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第五十四話 全ては自業自得というものです。


 船に乗り込んだところで最低限の関係者を締め出し、ヒソヒソと対策を練る。


 フィアの側近二名と連隊長、マルビス、イシュカに私だ。

 話がどこでどう漏れるかわからない。最低限の人員だ。

 七人顔突き合わせての相談だが、すぐにはいい案も出てこない。

 時間がなさすぎるのだ。

 何かいい手はないものか。

 私は眉を寄せてブツブツと呟きながら思案する。

 こういった屋外でのグルメを主に扱ったイベントの的なもの。

 縁日にオフィス街のキッチンカー、ビアガーデンに、フードフェス、そして・・・

 そこまで考えたところで一つ、ふと、思いついた。


「マルビス、木箱っ、木箱を用意出来る? 店の数だけっ、あと木札もっ」


 あるではないか、このシチュエーションにピッタリなヤツが。

 それは私の愛すべき庶民の味、地方の安くて、美味くて、ボリュームたっぷりのご当地グルメを扱ったとっておきのイベントが。

 私が興奮して叫ぶとマルビスがにっこりと笑って返事をする。

「出来ますよ、勿論」

 流石は腕利き一流商人、突然の無茶ぶりに無理とは言わないところがスゴイ。

 そう、こんな状況で、曲がりなりにも地方の名物料理が集まっているこの状況。

 まさにBー◯グランプリに類似しているではないか。

 全部ではないものの、三割程度は低価格帯。

 ならばやりようはある。

 

「投票してもらうんだよ。お客さんに出口でその日一番気に入ったものを。

 一人につきその価格以上だと感じた物一つを選んでもらうんだ。

 高い物は美味しくて当然、お値段以上、食べる価値ありと思うおススメを」

 競争心を煽り、価格を下げさせる。

 高価な材料はそれだけ手に入りにくい。

 数を売ろうと思うなら材料のランクを下げざるを得ないだろう。

 十人に食べてもらって十人に美味しいと思ってもらったところで百人の客の二割、二十人に美味しいと言わせた方が勝ちなのだ。高くて美味いでは勝負にならない。

 客にまずは買ってもらわなければ美味しいという評価は貰えないのだ。


「店同士を競わせて前日、週間、月刊累計の全ランキングを公表する。

 閉園後に当日の上位から下位、全部発表。

 お客さんには上位十位くらいまでを掲示する。そうすれば上位を獲れれば注目されて領地のいい宣伝に、下位はプライドが高ければ耐えられないでしょう?」

 全店に自分の店が何位であるかを認識させる。

 売れなくて順位が悪ければ、自分の店の商品を必死に売ろうとするだろう。

 そして面倒だと店を閉めれば最下位転落だ。

「そうすると十店舗構えるウチが有利と取られませんか?」

 確かにウチの商会の企画となれば不正、八百長疑われ放題。

 マルビスの言葉に少しだけ訂正を加える。

「それならウチは別でカウントすればいい。

 経営者で撤退する必要がないから別口でってことで。

 そうすればウチの人気メニューもわかる。

 お客さんには単純に一番良かったと思う店に投票してもらうだけでいい」

 難しくすると参加してもらいにくくなることを考えればできるだけわかりやすい方がいいだろう。

「不正が発生しませんかね?」

 連隊長の心配ももっともだ。

 紙や半券を使っては、割引サービスなどを理由にそれを買い上げて自分の領地に票を入れないと限らない。それを防止するためには料理を買うときにそれを持っていなければいいわけで。

「だからこそ出口で木札を渡すんだよ。木札には焼印を押して、真っ新なものはカウント除外すれば不正もやり難いでしょう? 紙だと使い回しは厳しいけど木札なら何度も使えるし、何種類か用意して日替わりにすればその日に使用した焼印を作らせたところで翌日には役に立たないから無駄になる」

 不正は出来ないというわけだ。

「他にも妨害工作や不正が発覚したらマイナス百点とか?

 一応覆面調査員内緒で見回りしてます的な注意も呼びかける?」

 フィアが身を乗り出して意見を出す。

「悪くない手ですね。多少汚い手ではありますが、仲の悪い領地もありますから最初はその辺りの人間関係を煽るために票を操作して対立させるのもアリです。僅差であれば立場の弱い方を勝たせてムキにさせるんですよ」

「それ、バレるとマズくない?」

 マルビスの提案は悪くない。

 負けん気を起こさせるには実に効率的な手段だが、それは所謂不正だ。

「その辺りは上手くやってみせますよ。それに最初の数回だけです。

 後はお互いが張り合って勝手に盛り上げてくれるでしょうから」

 ふむっと考える。

 出だしのスタートだけなら悪くないかも?

 目には目を歯には歯をということで辛酸を舐めて頂くのもアリなのか?

 もともと不正をして割り込んだと思われるところも多そうだし。

 そもそも当初の予定ではあまり知られていないような領地の活性化を狙い、その土地の魅力と名物を知ってもらうという狙いもあったのだ。

 なのに蓋を開けてみれば大手企業(だいきぞく)がのさばり、中小企業(びんぼうきぞく)はチャンスを潰されている。

「フィアの意見は? ここは王都だし、責任者の一人として陛下の名代で来てるんだからフィアの意見は尊重するよ?」

 万が一のことがあって一番の迷惑を被るのは多分フィアだ。

 私がそう尋ねるとフィアは一瞬だけ難しい顔をしたがすぐに決断した。

「それでいく。責任は全て私が取る。

 これはハルウェルト商会の落ち度ではなく、こちらの不手際だ。

 テナントの一覧を見た時点で私が気づくべきだったことだ。父上に勉強になるだろうからと任されていたのに迷惑をかけて済まない」

 強い眼差しでフィアは前を向くと潔く頭を下げた。

 つまり将来に向けての国の舵取りの予行演習として使われたわけか。

 あの腹黒陛下らしいといえばらしいが、この程度でメゲてるようじゃ国は動かせないのも事実だろう。動揺したとしても何食わぬ顔で座っているくらいの度胸と図太さがなくては国王というのは他国にも家臣にも付け入る隙を与えかねない。

 ドーンと深海深くまで沈んだと思われるフィアの気分を引っ張り上げる。


「誰にでも失敗はあるよ、気にしない、気にしない。

 私もしょっちゅうやってるよ。その度にみんなに助けられて、さ。

 大事なことはそれをどうやってカバーして失敗を取り戻し、成功に導いて、同じ過ちを二度と繰り返さないようにすること。後は力を貸してくれた人に感謝を忘れない、だよ」


 陛下のあの臨機応変の対処の仕方と他人に動じるところを一切見せない態度もきっとすぐに身につけられたものではないはずだ。

 幾多の失敗を積み重ねた末のものだろう。

 それが許されるうちにそれを経験させることで自分の力に変える。

 失敗が駄目なわけではない。

 失敗から目を背けて何も学ぼうとしないのが駄目なのだ。

 目を瞑ったところでそれがなくなるわけではない。

 しっかりと見据えて解決とその対策に当たらねばそういうものは時間が経てば経つほど問題は巨大化する。

 全てが成功するなんて、そんな都合の良いこと続くわけもない。

 と、なればだ。

 後はそれをどう補い、カバーしていくのかが重要なわけだが、私には頼もしい片腕が付いている。


「それでマルビス、箱と木札は用意できるの?」

 高価な紙の代わりに使われることも多く、一般的な店でもよく売られている。

 荷札などにも使われることが多いのでサイズもある程度統一されているし、材木屋などでは使用した端材を利用して小銭を稼げるので結構置いてあったりするのだ。

 ただ数が今回は半端ない。果たしてそれが揃えられるのか。

 最低でも明日朝までに一日分は必要なのだ。

 マルビスはざっと頭の中で計算したのか少し考え込む。

「数日分の入場者数となると・・・多分、いえ、なんとしてでも今日中に明日の分だけでも揃えて見せます。後は特急料金を積めばなんとでもなります。

 問題の焼きごては現在あるのはウチのロゴマーク、ハルト様の似顔絵だけですが、それでよろしいですか?」

 やっぱりそうなるか。

 そうだよね、ウチの入れ物に押してあるし。

 ウチのはカンナの削り屑や大きな木の葉を乾燥させたものを皿や入れ物として利用しているのも多いから宣伝も兼ねてそれを押している。コレが可愛いとなかなか評判で、食べた後ゴミとなるそれを捨てずに持って帰る女の子もいるらしいのだ。

 何種類もあるのでコンプリートを目指している人もいるとかいないとか。

 まあそんなことはこの際どうでもいいのだけれど、ロゴマークならたくさんの種類があるのでわざわざ特別に用意する必要もなくあるのだけれど。

「ここはハルウェルト商会の施設。特に問題はないだろう」

 それを聞いた連隊長がそう言って頷く。

 まあ、そうなんですけどね。

 私のキャラ顔がこれ以上認知されるのはチョット。

 だが考えてみれば今更か。

 ここには十店舗の看板にデカデカ、ズラリと並んでる。

 売っている商品の器にもしっかり刻印されている。

 王都の街中を堂々と歩くことが難しくなるのも時間の問題か。

 いや、後光が差してると評判なわけだから他人の空似で通せるか?

 この歳では陛下のように髭をつけて歩くわけにもいかないだろうし。

 前髪伸ばして野暮ったい伊達眼鏡でもかけるべきか?

 とりあえずそんなことは後回しでどうでもいいことではあるのだけれど。


「すぐに手配します。ハルト様、ライオネル・・・は、置いておいた方がいいですね。ハンスかランス、シーファの誰かをお借りしても?」

 マルビスがそう尋ねてくる。

 そのメンツの名前が上がるということは獣馬持ちにウチの屋敷まで走らせるつもりなのか。

 確かにそれならこの場所からなら最速だ。

「任せるよ、本部にまで取りに行かせるの?」

「はい。今から獣馬で飛ばせばギリギリ夜半には到着するでしょう。

 多分箱と木札はなんとかなりますが焼きゴテは種類が欲しいとなると取ってくる必要があります。簡単に真似できるようなものでない方が良いことを考えるならハルト様のロゴが一番です。木札も数が欲しいとなると向こうからの定期便で運ばせた方が確実ですし、こちらにない種類であれば人手の多い本部で作業をやらせることもできます。

 至急の分は往路と復路の人員を変えれば乗り手と馬の負担が少なくて済みますし。一日休憩を置いたところで戻ってきてもらっても良いわけですから」

 それなら往復急ぎで走らせる必要もないということか。

 私は大きく頷いた。

「木札は今から手の空いてる者に集めさせます。焼印が押せる荷札程度の大きさでいいんですよね? 数が足りない場合には特急料金を積んで、なんとしてでも間に合わせます。

 っと、順位を張り出す掲示板も必要ですね。

 仮設のものをすぐに用意させましょう。

 正式なものはキールに最優先でデザインを取り掛かってもらって工房に至急で手配して定期便で運ばせます。

 フィガロスティア殿下はその催事開催の文面を。

 出来れば思いっきり競争心を煽るようなものをお願いします。

 ハルト様は申し訳ないのですがイシュカと一緒にウチの者が抜けた穴、調理場の手伝いをお願いできますか?」

「任せてっ」

 それくらいならお安いご用。もともとの予定に戻るだけだ。

「ではすぐに取り掛かります。失礼しますっ」

 そう早口で捲し立てるように言うとマルビスは船を飛び出した。

 資材調達の方はマルビス達の任せておけば間違いない。

 となれば役割分担、各々自分にできることを全力サポートということで。

 私もイシュカと顔を見合わせてすぐに立ち上がる。


「今回の事業については全て私に一任されているとはいえ報告は必要だろう。

 すぐに父上に連絡を飛ばして。なんとしてでもハルト達と一緒に成功させてみせるから安心して欲しいと伝えてくれ。

 それとすぐに今回のテナント決定の担当者の調査の手配を。

 各店舗には閉園後重要な知らせがあるからすぐに今朝と同じ場所に集合するようにと連絡を」


 フィアはフィアで自分の仕事に取り掛かる。

 是非とも存分に煽って下さいな。

 利己主義の上位貴族(バカモノ)達が慌てふためいて必死になるような文面で。

 その辺りは未来の国王陛下にお任せということで。


 私達はあくまでも縁の下の力持ち。

 こういう時は脇役に徹するのみなのだ。


 

 で、結果、どうなったかと言えばフィアが見事にやってくれましたとも。


 シルヴィスティアでのBー◯グランプリならぬフィガロスティア殿下主催のグルメグランプリカップ開催宣言を見事に煽り文句付きでカマしてくれた。

 これにより飲食店全六十二店舗強制参加のグルメ戦争が勃発。

 自国内の下位十店舗は二週間後に強制入替、以後五年間の契約停止。一週間の間を空けて更にその後の二週間で再度下位十店舗はそこから以後五年間の契約停止。王都を盛り上げるための企画に協力、尽力できないというのならここに店を構えてもらう必要はないと言い捨てた。

 出店したい者は他にもいるからやる気のある者に代わってもらうと。

 これに真っ青になったのは自分達の都合の良い時だけ店を開くつもりで常時営業店に場所を確保し、余裕ブッこいていた輩だ。

 平民相手に安物を売る気はサラサラなかった彼等は大いに慌てた。

 これは当然閉店している店にも適応されるのだ。

 閉めてメニューを提供しなければ当然だが最下位、一ヶ月後にはお払い箱。

 店を開けても売れなければやはり同じく五年間の出店禁止。

 しかも次代の王となるフィアに悪い意味で目をつけられるというわけだ。

 当然だが現国王のウケも当然だがよろしくなくなるわけで。

 物事を安易に考えたツケを払わされるということだ。

 本来選定されるべき領地には連絡を速攻で飛ばし、これから二週間後に向けて備えてもらうことになる。


 なんの用意も準備もなく、上位など狙えるわけもない。

 現在の価格では平民はまず買わない。

 まずはそれに彼等がすぐ気づけるかどうかだ。

 人というものは自分の生活水準に合わせて物事を考えがちだ。

 平民が手を出しやすい価格は銀貨一枚以下。それが美味しいとわかっていれば銀貨二枚くらいは出すかもしれない。つまりわかってもらうにはまず一定数は売らねば評判も票も取れないわけだ。

 ウチは生産、流通、販売までほぼ自社(自領?)管理だからこその低価格の実現。金貨一枚、二枚で売っているものを赤字覚悟で売ったとしてもそれを美味しいと思ってもらわねば票は入らないし、それは彼等が毛嫌いしているであろう平民に自腹を切って御馳走するということで、経費はどんどん嵩んでいく。

 そして数日間の宣伝営業だけで閉めるつもりでいたならば今から仕入れルートを確保して、メニューを考え、看板価格を修正し、人材を手配しなければならないわけだ。

 それは容易なことではない。

 ウチのような人海戦術も使える、独自の仕入れ流通ルートも持っているというならできないこともないだろう。

 実際、後一、二店舗なら無理をすれば出店可能だ。

 二、三日くらいなら下位から這い上がることもできる可能性があるけれど、一週間もかかれば最早這い上がるのはほぼ不可能だろう。二週間後の累積票で決められるとなれば、その間も票差は開いていく。

 しかもランキング上位が発表されれば人の流れはそちらに向くわけだ。

 ご愁傷様である。

 まあ自業自得というものだ。


 私達も在庫とマルビス達が仕入れてきてくれた木札にせっせと焼印を押しつつ、日付が変わる前にはなんとか明日の必要数も確保。翌日朝には投票所も設営完了。

 来客入場とともにフィアによって戦いの火蓋は切って落とされた。


 投票に関する不正行為は発覚すれば百ポイントの損失。

 他店の営業妨害は即失格。

 爵位、身分を利用した権力による優先、優遇措置の禁止。


 更に課された三つのルールになんとかなるとタカを括っていた上位貴族も焦った。しっかり国家関係者の見張りもつけられて、下の階級の者に押し付けることもできなくなり、大慌て。

 しかしながらやはりすぐにはメニュー変更が出来なかったようで店は見事に閑古鳥が鳴いている。

 昨日の招待客は言うなれば富裕層。金貨一枚は端金。

 そして今日、明日の客は準富裕層だ。

 金貨一枚を払える財力はあれども、それを高いと思う客層だ。

 当然だが金貨一枚、二枚などという高級料理は売れやしない。

 そういうものは街のレストランのような料理店で使う認識があるからだ。

 必然的にそれ以下の値段の店に客は流れる。


 ウチはどうなったのかって?

 当然全店長蛇の列ですよ? 

 珍しい料理に圧倒的な低価格。勿論味にも自信がありますとも。

 話題性もあって入場開始とともに客は殺到、一番売り上げが上がる時間帯である昼前にはソールドアウトとなる店も出てきたくらいで、そのお客さんの中にはフリード様とヘンリー様の姿もあった。

 別々で来られたようだがヘンリー様の行動に不安を覚えたフリード様が後を付いて回るという結果になったようで、ウチの商品を両手に抱えきれないほど持ったヘンリー様に苦笑しつつ二人で楽しんでおられたようだ。

 結果は勿論ウチの圧勝。

 差がつきすぎて不平不満が出たためにウチの順位は別カウント、票も翌日から別にすることになり、全くと言っていいほど客入りがなかった高額店舗は値を下げ始めたものの元値が高いのだ。半分に下げたところでまだ高値。客はちらほら来たのみで彼等は二日間の順位で底辺、最下位近くを爆走することとなった。

 明日から始まる一般客入りを控え、既に絶望的になっていた。


 全ては金にあかせて余裕カマしていた結果。

 ザマアミロというものだ。



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