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第四十九話 寝た子は起こすべきではありません。

 

 研究室にやってくると軽くノックをして扉を開ける。

 様々なものがあちこちに積み上がっているものの、かろうじてまだ人の住処であることを保っている研究室の窓際にサキアス叔父さんの姿を見つけて近づくと作業している手を止めてこちらを振り返った。


「そろそろ来る頃かと思った。

 例の切り替えの省略化はテスラが手伝ってくれたからな。もう完成してるぞ」

 棚の上に置いてあったそれを取ると私に差し出しながら叔父さんが言った。

 これでウェルムの手間も少しは減らせそうだ。

「ありがとう、助かったよ」

 両手を出してそれを受け取る。

「だがお前の懸念通り負荷は掛かっているようだから過信して使わない方がいい」

「それには私も同意見。全てが利となるとは限らない。殆どの場合に於いてその裏には必ず大なり小なりの不利がある。油断は禁物だよ。

 でも実際に使ってみないとわからないとこあるし、使ってみてからまた叔父さんに相談するよ」

「そうか。わかってるならいい。で、テスラが一緒ということは登録の件だろ?」

 窓際の小さなテーブルセットの方に移動しながら叔父さんが言ったのでその後について行く。すると色々雑多に乗っていたものを右手で薙ぎ払い、一気に床に落とすと、さあ綺麗になったとばかりに私達に椅子を勧めてきた。


 ・・・・・。

 やると思った。

 キールの日頃の苦労が窺い知れるというものだ。

 きっとキールが面倒を見てくれなかったら既にここはゴミ屋敷化してただろう。

 実にありがたい、これは給料アップしておくべきか。

 私は頷いて切り出した。

「うん、まあそうなんだけど。

 叔父さんが嫌だっていうなら別に私としては全然構わないんだけどね」

 あくまでも個人の自由であり、権利だ。義務ではない。

 商業登録すれば当然ながら使用料などが入ってくる。

 画期的だと認められれば国やギルドがその技術を大金で買い上げてくれることもある。

 でもそれをしないという選択は叔父さんの自由だ。

「ハルトはこの技術についての危険性は気づかなかったか?」

 そう問われれば曖昧に頷くしかないのだけれど。

「一応、ね。便利ではあるけど利用価値が高すぎて応用が効きすぎるかなって」

「それこそ便利な技術と言うべきものでしょう?」

 私の言葉にテスラは納得できなかったようで問い返してくる。

 便利という言葉には様々な意味がある。

 これは利用する者によって、とんでもない代物となるのだ。

「便利なのは良いことばかりじゃないんだよ。

 場合によってはとんでもない不幸を巻き起こすタネになるんだ」

 私の言葉に益々意味がわからないとばかりにテスラが綺麗な眉を寄せる。

 頭がいいはずなのに気がついていない。

 それはある意味テスラが善人だということなんだろうけど。

 悪い方向への利用価値に気付いていないということだ。 

「テスラの魔力量ってどのくらいだっけ?」

「千三百程度です。それが何か?」

 一般的な衛兵クラスの魔力量。

 決して少ないほうではないけれど。

「うん、じゃあさ、一度空の状態からこれ起動して持ってみるといいよ。

 但し、早めに手を離してね。

 死にたくなかったら、くれぐれも好奇心に負けて無理はいけないよ?」

 私がそう言って持っていた剣を一振りテスラに差し出した。

 首を傾げつつもテスラがそれを持って起動する。

 途端にテスラの身体から一気に六百超えの魔力が剣に吸われ、小さくテスラの身体が揺れる。体内魔力量の半分近くを持って行かれたのだ。目眩を起こしてもおかしくない。そして持っている間にもドンドン魔力は吸い出されていくのだ。テスラは下がっていく体内魔力量に焦って剣から手を離した。

 カランッと音を立てて床に剣が落ちる。

 空の状態からまずは充填するための魔力が抜かれ、それは効力を作用させるために使用され、更に空になった魔石に魔力を充填するために魔力が抜かれる。合計六百の魔力量が抜かれた後もジリジリとその効果を保持するために魔力は吸われ続ける魔力喰いの剣。

 ある意味人の手で作られた魔剣ともいうべきシロモノだ。 


「頭の良いテスラならわかったんじゃない? この技術の危険性」

 顔色も悪く、テスラの額には冷や汗が浮かんでいる。

 落ちた剣を拾い上げることもできない。

 それはこの剣の恐ろしさを理解しているからだろう。

 手の中から落ちたそれは効力が解除され、再びテスラが無造作に掴めば体内魔力が枯渇しかねない。

 ジッと落ちた剣を眺め、テスラが呟いた。

「確かに実用性は低いですね。魔力枯渇と隣り合わせでは危険過ぎて売り出しも出来ません。付いてる魔石も三百程度とはいえ一気にその二倍持っていかれるとなると一般的な平民の魔力量では知らずに持てば昏倒、子供なら死亡する事態も発生しかねません」

 そう、学院高等部に進級できる程度のテスラだから無事だった。

 これが幼い子供だったら体内魔力をほぼ吸い尽くされてすぐに倒れるレベルだ。

「勿論それもあるんだけどね。それだけなら改善する手段がないこともない。

 問題はそこじゃないんだよ、テスラ。

 叔父さん、ワザとそれを細工しなかったでしょう?

 他の人にもその危険性を解らせるために」

 これは絶対確信犯。

 大きな魔石に使われている空になった魔石の魔力吸い込みを抑える魔法陣。

 アレが使えるはずなのだ。

 するとサキアス叔父さんはあっさりそれを肯定した。

「ああ、そうだ。

 口で言っても理解しない輩は多い。

 身を持って体験することで人は恐怖という呪縛に囚われるからな。

 ハルトの言うようにこれはこの剣の利便性だけの問題ではない。

 注意すべきはこれが応用が効くという点だ。

 例えばこの硬化技術を砦の城壁や門に用いたとすればどうなる?」

 叔父さんがテスラに問いかける。

 それは考えるまでもない即座に答えが返ってくる。

「敵に破られ難い、強固な城砦が維持できるってことですよね」

「そうだ。だが当然範囲が広くなれば使用する魔力量も多くなる。

 その魔力はどこから調達する?」

 頷いて再び叔父さんは尋ねた。

 するとテスラの顔から一気に血の気が引いた。


「気が付いたか? これは一歩間違えばその時の権力者によって味方に多大なる犠牲を生み出しかねない大量殺人兵器にもなりかねないものだ。

 門や砦をまさしく『死守』するという大義名分のもとにね。

 そして更に問題なのはそれによって功績を上げた、多数の犠牲を強いた者が場合によっては英雄、勇者ともなりかねない点だ。そうなればどんな悲劇が待っているか、言わなくてもわかるだろう?」


 地位、名声、称賛を浴びた権力者は自分のしたことが正しいと認識する。

 自分の判断で犠牲になった多数の人々の存在を忘れて。

 そんな貴族ばかりではないだろうという人もいるかもしれない。

 やむを得ずの対処であり、罪はないと。

 だがそもそも最初に大量の他者を犠牲にしたことでその正当性は失われる。

 どんなに綺麗事を並べようと自分は他人の屍の上に残った殺人者なのだ。

 そして簡単に他者を犠牲にすることを選んだ者は追い詰められればまた同じ手段を取る。

 それが非難されるものではなく、称賛されるものであると知ってしまえば尚更その悲劇は簡単に繰り返されるだろう。

 またその名声と称賛を味わうために。

 戦争などというものはそもそも綺麗事ではない。

 どんなに美しい言葉で飾ろうと自分の正義を他人に押し付け、蹂躙するものだ。

 自国を豊かにするために他国の侵略に成功した者は祖国では英雄であり、侵略された側からすれば自分達を迫害し、大量の犠牲を強いた大悪党に他ならない。

 国が変われば事情も変わる。

 立場が変われば正義も容易く悪となる。

 そしてその犠牲となるのはいつだって弱い立場の者なのだ。

 思い出したのは前世で工事現場や建築物破壊に使われていたダイナマイト。

 発明したノーベルは戦争を憎み、世界平和と安全を願ってそれを開発したのだ。

 だが平和のためと発明されたはずのそれは戦場で大量の屍を作ることとなった。

 必ずしも発明というものは発明者の望む方向で役立てられるとは限らない。


「確かに、売り物にはなりませんね。というより秘匿すべき案件でしょう。

 民を道具か奴隷と同義語くらいにしか思っていない貴族もいますから」

 テスラはボソリと呟くように言った。

「切羽詰まった人間がどう行動するかなんてわからない。

 追い詰められれば人徳者と言われている人間でさえ何をするかわからない。

 特に貴族と呼ばれる者達は誰よりも一番自分が可愛いという者が多いからな。

 それを思えば公表するならもっと効率化と危険防止対策を徹底した後だ」

 サキアス叔父さんがそう断言するとテスラももう反対はしなかった。

「納得しました。これはサキアスのOKが出るまで登録を見送ります」 

 そう言ってテスラは持っていた書きかけの書類を破り捨てた。 

 しかし便利は便利なんだよね。

 大量の魔力喰いなところ以外は実に画期的だ。

 これは私限定であるとするなら余裕がある時に魔力を補充しておいて大きめの魔石を取り付ければある程度それを自分の魔力を使うことなく剣の硬化に使用できることになるわけで。


 って待てよ?

 それって魔石の魔力を上乗せして使ってるってことだよね?

 ふとその技術に思い当たるものがあった。

「でも叔父さん、コレって、もしかして?」

 二年前討伐したデミリッチ、オルレアンの研究。

 魔石に刻まれた魔法陣と剣に刻まれた魔法陣、それを重ねることで使用可能になる魔力。

 叔父さんに預けていた研究書の存在を思い出した。

「そうだ。例の技術の応用だ。

 なんとか利用できないかとも思ったんだがやはりなかなか厳しいな」

 すっかり忘れていたけれど叔父さんはしっかり覚えてて、いろんな研究、作業の片手間にその改善、利用方法について考えていたのか。

「そう簡単にいくわけないよ。彼も相当な苦労があったと思うし」

「そうだな」

 私の言葉に叔父さんが苦笑する。

 私達のやりとりにテスラが興味を持ったのか尋ねてくる。

「彼って誰ですか?」

「ハルトと私の共通の知り合いみたいなもんだ」

 叔父さんとガイ、私だけが知る秘密。

 上手い言い方だ。

「優秀な研究者ならウチに勧誘すれば良いのでは?」

 テスラの言い分ももっともだろう。

「それが出来たら勿論そうするんだけどね。無理だよ」

「何故ですか?」

「もうこの世にいないからだ。生きていたらさぞかし面白い発明に一緒に携われたであろうな、とは思っている。同じ研究者としてなんとか違う形で世に出してやりたいとは思うのだが、なかなか難しいね」

 一人では完成出来ないことも複数の人間が関わることで思わぬ突破口が見つかることもある。

 オルレアンの努力もいつか報われることがあるかもしれない。

「まあ叔父さんはまだまだ若いんだし、気長にやればいいよ」

「子供のハルトに言われたくはないな。

 だがもう一人くらい魔術や魔道具に詳しい者が欲しいところではあるのだがな」

 それは私も同意見だが見つからないのは叔父さんにもその責任の一端がある。

 常日頃の叔父さんの奇行と武勇伝のせいだ。

 研究等が絡まなければ比較的マトモ、いや、だいぶ違うか。

 強引に我が道を突き進むからなあ。

 理性はあっても常識が大きく欠けてるとこあるし、自分の欲望に忠実で子供みたいなところもある。でも基本的に頭が良いからギリギリの際を外さないところは助かっている。これで倫理観に欠けていたら手がつけらなかっただろう。だからこそ父様も生活に追われて困っていた叔父さん達を助けるために雇ったんだろうし、でも結局扱い切れなくて私のところに回ってきたわけだけど。

 微妙なバランスで子供のような性格に大人の倫理観と頭脳が入ってる。

 常識がないのではなく、知っていてもそれが自分の中で守るに値しないと判断すると斬り捨てるというのが正しい。だからこそ欠けていると表現しているわけだけど、必要性をしっかりと説明すればちゃんと従ってくれるのだが大概の人間が叔父さんの弁論にやり込められてそれを諦める。

 曲がりなりにも私の言うことを聞くのは私に餌付けされているからであり、キールが上手く対応してくれているのはキールが身分差を全く気にせずに弁論に聞く耳持たずにズケズケと自分の常識を遠慮なく叔父さんに押し付けた上で叔父さんの足りないところを補っているからに他ならない。

 そういう意味ではキールも相当に肝が据わっている。

 だが、今回の講義がキッカケで学院内にツテを作ることが出来た。

 優秀な人材を地方各地からかき集めるのは手間も時間もかかるが、そのタマゴが集まっている学院に窓口を作れたのは今回の大きな功績でもある。

 是非とも獲得したい、優秀な魔術、魔道具研究者。

「優秀な研究者はまず国に取られるから厳しいけど、もう少し待ってくれる?」

「アテがあるのか?」

 他人に期待する前にまずはその性格を治してほしいと思うのだが多分無理だろう。

 叔父さんは変なところで頑固で意固地だ。

 だからこそ自分の信念、理論値を信じて研究に没頭し、成果を出せるのだと思うけど。

 研究者なんてものは常識に囚われていてはそれを覆す発見などできないものだ。

 だからこその紙一重なのだろうし。

 しかし実際叔父さんに負担が掛かっているのも事実だろう。

「アテっていうか、近いうちに学院内に商会の学院生向けの窓口を開くんだ。ウチの商業部の若手とミゲル達が一緒になって企画運営するんだけど、そこで色々な内職やアルバイト募集をかけるつもりなんだ。学業の片手間でできるような、ね。

 勿論それだけだと敷居も高くなると困るから平民向けの安価な消耗品の販売や制服その他の学院生活に必要なリサイクル事業、レンタル業、所謂学院生活を手助けするための雑事を請け負っていくようにするんだけど、一緒に勧誘や人材育成もできないかと思っているんだよ。

 高官を狙えるような人材っていうと厳しいかもしれないけど」

 他にもほどほどの才能でもいいから是非ともウチの隔離病棟の人達の面倒をある程度見てくれる人が見つかったら最高なんだけど。窓口運営で管理などで学院内バイトでも雇って、一芸秀でた人の他にもそういう奇人変人の天才達を上手く扱えそうな人材を見つけたら、学院成績問わず目をつけ、是非とも高待遇で優遇し、速攻で確保するようにもお願いしている。  

 叔父さんは私の話を聞いて目を輝かせた。

「ほうっ、また面白いことを始めるようだな」

 これは期待しているのだろうけれど、叔父さんレベルを求められても困るので一応念押ししておくとしよう。

「叔父さんは身分差なんて気にしないでしょ。

 最初から全部できる人なんていないから期待かけ過ぎて潰さないようにしてよ?

 ある程度は育ててもらう必要もあると思うけど駄目、かな?」

「いいや、面白いな。つまり私の助手として使ってみて、見所があればそのまま私のところに止めおいてくれるということだな?」

 早い話、そういうことではあるのだけれど、この人、本当にわかってるかな?

 心配だ。ハッキリ言って、ものすごく不安はある。

「あんまり無茶して逃げ出してくるようなら開発部でテスラの助手として引き入れるから慣れるまでは加減して欲しいんだけど」

「見込みがなさそうなら魔道具ではなく開発企画運営に回すということか?」

「そういうこと。だから助手が欲しいなら何事も程々にね。

 それ以外でも探してはみるけど優秀な研究者はどこも離したがらないから」

 あの叔父さんと同類と思われるヘンリー様も手が掛かるのにクビにならないのは優秀であるからこそなのだ。きっと彼の上司部下達は日夜精神的苦痛に晒されて、胃痛と戦っていることだろう。

 叔父さんは納得したのか大きく頷いた。

「わかった。ではそれを期待してもう少し待ってみるとしよう」

「悪いね、叔父さん」

 私が軽く謝ると叔父さんは小さく首を横に振った。

「いいや、構わないよ。私は充分好きにさせてもらっている。

 潤沢な資金、恵まれた環境がここには揃っている。

 望んでいるのは単なる贅沢だ。だから気長に待つとするよ」

 こういうところがあるから私は面倒だからと叔父さんを放り出せないのだ。

 空気は読まないけど人の気持ちがわからないわけではない。

 でも、だからこそもう少し周りに気を遣って欲しいと思うのは贅沢だろうかと私はここに座る前に叔父さんが机の上から無造作に落としたソレ(・・)らに目を向ける。

 顔も、頭も最高に良くて、性格は難ありだけど底意地が悪いわけではない。

 一見超優良物件のはずの叔父さんの最大最悪の欠点。


「ただ私としてはキールの仕事をもう少し減らして欲しいんだけど」


 ちろりと叔父さんを流し見るとハハハハハッと声を立てて笑った。

「笑って誤魔化さないでよ。キールは叔父さんの執事でも秘書でもなくて、ウチの大事な専属デザイナーなんだから」

「面目無い。気をつけるよ」

 頭を掻きつつ叔父さんはタレ目の目尻を更にヘニョリと曲げて下げて謝った。

「キールに見捨てられたら叔父さんの世話できる人、他にいないんだから大事にしてもらわないと。身の回りだけでも世話してくれる人がいるといいんだけどね」

 問題あるものの多少(?)のことに目を瞑れば決して悪い条件ではないのだから、再婚相手もその気になれば見つかりそうな気がするけど、難しいかな?

 そもそも叔父さんに近寄ろうとする人自体も少ないし。

 どうなんだろう?

 女性を家政婦代わりにするのは如何なものかと思わなくもないけれど、頭、顔、稼ぎも良いわけだから高望みしなければ所謂玉の輿専業主婦希望の女の子にいけそうな気がするのだけれど。なにせ方向性こそ違うが叔父さんと張り合うくらいに面倒臭いであろう私に五人の物好きな婚約者がいるくらいだ。探せばいないことはないはずなのだ。

「いや、ハルトやキールには世話を掛けているが私は今の生活を気に入っている。

 特に変えようとは思っていない」

「キールだっていつか結婚するでしょう? もう十二歳になるんだよ。婚約者の一人や二人、いたっておかしくないんだからいつまでも叔父さんの世話をしてもらえるとは限らないよ?

 叔父さんと違って難あり物件じゃないんだから。

 顔良し、性格良し、稼ぎ良しのキールがモテないわけないじゃない。

 そこのところ、叔父さん、わかってないでしょ?」

 この世界の十二歳というのは本当に大人っぽいと思う。

 同じ歳のアル兄様も随分と大人びているし、私が十二歳の時にあの落ち着きが出せるかどうかは疑問だ。

 結婚適齢期が十五から十八歳というのもわからなくはない。

 まだまだ平均寿命が五十そこそこと長くないことを思えばのんびりしていれば子供が成人して独り立ちする前に他界しかねない。一夫婦の子供の数の平均は五人、町中では少なめだけどグラスフィートのような田舎となれば十人兄弟も珍しくはない。そうなると父親が三十半ばで最後の子供が生まれればその子が成人する前に平均寿命に到達するわけで。

 流石にキールが結婚した後まで叔父さんの面倒を見させるのは気が引けるので早めに助手なり、メイドなり、叔父さんを上手く扱ってくれる人を探さなければ。

 私が指摘するとそれに今、気がついたとばかりに叔父さんが目を見開いた。

「そう、だな。その通りだ」

 ポツリと言った叔父さんが酷く動揺していた。

 少しは危機感感じてもらわねば。


「そういうわけで、少しは生活改善の努力をするように。

 じゃあ私は屋敷に戻るから。夕食の時間にはちゃんと来てね、よろしく」

 何か考え込んでいる叔父さんを置いて私はさっさと退散する。

 いつもならすぐに話が終わると自分の研究なり、仕事なりにすぐに取り掛かるのに何やらブツブツと床を見たまま呟いているのは気になったが叔父さんの奇行は今に始まったことではない。


「ハルト様、寝た子を起こすような真似はしない方がいいと思いますよ?」

 研究室を出たところでテスラが私にそっと忠告してきた。

 ひょっとして、私、無意識に叔父さんの地雷でも踏んだのか?

 だからこそのあの反応?

 鋼鉄メンタルの叔父さんでもあれはやはり言い過ぎただろうか。 

「私、何かマズイことやった?」

 余計なこと言って叔父さん暴走したら大変だし、私は慌ててテスラを見る。

 するとテスラが大きく溜め息を吐いた。


「気づいてないんですか?

 俺も大概鈍い方ですけど流石に貴方には負けますね。

 まあいいです。キールは貴方と違ってそういうことに関しては優柔不断なお人好しではありませんから」


 ? ? ?

 それってどういう意味?

 尋ね返したもののテスラは曖昧に笑って教えてはくれなかった。

 私が優柔不断?

 お人好し?

 一体どのあたりの性格のことを言っているのだろう。


 私は首を捻りつつも屋敷へ道を戻った。



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