第三十二話 人の好意も様々です。
翌日からいよいよ本格的に学院生活が始まった。
入学式の後、各クラスに分かれてオリエンテーションが行われ、選択科目の見学が一週間行われるそうだ。
この間は選択科目の変更も移動も自由。
興味を引くもの、好みの講師を選ぶことができる。
男の子の殆どが選択する武術、魔術の講師陣は特に多くて個人の難易度や属性、習いたい武器によっても違ってくる。一芸を極めるために騎士を目指すなら武術ばかりを複数選択するなどというのもアリだそうだ。要するに自分の将来なりたいものに合わせて選ぶことが出来るわけで、決まってるいない子供は一年の内に色々試して自分に向いているものや興味対象を探していくそうだ。
私は四日間の講義が済んだ後に二日間でこの中から複数回り、恥を晒して最低ラインクリアしてくれば以後の授業はオール免除。一ヶ月終了ごとに領地に戻ることが出来る。とはいえ団長との約束した二年はまだ終了していないので週一の団員達への講義はまだ半年弱、ニグループほど残っているけれど私が学院に通っている間は一時延期。後二グループへの講義が残っている。
どちらにしても学院に通うことは予定に入っていたわけだから拘束される期間が短くなったのはありがたい。ベラスミの施設開園もいよいよ大詰めになってきてるし、人手不足は相変わらずだが地元の運送業者と提携出来たのは幸運だった。もともとの居住者ゼロだったウチの屋敷周辺と違い、元から人里近いこともあって寮の数もウェルトランドほど必要ない代わりに従業員及び作業員の送迎が必要になってくるのだ。
今のところ委託運営という形を取っている。
ウェルトランドの劇場杮落としも収穫祭に合わせるつもりでいるのでそちらの芝居演目や役者の選定もある。とりあえずは有名どころの旅の一座に依頼すると言っていた。
娯楽が増えるのは実に素晴らしい。
結局私の欲望赴くままに全ての施設が開設されていく。
前世と同じようにとまではいかないけれど、いずれはああいった文化も開花していくかもしれない。
それは今後に期待ということで。
と、いうわけで。
イシュカと私による講義も無事に始まった。
どちらが主体で進めるか、それは勿論イシュカである。
何故かといえば理由の一つは私の身長のせいだ。
黒板への板書きが背伸びしても上まで届かない。
そこで領地でもやっているようにイシュカが主に教鞭を取りつつ板書きの必要がない講釈を私がタレる形で進めていくことにしたのだ。私の本格的な出番は主に一通りの講義が終わった後のグループワークからになるだろう。
最初に分けたグループ分けから多少の入れ替えはあったが年嵩が上であるAからCクラスはたいして移動もなく、本来の学院生が殆どを占めるDからFクラスは結構入れ替わりが合った。因みにヘンリー様はちゃっかりAクラスに紛れ込んでいる。
見栄で選択しようとしていた学院生もいたけれど二日目の講義が修了した時点で付いていけないと思うものを選んだところで後半から行われるグループワークで困るだけだと団員達の例を出して忠告した。基礎を知らなければ応用も効かない、見栄を張って大恥をかいた団員の話をするとほぼDとFの半分に分かれたのでEクラスは無くしてFクラスをEとした。これにより空いた一時間は近衛騎士団からの五十人に更に講義を行うことになった。
それも連隊長が率いてやってくることになり、一番前の中央に陣取って講義を受け始めた連隊長に団長が張り合って乱入、よりによって我が国の双璧を受講生に持つことになり、やりにくいことこの上ない。
明言していた通りに学院生としてやって来たゴードンはAクラス。
私の提案をしっかり実行していたらしくAクラスの中でも作戦立案で一際目立っていた。同じクラスの人達にその理由を聞かれて私にアドバイスされたことをそのまま教えたらしく図書館に用意して置いた私のオススメ図書は常時返却待ち、蔵書数を急遽増やして対応。王都の孤児院は学院の休日になると多くの受講生が押し掛けることになったようだ。
私はといえば第一週目の残り二日、見事に特別クラスのSクラスになったレインと待ち合わせして選択科目の履修に向かい、芸術科目の二教科、音楽で下手なピアノを披露して、美術で笑いを取りつつ、マナーはなんとか合格点ももらった。
そして一番困ったのが最後のダンスだ。
何故困ったのかといえば上位貴族の御令嬢達に囲まれてしまったからだ。
下手に選べば側室に押し込まれかねないとロイとイシュカが言っていた。
ハッキリ言ってしまえばそれが嫌で自意識過剰な御令嬢達から選べないでいるわけで、私は頭を抱えることとなった。
いや、確かに可愛いよ、みんな。
貴族の御令嬢達は美男美女が掛け合わされていくことが多いので上位貴族になればなるほどその傾向があるし。
しかしながら私が好きなのは色気のある年上美人。
お子様は対象外である。
お前も今は立派なお子様だろうとどうかツッ込まないでほしい。
わかっちゃいるけど無理なものは無理なのだ。
ぐるりと囲まれ誰と踊るのだと迫られて、すっかりタジタジである。
この歳だと男女の身長差というものはほぼ無い。
いや、むしろ女の子の方が成長期が早いこともあって私より背の高い子もいるくらいだ。だが今のところ五人の男の婚約者が既にいる私としては嫁として女の子を迎えるつもりはないわけで。
せめてミーシャ様がいれば未来の弟の相手を頼むという名目もあった。
だが現実として今はここにいないのだ。
女の子は集団になると恐ろしい。それはこの歳の女の子でも一緒のようだ。
最早コレはイジメだろう。
かといって単位は欲しいので逃げるわけにも行かない。
どうしたものかと教師に助けを求めたが見て見ぬフリで視線を逸らされた。
そりゃあね、わからないでもないよ?
上位貴族の御令嬢の不興を買いたくないって気持ちはね。
教師は所詮公務員、安定した職業で安穏と暮らしたいのも理解できる。
でも困ってる子供を見捨てないでよっ!
ヒトデナシッ!
心の中で悪態を吐きつつ打開策を模索するが、こんな時ばかりは良い案も浮かばない。
「先生」
すっかり涙目になりそうになっていた私の耳にレインの声が聞こえた。
「ハルトの相手、僕がしても良いですか?」
思わぬ方向からの助け舟に思わずレインを振り返る。
レインの提案に教師が慌てて確認する。
「レイバステイン君、ハルスウェルト君の相手ということは貴方が女の子のパートを踊るということよ?」
侯爵家子息にそんなことはさせられないとばかりに言う教師にレインは笑顔で答える。
「わかってます。僕、踊れますから大丈夫です。上手くリードできるようになるには女の子のパートも踊れたほうがわかるって練習させられたから」
そう言って私のところまで歩いてくるとその手を差し出した。
「代わりにお願いがあるんだ。ハルトも僕の相手をしてくれる?」
鬼気迫る令嬢とレイン、どっちがいいかなんて問われるまでもなく決まってる。
だけど、
「私、女の子のパート、上手くないよ?」
一応男の婚約者持ち。
万が一、人前で踊らねばならない事態も考えてイシュカ相手に練習したのだ。
私が家族以外で現在踊る可能性が一番高いのは貴族であり、第一席であるイシュカだからだ。背の高いイシュカ相手なら私が女の子の方を担当するのは必然だろう。それに凛々しくも麗しい騎士様にそれを踊らせるのは抵抗もあった。
だけどまだ練習し始めたばかりで私はイシュカの足を踏んでばかり。
リードする男のパートよりも更に下手だ。
だけどレインは嬉しそうに笑って言った。
「ハルトが僕と踊ってくれるなら何度足踏まれても良いよ。
ねえ、僕と踊ってくれる?」
問われて私はその手を見つめた。
教師も侯爵家次男自らの提案とあっては止めることもできないのか口出ししてこない。
私はストップが掛かる前に差し出されたその手を取った。
「うん。ありがとう、レイン」
ぱあっと途端に嬉しそうに顔を輝かせるそのバックにシベリアンハスキーの子犬が見えた。
とびっきりの笑顔だ。
やはり図体は大きくなってもこういうところは可愛いままだ。
そう思ったのに・・・
「僕、ずっとハルトと踊りたかったんだ。
イシュカばっかりズルイって、ずっと思ってたんだよ。
僕、一生懸命練習したんだ。絶対イシュカより上手にリードできるよ」
続いた言葉に息を呑んで真っ赤になってしまった。
コレはある意味将来不安になってきた。
私を囲んでいた女の子までほんのり頬を染めている。
このままいけばレインはとんでもないタラシになるのではないか?
私の手を引いてレインは教室の中央まで歩いていく。
収拾がつかなくなり始めている教室をとっとと納めるために先生がピアノ奏者に指示を出す。
真っ赤になったままその手を取るとレインは、
「上手く僕をリードしてね」
と、私に向かってそう言った。
レインの助けを借りてなんとかダンスも合格点をもらえたものの、レインと私の周りにいる女の子の見る目が微妙に変わっていた。
その視線には覚えがある。
キラキラと何かを期待する好奇心に満ちた、しかしながら微妙にヨコシマが入ったソレ。
腐女子爆誕。
まだ幼い女の子達をイケナイ道に引き摺り込んでしまった罪悪感。
いやまあねえ。
元腐女子の私が偉そうなことを言えた義理ではないけれど。
あんまり深入りしない方がいいと思うよ?
見ても妄想しても楽しいけど、ソレは現実の自分の生活と遠いところにある。
しかしながら現在ソレを爆進中の私が言ったところで説得力の欠片もない。
止めるつもりはないですよ?
それは以前の私の生活の、潤いでしたから。
些細(?)な予定外はあったものの無事に全ての教科で無事免除資格を頂いたところで、学院での最初の休日がやってくる。前日に図書館で興味を引いた本をしこたま借りて騎士団内の住まいに帰ると夕食の片付けを手伝ってから早々にベッドに潜り込み、本を開く。
明日は朝から港の朝市にロイ達みんなで出掛けて食材を買い漁り、久しぶりに何か新しいものを作りたい。
ロイの御飯は美味しいけれど、そろそろ新しいメニューも取り入れたい。
洋食系は増えてきたけど和食系のメニューのバリエーションも増やしたい。
出汁も現状小魚などを砕いて使っていることが殆ど。鰹節は厳しいにしても昆布やワカメにお目にかかってみたいところだ。他にも魚や貝以外にもタコやイカがあればレパートリーも増やせる。それらがあれば作りたいのは当然日本の誇るB級グルメの数々だ。
タコ焼き、イカ焼き、焼きそば、お好み焼き。
となれば欲しいのはテーブルの上で鉄板焼きが出来る卓上コンロも欲しいしタコ焼きの型も欲しい。
明日の予定に思いを馳せつつ、その日は眠りについたのだった。
翌日ウキウキ気分でライオネルを御者にロイ達と馬車に乗り込むと早速食材漁りに繰り出した。
水揚げされたばかりの新鮮な海老、貝、魚などの魚介類はあれどもお目当てのソレはなかなか見当たらない。昆布やワカメは前世でも半世紀前まで海外では馴染みも薄かったし、タコなどその外観から悪魔の遣いと呼ばれることもあり、食べる習慣がない国が殆どだったのだ。
美味しそうな魚や貝は沢山ある。
新鮮ならお刺身とかもいいかもしれないけど寄生虫とかの心配もある。
専門でないなら手は出さない方が無難だろう。
寿司は魅力的ではあるけれど握ったこともないし、ワサビもまだ目にしたことはない。どうしても食べたいというものではないが煙で燻してタタキや干物、燻製なんてのもいい。なんか酒のツマミみたいなものばかりだなあと思いつつ見て回るが目当ての物は見つからない。
タコやイカがいないということもあり得るのかな?
そういえばグラスフィート領は山に囲まれた内陸地。
海の生き物とは縁がなかったからあまり気にしていなかったけど。
「どうかしたんですか? ハルト様」
ロイに尋ねられてふと足を止める。
海老とカニは確保済み。軽く火を通して生姜醤油で頂くのもアリだ。
雑炊なんてのも美味しそうだ。
大きな貝も手に入れた。バター焼きにワイン蒸しなんてのもいい。
でも一番のお目当てが見つからない。
「魚って網で獲るんだよね?」
「ええ。大きな船は漁から帰ってくると魚は港で新鮮なうちに業者や商人の手で選別、仕分けされて市や店に並びます。大きな食堂などと契約している船もありますし」
そりゃあそうだよね。
店が売り物を欠いては商売にならない。
先に確保するのも当然だ。
「そうなるとこうした市場に並ばないものも当然出てくるのかな?」
「大漁であれば余った分は出回ることもありますよ。こうした露天で並ぶのは殆どがその売れ残りか、もしくは近場の個人漁業者ですね」
多分私が欲しいのはその売れ残り。
みんなが欲しがらないものなのだろう。
「いらない魚とか食べられない物って一緒に網に入ることはないのかな?」
私がロイと話をしていると、その会話を聞いていたらしい露天の店主から話しかけられた。
「なんだ? 坊主。何か欲しいモンでもあるのか?」
「うん。何か珍しい物をと思って探してるんだ。新しい料理が作りたくって」
タコとかイカとか昆布とか、店に並んでない物だけど。
「なんだ? その歳でイッパシの料理人か?」
料理人ではないけれど、どう答えるべきかと悩んでいるとロイが横から助けてくれる。
「ええ、そうなんです。ハルト様が考案なされる料理はいつも絶品なんですよ」
「へえ、坊主、ハルトっていうのか。
シルベスタ国内で有名な勇者様の略称と同じじゃねえか。
まあそんな御方がこんな汚えところに来るわきゃねえよな」
ガハハハハッと男が笑う。
いや、ここに来てますけど。勇者かどうかは別として。
「どんな御方か御覧になったことは?」
ロイが確認すると男は顔の前で手を大きく横に振って否定する。
「ナイナイ。そんな雲の上の御方お目に掛かったこともねえな。
噂じゃすげえ美少年で光り輝くような御姿だっていうが」
この辺の噂でも後光が差している状態なのか。
伝聞ってのは恐ろしい。
しかしロイもイシュカも動じることなく、ニッコリと笑い、
「そうですね。すごく素敵な御方ですよ」
と、答える。
そりゃあ盲目状態の二人には聞くだけ野暮ってものでしょう。
二人の目にはいったい私がどのように映っているのだろう。
それを考えると些か恐ろしい。
いつか現実に引き戻されて幻滅されてしまわないだろうか。
「なんだ、兄ちゃん達、見たことあるのか」
「ええ、まあ」
「そりゃあいいねえ。姿を一目でも拝んだ奴は十年は長生き出来るっていう噂もあるぜ? ソイツは得したなあ」
なんだ、その御利益ありきみたいな妙な噂は。
私は観音像か地蔵様か?
実物像と違い過ぎて最早普通に歩いていても誰も私がそのハルスウェルトだとは気が付かないのでは?
ベラスミでもそうだったがここまでくると詐欺だろう。
ウンウンと当然の如く頷いている二人を他所に私は冷ややかに見ている。
すると動じていない私にトバッチリがやってくる。
「坊主も頑張ってあんな御方になれよ。まあ早々なれるモンでもねえか」
そう言った店主にバシンッと一つ背中を叩かれる。
なれるも何も本人ですとは口が裂けても言えない。
言ったところで信じてはもらえないだろうけど。
「ウチの息子も憧れてんだぜ? 年も近えし、いつかハルスウェルト様の騎士になるんだってよ。毎日棒切れ振り回してるぜ。彼の方は実力重視で貴族平民区別なく重用して下さるって話だし」
「はい、グラスフィート領では沢山の平民、貴族、分け隔てなくハルスウェルト様のために働いていますよ」
店主の言葉に上機嫌でイシュカが言葉を返すと驚いたように目を見開く。
「兄ちゃん達、グラスフィート領から来たのか?」
「ええ。その御屋敷で働かせて頂いています」
ロイが自慢げに胸を張って言う辺りが側近馬鹿の最たるものだと思う。
ガイがよく言うけど確かにここまでくるとホント、宗教だ。
信仰されているのが私みたいなポンコツでは遠くない未来、その宗教法人も潰れてしまいそうだけどね。
下手なことを言えば藪蛇になりそうなので極力目立たぬようにロイの後ろに隠れる。
「ソイツはすげえな。じゃあもしかしてハルスウェルト様の御口になされる食材を探してるってことかい」
「そうなんです。彼の御方は珍しい物が大変お好きでして、変わった食材がないかとこうして時々朝市をまわって歩いてるんです」
するとそれを聞きつけた近くにいた露天の店主達がワラワラと集まってきていいから持ってけよと次から次へと商品を押し付けられる。
う〜ん、どこかで見た光景。
最近は領地の朝市に出かけなくなってしまったけど以前は出掛けるたびに色々と差し入れと称して頂き物をもらった。けれど人が増えてきてから所謂『なりすまし』被害が発生して、以降一切受け取るのをやめたのだけれども、代わりに孤児院に届けてほしいとお願いした。
だが領地外のここではその手も通用しない。
それでは申し訳ないとロイがお金を払おうとすると彼らはガンとして受け取ろうとしなかった。
「俺らもこれでも感謝してるんだぜ。まだ小せえってのに何度も王都の危機を救って下さってるって。俺らがこうして無事にいられるのもハルスウェルト様のお陰だってな」
「そうだよ。ウチの子供なんて悪さばっかりで家の手伝いもロクにしやしないって言うのにさ。彼の方の爪の垢でも煎じて飲ませたいってもんさね」
「これで美味いモンでも作って差し上げてくれって」
「そうそう。ハルスウェルト様が御口になされるって言うならむしろこっちが金を払いたいくらいさ。遠慮なんてしなくていいって」
口々に町民達から出てくるのはそんな私を褒める言葉ばかり。
「ではみなさんからの感謝のお気持ちは受け取っておきます。
ですがこのようなものを代金も払わず頂いてしまっては私が叱られてしまいます。この先、彼の御方の語りが出てきて無法を働いてはハルスウェルト様の評判にも関わってしまいますから」
意味がわからないとばかりに首を傾げる店主達にグラスフィート領の町で起きた事件をイシュカが説明した。
私の名を勝手に利用し、側近を装い、感謝しているならば礼を寄越せ、金を払えと騒ぎ立てた犯罪者が出たことを。その犯人は捕えたが以降、民の被害を心配し、そういった犯罪を防ぐために顔を見たことがない者の言うことを信用せず、必ず商品や代金の受け渡しは証文や見知った顔であることを確認するようにと徹底されたこと。感謝の気持ちは是非次代の子供達に使い、立派に育てて欲しいと頼んだこと。彼らが将来の領地の担い手になるのだからと。
それを聞いた店主達が『やっぱり立派な御方は仰ることも違う』と益々崇め奉り出した。
確かに似たようなことを言った覚えはある。
覚えはあるが随分と美化された言い方をされてはいないか?
もしかして私の実物像とかけ離れていってるのはロイ達のこの言い回しのせいもあるのでは?
誇大広告状態なのはこれが原因かと思い当たる。
「ですので、今回のこれらはありがたく頂戴し、代わりにこの代金はそこの屋台にみなさんへの御礼として支払っておきますので仕事の後に召し上がって下さい。これで如何でしょう?」
「これらは私達が責任持って彼の御方に皆様からの心遣いだと届けさせて頂きます」
疑い始めた私を他所に話は丸く収められていく。
いや、まあ、反論したところでロイ達には無駄だろう。
アバタもエクボどころか目立つ大きな欠点でさえ美しいと言いかねない。
これは趣味が悪いレベルを明らかに凌駕しているのでは?
溺愛されているのは間違いない。
嬉しいけど、嬉しくないような、非常に困る問題だと思うのだけれど、やっぱり嬉しい。
そんな非常に複雑な気分だ。
「それで、珍しい物はどこに行けば手に入れられるでしょうか?」
そうそう、それが本来の目的。
思い出してくれてありがとう、ロイ。
「何が欲しいのか知らねえが網に掛かった店頭に並んでない売り物にならないようなヤツが欲しけりゃ船着場に行ってみな。探し物があるって保証はねえが、いつも昼過ぎにまとめて焼いてるからな。焼却処分したヤツは近隣の農家のヤツらが夕方近くなると畑の肥料にと取りにくる。今ならまだ焼かれず山積みになってんだろ」
つまり有ればタダ、どうぞお好きにお持ち下さい状態なのね。
焼却するのは魔物化防止のためか。
二等品やキズモノも安値で叩き売られていることを考えれば食べる習慣がないものが積み上がっている可能性がある。タコやイカ、下手をすればその他高級食材みたいなお宝もあるかも。
食堂とかで見ないことを思えばそれらがある可能性もある。
「良い情報を頂き、誠にありがとうございます。では行ってみます」
では行きましょうかとライオネルに馬車まで大量の貢物である荷物を運ぶようにお願いすると私達は彼らに見送られて船着場に向かった。
もし見つからなかったら海岸線でも歩いてみようかな。
ついでに昆布やワカメが打ち上げられてるかもしれないし。
砂浜をぶらりと歩くなんてデートみたいだなと一瞬思ったが、ロイとイシュカと手を繋いで歩いたところで保護者とその子供の図にしかならないか。
いやいや、こういうのはハタからどう見えようと本人の気分次第。
折角イケメン連れているのだもの、満喫して何が悪い。
要は楽しんだ者勝ちなのだ。




