第六十六話 私の願いを叶えるために。
こうして本年度最後の講義が終わって翌日帰る予定が三日日のびることになったわけだが、久しぶりに味わう学園祭の雰囲気に私は少しワクワクしていた。
王都にいてもやりたいことはあるので問題ない。
そもそも私がいなくても回る仕事が殆どで、じゃあお前がやっていることはなんなのだと言われると痛いところではある。最近はほぼほぼ書類のサインだけではないかと思うこともしばしばで、後は確認作業やお手伝いみたいなもんだ。ただ商会自体が大きいのでその量が膨大だというだけで。
事業主としては自分の商会が今何をやっているのか把握していないのは流石にマズイと思うのでロイが選り分けてくれた書類には一応目を通すようにしているくらいか。
ミゲルの話によると学院の生徒達も多くは御褒美の特別賞目当てに頑張っているらしい。
下級貴族や多くの平民にとって甘いスイーツは滅多に口にすることのできない高級品だ。気合いの入り方が違うらしい。みんなそれぞれに趣向を凝らしているという。
さて、と。
ミゲル達と約束した特別賞のスイーツは何にしよう?
今は季節は実りの秋。美味しいものが目白押しだ。
発売前と約束したからには何か目新しいものを作らねばなるまい。
だがとりあえず食べて終わりでは味気ないので入れ物とラッピングにもこだわって、食べた後にも使える物が残る方がいい。
そういうわけで予備も含めて特別賞三クラス分の合計百二十個のスウェルト染めのハンカチとリボン、長めのワイヤー付きの小さなビーズ細工、後は金属製の蓋付きマグカップとスプーン。要するにカップデザートだ。
用意したハルウェルト商会のロゴ、私のキャラ顔が刻印されたカップの底にクッキー生地を敷き、続いて秋の味覚、サツマイモを使ったスイートポテト生地を投入、最後にチーズケーキの生地を乗せて焼けば横着簡単サツマイモのチーズケーキだ。後は彩鮮やかに上に季節のフルーツを賽の目切りにしてゼリーに閉じ込めて乗せれば豪華に見えるし器ギリギリまで盛れば型崩れもし難い。
これをハンカチの中央に乗せて上で絞り、スプーンを飾りのついたワイヤーで巻くことで蓋を固定して押さえ、最後にワイヤーを隠すためにリボンを結んで完成だ。色とりどりに好みに合わせて選べるようにハンカチの色はバラバラにしてもらってある。
これを後夜祭当日朝、イベント部隊と共にやってきたマルビスに見本として見せるとロイが隣でメモを取っていたレシピを見て即座にその場で登録書類を書き上げて、シーファに商業ギルドまで走らせた。
「相変わらず仕事が早いね、マルビス」
「それが私の最大の取り柄ですから」
まあね。『それだけ』じゃないけど確かに最大はソレだろう。
「私は明日には戻りますがハルト様がお帰りになるのは明後日でよろしいのですよね?」
後夜祭が終わってその翌日にマルビスは撤収作業を終えて戻るが、私は特別賞のスイーツを仕上げて学祭後の休み開けの次の日に配達。お昼直前の食堂に食後のデザートとして配る予定でいる。
「一応そのつもり。これを作って学院に届けなきゃいけないから。配り終えたら速攻で帰るよ。イベント部隊の人達の何人かに手伝ってもらってもいいでしょう?」
マルビスの問いに頷いて答える。
「ええ、勿論。生鮮食品その他材料は明日早朝、こちらに届けるよう手配します」
「クッキーは用意できてるし、一応商会の学院支部に大型冷蔵庫一台置いて置けるかなあ」
朝に運び込んでも昼までは時間がある。
この季節だから傷みはしないだろうけど、こういったものは冷たい方がおいしいと思うのだ。
そう尋ねると私が心配するまでもなく、できる男はアッサリ返す。
「それは既に手配済みです」
さすが、自ら最大の取り柄と言うだけはある。迅速だ。
一歩、二歩どころか三歩、四歩先を行く。
「私はこれから会場設営の監督に行きます。ハルト様がお見えになるのは後夜祭の始まる前ですか?」
「一応昼食後には学院支部に行くつもり。コンテストの準備もあるし」
前もってサイズ確認とかもあるので自分用のドレスは確保済、ロイが簡単な化粧品その他の小物を手配してくれてあるので問題はないのだけれど女装コンテストは最後、一番のトリなので前の一芸披露が終わったところで私はイシュカと一緒に支部に引っ込みロイと準備に取り掛かる。
「それは楽しみですねえ。
必死になって向こうの仕事を前倒しで片付けてきた甲斐がありました」
そういえば二年前、私の女装姿を見損ねて後日談で聞いたマルビスはすごく残念がっていたっけ。
持ち帰っても仕方がないのですぐに古着屋に売ってしまったけど。
確かにあの時は我ながらなかなかの美少女に仕上がっているとは思ったが今現在の私があのクオリティを出せるかどうかは甚だ疑問だ。その私の女装を見るためだけにまさか徹夜で仕事してきたなんて言わないよね?
私がじいいっとマルビスの顔を見上げると明らかに働き過ぎの証がある。
「マルビス、目の下に隈が出来てるよ。ひょっとして来る予定が無かったのに今回来たのってまさかそのためとか言わないよね?」
「他に何があるんです?
ああ、勿論貴方に一日でも早くお会いできるのも嬉しいですけどね」
相変わらずよくまわる口ではあるけれど、
「そんなオマケみたいに取って付けたように言われてもねえ」
「まごうことなき私の本心ですよ?」
それもあるのかもしれないけど。
マルビスの軽口に適当に相槌を打ちつつ送り出す。
「わかってるよ。じゃあ準備頑張ってね。ミゲル達も待ってるから」
「承知致しておりますとも。
今後の商会従業員獲得の向けての宣伝にもなりますから景気良くいきますよ」
「頼んだよ。万年人手不足を早く解消しないとね」
そう、手を振って見送りはしたがガイが聞いたらきっと、『無理だ、無理っ』って言うんだろうなあと考えた。
出かけた先々で余計な仕事を増やしては帰ってくるを繰り返している結果が今の現状を作っているわけで、好奇心旺盛でそこら中に首を突っ込んで回る癖を治さない限りガイの言葉は正解なのだろう。
のんびりしたいと言いつつ動き回っているのがこの私。
結局貧乏性が染み付いているのだと思う。
私は暇が出来ても長くはのんびりとしていないような気もする。
前世でも格安航空券や高速バス、普通列車を使っての貧乏旅行や温泉巡り。
それでも楽しかったのだ、それなりに。
贅沢なんてできなかったけど、初めて見る景色はいつも私をワクワクさせてくれていた。
「ねえ、ロイ。仕事が一段落したらやっぱり私、他の領地も見てみたいなあ」
少人数でふらっと出掛けて。
立ち寄った町や村で安い屋台料理を買い食いして歩く。
「近隣だけじゃなくってことですよね?」
ロイが確認するように尋ねてきた。
私はそれに頷いて答える。
「そう。だって領地と爵位持ちになったらそんなに簡単に旅行も行けなくなるでしょう?」
領地管理は爵位を持つ者の務め。
そりゃあ領民ほったらかして王都に住んでる貴族もいないわけじゃないけれど。
私の私有地に住むみんなは私の大事な仲間でもある。
成人と同時にって言ってたから残された時間は後六年と半年。
いろんなところを回って、私が生まれ変わったこの世界を見て回りたいと思うのだ。
きっと私がまだ知らないたくさんの世界が広がっている。
そう思って感慨に耽っているとロイがあっさりとそれをブチ壊す言葉を口にした。
「行けますよ? 旦那様が御長男のアルフォメア様に家督を正式に譲られたら」
へっ⁉︎
どういうことっ?
アル兄様が家督を継いだらってことは、アル兄様が来年の春に卒業で、再来年には成人。通常それから二、三年父様の補佐のもと修行して、多分ミーシャ様が成人すると同時に輿入れする予定なわけだから、要するに私が成人する少し前には完全に父様から家督を継ぐことになるはずで・・・
「お忘れになりましたか? 旦那様は陛下の命を受け、隠居せずにハルト様のものとなる領地管理をして下さると仰っていたでしょう?」
ロイの言葉に私は思わず目が点になった。
陛下のと言われて思い出したのは二年前の冬、グラスフィート領で起こった不祥事。キャスダック子爵の違法麻薬栽培及び密輸事件。それを揉め消すための陛下との約束。
「あっ、そっか。そうだった」
微笑してロイは小さく頷いた。
「御自分の仕事の合間をぬってハルウェルト商会の管理する土地の管理、経済状況その他に旦那様は目を通されています。ハルト様が少し長いくらいの御旅行でしたらしっかりと管理して下さると思いますよ?」
あの事件がキッカケで運河、水道の建設工事が始まり、ベラスミでの様々な事件を経て、今は開発も採掘も順調に進んでいる。
「旦那様はよくハルト様はもっと世界を見て回るべきだと仰っていました。
そうすれば自分では考えも及ばぬようなことをしでかし、この世界をもっとより良く、豊かに変えられる可能性を秘めていると。だからこそ旦那様のできることは旦那様が、ハルト様はハルト様にしかできないことをするべきだと。財政にゆとりがある今なら積極的に有望な人材を増やし、育成、管理することもできるから心配はいらないそうです。
貴方の提案した奨学金制度も来年度から始まります。
これからはより多くの学院卒業生がグラスフィートの土地に根を下ろすことになるでしょう。ハルウェルト商会ほど働きやすく、従業員を大事にしているところは他にありませんからね。
おそらくその中の何人かを旦那様は貴方や御自分の補佐を出来る秘書などの教育を施すおつもりのようです。私が秘書の仕事に専念できるように貴方のお役に立てる執事の数をもっと増やせと。来年の学院卒業生から希望者の何人か私が教育をすることになると思います。メイド教育は旦那様の屋敷にいるリザ達が請け負ってくれるそうです。
ですから貴方はもっと自由に行動なさってよろしいのですよ?」
ロイの言葉に父様が本気で将来私のところに来て働いてくれるつもりなのだと知る。
そりゃあそれが陛下との約束で、心強い味方が私も出来るって喜んでいた。
でもそこまでしてくれるなんて思ってもみなかった。
留守の屋敷や施設の管理、手伝いや助言をしてくれて、協力してくれるだけでもありがたいくらいだし、それは本来私の仕事なのだ。なのに父様は私の領主となった時の領主としての仕事の殆どを自分が請け負うつもりなのだと知った。
以前父様は言っていた。
私に今からでも領主の仕事を教えることもできるけどそれでは勿体無いと。
事実、父様は私が爵位を賜った最初の頃にはよく自分の管理する土地の決算書などには目を通せと言っていた。だけど実際にはその殆どはマルビスやゲイル、ビスク達が担当してくれていて、私は忙しさにかまけて実行できていない。それくらいの時間が取れないわけではないけれど、それを言い訳にして任せっきりで、マルビス達に任せておけば間違いないと回ってきた書類にサインをするだけで。
それを父様は知っていたはずなのにあの頃から父様はその言葉を口にしなくなった。
父様にもできる仕事。
私にしかできない仕事。
だからもっと世界を見て回るべきだと父様は言うのか。
私に変えられるかもしれない現実があるからと。
「・・・みんな、私に甘いよね」
本当にそう思う。
やれと言われて当然の仕事を私はみんなに助けてもらってなんとか片付けているのだ。勿論サボっているわけではないけれど、全部やれと言われても仕方ない仕事。だけど考えてみればハルウェルト商会は国内最大規模の企業、本来であれば私に回ってくる書類があの程度で済むわけもない。
私がポツリと言った言葉にロイが微笑う。
「それは貴方が皆に優しく接しているからこそですよ?
人と繋がりというものはそういうものでしょう?
私は昔それを旦那様から、今は貴方からそれを学んでいます。
甘やかすのではなく、人として対等に接することで貴方は多くの人との信頼関係を築いてきましたからね。
言葉だけではなく、行動で。
それを見ているからこそ皆、貴方について行こう思うのです」
やっぱり甘いよ、甘すぎだ。
私はちっとも優しくなんてない。殆どが自分の都合で動いてる。
見も知らぬ他人ことなんてちっとも考えてなんかいないし、優しく見えるのは親しい人達に嫌われたくないからこそで、結局ビビリで見栄っ張りのカッコつけなだけなのだ。
全員に優しいわけでは決してない。
「でもちゃんと働かない人は容赦なく給料下げたり追い出したりしてるよ」
私は施しなんてしない。
「それは当然です。貴方は彼らの親ではなく、雇用主なのですから。
けれど一生懸命働けばちゃんと貴方は努力する者を評価して、才能あるものは掬い上げ、チャンスを与えてこられたでしょう?」
「それは普通でしょう?」
真面目に働いてくれる人達に長く働いてもらうには大切なこと。
ウチは常に人手不足だ。そういう人達に逃げられてしまっては途端に立ち行かなくなってしまう。才能ある人達が働きやすい環境を作るのも商会のため。彼らの力があればこそここまでハルウェルト商会は大きくなった。商会を大きくしてきたのは私の力などではなく、彼等と彼等を支える商業班の功績だ。
私がしたことは働きやすい環境を整えるための提案くらい。
彼等が得意なことに専念できるように、売り込みが苦手な者にはセールスできる者を、経理が苦手な者には経理担当を、素材、原料集めが下手な者にはそれを手配できる流通ルートの確保できる者をと、各自が自分の得意分野で腕をふるってもらえるよう、マルビス達にお願いしただけだ。
職人には口下手が多いし、平民には簡単な計算も覚束ない者も多い。
職業適性は人によって様々だ。
ロイの言うような立派なものじゃない。
だけどロイはそれに大きく首を振った。
「いいえ。大概において平民は権力、財力にある者に使い捨てのように扱われ、才能あるものは利用され、押し潰されていくことが多いのです。
成功を掴めるのはごく僅かな限られた者だけ。
ですがハルウェルト商会ではどんな小さな才能も余さず拾い上げ、活躍できる場所が与えられる。才能が枯れても、失敗しても真面目に働く限り最低限の生活が保証されている。そんなところはシルベスタ王国広しといえどハルウェルト商会以外皆無に等しいです。
チャンスを掴んでも成功できる者はごく僅か。失敗すれば借金を背負って野垂れ死に、家族はその返済に追われて身を落とすことが殆どなのですよ。おそらく貴方がお考えになられているよりも、もっと過酷で厳しい現実がそこにあるのです」
そうかもしれない。ロイの言うことは事実だろう。
どこの世界でもそれは一緒。
自分はどんなに不幸だと嘆いたところでそこは最底辺ではない。
上を見てもキリがない。でも下を見てもキリがない。
前世の私もイジメられ、父母にタカられ、いいように周囲に利用され、贅沢な暮らしなんて夢のまた夢だったけど幸せだと思える瞬間は確かにあったし、世界を見渡せば明日どころかその日の食事にも困る人が大勢いた。ただ生きるのに必死でそれを不幸だと思う暇もなく暮らしている人がいた。
でも幸せな人達をみればどうしたって羨ましくなる。
どうして私がって思ってしまう。
惨めになりたくなかったから強がって、私は大丈夫、負けるもんかって思った。
ここの世界に転生してからも同じだ。
兄様や妹達にかかりっきりで放って置かれて育ったけど食べることに困らないだけ幸せだって、寂しくても一人は慣れてる、たいしたことじゃないって言い聞かせてた。
底辺じゃないから我慢しろと言われたところで上を知れば嫉妬心もわく。
今が幸せだと思っている私も、お前はもう散々最高の幸せを味わったのだからもういいだろうと全てを取り上げられ、一人孤独で放り出されたら多分もう生きていけないような気がするのだ。
お金も屋敷も、地位も名誉もどうでもいい。
だけどロイ達を全員取り上げられてしまったら、寂しくて、淋しくてきっと耐えられない。生きていける自信がない。そういう意味では弱くなったと思うのだ。ロイ達がいてくれるから、ロイ達を守りたいと思うからこその今の自分がある。
結局のところ、私は全て自分のために動いているのだ。
私がなんとなく後ろめたくて俯いていると更にロイが続ける。
「今、貴方のあの土地にはそのチャンスを掴もうとする多くの若者が毎日のように集まってきています。人手不足を貴方はよく心配なされていますがそれが解消するのも時間の問題でしょう。そしてそれに焦った他の経営者達はやがて少しずつ貴方に倣い、変化を求められることになります。
そうしなくては優秀な人材は手に入らない」
一生懸命に働く人達が正しく評価され、才能ある人達が存分に腕を奮うことのできる環境。
それは何よりも私が望んでいたものだ。
頑張っても頑張っても、より若く、より可愛くて綺麗な女の子達が優遇される環境が私は妬ましかったのかもしれない。自分が作り上げたものを出来上がる寸前で取り上げられ、上司やそんな女の子達が評価される。しょうがないと思いつつ悔しかったし、正直恨めしかった。例えるなら自分で一生懸命にタネから作ったケーキを飾り付けを残したところでバトンタッチ、私の作った土台はどんなに美味しかろうと認められないみたいな環境が当たり前としてまかり通っていたのを張り付けた笑顔で繕いつつ、いつもどうしてって心の中で叫んでた。
多分、前世の私はロイの言うような使い捨てられていた側の人間だったのだ。
だからこそ許せなかったのかもしれない。
才能ある人達が、頑張っている人達が認められない環境が。
つまり私がやっていることはタダの自己満足に過ぎないのだ。
「この時代はおそらく、貴方によって変化させられていく。
真面目に働く者が、正しく評価される。そんな世界に。
貴方が貴方のままでいらっしゃっていて下さる限り、この国は貴方の下から変わっていく。
旦那様も、私も、マルビスやテスラ、イシュカ、ガイやキール、サキアス達やハルウェルト商会の従業員達、そしておそらく陛下も。それを信じ、期待しているのだと思います」
・・・・・。
「私にそんな大それた力はないよ」
過大評価もいいところだ。
そんな期待を寄せられたところで私に応える術はない。
そう呟いた私の頭の上にポンッとロイの手が乗せられて私が僅かに顔を上げると、腰を屈め、目線を合わせてロイが言う。
「そうかもしれませんね」
そうだよ、私にそんな大それた力はない。
拳をギュッと握り、唇を噛み締める私にロイが囁く。
「ですがそれで構わないのですよ。
貴方にその力があっても、なくても。
私はいつも言っているでしょう?
そのままの貴方で良いと。
時代が勝手に貴方に合わせて変わっていくのですから放っておけば良いのです。
貴方が変わる必要はありません。
そして仮に時代が変わらなかったとしても関係ありません。私達が貴方が大好きで、ついて行きたいと思っていることに変わりはないのですから」
それはロイが何度も何度も、私が自信を無くしそうになるたびに囁いてくれた台詞。
私は私のままでいい、変わる必要はない。
そのままの私が大好きなのだからと。
なのにやっぱり自信が持てないままで染みついた僻み根性と自信の無さは相変わらず。治したいと思っているのになかなか治せない。
そんな私の握り締めた拳をロイは大きな手で包み込んだ。
「ですから私は頑張って長生きしようと思います。
できるだけ長く、できるなら最期の時まで御一緒したいですから」
私より十七歳も年上のロイ。
私がそれをお願いした時、ロイは自分が私より何歳年上だと思っているのだと言った。
滅多に我が儘を言わない私の願いを叶えるために努力してくれるって。
「御一緒、させて頂けるのでしょう?
貴方はそう私と約束して下さいましたから」
嬉しかった。
自分でもあの時無茶なこと言ってるってわかってた。
その言葉が嬉しくて、あふれた涙で滲んで前が見えなくなった。
そんな私の涙を持っていたハンカチで拭いてロイが微笑う。
「さあ、早めに食事を済ませて学院に向かうのでしょう?
今日も一緒に頑張りましょう。皆が貴方を待っていますよ」
そう言って差し出された手を私はギュッと握って歩き出した。