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第三十四話 一応平凡のつもりです。


 部屋のベランダいっぱいに綺麗に開いたイカがハタハタと風に揺らめいて一種異様な光景だ。


 洋風な作りの建物と全然マッチしていない。この屋敷を囲っている塀で遮られた小さな庭には昆布やワカメが吊るされていて、そこだけ見ればまるで田舎の漁村の風景だ。

 昨日仕入れて来た海老は獲れたてというのもあって生きていたので海水を運んで来て臨時で作った生け簀に入れ、イカとタコ、ついでに鮑と牡蠣もタレに漬けた後、幾つかを朝から燻製にしてみることにした。酒のツマミになりそうなラインナップばかりでアルコールが解禁される歳になるのが待ち遠しいところだが、まあいい。

 結局のところ、講師をしている間くらいのんびりしようと思っていたはずが変わらず色々動いて、場所は変われどいつもと変わらぬ毎日を送っていることを思えば私は常に動いていなければ心配になる貧乏性なのだろうかと考えつつ煙の立ち昇る様子をぼんやりと眺めていると背後から聞き慣れた声が聞こえて来た。


「全く。貴方はいつでもどこでも、相変わらず変わりませんね」

 クスクスと笑う声、二週間ほどしか離れてなかったのに随分と懐かしい。

 私は大きな仕草で振り向いた。 

「マルビス、よく来たね」

「はい。御注文の試作品、急いで仕上げてお持ち致しました」

 大きな木箱を抱えて笑顔でそこに立っている人に私は微笑みかける。

「ガイも一緒ですよ。今、馬を置きに行ってます」

 まさかガイまで一緒とは思わなかったけど。

「丁度いいところに。今日の晩御飯は大海老のクリームグラタンだよ。

 今、他にも新しい素材を燻製にしているんだ。

 多分、ガイ好みの酒のツマミに持ってこいのヤツになるよ」

 そう言うとマルビスの後ろからヒョッコリとガイが顔を出す。

「そいつは楽しみだな」

 するりと器用にマルビスと私の間を潜り抜け、私の手元を覗き込む。

「あまり驚かないんですね」

 苦笑するマルビスに私は答える。

「なんとなく予感してたから、かな? 

 新しいものが大好きのヤリ手商人がこの機会を見逃すはずないもの」

「よく御存じで」

 いつだって私が作る物を特等席で見たがる腕利き商人。

 黙って待っていられるはずもない。

「色々マルビスに相談したいこともあったしね。良かったよ」

「なんでしょう?」

 早速話に移ろうとするマルビスに笑う。

 いくらなんでもそこまで急ぐ必要もない。


「まずはお昼ご飯にしよう。話はそれから。

 二人に食べてみて欲しいものがたくさんあるんだ」


 私がそう言うとテスラが私と煙番を代わってくれたので二人を連れて一緒にロイとキッチンに向かって歩き出した。

 ここ最近は海鮮続き(しかも食材限定)だから今日は肉料理にしようと思っていたけどまあいいか。

 二人以外にはメンチカツでも揚げて出せば問題ないだろう。

 今日も朝から持ってきたタコやイカ達にまた活躍してもらいましょう。

 ここ数日で些か見飽きてきたけどこちらの滞在期間は後二週間で区切りも付く。

 向こうに帰ればまた暫く新鮮な海の幸ともお別れだ。

 出来れば保存のきく状態で領地に持ち帰りたいものもある。

 なんでも試してみなければわからないのだから。

 

 昼御飯を終えたところでマルビスを交えて昨日テスラと相談していたことと学院内でのレンタル業や休暇中のアルバイト要員の募集について話す。

 するとマルビスは難しい顔で応えた。


「学院内のことについては面白い提案だと思います。

 儲けが出る出ないにしろ今後の優秀な人材確保やその見極め、勧誘も出来ますから。

 赤字になったとしても先行投資としてやる価値があります。

 祭りや学院の休暇時期は人出も増えますからね。短期で皿洗いや給仕をやってもらえるだけでもかなり助かりますし、人員が一ヶ所に集まっているわけですから一気に送迎して確保できるというメリットもあります。何かイベントを行うにしても学院の休みに合わせることで、必要な時期に必要な分だけ人員を短期で確保できると言うのは非常に魅力的です。

 学院の許可さえ頂ければ必要なものはすぐに準備します。

 実際、ミゲル殿下の御友人達にも充分戦力として働いて頂いてますし」

 

 そうなのだ。

 ミゲルが長期休みの度に連れてくる友達は今や三十人を超えている。

 だが最初の頃から来ている子達はウチに就職希望をしているので今の内に色んな仕事を体験してみたいとアルバイトしてくれている。そして何回か遊びに来た子達もそれに続き、大概が二度目か三度目からはアルバイト目的と言ってもいい。地元や家に戻っても毎日仕事があるとは限らないわけで、彼らにとって学院生活を実家に負担かけることなく生活するための良い稼ぎ場所となっているようだ。

 後二年で卒業したらウチに就職するつもりでいる子が殆どだ。

 軽い気持ちでミゲルに言った『友達が作れたなら良いよ』と言った言葉が思いもかけない方向で人材確保に貢献してくれている。しかもミゲル在学中は近衛か団員の護衛付きで送迎してもらえているのが更にありがたい。

 だがそう言った後でマルビスは難しい顔をした。

「ですが保養施設の方は難しいかもしれません」

 珍しく難色を示すマルビスに理由を尋ねてみる。

 他領の土地を購入することも、商売することも税金さえ納めれば然程問題ではないはず。実際にシルベスタ王国内に我がハルウェルト商会は幾つかの運送、仕入れ拠点を持っている。

 首を傾げる私にマルビスが言った。 

「この国の法律的には問題ないんですがね。場所が問題なんですよ」

 場所?

 私が提案した場所には建物や重要施設があるようには見えなかった。

 林や森、崖や海岸、自然豊かで空いた土地が多かった。

 すると私の疑問に答えてくれたのはガイだった。

「問題なのは土地というより領主だ。

 あそこんとこはウチというか、御主人様を目の敵にしてるんだよ。

 陛下の手前、表立って敵対してはいないけどな」

 そういいうことか。

 今までのことを思えば商売的には順調過ぎたくらいなのでこういう問題が起きなかった方が不思議と言えなくもない。

「あの土地で何か興そうとするなら間違いなく何かしらの妨害が入ってくると思うぜ?

 それも直接的ではない、面倒なやり方でな」

「そうですね。それを考えるならあの領地ではなく、あの場所に近い王都内に建設する方が現実的でしょうか。搦め手にはなって少々資金は嵩みますがあの辺りに小さな港でも建設して向こうからこちらに売りにこさせる方が良いでしょうね。

 王都で何か仕出かせば速攻で陛下の耳に入りますから早々馬鹿なことはできないかと。

 漁業関係者の税金は漁獲高ではなく、持っている船の大きさと従業員数などによって港の使用料として徴収されます。

 彼らが自分の領地で獲れたものを卸しても、他の領地で卸しても、市場で場所代を払って露天で売っても問題はないんです。

 店舗として場所を構えると話は変わってきますけどね。

 但し、毎月どんなに漁獲量が少なくても登録していれば同じ金額を払わなければなりません。王都の港までとなると距離がそれなりにありますが領地の境界線近い場所なら然程でもありません。

 それでも価格の釣り上げなどの妨害は入ってくる可能性はありますが。

 王都の土地は殆どが王室管理になりますからね、直接あちら側に作るよりは陛下の目がある分向こうも下手なことは出来ないでしょうし」

 流石マルビス。私の知らないことまでよく知っている。

 市場はあっても前世のように一つの建物内で一括管理されているわけではないので売り上げもわかりにくいし出入りする船を全て管理しきれないからこその手段か。魚群探知機などという便利なものがない以上漁師のカンと運も大きく影響してくるだろうし天候にも大きく左右されるわけで、そういう点も考慮されているのだろう。

 陛下の御威光を借りるのは少々抵抗がないでもないがウチが妨害される分には対抗手段も取れるが弱いところ、漁師達に直接手を回されては自分の領地でない分抗議もし難く、迷惑が掛かる。そうなれば継続確保も難しくなる。

「だけどそうなると土地を買うのは難しいの?」

 王室管理の土地となればいろいろと手続きも厄介そうだ。

 私が顔を顰めるとマルビスが小さく笑う。

「そうでもありません。ただ万が一、何かの方針や事業を国が定めた時、そこにある建物などが邪魔であると判断された場合、立ち退きを要求される場合があります。その時点での評価価格を反映して移転先費用などが補填されたりしますけどね」

 意外だ。結構良心的。

 要するに国家事業が必要になった時にスムーズに事を進めるための法律ってことか。

「ってことは保養施設っていうよりまずは加工工房の方が無難かな」

「そうですね。その方が宜しいでしょうね。

 諦めるというよりそういった施設は様子を見てタイミングを測るべきかと。

 まずは王都での食材確保が先でしょう。

 今まで廃棄処分されていたものが実は美味しく食べられるとなればウチ以外でも確保に動く業者も出てくると思われます」

 マルビスの言葉にテスラが頷く。 

「ですね。食べたことがあるという者もいたが固くて、生臭くて食えなかったと」

「一応、ウチの主が変わり者で実験しているのだと伝えてありますが」

 かっ、変わり者って・・・

 私はグッと息を呑んだ。

 ロイの言うことも否定できない。否定できないけどちょっとだけ複雑だ。

 別に特別な意図とかがあるわけではないのだろうけど、私が嬉々としてタコやイカを掴んでいた時の一番最初のみんなの反応を思えばそれを言われても仕方がない。

 テスラどころかライオネルまで尻餅ついていたし、率先していつも何も言わなくても手伝ってくれていたロイでさえ遠巻きに私を観察していたっけ。

 私は黙ってみんなの意見を聞いている。

「テスラの登録申請書通りにいつものように肝心なところはボカして登録しておけば多分暫くは市場は独占出来るでしょう。

 考案される料理の申請も一気に提出して類似製品の登録と販売を防ぎます」

 別に下処理や茹で時間の記載義務なんてないもんね。

 他の商品にしても、そういったことを全て公表すると色々と利権が侵害されることも多いから大抵が書類が通る最低限のことしか登録書類に書かないのが普通だ。馬鹿正直に全てを晒して真似されると発明に掛かった費用を回収する前に登録期限が切れて全く同じ性能、品質のものを作られては元も子もないからだ。

「まずはメニュー開発が先ということですか」

「土地の確保もだろ? 

 料理とかに疎い騎士団内だから隠し通せちゃいるが数が増えてくりゃあ見たことがないもんが大量にはためき、嗅いだことのない臭いが充満し、煙も上がってるとなれば周辺に住んでいるヤツらの好奇の的だぞ」

「そうですね。まずは作業小屋と敷地を囲う柵は最低限いるでしょう」

「では私は早速支部の者と連携して商業ギルドに問い合わせしてみます。

 支部も其方に移した方が間違いないでしょう。管理もしやすくなりますし。小屋と塀だけなら一週間もかからずできますよ」

 ロイ、ガイ、テスラの意見を聞きつつマルビスが話をまとめる。

 相変わらず私が出した適当な計画はみるみる間に組み立て上げられていく。

 隙もなく、手際良く、あっという間に。

 結局、私は自分の興味と本能が赴くままに行動しているだけではないか?

 まあいいや。素人(わたし)が余計な口を出したところで話がややこしくなるだけだ。

 徐々に覚えていく必要はあるだろうが得意な人に任せておけば間違いない。


「そういうわけでこの件が片付くまで私もここに滞在します。

 大丈夫です、ここに来るために片付けられる仕事は全て前倒しで片付けて、ゲイルとビスクに任せてきましたから。緊急事態にはあちらに至急で帰ることができるよう、ガイにも同行してもらいましたし」

 それで商会事業に直接的な関わりのないガイまで付いてきたのか。

 ガイアの脚なら男二人を乗せたとしても屋敷に戻るのも半日強で済む。

「まあ俺も王都で調べたいこともあったしな。

 あっちにはケイがいるから大丈夫だろ」

「旦那様にも一言お願いしてきてありますし、奥様方も何かあれば遠慮せず頼ってくれと。

 その際はハルト様に御褒美は期待しているので宜しくとも言われました」

 そう言ってマルビスが苦笑する。

 父様はともかく、母様達は完全に新作商品が目当てだろう。

 まあいいか。いつものように約束の数さえ守ってくれるなら。 

 別にお金を惜しんでいるわけではないのだし。 

 そんなわけでマルビスがやってきたことにより新しい商品開発は本格的にスタートとなった。



 その日の夕方、完成した燻製やイカの一夜干しなど酒のツマミになりそうなものをテーブルいっぱいに並べつつ私は一階のリビング脇の小さなテラスでコンロを組み立ててマルビスが持ってきてくれたタコ焼き型をセットした。

 たっぷりと油を敷き、タネをそこに流し入れ、ブツ切りにしたタコを落としていく。

 ジュウジュウという食欲をそそる音がたまらない。

 周りが焼けて形になってきたところでひっくり返し、丸く仕上げていく。

 多少の形の悪さは御愛嬌だ。

 ロイも私のやる事をジッと観察しつつ出来上がりを待っている。 

 鰹節がないのがやはり寂しいが仕方がない。

 お手製のなんちゃってウスターソースを焼き上がったところで上に掛け、まずは先に一つ味見と称してツマミ食い。全く同じとはいかないが一番最初の試作品としては上等の部類だろう。私が美味しそうにほうばる様子を見ていたロイの前にも一つ、串に刺して差し出すと、ロイは驚いたように目を少しだけ見開いて大きく口を開けてパクリと食べ、そして気がついた。


 これはもしかして、いや、もしかしなくてもカップルの定番イチャつきイベント、『あ〜ん』というシロモノではっ⁉︎


 真っ赤に茹で上がっていく私にロイが微笑んで言った。

「貴方手ずから食べさせて頂く食事の味はまた格別ですね」

 色っぽい仕草で髪をかき上げる様は相変わらず目に毒だ。

 それを目撃されてマルビスが座っていたテーブルの前から立ち上がる。

「あっ、ズルイですよ、ロイッ! ハルト様っ、私にも是非っ」

「僕もっ」

「では私も」 

 そう言って口を開けて並ぶマルビス、レイン、イシュカに私は目が点になって一気に吹き出してしまった。

 これでは色気もへったくれもない、親鳥の与えてくれるエサを待つ雛鳥のようだ。

 クスリと笑ってロイが残りを器用に串でひっくり返しタコ焼きを丸く、丸めていく。見ていただけなのに明らかに私のよりも形が綺麗なそれに少しだけ落ち込みはしたけれど、私がロイに手先で敵うわけもない。私は気分を切り替えてエサを待つ雛鳥達の口にタコ焼きを一つづつ放り込んでいった。

 それを呆れた様子で見ていたガイが後ろを向かずに口を開く。


「無闇に気配消すんじゃねえよ。紛らわしいだろ、団長」

 ガイの声に驚いて視線を家の中に戻すと、そこには本当に団長がいた。

 足音もしない、殺気も出ていないのに相変わらずよくわかるものだ。

 しかしながら団長が戻ってくるには時間がやや早い。

 マルビスとロイのためにと並べたツマミはたくさんあるけど本日の食事はまだ完成前だ。白いご飯が炊けていない。

「悪いな。なんか入りにくい雰囲気だったんでな」

「アレがか?」

 謝罪する団長にガイが私達を顎で指して続ける。

「いつものことだろ、気にするほどでもねえ。なあ?」

「まあそうですね」

 テスラが苦笑してそう答えると団長も笑った。

 だけどいつもの豪快なものとは違う少しだけいつもと違う雰囲気にガイが問いかける。

「なんか悪い知らせでもあったか」

「いや。特に問題はない。というか問題がないことが問題なんだが」

 困ったようにボソリと呟き、後頭部を掻く。

 どうやらまた面倒なことが持ち込まれたようだ。

「手紙にあったベルドアドリの件か」

「ああ、まあな」

 ガイの言葉に団長が頷く。

 しかしながらガイが王都に来たのは今日の午前中。

 どこにも出掛けていないはず。

「なんでガイが知ってるの?」

「注目株の御主人様の話題は広がるのもあっという間だ。それにイシュカとロイが毎日のように商会の定期便で御主人様の日常報告を手紙で送ってくるからな」

 何それ?

 そんなもの荷物と一緒に送ってたの?

 ジロリと睨む私にイシュカとロイが言い訳する。

「マルビス達に頼まれていましたから」

「それがマルビスが屋敷に残る条件でしたから。結局こうして来てしまってますけど」

 そんな約束、私に内緒でしてたのか。

 監視されてるみたいで釈然としないが全く悪気はないのだろう。

 非難するような私の視線からマルビスがさりげなく目を逸らす。

 それを見ていたガイが軽くギャハハハハッと笑った後、一瞬で真剣な顔になった。

「まあそんなことはどうでもいいんだが。問題が無いってどういうことだ?」

 ・・・どうでもいいって?

 ガイも相変わらずだ。

 自分に害が及ばないものはいつも適当なところで受け流す。

 別に責任追及したいわけでもないからいいんだけどなんか引っかかるんだよね。

 団長はガイの問いに答える。

「そのままの意味だ。高ランクの魔物も魔獣も見当たらない。その気配もない」

 えっ⁉︎

 どうして?

 ものすごい数のベルドアドリが襲ってきたんだよ?

 何もないって方がおかしいでしょうよ。

 それともイビルス半島の時みたいな大きな自然災害の前触れ?

 それなら尚更動いたのがベルドアドリだけってのもおかしいでしょ。

「あの場所は学院生の演習場だ。数日に一度、近衛が巡回して安全を確認している。あの日も前日にしっかり見回りが行われていた。

 あんな事故が起きるわけがないんだ」

 不可解極まりないとばかりに団長が溜め息を吐く。

「だよなあ。式典前にチェックが入らねえわけがねえ」

 ガイも首を捻った。

「どういうこと?」

「万全を期したはずなのに、起こりえない事態が起こったってことさ。

 原因が見当たらないってことだ」

 尋ねたレインにガイが説明すると更にレインが尋ねる。

「ベルドアドリは気が小さな魔鳥でしょう?」

「まあな。百やそこらの数ならありえない話でもない。何かの音に吃驚したとか、な。大概四方にバラけて飛ぶから問題もない。結局自分の巣に戻っていくから一時的なことだしな」

 ベルドアドリには決まった寝ぐらを持ち、帰巣本能があるという。

 だからこそ遠過ぎる場所まで移動することもないといわれているし、一、ニ羽に血を吸われた程度では命に別状はないからこその低ランク。

「大人なら余裕で追い払えるもんね」 

「そうだ。通常二十羽程度の群れのヤツだ、そこそこの強さのヤツから逃げるなら固まって逃げるよりバラけて逃げる方が群れ方が犠牲も少なくてすむだろ?」

 私が言った言葉にだからこそおかしいのだとばかりにガイが眉間に皺を寄せる。

「そりゃあ固まってたら狙って下さいって言ってるようなものだもんね」

 強敵相手なら生き残る手段としては当然だ。

 彼等の持つ生存本能みたいなものだ。

「確かに変だね。勝てると思う相手なら囲んで一気に血を吸い尽くせばいいのにそれをしなかった。つまりあの集団で身に危険を感じて逃げるほどには相手に脅威を感じてたか」

「もしくは誘導されていた、ですか? 

 なのになんの痕跡も残っていない。確かにおかしいです」

 ガイの言葉の先をイシュカが続けた。

「で、一応この件について学院長には既に連絡して来た。

 が、やはり納得できない。それでこうしてお前の意見を聞きに来たわけだが」


 それで団長がいつもより早く帰って来たってことか。

 だが、いつもながらなんで厄介事が起こる度に私のところに持ち込んでくる?

 面倒だからと押し付けないでほしいものだ。

 全く私は万能ではないのだから出来ないことの方が圧倒的に多いのだ。

 そりゃあ一般市民とは程遠くなってしまっていますけどね。

 スタンスとしては凡人なんですよ?


 どこからか嘘をつくなという声が聞こえた気がするが、一応つもりということで。


 

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