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第七十話 悪名上等! 理不尽には決して屈しません。


 衣装合わせも済んだところで普通の格好に戻り、暫くみんなで無駄話に花を咲かせているとお迎えが来たのでダメもとでマルビスとロイの分の審査員席の追加を頼んでみた。

 すると大口スポンサーであるハルウェルト商会代表審査員席ということにしてあるので用意した椅子は二つだけだがそれでも良ければということで私とマルビスが座った後ろにロイとイシュカが立って見学することにした。


 成程、なかなか考えたものだ。

 私個人としての席とするより商会の席とすることで今後の他の商会の参入、寄付を狙ったようだ。

 ハルウェルト商会在籍者からの寄付金は最初に私が入れたものを含めて総額金貨百七十九枚。ダントツトップの金額だ。今後ウチのように宣伝効果を狙った商会が張り合って参入してくる可能性もある。誰の入れ知恵かはわからないが目の付け所がいい。それにはマルビスも気がついたようで、その学院生をスカウトしようと言い出した。勿論、私もそれに異論はない。

 こういう機転が効く人物は貴重で絶対商人に向いていると思うのだ。

 そうでなくても学院生は下級貴族であってもしっかり教育されているか、平民であれば将来有望と判断されたかのどちらかだ。原石であることには間違いない。日々人材が集まってきているとはいえ一般従業員はともかく、営業としての商人、技術職である職人、研究者などがまだまだ不足している。やる気があってウチに来てくれるつもりがあるのなら大歓迎、ウェルカムである。ベラスミが落ち着いたらゲイルにはそういった人材の育成に力を入れてもらいたいところだし、今後のことも考えるなら今いる従業員の中にもまだまだそういう人材(たから)が眠っているならば是非とも発掘したいので、この冬辺りから寺子屋みたいな学習教室も開講予定している。

 こちらの話をしたところ、フリード様の奥様と御母上が協力を申し出てくれた。

 高等部教育は無理だが初等部一、二年程度なら問題ないと。

 ならばその報酬としてアレキサンドライトをお渡しすると約束するとお二人はとてもお喜びになって今から教材作りに励んでおられるそうだ。もともとお近付きの印として敷地内に住まわれている彼女達の体裁のことも考えてマルビスと相談し、プレゼントするつもりであったので詐欺のような気がしないでもないが、向こうからの申し出でもあるし、張り切っておられるならわざわざそれを告げる必要もあるまいと黙っていることにした。

 とにかく従業員の教養の向上についても準備が整った。

 その中から向上心のある者が出てくれば順次それに合わせた教師や講師を準備するつもりはあるけれど、まずは識字率と計算能力向上が優先だ。だが学院在学生ならばその下地は既に出来上がっているわけで、そこから各々の得意分野を見極めて、割り振って育てていくのみだ。

 

 というわけで、周囲への警戒はイシュカに任せて私達は審査員席から品のない言い方をするのであれば物色していたのだ。

 金の卵を。

 こういう舞台にクラスの代表を任されて出てくるということは、人望が厚いか、それなりに人気者であることが多い。人前に出て何かするということにも抵抗がなく、社交的であれば商人として第一関門クリア。更に弁舌が回れば尚良しだ。後は今のウチに必要なタイプの人材であるか否かだ。

 マルビスと顔だけは笑顔を繕いつつ、ヒソヒソと話し合う。時折ロイも口を挟んでくるけれど、ハタ目には審査しているようにも見えるだろう。

 男装コンテストと個人芸披露の審査をしつつ、特別賞も授与し終えたところで休憩が入り、残す審査は女装コンテストだ。人材物色のためにマルビスを審査員席に残してイシュカを護衛にロイと三人、割り込む隙は無いとばかりに仲の良さをアピールし、両手に花を演出しつつ腕を組んで一緒に退席する。勿論マルビスにも去り際に名残り惜しげに思い切り甘えた声で『また後でね』とその肩に手を掛け、囁いておいた。

 これで面食い、年上の男好きの噂でも広まれば御の字だ。

 余計な面倒事は出来る限り一切排除の方向で。

 望みが無いと知れ渡れば側室候補も送り込めまい。

 女の子も決して嫌いなわけではないけれど、考えてみれば仮に私のところに来たとして、実際のヘナチョコぶりを見ていたら周りにいる極上の私の婚約者達に目が行くに決まってる。それは仕方のないことだとわかっていても目の前でみんなに言い寄られるのは面白くない。

 ハッキリ言うなら取られたくない。

 所謂独占欲というものだ。

 我ながらみっともないとは思うけどなりふりなんか構っていられるかっ!

 前世(むかし)なら『どうせ私なんか』と引っ込んで簡単に諦めていたけれど、ロイ達はそんな簡単に諦められる存在じゃない。

 だったら悪知恵絞って悪足掻きさせてもらおうじゃないの。

 人間開き直りが肝心だ。

 それで嫌われたら立ち直れないかもしれないけど。

 それを想像してズシッと頭に十トンの岩が落ちてきたかのように落ち込みはしたが今はとりあえずそんな暇はない。とっとと支部に戻って準備をせねば。

  

 暫くすると舞台の方向から時折ドッと笑いが沸いたり、ほうっと溜め息が漏れたりと騒つく声が風に乗って聞こえてくる。

 なかなかの盛況ぶりのようだ。

 個人芸の方はともかくとして女の子達に面白おかしく笑いを取れというのは『お笑い』というものが根付いていない以上それを求めるのは厳しい。

 そういう文化が広まれば話は別であろうが、戦闘、芸術、文化その他に於いて大概の場合まずは男が目立ち、出張ってくるのが先であることが殆どだ。

 女性の男装姿はほぼイケメン作りに重きを置いていて女子生徒の間ではかなり盛況であったけれど男子生徒の間ではやや盛り上がりに欠けていた。まあ男からすれば女の子達が可愛らしく着飾るでもなく、下手をすれば自分達が見劣りするほどイケメンに男装されてもヘコむだろうし、会場の観客に笑われるなどということを嫁入り前のお嬢さん達にやれというのはこの時代では些か酷というものだ。

 男なら話題豊富で人を笑わせ、楽しませることができる『面白い』という単語は褒め言葉に成り得ても、この時代の女性にとってはそうではない。個人的にはつまらない女と言われるよりもよっぽど素敵だと思うのだけれど、笑われることイコール恥をかくことのイメージが強いのもネックだ。

 コミカルな動きで人を笑わせる大道芸人でも女性の姿は見ない。

 急激な変化が難しいのなら、まず変えるのは男から。

 この世界はまだ男尊女卑の男世界、笑いを取れる面白い男がモテる男の条件の一つとなるのをまずは目指してみようと思うのだ。マルビスにも一番笑いを取った男の子を選んで特別賞を出して欲しいとお願いしてある。

 化粧で化けるのは男も同じ。

 だが、ただ綺麗なだけではつまらない。

 これはお祭りなのだ。

 そして私は観光娯楽産業がメインのハルウェルト商会の(トップ)

 考えてみればここで笑いを取りにいかないのはむしろ恥だろう。


 支部を出る時に支度を手伝ってくれたマルビスに選んでもらった帽子を目深に被り、化粧品と鏡を可愛らしいオレンジ色の鞄に詰め、鮮やかなカーマインレッドの扇を持った時点で華美すぎるそれらに訝しむロイに見送られ、イシュカと二人、個人控室で待っている間に私はロイが施してくれたナチュラルメイクに手を加えていく。ロイの施してくれた薄化粧が気に入らないというわけではないが舞台に立つには些か地味過ぎる。

 目立とうと思うならもっと華やかにしなければ。

 昔取った杵柄というわけではないけれど、男前と言われていた前世で一応女だったので正式な場所に男装で行くわけにも行かなかったから最低限の化粧は心得がある。

 男顔に可愛い、美人メイクは不似合いだ。

 参考にさせて頂いていたのはもと宝◯男役の方々、女の憧れるカッコイイ女メイクだ。勿論私羨望の美しく神々しくも眩しいあの方々に及ぶはずもないのだが、その節は随分お世話になりましたということで。私にない色気を持つ女性とは別に、カッコイイ女性が好きという今の私の女性の好みは考えてみるとあのあたりの影響があるのかもしれない。

 鏡を覗き込みつつ私は唸る。

 やはり二年前と比べると薄化粧では若干男の子感が残ってる。

 まだまだ幼い顔つきとはいえ私も成長しているということか。

 もとがそこそこ美少年なのでそれなりに様にはなっているけれど。

 『そんなに飾り立てなくても充分お綺麗ですよ』と、ロイは言ってくれていたけれど、狙っているのは『爆笑』、綺麗ではない。

 そしてマルビスに用意してもらったこれらは飾りではなく小道具なのだ。

 鏡の前に化粧品を並べて物色する。

 マルビスが選んでくれた物以外にも必要と思われる物を色々詰め込んできたものの、前世と同じようなものとはいかないが基本はあまり変わらない。細い筆とハケを使って残っている男の子らしさを消していく。

 横にいたイシュカが吃驚したように目を見開いて私を凝視している。

 普通に考えれば男の子が手慣れた様子で化粧し始めればそれも無理はない。

「いつの間にそんなことを覚えたんですかっ」

 ウ〜ン、説明が難しい。

 まあここは適当に。

「塗り絵みたいなもんだよ。私、絵は下手だけど色を付けるのはキールにも褒められていたじゃない?」

「そんなものですか?」

 実際はそんな簡単なものでもないんだけどね。

 私はパレットを広げて見せる。

「そんなものだよ。ほらっ、綺麗な色がたくさんあるでしょう?」

「本当ですね」

 イシュカが素直で良かった。

 マルビスならもっと事細かに突っ込んできただろう。

 こうして出来上がった鏡の中の美少女に、最後の仕上げに口紅(リップ)を塗る。

「よしっ、完成っと」

 すると隣にいたイシュカがブッと吹き出した。

 うん、OK。

 欲目贔屓目に曇ったイシュカの反応からすれば充分舞台でも笑いを取れるはず。

「ちょっと待って下さいっ、完成って、それで舞台に上がるんですかっ」

 大笑いというよりも必死に笑いを堪えているといったふうのイシュカが私に向かって尋ねてくる。

「そうだよ? ウケを狙って笑いを取りに行くって言ったでしょ?」

 なかなかにインパクトは強い。

 顔の上半分とのバランスが悪くて尚更笑いを誘う出来だ。

「いくらなんでもそれは・・・」

 私が笑い者になるのが面白くないのか眉を顰めて口籠るイシュカ。

 その気持ちは嬉しいけれどね。

 私は塗った口紅をハンカチで綺麗に拭き取って普通に引き直す。

「勿論最初からこのままでは出て行かないよ。そのために色々と小道具用意したんだから。場がシラけたらそれはそれでいいよ。後は適当に取り繕うから」

 登場からこの状態では間が持たない。

 私は『笑い』のプロではない。

 オレンジ色の鞄の中を整理して、必要なものだけを詰め直しながら続けて言う。

「一応名前は伏せるってことにしてあるからイシュカは付いて来ないでね」

「危険ですっ、私にエスコートさせて下さいっ」

 言うと思った。

 一応狙われている身なわけだしね、仕方ない。

 そのためにドレスのスカートの下の脚にはベルトで私愛用のウェルムの剣を差してある。備えあれば憂いなし、万が一ということもある。

 相手は私の隙を狙っているのだ。

 ベルドアドリの一件からもかなり用意周到に計画が立てられていたことを思えば犠牲を最小限にと考えているなら私から護衛が外れるこの瞬間は絶好の機会だろう。前日までは招待状が必須とはいえ一般客の来場もあった。近衛によって見回り、点検されているとはいえその道のプロに身を潜められたら発見は難しいかもしれない。しかも大人の姿はほぼないとはいえ紛れ込みやすい人混みがある。

 だからといって怯えて隠れるのも性に合わない。

 おそらくこれまでの経緯からしても、向こうも多勢の犠牲者を出してシルベスタ王国全体を敵に回すほど愚かとは思えない。襲ってくると確定してるわけでもなし(まあ私の引きの悪さからすれば楽観視もできないが)、もし、今日のこの状況をどこかで見ているとしたら、こちらが気づいていない、もしくはナメて掛かっているとここで思わせておくのは効果的だと思うのだ。

 舞台の上からなら人混みも見渡しやすいし、僅かとはいえ距離を詰められるにも時間がある。無詠唱で魔法を発動できる私なら危険も回避しやすい。詠唱時間が極端に短いことも詠唱が小声で可能なことも既にバレているわけだし、それもたいして問題なかろう。そのために口もとを隠せる扇も用意したのだ。

「私も注意するし、もし危険を察知したら叫んで? 危ないと思えばすぐに結界を張るから。一応剣も隠し持ってるし大丈夫だよ。

 それにあの人達(・・・・)平民は巻き込まない主義なんでしょ?」

 ここまで用心深く隠している(バレているけど)からにはそう表立って動くとも思えない。そんな馬鹿なら陛下もこんなに慎重にはならないはず。結局ベラスミも平和に見えてまだまだ内政は安定しているわけではないのだろう。無理もない。一国のゴタゴタが一年二年で片付くわけもない。多分陛下もそれがわかっているからこそこの機会を利用して反乱分子を一気に燻り出してしまいたいのだろう。向こうだって自分が全く信頼されているとは思っていまい。それを思えばこの場での大量戦力投入は難しいし、各検問所には特殊部隊人員が配備されている。そこから入り込めば連絡だってくるだろう。

 となれば、この機会を狙うなら潜り込ませられるのはせいぜい一人か二人、多くても三人くらいが限度ではなかろうか。オマケにここは殆どが学生生徒、警備員は国直属の騎士達でそう簡単には入れ替わりも出来ない。内部にいる大人は全て職員。見かけない怪しい顔が彷徨けばすぐにバレるだろう。そうやって様々な可能性を考えて絞り込んでいくならば考えうる可能性は生徒の中に潜り込むくらい。それも顔見知りの運営スタッフ側ではなく客席が妥当だが、これにはもれなく年齢制限が付いてくる。そうなってくると失敗する確率が高くなるわけで、今回仕掛けてくる可能性の方が低いと思われる。

 だがイシュカの考え方は私と違うようだ。

「それも確定ではありません。あくまでも状況を判断した結果です。

 学院(ここ)は街より侵入が厳しいとはいえ部外者が入り込むことができます。しかも今は学院祭、部外者が容易に出入りすることができるんです。だからこそ団長がここに来たんです」

「でも引率で来たって・・・」

「そんなはずないでしょう。あんなものは口実です、明らかに周囲を警戒していました」

 私の言葉をイシュカが遮る。

 思わず目を見開いた。

 成程、気安い口調の割に妙な違和感を感じたのはそのせいか。

 だとすればあの時感じた団長の妙な緊張感の理由も納得する。

 団員達の引率と言いつつも私のいる場所から殆ど離れようとしなかった。

 おそらく裏では陛下が動いているのだろう。私の女装コンテスト出場の話を団員に流布させたのもきっとワザとだ。ミゲルからそれを聞いたであろう陛下が画策したといったところか。

 怪しまれず、警備人員を増強、配備させるために。

 相変わらず腹黒いことでなによりだ。

 だが、

「ならば尚のこと大丈夫だよ。団長の危機察知能力は半端ないし」

 嘘が下手な私や団員達に気付かれぬようにと張った策ならば尻尾を掴める確率も高いということだ。

 団長は周囲の不穏な気配に人一倍敏感だ。

 その団長が動かなかったということは支部に到着して以降、私の周囲にそれらしき影はなかったということだ。やはり生徒の中に紛れ込んでいる確率が高い。

「ですが駆けつけるのが間に合うとは限りませんっ」 

「イシュカッ」

 私は反論しようとするイシュカを制止する。

 それくらいわかってる。

 充分わかってるよ、イシュカ。

 本音を言えば不安だし、恐怖がないわけじゃない。

 でもね、これは多分私が乗り越えなきゃいけない試練でもある。

 私は強がってにっこりと微笑う。


「心配してくれるのは嬉しい。ありがたいとも思ってる。

 でも心配と過保護にするのは意味が違うよ。

 護られるのが当然だと思うのが染み付いたら今後困るのは私。

 おそらくこれから私は暗殺や襲撃されるような、そういう機会も多くなってくる。商会が大きくなればなるほどにね。どんなに注意したって全ての護衛が私から離れる事態はこれから何度だってありえるよ。私は最低でもそういう輩から自分の身を自分で守れる術を身につけなきゃいけない」


 引き篭もり、閉じ籠ったまま生活するなんて考えたくもない。

 そんなつまらない、面白味のない生活なんてしたくない。

 私はこの世界のいろんなところを旅してみたいのだ。

 できるならロイやイシュカ達と一緒に。

 父様が私の屋敷となる領地を守って下さるというなら尚更だ。

 この世界は旅をするのにも危険は付き纏う、安全なんて保証はない。

 それが怖いから、恐ろしいから諦めるなんて冗談ではない。

 私はただ怯えて隠れるなんて真っ平だ。

 思う存分楽しんで、生きたい。

 後悔に塗れた人生なんて二度とゴメンだ。


「大丈夫。イシュカの主人はそんなに弱い男じゃないでしょう?

 多対一なら遅れを取るかもしれないけど、そうでないなら強い相手にもそう簡単に負けやしないってダルメシアがお墨付きをくれたでしょう? その一瞬を凌げればすぐ近くにイシュカも、団長も、少し離れた屋台のところにはライオネルやランス、シーファ達だっているんだからすぐに駆けつけてくれる」

 そう己に言い聞かせながら私は自分に暗示を掛ける。

 私は何も悪いことをやった覚えはない。

 そりゃあ聖人君子じゃないから清廉潔白ってわけにはいかないけれど。

 そんな理不尽を押し付けてくる輩に屈するつもりは微塵もない。

 正当な理由があるなら正面から掛かって来いやっ!

 後ろ暗いことがあるからと、裏で良からぬことを画策するヤツらのためにどうして私が隠れて怯えてやらねばならない? 

 まして周囲の人達を巻き込もうとするなんて言語道断、徹底抗戦だ。

 それが私の大切な人達を踏み躙るようなことであるならば、私は鬼にも悪魔にも、たとえ恐怖の大魔王にでもなってやろうじゃないの。

 悪名上等っ、それで禍が防げるなら喜んでその汚名被ってあげる。

 私の大事な人達が私の味方でいてくれるならそれでいい。


「それともイシュカはそんなヤツらに私が簡単に()られると思ってる?」

「いえっ、そんなことはありませんっ」

 イシュカの即座の否定にホッとする。

 即ちソイツらに一撃で殺られるほど私は弱くないと信じていてくれるということだ。

 ならば迷う必要はどこにある?


「つまりそういうことだよ。

 それにね、一応登場は全員偽名なわけだから狙われるとしても審査員の点数付け終わった後の名前が発表されてからだと思うんだよ。順番も未発表なんだし間違った相手に斬りかかればそこで捕まってジ・エンドなんだから」

 団長が近くにいて忠告も反応もしなかったということは要するに今日ここに到着してから不審人物は少なくともいなかったということだ。

 まあ相手が団長のセンサー(?)を潜り抜けられるほどの手練れならその限りではないけれど、流石に我が国最高の戦力の双璧片割れを誤魔化しきれるとは思えない。逆にいうなら団長の警戒網を突破できるくらいならとっくに襲われていてもおかしくない。

「納得してくれた?」

「・・・はい」

 私がそう問いかけるとイシュカはシュンとして不承不承頷いた。

 頭では納得したけれど、感情では納得できないっていうところか。

「でもありがとう。心配してくれるのは本当に嬉しかったよ」

 そう告げるとイシュカが少しだけ顔を上げたので私は続けてお願いする。


「だからイシュカ、もしもの時は一番に駆けつけて来てね。

 それまで私はなんとしても踏ん張るから。約束だよ?」

「はいっ、必ずや、絶対に」


 私の言葉にイシュカの顔はいつもと同じ凛々しくもカッコイイ騎士様の顔に戻った。

 ならば安心、心強いというものだ。

 イシュカはいつだって、私のピンチの時には最速で駆けつけて来てくれた。

 大丈夫。

 私は私の仲間を誰よりも信じているのだから。


 

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