以下とでも思っていそうな外道に容赦は必要だろうかと考えたところで、フィアが戻ってきた。


「どうでした? マイエンツ達は」

 尋ねた私にフィアは肩を竦めて溜め息を吐く。

「どうもこうもないよ。酷い言い草と言い訳だ、聞くに堪えないね。私達を落としたことも気が動転してつい逃げ出したが故のミス、悪気は無かったってことらしい。しかも責任のなすりつけ合い。あれが仮にも我が国で領地を預かっている貴族かと思うと恥ずかしいったらないね」

 いやいやいや、その言い訳には無理ありまくりでしょうよ。

 責任の押し付け合いまでは予想範囲内だけど、私達を落としたことへの言い逃れの仕方は明らかにオカシイでしょ。

 多分こちらが混乱している隙をついて逃げ出して、フィアと私達が死ねば後はこの場での事実上の最高権力者はマイエンツになる。そうした上で権力と金にモノ言わせて事実を捻じ曲げるか脅しをかけてあわよくば証拠隠滅、って、そんなとこ狙ったんじゃないの?

 ところがトラブルメーカーの私のせいで緊急事態に慣れっこのウチのメンツに慌てず対応、処理、救助されたんでアテが外れたってところではなかろうか。悪党が取る短絡的な手段はそんなものだと思うのだがどうだろう?

 だが、

「そうなるとやっぱり素直に罪を白状なんて・・・」

「しないだろうね。そもそもそんなにアッサリ自白するくらいなら私達をあんなところに落としたりしないよね」

 フィアがチラリと地面にポッカリ空いた穴を見る。

 

 デスヨネ。

 わかりきってたことだけど。

 悪党ってのはつくづく他人の話を聞かないものなのだろう。

 フィアが言っていたではないか。

 既に陛下(おかみ)は知っていると。

 よしんばアイツの目論見通りコトが進んで私達を上手く始末出来ていたとしてもあの陛下がそれを黙って見過ごすわけないでしょうよ。本当に自分に都合の良いシナリオしか描いてないなあ。権力馬鹿もここまで極まるといっそ感心するよね。

 するとイシュカが一瞬、ピクリと動いた。

 中に張ってたイシュカの結界が破れたかな?

 外の空気と光に誘われて蝿みたいな羽根のある虫が徐々に出てきている。

 うっすらと魔素も漏れ出してきたものの、陽光に照らされ消滅している。こういうのを見ているとやはり魔素は一種の細菌か病原菌の類いに近いのではないかと思う。

 日光で紫外線消毒で滅菌される、みたいな?

 それでもやっぱり集団で飛んで来られると気持ち悪い。

 乾いた笑いを浮かべて私はそこから目を逸らす。

 壁際に寄り掛かり、話を聞いていたガイがニヤニヤと笑って口笛を切る。


「ならやっぱ、御主人様の名案を採用してやれば良いんじゃね?」

 その言葉にフィアがピクリと反応して私を振り返る。

「どういうこと? 罪を認めさせる何か策があるの?」

 もう一度アレをフィア達の前で説明しろと?

 ウチのメンツ達の無言の圧力は明らかに『特上』以外あり得ないっていうオーラ。

 確かに状況を聞く限り、『並』程度では効き目が薄そうだけど、ドS丸出しのその提案は流石に退かれやしないだろうか。

 思いついたものをそのまま口に出したのは、マズったかなあ。まあ口に出した時点で私も同罪だよね。

 っていうか、言わなきゃ良いこと言った私の落ち度だ。

 仕方ない。

 みんなの言いようのない無駄な迫力ある笑顔に押されて私は口を開く。

「実は少し仕置きが過ぎるかなとも思ったんだけど、人を人とも思わない悪党にはそれぐらいした方が懲りるんじゃないかって今、話をしてたんだ」

「どんな方法なの?」

 興味深げに聞いてくるフィアに私は説明する。

「やっぱりやり過ぎかな?」

 話し終えたところで私は尋ねた。

 これでやり過ぎだとフィアが却下すれば、代案として少し落として『上』あたりを伝えればいいわけで。

 そう期待した私の前でフィアの口角がゆっくりと上がる。


「いいや? 良いんじゃない? 

 どう思う? コルトバル、デイラック」

 えっと・・・?

「面白いと思いますよ。逆にそれでもシラを切り通せるなら、アレらの言い訳にも耳を傾けてやる価値はあるかと」

「ですね。まあ十中八九、自白すると俺は思いますけど」


 フィアに続いて意見を求められた二人も賛同した。

 よく見れば、しっかりその顳顬にある青スジと眉間の皺が彼等の怒りを物語っている。

 アイツ、相当低脳な馬鹿げた言い訳でもしたかな?

 それならそれでアイツらの自業自得というか身から出た錆、自ら自分の首を絞めたということで、ザマアミロってことでいいか。

 真面目な人達を本気で怒らせると怖いということをしっかり学べばいい。

 今更学んだところで既に遅く、もう人生詰んでるとは思うけど。


「じゃあ採用で。早速準備に取り掛かって」

 フィアがにっこりと微笑うと私の方を向いてそう宣った。


 ちょっと待って?

 フィア、貴方、さっきは程々にしとけって言ってませんでした?

 なんなの?

 その楽しそうな顔。


 それにその言い方からすると仕掛けと準備の算段は既についているのでしょうと言いたいのか?

 確かに私は夢物語など語りませんよ?

 実現可能であるからこその提案ですから。

 有言実行、出来もしないことは口に致しません。

「今日中に間に合いそう? 無理なら明日の朝からでも良いけど」

 急かすフィアに私は思案する。

「準備だけなら一刻もあればできると思うよ? 必要な資材は揃ってるし」

 でも、という言葉を飲み込んで空を見上げ、チラリと先程滞在させられていた穴に視線を向ける。

 『並』なら準備にたいして時間もかからない。

 だが『特上』となると仕掛けはともかく少々準備に時間がかかる。素直にアイツらが速攻でゲロってくれれば大丈夫だとは思うのだが。

 昼から踏み込んだということもあって今はもう夕暮れ近い。全ての準備が整うのは彼等(・・)が活発に動き始める時間帯。日中であれば陽の下だ、たいした問題にもならない。当然万全を期すつもりはあるけれど夜になるともしも際に危険度が一気に跳ね上がる。

 私の視線で意味を悟ったフィアが苦笑する。

「そうだね。あの数、だもんね」

 そう。今日実行に移すのに問題があるのはそこなのだ。

「では明日、お茶の時間くらいからにしよう。

 一刻ほどで仕掛けは用意できるというのであれば、それなら平気だろう? 明日までアイツらはそのまま閉じ込めておけば良い」

 勿論大丈夫ですよ?

 ならば明日の朝までに『だいたいね』のこの案にもう少し手を加え、イシュカ達と相談し、しっかり準備もできる。作戦会議室にどこか一部屋使う許可をフィアに欲しいと頼み、承諾を得る。


「ヤツらの食事はどうしますか?」

 デイラックがそう聞くとフィアは答える。

「必要ないよ。一食や二食抜いたところで死ぬこともないだろう。一応聞いてやって欲しいというなら場外の屋台で何か仕入れてやれば良い。庶民の食事が気に入らないと言うなら『では食べるなと私が言っていた』と言ってやれ。

 牢獄はもっと酷い食事になるけどそれでも良いのかと」

 バタバタと忙しなく動き始めるフィア達に私達も明日の準備のために動き出そうと考えるとデイラックの元に騎士が一人駆け寄って来た。

「マイエンツ邸からの連絡は来たか?」

「はい。既に彼等(・・)が隠し場所は特定済みでしたから。そちらへ踏み込んですぐに案内して下さったので隠す暇もなかったようです。無事に捕縛、証拠も押さえて奴隷として囚われていた者達も無事保護したそうです」

 デイラックと彼の部下の会話にウチの諜報員達が上手く立ち回ってくれたことを知る。だが、そうなると、今日は確か夜からマイエンツの正妻の誕生日を祝う舞踏会が催される予定だったはず。それだけ屋敷の方がバタバタしている上に主催者と舞踏会の主役が国家期間に拘束中となればそれどころではないと思うのだけれど。

「招待客達はどうするの?」

「状況を説明して御帰宅願おう。厳戒態勢、もしくは封鎖している検問所に人員を向かわせ、これからマイエンツ領に入る方々には御遠慮願え」

 まあそれが無難、だよね。

 そう考えて、私達は私達の仕事をと動こうとしたところで声が響いた。

「いや、待て。面白いことを思いついた」

 そう遣いの者の足を止め、フィアはニヤリと笑った。

 

「事情と明日執り行う行事を事細かに説明してやれ。

 マイエンツ領まで遠路はるばる彼等に会いにいらしてるんだ。強引に追い返すこともあるまい。

 今後のこともある。このような不祥事を戒めるためにも物見高い方々がいるなら明日、興味があれば特別観覧席を用意すると伝えておけ。

 当然、あそこにいるコロッセオ見学客にも、な」


 ・・・・・。

 上には上がいるものだ。

 私の更に上を行く、ドSがここにいた。

 フィアはアイツらの見せるであろう醜態を衆人に晒し、そしてそれを犯罪抑止の楔にするつもりなのだ。


 それを聞いていたガイが、

 『類は友を呼ぶ』とはよく言ったものだと、

 再び大笑いし出したのは言うまでもない。



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