第三十九話 コレはコレで悪くはない生活です。
どっと疲れて騎士団内自宅まで戻ってくる。
いろいろとあり過ぎていろんなことが頭から抜け落ちてしまった感はあるがまずは夕食の準備だ。
マルビスとテスラの勢いからするとこの夏にも実行されそうな気もする。
既にしでかしてしまったことは取り返しがつかないので仕方がない。
人間、諦めも肝心だ。
ここは開き直って食べたことのない各地郷土料理を楽しみに待つことにしよう。
ロイと一緒にキッチンに籠って晩御飯の支度をし始めたところで団長と連隊長が戻って来た。
「ハルト、学院内へのハルウェルト商店開業許可が陛下から降りたぞ」
ひょっこりと顔を覗かせた開口一番の団長の言葉に私は口を開く。
「随分と早いですね」
ほんの数時間前のことだろう。いくらなんでも早すぎないか?
となると、多分マルビスと私の会話を聞いていた団長か連隊長あたりから私達が検討していたそれらをある程度世間話的に聞いていたのだろう。二人とも商品の売り出しや新製品とかの商売などのことには基本的に余計な口も挟まないし、口外もしないけれど国が関わってくるであろうことに対してはその限りではない。勿論私達が知らないだけである程度の報告はされているのだとは思う。騎士団内に私達の住処を用意したのもある程度の監視や見張りみたいな意味もあるのではないだろうかと。
私達の安全面も勿論あるだろう。
だけど私達のやることはいつも大掛かりになりがちだ。
監視とまではいかなくてもある程度の行動は把握しておきたいと思っても不思議ではない。
我が身を振り返れば陛下達の杞憂、心配(?)もわからなくはないからだ。
私が陛下の立場でも何をしでかすかわからない私みたいな存在には見張りの一人か二人はつけておきたいと考えるだろう。だから多分だけどグラスフィートの屋敷の方にも陛下の内通者みたいな者がいるのではないかと思っているが邪魔や妨害をされているというわけでもなし、別にそれはそれでいい。
別に後ろ暗いことをしているつもりもないし、するつもりもない。
それを思えばむしろプライベートや商売の邪魔をされるのでなければある程度見張って報告していてもらった方が何かあった時にも面倒がない。
大概のことは隠すから怪しまれる。
ならばこちらが不利益を被らないなら隠す必要もない。
実際、断定はできないがそれらしき存在もガイの調査で判明している。
しかしそのあたりは相談して知らぬフリを決め込むことにしたのだ。
疑われるような事態になっても彼らが無実を証明してくれることもあるだろう。それに文句をつける隙がないほどには優秀なのだ。そりゃあボンクラに密偵は務まらないとガイが言っていたようにデキる人材であれば重用するウチの態勢を考えればある程度の情報を得るには内側に入り込む必要があるわけだからそうなってくるのだろう。なので危険分子でなければ優秀な人材は歓迎して屋敷の三階より上に入れなければ問題もないから基本的に放置している。
最近では手広く事業を展開しているので法律の専門家を一人雇い入れたいとマルビスが言っていたので、それならばいっそ宰相辺りに打診して堂々と情報収集、拝聴、協力頂いてはどうかと側近、大幹部の間で話をしていたくらいだ。
とにかく話が早いのは悪いことではないし、ありがたく学院での開業許可は受け取っておく。学院は国の機関だということを思えばどちらにしろ話は通さなければならないわけで。
だがそれにしても早すぎる。
「もう少し時間が掛かるかとも思ってたんですけどね」
「必要な規模と詳細を連絡してくれ。職員通用門脇に建物を用意する。あんまり大きなものは無理だがここ程度の規模なら構わんそうだ」
そりゃあありがたい。
この大きさがあれば充分過ぎるだろう。
「いいんですか?」
「警備の問題上、不審な者を出入りさせるわけにもいかん」
言われてみればその通りだ。
建設工事事業なんて一番内側に入り込むには恰好の場所だ。
大工や作業員なんてのが一番紛れ込みやすい。
守る手段を多く持たない子供がたくさんいる場所なのだから当然か。
「それにこの間のベルドアドリの大群討伐の件もありますのでその褒賞として用意してするからそう言っておけと陛下からの伝言です。
それから四日後、五人分の夕食を追加で頼むということですけど用意できますか?」
「出来ますか? ではなく用意しろってことでしょう?
差し詰め例の港での私の奇行が耳に入ったってとこでは?」
連隊長に私がそう言い返すと彼は肩を竦めて苦笑した。
「よくわかりましたね」
「ガイが言ってましたから。私が妙なモノを振り回して狂喜乱舞していたと噂になっているって。その辺りから検討をつけられたのでしょう?」
堂々と身分を明かして歩いているわけではないが、コソコソと行動しているわけでもないので知っていても特に不思議はない。
「全くその通りです。
しかも今日マルビスが沿岸部の土地を大量に買い付けていました。
貴方達がまた何かをしでかすつもりではないかと考えられているようで」
それは流石に情報早すぎではないか?
マルビスが土地を購入したのは今日の話でしょ。
いや、王都の土地は管理が他の領地と違って王室が関わってくるとマルビスが言っていたから特におかしくもないのか。だが少々その物言いに引っ掛かる。
「しでかすって、人聞きの悪い」
「何もないわけないだろう? あのマルビスだぞ?」
私だけでなく、マルビスも要注意人物入りしているのか。
団長の言葉におそらくウチの側近、大幹部の何人かもそれに該当しているであろうと推測する。
「まあそうですけど。別に悪巧みをしようってわけではないのですが」
人のことを言えた義理ではないがマルビスの行動力と機動力もハンパない。
プラス今では多大なる商会の資金力も付いてくるので勢いも凄い。
あれこそが一流の商人たる所以だと思っているので気にしていないが。
「で、三日後の会食の場所はここでいいんですか?
客人を招くにはかなり狭いし床に直座りなんですけど」
問題はここがそこまで大きくないということだ。
あくまでも屋敷と比べたらというだけで一般家庭に比べたらかなり大きいとは思うが仮住まいなので招くことを考慮していないのだ。現代風で言うならばやや大きめのシェアハウス的な作りに近い。フィアやミゲルなら屋敷での共同、素足生活にある程度慣れているだろうから問題ないだろうけど他の重鎮達に受け入れられるかどうかはわからない。
私が心配してそう尋ねると団長が口を開く。
「非公式でお忍びだしな。一応俺らも付くが護衛も最小限で極力目立たぬようにお見えになる。
いつも俺らが夕食で食ってるようなヤツで構わんそうだ。
というより変わったものがあれば是非ともそれでと言っていた」
非公式といっても所謂名目上というヤツだろう。
団長と連隊長が護衛につく時点で既に要人であることまるわかりだし。
つまり私が振り回していた妙な物を食べたいという認識でいいのだろうか。
多分、そうなんだろうな。
「それでどなたがいらっしゃるんですか?」
フィアとミゲルとその護衛なら『来るって言ってたぞ』で済む話を持って回ったような言い方で、しかもマルビスと私の行動をある程度把握済みとなれば苦情とまではいかないまでも何かしらの話し合いがしたいのだろうと思うのだ。確認だけなら団長達にさせれば済むわけだし。
嫌な予感が過ぎりつつ私が尋ねると連隊長が口を開く。
「陛下とフィア、ミゲルと宰相、財務大臣ですよ。
王妃様方からはデザートの御土産よろしくねと伝言を承っておりますが」
・・・・・。
なんですとっ!
その来客者ラインナップってどうなのよっ!
明らかにおかしいでしょうよっ!
私はあんぐりと顎が外れそうなほどに口を開け、暫く絶句した後に進言する。
「ウチの料理は庶民向け、国王陛下が召し上がるようなものではないですよ」
努めて平静を装いつつ答えたが唇の端は引き攣っていた。
私達の作るものは基本的に平民向けに売り出すものが殆ど。お上品な食事は用意できない。流石のロイでも厳しいだろう。
「何か思い違いをしているようだが、陛下はいつも豪華な食事をしているわけではない。会食などが多いから相手をもてなすために比較的そういう食事は多いが朝メシやそれらがない時は俺らが食ってる食事とそう変わらん。
暫く接待が続くと朝には胃にもたれるんでサラダだけでいいと言う時もあるぞ」
・・・なんでも過ぎるとキツくなると言うことか。
しかし意外だ。
王族というからには美食の限りを尽くしているのかと思っていたのに。
「体面と体裁は必要だが贅沢を当然としてはならないといつも仰っています」
連隊長の言葉に陛下に対する私の印象が少しだけ変わった。
本当にまともな、と言ったら失礼かもしれないけど『良い王様』なのだろう。
だがそう思うと同時に国王業はやはり大変なものなのだと知る。
ウチに来た時の爆買いぶりからは想像がつかない。
「お妃様方の衣装代は気にしないのに?」
ほぼ買い占め状態だったとゲイルが言っていた。
その後も新作を届けると大概その後に大量の注文が入るのだ。
私が不思議に思って首を傾げると連隊長が教えてくれた。
「御婦人方のドレスはその国の文化と経済の豊かさを象徴するものでもあります。
品のないゴテゴテとした装飾は論外ですがあれは国の繁栄や見栄としても必要なものなのですよ。王妃様方はお会いする他国の使者達の前にお出になる時は何度も同じ衣裳で前に出ないようにいつも気を遣っていらっしゃいます」
そういう意味もあったのか。
言われてみればその通りなのだ。
一国の王の妃が粗末な格好をすれば国力を疑われることもある。
人間大事なのは中身だと思っていても、どうしたって第一印象は外見がものをいう。
当然だ。
噂でしか聞かない、良く知りもしない相手の判断基準はそれしかないのだ。
それは外見しか見ていないということではない。
麗しい美男美女であったとしても必要以上に豪奢に着飾れば浪費癖を疑われることもあるだろうし、見方によってはそれだけ国が栄えているともとられるわけで、おそらく謁見する相手に合わせて選んでいるのだろう。
私にはとても真似できそうにもない。
「政治というのはやはり面倒で大変なものなんですねえ。
根が単純な私では到底及びもつかないものですよ。
やはり私が相手できるのはせいぜい魔獣魔物がいいところです。
思念思惑渦巻く貴族社会にどっぷり浸かるのはゴメン被りたいですね。宮廷内の政治雑事その他には絶対一生関わりたくはないですよ」
腹芸というものが私は苦手だ。
極力顔に出さないように気をつけているけどロイ達にはいつも見破られる。
「ですが陛下がいらっしゃるくらいならこちらから伺った方がいいのでは?」
わざわざこちらにお越し頂く必要があるとは思えない。
「それでは内密にならないでしょう?
貴方は有名人ですからね。来城すればすぐに噂も回ります」
「有名度合いでは陛下の足元にも及ばないと思うのですが?」
「城には王族と限られた者にしか知られていない道もいくつかある。それを使って抜けてくるそうだ」
そんなものをこんなことのために使って良いのか?
幾つかあるというなら一つくらいなら私用で使っても問題がないわけか?
いや、まさか・・・
「何かまた問題でも起こってるんじゃないでしょうね?」
「今のところそういう話は聞いてませんが?」
そうか、それはよかった。
連隊長の言葉にホッと胸を撫で下ろす。
「陛下は時折庶民の暮らしを見たいと言って城を抜け出されることがあるからな。
宰相がたまにアリバイ作りに協力している。
公では本当に見たい民の姿をみられないからと平民の格好をしてな。
堂々としていれば案外気付かれず、他人の空似で通せるそうだ。
そういう時は一般に顔を知られていない特殊部隊か隠密部隊の幹部のヤツらがニ、三人警護で付いている。そういうわけで陛下はフィア達とは別で来ると思うぞ」
王様の城下視察なんて言ったらパレードみたいな状態で道とかも綺麗に清掃されて見物人は山のように道路脇に並び、たくさんの護衛に囲まれての移動ってイメージだけど、確かにあんなものでは普通の庶民の生活など見れるわけもない。
民の本当の生活を知らなければそれに合った政治もできないものだ。
他人の口から伝え聞くだけでなく、その真偽を自らの目で確かめるというのは多少の危険があったとしても重要だと思う。
百聞は一見にしかずという言葉があるがまさしくそれである。
見下ろしているだけではわからないものも同じ目線に立てばわかる。
公式というベールをかけたままの街の姿は本来のものとは違うものだ。同じ街でも大通りから一本裏道に入れば違う景色も見えてくる。
権力者の周りにいるのはその国を構成する人間ピラミッドの頂点付近に位置する者達。彼らの暮らしぶりを見たところで底辺を支え得ている圧倒的多数の庶民の生活がわかるわけもないのだ。
それが領地が豊かである証であるのか、民に重税を強いた結果であるのか。
しかし、それにお供する従者の苦労は計り知れないけれど。
だが別口で来るということは、つまり、
「表向きは王子二人と宰相がメインの挨拶訪問ってことですか?」
「そういうことです」
連隊長が頷いた。
要するにフィア達はカモフラージュ、そちらに注意を引きつけた上でコッソリ動こうというわけだ。自分の息子達を囮に使うとか如何なものかとも思ったが、そっちはガッチリガードすればいいのだから問題もないのか?
でも少数で陛下の護衛っていうと相当に腕が立つ人達だよね?
しかも表舞台に出てこない。
「ってことはもしかして会えるかも?」
例の会う機会もそうないだろうと思っていた近衛所属のあの二人に会える可能性があるということか。
獣馬に乗っているというくらいだからそれなりの猛者であるには違いない。
私がじっと連隊長を見ると私の言わんとしていることに気づいたらしい。
「ああ、ひょっとしてミスラエル侯爵とランスロイド子爵ですか?
ランスロイド子爵あたりには会えるかもしれませんね。もっとも彼は変装の達人ですのでお会いしても次に彼とわかるかどうかは疑問ですが」
流石特殊部隊所属。そういう特技を持った人もいるわけね。
いったいどんな人なのか非常に興味があるところだ。
「言っておくがソイツらの分のメシはいらんぞ?
アイツらは陛下が一緒の城下では手持ちの携帯食以外絶対物を口にしない」
団長が付け加えるように言った。
「毒物対策ですか」
やはり大変な仕事には間違いない。
ボディガードというものはそういうものかもしれないけど陛下が美味しいものを食べてる横で味気ない食事とは気の毒だ。それだけ重要な仕事でもあるのだけれど。
「この世の毒には遅効性のものもありますからね。
万が一の場合、陛下と一緒に倒れては話にならないですから」
「別にお前を疑っているという訳ではないぞ」
連隊長の言葉に団長が念押しするように言ったけど聞くまでもない。
「わかってますよ、それくらい。
第一私は来訪時に毒を盛るなどそんなすぐバレるような手を使うほどマヌケでもありませんし、指名手配犯になって今の生活を失うような馬鹿でもないです。
権力なんて面倒なものに微塵の興味もありませんし。
ですが私にその意志がなくても周囲にいる者や業者の買収、前もって食材に仕込んでおかれる場合もありますからね。
地位の高い方であればその危険性を考え、幼い頃から毒に体を慣らすために少量づつ摂取を繰り返される方もお見えになると言いますし。
ホント、大変ですよね。私には理解できない世界です」
「ハルトも今後気を付けた方がいいのではないですか?」
連隊長の言わんとしていることはわからないでもないけれど、多分大丈夫。
「私、毒って効きにくい体質みたいなんですよね」
ごく最近わかったことなのだけれど。
私がポロッと言うと団長が驚いたように声を上げる。
「はあああっ? そんな話聞いてないぞっ」
「そりゃあ言ってませんから」
暗殺の定番である毒殺。
貴族の中では比較的嫌われ者である私は当然この危険性もあるわけなので正直なところこの体質は非常にありがたい。
「個人差はあるみたいですけど聖属性持ちにそういう傾向があるらしいですよ。
全く効かないという訳ではなくて魔力量にも比例するようです。
サキアス叔父さんは魔力量が少ないから自分は殆ど一般人と変わらないって言ってました。聖属性持ちは比較的魔力量が少ない人に多いので個人差程度の違いだからあまり意味はないと」
「しかし魔力量六千越えのハルトなら変わってくると、こういうわけですか」
まあ早い話、そういうことなのだが。
聖属性というのは耐性付与や浄化的なものが多いから不思議なことでもない。それを考えるともしかしたら聖属性の魔法の原理の一端はそこにあるのかもしれないと叔父さんは言っていた。
火、水、風、土、光、それぞれの属性魔法の原理は少しづつ解明されてきているのに対して未だ未知の領域である闇と聖属性の魔法。そのもとになっているのはなんなのか、私としても非常に興味があるところではあるのだけれど。
「ですが効きにくいというだけで効かないというわけではありません。
聖属性持ちは魔素の耐性も多少違うわけですし、似たようなものでは?
そのあたりの難しい話はサキアス叔父さんに聞いて下さい。
論文に纏めるべきか否か迷ってましたよ?
結局魔力量が多くないと自覚できるほどの差はないようですし、検証しようにも貴重な聖属性を持っている方を実験体にするわけにもいかないから発表しても検証するには問題があるので意味がないのではないかと言ってました。解明したところで聖属性持ち特有の体質であるという事実にしか過ぎませんし、利用価値や手段があるわけでもないですから。
もしかしたらフリード様くらいの魔力量なら自覚があるかもしれません」
「今度機会があれば確認してみよう」
連隊長がそう言って頷いた。
「おかげで毒を盛られても大事に至ることもないわけですから、そういう意味では助かりますが」
「毒を盛られたことがあるのかっ」
私の言葉に団長が大きく反応する。
「いえ、今のところはまだ。多分、ですけど」
「多分とはどういう意味だっ」
「ですからあまり弱い毒だと自覚なく解毒している可能性があるんです」
なにせ私は貴族の方々に結構目をつけられているわけで、毒殺を計画されてもおかしくない。恨みを買ってる自覚もある。
「私もガイと領地の魔獣退治に出掛けた時に偶然気がついただけですし。
逃げ遅れて麻痺毒持ちの魔獣の吐息を浴びてしまってもピンピンしてたんで。
それを叔父さんに告げたら実験台にされました。
とはいえ解毒剤を横に置いての弱い毒限定ですけど全く効きませんでした。少し強めの毒で実験しようとしたところ全力でロイとイシュカ、マルビスに止められました。好奇心も大概にしろと。ガイとテスラは解毒魔法を待機させておけば然程問題ないだろうと興味津々でしたけど。
私も自分の体質について知っておくのはそう悪いことではないと思うんですが」
それを知れば平気で無茶をしかねないと猛反対されたのだ。
否定できなかったので大人しく引き下がったけど。
だって私が平気だというなら万が一の場合には私がみんなの盾になり、前線で戦えるってことなのだ。でもそれを知ってしまえば私の性格からすればそれを利用するだろう。使えるものはなんでも使う主義の私は危険を犯さないと断定できない。無茶した結果が迷惑かけるのは本意ではない。
知らないままでもいざとなったらお前は無茶をしでかすだろうとツッコミを入れられても困るけど。
「ハルト。お前、いよいよバケモノじみてきたな」
「ウルサイですよ」
団長がボソリと言った言葉を否定できずにジロリと睨む。
私もそんな気がしないでもなかったのだが指摘されると結構イタイ。
勇者に英雄、魔王に教祖、観音像に大魔王に総統、ついには人外生物か。
妙な具合にグレードアップ(?)していく私の評価。
ついに人間辞めました状態にまで到達したのだろうか?
至って普通のつもりだったけど最早私自身もそう言い切れなくなってきた。
遠ざかる平穏平凡な生活は遥か彼方、何万光年先なのか?
夢と冒険の溢れる異世界生活を違う意味で満喫している私がいる。
方向性はだいぶ違ってきている気がしないでもないけれどこれはこれで悪くない。
楽しいことばかりではないけれど私は一人ではないのだから。