第三十五話 感謝の気持ちを決して忘れてはなりません。
とりあえず一旦私の前世の告白大会は終わったところで今後についての話し合い。
みんなが考え込む中で一番最初に口を開いたのはやはりマルビスだ。
「ですが、そうですね。確かにこの件は周囲には伏せるべきでしょうね」
まあそうなりますよね?
みんながみんな、私の側近、婚約者達のように柔軟な考え方をするとは限らない。
それにはガイも同意のようで、
「ウチは普通じゃないヤツが多いとはいえ意味が違う。御主人様の言うように異質なのは間違いないからな」
「特に宗教関係者にはマズイでしょう」
それに頷いて最たる危険性を指摘したのはロイだ。
無神論者の私はよくわからないけれど、確か、シルベスタには二大宗教派閥があったはず。興味がないのでその教義までは詳しく知らないけど、テスラが難しい顔で唸る。
「下手をすれば異端審問会に掛けられるか、さもなくば祀り上げられるか」
考えたくはないけれど、その二択になるのか、やっぱり。
危険な思想や技術を持っているとみなされれば捕縛対象になりかねない。要するに魔女裁判みたいなものだ。既にハルウェルト商会はハルスウェルト教団とその信者とも言われているけれど、あれは喩えであって冗談みたいなものだ。前世の、しかも異世界の記憶があるなんて人間がゴロゴロしてたら問題だろうし、そんなところなのかな。
実際、私も記憶があっても、あえて作ろうとしなかった危険な物もある。
国奪りなんて興味はない。
権力なんてものも本当は要らなかった。
だから当然富国強兵なんてのも考えもしなかった。
だけどもしも、私がそういう自己顕示欲の強い、支配者階級に憧れるような人間だったなら多分もっと違う今があっただろう。
未知の知識と技術というのは、それを知らない人間にとって脅威だ。一つ不都合なモノが見つかれば他にもあるのではと疑念も強くなる。利用する側ならこれ以上ない力でも、敵方に回れば大いなる畏怖の対象ともなり得るのだから。ならば排斥、排除しようという考えが出てきても不思議じゃない。
「あの腹黒陛下にはどうする? 言うのか?」
ガイの口から出てきた人物に全員が一瞬で押し黙った。
シルベスタの最高権力者、国王陛下。
色々と便宜を計ってくれているとはいえ、過ぎたるは及ばざるが如し。それが必要でないと判断すれば切り捨てることも躊躇わないだろう。国王というのは時には非情になる必要もある。情に流されていては下に示しもつかない。
それを考えるなら、
「黙っていた方が無難、でしょうね。利用価値が高いと判断されるか、危険視されるか微妙なところですしね」
と、そうロイが言った。
「仮に陛下が良しとしても、その周囲の方々の全てが黙認するのは難しいでしょう」
技術によっては個人レベルを遥かに超える、国を動かすものだ。
それを考えて私は今あるものでの創意工夫、もしくは極力娯楽に留めてきたわけだけど。
ガイは難しい顔で頷いた。
「だろうな。陛下の周りにいるヤツらは人一人を消すことが簡単な、しかもそれを揉み消す強大な力を持っているヤツも多い。一人、二人ならまだしも複数が敵に回ると面倒なことこの上ないからな」
「宗教関係者や熱心な信者に騒がれても厄介でしょうしね」
イシュカの指摘に他の面々も黙った。
要するに、上層部にはそういう人間が少なからず存在しているのだろう。
宗教とその信者というのはある意味厄介極まりない。
大僧正なり、大神官なりが教義と経典に基づいて異端と判断すれば、正義の名のもとに弾圧、制圧、戦争を起こしかねない。大人数になると生き物というものは気が大きくなる傾向がある。所謂集団心理というヤツだ。
それにこの世界でもたくさんの宗教が存在していて、中にはひとつの宗教の教えが国教となって国を治めるもとになっていたり、儀式を国民行事としている国もある。多くの人間が私と同じく無神論者ならば問題もなかろうが、実際には私が少数派。多勢に無勢では思想に押し切られるだろう。
信じる者は救われるというけれど、幸運なんてものは神を信じてるだけでは転がってなどこないし、災難が襲い掛かれば神の与え賜うた試練だとか、逆に何か良いことがあれば日頃の信心深さに神が褒美を与えたとか、都合良く神という存在を利用しているようにしか思えなかったし、どうして自分が頑張った成果だと信じないのかと私は不思議に思う。
神が実際にいるとするならば世界は何故不平等なのか。
前世でも宗教にドップリ浸かっている同僚がいたけれど、その人が耐えられると思ったから神が試練を与えているのだとよく宣っていたが、ならば耐えられなければ神は試練を与えられないのかと言い返そうかと何度思ったことか。だとするなら私は図太くなんかなりたくなかったし、狡賢く、楽に生きている人間にはどうして天罰が降らないのかと疑問に思った。おそらく私のそういうところが周囲の人間は可愛くなかったのだろうなとは思えども釈然としなかった。
だが救いを求めて縋り付く存在があるというのは生きる支えにもなることもあるのだろう。私にはそれが理解できないだけで否定する気はない。過去には宗教戦争と思わしき戦が多々あるのも事実だ。それを考えるならバレれば私が戦争の引き金を引くことになりかねない。
そんなのはゴメン被るし、そんなことになるくらいならどこぞの山奥、僻地にでも逃げのびて自給自足の貧乏隠居生活でも送った方がマシだ。
「ライオネルとレインはどうする?」
テスラの口から出た名前にみんなが難しい顔をする。
少しの間をおいて、マルビスが口を開く。
「様子見、の方が良いでしょうね。
ハルト様は既に住まいどころか領地も別で親元から独立してますし、旦那様とは別で考えても良いでしょう。我々には宗教関係者もいません。縁戚、親子関係も殆ど切れてますから問題ないですけど、親族が関わってくるとなれば微妙なところですからね。
当人は良くても家族は巻き込めないという場合もあるでしょう」
家族を巻き込んでの問題か。
万が一にも、そんなことになった場合にはみんなを道連れにするくらいなら、とびっきりの悪役演じて、全ての罪状背負って魔女ならぬ魔王としてお縄になればいい。
火炙りでも、断頭台でも潔く登ってやろう。
最期の最期まで高笑いして、蘇り宣言でもかまして。
稀代の大悪党、大魔王として。
犠牲になるのは私一人でいい。
そう考えてギュッと唇を噛み締めると横にいたロイがそっと手を握ってきた。
驚いて見上げると優しい顔で微笑まれる。
そうか。
そうだった。
ロイは地獄の底でも一緒についてきてくれるって言っていた。
そういう約束だ。
ならば私は一人になることはない。
それで充分だ。
私はホッと息を吐いて前を見る。
すると何か考え込んでいたキールが徐に口を開く。
「マルビス。俺に商業契約書、作ってくれないかな」
どういう意味だと首を傾げるマルビスに続けてキールが言う。
「俺はハルト様の作る商品に関わること多いし、ウッカリ秘密を漏らすようなミスをしないとも限らない。商業契約書を交わせば口に出せないんだろ?」
自分のためではなく、それは私のため。
そのキールの心遣いに涙が溢れそうになる。
言う言わないではなく、つい悪気無く口から漏れる。
その危険を減らしたいのだとキールが訴える。
「成程。キールの言うことにも一理ありますね」
それを聞いてマルビスが頷いた。
するとイシュカも一歩、歩み出る。
「では私もお願いします。私も今までも何度かハルト様を馬鹿にされると、ついムキになって余計なことを喋ってしまうことが何度かあったので。
それで御迷惑をお掛けするのは本意ではありません」
「他に必要な方は? 一緒に用意しますよ?」
イシュカの申し出にマルビスが問いかけると、マルビスを含めた全員が手を挙げた。
商業契約書は良いことばかりではない。
当然リスクもある。
言動に制限をかけられるということなのだから。
そんなのはみんな知っているはずで。
「そういうわけです。
それで、貴方の杞憂はまだありますか?」
私は大きく首を横に振った。
みんなの心遣いが心に沁みた。
「では心配ありませんね。
それではまずはリステル達の対応をどうするか考えましょう。どちらにしてもフリード様の報告が陛下のもとに届けば、なんらかの指示は出るかもしれませんが国の調査団が入るのは春先以降になるでしょうし。
幸いにも時間はありますから」
確かにそうなるだろうなとは思う。
雪に閉ざされるベラスミの冬山は調査に向かない。
急ぐ必要がない限りは雪解けを待って、万全準備を整えて向かう方向で予定は組まれるだろう。調査するとなれば学者や研究者も何名かやって来るに違いない。そうなれば道の悪い洞窟を進むのは体力のない彼等には厳しい。調査隊を組んで、物資を整えて、と思ったところで物資その他必要な資材等々は多分ハルウェルト商会に丸投げして来るだろうなと考え直す。
まあそのへんは売り上げになるのでどうでも良いとして。どちらにしろ雪が積もっている間は来ても再び派遣しなければならない結果になるだろうし。
私がそんなことをつらつらと考えているとイシュカが憮然とした表情で呟いた。
「あんな奴ら、放っておけばいいんですよ」
イシュカらしからぬ、吐き捨てるように言われたその言葉にマルビスが眉を寄せる。
「何かあったんですか?」
その問いにサキアス叔父さんが肩を竦めて答える。
「その集落の長らしき男がハルトに向かって石を投げたのだよ」
信じられないと言った顔でロイが聞き返す。
「ハルト様はその集落をグリズリーから救った、のですよね?」
「ああ、そうだ。早い話が八つ当たりだな。
二人が死んで、一人は虫の息だったのだが、何故もっと早く助けに来なかったのだと」
あれは本当に単なる言い掛かりだったけど。
話の辻褄合わせにサキアス叔父さんには話しておいたのだ。
グリズリー相手に立ち向かえとまでは言わないけど、逃げ隠れて余所者に丸投げしたのなら文句は言うべきじゃない。
「すぐに駆けつけたという話でしたよね?」
「だから八つ当たりだと言ったのだ」
確認するように尋ねたマルビスにサキアス叔父さんが断言した。
言い掛かりとも言うけど。
結局積もり積もったベラスミ帝国への怒りが関係のない私達に向けられていたわけなのだが。だからといってわざわざ駆けつけた私達にあの態度はどうかと思うのだ。
感謝しろとは言わないが、あの態度は如何なものか。
ベラスミ帝国民と勘違いしていたとしてもオカシイことこの上ない。小さな集落で猿山の大将気取って大口叩いても、所詮井の中の蛙。偉そうに踏ん反る暇があったらリステル達のようにちったあ手伝えと怒鳴ろうかとも思ったが、ああいう輩は手伝わせたら手伝わせたで手間賃か報酬を寄越せとか言い出しそうだから放っておいた。
その時の状況を叔父さんが伝えるとマルビスとロイ、テスラの眉が吊り上がった。
「それは巫山戯た話ですね、赦せません」
「わかりました。保護要請が来てもウチではお断りしましょう」
「当然です。そんな恩知らずを受け入れても後々問題が起きるだけです」
「まあ仮に受け入れたとしてもウチじゃ馴染めねえって。ここじゃ御主人様の悪口を言おうもんなら村八分だろ」
「アレキサンドリア領はハルスウェルト教信者の聖地だからな。
いっそ本当に新興宗教でも興してハルト様をその教祖に据えれば万が一秘密がバレても問題なくなるんじゃないか?」
「成程な。それも面白い案だ」
・・・・・。
ロイ、マルビス、イシュカはまだしも、ガイ、特に最後の二人のテスラとサキアス叔父さん。二人の論点、若干ズレてません?
ウチの領地はいつの間にそんなものになったのだ?
かなりの疑問があるものの、いつもの悪ノリ、冗談だとこの場はとりあえず聞き流す。今はそんなところにツッコミをいれてる場合ではない。
まずはリステル達の名誉を守っておかないと。
「でも、リステル達は一生懸命自分の仕事して、私との約束を守ってくれたよ?」
「どういうことですか?」
ロイに聞かれてその経緯と経緯を話す。
ポチも背中の上で話したこと、私がグリズリーを押さえている間のリステルの取った行動、一生懸命サキアス叔父さんを守ろうと努力してたこと、だからこそ他のヤツらは見捨ててもリステル達は見捨てられなかったのだと。
説明が下手な私の話で全部が伝わったかどうかは定かじゃないが黙って聞いていたマルビスが苦虫を噛み潰したような顔をした。
「なかなか腐った話ですね。親を亡くした子供をまるで集落の奴隷のように扱っていたと。まあ、無くは無い話ですけどね。そういった子供が親戚に引き取られた先で奴隷や娼婦同然の扱いを受けるというのはありがちな話ですから」
ああ、そうか。
そういうことだ。
血が繋がっているからといって優しくされるわけではない。
ひとり分の食い扶持が増えるということは余計な出費が増えるということだ。生活にゆとりがなければ、いや、あったとしても、自分と自分の家族以外のためにお金を使いたく無いという輩はいる。
前世の自分だってそうだったではないか。
私を家政婦か都合の良い財布かATMみたいに金を無心していた両親や都合が悪くなると責任を私に押し付けて上手く逃げていた弟妹。
血の繋がりが濃くたって私はそんな扱いだった。
上を見ても下を見てもキリがない、そんな言葉を言い聞かされて。今ならあの言葉もあの人達の言い分を正当化するためのセリフだったのかもしれないと思う。
実際、この世界のそんな人達から見ればまだまだ前世の私は恵まれていた方だと言えなくはないけれど、だからって、それで良かったなんて思えない。
私はこの世界に来て、大事にされる幸せを知った。
家族と友達、親しい人ならまだしも、良く知りもしない無駄飯食らいのロクでもない穀潰しを面倒みろと言われても、いくら資産にゆとりがあったって御免被る。
だが、一生懸命働いていたリステル達を虐げていい理由にはならない。
労働には正当なる対価を。
功績にはそれに見合う報酬を。
それが私のモットーだ。
理不尽な扱いはイジメと一緒、許せない。
真面目に働く者であるならばちゃんと評価されるべきだ。
「ウチではしっかり働いてもらえるなら親がいようがいなかろうが関係ありませんしね。そういう扱いをされていたというのなら尚更辛抱強く、打たれ強いでしょうから言葉の壁さえなんとかなれば特に問題はないと思いますよ」
私の説明を聞いていたマルビスが頷いてそう言った。
だが問題は言葉の壁。
ウチはいろんなところから人が集まって来てるから時々同じシルベスタ王国の者同士でも微妙に会話がズレていたり通じていないこともある。所謂方言とか訛りというものだが大抵暫くするとそれも王都で使われている標準語に矯正されてくる。
ハルウェルト商会は客商売。
習うより慣れろという言葉もある。
生活しているうちに圧倒的多数の標準語に染まってくるのだ。
だがリステル達の使っているのは全く別の言語。
それ以前の問題なのだ。
「とりあえずは屋敷に連れて帰るしかないでしょう。私も多少会話ができるとはいえカタコトでしかありませんし。最低限の会話が成立すれば後は徐々に覚えていくでしょう。接客でなければそれで充分だと思いますしね」
普通ならそれでも良い。
だが問題はそこじゃない。
「仕事はそれで良いとしても今回の件はどうする? マルビスに教わったから話せたというには無理があるだろう?」
「ですよね。問題はそこなのですよね」
サキアス叔父さんの指摘にマルビスが唸る。
私が教わったというにはマルビスの現在の語彙力では無理がある。
仮に今からそれを習ってもらったとして多国語を操るマルビスならわけなく覚えられるかもしれないけれど、商業班の面々はマルビスの語学力をよく知っている。どの国の言葉がどの程度喋れるのか。それがいきなりベラベラと喋り出したら怪しいことこの上ない。辻褄合わせには向かないだろう。
「その地方の言語の書物は出回っていないんですか?
それらが何冊かあればまだ言い訳が立つのでは?」
私がユニシス文字を扱えたのは、それに関する書物を読んだせいだと当初思われていた。私がそれを否定しなかったからなのだが、それをイシュカは思い出したのだろう。
「それは無理があるでしょう。ユニシス文字ほど有名ではないのですから」
だがロイがそれを否定するとテスラが尋ねる。
「マルビスはどうやってその言葉を覚えた?」
「その時は通訳がいましたから。面白い工芸品がありましてね。ひと月ほど滞在したことがあるんですよ。言葉を覚えたのはその時です」
「その男とのツテはまだあるのか?」
ガイの問いにマルビスは答える。
「商業ギルドからの紹介でしたから連絡を取ろうと思えば取れないこともないですけど」
「ならばとりあえず商業ギルドでそっちの言葉を使える者を家庭教師として手配しよう。私もその言葉を覚える。そうすれば私が喋れるようになれば私から覚えたで通せるだろう」
そう提案したサキアス叔父さんにマルビスが首を振る。
「それではギルドの記録で辿れますよ。それにサキアスではヘンリーに気付かれます。貴方達は仕事の関係で行動を共にすることが多いですから。その時間がいきなり減ればどう言い訳します? 勿論辻褄を合わせるためにカタコト程度は覚えてもらう必要はあるでしょうけど」
「だったら俺がハルト様に習うよ」
そう言い出したのはキールだ。
「簡単な日常会話が出来れば充分なんだろ?
俺なら王都の下町育ちだ。あそこにはいろんなヤツがいる。そういう言葉を使えるヤツがいたって不思議じゃない。探ったところでいろんな人間が流れ着いたり、死んだり、出て行ったりで入れ替わりも激しいから何年も前のことなんか調査しても辿れないだろう?」
キールが王都の貧しい下町育ちなのは結構有名な話だ。
庶民の間では才能一つで今の地位まで昇りつめた伝説的な、前世でいうところの『アメリカンドリーム』的な感じで語られているからだ。
「俺が喋れれば俺から習ったんだろうって大抵のヤツは誤解するんじゃないか? わざわざ俺が教えたのかって突っ込んでくるヤツもいないだろ。そうすればサキアスが多少知っていたとしても不自然じゃない」
キールの提案にマルビスは頷く。
「成程。それは案外良い手かもしれませんね」
確かにそれなら多少強引かもしれないが辻褄は合わなくもない。
そうすればサキアス叔父さんがあの場で話せた理由にも説明がつく。
キールは私に向き直り、微笑んだ。
「ハルト様。俺、頑張って覚えます。教えて頂けますか?」
それはありがたい、ありがたいけれど。
「いいの? キールだって忙しいでしょう」
キールは多忙だ。
ウチの売り出し商品や特注商品のデザインも担当している。
「いいんです。今は俺の仕事も落ち着いてますし、急ぎの仕事もすぐに片付けます。そしたら暫くはアイディアに煮詰まっているとでも言ってその間に覚えます。
俺がお役に立てるならこんな嬉しいことはありません」
と、そうキールは嬉しそうに言った。
こんな時、本当に私は恵まれていると思うのだ。
ピンチも危険も一緒に乗り越えてくれる仲間が私には大勢いる。
「ではキールのその間の仕事の調整は私がなんとかしましょう」
マルビスがそれを請け負うとキールが付け加えるように言った。
「あとリステルって子達にも一応家庭教師つけてくれよ。俺が同席しやすい理由をつけるか、壁の薄いところで授業してもらえれば仕事してるフリで聞いてるようにするから。そしたらハルト様が忙しい時でも勉強できるし、覚えるのも早いだろ」
「わかりました。そうしましょう」
キールの申し出により話はなんとか纏まった。
私はこの世界に生まれて、
この人達に出会って、
本当に奇跡だったのだと、
滲む視界で感謝し、頭を下げた。
ありがとうございます、と。
私はこの気持ちを絶対に忘れてはならないと、この日、私の魂に刻んだ。




