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第二十九話 普通の学院生活は遥か彼方に消えました。


 翌朝、学院入学試験の合格発表とその順位の張り出しが行われた。

 

 私は当然それを見に行かなかった。

 理由は至極簡単。

 昨日のうちに結果を連隊長達に知らされていたから

 いや、まあでも聞くまでもない。

 筆記は全科目満点、受付確認魔力量は三千百、この時点で既に合計八百点を越えている。魔術、武術が0点だったとしてもこれで落ちようはずもない。

 結局、何点だったのかって?

 オール満点、総合獲得点数は千二百十点。

 歴代最高点を叩き出してしまいましたとも。

 中身は大人なんですから小学生低学年程度の試験で落ちる方が問題だ。

 本当は更に三百点以上上乗せになるんですけどね。

 魔力半分以上減らした上で計測してますから。

 内緒だけど。

 お陰様でマナー、ダンス、芸術、家庭技術一般など選択科目を残し、全てめでたく免除されましたとも。

 その上に武術、魔術も免除ということで複数の選択科目の内、二つが免除されたことで芸術、技術関係は後一つか二つ最初の講義を出席すればOK。私としてはロイには敵わないけれど家事にはそれなりに自信があるので芸術を選択するくらいなら家庭一般を選びたいところだが、こちらは九割以上が女子となればいらぬ諍いが起きないとも限らない。となれば残るは貴族の必須科目、マナーとダンスの二教科だが学期始めのテストで合格点さえ貰えればサボっても許される。

 下手でも学院祭や学年末のパーティで恥をかくだけの話、特に不都合はない。

 因みにこれは出席はしなくても怒られることはないが、婚約者の決まっていない貴族の子息子女は絶好の出会いと交流の場である。そして貴族同士の繋がりを作るチャンスでもあるので欠席するのは殆どドレスやタキシードを用意できない平民や下層階級の貴族の生徒達だけ。

 兄様達に学院生活について色々確認したところ、コレが結構上級貴族と下級貴族、貴族と平民の差別を生んで増長させているらしい。要するに金持ちが貧乏人を見下しているわけだ。

 私はこういう陰湿なイジメみたいなものが大嫌いだ。

 前世(むかし)の古傷が痛むだけだろうと言われればそれまでだがこういうのをなんとか出来ないものかと現在考えている。

 幾つか案はあるが隙間時間などを利用して活用できないかと思うのだ。

 要は学生アルバイト。勿論勉強で余裕がない子供達もいるだろうから全員にとはいかないだろうけど、そういう生活にゆとりのない子供達は小さな頃から親の手伝いをしていることも多いから簡単なことなら出来るだろうし、四年生になれば尚更出来ることが多いわけだからウチの商業施設でも忙しい時期の収穫祭や周年祭のバイトに長期休みにはきてもらうという方法もある。その中から優秀な人材を更にスカウトすれば慢性的な人員不足の解消にも繋がっていくだろう。その辺りはマルビスと屋敷に戻った時にでも相談しつつ、そこで稼いでもらったバイト代で学院で行われるパーティなどでの衣装を格安でレンタルするという方法などどうだろう?

 最新の流行を追うのは無理でも子供は成長も早いから着れなくなった要らなくなったドレスや燕尾服を買取してリメイク、貸し出すという手段もある。上流階級なら売るというのが体裁が悪いというなら寄付という形とかも取れるし、中流クラスなら着れなくなったそれらを売って次のドレスを買う時の足しにするというのもできる。学院内でそういう商売ができるかどうかは関係者に確認してみなければわからないけれどウチの商品を手に取って付けてもらい、気に入ってもらえれば将来の客層獲得にも貢献できるだろう。

 パーティに出席予定はないけれどそういった裏方に関わるのは面白そうだ。

 それに子供というのは色々な才能の欠片の塊だ。

 その中から将来有望な人材を見つけ出すことはウチにも充分プラスになる。

 ベラスミのリゾート施設オープンも控えている。あの施設は冬が一番の稼ぎ時であることを考えるとアルバイト人員を確保しようと思うなら早い方が良いのか?

 まあ講師は一ヶ月で一先ずキリがつくのだが学院への出入りが禁止されているわけでもなし、慌てるまでもないか。

 マルビス達商業班のフットワークは折り紙付き、行動を起こし始めれば早い。

 とにかく、だ。

 学院行事には基本的に私は参加する予定はない。

 表向きには。

 そんなものに顔を出した暁にはもれなく余計な問題も起こりそうな予感しかしない。

 とどのつまり、私は既に学院初等部卒業資格を手に入れているわけで。

 思惑通り出席日数ほぼ全免除。

 父様は朝方に領地へ帰り、レインは閣下に送り届けてもらいながら順位とクラス分けを確認して寮に戻るという。次に合うのは入学式だ。魔力量もレインは多いし、実技試験はかなり良い点を取れそうだからそれなりの順位は行くだろう。

 来年には授業総免除になれるよう頑張って勉強するのだと言っていた。


 私の講義室は初等部と高等部共用の図書館上講義室と聞いている。

 できるだけ図書館が近いところをとお願いした結果だ。

 ここには私の屋敷とは比べものにならないくらいのたくさんの書物が置いてあると聞いているので参考になりそうなオススメ書物を専用棚に並べて管理してもらおうと思ったからだ。既に領地の支部にある本は数冊づつ納めてもらうように頼んである。勿論私もそれ以外の膨大な書物にはおおいに興味がある。特に魔法と魔術関係の本はあまり市場に出回っていないので是非ともそちらも漁ってみたいし、他にも戦略について参考になるような書物があれば随時増やして行きたい。陛下にお願いして既に出入り、貸出自由のフリーパスは手に入れてある。

 私の使う魔法は殆どが昔から使われている一般的と言われる有名なもの。

 それを私なりにアレンジ、工夫して使っていることが多い。

 マイナーなものや最新の研究書などは市場に滅多に出回らないため手に入れるのは難しい。是非ともそれらを読んでみたい。基本的に私が出張らないと片付けられない緊急の用事ができない限り領地に戻るつもりはない。マルビスやガイ達もいるので大抵の問題は片付くはず。その一カ月の期間を利用してたっぷり読書に耽るつもりだ。

 そんな算段を頭の中でしていると団長に声を掛けられた。

 

「そういえば陛下から今回の褒美は何がほしいか聞いてこいと言われているぞ」

 その日の夕方、団長が夕食の席でそんなことを言い出した。

 ああ、そんなこと言ってたっけ。

 魔術試験では言いつけ通りに手を変え品を変え、見世物に相応しく派手に的を落として見せたし。でも、

「別にいらないって言ったと思うんだけど」

「貴方は本当に欲がないですねえ」

 呆れたように連隊長が言った。

「そんなことないですよ。世間一般の欲しいと思うものが違うだけでしょう」

 欲がない、というわけではない。

 私の欲しいものは人から与えられて手に入れることができないものが多く、お金でも買えないものだってだけの話。

 かといって辞退したところであの陛下は何かしらいつも押し付けてくる。

 それも想像を超えたスケールで。

 一国の王が与える褒美がチャチなものでは沽券に関わるとでも言いたいのか。

 全く面倒な。

 欲しいもの、欲しいものと考えて、一つだけ頭に浮かんできた。

 それが与えられるものかどうかは別だけど。

「そうですね。じゃあ出来れば、でいいんですけど」

「なんだ?」

 駄目でもともと、頼んでみるだけならタダだ。

 拒否されたらされたでその時改めて考えて、別のものをお願いすればいい。

 私は思い切って口を開く。

「魔法、魔術関係の書物が欲しいんです。興味はあってもその手の書物は入手困難ですからね。無理にとは言いませんけど」

 図書室で調べてもいいけれどできれば手元に置いておきたい。

 魔法実験、検証その他は今世の私の趣味の一つでもある。

「そんなもんでいいのか?」

「そんなもんって言いますけど書物というものは高価ですし、そういう類のものはほぼ市場に出回っていないんですよ。マルビス達でさえ手に入れるのに難色を示す程度には。駄目なら駄目で構いません、言って下されば他のものを考えますので」

 古い物なら手に入らないこともない。

 でもそれは殆ど私が知っているものばかりだ。

 成程とばかりに連隊長が頷く。

「まあ確かに専門書は出回っている数も圧倒的に少ないですからねえ。魔術系なら尚更です」

 屋敷の三階にある私の書斎は既に図書室状態。

 各部門の会議室が商業棟に移動したので壁をブチ抜き買い漁った本を現在並べている。側近、幹部達は勿論出入りも持ち出しも自由だが、一部屋分まるまる本棚を入れたものの棚はまだまだ空きがある。魔術魔法関係の本は私だけじゃなく他の人も興味のある分野だ。持っているものと重なったところで問題もない。これから四年間、折角王都にいるのだし、暇を見て本屋巡りをしようと計画もしている。

 ならばこの際、手に入りにくいそれらの本を頼んでみることにした。

「国家機密の関係もあるでしょうから私に知られても問題ないという範囲のものだけで構いません。そのあたりの判断はお任せします」

 下手にそんなものに関わろうものならもっと面倒な未来が待っていそうだし。

 一般的に入手出来ないものではなく、あくまでも多少無理すれば手に入る、図書館で閲覧出来る入手困難程度で構いませんよと付け加えておく。

「わかった。陛下には伝えておこう」

「お願いします」

 何冊届けられるかはわからないけど楽しみに待っているとしよう。

 そうなると後、残っている案件は・・・


「で、決まったんですか? ステラート領に出掛ける日は」

「一ヶ月後のお前が領地に戻った三日後だ。それならハルトは一度領地に戻れるだろう? こっちも短期集中講義が終わった後なら王都の中も多少なりとも落ち着くだろう。他国の者が多く出入りしていると問題も多く発生しがちだ。近衛で手が回らなくなるとこっちに仕事が回ってくる可能性も捨てきれん。支部に一泊すれば俺達も無理な行軍もせずに済む」

 それはありがたい。

 ならば先に連絡してウチの精鋭達の希望者を連れて行けるようにシフトを調整してもらっておこう。

 ウチの屋敷からなら早朝出発すれば日帰りもできる。

「じゃあ私はマルビスにミレーヌ様をはじめとする御婦人方への手土産用意して貰っときますよ。団長は辺境伯への分をお願いします」

「それは効率的でわかりやすいな。了解した」

 手ぶらというわけにもいかない。

 団員の人達も一緒なら全てウチからだけっていうのもおかしいし、辺境の好みならむしろ私達より団長の方が詳しいだろう。

 だが一つ、気になる点がある。

 団長はウチとか俺達って言葉を使っていた。

 魔獣討伐部隊も近衛も戦う相手は違えども同じ王国直属の騎士であるはずなのだが。

「そういえば近衛の方達って獣馬に興味ないんですか?」

 私は連隊長に尋ねてみる。

「そんなことありませんよ。ただ実用性が低いんで後回しにされがちなだけだけです」

 実用性?

 私は普通にルナやノトスに乗っているし、団長やイシュカ、ガイだってそうだ。

 私が首を傾げると団長は言った。

「考えてみろ。近衛の主な仕事はなんだ?」

 近衛の仕事?

 王族や国の重鎮達の護衛や貴族達の取締、王城周辺の警備や外交関係の仕事とか。

 そう考えたところで思い当たった。

「ああ、成程」

 彼らの仕事は人に囲まれている。

 獣馬は他の馬と比べて気性も荒いし扱い難い。

 群衆に囲まれるような仕事には不向きだ。

「日常の仕事で使えないとなれば必要性も少ないです。獣馬一頭の値段で数頭の馬が買えますしね。生活にゆとりがある者でなければ馬を多頭飼いしている者も少ないです。憧れはあっても簡単に手が出せるものではありませんよ。王都では貴方のところの領地のように土地が余っているというわけではありませんからね。寮で飼える馬は二等上官以上にならなければ基本的に一頭が原則ですし」

 二等上官ってことは近衛の分隊副官クラス以上か。

 そう言って連隊長が小さく息を吐く。

 溜め息混じりということは改善したいところではあるってことかな。

「情勢が不安定で戦争でも始まれば別だろうが、民衆に囲まれることが多い近衛の仕事に獣馬は向かん。

 パレードなどでは血統はともかくアインツも普通の馬に乗っているぞ。

 ああいう時は獣馬の迫力より見た目の華やかさや統一性が重要だ。

 近衛のヤツらは強さより見目の良い馬体や毛並みなどの外観が重視されることの方が多い。特殊部隊を除き、必要以上の脚と持久力もあまり必要もないからな。

 そっちの部隊のヤツなら二人、近衛でも獣馬に乗ってるヤツはいるぞ」

 連隊長の悩みの理由はそこか。

 平和な世なら必要なくても戦乱となれば獣馬の存在は大きい。

 そして一度戦乱に陥ればのんびり準備をしている暇がある方が少ない。

 備えあれば憂いなし、前もって準備できるには越したことはなくとも現状必要ないわけで。暮らしにゆとりがある貴族ばかりではないのは二年前のウチの領地の経営状態を振り返ればわかる。

 ならば馬を抱えるゆとりがある魔獣討伐部隊、緑の騎士団で面倒をみればと言いたいところだが、近衛のエリート様と気性の荒い団員達の仲は良いとは言い難いので無理がある。自分の馬でもないのに面倒だけ押し付けられるのは普通に考えれば面白くない。

 なかなか難しいものだ。

 近衛で乗っている人はいるというが特殊部隊ということは要するに表立って動くことのない人達ってことだ。

「ミスラエル侯爵とランスロイド子爵、ですか?」

「よく知っているな」

「以前辺境伯のところでお聞きしました。

 私がルナ達を手に入れた際に、その時に獣馬に乗っているのは八人だと」

 今はイシュカに、ガイ、私、更にはそこにレインが加わり、辺境伯の弟君も加わってるから最低五人は増えていることになる。

「機会があれば紹介してやるが、まあそう顔を合わせることもないだろう。

 討伐部隊のヤツらの中にも数年前には何人かいたんだが殉職しちまったヤツもいれば自らは助かっても馬を失うヤツもいる。相性がものをいう獣馬は亡くしてもすぐ次が見つかるわけでもない。

 絶対数も少なかったし、外観もパッと見は普通の馬と変わらんヤツが殆どで認知度も低く貴重だったんだが、お前がルナやノトスを乗り回してるせいで獣馬の存在も広く知られるようになった。これから地方のヤツでも金にゆとりがあれば欲しがるヤツは出てくるだろうな」

 う〜ん、それは余計なことをしていると遠回しに言われてるのだろうか?

 獣馬が貴重であるなら需要と供給が合わなくなるかも?

 でもだいぶ増えたって言ってたし、大丈夫かな。

「ハルト、お前、いったいどんな手を使って魔獣を生け捕りにしているんだ?」

 ・・・・・。

 まさか殺気の出し方とコントロールの練習のため魔力量を抑えて近づき、その後全力で威圧して気絶させてますとは言いづらい。

 ガイ曰く、コレを可能にするには魔獣とのかなりの魔力量の差がいるらしく、魔力量四千越えの連隊長でも厳しいらしい。基本的に魔獣達は敵わないと判断すれば逃げ出すのが通常、逃げ出すことも不可能と思い知らせる圧倒的な差が必要らしく、それも逃げ出す猶予を与えては駄目らしい。馬型クラスの魔獣を無傷で気絶させ、捕獲できるのは表向き連隊長が最高魔力量とされている以上今のところおそらく私だけだろうと。

 私以外にも隠してる人がいる可能性を指摘したが、通常そういうものは隠さないし、より良い生活が出来る可能性があるのに隠すのはおかしいだろと。

 つまりガイの理論からいくと私は『おかしい』ということになる。

 私は団長の問いに乾いた笑いを浮かべて誤魔化した。

「まあいい。気にはなるがその辺は追求しないでおこう。

 これからも手に入れる機会があれば辺境伯のところに運んでくれ。

 陛下が辺境伯への補助金を増やすと言っていたからな。買取価格も上がるだろう」

 良かった、需要が増えたこと自体は問題とされていないようだ。

 むしろ事業を拡大する方向なのか。

 貴重なものの価値が下がったからどうしてくれるとか言われたらどうしようかとも思ったが、考えてみれば増やしたくないなら届けた馬型魔獣を返品すればいいだけなのだし、返されないってことは即ち入り用だってことだよね。

 だけどグラスフィート領の冒険者ギルドからは狩り過ぎるってクレームもらってるんだけどどうしよう。自分達の仕事がなくなるからってね。最近私有地周辺に張り巡らせた夜警を助ける防犯設備も上手く機能してるのでここのところ魔獣も馬鹿じゃないので近づかなくなってきてるし。

 何を配備したかって?

 サキアス叔父さんとテスラに手伝ってもらって仕組みを完成させ、張り巡らせたのは有刺鉄線だ。柵の上にそれを張った上で光属性の雷魔法を応用して電流を流し、触れれば感電するって寸法だ。因みにコレは商業ギルドへの登録は見送っている。

 仕組みがバレたら泥棒、間者、密偵その他にも対策されちゃうからね。

 極力バレないように装飾を装っているのだ。

 無理に飛び越えようとした魔獣その他もコレに時々引っ掛かり、気絶していることもあるので馬型は縛り上げて捕獲、それ以外はそのまま退治している。そんなわけでその存在を知らない彼等(?)は自分を気絶させたものの正体がわかっていないようだ。大抵が見つかり、魔法で攻撃されたという認識のようだ。

 この正体を知っているのは限られた人員だけである。

 私有地には魔獣も近づかなくなってきたとなると無傷の捕獲方法はほぼ私の威圧だけ。この先も期待されると困るので今度行った時にさりげなく今後は厳しくなるかもと進言しておこう。


「それから一応先に言っておきますがハルトは首席合格者の挨拶からは外しておきましたが良かったですか?」

「それは願ってもないことですけど」

 連隊長に言われて勿論とばかりに私は頷く。

 要するに新入生代表みたいな挨拶をしなくて済むということだろう。

 ラッキーと思って一瞬喜びかけたが続く団長の言葉に一気に沈没する。

「代わりに特別講師代表挨拶はあるぞ」

 それじゃあ首席合格者から名前外した意味ないよね?

 というより、それがあるから外したのでは?

 私は深い溜め息を吐く。

「定型の挨拶文みたいなのはないんですか?」

「そんなものあるわけないだろう。導入後初なんだぞ」

 ですよね。

 期待はしていませんでしたよ、はい。

 私はガックリと肩を落とす。

「そういうの、苦手なんですよね」

 さて、どうしたものか。

 どちらにしても私に拒否権がない以上諦めて腹を括るしかない。

「まあいいですよ。目立つのも今更ですし、短くていいんですよね?」

 ロイとイシュカに相談してみよう。

 こういう形式張ったものの注意事項も聞けるかもしれない。

「短過ぎるのは困りますよ。なにせ貴方の名前は今回の首席合格者の上に書かれていますので」


 なんですとっ!

 そんなこと聞いてませんよ、全然。

 陛下も団長、連隊長も明らかに煽ってますよね、私の存在価値ってヤツを。

 煽り過ぎて私がハリボテだって気付かれたらどうするんですかっ!

 って、まあいいや。

 イシュカもフォローしてくれるって言うし、私には優秀な助手が付いている。明らかに立場が逆、私の方が助手だと思うけど。

 担がれる神輿としてはせいぜいボロが出ないように気張りましょう。

「全く、面倒ばかり押し付けてくれますねえ」

 私は肩を竦めてボヤく。

「当然だろう。入学試験点数と共に初等部、及び高等部卒業資格取得者として既に張り出されている。もう一つの筆記試験、高等部卒業試験の総合点と一緒にな。喜べ、四年間の武術、魔術、全座学受講免除だ」

 団長の言葉にどっと疲れが押し寄せた。

「貴方が張り切って下さったお陰で噂の真相に半信半疑だった他国の方々もすっかり納得、信用なされました。試験で貴方が使用していたのは上級地震系攻撃魔法(アースクエイク)以外ほぼ初級。みなさん感心なされていましたよ。あんな魔法であそこまで戦えるのかと。まさしく戦術講師に相応しい戦い方でしたからね」

「陛下と殿下も鼻高々で語っていたぞ、お前の過去の討伐方法について。

 次回以降の受講者の席に空きはないのかと参列者達が交渉してたぞ」


 もう勘弁して下さい。

 どうか煽らないで下さい。

 確かに当初の目的は達成しましたけれどもね。

 もう目立ちまくりは諦めましたよ?

 でも決してそれが好きなわけではありませんから。

 言ったところで無駄だとは思いますけれど。

 でも肝心のマナー、ダンス、芸術系の科目は免除ではないんですよね?

 つまり一度はそれらで恥をかかねばならないわけで、どうせならそっちも免除してほしかったですよ。

 

 多少どころか、かなり普通とはかけ離れてしまったがこうして私の学院生活は始まることになった。



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