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第十七話 その利子、しっかりとお支払致します。


 とにかく陛下の考えは理解した。

 となれば私はまた厄介なポチ(もの)を持ち込んだという他ならない。


 やっぱりあの時、トドメを刺しておくべきだったかなあ。


 また余計な問題抱え込みそうな気も。

 どうして私のやることなすこと、面倒事とセットになるのか。

 そうは思えど利用価値も高いというのも確かで、それに初めて見た瞬間、思わず『綺麗だ』なんて思ってしまったのも事実で。

 流石に首輪を嵌められたとあってはポチも今日ばかりは私を唸って睨みつけている。直接私が付けたわけではないけれど加担してることくらいはわかっているのだろう。

 マルビスの提案で番犬用の犬数匹とそのトレーナーが数日でやってくる。

 結局防犯強化のためにも丁度良いとポチ以外にも(?)犬を飼うことになったわけだが、その彼にポチを躾けてもらうわけにはいかないので、実際に犬に躾けながらコツを教えてもらい、見て学び、それをポチに試してみようということになったのだ。

 闇雲にやっていても成功するとは思えない。

 まずは似た職業の方に教えを乞おうというわけだ。 

 何事もいっぺんに片付くはずもない。

 更に抱え込んだ厄介事。

 一人で考えてもどうにもならないことなら、またこうしてみんなに知恵を借りれば良い。


 私は一人じゃないんだから。

 そうやってすぐに頼ってしまうあたりも若干情けないような気も。

 昨日はイイ男以上の最高の男になると誓ったはずなのに。

 どうしてこうも私は他力本願なのか。

 いやいや最高の男というものは簡単になれるものではない。

 まずは自分にできることから改善を。

 そう思い直し、何から始めようかと考えたところでハタと気付く。


 ところで私に出来ることって何っ⁉︎

 

 料理、はロイの方が今では上手い。剣術もイシュカに敵わず、体術は言わずもがなガイに敵わない。機転と手先の器用さではテスラに勝るはずもなく、頭の回転が早いマルビスに商売で勝てるわけもなく、更には同じ年であるレインには体力、武術どころかダンスもピアノも、ついでに身長も負けている。

 私が唯一勝てるのは魔獣避けとしてお役に立っているこの膨大な魔力量のみ。

 しかしながらそれも結局膨大過ぎて対外秘。

 自慢してもらうわけにもいかないわけで。

 となると、大雑把で適当なこの性格もとてもじゃないが長所とは言い難いとなれば何年経っても私がみんなに勝てる未来が見えてこない。

 いやいやいや、こういうことは勝ち負けじゃあない。

 気が利いてて、優しくて、包容力がある。

 そんな男も最高だ。

 そう思ったところで気が利く男が私のような無神経な粗忽者であるわけもなし、売られた喧嘩ならもれなく買い、敵とみなせば容赦なく蹴り倒してまわる私が優しいかどうかは甚だ疑問、包容力があるのかどうかさえも謎でかなり疑わしい。


 私はいったい最高の男になるためにどこから手をつけるべき?

 最高どころか己のダメダメなところが大量に目に付き、ガックリと首を垂れる。 

 可愛くてカッコイイ?

 私が?

 ロイ達はそう言ったけどやはりこれはありがたくも嬉しい、『惚れた欲目』、『アバタもエクボ』というヤツだろう。

 最高の男は一日にしてならず。

 まずは無理のない範囲で自分にできることから。

 となればまずはポチの世話と躾からだ。

 見張り番はお願いできてもナメられたら終わりのこの仕事、魔力量では明らかにポチを圧倒している私にしか出来ない仕事。餌付けも人に任せっきりでは駄目だろう。

 早速今日の晩御飯から手伝いを。

 そう思い直して俯きかけた顔を上げると不意にロイと目が合った。


「大丈夫ですよ。貴方には私達がついてますから」

 そう言って右手をさりげなくキュッと握られ、私はロイを仰ぎ見る。

 繋いだ手から伝わる体温に心がホッと息を吐くのがわかる。

「ありがとう、ロイ。

 私、ロイのそういう優しいところ、大好き」

 不安になってる私の心に逸早く気付いて安心させてくれる。

 私の一番側に一番長くいてくれているからこそ私の気持ちを察して掛けてくれる言葉とその優しさに何度救われたことだろう。

「私が優しいのは貴方にだけ、なんですけどね」

 感謝を伝えるとロイは微笑んでそう言った。

 ロイはいつも優しくて気遣いも完璧だからそんなことはないと思うけど? 

 仮にもしそうだとしても、いや、だとしたら尚更嬉しいかも?

 『貴方だけ』という言葉には特別な響きがある。

 ロイの向けてくれる優しさに私は今まで何度も救われた。 

「もう大丈夫だよ?」

 放してもらって平気。

 充分力を分けてもらったから。

 だから放してと言ったつもりが、するりと解かれた手は再びしっかり握り直された。

 しかも指と指を絡める、所謂恋人繋ぎというヤツで。

 私は思わずギョッとして赤くなり、その手を凝視した。


「このまま手を繋いで屋敷に戻りましょう」


 はいっ?

「手加減すれば良い、のですよね? これくらいからなら問題ないでしょう?」

 えっ・・・?

 確かに私はそう言ったけど、いきなり昨日の今日ですかっ!

「ではこちら側は俺が」

 そうしてロイに気を取られている隙にテスラの声が左側から聞こえ、同じようにガッチリと繋がれた。こちらも勿論恋人繋ぎで。

 いや、でも多少疑問がないでもない。

 恋人繋ぎってこんなにガッツリ骨が軋みそうな握力で握られるものですか?

 まるで私が振り解くのを防ぐみたいな力で。

 経験値が低過ぎてわからない。

 強すぎる力に少しだけ冷静を取り戻した私に更なる攻撃が襲いかかる。


「何か思いついているんでしょう? 

 後で俺に教えて下さいね。他に情報を漏らすなというなら登録は見送りますから」

 こそっと微かな声で囁かれたのはテスラの甘いバリトン。

 気を抜いた一瞬に耳に届いたそれに思わず背筋がぞくっとして小さく飛び上がる。

 なっ、なんでっ!

 昨日までテスラ、そんなことしなかったでしょうがっ!

 正面からハッキリ、口にしてましたよねっ!

 おたおたとする私の反応をテスラがジッと見下ろし、観察している。

 そして楽しそうにクククッと微笑った。


「そういえば貴方が幼い頃、俺の声がもの凄く好きって仰っていましたね。

 子守唄を歌ってほしいとねだられたのを思い出しました」

 ・・・・・。

 言った。

 確かに言った覚えはある。

 でもいいよっ、そんな昔のこと思い出さなくてっ!

 どうか忘れたままでいて下さいっ!

 主に私の心の安定のために。

「今度ウチの劇場の歌手に歌を習いにいくとしますか。子守唄ととっておきの恋の歌でも。

 俺が貴方を陥すにはそれが一番早そうだ」

 名案を思いついたとばかりのテスラにロイも記憶を掘り起こしてしまったらしい。

「直接お聞きしたことはありませんけど、確かマルビスの調査では顔は私が一番好み、でしたよね?」

 と、ずいっと顔を近付けて私の大好きなその顔で艶やかに色気滴る顔で微笑った。


 ぎゃああああああああああ〜っ!


 そんな最終兵器を早々に投入するのはやめて下さいっ!

 決して面食いではないっ、面食いではないがイケメンか嫌いなわけではない!

 私好みの品のある色気を漂わせるロイと絶世の美男のダブルコンボは最早凶器。

 しかもテスラのその声は反則でしょうっ!

 私は面食いではないが声フェチの自覚はある。

 前世、低めの響く声を持つ声優さんの声が大好きだったのだ。

 まさしくテスラの声は私のストライクゾーンど真ん中。

 低く響く、透き通る声に弱い。

 それが殊更甘く耳もとで囁かれたりなぞすれば、最早鼻血ものである。

 ふらりと一瞬意識が遠のきそうになって足を踏ん張る。

 私が真っ赤になって何も言い返せずにいると後ろからレインの叫び声が聞こえた。

 

「あああああ〜っ、ロイ達ズルイッ」

 駆け寄ってきたレインが割り込もうとしたものの、ぎゅうっと握られた掌は離れない。意地でも離すものかというロイの気合いが見えてくる。

 これを予測していたのだろうか。

 いや、まさか?

 でもロイならありえるかも。 

「こういうものは早い者勝ちなのですよ」

 勝ち誇ったようなロイの声にレインが張り合う。

「絶対っ、次は僕が繋ぐからっ」

「頑張って下さいね。そう簡単には譲りませんけど」

 ぐぬぬぬぬっとレインがロイを恨めしそうに睨み上げる。

「レイン様はそういうところはまだお可愛らしいですよね」

 これって、ロイ、明らかにレインを揶揄ってるよね?

「僕は子供じゃないっ」

「そうやってムキになるようではまだまだ子供ですよ?」

 うん、私もそう思う。

 そう思うのだけれど、ここで私が頷くのはマズイだろう。

 迫力あるレインの睨みにビクリともせずに平然とロイは言い返す。

「ロイはやっぱり性格悪い」

「自覚してます。私はハルト様にさえ優しいと思って頂ければ特に不都合は感じませんので問題がありません」

「僕っ、負けないからっ」

「私も負けるつもりはありません」

 ・・・・・。

 ロイにこんな一面、あったんだ。

 レイン相手にムキになってる。

 表情と態度こそ変わらないように見えるけど、その挑戦的な目が意外で私は思わずジッと見てしまった。

 男の人はいつまで経っても子供みたいなところがある。

 それはわかっていたつもりだったけど。 


「なんかお前、凄いことになってないか?」

 ポチの檻の設置について団員達に指示を出し終えた団長が二人に手を繋がれ、レインに背中に張り付かれ、ガッチリ肩を抱きしめるようにホールドされている私を見てそう言った。

 たった一日でこの変化。

 本当、頭も精神的にもまだついていけてない。

 私はボソリと呟くように下を向いて言う。

「言わないで。昨夜、如何に自分が鈍い朴念仁だったか悟ったんだよ」

「なんだ? やっと気付いたのか」

 団長のしれっと漏らした呟きに目を見開いて俯いていた顔をバッと上げた。

 やっとって、団長は気づいてたのっ⁉︎

 驚いた私の顔に何を今更と団長は宣った。

「あれだけ露骨であからさまなのに、むしろ気付かないお前に俺はいっそ感心していたぞ。アイツらが気の毒に思えてたくらいだ。他のヤツもそうだが、イシュカにしろ、マルビスにしろ、隠すつもりはこれっぽっちもなかっただろうが」

 ・・・まさしく、仰る通りで。

 反論する言葉もありません。 

「自分はまだ子供だと思ってたから。

 大人の、しかも大勢のお嬢さんにモテそうなみんながそういう意味で本気で相手にしてくれてるなんて思ってなくって」

 結局、昨日告白されるまで気が付かなかった。

 違う。

 告白されてたのに気付けなかった。

 あまりにも無神経というか、鈍感もここまで極まるとなんと称すればいいのか。

 表現する言葉も見つからないとはまさにこのことか。

 漏れた言い訳じみた言葉には説得力のカケラもない。

 勿論言い訳なんてするつもりは微塵もないけれど。

「本気に大人も子供もないだろう? 

 それにお前はちっとも子供らしくなかっただろうが」

 そう言われると尚更、重ね重ね返す言葉もありません。

 中身は子供じゃないですから。

 恥ずかしくも恋愛面に関しては子供以下だったわけだけど。


「せいぜい頑張るんだな。今までのツケが回ってきたと思って」


 デスヨネ?

 その積もり積もったツケに恐ろしく利子がついている気がしないでもないですけど。

 これも自分の蒔いた種。

 しっかりたわわに首を垂れるほど実った稲穂(こころ)なら、感謝してありがたく刈り取らせて頂きますとも、責任持って。

 いや、むしろ喜んで?

 こんな借金返済地獄(らくえん)ならば望むところ。

 みんなが側に居てくれるならその利子を一生払い続けたって構わない。


 心からそう思っていますから。



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― 新着の感想 ―
レインが苦手すぎて うざくて読むのしんどいですね。 体が大きくなればいいだじゃないと思うのですが個人的にです。
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