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第一話 少しは大人になりました?


 月日というのは結構気がつくと過ぎていることも多い。

 時間に追われていることが多い私みたいなのは尚更だ。


 ベラスミとの国境は三年前の初秋に完成し、叛乱の首謀者達に刻まれていた奴隷紋を解除。

 彼等を扉の向こうに開放して閉ざし、この国境線の封鎖をもってベラスミ帝国はシルベスタの領地から独立自治区から独立国家へと名目上返り咲いたわけだが、これを独立国家と呼べるかどうかは怪しい。

 確かに王とその民が存在すれば国と言えなくもない。

 だが他の国に攻められても僅か数百の人口では守り通すことは難しい。

 ベラスミのお国事情からすればその可能性は低いとは思うけれど、周辺諸国の思惑と事情まではわからない。

 だがそれも所詮他人事。

 私達とこの国が巻き込まれないならそれでいい。

 彼等の家族には国からシルベスタ王国の奴隷紋を刻み、この国で暮らすか、ベラスミ帝国の民として生きるかの選択肢を示されたが、その殆どはベラスミに残ることを選んだ。

 もともと平民でいることが許容できなかった者達だ。

 更にその下の奴隷に堕ちることをよしとしなかった。

 命よりもプライドが大事だというならその人達の選択の自由。好きにすればいい。

 その人の生き方はその人が選べば良いのだから。

 

 そして私達はといえば。


 兄様が高等部を卒業して父様の下で領主としての勉強を始めて早三年、一昨年に学院を卒業したミゲルは既に継承権を放棄しているとはいえまだ王族だったので正式に地位を返上、公爵としての手続きが半年後に完了するのを待って、本当にウチの商会に就職した。ミゲルと営業企画部要員としてマルビスとゲイルに選抜されたメンバーは各娯楽施設を武者修行の一環として関連施設が増え過ぎたせいで予定より長くなった一年間、各仕事を経験して周り、今年の秋の学院の学園祭時に営業企画部初仕事として成功させ、今は二年前に建てた屋敷と二階が渡り廊下で繋がれている別棟に住んでいる。

 ここには住んでいるのはミゲルの他に二年前に結婚したサキアス叔父さんとキール、シュゼットとアンディの両夫婦、一年前に見事アンディの妹を口説き落とし半年前に結婚したライオネル夫婦とサイラスが住んでいる。要するに一般的な商業班とは違う仕事をしているか、世帯持ちの側近、領地経営関係者、様々な理由で一般従業員と住まいを別にした方が良いであろう者達の住まいである。

 まだ空いている部屋があるのでこの先も順次多分埋まっていくことだろう。屋敷は従業員の幹部棟と化してしまっているので貴族の付き合い、接待やパーティ、舞踏会に必要な大広間や豪奢な応接室を兼ね備えたホールを貴族用の宿屋にほど近い場所に建てて対応、すっかり屋敷の二階以下はハルウェルト商会の会議室他となってしまっている。


 まあいいんですけどね。

 こうなる予感はしていましたし。

 お陰で外聞を然程気にすることなく建物建てられるようになりましたから。すっかり屋敷の敷地内はここ数年でオフィス街か公営団地みたいな様相を呈してきましたよ。

 グラスフィート領では運河の港近くに熱帯植物園が去年開業、南国フルーツを使った豊富な種類のパフェが人気だし、デキャルト領も最初の一年は苦労していたが、土地にあった農作物を見つけ、今は貯水池を増やし、ビニールハウス経営も順調、竹林の砂防に守られたあの土地も今では立派な麦畑が見られるようになり国内では農業革命特区とも称され、その地位を確立しつつある。

 来年にはウチと提携して季節ごとに違う果実狩りが楽しめて、それを使ったスイーツが色々と味わえる施設を開業予定。竹を使ったカゴバッグやザルなどの工芸品も徐々に扱いが増えてきた。そんなわけで私への借金の額も順調に減らしている。

 他にもステラート領や辺境と呼ばれていた地域の領主達とも提携し、ビニールハウスでの農作物栽培も増え、今は農作物も他領から大量に仕入れている状態。

 国が建設していた王都とグラスフィート港を結ぶ運河とウェルトランドの対岸には国際貿易船センターと地方監察局と銘打った近衛騎士団支部も完成。

 そこの所長としてフィアが就任。複数の補佐をつけて国王となるための経営や運営を学んでいるらしい。

 そのため海外との貿易も盛んになり、ビニールハウスも今では国外からの問い合わせも多く、グラスフィート領はアレキサンドリア領と共にシルベスタの穀倉地帯から国際貿易都市兼観光都市として広く認知されるようになり、外交面で詳しいシュゼットには随分と助けられている。


 確か五年前まではド田舎僻地と称されていたはず。

 でしたよね?

 何がどうしてこうなったと言いたいところだがウチの優秀すぎる商業班の面々が張り切り過ぎた結果だろう。それに陛下が便乗し、加速度的に栄えてしまったと。


 そんな事情もあって我がアレキサンドリア領にも味方してくれる領地が少しずつ増えてきたのはとてもありがたい、ありがたいのだけれど。

 一つだけ問題が、というか、予想外の展開が・・・


 マルビス達からするとたいした想定内ということらしいのだけれど。

 三年前の夏から販売を開始したウチワ。

 アレが予想以上に売れたのだ。

 それだけ聞けば結構なことではないかと言われそうだが、個人の好みに合わせてカスタマイズ出来るはずだったそれ。ウチの経営するショップでは売れ筋商品は転売防止のため購入制限がかけられているのだが作るのが簡単だったためにコレが個数限定解除、御土産品として利用され、定番として数十種類を常備、オーダーメイドカスタム品を若干高く設定してバリエーションは豊富に揃えた。


 いや、まあ、ね。

 そういう狙いも確かにあったことはあったんだよ?

 推し活的な方向の一環として将来的に利用しようとか。

 よりによって一番の売れ筋がハルウェルト商会のロゴマーク。

 要するに私のキャラ顔なのだ。

 幼い頃のものから最近の育ってきた顔まで十数種類。

 そしてついでにとばかりに売り出したのはウチの側近達のキャラ顔。

 勿論、劇場の看板役者の物も置いてあるんですよ?

 だけど現在の人気は私(恐ろしいことにコレが売上の約半分を占めるのだ)、イシュカ、テスラ、ロイ、マルビスの順でその後に看板役者達と並び、キールとサキアス叔父さん、ライオネルのはあまり人気がないのだ。

 いや、正しくは結婚して以降売上が落ちたというべきか。

 特にライオネル。

 その前までは結構売れていたのに。

 世間の未婚のお嬢様方に既婚者は除外されたらしい。

 因みにガイには当然だが拒否されたのでガイのは売られていないけど、やはり女性は現実主義者、シビアだなあと感じたものだ。


 でもね、その売れ筋四人は私の婚約者、なんですけど?

一応未婚だからってことでしょうかね?

 

 お陰で私達の、特に私の顔は陛下やフィアよりも知れ渡ることとなり、領地内だけではなく、どこへ行っても有名人になってしまった。

 既に陛下と約束した講師期間も先日修了し、そういう学問として今は確立されて高等部の騎士のタマゴ達の必須科目となり、教える講師も出てきたのでそろそろ私の講師業も御役目御免で良さそうだ。

 所詮私程度の猿知恵など頭の良い人が出てくれば忘れられる程度のものだ、問題ない。

 その内、緑の騎士団軍事顧問の名も返上できるだろう。

 これでやっと本業ともいうべき商会事業に専念できる。


 領地経営はどうしたって?

 まあその辺はおいおいで。

 と、いうか、私の領地に住んでいる人達って大多数が商会関係者とその家族、仕事の委託や内職を請け負ってくれていたり、もしくはウチの貸家に住んでいるんで何かしら繋がりがあるんだよね。お陰で戸籍も把握しやすいので助かっているのだけれどハッキリ言うなら他の領地と違ってかなり特殊であることは間違いない。


 ありえないよね、普通なら。

 おかしいよね?

 絶対。

 もともと私有地に従業員寮を大量に建てていたわけだし、ウェルトランド及びルストウェルの敷地もそれなりに広大。他所様にお売りできるほどの土地はしれている。ほぼ私有地ということで防犯の面に於いても便利なことは便利なのだが、なんというか、いや、やっぱりおかしい。

 そういうわけでアレキサンドリア領ではショッピングモール以外には出店し難いのもあってグラスフィート領の方にその他地方の商会、工房等が進出し、地価が五年前と比べて恐ろしいほど現在跳ね上がっている。

 まさに経済バブルともいうべき状態だ。

 父様達は嬉しい悲鳴を上げているが、父様でもてんてこ舞い状態な経営を学院卒業したての兄様だけで切り盛りできるはずもなく、兄様の独り立ちは当分先に伸びそうだ。陛下もこうなる前に爵位を上げておいて良かったと言っていたらしい。


 いや、そうではないですよね?

 明らかに狙ってましたよね?

 だって国際貿易センターと騎士団支部地方監察局を併設した時点でそれは間違いなく計画的、ですよね? 

 ロイやマルビス達も私と同じ意見だ。

 いったいどこまで腹黒いのか。

 絶対にウチを国の経営に巻き込む気満々だろう。

 白々しいにも程がある。

 勘弁して下さいよ、もう。

 

 しかしながら文句を言ったところで馬耳東風、暖簾に腕押し、糠に釘、カエルの面に水ということでトボケられて終わり。

 国家最高権力者に勝てるはずもない。

 まだ他に何か企んでないでしょうね?

 そう問いかけて胡乱な目で見つめると『さあな』と返された。

 本当にこの人は油断ならない。

 そういうこともあって私の周りは相変わらず騒がしい。

 劇場も更に増えて大小合わせて現在五つ。競技場も二つに増えてスポーツの種類もそれに関わる人達も増えて月替わりで色々な催しが開催され、一昨年からスケートリンクが冬場にオープン、貸しスケート靴屋もある。今冬から新たにアマチュアのスピードスケート競技が導入された。フィギアスケートやアイスダンスはまだまだ無理だけどいずれは定着させたいのでウチの運動神経の良いメンバーに協力してもらいつつ、最近はスケートリンクで一緒に滑ってもらっている。

 意外だったのはイシュカとライオネルよりもロイのスピンやジャンプの方が綺麗だったことだ。

 やはり人間というのはどこに才能が眠っているかわからない。


 私もここ数年でだいぶ身長も伸びたのだが、相変わらずレインとの身長差は縮まらない。既にマルビスの身長を追い越してしまったのでマルビスはレインを見て苦笑いしている。私はまだ頭ひとつ分マルビスより低いので『どうか私を追い越さないで下さいね』と言われたが、こればかりは責任が持てない。

 ドッチボールの試合参加以来、ミゲル達と仲良くなって性格的にも以前より少しだけレインも人見知りも治ってきたものの、私の顔を見ると駆け寄ってきて万力のように締め上げる抱きつき癖は治らない。とはいえ最早小型犬のようだとはとてもじゃないが言えない立派な体格と精悍な顔つきは団員の中に混じっても遜色ない。成績も学年三位で一年のうちの三ヶ月ほどを学院で、残りは私のところに押しかけ入り浸り、既にサキアス叔父さんが移動した後の部屋を私室として今は占拠している。

 構わないといえば構わないんですけどね。

 結構オシャレで荷物の多い営業職のミゲルが暮らすには狭いと別棟に移動したので四階の部屋は現在私の婚約者達とレイン(婚約してませんよ?)だけ。私の私室以外の十部屋中四部屋が空いている。狭くないのかと聞いたけど、荷物は多い方じゃないから別にいいと言う。

 確かに女性のドレスと違って比較的男は荷物が少ない人も多いですけどもね。仮にも侯爵家次男、これでいいのだろうかと思いつつ、マシになってきたとはいえまだまだ社交的とは言い難いし、身長が伸びるのが早いからたくさん持っていてもすぐに着れなくなるからたくさんあっても仕方ないという言葉を聞けば納得もする。

 一応私も成長期なんですけどね?

 人と会う機会も多いのでそれなりに複数は持っている。

 洒落者マルビスなんてベッドとサイドテーブル兼事務机以外はほぼクローゼットで壁をほぼ占拠されてますよ? 狭いなら別棟に移ってもいいよと言ったけど、『それくらいなら服を処分します』と宣ったので本人がそれで良いというなら個人の自由。

 イシュカだけじゃなくてここ数年はテスラもパリッとした服装で出歩くことが増えたが、コーディネートが苦手なのは変わらないらしくマルビスに選んでもらった洋服のパターンを着回している。最近ではモッサリ状態で歩いていることも殆どなくて傾国の美女ならぬ美男全開で敷地内を闊歩している。基本的に無愛想なのは変わらないけれど時々見せる笑顔を目撃した人が気絶したとかしないとか、噂の出の出処は不明だがそんな話も聞いているし、ロイも敷地内では滅多に伊達眼鏡をかけることがなくなり、目に毒な色気を振りまいている。

 イシュカもマルビスも勿論カッコイイんだけどね?

 お願いだから変な犠牲者を出さないでくれと願うばかりだ。


 でもみんな少しずつ変わってきてるなあとも思う。

 ガイの貴族嫌いも随分マシになったし。

 以前は閣下と辺境伯が来れば一目散で逃げていたのに今では二人が遊びに来ると時々中庭で打ち合いをしている。

 ヘンリーも含めて獣馬乗りも順調に増え、現在では実に四十二名。

 専属護衛改、アレキサンドリア騎士団精鋭五十名の半分以上はその殆どが獣馬に乗っているのだが私は頑なに辺境伯の馬場には行かず、魔力量の多い変わった姿の獣馬の数がとうとう二十頭を大きく超えて厩舎一棟を占拠しているらしい。

 世間に出回っている獣馬の数が増えて来たのと私がそういう異形の獣馬を乗り回すせいであまり認知されていなかった獣馬も随分と知れ渡るようになり、今では地方にもポツリポツリと獣馬に乗っている人もいるらしいがそれなりお高いので金持ち限定。戦闘職の方々は金貸しも貸し渋りしがちだからだ。団長や私のように一括で支払い、月々の給料から回収するといった手段は一般的ではない。

 とはいえやはり獣馬は相性。

 様々なタイプが増えたお陰で強者であれば獣馬に選んでもらえる者も増えてきたのだが、姿の変わった獣馬は乗り手を殊更に選ぶ傾向があるために売れ残り。

 特に私はその手の獣馬に何故か好かれやすい。

 去年頼むから何頭か引き取ってくれと辺境伯に泣きつかれたが断固として私は馬場には行かなかった。馬型魔獣を捕えるとせっせと辺境伯のところに持ち込んでいることもあって獣馬が増えたのは良いがその弊害もあるようだ。

 仕方がないので近々暇を見て在庫処分市よろしく割引を条件を付けて何頭か引き取ってこようかとも思っている。折角増えてきた魔獣討伐に活躍する獣馬の育成をセーブされたくないし、お世話になっている以上こちらも妥協、協力は必要だろう。ウチには変わった人達が集まってくるのも確かだし、もしかしたら専属以外にも将来有望株がいて獣馬のお眼鏡に適うかもしれないとも考えている。

 ある才能なら是非とも発掘しなくっちゃね。 

 ゴードンも頑張って今は上位十位以内に食い込んできて今では獣馬乗りの一人だ。

 やはり戦術的才能があるようで今は精鋭の中でも一目置かれている。

 

 

 もう二週間ほどで今年も終わる。

 来年春で私もいよいよ十二歳。

 この世界では一人前として扱われる年齢だ。

 そこで今日はイシュカとライオネルと一緒に久しぶりにグラスフィートの冒険者ギルドにやって来た。

 私の持っている冒険者のギルドカードを返納するためだ。

 もともとこれは権力(ちから)を持たなかった頃の私が今の場所から離れなくて済むようにと取得した、もう必要のないものだ。

 これを持っていると義務が発生してくる可能性がある。

 でも今はすぐにそれに応じられる立場にない。

 私以外には義務の発生する等級以上のカードを持っていないのでとりあえずは問題はないだろう。


「久しぶりだね、ダルメシア」

 馬小屋に馬を繋がせてもらい、ギルドの扉を潜ると懐かしい顔がそこにあって私は思わず笑顔になる。

「ああ、そうだな。かれこれ一年ぶりくらいか。

 相変わらずハルトは・・・いや、もうアレキサンドリア侯爵と呼ぶべきか?」

 その名前も随分と慣れてきたけどダルメシアから聞くと違和感がある。

 私は小さく笑った。

「ハルトでいいよ。今更だし」

 ザワつく室内の喧騒を見て、ダルメシアが階上を顎で指し示したので私達はその後を付いて二階へと上がっていく。

 以前はそれなりにお世話になっていた場所だけど随分と懐かしい。

 私が勧められたソファに腰掛けるとその後ろにイシュカとライオネルが立つ。


「それで今日来た理由はカードの返納だろう?」

 切り出す前に言い当てられて私は息を呑む。

 一瞬言葉を詰まらせた私にダルメシアが問いかけてきた。

「違うのか?」

「ううん、違わないけど。よくわかったなあって思って」

 私がそう応えるとダルメシアが苦笑する。

「ハルトは来年から義務が発生する歳だからな。

 侯爵となった今ではそう簡単に領地から動けないことも多いだろ?」

 まさに返納する理由がそれなのだ。

 だけど三年前に比べると動きやすくもなった。

 私を支えてくれる人達がたくさん増えたからだ。

 しかしながら自領のことであるならまだしも他領の要請に応えるのは難しい。

「動けないわけじゃないけど、ちょっと無理があるかな」

 他領の諸事情に領地持ちの私がシャシャリ出て行くのは違う。

「ハルトのところにも冒険者ギルドがあるだろう?

 わざわざこっちでなくても良かったんだぞ?」

 アレキサンドリア領にも確かにね。

 だけどあるのはもとベラスミ領。日帰りはキツイ。

「確かにね。でも屋敷からならこっちの方が近いし、ダルメシアには世話になったからその挨拶も兼ねてだよ」

 そう言って私が懐からそのカードを差し出すとダルメシアはすぐにそれを手に取る。

「案外簡単に受け取ってくれたね。もっと反対されるかと思ったけど」

「まあギルドとしてはお前が在籍していてくれた方がハクはつくが現実的に厳しいというのも事実だ。仕方がない。

 それにこちらから依頼するまでもなくこの近辺で起こったギルドで対応に困るような魔獣関係の仕事は討伐部隊とお前んとこの部隊がすぐに解決に当たってくれるからな。実際、近隣だけに関してだけならあまり問題ないのも事実だ」

 そりゃあ、ね。

 魔獣なんかに暴れられたら観光業のウチは大打撃。

 私が討伐とかでよく使うようなものは常備してるし、緑の騎士団支部のみんなと連携して当たることも多い。

「今度屋敷にも遊びに来てよ。たいしたおもてなしはできないけどお酒と御飯くらいなら御馳走するよ。酒飲み相手になりそうなのもウチには大勢いるから」

「いいのか?」

 酒と聞いて目を輝かせるところは変わってないなあ。

「いいよ。だけどダルメシアがここを辞める時は教えて。私がスカウトに行くから」

「侯爵様が俺をか?」

 侯爵というほどの威厳は私にはまだないけどね。

 私は大きく頷いた。

「そうだよ。優秀な人材は即確保、それが私の信条だもの」

「俺みたいなのは普通面倒がるもんだぞ?」

「なんで?」

 気は優しくて力持ち。

 腕も立つダルメシアを嫌がるわけもない。

 私は首を傾げる。

「扱いにくいだろう? 強面でぶっきらぼう、倦厭されがちだ」

 確かに冒険者達だけじゃなく、事務員の方々にも若干怖がられているような感じがするにはするけれど。

「ダルメシア程度の強面ならウチにもたくさんいるよ。それにダルメシアを苦手だって思ったこと、私は一度もないけど?」

 私がそう言うとダルメシアは一瞬目を点にした後、おかしくてたまらないとばかりに大声で笑い出した。

「そういやあそうだったな。俺のひと睨みで怖いもの知らずの冒険者達もビビるってのにお前は初対面からそんなだった」

「いや、怖いことは怖かったよ」

 戦闘モード入ったダルメシアは迫力あったから。

「だが怖れていなかったよな?」

「だってダルメシアは悪い人じゃないもの」

 まだ私がたいして力を持っていなかったあの頃、いつも親身になって協力してくれた。頼りになる存在だったのだ。

「人は見かけで判断しちゃダメでしょう? 

 ダルメシアの醸し出す雰囲気はいつも優しかったもん」

 大きな手でヒョイッと私を持ち上げて肩車してくれた。

 わしゃわしゃと髪を撫でて私を可愛がってくれた。

 ダルメシアは笑いを止めると以前と変わらず大きな手で私の頭を撫でてくれた。

「外見は大人びてきたがそういうところはちっとも変わってねえな、ハルトは」

 それは進歩がないって言いたいのかな?

 確かに私のこの性格は昔から殆ど変わっていませんけどね。

 微妙な顔をした私にダルメシアが優しい顔で笑いかけてくれる。

「そうだな。だが人を駒として扱わないお前のところでなら働くのも悪くないな」

 何を当たり前のことをいっている?

「人が駒であるわけがないでしょう?」

 だが、と、ダルメシアが一呼吸おいて続けた。

「そう言い切れるところがお前が多くの戦いを生業としている男達に人気の理由だろうな」


 そう、なんですかね?

 私にはいまだによくわからないのだけれど。

 少しは成長したかなって思うのは私だけ?

 変わらない、変わらなくていいってよく言われるのだけれど、このハタ迷惑な性格は少しは変えた方が良いのではと思わなくもないのだが、それでも甘やかされて、そのままが良いと言われると『まあいいか』なんてつい思ってしまうのも事実で。

 だって今のままが良いと言われてしまったら、変わった私が嫌だと思われないとも限らない。ならば調子に乗りすぎない程度でみんなの意見を聞きつつも、随時対応ということで。

 

 自分で戒めつつも甘やかされることに慣れてきている。

 こんな私はそのうちみんなに愛想を尽かされて逃げられやしないだろうかと若干不安を覚えたのだった。



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