第五十九話 大きな子供の扱い方は?
「学院祭への寄付金の相場?」
聞き返した父様に私は大きく頷いた。
早々に訓練場の使用許可をもぎ取ってきたミゲル達は翌日から募金箱を抱えて昼休みと放課後の下校時間に寄付金の呼び掛けをしていた。
あのミゲルが、である。
本当に随分と丸くなったものだと思う。
やはり子供というのは環境に染まりやすい。何か夢中になれるものを見つけると脇目も振らずに必死になって行動することが多いものだ。それが一生仕事になる子供も少なくない。勿論途中で飽きてしまう子供もいるけれど変化の激しいこの仕事がミゲルを飽きさせるほどの暇を与えてくれるかどうかは疑問だ。
もともとバカ王子ぶりを発揮していた頃からその行動力は見張るものがあったし、じっとしていることが得意でないようなので王様よりもミゲルの性に合っていたのかもしれない。
「ああ、そちらでしたら確かに私よりも旦那様の方がよろしいでしょうね」
らしくなく、やや拗ねたような顔をしていたマルビスも父様にと私が言った理由に納得したようだ。
どうも私が真っ先にマルビスを頼らなかったのが面白くなかったらしい。
「ミゲル達が学院祭で上級貴族と別口で下級貴族と平民のためのパーティを企画してるんだよ。国から資金援助が出ないんで寄付金と募金で賄おうとしてるみたいだから少しは協力しようかと」
何をするにしても資金というものは掛かる。安くあげようという努力は必要だろうが湯水のようにお金が湧いて出るものでないのだから。
なのに私の部屋には何故か湧くどころか滝のように流れ落ちそうなほどにあるのは摩訶不思議ではあるのだが、まあそれはこの際傍に置いておくとして、たくさんあるからとほぼ無関係の人達に全部出資するというのは道理が違うし、ただ与えられるものを享受してやりたい放題やらせてはためにならない。怠けることを一度覚えてしまうと後になって苦労するものだ。
だが、貴族令息令嬢にあってこちらにないというのは不公平。
釣り合うまでは行かなくても限られた範囲の出資なら許容範囲だろう。
私の質問に父様は記憶を掘り返しているのか顎に手を添えて首を傾ける。
「特に規定はないが、今は王子達が在籍されているからな。国からも陛下の名で寄付がされている。大概それ以下であることが多いだろう。多すぎては陛下の面目を潰してしまうからな」
つまりはフィア達が卒業してしまうと全くないというわけではないだろうが国からの援助が削られる可能性もあるわけか。
「それで陛下からは幾らなんですか?」
「おおよそ金貨百枚ってところだな。それ故貴族は五十枚以下であることが殆どで、多くても八十枚を超えてくることはない。寄付もほぼ裕福な領地だけだ。その年によっても違うが参加する子供全体の三割以下か。一般的な金額は金貨十枚から二十枚が妥当だ。当日の料理や警備員の増強手当も経費として掛かってくるからな」
なるほどねえ。
王子御出席となればそれなりの警備体制も必要になるが故の寄付ってことか。
それに伴って陛下の覚えを少しでもめでたくしようと寄付する輩も出てくるわけで。
別口のイベントってことだからそんなに気を使う必要もないかもしれないけれど、世間一般に合わせた方が間違いはなさそうだ。
「そうなると私も多くても金貨五十枚くらいが妥当かな?」
「決まりはないが適当ではあるだろう。国内最大規模の商会の代表で伯爵位持ちでもあるしな。ウチも去年から二十枚ほど寄付している」
父様より多いっていうのも問題あるかとは思ったが、確かに私には同じ伯爵位の他にも父様にはない商会トップという肩書きもあって、その窓口を学院に開いている。
するとマルビスが難しい顔で唸る。
「ですが下位クラスの貴族と平民では寄付金もそう集まらないでしょう」
「おそらくな。最初というのもある。それらを経験した卒業生や在校生が増えてくれば状況も変わってくるかもしれないが現状、厳しいだろうな」
つまり私の寄付金五十枚では到底足りないってことなのかな。
考えてみれば普通身分階級というものはピラミッドの如く上にいくほど数が少なくなるわけで、おそらくそのパーティに出れない、もしくは出られても肩身の狭い思いをしている子供が多いということだろうか。
詳しく聞けば全校生徒数は高等部まで入れると千五百人前後、うちパーティに参加していたのは五百人にも満たないことが殆どで、要するに三分のニ以上があぶれて会場に入れなかったわけだ。思っていたよりも随分と少ない。しかもそこで肩身の狭い思いをしていた子供も多かったわけで、一昨年までは兄様達もそうだったようだ。
そうなってくるとこの壁際にいた子供達を含めた、およそ四分の三近くの千人越えの子供が参加してくる可能性もあるというのだ。
だがどちらにも参加しないという選択肢もあるだろうと言うと、私が関わっている時点で参加率は間違いなく上がるだろうと言う。何故かと問えば幾つもの娯楽施設を手掛けていれば当然期待値も高くなるし、私自身のネームバリューというのも加味すれば予測するまでもないと。
そうなってくると私の寄付金金貨五十枚程度では全然足りないというわけだ。
いや、そんなところまで期待されてもと言いたいところではあるが、確かに私が逆の立場でも行くだろうなと思ったので口を噤んだ。
私が頭を抱え込むとマルビスが思いついたとばかりに口を開いた。
「ではこうするのは如何ですか?
ハルト様から五十枚、商会から事務局開設記念で四十枚、ウチにいる卒業生有志から三十枚。おそらくそれだけあれば随分と運営も楽になるはずです」
要するにウチから金貨百二十枚用意はするが、名目上の出所を分けることで国の面目も潰すことなく資金援助できるというわけだ。
「後はそれが楽しかったと思って頂ければ以降は資金集めも格段に楽になるはずですし、成功すれば以後国や執行部からの援助金や予算も割り振られるように働きかけ、それが大多数の意見となれば考慮もされるようになるはずです」
確かにマルビスの言う通りではあるのだが、それって結構ミゲル達の責任重大ではないか?
下手すれば次回以降の資金援助は望めなくなる可能性もあるし、学院側からも『ほらみたことか』と匙を投げられ、かなりの苦境に立たされることになるだろう。
だが、やらせないという選択肢はない。
失敗を恐れていては何もできなくなってしまうからだ。
ミゲルにはそれでへこたれるような男になってほしくはない。
将来我がハルウェルト商会の企画営業部を背負う男に育ってもらわねば。
たかが金貨百五十枚程度の失敗などで弱気になられては困る。
それに見合う経験が積めるなら安い買い物というものだ。
人は資金無しでは育たない。
成功すれば御の字、失敗してもそれを教訓に是非とも強い男になってほしい。
ウチの企画の規模は動く金額も桁が違う。
失敗上等、そこから学んで次こそはと張り切ってもらわねば。
私は大きく頷いた。
「後、商会運営に協力してくれているミゲル達にも給料支払いたいと思うんだけど」
「メインで動いてる、商会に出入りしているのはミゲル様も入れて全員で十名ほどということでしたね」
ミゲルの友達も増えてはきたけれど、やはり一番最初にできた友達というのは特別なようで何かやるにしてもその頃からの友達とつるんでいることも多い。
マルビスは少し考えてから答えてくれた。
「そうですね。昼休みと放課後合わせて一日平均三時間くらいですか。そうなると三日で一日の日当相当、一ヶ月で金貨一枚と銀貨七枚ってところですが成果給を入れて金貨二枚、それが三ヶ月ですから一人当たり金貨六枚と言いたいところですが就職前の見習いの見習いとなりますと三割引いて金貨四枚で。特別ボーナスで割り増しにしてあるので次回は期待しないようにと伝えて頂けますか?
学院生の内から貰いすぎて贅沢を覚えるとウチに就職してから大変になりますからタイラ達にこれからしっかり時間給を計算させましょう」
確かにお金がもらえるとなれば名前だけ席を置き、ねずみ算式に人数が増えてはアルバイト代も嵩むし、経費が掛かる。赤字経営仕方無しという部所であっても真っ赤っ赤では困る。
「あそこは商会の未来の従業員が商会経営や運営を学ぶための養成所も兼ねていますから基本的にウチに就職予定の者だけに絞り、これからはタイラ達に面接、指導させましょう」
やはりマルビスも同意見のようだ。
「相談したいというのはそれだけですか?」
私がわざわざ帰ってくるぐらいなのだ、そんなはずはあるまいとばかりの視線が向けられる。
それはあながちハズレではない、ハズレではないのだが。
「実はもう一つあるんだけどそれは緊急ってわけでもないし。
学院祭まで時間も限られてるし、早い方がいいと思って。ミゲル達が頑張ってくれれば商会の評判も良くなって就職希望者も増えるかもっていう下心も勿論あるんだけど」
私の言葉にマルビスが頷く。
「宣伝料も兼ねてというわけですか。
ならば料理を用意するとなると豪華な宮廷料理は手配も難しいでしょうからウチの屋台でしたら一月以上前の早めに申し出てくだされば何店舗か手配できると思いますよ? 協力をお願いされた場合には御相談下さい。
物にもよりますので予算も概算でよろしければ明日にでも計算させますよ」
「じゃあ念のため用意しといて? タイラ達にさりげなく渡しとく」
私からというとまた話が変な方向に転びかねない。
学院の方はあくまでも影ながらという位置にできる限り徹したい。
「承知しました。ではお帰りになる前までに商会と有志の方の寄付金の方は用意しておきます」
「商会の方だけでいいよ。有志の方は私が出しとく。
一応商会事務所に形だけでも張り紙した募金箱用意しといて?」
疑われないための下地は用意しとくべきだろう。
「ではそのように」
「一応明日私有地内の商業ギルドと討伐部隊の支部の方にも置かせてもらえるかイシュカと一緒に行って頼んでみるよ。寄付金が入っても入ってなくてもいざとなったらそこから寄付金集めたって名目で追加で増やせるから。折角ミゲル達がやる気になっているんだもの。最初くらいは応援しないとね」
実際頑張ってくれてるし。
「それではウェルトランドのチケット売り場にも置いておきますか」
「そうだね、形だけでもそうしておけば追加支援の理由ができる」
気まぐれに一人銅貨一枚でも募金してくれたら十人で銀貨一枚、百人なら金貨一枚だ。
あまり期待はしていないがひょっとしたらということもある。
「それでもう一つというのは?」
話がそのままだったんで忘れているかと思っていたのだが流石はマルビス。
しっかり覚えていたようだ。
講師業でしか殆ど関わっていないとはいえ校内を歩けば目に入る景色もある。
おそらく実際にそれをやるとしたら陛下と学院長の許可は間違いなく必要となるだろう。
私は息を吐くと思い切って口を開く。
「奨学金制度を作りたいんだ。才能ある子供に無利子無担保で貸し付けて学業に専念してもらい、将来ウチで働いて借金を返済してもらう制度を」
テストの順位表などを見ると平均すると下位であるのに、一科目だけなら飛び抜けて優秀な子供がいる。
他にも学業はともかく部活動などで異才を放っている子供も。
だが全体の平均で見れば埋もれて評価されない子供。
「成績上位者であれば国から援助金が出るけど、それ以外の子供って結構生活苦しい子供も多いみたいで。
ウチの商会に興味を持ってもらいつつ、そういう子供を救うためにアルバイト斡旋業務を始めたわけだけど、そういう手先の器用さとは別の才能を持った子供を拾い損ねてるなあって気がついたんだ」
その多くは平民になるけれど。
彼等は貴族の子供のように幼少期から教育されるわけではない。
だが特別な何かの才能を持っているからこそ入学を許された子供達。
「国の要職に就くにはある程度の文武両道が要求されるでしょう?
だけど私達に必要なのは一芸特化型の何かに秀でた人間、全てが優秀である必要はない。そういう子供達が家の借金や働き手不足、生活費の工面が出来なくて潰れていくのは勿体無いと思うんだよ」
不器用故にウチの用意した単純作業も難しい。
だけどそれとは違う才能を持っている貴重な人材。
その子供達を是非とも確保したいのだ。
「ある程度の契約とか規則とかの検討は必要だとは思う。
だけど私の部屋にある山ほどの金貨もただ眠らせておくだけじゃ芸がないし、仮にその子達の才能が開花しなくてもウチで働いてもらえるなら給料天引きで回収できるから損はないでしょう?
将来的に商会の戦力を獲得できるなら、それも悪くないかなあと思って」
子供に借金を背負わせるのは些か気が引けるけれど、ウチにはいろんな仕事がある。真面目に働いて、いろんな仕事を経験して、自分に合った仕事に就いてくれるなら悪くない思うのだ。
夢が叶う保証はできないけれど、追いかけるチャンスくらいはあっても良いのではないかと思うのだ。
私の話を黙って聞いていたマルビスが楽しそうに笑う。
「またそれも面白い提案ですね。悪くないと思いますよ。
少なくとも将来的に働き手を一旦は確保できるわけですし」
それもある。
事業展開が早すぎるせいでウチは常に人材不足。
正直、借金返済までの数年だけ働いてくれるだけでもかなり助かるし、その間にウチを気に入ってそのまま居着いてくれたら尚良しだ。
法外な利息を払わせて儲けようってわけじゃない。
ひとつの選択肢として用意できたらと思うのだ。
「ただひとつ、心配なことはあるんだよね」
すっかりノリ気のマルビスに溜め息をひとつ吐いて呟く。
「なんですか?」
「そうなると益々ウチが奇人変人の集まりになって、商業部門のみんなの頭が間違いなくハゲ上がりそうだなあって思ってさ」
首を傾げるマルビスにそう続けると一瞬だけ目を点にして、その後大きな声で笑い出した。
いや、そんなにおかしなことを言ったつもりはないのだけれど。
余程ツボにハマったのかマルビスがなかなか笑い止まずに目尻から笑いすぎて涙を溢しつつ答えた。
「大丈夫ですよ。ウチの部門のメンバーは商魂逞しいのでハゲる程度ではへこたれません。
そんなヤワな神経ではウチではやっていけませんしね。
目の前の儲け話と己の胃痛の二択を迫られれば間違いなく儲け話に飛びつくような者ばかりですので」
確かにそうかも。
「ですが、そうですね。ベラスミのバードやタッドのような人材を早急に確保した方が良いことは良いでしょうね。なかなかそれが難しいところなのですけど」
だよねえ。
彼等はある意味非常に有能且つ貴重なウチの人材だ。
曲がりなりにもベラスミの工期が順調に進んでいるのも縁の下の力持ちであるあの二人の存在が非常に大きいと言っても過言ではない。あの変人達をあれだけ上手く使える彼等もある意味立派な変人だと思う。
何故ああいう一芸特化型の人達はああも扱いにくいのか。
だからこそ通常と違う才能を発揮できるのか?
現在外見子供の私が言うのもなんだが本当に小さな子供を相手にしているみたいだ。夢中になると周りが見えなくなって、興味を持ったものには脇目も振らずに突進する。私も似たところはあるけれど、私の場合は天才ではなく、単に集中し過ぎてるだけなのだが。
・・・・・。
いや、待てよ?
子供、そう、子供なのだ。
図体がデカくて頭が回るだけの大人の形をした子供。
だとしたら・・・
「今考えたんだけど、子沢山の母親とか結構適任じゃないかなあって思うんだよ」
いきなりの私の言葉にマルビスだけじゃなく父様までもが目を丸くする。
以前にサキアス叔父さんを扱い兼ねているロイに私がしたアドバイス。
叔父さんを頭の良い子供だと思って接してみたらって言ったのだ。
「サキアス叔父さん達みたいな専門バカの人達って行動が子供っぽいところがあるでしょう? だから男の人より女の人、逞しくも素敵な女性が向いてるんじゃないかなあって」
所謂肝っ玉母さんというヤツだ。
度胸があって肝が据わってて、逞しくも凛とした強さを持った御婦人。
思い当たるところがあったのか父様が頷く。
「なるほどな。確かにそうかもしれんな」
父様の言葉にマルビスが思い出したように呟く。
「そういえばキールの母君も寮母として女の子達の相談相手になってくれているのでとても助かっていますね」
そうなのだ。
ウチには訳アリの子供が多い。
そんな子供達のいい相談相手になってくれている。
ここには大人の男は多いが大人の女性は通いが多いのですごくありがたい存在だ。
「稼いでくる父親がいなくなると小さな子供を抱えた母親は子供を守るためにいろんな意味で強く、逞しくならないと生きていけないからね。そういう女性ってカッコ良くて素敵だなって思うよ。
母は強しってヤツだね。
勿論、変人達の世話となれば本当の子供と違って力もあるから警備と組ませたり、複数で交代して面倒みてもらう必要はあると思う。ある程度こちらから権限持たせて身を守れるようにしたりとかの配慮は必要だとは思うけどね」
会ったばかりの頃はガリガリに痩せていたけれど、今ではすっかり肉付きも良くなってなかなかのナイスバディの美人さんだ。シングルマザーの未亡人は男性諸君からも人気が高い。
「逞しくも素敵な女性、ですか」
「食品工房のお姉様方達もそうだけど、私、ああいう生命力に溢れてる女性って大好き。魅力的だよね」
あちらは旦那、子供付きで少々ふくよかな人も多いけど、明るく、優しく、面倒見が良い尊敬すべき御婦人達。
ああいう人がいてこそ職場が上手く回るのだ。
男性では出来ない気遣いや心配り。本当に素敵だと思う。
それは若い女性とは違う魅力。
女の人にはその世代に見合った魅力がある。
子供であれば無邪気な愛らしさ、うら若き女性なら瑞々しい輝くような美しさが、歳を重ねていけば内面から滲み出る温かさが、年配になれば人生を生き抜いてきた歴史が作る穏やかさが。
そりゃあ全ての女性がそうだとは言わないけど。
「・・・なかなかマニアックな趣味をなされていますね、相変わらず」
確かにまだ二十歳そこそこのマルビスには理解しにくいかもしれない。
女は若い方が良いという人も多いし、一定以上の年齢になると女性として扱われなくなる人もいる。実に失礼だと思う。何歳になっても女性は女性、そういうふうに扱わない男が多くなるから女性らしさが少しずつ抜け落ちていってしまうのではないかと私は考えている。
実際、こんな子供の姿の私にもちゃんと女性として接すれば、照れて真っ赤に頬を染めたりして可愛らしい一面を見せてくれたりする。
だからこそ思うのだ。
女性は女性として扱われてこそ女性らしくもなるのではないのかと。
「そうかな? 勿論ミレーヌ様みたいな女性も大好きだよ」
あの人は私の憧れだ。
こうなりたかったという前世の私の理想の姿。
「まるで逆のように思えるのですけど」
ポツリともらしたマルビスの言葉は残念ながら世間一般の男性陣の声だろう。
特に貴族や上流階級の間では女性は美しさが重要視されがちだ。
女性は社交界を彩る華とされるからだ。
外見が美しいから心まで美しいとは限らない。
両方揃っていれば当然だがモテるだろうけど棘を持つ薔薇が道端に咲く草花より美しいと誰が決めた? そう思うかどうかは人それぞれ。
好みの違いであって私は道端に咲く花も同じく美しいと、そう思っているだけだ。
「それは外見だけ見ているからそうなるんだよ。
ただ色っぽくて綺麗なだけじゃあの辺境伯の奥様は務まらないと思うよ?
辺境伯は結構ヤンチャなところがあるでしょう?
あれはミレーヌ様があの人を立てつつ上手く手綱を握っているからこそだと思うね。
それに好きな人の前でならどんな女性も最高に可愛くなれるし、男は最高にカッコイイ男でいたいと思うものでしょう? それは母様達を見ててもわかるじゃない。私達の前と父様の前では全然違うもの」
いきなり話を振られて父様が目を丸くしたが、私の言葉に苦笑した。
ぶすくたれた顔でもっと寄越せと私の前で強請っても、父様の名前を出されると途端に慌てて大人しくなる。
母様達も可愛い女性だということだ。
するとマルビスも納得したらしく頷いた。
「それは確かに。ですが貴方は本当にいつもまるで私達よりも歳上の方のような考え方をしますね」
・・・・・。
しまった、力説し過ぎたか?
まあいい、私が子供らしくないのは今に始まったことでもない、今更だ。
「では奨学金制度の件についてはサイラスに相談してみましょう。
そういった制度を作るとなると陛下の許可も必要でしょう。
貴方も財産管理についても相談したいと言っていたことですし、それと合わせて話をしてみます。商会の方でもいくつかお聞きしたいこともありますし、サイラスさえ良ければこのままこちらに残って頂けると助かるのですが」
それは本人に確認してみないとわからないけど、
「荷物が向こうにあるでしょう?」
「勿論本人の許可は取りますよ。荷物は定期便と一緒にこちらで運びます。
一度戻りたいというのであればケイを同行させれば帰りも問題ないでしょう」
すっかりケイはタクシーならぬ人を運ぶ宅配便もどき扱いだ。
すごく助かってはいるけれど。
獣馬に乗り手と認められたのはケイにとって余計な仕事を増やす結果となってしまったようだった。




