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第四十九話 老婆心というものです。


 細い階段を降りて行くとその先には確かに三つの扉が存在していた。

 そのうちの二つは開け放たれて中が見えていた。

 室内に比べると扉の上部にホコリがあまり積もっていないことから考えると多分調査員達が開けたのだろう。右の部屋には椅子がひとつ床の上に倒れていて、左の部屋には当時の生活用品と思わしき者が乱雑に積み上げられている。

 こういうのって昔の生活様式を知ることの出来る貴重な物だと思うのだけれど、どうやら近衛達と調査員の方々の興味は完全に正面奥の開かない扉に集中していた。彼等はそこにお宝があるのではと期待に満ち満ちているようだが、私からすればこの光景は益々不安材料になるだけだ。


 宝物庫の横にこんなガラクタが転がっていたりするかな?

 フリード様の嫌な予感というのはこのことか。

 普通に考えて、そういう大事な物ってもっと奥まった、ひっそりとそれだけで部屋が存在しているイメージなんだけど、これは私が前世のラノベやアニメにドップリ浸かって感化されているせいだろうか?

 でも使わなくなったと思われる生活用品が乱雑に積み上げられてる部屋があるってことは、ここが使われていた当時、それなりの数の人間がここの地下に出入りできたということだ。簡単に人が入り込めるところにそんな大事な部屋、作るかな?

 他の扉が木製なのに対して奥は明らかに頑丈な石造り。開けるのにだってこれでは重くて苦労するだろう。

 違和感ありまくりのような気がするのだけれど。

 私がそこに近付くとワラワラと扉の前にいた人垣がパックリ割れた。

 近衛は軽く会釈をしてくれたのに対して調査員達はシカト。明らかに面白くない、渋々といった顔だ。こちらを見てヒソヒソと話をしている。

 嫌われているのは先刻承知済み、どうということもない。

 その間を進んで扉の前に立つと、成程、確かに文字のようなものが扉の中央、三分の一ほどの幅で帯のように刻まれていた。それ以外のところには薄くホコリが積もっているところをみるとどうやらハケか何か丁寧に払われたようだ。一枚の岩を削り取ったものではなく、石の板かブロックを積み上げた、そんな感じだ。他の部屋の入口よりも倍の広さ、真ん中にある一本の切れ込んだような筋。私は少し屈んで扉の隙間を覗いてみようとするが、相当ピッチリ嵌め込むように作られているのか僅かな隙間もない。私はゆっくりとその扉の表面を下から撫でながら観察する。

「何故文字の書かれていない下を見ている? 

 文字を読むのにそんなところは関係ないだろう?」

「読めないのならさっさと上に戻れ」

 うるさいなあ。

 少しは観察させてくれたっていいでしょう?

 調査員達からそんな野次が飛んで来たが、私は黙殺してその石畳に触れる。

 万が一のことが起これば私達が巻き込まれる可能性もある。だから慎重になるのも当然でしょ。その時に貴方達はその災難に立ち向かってくれるとは到底思えない。多分我先にと逃げ出すか、逃げる暇もなく殺られるかのどちらかでしょうけど。

 貴方達が自分の責任でしたことで命を落とすのなら『どうぞ御勝手に』ですけど、尻拭いする役目は多分私達に回ってくることになる。

 私は灯りを頼りに観察するが扉が床に擦ったような後はない。

 となればおそらくこの扉は内側に開くタイプの観音開きか、さもなくばもともと開けるつもりなく取り付けられたか。そのあたりの判断が難しい。だが開けることが前提であるなら僅かな隙間さえ見つけられないのは不自然だ。

「連隊長、この扉は押しても開かなかったのですよね?」

「ああ。何人かで押してみたがビクリとも動かない」

 連隊長は団長ほどのパワーはないけれど、それでもかなりの力持ちであることは間違いない。更に近衛が幾人か加われば開けられる扉であるなら微動だにしないというのはあり得ない。

 となれば、すぐに思いつく原因は・・・


「おそらく、ですけど、扉が開かない理由は年数が経ったために上部の重みで天井が下がり、押さえつけている状態であるか、もしくは調査員の方々が仰るように何か仕掛けがあるのか、もともと開けること自体を考えずに作られているか。多分その三つでしょうね。

 私は最後が一番可能性が高いと思いますけど」

 

 専門家ではないからわからない。

 だけど明らかに不自然な点が幾つかある。

「一つ目の理由はわかるが、最後が有力だという理由は?」

 連隊長に尋ねられ、その問いに答える。

「この扉には本来あるべき物、肝心の引き手やドアノブに該当するものがないからですよ。これでは開閉するのには不便で仕方ありません。上下部に溝がないことを考えれば引き戸でもないのでしょう。これだけしっかり合わせて作られているならば開ける際に床に擦れ、跡が残りそうなものなのに、その跡もない。

 となればこの扉は開けることができるなら内側に開くのではないかと思われるのですよ。なのに連隊長達の力で押しても開かない。

 更に注視すべきは天井の重さに耐えかねてというのなら均一でない力が加わっているのに真ん中の境目に隙間がないというのも不自然です。切れ目があるというなら上から圧力が掛かれば」

 何かわかりやすく説明できる物はないかと見渡して、転がっていた木板を見つけ、それを近衛の人にしっかりと両横から側面を合わせて持っていてもらう。そしてその板の上部を連隊長に力を入れて掌で押してもらうと近衛騎士の持った板はその力に耐えきれず下側に割れ目が出来た。

「このように隙間が出来ると思うんです。

 そのことを踏まえて考えるなら、この扉は開けることを想定せずに作られていないのではないかと」

 押しても開かない、隙間もない、引き手もない、把手もない。

 ナイナイ尽くしだ。

「だが真ん中に筋があるのだぞ。長い年月で把手などに該当する部分が崩れ落ちてしまったかもしれないではないかっ」

「では何故文字は削れ、消えてはいないのですか?」

 調査員の一人から飛んできた反論に私は言い返す。

 如何にも怪しいことこの上ない扉。

 嫌な予感しかしないのだ。

「確かに割れ目らしき物はありますが接着されているか、嵌め込み式で組み立てられているとか。様々な要因は考えられますが、どちらにしても私はこれはこのまま開けずにおいた方が良いと思うのですが」

 これで納得してくれればいいのだけれど。


「それは其方が文字を読めなかったから誤魔化すために言っているのだろうっ」

「そうだっ、そうだっ、さもなくば我々が帰った後で再びこの地に戻り、宝を独り占めする気だろうっ」


 やはり無理ですか。デスヨネ?

 判ってましたケド。

 根拠のない言い掛かりを付けられるのはゴメンです。

 私はジロリとソイツらを睨み据える。

「戯言を言うのも大概にして頂けませんかね?」

 一段落とした低い声。

 それに恐れをなしたのかビクリと彼等の肩が揺れた。

 貴方達は馬鹿ですか?

 怖いなら魔王様(わたし)の機嫌を損ねないで下さいよ。

 全く面倒臭い。


「私はこの中に億万の金銀財宝が眠っていたとしても一切興味はありません。

 そんな泡銭など手にしなくても私には充分過ぎる財があります。既に一生贅沢をして遊んで暮らせるだけの資産があるのにわざわざ大罪に手を染め、隠匿し、牢獄にブチ込まれる、そんな全て台無しにする所業をするわけがないでしょう。

 私はそこまで考え無しではありません」


 そうキッパリと言い放つと私はひとつ溜め息を吐いて続ける。

「結論から言えばこのままでは文字は読めませんよ」

「やはりな。偉そうなことを言ったところで所詮似非天才児なのだろう」

 その鬼の首を取ったかのような態度、やめて頂けませんかね?

 凄く癪に障るのですが。

 まあいい。

「私が似非なのは相違ないとは思いますけどね。人の話はちゃんと最後まで聞くべきです。どんなに私が気に食わなかったとしても」

 私はこのままではと言ったのだ。

「どういう意味だい?」

 連隊長が首を傾げて聞いてきた。

「これは古代文字ですよ。おそらく、ですが」

 私には言語読解能力がある。

 なのに読めない。

 それは人が彫った文字であるならあり得ない。

 つまりこれを読むのには手を加える必要があるのだ。そう結論付けてよくよく観察すればどこかで見たような、見たことのない文字。

 それに気付けば後は簡単だ。

「古代語なら私達もよく知っている。だがそれでも読めないから気に食わないがお前を呼んだのだぞっ」

 早速懲りずに突っかかってくる輩をドスの利いた(?)声で制する。

「だから人の話はちゃんと聞けと言っているのがわからないのですか?」

 一歩後ろに退いた調査員達を無視して慎重に扉に触れる。

 推測が正しければどこかにあるはずなのだ。

 私の探しているものが。

 ゆっくりとその石板の境目に指を滑らせていく。

 ・・・見つけた。

 それは文字の書かれた一番下の段、中央付近にあった。


「連隊長、ガンドレッドを外して、この石の隙間に指を入れ、ゆっくりと前に引き出してみてもらえますか?」

 私は振り返り、連隊長にそうお願いする。

「その石板を引き出せばいいのか?」

「はい。ゆっくりと。多分抜けるのではないかと思われます」

 僅かな指が引っ掛かる程度の隙間。

 引き出すにはそれなりに指の力がいるハズだ。

 連隊長はガンドレッドを外すとそこに指を掛け、静かに前に引き出した。

 その石板はズズズズズッと音を立てながら最後にコツッと小さな音を立てて扉から抜けた。


「外れた」

 驚いたように連隊長が一言溢す。

 やはり、だ。

 コレはラノベやアニメにあるものに似ている。

 迷宮前の石板の謎解きや仕掛け。扉や入口を開くための前振りと似たようなものだろう。どういう意図を持って、こんな面倒臭いことをしたのかはわからないけれど。冒険物物語でよくありがちな設定だが、現実として前に現れると胡散臭いことこの上ない。

 石板の外れたその場所を屈んで観察するとやはり簡単に外れて落ちないように板と板の間に凸凹があり、しっかりと組み込まれている。それを確認すると私はゆっくりと立ち上がった。


「多分、ですけど。文字を読むためにはこの石板を並べ換える必要があるのではないかと思われます。

 石のブロックの上下に文字が彫られているでしょう? 

 変だなとは思ったんです。普通文字を刻むなら石板の中央に刻むでしょう?

 文字の上のパーツと下のパーツが別の分かれているんですよ。正しく並べ換えることが出来れば、おそらくみなさんのよく知る文字になるのではないかと思われます」

 

 扉の文字をジッと眺めると多分間違いないと確認すると、ふと二つの石板が目に止まる。

 しかし、それは敢えて伝えずに彼等に向き直った。

「もう、よろしいですか? 

 それともそのパズルが解くのにも私の力は必要で?」

「いらんっ」

 でしょうね。

 人の意見をハナから聞く気が無い人間に伝える意味は無い。

 では御役目は果たしたということで、サッサと退散だ。

「では私は失礼します。連隊長、フリード様、私をイシュカのところまで送って頂けますか? 心配していると思うので」

「わかった」

 実にその数五十六枚、そんなに簡単には解けないだろう。

 組み合わせは何百通りとある。

 私が階段に向かって歩き始めると連隊長が前に、フリード様が後ろに付いて下さった。そうして階段を上がっていくとすっかり陽は暮れていて、地上にひょっこりと顔を出した私にイシュカが駆け寄ってくる。

 私の身体に傷ひとつないことを確認してイシュカがホッと息を吐く。

「すまなかったね、手間をかけさせて」

 そう一言声をかけて、そのまま背中を向けた二人を私は引き留めた。

「連隊長、フリード様」

 強欲に取り憑かれた人達の末路。

 それは物語では大抵決まっている定番のものだけど、この二人はそうじゃない。

 だから出来れば巻き込まれて欲しくない。


「あの扉は本当に開けない方が良いと思いますよ?」

 私がそう忠告すると二人は驚いたように目を見開いた。

「もしかして既にあの文字の内容がわかっているのかっ」

 詰め寄ってきた二人に私は首を横に振る。

「まさか。解ったのは一部、最後の一文だけです」

 他の石板と違い、明らかに掘られた文字が短かった二枚。

 文字が上下で切れているとするならその二枚は長さが揃う。つまり文面の最後の文字ではないかと思うのだ。

 どうせあのパズルはすぐには解けない。

 少し話が長くなるので、それでもよろしければ食事でも召し上がりながらお聞き下さいと言うと二人は顔を見合わせて頷き、焚き火の近くに揃って腰を降ろす。ケイがフリード様と連隊長の分の食事を、ライオネルが二人分のお茶を入れて来てくれて、五人で火を囲む。

 それは前回、ここから戻った後の話。

 サキアス叔父さんと歓談していた時に出た話だ。


「サキアス叔父さんの話によると古代語の解釈というのは完全にまだ解明されているわけでもなくて数通りもの定説があるそうなんですが、その中に幾つかの相反する二つの意味を持つものがあるそうです。

 あくまでも仮説ではありますが。

 それは時代の流れによって変化したものか、その当時の教訓として伝えられたものかは判断できないそうですが、その中の一つに『幸福』と『災い』の二つの意味を持つ言葉があります。一般的には『幸福』や『安らぎ』、『平和』と訳されるそうですが。

 叔父さんの説によれば大いなる災いを忘れた時にこそ、平和は乱される。災いの中でこそ日々の平凡な生活の幸福を素晴らしさを感じることが出来るという言葉が過去、どこかの神殿で見つかったものにあったそうで、そこから多くのものを望み過ぎると災いをもたらすという戒め、その信仰の教訓として伝承されていたのではないかと。

 あの最後の一文と思われる中にその『幸福』という文字がありました」


 研究者やっているくらいだ、頭は良いハズだ。

 本来はあの調査員達もすぐにその一文には気づくだろう。


「『必ずや幸福が訪れん。それを信じ、この扉を開けよ』と。

 確かに幸福という意味と捉えれば財宝が眠っている可能性も捨てきれません」

 今頃あの地下で、目の色を変え、寸暇を惜しみ、寝る間も惜しんでその文の解明にあたっていることだろう。

「ですがあの石を正確に並べ換えたとしても扉を開けるべきノブも引き手もないのです。それを考えればあの扉を作った者は開けさせたくないと思っていたのではないかと私は判断したわけです。中央部に切れ目があるのは開くためでなく、地下へと続くあの細い階段に大きな扉を運び込むのが難しかったからとも考えられます。

 それを踏まえた上で、もし叔父さんの説が正しいとするならここは神殿です。

 つまり、その一文はこうも訳せるのです。

 『必ずや災いが訪れん。その覚悟を持ってこの扉を開けよ』と」


 私の最後の言葉に、連隊長とフリード様が持っていた食器を思わず落としそうになり、慌ててそれを押さえた。

 勿論確証はない。

 叔父さんの説が合っているとも限らない。

 だが一つの言葉の意味が違うだけで、全く反対の意味になるその言葉。

 イシュカとライオネルの顔も険しくなった。

 私は自分の考えを伝えた上で進言する。

「もしもどうしてもあの方達が開けるというのなら、先に先住民族の方々を移動させた方が良いと思いますよ。既に何百年と経っていることを考慮するならば脅威は既に脅威でなくなっているかもしれません。ですが、万が一のことを考えるなら極力非戦闘員は先に避難させておくべきかと。

 あの方達が私の忠告に耳を傾けて頂けるかどうか疑問ですけどね」

 一般的な現代に近いもので翻訳するなら『幸福』。

 つまりお宝を連想させる一文なのだ。

 私がそれを伝えたところで更に反発し、尚更あの扉を開けようとするだろう。

 どちらの意味にも取れる。

 だがごく一般的な解釈と一般的ではない解釈。どちらが優先され、実行に移されるかなんて考えるまでもない。多数決でも取れば圧倒的多数獲得の上で扉は開けられるか破壊されるだろう。

 となれば、私ができることといえば、その万が一に備えるだけ。

「その脅威がどの程度か判断出来ない以上、私としては許可頂ければ相応の実力者以外は別荘に戻したいのですが。

 正直、あんまり関わりたくもないというのが本音です」

 私が持つ悪運と強運。

 今回どちらに傾くかなんてコトが起こってみなきゃ解らない。

 だが最悪の事態だけは避けなければならない。

 頼まれたのは案内役と監視、見張りだけだったハズなのに。

 陛下、後でたっぷりと嫌味を言わせてもらいますからね?


「判った。先住民についてはこちらでなんとか誘導してみるよ。

 警護を戻すのも許可しよう。理由は、そうだな。滞在期間が延長になりそうだから食料品を取りに行かせたとでも言っておく。用意周到な君のことだ、既に数日間の予備の食料は手配済みなんだろう?」

 連隊長の言葉に小さく笑って私は頷く。

 ライオネルとガジェットには明日朝イチで国境上に準備してもらっている米などの食料品を送ってもらうようにしておこう。

 

「助かったよ、ハルトが居てくれて」

 食事が終え、フリード様が立ち上がりながらそう言った。

「あくまでも仮説です。保証致しかねますよ?」

「それでもだ。危険が無いと思って行動するよりも、あるかもしれないと注意した上での方が用心もする。仮にそこに危険があったとして、無防備を晒し、構えていないよりはマシだろう?」

 そりゃそうだけど。

 危ないかもしれないと考えれば扉を開ける時でも正面に立たない。

 破壊するにしても距離を取る。

 最初の一撃だけでも躱せれば、一瞬だけかもしれないが猶予もできるだろう。

「対策は何かあるか?」

 連隊長が真剣な顔で聞いてきたが、私はそれに苦笑して首を横に振る。

「今のところは何も。

 私の取る手段の多くは状況を把握した上で罠を張り、待ち構えるものですから。中にあるのが何か解らなければ対応も難しいです。これから考えてみますけど、あまり期待はしないで下さい」

 おそらく出たとこ勝負になる。

 咄嗟にどれだけの手が打てるかどうかは分からないけど。

「ですが、ここが神殿跡で考えるなら・・・」

 暫し考え込んだ私にそこにいる四人の視線が集中する。

「考えるなら?」

 ゴクリと息を呑み、連隊長が尋ねてきた。

 ここは神殿跡。魔物の類を封印するのであれば確率的に考えて、

「多分魔物がいるとするなら闇属性である可能性が高いのではないかと」

 それもある程度強力な。

 闇属性に効果的なのは聖属性、神殿にいる多くの者は聖属性持ちというのが昔から変わっていないのであれば、それを封じ込めるにも、監視するのにも最適な場所だ。


「とにかく暴走しそうな方々には開けるなら絶対に昼間のほうが良いということだけでも釘を刺しておいてください。

 もし私の推測があたっているとするなら夜間に無断で開けられるのだけは絶対阻止して下さい。魔物や魔獣は夜に力を増します。それを考えるなら明け方、陽が昇ってから開けた方が良いと思いますよ? 何事もなければ単なる杞憂で済む話なのですから。

 ではお言葉に甘えて私達はもしもに備えて人員を入れ替えさせてもらいます」


 今回はたいして危険がないだろうと思っていたから野営特化で編成している。勿論彼等も充分強いけど、中には実戦慣れしていないメンバーもいる。経験豊富なメンバーと交代させて、彼等にはバックアップとして国境上に待機してもらおう。

「君は避難しなくていいのか?」

 そうフリード様に尋ねられて私は隣のイシュカを見上げる。

 すると仕方ありませんねばかりに肩を竦められた。

 そうだね、巻き込まれてしまったからには仕方がない。


「正直に言えば早急に退散したいところですが、まだ集落に案内する仕事も残っていますし。それにここは私の領地に程近い場所。もし実体の無いものであれば国境の壁を容易に抜けられないとも限りません。そうなれば私の領民に、被害が拡大すれば私の大事な者達に危害が及ぶかもしれない。

 それを考えるなら逃げられるハズもないでしょう?」


 どうしようもない。

 私のトラブルメーカーぶりは相も変わらず健在ということだ。

 とにかく、今の時点で出来る対策といえば。

 私は斜め前に立っているフリード様を見上げる。


「とりあえず、ここにいる中で闇属性に対抗できる聖属性持ちはフリード様と私だけです。フリード様には極力魔力を温存してもらって下さい」


 私のお願いに連隊長が頷く。

「わかった。そうしよう」

 とにかく二人にはあの調査員達を見張っていてもらわねば。

 最低でも夜間に開けられるのだけは阻止してもらいたい。


「まあ要らぬ心配、老婆心、考え過ぎの可能性もありますしね。

 あそこに眠っているのが単なるお宝であることを願いましょう」


 不安を抱えつつも、私は体力温存のためにまずは早めに休むことにした。

 いざという時、素早く動けないのは愚の骨頂。

 あのパズルは一晩で解けないはず。

 おそらく二、三日の猶予はあるはずだ。


 そう考えて一旦思考を無理矢理放棄し、私は深い眠りについた。



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