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第二十九話 戦闘準備開始です。


 私の計画というものは崩れるのが常。

 それはいつものことだ。

 だが私とまるで関係のない人までいつも巻き込まないでほしいと思うのだ。

 じゃあ関係のあるイシュカ達なら良いのかと言われても困るけど。


「如何致しますかっ、ハルト様っ」

「どうするっ、御主人様っ」


 これはハッキリ言って判断に迷う。

 私が計画立てた途端にコレだもの、やっぱり私は祟られているのだろうか?

 他国介入は外交問題。

 だが相手がベラスミとなれば話は別。

 だって今まで散々迷惑を掛けられてきたのだ。

 これはアイツらが預かり知らぬところ。まあ後日バレたとしても、いつの話だと知らぬ存ぜぬで通せば良いこと。塀の向こうで何を喚き騒ごうがシカトすれば済む話。アイツらが今までやってきたことに比べれば些細なことだ。

 それにアイツらが居住している場所から遠く離れたこんなところまで、わざわざ出張って来るほど向こうも暇でないでしょう? 

 一般庶民の方々は既に私の領民。非戦闘員の女子供を含めても千人以下、叛乱軍に加わったもと貴族と商人とプライドを捨てられず、シルベスタ王国の平民になることを良しとしなかったその家族。向こうがどんな管理、国家体制を敷いているのか知ったことでもないが戦力になりそうな者は三百にも満たないし、その半数以上は衛兵レベル。鍬を握ったことのない輩がどうやって食料調達しているかもこちらが関与することではない。まあ飢えたくなければなんらかの対策は取っているでしょう。

 知らないけど。

 命令して使える人員がいないとなれば遠征するだけの戦力も確保困難で、その物資を調達するのにも一苦労でしょうから。ここに労力あるのがわかったとしても捕縛しになんて来れませんよね? 

 ここにいる自国の民を守る気概も意志もないでしょう?

 ならばここは人助け、人命救助。人道支援というものだ。

 それにきっと貴方達は国境動かされ、国土削られていたって気が付かないでしょう?

 まあこれ以上は管理するのも面倒だからいらないのでそんなことしないけど。

 おそらく現在ベラスミの残された戦力じゃ魔力量三千クラスの大型魔獣が一頭現れただけでも戦えば全滅レベル。逃げ隠れるのが関の山、既に生存しているかどうかも怪しいが私の関与するところではない。

 アイツらも私達に救助要請するほど厚顔無恥でもないハズ。

 いや身の程知らずだからこそ三年前の事件を起こしたとも言えるのか?

 どちらにしろ国交断絶しているのだから私に関係ない。

 となれば・・・


『・・・助けて。お願いしますっ、みんなを助けて下さいっ』


 ならば当然優先すべきはこちらの人命救助。

 震える声で、震える手でしがみつき、助けを乞う。

 その一言を口に出すのにどれだけ勇気がいっただろう。

 応えられる期待なら応えてみせましょう。

 こうして救助要請も頂いたことですし、では早速大手を振って参りましょうか。


『リステル、私達を村まで案内出来る?』

 私が少し腰を屈めて尋ねると彼は大きく頷いた。

 ならば迷う必要もない。

 図らずも交流を持てるキッカケが向こうからやってきたのだ。

「助けに行くっ、ケイとガジェット、アルスとヘンリーはここに残って。万が一の場合の逃げ道を塞がれたら困る。

 但し、無理だと感じたら迷わず逃げて。安全第一ね」

「承知しました(わかった)」

 無事でさえいてくれれば人数が揃えばなんとかなる。

 五日過ぎても戻らなければ応援も来る手筈になっているのだ。

 では早速と駆け出そうとしたところでポチに襟を加えられて止められた。何かあったのかと振り返れば、ポチは地面に『伏せ』をして自分の背中を振り返る。

 これって、もしかして、

「自分の背中に乗れってこと?」

 私がそう尋ねると、ポチは『そうだ』とばかりに私の襟を更に自分の背中の方へ引っ張った。

 いや、迷っている暇は無い。確かにその方が早そうだ。

 違うなら乗った瞬間振り落とされるだけだろう。リステルを連れてその背に跨るとポチはスックと立ち上がり、今度はイシュカの方を見てクイッと首を後ろに振る。

 まだもう一人乗れるってことで良いのかな?

「イシュカッ、付いてきて」

「危険ですっ」

 まあイシュカが止めるのもいつものことだ。

 イシュカは相変わらず私に援護は求めても極力安全なところに置いておきたがる。だが今回はおそらく押し問答している暇は無い。

 私は強引に説得に掛かる。

「大丈夫。絶対に無理せずにみんなの到着を待つから。私の結界の頑丈さは知っているでしょう? それとも私だけ先に行ってもいい?」

 そう尋ねるとイシュカは仕方ないとばかりに溜め息を吐いてポチの背に乗った。

「わかりました、お供致します」

「状況がわからなきゃ対策も立てられない。みんなは装備を整えてから来て。洞窟の外なら雪の上のポチの足跡を追えるでしょ。

 一応到着したら炎弾を撃ち上げる。

 ガイ、外の木の上から方向確認して」

「了解っ」

「叔父さんは・・・」

「護衛にランスを借りるぞ。怪我人が出ていたら治療が必要だろう?」

 お願いするまでもなく手伝いを申し出てくれた。

 状況によってはフリード様も私も手が離せないかもしれないから助かった。

「ありがとう」

「礼を言われることではない。人として当然のことだ」

 決して腕っ節が強いわけじゃない。けど情が深くて間違いなく一本筋が通っている。こういうところがあるから、多分、きっとキールも呆れた問題児でもサキアス叔父さんでも選んでくれたんだろうなってこんな時は思うのだ。

「じゃあ後はお願いするね、ライオネル」

「お任せください。すぐに俺達も向かいます」

「ガイ、向こうで待ってるから」

「ああ、待ってろ。必ず行く」

 私はそれに頷き前を見る。

「ポチ、お願いね」

 リステルを抱え込みポチの首に捕まるとそう耳元で囁く。

 イシュカがその上から更に私を守るように抱え込み、身体を伏せる。

『リステル』

 滑らかに走り出したポチの背中の上で私は話し掛ける。

『君達の言葉が理解できるのは私だけ。他の人は意思疎通が厳しい。

 だからリステル、君が村のみんなに私達が助けに来たことを伝えるんだ。

 怪我人がいればさっきスープを渡してくれた人が来れば治してくれるはず。必ず助けるとは約束できないけど努力してくれる。でも怪我人の治療してる時にはあの人はそれに集中するから自分の身を自分で守れない。

 私達の手が空いてれば勿論私達が守るけど、私達の手がいっぱいの時はリステル、君があの人を守るんだ。

 それをお願い出来るかな?』

 危険に晒されている人達がどういう行動を取るか、私は今までも見てきた。

 助けた結果が感謝されるばかりでないことは承知済み。

 だから助けを求めてきたリステルには伝えておかなければならない。

 リステルは小さな声で呟く。

『そしたらみんなを助けてくれるの?』

『私達の出来る限り、全力で。

 他のみんなも準備が整い次第駆けつけてくれる。だけど私達には死人を蘇らせることも、既に死神が迎えに来てしまっている人も救うことは出来ない』

 危険は予め察知出来るものばかりじゃない。

 むしろ被害、災害、その他が起きてから対処しなければならないことも多い。

 だからこそどんなに手を尽くしても助けられない命もある。


『人の力には限界がある。万能ではない。

 私達は神様じゃないからね。

 だから必ず全員助けるとは約束出来ないよ?

 勿論助けると決めたからには全力は尽くす。でも私達の敵まで救うつもりはない。私は私の大事な仲間を傷付ける人は許さないし、そんな人達を命懸けで守ろうとは思わない。

 私の言っている意味がわかる?』


 厳しい物言いにリステルの瞳が揺れた。

 だけど言うべきことは言っておかなければならない。

 リステルはキュッと唇を引き結び、小さく頷いた。

『わかる。もし助からない誰かがいたとしても、それは貴方達のせいじゃない』

 それが言えたなら上等。

 助ける価値と意味がある。

『それをわかってくれたのならいい。じゃあお願いね』

 覚悟を決めてくれたリステルを安心させるように私は務めて優しい声と顔で笑った。


「ハルト様、村ですっ」

 イシュカの声に樹々の間に見える前方に僅かな灯りがある。

 案外近くて助かった。

 聞こえる悲鳴は切羽詰まっている。

 既に被害者が出ているかもしれない。

 私はイシュカに支えてもらいつつ、片手で抜けた空に向かって炎弾を打ち上げる。

 これで大丈夫、すぐにガイ達が駆けつけてくれる。

 グングン近付く視界に入ったのは白い巨体のグリズリー。

 雪山にはよく出現する魔物だ。

 腕の中のリステルがビクリと身体を震わせた。

 私はその耳元で囁く。

『魔獣討伐は私達の得意分野。大丈夫、こっちは任せて。

 だから村の人と叔父さんを守るのはリステルの役目。

 リステルはリステルの仕事をして。いい?』

 それにリステルが強く拳を握りしめて頷く。


 魔素強化個体か。厄介だな。

 多分一酸化炭素中毒死が使えない。動きを止めるにも雷魔法を使えば強力なそれは足下の雪を溶かして伝わり、私達だけでなく村人達にも被害が出る。

「確認出来る気配は三つだけです、如何致しますか」

「まずは予定通り時間を稼いでみんなが来てくれるのを待つ。正面に出て周りの村人から引き剥がして地面を掘り下げ、這い上がって来る前に結界を張って閉じ込める。イシュカは私が掘り下げたと同時に結界を張って。一瞬だけ止めてくれればその上から私がすぐに張り直す。後は周囲の警戒をお願い」

「承知しました」

 殺気を解放すればヤツらは私を無視出来ない。

 現れた脅威(わたし)に目を向けて排除しに来るはずだ。

 私は徐々にグリズリー達が無視出来ない程度まで殺気を解放していく。

「ポチッ、突っ込んで。全力前進っ」

 タタタタッっと雪の中を走り抜け、グリズリー三頭の注意がこちらに向く。その真ん中に飛び込むとポチが振り下ろされるそのグリズリーの前脚を右に左にと避け、一頭の喉元に喰いつき、食い破った。

「ポチッ、でかしたっ」

 帰ったら御褒美に好物の生姜焼きをたらふく食べさせてあげよう。

 ポチの背中から飛び降りたイシュカがすぐにその首をウェルムの剣で切り落とす。

 ヨシッ! 残り二頭、随分と楽になった。

 シュタッと地面に降りて止まったポチの背中から私はリステルを降ろす。

『こっちは任せて、そっちはお願いね』

 私の言葉に強くその瞳に決意を宿らせて頷くとリステルは村人達に向かって走り出した。

 その背中を見送ってグリズリーに向かって低い姿勢で唸っているポチから降りる。

 突然眼前に現れた強敵に残り二頭の注意がこちらに向く。


「行くよ。イシュカ、ポチ」

「はい(ワフッ)」

 

 二頭の間に少し距離がある。

 こちらに注意を向けつつ村人達から引き剥がし、出来るだけ狭い範囲に寄せなきゃいけない。イシュカがグリズリーの首を落とす前に既に血の臭いがしていた。多分死傷者がいる。

 ジリジリと少しずつ森の方向に進路を取りつつ狭まっている村の入口に目を向ける。あそこに同時に誘導出来れば可能か?

 今までの経験からして比較的頭の良いグリズリーは囲いが開いているところが近くにある時、わざわざ頑丈な塀に突っ込んで壊す苦労をするような個体はいなかった。その間に獲物に逃げられるからだろう。そんなことをすればその間はそちらに注意を向けることになるからだ。グリズリーは手強いと思う相手に背中を晒すほど間抜けではない。だからこそ使える手段。

 チラリとそちらに視線を向けた私の意図を察したらしいイシュカが小さく頷いた。 睨み合いと威嚇の応酬合戦を繰り返し、距離を取り、二頭のグリズリーの注意が完全にこちらに向いた。

 その刹那。

 私達は門に向かいダッシュする。

 背を向けた一瞬の隙。

 それを二頭が見逃すはずもなく猛スピードで距離を詰めに私達目掛けて突進する。

 誘われているのだと気付かずに。

 門手前で即座に振り向き、私は地面に手を付いた。


 慌てるな。

 でも侮るな。

 慎重に間合いとタイミングを測り、私はグリズリーが私達に飛び掛かるために踏み込んだ最後のその足下を思い切り掘り下げた。

 ガクンッとグリズリーの体勢が崩れ、そのまま視界の外、穴へと落下する。

「イシュカッ」

「解ってますっ」

 脅威のジャンプ力とそれを可能にする強靭な筋肉で覆われた手足で即座に飛び出てこようとしてグリズリーはイシュカの張った結界で頭を打ち、再び穴へと落ちる。

 よしっ、閉じ込めたっ!

 とはいえこれで終わりじゃないのだけど。

 問題はこれからだ。

 こちらを見ていた村人の口から歓喜の声が上がり、そのままこちらに来ようとしたのを止める。

『来ないでっ、まだ倒してない、穴に落として閉じ込めただけ。すぐに怪力でここをこじ開けて出てこようとする。今のうちに怪我人を運んで応急処置を、すぐに私の仲間が応援に来ます。退治にあたるのはそれからです。それまで自分達に出来ることをお願いします』

 私がそう叫ぶと村人達は足を止め、軽傷の怪我人達だけに手を貸し、避難し始めた。そして重症者はほったらかし、『どうせ助からない』と呟いて。


 その様子に私は呆れて溜め息を吐いた。

 それはイシュカも同じのようで、首を振り、肩を竦めた。

 助けられるかもしれないとは考えないのか。

 生命の危機の前ではそれも仕方ないのか?

 こういう時はつくづく人間というものは身勝手で傲慢で自分勝手なものだと思うのだ。勿論私もその身勝手な人間の一人ではあるけれど、私は大事な仲間を見捨てて逃げるほどクズではない。

 そんな中、リステルだけがまだ息のある村人を運ぼうと必死になっていた。手伝いを求めているが動こうとするどころか、『放っておけ、お前まで死ぬぞ』と説教をタレている者までいる。これは救いようがない。

 それも勝手にすれば良い。どうせ他人事だ。

 どちらにしてもイシュカと私がこの場を放棄してリステルを手伝いに行くわけにはいかないのだ。そこまでしてやる義理もないと私達がやってきた方向に視線を向けると人影が見えてきた。

 ガイ達だ。

 急いでくれたのだろう、予想以上に早い到着だ。

 近付いてくる人影を見ればランスがサキアス叔父さんを背負って走っていた。

 成程、確かに体力の無い叔父さんの鈍足に合わせるよりその方が早い。


「原因は魔獣かっ、どこにいるっ」

 前方の鮮血に染まる雪に先頭を走るガイの声が響く。

「グリズリーだよっ、一頭はポチとイシュカで仕留めた。残り二頭はここ」

「ポチが?」

 ガイ達の足が止まって結界の下を見下ろす。

 既に私が結界を張り直してある。だが二頭の怪力魔素憑きグリズリー、ガイ達が駆けつけて来る前にイシュカの張った最初の一枚と私がその上から張った一枚が破られている。重ねて張れるのは最大五枚。割られた先から追加していけば問題ないが重ねるほどに消費魔力は増加する。いくらあり余るほどあるからといって短時間に立て続けに破られるのはキツイ。

 ガンガンと怪力で叩かれ、また一枚が破られた。

 コレ、三頭いたらヤバかったかも。

 魔力を封じ込められているとはいえ流石クラスSの魔獣、ポチには感謝だ。

「そう、喉元をポチがガブリと噛みちぎって、それをイシュカが首を刎ねた。で、残りはとりあえず穴に落としたんだけど結構暴れてるんだ。

 怪我人が何人か出てる。フリード様、叔父さん、治療をお願いします」

「任せておけ」

 ランスの背中から降りたサキアス叔父さんとフリード様が怪我人に向かって走り寄るとリステルが涙でグシャグシャの顔を上げた笑う。

 死にかけで意識を失いそうな人間をこの世に引き留めるには声掛けが重要なのだ。助けが来る、助けようとしてくれる人がいるというだけで生きることを諦めない人も多い。だからあの人が助かるとしたらリステルの功績は大きいだろう。

 とりあえずは怪我人の治療はあの二人に任せておけば良い。

 魔力量の多いフリード様が重症者を、サキアス叔父さんが軽傷者を担当することにしたようだ。ランスがしっかり叔父さんの側に付いていてくれている。ならば安心だ。そうしたら残る仕事は、

「ギルとミュゼは念のため村の中の見回りを。イシュカが気配は三頭だって言ったから多分大丈夫だとは思うけど」

「了解しました」

 走り出した二人に確認は任せておけばいい。

 残るはと、自分の真下に視線を向ける。

 集まってくれたみんなの意見を聞いてみようと結界に手を触れたまま見上げる。

「残りの人員でコレを退治しようと思うんだけど」

「いつものように煙で燻しますか?」

 ライオネルがそう尋ねてきた。

 当然それは私もさっき考えたんだけど。

 私が村の中に倒れている首のないグリズリーに視線を向けるとみんなの視線がそちらに向く。大きくは変化していないみたいだからまだ魔素憑きになって日は浅いのかもしれないけど転がるグリズリーの耳の形は明らかに普通のヤツと違って尖っている。他のヤツも一般的なヤツと違った特徴があった。

 口から大きくはみ出した牙と額の真ん中に本来あるはずのないもう一つの目。突然変異という可能性もなくはないけど、それは魔素憑きになる確率よりも低い。

 私は視線を再び真下に戻す。

「それがさ、残り二頭も魔素憑きじゃないかと思うんだよ」

「ってことはその手は使えないってことですか?」

 オリガのその言葉に頷く。

「多分ね。それで今どうしようかって考えてた」

 これだけの手練れと人員が揃ってる。

 真っ向勝負しても一頭ずつあたれば倒せるとは思うのだけれど、あまりそれをやりたくはない。魔素憑きは正面からぶつかるのは特性変化がわかってないと何が起こるかわからない。

「網もワイヤーもありませんしね」

 いつもなら自由をある程度それらで奪ってから討伐にあたるから、いつもあるものが無いというのは不便なのだが。

「で、とりあえず、なんだけど。横穴掘って、そこから大量の水注いで氷漬けにしてみようかなって」

 水の素となる雪は幸い大量にそこかしこに積もってる。それを火炎で焼いて溶かしても調達できる。

「氷結魔法で、じゃなくてですか?」

 私の提案にイシュカが目を見開いて尋ねてきたのでそれに頷いて続ける。

「それだとせいぜい筋肉組織の表面までしか凍らないじゃない? 冷気に強いグリズリーには効果が薄いかと思うんだよ。だから水責めにして水をたらふく飲ませた上で冷気で水を凍らせれば胎内に取り込んだ水まで凍らせられるかなって。そしたら胎内組織の温度が急激に下がるでしょう。そうしたら魔素憑きでも動きが鈍るからさ」

 それは既に実証済みだ。

「その上で地面を迫り上げて首を落とすわけですか?」

 ライオネルが確認するように尋ねてくる。

「そう。イケると思う?」

「イケるでしょう」

 即座に返ってきたライオネルの言葉にガイも同意のようだ。

「相変わらずよくもまあそんな手を思いつくモンだな。ウチの御主人様の頭ん中はいったいどうなっているのかね」

 人を変人奇人みたいに言わないでよ。

 確かにそういう方々を多く部下に抱えていますけどね。

 類友のつもりはないのです。

 豪快にカッコ良く魔物魔獣を倒すヒーローに憧れはありますけど所詮私は小心者。極力安心、安全、確実に行きたいのです。死を覚悟とか犠牲ありきなんて考え方は真っ平ゴメン、大事な仲間は誰一人失いたくないのだ。

 それを意気地無しの根性無し、臆病者と呼ぶなら呼べばいい。

 最後の生き残るのはそういう人間なのだ。

 ライオネルがその作戦に一番ノリ気なようで名乗りを上げる。

「動きが鈍くなったグリズリーなら俺達の敵ではありませんよ。任せて下さい、グリズリーの頭を叩き切って落として見せますよ。パワーならば俺はイシュカとガイにも負けません」

 成程、そういうことかと納得する。

 既に三年経っているとはいえライオネルは側近の中でも一番の新入り。イシュカやガイとどうしても比べられる。実際総合的戦闘力でも二人に劣ると思われがち。ウチに来た当初は確かにイシュカ達の方が強かった、でも今では負けず劣らず充分強いし、ライオネルにはライオネルの良さがあるのだ、気にしなくても良いと思うのだけれど男というのはプライドが高い。負けていると思われるのは嫌なのだろう。

「なら俺とイシュカは囮だな。視線をこっちに引きつける」

「ではもう一頭は俺が。この中でライオネルに次ぐパワーホルダーは俺です」

 ガイに続いてバイスが申し出てくれた。 

「じゃあ頼んだよ、ライオネル、バイス」

「はいっ」

 これで作戦の主要となる人員は決まった。

 ならば後はそれを決行するための準備だが、私がここを離れるわけにはいかない。

「私はグリズリーを押さえてるからイシュカ、指揮をお願い。ガイは村の外の警戒を」

「勿論です」

「任せておけって」

 全く本当に頼もしい限りだ。

「準備が整い次第作戦開始する。みんな、頼んだよ?」

「「「はいっ」」」


 そうして一斉に全員がそれぞれの役目を果たすべく動き始めた。



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