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第二十七話 迫力の保護者つきは出来れば御遠慮願います。


 検問所を無事に通り過ぎることが出来たと思った矢先に馬車は警備兵に止められた。

 何か問題でも発生したのかと窓にかかるカーテンの隙間から外を覗くと父様がどこかで見覚えのある男性と話をしていた。


 筋肉質で立派な体躯、身なりから推測すれば多分貴族なのは間違いない。

 記憶が虚覚えであることからすると顔を合わせた時間は短いはず。だとすれば、おそらく誕生日パーティに来ていた客人の中の誰かに違いないが。

 ガッチリとした筋肉鎧は凄いとは思えどあまり興味はない。

 男に生まれ変わった今でもそれに変わりはない。

 大方の女子達には人気の鋼の鎧のような肉体美は趣味ではないのだ。

 頼りがいがあるとか、何があっても守ってくれそうとか、お姫様抱っこされてみたいだとか、女のコなら憧れるシュチュエーションには全くもって興味がない。

 だって押し潰されそうじゃないかっ!

 守ってくれそうというのは自分が守られる側であるという絶対的信頼感あってこそだろう。敵方に回ってしまえばあの肉体美も凶器でしかない。昔のイジメられっ子だった記憶が根付いているせいかどうかは定かではないが殴られたら痛そうだとか、抱きしめられたら背骨が折れそうだとか、そんな感想があってもマッチョな体は私にとってなんら魅力を感じない。私が目指すなら細マッチョだがムキッと露骨に筋肉が盛り上がるような体躯はできれば避けたい。

 憧れはあくまでもインテリ系、風が吹けば折れそうなガリガリも駄目だろうが細身の体が私の理想だ。

 まあ、個人的にはそれほど悪いことではないと思っている。

 見た目で判断されるならその方が相手も油断してくれるだろうし、侮られるのは対抗する力を持ってさえいれば利用できる手段でもある。


 私は向かい側に座っているロイを手招きして尋ねた。

「誰かわかる?」

 身長差もあるのでカーテンの隙間の私の頭の上からロイが覗く。

「あれはレイオット侯爵閣下ですね」

 って、ここの領主様じゃないかっ!

「なんでこんなところに。レイオット侯爵家は王都寄りの位置じゃなかったの?」

「ええ、侯爵邸は今日泊まる宿の近くのはずなのですが」

 そんな人がなんでわざわざこんな領地の境目まで来ているのだろう。爵位は向こうの方が上なのだから私達が向かう方向に屋敷があるなら到着を待って呼び出せばいいだけなのに。

「何か問題があったという訳では・・・なさそうですね」

 和やかな雰囲気で会話を交わしているようにも見えるのだが感情まではわからない。急いでいる様子はないので緊急ではないだろう。成り行きを見守っていると侯爵の足もとに一人の子供が駆け寄ってきた。

 その子供はしっかり私の記憶に残っている。


「レインだ」

 泣き虫で臆病で引っ込み思案だったあの子。

 フルネームまで聞いていなかったけど侯爵家の子息だったのか。

「ご存知なのですか?」

 いつの間にかマルビスまで窓のカーテンの隙間から覗いている。行儀が悪いとは思うが、まあ、人のことを言えた義理ではないのでここは注意せずに黙っておく。

「誕生日パーティに侯爵と一緒に来てたよ。もっともレインはパーティ会場から早々に抜け出してたみたいだったけど。ロイは覚えてるんじゃない?」

「ああ、あの時貴方と一緒にいたあの子供ですか。

 随分イメージ違いますね」

 ロイのいう言葉も無理はない。

 面影はしっかり残っていても受けるイメージがまるで違う。

 男子、三日会わざれば刮目して見よという言葉もあったし、まして成長期真っ盛りなら驚くほどでもないかもしれないが、ロイの言う通り、自信なさげに丸められていた背筋がピンっと伸び、どこかオドオドとしていた様子は消えて目はしっかりと上を向いていて、自信なさげに俯いていたあの頃の様子から想像つかない。

 たった一ヶ月ほどの間にこれほどの変化をみせるとはなかなか侮れない。

「そういえばあの時、あの御子息と何かあったのですか? 

 確か、諦めないとか、言ってらしたと」

「うん、プロポーズされた。その場で断ったけど」

 目を見開いて私を振り返った二人に出会った経緯について話をすると、二人とも頭を抱えて椅子に座り込んだ。

 そんなに悩ませるようなことをした覚えはないのだけれど。

「私がびっくりするくらいのイイ男になってもう一度申し込むって言ってたけど本気かな? あれ」

「どうみても本気でしょうが、あれはっ」

 見事に二人の声がハモる。

 でも私はしっかりお断りしたし、待たないとも言った。

 これ以上、どうお断りしろと?

「貴方はいったい何人タラシこむおつもりですか?」

「人聞きが悪い、そんなつもりは全くないよ」

 別に魔力暴走引き起こしてた子供を宥めただけじゃないか、放っておくわけにもいかないでしょう?

 泣いてる子供慰めただけで極悪人か場末のホストみたいな言い方、止めてほしい。

 心外だぞ、それはっ!

「自覚無し、ですか。この調子でそこらじゅうで信者を増やされたら手に負えませんよ」

「人をどこぞの新興宗教の教祖みたいに言わないで欲しいんだけど」

「似たようなものでしょう」

 マルビスには思いっきりため息をつかれ、ロイには肩を竦めて呆れた顔をされた。だが仮にそうだと仮定して、いったい他の誰が私にタラシこまれてるというのか。

「子供の初恋なんてそのうち忘れるよ」

「貴方が、普通の御方ならそうかもしれませんがね」

 もう普通じゃないことは自覚したがどうしてそういう結論に達するのかが解らない。

 一度会ったきりの相手の顔などそうそう覚えていられるものでもないと思うのだけれど。

「常に話題が絶えない貴方をどう忘れろと?」

 ・・・そういえばウチの領地だけじゃなくて近隣にも広まっているってダルメシア、言ってたね。

 でも意図せず、私は好きで目立ったわけじゃない。

 マルビスの言葉に反論出来ずに黙りこんだ私にロイが追い打ちをかける。

「記憶の底に沈みそうになったとして、それを上塗りして引っ張り上げるようなことをすれば忘れられなくなって当然です。更に美化されて記憶に刻み込まれること間違いなしですよ」

「美化されてるなら現実見せれば熱も醒めるんじゃ」

「だから貴方のどこを見て醒めるというんです? 

 貴方も鏡くらい見たことあるでしょう」

 そりゃあ鏡くらい毎日見てる。

「まあ父様似のそれなりの顔だとは思うけど」

「その辺の女の子より貴方の方がよっぽどお綺麗ですよ」

「いくらなんでもそれはマルビスの欲目じゃ・・・」

「ありませんっ」

 そして二人の否定の声はまたしても見事にハモった。

 二次元男子大好きだった私から見ても、この世界の顔面偏差値はかなり高いし、美男美女はゴロゴロしてるから特別ってほどでもないと思うよ?

「どうするんですか、アレ。作戦立て直す時間ありませんよ」

「一度お断りしてるということですし、まずは様子見するしかないですね」

「アレは侯爵通されたらマズイですよ、お断りできないでしょう?」

「万が一そうだとしてもこの場で返事は求められないでしょうし、保留しておいて向こうから提案を引き下げさせる方向で」

 ボソボソと作戦会議しているみたいだけど私には丸聞こえだよ、お二人さん。

 そこはかとなく黒い雰囲気漂っている気もするけどいいのかな?

 あくまでもマイペースな叔父さんは興味なさそうに大欠伸してるのが救いだろう。

 どうしたものかと頭を悩ませていると馬車の扉がノックされた。

「ハルト、ちょっと出てこれるか?」

 父様の声だ。ロイとマルビスが一瞬固まるが、すぐに体裁を整えてもとの位置に戻る。

 どちらにしろ侯爵閣下のお出ましでは出ていかないという選択肢は取れないので仕方がない。

「はい、ただいま参ります」

 ちらりと二人に視線を流してからカーテンは締めたままで馬車の扉を開けて降りた途端、レインの体当たりを受けてその反動で私の頭が扉にぶつかり、閉まった。

「ハルト、ハルトだっ」

 満面の笑顔で飛びつかれたが、シャッキリと背筋の伸びたレインは私の身長より十センチくらい高かった。これは抱きつかれるというより、抱きしめられてるという方が近いような気もする。なるほど、侯爵閣下の血をひいているのは間違いなさそうだ。

「こんにちは、レイン」

 子供というのは加減というものを知らない。

 まあ私も一応外観上今は子供ではあるのだが。

 私はぶつけた頭を擦りながら挨拶した。

「久しぶりだね。僕、すっごく会いたかったから頑張ったんだよ」

 どういう意味だ? 

 脈絡のない会話に首を傾げると後ろに立っていた侯爵閣下に説明された。

「すまないね、ハルト君。この子がどうしても君に会いたいって言って聞かなくてね。大量の課題を山積みにしてこれが終わったら連れて行ってやると言ったら物凄いスピードで片付けてしまって」

 状況は把握した。

 つまり今まで手を焼いていた息子がやる気を見せたので試しに馬の前に人参ぶら下げるがごとく(えさ)で釣ってみたら見事爆走、早々にゴールインとなったわけか。

「いえ、大丈夫です。私こそこの間は折角友達になって頂いたのに気を失ってしまっていたのでお別れの挨拶も出来ないままでしたから」

「僕、目が覚めるまで待ってたかったんだけど父上が迷惑かけるから駄目だって」

 それは間違いなくそうだろう。

 ワイバーン来襲の可能性もあったのだし極力危険は避けたいに決まっている。ウチとしても来訪中に万が一の事態にでもなったら賠償責任が発生しても困る。

「お気遣いありがとうございます。あの後、色々とありまして私も多忙でしたので御相手させて頂くことは難しかったかと思います」

 寝る間を惜しむほどの防衛戦の対処と開発事業計画の推進、更に今回の登城要請。ある意味自業自得ではあるがのんびり楽しく過ごすつもりが次から次へと押し込まれる予定に些か辟易してるくらいだ。

「聞いてるよ、大活躍どころか大勲章ものだとね」

 話は得てして誇大化するものだ。米粒ほどの事実が西瓜大になっているとか、噂に尾鰭どころか胸鰭、背鰭、腹鰭とありもしないまでついて大袈裟に伝わるのも珍しいことではない。私としては余計な敵や面倒な責任を負わせられるのは本意ではないので極力小さく見せたいのだがなかなか上手くいかないものだ。

 ここで調子にノッてもろくな事にならない。

「皆に力を貸して頂いたからこそ成し得たことでございます。

 過分な評価に困惑しております」

 とりあえずは下手に出ておくのが無難だろう。

「それは謙遜というものだ。聞き及んでいるよ君の武勇は」

 武勇ではない。頭は使ったけど今回は本当に正面から一切戦ってないし、このぶんでは否定したところで藪蛇というものだろう。ここはさっさと退散したいところだがこの様子では無理、だろうなあ。侯爵の背後では何やらロイが父様に耳打ちしていることだし、ここはもう少し時間を稼ぐべきか。

 まずは一応定番通りの逃げの口上で、

「それで今回はどのような御要件で? 申し訳ないのですがこれから・・・」

「分かっている。王都に向かうのであろう? 

 君達をこれ以上足止めするつもりはない。かと言って折角やる気を出してる息子との約束を破るわけにもいかなくてね。せめて今日の宿屋までの道程だけでもこの子の話し相手になってやってくれないかと。

 勿論、宿屋まではウチの馬車が先導して案内しよう」

 まあ、そのくらいなら。

 予定も大きく狂うこともないし、問題ないだろう。まずは考え込むフリをしてちらりと父様に視線を送ると話は終わったようで小さく頷いた。僅かに不本意そうな顔を覗かせている父様に、伯爵という地位もある意味中間管理職なのかもしれないなあと思った。上の爵位持ちには逆らえず、かと言って下位の男爵、子爵達にナメられるわけにもいかない。貴族で領地を治めている以上は仕方がない。それを面倒だと思う私はやはり父様の跡継ぎに相応しくないなと改めて思う。

「それで私はどうすれば?」

 あんまり関わりたくはないが仕方がない。侯爵閣下を敵に回すのも良い手ではない。

「伯爵と一緒で構わないので私達の馬車に同乗して欲しい」

 助かった。私一人では間違いなく墓穴を掘るだけじゃすまなくなりそうだし、フォローしてくれそうな父様の同乗はありがたい。

「畏まりました」

「無理を言ってすまないね」

 すまないって思っている顔じゃないよね、明らかに。

 上に立つ者の当然の権利として行動している。この間のワイバーン防衛の命令をしてきたアレとか登城命令の使者としてやって来たアレよりは言葉だけでも謝罪するだけ上等と思えなくもない。

 レインが萎縮していたのも道理。

 体格も勿論だが強者の迫力というか権力者としての圧力がハンパない。

 所詮他所様の家の事情、責任が持てない以上私が口を出すべきではないとはわかっているが、さて、どうしたものか。

 余計なことを喋らないようにするには聞き手に回るのが最適。

 ガッツリとレインに張り付かれたまま、私は先頭まで移動した侯爵の馬車に向かった。


 食事がまだだという話をすると閣下オススメの店まで案内され、私達四人は個室へ、母様達貴族は別室、その他は一般席へと通されたものの、さすが侯爵、太っ腹。無理を言ったのはこちらだと全員分の食事代を払ってくれた。御贔屓だけあって豪華でそれなりに美味しかった。

 当たり障りのない会話を選びつつ、馬車の中ではレインの近況報告に相槌をうちながら馬車に揺られ、宿屋についたのは夕日に街が染まる頃だった。

 少し疲れはしたものの、すっかりご機嫌のレインにほっとした。

 まがりなりにもこの世界で初めてできた友達だ。べったり私の腕に抱きついているのにやや不安を抱きつつも特に今のところは害はない。私の興味を一生懸命ひこうとしている辺りは微笑ましくて可愛いとも思う。 

「今日は旅路の邪魔をして申し訳なかったね、王都からの帰りに時間があるようなら是非ウチの屋敷の方にも寄ってくれると嬉しいのだがどうかね?」

 母様達とウチの護衛達は侯爵の許しを得て、宿屋の馬小屋に向かった。ありがたいことに侯爵は一人馬で走らせて増えた人数分宿屋の確保をしてくれてあった。勿論、会計は全て閣下だ。こういうところは流石だと思うが父様が少し席を外した途端、こういう話題を振ってくる辺りは曲者だ。道中のレインと私の会話にも時々口を突っ込んでは返答に困るような言葉をかけてきた。所詮子供と最初は侮られていたようだが、当たり障りなく適当に父様に流していた。こういう人だとわかっていれば警戒もしやすい。極力明言を避け、逆手に取られそうになればハッキリと否定する。

 父様がいなければ色良い返事も取りやすいと思ったのかもしれないけど、お生憎様である。

 逃げられないことならば覚悟も決めるが私は逃げられる面倒事ならば極力逃げたいタチである。

「ありがたいお話だとは思うのですが雑務や予定も詰まっておりますので私では御返事しかねます。どうか父様に御確認下さいませ」

 安易に乗って逃げ場を塞がれるような事態はお断りだ。

 侯爵の馬車に乗ったまま、コチラを見て手を振っているレインに軽く手を振り返す。

 ガタイは私よりやや大きめではあるけれどまだ子供であることは変わりない。仕草や表情はまだ隠すことを覚えていないのか分かりやすくてホッとする。

「そなたはソツがないな、全く子供らしくなく厄介だ」

 私の言葉はお気に召さなかったようだがここで慌ててはいけない。

「すみません、意味が解りかねますが」

「私はそなたの上げ足をとって言質をとってやろうとしていたのだよ。それをよくもまあことごとく躱してくれたものよ。返答に困るようなものは全て伯爵に話を振り、逃れていただろう?」

 その通りなのだがここでそれを認めるのは下策だ。ここはトボケておくのが吉だ。

「私はまだ若輩者でございますので物知らぬ故のことかと思うのですが」

「そういうところが、だよ。これはウチの愚息の恋路も多難だな」

 侯爵が大袈裟にため息をつく。

 レインから話は聞いているのか。それを止めたいと思っているのか、応援したいと考えているのか判断はつきかねる。この国では自由恋愛が法律では許されていても子供が出来ない同性同士の結婚は貴族間では倦厭されがちだ。第一席に迎えられることも少ないし、愛人止まりの場合も多い。誰かの一番になりたい私としてはなんとしてでも避けたい事態だ。下手な口約束などは絶対にしない。

 私が動じないのを見てとると侯爵は私に向き直り、微笑んだ。

「だが、親である私達でさえ手を焼いていたあの子を救ってくれたことは感謝している」

 まさか、お礼を言われるとは思わなかった。

 この人も人の親ということか、息子が可愛くないわけではないのだ。

 ただ、少し不器用なだけで。

「私は閣下に感謝して頂けるほどたいしたことはしておりません。ただ私はレインの中に眠る力を、レインがちゃんと扱うことが出来ると信じただけですから」

 安心して私がそう答えると侯爵は少しだけ驚いていた。

 目下の、しかも子供相手にも謝辞を述べることができるこの人ならレインのために少しは自分を変えようとしてくださるかもしれない。


「一つだけ、生意気な事を申し上げるのを許してくださいますか? 閣下」

 私は尋ねてみた。

「許す」

 即座に返答された。無礼だと聞き流されるならそれまでだけど、この人をまだ信じることはできないけれどこの人がレインのいい親であろうとしていることは信じてもいいかもしれない。だから、

「どうか、閣下も出来ないと決めつける前に自分の子供を、レインを信じてあげて下さい。不安や不満というものは伝染すると私は考えます。だからこそ大切な人に信じてもらえるだけで強くなれることもあるのではないかと私は思うのです」

 親に見捨てられるのは辛い。

 最後まで子供の味方で、守っていける親ばかりではないことも承知している。

 だけど簡単に諦めるのだけは止めてほしいと思う。

「そのような甘いことを言っているといいように利用されるぞ」

 呆れたような口ぶりの侯爵に私はにっこりと笑ってみせた。

「生憎自分のまわりにあるもの全てを無条件で受け入れるほど私は素直な性格ではありませんので自分の信じたいものしか信じません。

 それで騙されるのなら私が未熟だっただけのこと。

 ですが、私の傍には私が足りないものを補って、道を違えそうになれば叱ってくれる者がおりますので心配には及びません」

 父様だけじゃなく、ロイもマルビスも身分が上である私に注意することを躊躇わない。

 それはとてもありがたいことだと私は思っている。

「それにお人好しではないので私を利用し、謀った罪はそれ相応に代価を支払って頂くつもりです。ナメられたまま済ますつもりはございません。相手に敵にまわしたくないと思われたなら最高です」

 それはつまり自分の敵になる可能性が限りなく低くなるということだ。

 味方に迎え入れることが出来なくてもそれで充分、みんなが仲良しこよしになれるわけではない。

「余計なことを申し上げました。お赦しください。では失礼いたします」

 私は父様が戻ってきたのを確認すると侯爵に頭を下げて宿に向かおうと踵を返した。


「なるほど、レイバステインが夢中になるわけだ」

 侯爵のこの言葉を聞き逃して振り返る。

「いや、なんでもない。またな、ハルスウェルト」

 できれば御遠慮したいとは言えず、曖昧に笑うと父様に後を任せて立ち去る。

 長居は無用だ。

 最後にもう一度、馬車の中で手を振っているレインに手を上げて応えると私は今度こそ宿に向って歩き出した。



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テンポ良くて切れ味鋭い会話がどストライク!!
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